ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
嫌な沈黙が落ちた。
モンスター、それも強化種の能力と、冒険者の能力を併せ持った敵。
しかもビホルダーやアボレスと言った、異形の者どもの力も借りている。
「・・・どうなっちまうんだよ、オラリオは? あいつら、マジでオラリオを潰そうとしてるんだろ?」
「ブルってんじゃねえよ、ザコが。んなもんぶちのめしゃいいんだ。そうでなかったら食われるしかねえ」
おびえるルルネをベートが一蹴する。
ため息をつきつつ、イサミもそれを肯定するしかない。
「まあ、そういう事だな。見ての通りあいつらは撃退できた。逃げられた奴もいるが、俺たちが勝ったんだ・・・どうにかなるだろ。
オラリオには一万人からの冒険者がいるんだ。20人で一匹片付けられるなら、500匹くらいは大丈夫って計算さ」
意図的に軽く振る舞い、肩をすくめて見せる。
いくつかの笑いが上がり、多少は雰囲気もゆるんだようである。
(しかし・・・ひょっとしたら俺の「仕事」ってこれなのか?)
沈思黙考する。
イサミも、おそらくあのビホルダーや白仮面達も、この世界においては異物である。
ただ強いだけなら、ロキ・ファミリアやフレイヤ・ファミリアの強者達でも事足りるだろう。
だが、ああした異物たちに対処するために自分は送られてきたのではないか?
(だとしたら、俺はワクチン・・・ってわけか。他にも俺みたいなのがいるんだろうか?)
この世界において、空間を渡る効果が発動しない理由もその辺りと関係しているのではないか、あの赤い男にもう一度会って話を聞きたいと思いつつ、アイズが近づいてくるのに気づく。
「それじゃ失礼します。早く帰らないといけないみたいなので・・・」
「ああ、お疲れ様。今日はありがとう」
「いえ・・・それより、忘れてましたけど弟さんは大丈夫ですか・・・?」
奇声を上げて逃げ出したベルのことである。
苦笑しつつ手をぱたぱたと振る。
「大丈夫だよ。あの歳の男にはたまにあることなんだ。気が向いたらまた話しかけてやってくれ」
ほっとしたような顔でアイズがこくりと頷く。
「おら、さっさとしろよ。お前を連れ帰ってこいってロキに言われてんだからな」
その後ろに見えるのは仏頂面のベートと、ぺこりと頭を下げるレフィーヤ。
「それじゃ・・・」
「ああ、帰り道も気をつけて」
無言できびすを返すベート。
アイズ達もそれにならう・・・が、ベートは背中を向けたまま足を止めた。
「イサミ・クラネルだったな・・・覚えておいてやるぜ。てめえのほうはな」
「そのうち弟の方も覚えることになるさ。いやでもな」
「けっ」
互いに視線を交わさないまま、言葉だけを交わす。
そのまま、ベート達は去っていった。
「さて、私たちはこのまま戻りますが、あなた方は?」
何となくロキ・ファミリアを見送った後、アスフィが話しかけてきた。
「そうですね・・・」
と、懐から時計を取り出して時間を確認する。
「ちょっと寄りたいところがあるので、これで失礼します。皆さんが帰れば報告には十分でしょうし」
あれだけの目に合ってまだダンジョン潜るつもりかよ、と言いたげなヘルメス・ファミリアの視線がイサミに集中する。
アスフィも苦笑して頷いた。
「わかりました。それでは
「お気になさらず。助けたくて助けたんですから」
すました答えに、アスフィが今度はくすりと笑みを漏らす。
「いえいえ。ささやかですが、お礼です。ちょっと耳を貸して下さい」
「ん?」
イサミがアスフィと顔の高さを合わせるようにかがみ込んだ。
目の前に降りて来た大きな頭を両手でそっと挟む。
頬に口づけをしようとして・・・直前でアスフィはイサミの唇に自分の唇を合わせた。
「あ・・・」
「「ああああああああああ~~~~~~~~~~~~~~~~っっっっ!?」」
どよめくヘルメス・ファミリアの面々。
そしてわき起こる絶叫二つ。
一つはシャーナの、もう一つはヘルメス・ファミリアのキークスという盗賊風の男。
ぱちくりと、イサミは目をしばたたかせる。
自分の唇に触れている柔らかい感触が、脳の理解力を越えている。
アスフィがそっと唇を離す。
イサミの顔に盛大に朱が差す。
鍛え上げた技能も、心を平静にするマジックアイテムも、この時ばかりは全く効力を発揮してくれない。
「~~~~~~~~~~~っ!?」
声にならない絶叫を上げ、尻餅をついた。
そのまま2mほども後ずさる。
「あなたでもうろたえることがあるんですね。
いつもすました顔をしてるから、そういう子なんだと思ってました」
アスフィが頬を染めながら、おかしそうに笑った。
「それでは失礼。また会いましょう」
優雅に一礼して、アスフィもまたきびすを返す。
号令一下動き出すヘルメス・ファミリアの中で、地面にくずおれてOTLする男が一人。
ルルネが苦笑しながら肩を叩いて慰めてやっていた。
ヘルメス・ファミリアがヒューマンの男を引きずって去った後も、イサミは尻餅をついたままだった。
右手を胸に当てるが、胸の動悸も、朱に染まった顔も、混乱した頭も、いっかな元に戻ってはくれない。
面白くなさそうな顔で、シャーナがそばに立っている。
「・・・・・・」
「・・・ほら、立てよ。行くんだろ?」
「ああ・・・うん」
「あれだろ、狙いは宝石樹だろ? 崩落したのは食料庫だけだろうし、俺とお前なら木竜も大した相手じゃねえ」
「ああ・・・うん」
「おい、聞いてるのか?」
「ああ・・・うん」
「おまえのかーちゃんでべそ」
「ああ・・・うん」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
シャーナが何を言っても、イサミはアスフィ達の去った方を呆然と見つめているだけ。
「おうふっ!?」
何故だかとてもむかついて、目の前のマヌケ面を力一杯張り倒した。
ギルドの深奥、祭壇の間。
巨神ウラノスの前に黒ローブが姿を現した。
「・・・どうだった、彼の者は」
「おそらくは味方・・・と考えていいだろうね。
まだ断言はできないけど。
だが、私が知る限りでは今までで一番希望が持てるかも知れない」
「封印が完全に解けてしまえば、再びあの戦いが起こる。
それだけは何としてでも避けねばならん」
「わかってる。だから私もここにいるのだからね」
ウラノスが瞑目する。
黒ローブが天井を仰ぎ、神殿は再び沈黙に包まれた。
タイトルがどれのことかはご自由に想像してください(ぉ
設定ですがオラリオの冒険者が一万人というのは捏造です。
確か原作だと言及はされてませんでしたよね?