ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
一方手刀の一撃を受けたイサミは、苦痛に耐えて体勢を立て直す。
「ほう」
白い仮面の下から感嘆の声が漏れた。
「魔導士にしては頑丈だな。一撃で殺すつもりだったが」
それには答えず、周囲の状況を確認する。
ビホルダー・メイジは眼柄で次の呪文の術式を展開。先ほどのイサミの
アイズ達に向けて反魔法力場を照射しているので、アイズに呪文が向けられることはあるまい。
ヘルメス・ファミリアを飲み込んだアボレスは大きく旋回中、機動性と速度からして、おそらく"
そこからやや離れて、イサミ達とアボレスの中間ほどの空中にアスフィ。
そしてイサミの目前に白い骨の仮面の男、その隣にシャーナと、石化したルルネ。
ここまで追い込まれた状況、本来は魔導士であるイサミが反撃のきっかけを作らなくてはならない局面である。
だが、今のイサミは数秒間は動けない状況であった。
特技《
本来相手のアクションを待ち受けて放つ
"
やむを得ず、《高速化》された呪文だけを発動しようとして――イサミは、先ほどビホルダーがイサミ達に対して二回しか呪文を発動しなかった意味を知った。
「《高速化》"
『
「!」
イサミの身に走る驚愕。
D&D世界において呪文を操る存在であれば誰もが行うことができる。
繰り返すが、イサミが数秒の間に放てる呪文は通常詠唱のものと、高速化したものの二つ。
そして、ビホルダー・メイジが放てる呪文は同じく通常詠唱のものと、高速化したものの二つに加えて、最大で10。
このビホルダーは最大4つの眼柄しか一方向に向けられないとは言え、ビホルダーはその内二つを常時待機させておくだけで、イサミの呪文を完全に封じることができる――イサミは最大の武器を封じられたのだ。
「くっ・・・!」
『認めてやろう、小僧。人間にしてはかなりの術師よ・・・偉大なる我が種族には及ぶべくもないがなあ!』
歯をむき出して笑う『
イサミに匹敵する9レベルの魔術師呪文、そして圧倒的な手数。
術力と威力では勝っているものの、カウンターに徹されるとイサミには為す術がない。
『遊ぶな、ザナランタール。そやつは最優先の排除対象だ。息の根が止まるまで油断するな。姫君も言っていただろう』
『ふん、あの女がなんだ。人間どもにバレないよう百年以上潜んで活動してきたというのに、いきなり割り込んできて好き放題に動きおって!
我らがどれだけ気を遣って動いてきたか! やつこそ石化してやりたいわ!』
「しゃべった!?」
空中を泳ぐ巨大魚が単眼の異形と言葉を交わす。
驚愕するシャーナにぬらり、と巨大魚が縦に三つ並んだ目を向ける。
『愚かしいな、下等種。我らの知性は人の者など比較にならぬ。そして今食らったものどもの知識もまた、我が知性の糧となる』
「なっ・・・! ではそのために私の仲間達を!」
アスフィが動揺を見せる。
アボレスがくぐもった不気味な音を立てたのは、笑い声であろうか。
『貴様はマジックアイテムの作成において天才と謳われているのであったな。
よかろう、我が知識の糧となれ! ザナランタール!』
『ファファファ・・・一つ貸しだぞ、ネヴェクディサシグ』
ビホルダーの瞳孔が収縮した。
今まで前方に扇形状に放射されていた反魔力の場が、カミソリの刃ほどの薄さにまで収斂する。
圧縮・収束されたアンチマジックフィールドはいかなる魔力をも突き破り、破壊する反魔力の針となる。
『
先ほどイサミの力場の壁を分解したのと同じ極細の光線が、アスフィの
「!」
光線を突き立てられた右の
片方だけではバランスが取れず、アスフィがでたらめに空を飛び始める。
すぐにきりもみを起こし、高速でイサミ達の方に突っ込んでくるアスフィ。
バックパックから取りだそうとしていた透明化の兜がその手を離れ、床に落ちて肉の中に埋まった。
「くっ!」
「アスフィさんっ!」
イサミが飛び出す。
その隙を逃さず白仮面が一撃を加えようとするが、シャーナの大剣がそれを牽制した。
不規則な軌道を描きつつ頭から落下してきたアスフィの体に手を回し、体全体で彼女を抱き止める。
イサミのステイタスでは受け止めきれず、クッションになるような形で床にたたきつけられた。
「っ・・・!」
「うっ、く・・・すいません、助かりました」
「何、この程度っ・・・」
残った
ほとんど間を置かず、イサミも素早い身のこなしで立ち上がった。
だが、ビホルダーの攻撃はまだ終わりではない。
収束させていたアンティマジックフィールドを元に戻し、【剣姫】と赤髪の女を範囲内に入れる。
そしてイサミたちに向けていた四本の
『"
白仮面の男を避け、イサミとアスフィを含む半径12mの範囲に、魔力を分解する強烈な力が作用する。
この呪文は、いかなるものであれ範囲内のあらゆる魔力を問答無用で解呪する。
その力はマジックアイテムにさえ及ぶが、こちらはまだ意志力次第で耐えるチャンスはある。
とは言えあくまでチャンスだ。
イサミは意志力と身につけた《特技》を総動員し、辛うじて身につけているアイテムを守ったが、アスフィは6割以上のアイテムを破壊された。
だがこのビホルダーとの圧倒的なステイタスの差を考えれば、まだしも健闘した方であろう。
『む・・・?』
一方でそのザナランタールはやや困惑している。
先ほど同様に、一発目は相殺されるものと読んでいたからだ。
『まあ良い。何を考えておるやは知らぬが・・・所詮愚昧の行いよ。
"
「ぐっ・・・・!」
眼柄の一つから、今度はイサミ一人に石化光線を放つザナランタール。
イサミは意志力を総動員し、必死にそれに耐える。
抵抗力を上げる多くの《特技》、マジックアイテム、防御呪文、万能クラス「
『ぬう、ウィザードのくせに耐えおるわ・・・これはきゃつらの言う事もまんざら・・・』
ザナランタールのつぶやきを、イサミの耳はしっかりと捉えている。
続けてマッコウクジラのごときアボレスの巨体がアスフィに襲いかかった。
再びかばおうとしたイサミの努力をあざ笑うように、触手の鋭い一撃がアスフィを捕らえ、ぐるりと巻き付いてその体を上空へ運び去る。
レベル4のアスフィでさえ回避できない一撃。
ましてや、レベル2相当でしかないイサミには反応すらできない、圧倒的なステイタスの差。
「くっ!」
「私のことは気にしないで下さい! 最悪、あなただけでも脱出して、ここの事を報告・・・」
アスフィの言葉の後半は、アボレスが立てた不気味な音によって遮られる。
イサミは歯がみする事しかできない。
(あの触手に触れられたものは、生きながらにおぞましい粘液と化してしまう! 急がなければ・・・がっ!)
体をくの字に折るイサミ。
シャーナを無理矢理に突破して、白い仮面の男が目の前にいた。
(?!)
男が目の前にいることとは別に、何か違和感を感じる。
だが思考を続ける時間を、目の前の男は与えてくれない。
続けての三連打。いずれも回避できず、イサミが血反吐を吐く。
仮面の男の速度はベート・ローガと同等。打撃力に関してはそれを明らかに上回っていた。
振り向いたシャーナが一歩踏み込んで斬りつけるが、かすり傷は与えたものの、皮膚の表面で剣が滑り、有効な打撃は与えられない。
「なんだぁ、こいつ・・・!?」
汗を一筋浮かべ、シャーナが唸った。
ロード・オブ・マッドネスは今回出てきたビホルダーやアボレスなどを扱ったサプリメントです。
ネヴェクディサシグはそのサプリに載ってたサンプルネーム。
ザナランタールは公式サプリメントに載ってる有名どころのビホルダーの名前のツギハギですね。
フェイルーンガイドブックとシャックルドシティとアイ・オブ・ザ・ビホルダーだったかな?
以下はザナランタールとネヴェクディサシグが保有するモンスター専用特技。
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