ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

56 / 270
7-8 なまえをいってはいけないかいぶつ

 その瞬間、様々な事が同時に起こった。

 

 左手前の地底湖の水が盛上がり、中から異様な何かが現れた。

 さしわたしは2.5mほどもあろうか。

 一言で言うならば、浮遊する一つ目の巨大な首。

 

 肉塊にしか見えない体の前方には巨大な一つ目と同じく巨大な口があり、髪の毛の生えているであろう頭頂部には、その代わりに10本の触手がある。そして触手のそれぞれの先端にはまた小さな眼球。

 その姿は、異形としか呼びようがない。

 

「すず、じゃなかった、ビホルダーだと・・・っ!」

 

 驚愕に身を震わせた次の瞬間、イサミは再び驚愕に襲われる。

 本来睡眠・恐怖・即死などの様々な光線を発するはずの触手の目が、その代わりにイサミが使うのと同じ、魔術師(ウィザード)魔法の術式を展開したのだ。

 

「ビホルダー・メイジ?!」

 

 それと同時に、読み取った術式に顔を引きつらせる。

 胴体の巨大な目から一筋の光線が発射され、イサミの展開した"力場の壁"を消失させた。

 それと同時に、他の触手眼から呪文を発動する。

 

『"集団金縛り(マス・ホールド・パースン)"』

『"陽光爆発(サンバースト)"』

『"固体の霧(ソリッドフォッグ)"』

『"重力逆転(リヴァース・グラヴィティ)"』

 

 体の自由を奪われ、光の爆発で視覚を奪われ、移動を阻害する魔法の霧に包まれ、重力逆転の結界の中で宙に浮かされるヘルメス・ファミリアの面々。

 そちらを気にする間もなく、イサミ達にも呪文が襲いかかる。

 

『"モルデンカイネンの魔法解体(モルデンカイネンズ・ディスジャンクション)"』

『《連鎖》"石化光線(レイ・オブ・フレッシュ・トゥ・ストーン)"』

 

呪文相殺(カウンタースペル):"モルデンカイネンの魔法解体(モルデンカイネンズ・ディスジャンクション)"!」

「ぐっ!」

 

 咄嗟にイサミの放った反呪文が、致命的な解呪呪文を相殺した。

 もう一つの光線はルルネに命中して彼女を石に変え、《連鎖》してシャーナとイサミに飛び跳ねるが、二人は耐える。

 

 ビホルダー・メイジの恐るべき能力、"呪文の眼柄(スペル・ストーク)"。

 ビホルダーが本来持つ、眼柄の先の目から発射される光線をひとつ諦める代わりに、その眼球ごとに一つ、呪文を放てるようになる能力。

 イサミが呪文を二回放つ間に、極めたビホルダー・メイジは眼柄で10、高速化して1、通常の詠唱で1の、実に最大十二回の呪文を放てるのだ。

 

 ビホルダーが飛び出して、ここまで一秒未満。

 敵の攻撃はまだ終わってはいない。

 

 

 

 ビホルダーが現れたのと同時に、別の地底湖の水が大きく盛上がっていた。

 でかい。

 十数mから20mはあろうか。

 イサミがこの迷宮で見た中では、37階層と27階層の階層主であるウダイオスとアンフィスバエナのみがこれに匹敵するだろう。

 

 濁った水をはね飛ばして現れたのは巨大な魚であった。

 古代の甲冑魚とカンブリア期のバージェス・モンスターを合成すればこのような姿になるだろうか?

 

 全体的なフォルムは魚に似るものの、体の側面や背中には触手が生え、潰れた三角錐のような頭に目が縦に三つ、並んで付いている。

 鱗は濁った青緑色で腹はピンク。体表はぬるぬるした、汚い色の粘液で覆われている。

 

 D&Dの地底世界において最強と呼ばれる存在の一角――アボレス。それも通常のアボレスの三倍近い体躯。

 鯨のような巨体を波打たせることもなく、一直線に宙を飛ぶ。

 その先には――アスフィ達を包んだ、"固体の霧(ソリッドフォッグ)"。

 

 だがアボレスが襲いかかるより一瞬早く、ヘルメス・ファミリアとアイズを包んで宙に浮いた"固体の霧(ソリッドフォッグ)"から二つの影が左右に分かれて飛び出す。

「エアリエル」を発動させたアイズと、魔道具"飛翔靴(タラリア)"を発動させたアスフィだ。

 

 呪文に耐えた――アイズはステイタスの高さと対異常アビリティで、アスフィは防護の魔道具の力で――二人は、足下の霧が薄いことに気づき、そこを破って飛び出したのだ。

 "重力逆転(リヴァース・グラヴィティ)"をかけてから"固体の霧(ソリッドフォッグ)"をかけるのではなく、その逆の順番にしてしまったビホルダーの僅かなミスを見事に突いた形である。

 

 だが。

 

「!」

「っ!?」

 

 二人を意に介さず、アボレスは蛇や一部の深海魚のように口を大きく広げ。

 "固体の霧(ソリッドフォッグ)"を、中のヘルメス・ファミリアごと飲み込んだ。

 

 だが、それでもまだ終わりではない。

 ぎいんっ、と音がした。

 

 振り返ると赤い大剣を持った、赤い髪の女がアイズに斬りかかっている。

 金属音は大剣の不意打ちをアイズが防いだ音だった。

 

「あ、ああーっ!?」

 

 赤毛の女を見たシャーナが絶叫する。

 そしてその瞬間、白い骨の仮面をかぶった男が神速で距離を詰め、手刀をイサミの首にめり込ませた。

 

 

 

 長い長い一瞬が終わった。

 その一瞬の最後に、突然アイズの「エアリアル」が消失する。

 

(!?)

 

 自らに一撃を加えた赤毛の女を追うように、アイズも身を翻して地面に落着する。

 立ち上がった瞬間、振り下ろされる紅の大剣。

 辛うじてそれは受け流したものの、体勢を崩して連続攻撃を許す。

 

 二撃、三撃、四撃としのぐ。

 

(・・・おかしい)

 

 違和感があった。

 魔法が消失したのもそうだが、剣の振りがいつもに比べて鈍い。

 鍛冶師の鍛えた業物ではなく、まるで練習用の木剣を使っているような・・・。

 

「今の風・・・お前がアリアだな」

「っ!」

 

 赤い髪の女がつぶやいた名前に、アイズは金の双眸を大きく見張る。

 

「来てもらうぞ、『アリア』!」

「私は・・・アリアじゃないっ! 【目覚めよ(テンペスト)!】」

 

 アイズは「エアリアル」発動の呪文を詠唱する。

 だが何も起きない。

 

(!?)

 

 再び斬りかかってきた女の大剣を、今度はやや余裕を持って払いのけるが動揺は隠しきれない。

 

(何故・・・!?)

 

 魔封じの滅びの目。

 あらゆる魔法や魔力、超常能力を抑止する反魔法力場(アンチ・マジック・フィールド)を発生させる、頭部の十本の光線と並んでビホルダーが恐れられる最大の理由。

 

 ビホルダーの主眼からは前方90度、45mの円錐の範囲にこの反魔法の場が発生する。

 この範囲内にいる限り、あらゆる魔法および魔道具は発動せず、持続していた効果も停止する。

 上級鍛冶師が打った武器や防具の切れ味や鋭さ、防御力も含めて、だ。

 

 神秘アビリティを持つ魔道具製作者は、魔力を秘めた原材料と自らの魔力を使って魔道具を製作する。

 鍛冶アビリティを持つ上級鍛冶師は、魔力を秘めた素材と自らの魔力を用いて上級の武具を打つ。

 

 つまりこの世界での認識とは裏腹に、上級鍛冶師が打つ武具は製作方法が違うだけで一種の魔道具(マジックアイテム)なのである。

 全く別のものとして捉えられているのは、ひとえにそれぞれの専門性が高すぎるからに他ならない。

 

 アイズの"デスペレート"も、この反魔法力場の中ではただ頑丈なだけの剣でしかない。

「エアリエル」が使用不可能なことに加え普段と感覚の違う愛剣への戸惑いに、アイズは次第に押されていった。




 もうそろそろ知らない人も多そうだけど、「名前を言ってはいけない怪物」はバスタードで流用したらD&D版権に引っかかった鈴木土下座右衛門さんことビホルダーのことです。


 ちなみにビホルダーメイジの簡単な能力

・クラスレベル10までで、ウィザード/ソーサラー呪文9レベル習得(普通は17~20レベル必要)
・呪文習得はウィザード(習得数制限無し)、使用回数と使用はソーサラー(あらかじめ準備せずにその場その場で好きな呪文を使える&使用回数多し)のいいとこどり
・最大1ラウンド12回呪文発動可
・物質要素(触媒)不要、高価な物質要素は経験点で代替可能
・物理打撃に使用可能なテレキネシス能力、手に持つアイテムを保持&使用も可
・呪文吸収能力

 なあ、リチャード・ベイカー(デザイナー)・・・なあ!w
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。