ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
食料庫の中は、地図と完全に道が違っていた。
ルルネが地図を作りつつ探索を続ける。
「すごいね・・・地図が作れるんだ」
「まあ、私はシーフだからね」
そのような会話を交わしつつ、壁や床がときおりゴボゴボと音を立てる他は全くの静寂に包まれた腐臭の迷宮。
やがてパーティは足を止めた。
前方の通路に灰の山を見つけたのだ。
「モンスターの死骸か?」
「そのようですね・・・」
「近づくなっ!」
イサミの声がアスフィの足を止める。
一瞬遅れて《高速化》された"
「なんだっ!?」
「げえっ!」
一瞬遅れてどさどさっ、と落ちてきたのは炎に包まれた《食人花》の燃えかす。
"
井に張り付いていた敵を感知したのだ。
「気をつけろ! まだ動いているぞ!」
前衛リーダーの虎人の言葉と同時にアイズが飛び出している。
生き残ったうちの一体が、花弁を落とされて動かなくなった。
「戦闘開始!」
アスフィの号令と共にヘルメス・ファミリアが動き出す。
それなりに歯ごたえはあったものの、ダメージを負っていた生き残りの動きは鈍く、ややあって戦闘は終結した。
回収した極彩色の魔石に、ヘルメス・ファミリアもイサミも揃って驚きの声を上げる。
「【剣姫】。《怪物祭》で戦った、そして地下水道に出現したのは今のと同じ怪物と云うことでいいのですね?」
アスフィの問いに、何故それを知っているのだろうと思いながら頷くアイズ。
問われるがまま、食人花の特性を話す。
打撃が効きにくく、逆に斬撃の耐性は低い。
魔力に過敏に反応し、魔法を使おうとすると術者に押し寄せる。
「・・・あと、他のモンスターを率先して狙う習性があるかも知れません」
厳密には食人花ではなく、深層で遭遇した芋虫型のモンスターの特徴ではあるが、極彩色の魔石という共通点を考えると話しておいた方がいいと判断したのだ。
「共食いのモンスター? 珍しいな」
「そうでもない。ついさっきも上層で見たばかりだ」
顔をしかめるイサミの脳裏によぎるのは、弟が戦っていたフィーンディッシュ・キラーアントクイーン。
「強化種・・・ですね?」
アスフィの問いにイサミが頷いた。
「キラーアントの強化種でしたが、3mはありました。一体何匹の魔石を食ったんだか・・・」
「3mって、キラーアントがかよ」
顔をしかめるイサミの言葉に、ヘルメス・ファミリアの面々がざわめく。
「強化種」。
他のモンスターの魔石を食らって強化されたモンスターをそう呼ぶ。
他者の魔石を食らい、それのもたらす力と全能感に取り付かれたモンスターは共食いを繰り返すようになる。
ゲドが名前を挙げた「血まみれのトロル」などがそれで、上級冒険者50人以上を返り討ちにした後、"
「言われてみればあいつらおかしかったな。個体間で強さの差がありすぎだ。同族が即死するような攻撃を食らってるのに、結構手こずったぜ」
「でも群れそのものが魔石を狙うってそんなのありか? 強化種ってのはあくまでイレギュラーなんだろ?」
侃々諤々と意見が交わされるが、結論は出ない。
議論を打ち切り、一行は探索を再開した。
再襲撃は早かった。
三叉路で三方向から襲撃を受けるも、一方はアイズ、もう一方はイサミとシャーナ、後方はヘルメス・ファミリアが対応して戦線を維持する。
アイズは単身斬って斬って斬りまくり、イサミもシャーナという安定した前衛を得て襲い来る食人花を次々に焼き払う。ヘルメス・ファミリアも三人ほどの派手さはないものの、前衛の阻止力と後衛の魔法、アスフィのアイテムでどうにか対処できていた。
戦闘は長く続いた。
倒しても倒しても、焼いても焼いても新たな食人花が現れる。
だがヘルメス・ファミリアの面々に疲労の色が濃くなったころ、食人花は一斉に退却した。
三方向同時に、潮が引くように闇の中に消えていく。
「なんだぁ・・・?」
肩で息をしながら、前衛の小人族がつぶやく。
「何にせよ助かりました。総員、今のうちにポーションで回復を。メリルはマジック・ポーションも忘れないで下さい。
イサミ・クラネルとシャーナ・ダーサ、【剣姫】はどうですか?」
「こちらは問題ありません」
「ああ、疲労回復のポーションだけくれ」
「私もお願いします」
手早く回復を済ませ、再びアイズを先頭に立てて動き出す。
しかし、行けども行けども食人花は現れず、迷宮は再び沈黙に包まれていた。
「・・・」
「・・・」
中衛の中央近く、イサミとシャーナ、アスフィは並んで歩く。
やがてアスフィが口を開いた。
「ここまで再度の襲撃が一度も無し・・・どう見ますか?」
「誘い・・・でしょうね。モンスターをこれだけ手なずけてるってのはにわかには信じがたいですが。モンスター
イサミが話をむけたのは、元ガネーシャ・ファミリアのシャーナ。
ガネーシャ・ファミリアはオラリオ随一のモンスター
「いや、おれはそっちはあまり詳しくないけどよ・・・正直あんな大量に、しかもあそこまで統率の取れた動きができるとは到底思えないな」
「ふむう・・・」
「ですが、あれだけのモンスターをけしかけるだけならまだしも統率するなど、テイム以外には考えられないのも事実です」
アスフィの言葉にイサミが思い出すのは、強化種キラーアントを作り出し、弟にぶつけたローブの女。
「・・・そうとは限らないかも知れませんよ」
「どういうことです?」
いぶかしげな表情でイサミを見るアスフィ。
「はっきりとした根拠のある話じゃないんですが・・・」
そこで言葉が途切れる。
一行は広大な空間に出ていた。