ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
「ここは・・・"
差し渡し数百mはあろうかという広大な空間には濁ったピンク色のもやがかかっている。
高い天井はもやと闇に隠れて見えず、広大な空間には巨大な柱が立っているのが見えた。
あちらこちらに濁った地底湖があり、ひときわひどい腐臭を放っている。
壁や床は、やはり濁った赤い肉の壁で覆われており、そこかしこから緑色のつぼみが垂れ下がっている。
「あれ・・・ひょっとして食人花の・・・!」
緑色のつるは肉壁を這い、巨大な幹となって巨大な柱に三重に巻き付いている。
この緑色のつるは食料庫の中心にある石柱の、本来モンスターのために分泌される栄養を全て吸い取ってあの無数の食人花を生み出していたのだ。
そして、大空洞にいるのはそれだけではなかった。
ローブとフードと頬当てで素性を隠した謎の集団。
突然、ルルネが声を上げて巨大な柱の根元辺りを指を差す。
「イサミ! シャーナ! あっ、あそこっ! あの時の宝玉だよ!」
「!」
ルルネの言葉の通り、ひときわ大きな石柱の根元に、あの、緑色の胎児の宝玉があった。
周囲では床の赤、植物の緑が複雑に絡まり、不気味なマーブル模様を作り出している。
「あいつらを倒して調べてみるしかないな」
「ですね。総員戦闘準備!」
アスフィの号令と同時に、上空から落下してくる物体。
が、一瞬早く空中から吹き出した炎によって焼かれる。
イサミの"炎の泉"である。
「同じ手が通用するか、馬鹿!・・・と言いたい所だが」
燃えかすや、ダメージを負った食人花が落ちてくる。
だがそれを遙かに上回る数の、無傷の食人花が落ちてきていた。
いくらかは地底湖に落ち、異臭を放つ水しぶきを上げる。
敵は残った全ての食人花をここの天井に潜ませ、飽和攻撃を仕掛けてきたのだ。
その数、数百。あるいは千を越えるかも知れない。
無数の食人花に前後左右を囲まれ、さすがに顔をひきつらせるヘルメス・ファミリアの面々。
アイズやシャーナの表情もこわばっている。
「前と左右の敵は気にするな! アスフィさん、後ろの敵だけ倒して、退路の確保を!」
「え?・・・わかりました! 総員転進! 通路までの退路を確保します!」
「えええっ!?」
大丈夫かよとルルネが叫ぶいとまもなく、地面に落着した食人花が一斉に襲いかかってくる。
が、それより一瞬早くイサミの呪文が完成した。
「"《持続延長》
「"《高速化》《持続延長》
前から襲ってきた食人花を、アイズが斬り捨てる。
後ろから襲ってきた食人花を、間一髪、後衛と入れ替わったヘルメス・ファミリアの中衛とシャーナが防いだ。
そして左右からは・・・敵は襲いかかってこない。
「何これ?!」
「壁があるぞ!」
見えない壁に阻まれ、花弁の牙をがちがちと鳴らす食人花。
だが、その牙は決して味方には届かない。
"
名前の通り透明な力場の壁を立てる呪文である。
視線こそ遮らないが、力押しでこれを破ることは決して出来ない。
イサミはその壁をパーティの左右に一枚ずつ張ったのだ。
大空洞の入り口から、パーティの現在位置の少し前まで、高さは大空洞の天井まで届いている。
つまり、今イサミ達は大空洞の入り口に続く幅6mほどの通路の途中に立っていることになる。
前方はアイズが、後方はヘルメス・ファミリアとシャーナが防いでくれる。
(つまり――俺は敵を焼くのに専念すればいい!)
「冷気変換《
「冷気変換《
「音波変換《
「音波変換《
凍り付き、もろくなった怪物の体は、音波攻撃の衝撃によって効率よく粉砕される。
魔法戦術特技《エネルギー複合:凍結粉砕》。
今や、地の利はイサミ達の側にあった。
数の利を活かし切れない食人花達は、見えない壁で構成された通路に入ろうとしては最強の門番に瞬断される。
そして安全な後方からは途切れることなくイサミの攻撃呪文が飛んでくる。
みるみるうちに数を減らす食人花。
最後の食人花をアイズが両断するのと、イサミが張った"力場の壁"が持続時間切れで消滅するのがほぼ同時だった。
「【剣姫】も大概だけど、あんたもいいかげん反則だよな・・・」
「お褒めにあずかり恐悦至極」
呆れたようにつぶやいたルルネに、イサミは気取って一礼して見せた。
「馬鹿な、
「うろたえるな! 今こそ我らの信仰心を見せるときだ! この命、イリスのもとに!」
「おお、同志よ、死を恐れるな!」
「おおーっ!」
僅かに呆然としていた覆面の男達が、自らを鼓舞して突っ込んでくる。
「さて、生け捕りにしますか?」
「できればでいいですよ、イサミ・クラネル」
「お任せ下さい、レディ」
が、イサミ達は既にこうした会話を交わす余裕すらある。
身のこなしや脚力を見る限り、相手の力量はレベル2かせいぜい3。
その程度でイサミの魔法に耐えることはできない。
「《
不可視の衝撃がローブの男達を打った。
炎の攻撃を殺さないよう調節された震動に変換し、内臓と脳を揺らして気絶させる「呪文修正」だ。
三人ほど幸運にも
意識を失った覆面達が床に積み重なり、大空洞に静寂が戻った。
「こいつら、ひょっとして"
「・・・根拠は?」
右手で眼鏡を直しながら、アスフィがイサミに問う。
「さっきの会話ですよ。信仰心がどうの、イリスがどうのと・・・イリスってのは、闇派閥の神の一柱だったはずです」
「私には聞こえませんでしたが・・・ルルネ?」
感覚の鋭い犬人の盗賊が頷くのを見て、アスフィはため息をついた。
「またやっかいな連中が絡んできたものですね・・・ルルネ、
「あいよー」
「わかりました」
「他の者は回復と装備のチェックを。まだ出てこないとも限りません、急いで下さい」
きびきびと指示を飛ばすアスフィをよそに、ルルネとイサミが歩を進める。
何故かシャーナもついてきた。
「別に一緒に来てくれなくても大丈夫ですよ?」
「ばーか、おまえとルルネだけじゃいざって時に危ないだろ。前衛がいなくてどうするんだよ」
「はいはい、ツンデレどうも」
馬鹿な事を言い合いつつ、折り重なる覆面の男達の前まで来て、足を止める。
「どれにしよっか?」
「どれでもいいんじゃないか? そこの一番手前ので」
「オーケイ」
シャーナがごろん、と気絶した男を蹴り転がし、大剣で雑に服を切り裂く。
ルルネが懐からステイタスの隠蔽を剥ぐ薬の小瓶を取り出して蓋を開けようとしたところで、イサミがその首筋を掴み、ぐいっと後ろに引っ張る。
「"
「"
不可視の壁が発生したのと同時、何かが飛来して、転がっていた男の一人に命中する。
次の瞬間、飛んで来たそれは爆発し、一瞬遅れて命中を受けた男が、そして周囲の男達が次々に連鎖爆発を起こす。
呆然とするイサミ達の前で、全ての覆面の男達が爆発に巻き込まれ、燃えくすぶる黒こげの死体と化した。
「なんてこった・・・」
「な・・・なんだよこれ。何だよこれぇ?!」
軽いパニックに陥るルルネの傍らで呆然とするイサミの、その脳裏に去来するのは前世の記憶。
体に爆弾を巻き付けた自爆テロリスト。
前世においても、テレビの中でしか知らなかったこと。
モンスターの殺意とも違う人の狂気に触れて、イサミは僅かに気圧される。
なお、D&Dでは"炎の泉"を音波に変換したからと言って、"音波の炎の泉"という名前に変化したりはしません。
あくまでわかりやすさ優先の演出ですのでご理解下さい。