ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
「馬鹿な?! 一体何が起こったというのだ!」
圧倒的な優位から一瞬にしてザナランタールとネヴェクディサシグを失い、レヴィスもアイズ・ヴァレンシュタインに押されているこの状況で、白仮面が狂乱して叫んだ。
「馬鹿はテメエだ!」
剣を投げ捨て、シャーナは呆然とする白仮面に組みついた。
その肌は既に"
「こ、こいつっ!?」
その体格からは考えられないほど重く、そして上手いタックルに白仮面の男が倒される。
倒されながら反撃のパンチを放つも、拳から伝わるのはまるで鉄を殴ったような手応え。
「ぐっ!?」
「おぉらぁっ!」
にやりと笑った少女の拳が胸にめり込み、再び仮面は苦悶の声を上げた。
彼女の二つ名は「剛拳闘士」。
それは単に格闘に長けていると言う事だけではない。
魔法を使ったときの、
「さあ、男らしくドツキ合いと行こうじゃねえか!」
「ぐあっ!」
グラウンドで転がりながら、互いに拳を振るうシャーナと白仮面。
ステイタスでは完全に負けていながらも、格闘技術と無敵状態のおかげでどうにか勝負は拮抗していた。
だが、シャーナも違和感を感じている。
胴体を殴る手応えがおかしいのだ。
まるで皮一枚下に弾力のある殻があるような・・・
シャーナが防いでくれている間、イサミは素早く呪文を詠唱する。
"
胃袋だった部分も切り開かれ、現れたヘルメス・ファミリアの面々をとっておきの"
本来は
最高位9レベルに属するこの呪文はほぼあらゆる状態異常を回復し、レベル3程度の冒険者であれば負傷を完全に癒してくれる。
さらに石化したルルネを"
「シャーナ!」
「大丈夫だ、怪我しちゃいねえ・・・だが、ちっとばかし手強いぜ、あいつは」
言いつつ、投げ捨てた得物を拾って素早く立ち上がるシャーナ。
さらにアスフィの号令でヘルメス・ファミリアの精鋭達が再び戦闘態勢を取る。
こちらも素早く立ち上がった白仮面が、いらだたしげに首を振った。
「こしゃくな冒険者どもめっ・・・!」
「がっ!」
「レヴィス!?」
その足下に吹き飛ばされてきたのは赤髪の女、レヴィス。
全身は傷だらけで血に濡れている。胸には斜め十文字に深々と斬撃の跡があり、かなりの深手なのが見て取れた。
僅かに遅れて、アイズも剣を構えてイサミ達の横に並ぶ。
「ぬう・・・動けるか、レヴィス?」
「問題ない。が、今のままではアリアには勝てんな」
「まさか【剣姫】がアリアだったとはな・・・」
手を貸し、レヴィスを立ち上がらせる白仮面。
それを見て、シャーナが愉快そうに笑った。
「へっ、ざまぁねえなあ、レヴィス。化け物みてぇなてめぇでも、もっと上の化け物には敵わなかったか。ざまぁみろってんだ」
「・・・? 誰だ、お前は? 私を知っているのか」
僅かに顔をしかめ、問い返すレヴィス。
ふん、とシャーナが鼻を鳴らした。
「まぁ、わからねえだろうな。けど、殺された方はテメェの顔を忘れちゃいねぇんだよ!」
「私が殺した人間の身内か・・・それは確かに、いちいち覚えてはいられないな」
「てめぇ・・・」
イサミが手をかざしてシャーナを制した。
「・・・お前達の目的はなんだ? あの緑の胎児は何に使う?」
白仮面はくぐもった笑い声を立てる。
「目的。目的と言ったか! いいだろう、教えてやる。
私の――いや、彼女の目的は――迷宮都市を滅ぼすことだ」
多くの者が息を呑む。
オラリオは迷宮の蓋。それを破壊すると言う事は、古代と同じ、この世界を怪物の跳梁跋扈する地獄に変えるのと同義だ。
震える声でルルネが問うた。
「じ、自分が何言ってるのかわかってるのかよ?」
「当然だとも」
その声には隠しきれない狂喜がにじみ出している。
先ほどの闇派閥の者どもと同じ――狂気の喜びだ。
「おまえたちには聞こえないか、『彼女』の声が!?
『彼女』は空を見たいと言っている!『彼女』は空に焦がれている!
地中深くに眠る『彼女』にとって、迷宮都市は邪魔なのだ!
ならば私はその願いに殉じよう!
彼女は一度死んだ私に第二の命を与えてくれたのだから! 彼女こそが私の全てなのだから!」
狂信者の恍惚。
生理的な嫌悪感を感じ、イサミが顔をしかめる。
ただし内心で、だ。意地でも顔には出さない。
一方シャーナは盛大に顔をしかめる、思わず視線をそらして――その目が十文字に切り裂かれたレヴィスの胸元に注がれた。
肉の奥でよく見えないが、双丘の間に光る物がある。
視線に気づき、レヴィスがシャーナを、次に白仮面を見た。
「これが気になるか。ならば見せてやろう」
レヴィスが胸の傷に指を立て、自ら左右に引き裂く。
中から現れたのは、禍々しく輝く極彩色の結晶。
「ま・・・魔石っ!?」
誰かが叫んだ。
レヴィスの胸に埋め込まれていたのは紛れもなく、51階層の芋虫や、先ほど倒した食人花と同じ、極彩色の魔石だった。
一瞬、全ての人間の意識がそこに集中した。
イサミはもとより、アイズ、シャーナ、アスフィでさえも。
その瞬間、ぎぃんっ、と空間が軋む音がした。
いや、そう感じられた。
「なんだっ!」
「ぐわっ!?」
「きゃあっ!」
「っ!」
イサミは何も感じなかった。
"
アイズはレベル6の意志力で耐えた。
アスフィは壊れ残ったアイテムで辛うじて耐えた。
だが、ヘルメス・ファミリアの面々はそうはいかなかった。
脳みそを手でわしづかみにされたような感覚。
巨大な雑音に自分の存在が消されるような感覚。
彼らの意識が、
意識を吹き消された彼らの手から、次々と武器が落ちる。
倒れはしないものの目は焦点を失い、口を開け、中にはよだれを垂らしているものすらいる。
「っ!」
イサミの背筋に驚愕と戦慄が走った。
"
だが状況は動き続ける。
イサミに思考する時間を与えてはくれない。
「やれ、
「十分ではないが完全に育った! エニュオに持って行け!」
「はあっ!」
「どりゃあっ!」
白仮面とレヴィスが何者かに呼びかけると同時、アイズとシャーナがそれぞれに斬りかかる。
右のアイズは左の白仮面に。左のシャーナは右のレヴィスに。
交差した二人の剣は、かたや白仮面を真っ向唐竹割に斬り下ろし、かたや動きの鈍くなっていたレヴィスの肩口に食い込む。
「ぬっ・・・!」
「ぐっ!」
左肩に半ばまで大剣を食い込ませたレヴィスが、シャーナののど元を右手でわしづかみにする。
奇しくも、かつてハシャーナ・ドルリアが殺された情景の再現。
「・・・ぬ?」
レヴィスが困惑の声を漏らす。
渾身の力で握りしめたエルフの少女のか細い首は、まるで超硬金属の彫像ででもあるかのようにびくともしない。
「同じ手が二度通用するかぁ!」
のど首を掴まれたシャーナの右膝が、むき出しになったレヴィスの胸の魔石に叩き込まれる。
「がぁぁぁぁぁっ?!」
極彩色の結晶にぴしりとヒビが走り、レヴィスがはじめて苦悶の声を上げた。