ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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第八話「呪文やアイテムの和名チェックめんどくさい」
8-1 リリの人生相談


 

 

 

『この盃を受けてくれ どうぞなみなみつがしておくれ 花に嵐のたとえもあるさ さよならだけが人生だ』

 

 ―― 『歓酒』 作:干武陵 訳:井伏鱒二 ――

 

 

 

「ああああああああああ・・・・・・・私は何故あんな真似を・・・!」

 

 例の事件の翌日、顔を真っ赤にして執務机に突っ伏すのはヘルメス・ファミリア団長アスフィ・アル・アンドロメダ。

 朝から半日近くずっとこんな有様である。

 

「ううう、ほっぺたで良かったじゃないですか・・・何故くちびるに・・・バカバカ私の馬鹿・・・!」

 

 頭を抱えて唸っているアスフィを、他の団員達は遠巻きに見守っている。

 心配そうな顔をしている者もいれば、生暖かい視線を送っている者、やけ酒を飲んでいる者など様々だ。

 そのような視線にも気づかず、アスフィはどうにか理論武装して自分を再構築しようと試みる。

 

「そうです、あの時の私は気が動転していたんです。

 あのような未知の怪物に翻弄され、異常な攻撃を受けた上に死にかけていたわけですし、そう言う状況では正常な判断力を失ったとしてもおかしくは・・・」

 

 そのままなら普段通りのアスフィにどうにか戻れただろう。

 が、空気を読まない(あるいは読みつつ無視する)神が約一名。

 

「やほー、アスフィ。例のイサミ君と熱烈なディープキッスかましたってホント?」

「黙りなさいこのちゃらんぽらん神ィーッ!」

「ブギャッ!?」

 

 涙目のアスフィがサイドテーブルにあった花瓶を全力投球する。

 哀れな花瓶は狙い過たずヘルメスの顔面に炸裂し、陶器の破片と水と花をまき散らして神は倒れた。

 

「あああああああ・・・もう!」

 

 まとまり掛けていた理論武装が雲散霧消し、アスフィはまた真っ赤な顔で自分の行いをリフレインし始める。

 団員達の生暖かい視線がより一層強まったことに彼女は気づいていない。

 

 

 

ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~

 

第八話「呪文やアイテムの和名チェックめんどくさい」

 

 

 

 時刻は戻って、24階層の死闘当日。

 宝石樹を回収したイサミ達が迷宮を出たのは三時を少し回った頃だった。

 例によって"風乗り(ウィンドウォーク)"で高速移動してきたため、アイズたちやヘルメス・ファミリアの面々も追い越しての帰還である。

 

「ちょっと早いけど、俺は夕食の買い物をしてきます。ホワイトリーフの換金お願いしますね」

「おう」

 

 ついでに摘んできたホワイトリーフを青の薬舗に売り飛ばしてこづかい稼ぎ。

 とは言っても、深層の稼ぎに比べれば、本当にこづかい程度のものではある。

 

 それぞれの用事を終えてファミリアのホームに戻ると、居間でヘスティアとベルが難しい顔をしていた。

 リリはどことなく申し訳なさそうな顔をしている。

 

「あ、にいさん、シャーナさん!」

「なんだ、しけたツラしてんな。どうした?」

「それがね・・・」

 

 話はやはり、リリのことであった。

 今後もベルのサポーターをすると言うことで話はついたのだが、そこから先について話がまとまらない。

 

 かつてのリリの被害者である冒険者・ゲドをも巻き込んでリリへの襲撃を敢行したソーマファミリアの冒険者、カヌゥたち三名。

 彼らはリリが生きていると知れば、やがてまたその金を狙って何事か画策するだろう。

 

「・・・連中、ベルも狙ってくると思うか?」

「わかりません。ベル様の実力は見たはずですから、軽々しく襲撃はしてこないと思いますが・・・」

 

 そのままリリは言葉を濁す。

 何をやってくるかわからない連中だ、というのを言外に匂わせて。

 

「その人達は何でそんな事をするの? その、リリから何か盗まれたわけでもないんだろう?」

「それは・・・」

「神ソーマの造る酒を飲みたいから。違うか?」

「!」

 

 イサミの言葉に、リリが驚きをあらわにする。

 シャーナが呆れたような顔になった。

 

「は? 酒ぇ? そのために同じファミリアの構成員をハメるって? ありえねえ。どんだけ美味い酒だよ」

「小耳に挟んだんですよ。ソーマ・ファミリアでは麻薬みたいな酒を造ってるって。それを飲みたさに、みんな必死に金を稼いでるって」

 

 吟遊詩人(バード)の能力"バードの知識(バルディック・ナレッジ)"である。

 酒場の冒険者達のひそひそ話、ギルド職員の愚痴、雑貨屋の店員のうわさ話――そうしたものを総合して導き出した結論だ。

 

 リリがうつむいていた顔を上げた。

 

「・・・その通りです、イサミ様。ソーマ様の造る酒は人を狂わせます。

 どうしても呑みたくて呑みたくて仕方がなくなってしまうんです。

 そして、それを呑めるのはノルマを満たした人だけ」

「うげぇ・・・麻薬中毒以外の何物でもないじゃねえか。お前よく抜けてこれたな」

 

 何か嫌な思い出でもあるのか、盛大に顔をしかめるシャーナにリリが自嘲の笑みを浮かべる。

 

「リリもはまってましたよ? 一口飲んだだけで、もうそれのことしか考えられなくなっていました」

「それでもソーマは神酒を配ってるんだろう? もう麻薬の売人と変わりないじゃないか!」

 

 憤激するヘスティアに、今度は寂しそうな笑みを向けるリリ。

 

「ソーマ様も、昔はそこまでひどくはなかったんです。

 両親が死んで放置されていたリリを育ててくれたのはソーマ様でしたから・・・リリにとって、ソーマ様は親も同じなんです」

「むっ・・・」

 

 ばつが悪そうにヘスティアが口を閉じた。

 

「ソーマ様がお変わりになってしまったのは、多分神酒を飲んだリリを見た時からだと思います。

 それ以降のソーマ様は、本当にお酒のことにしか関心がなくなってしまって・・・ファミリアも、団長のザニスが好き放題に壟断しています。

 今のソーマ・ファミリアは、実質あの男の私物と化しているんです」

「でも話を聞く限り、そいつをどうにかしたとしても、ソーマの方をどうにかしない限り難しそうだねえ」

 

 ヘスティアの嘆息に、憂鬱そうにリリは頷いた。

 イサミもつられたようにため息を漏らし、話を元に戻す。

 

「まぁ今はソーマファミリアの改革じゃなくて、リリの身柄のことだな・・・

 確認するが、リリは変身魔法が使える。そして、それをあのゲドって冒険者に知られた。これは間違ってないな?」

「はい。たぶんカヌゥさんたちにも知られていると思います」

 

 イサミがぼりぼり、と頭をかく。

 

「死体が残ってない限り、あの状況でリリ達が死んだと判断するかどうかは微妙だろうな。

 いや、リリをヒューマンなりアマゾネスなりに変えればいいんじゃないかと思ったんだが、変身魔法が使えると知られてたら、意味がないんだよなあ」

「・・・そのような事がお出来になるのですか?」

「秘密だぜ?」

 

 驚いた顔になるリリ。

 イサミは片目をつぶって、口元に人差し指を一本当てて見せた。

 

 魔術師8レベル魔法、"万能変身(ポリモーフ・エニイ・オブジェクト)"。

 人型種族はおろか、モンスターや物体にも変身できる/させられる魔法である。

 

 元の姿が近しいほど持続時間は長くなり、人型種族から人型種族への変身であれば永続する。

 新しい体に慣れる必要はあるが、この状況にはうってつけの魔法であるはずだった。

 

「リリの魔法はそんな大きく変わることは出来ませんが・・・」

「相手が『できる』って思っちゃったらそれで終わりだからなあ。あ、後で変身するところ見せてくれる? 興味があるんだ」

「イサミ様の魔法に比べれば大したものではありませんが、まぁお望みでしたら」

「おい話がずれてんぞ」

 

 好奇心を発揮するイサミの脇腹を軽くこづいて、シャーナが話を再び元に戻す。

 

「まあ、脅しつけてどうにかするって手はあるな。ソーマって確か、数はそこそこ多いがレベル2止まりだろ? 最悪、俺とイサミだけでも全員叩きのめせるだろうさ」

 

 まあそうですね、とイサミが頷く。

 

「でも最後の手段にしておきましょう。下手に恨みを買って、たとえば神様なんかにとばっちりが来たらたまりませんし。金貨の袋で頬を叩く方がまだしもでしょう」

「まぁな。いくらくらいでいけるかね」

「1000万も用意すれば大丈夫じゃないですか?」

 

 そこでリリがたまらず話に割り込んできた。

 

「い、いけません! リリのためにそんな・・・」

「別にリリのためだけじゃない。ベルのサポーターが問題抱えてたんじゃ不安だからね」

「今日な、宝石樹を取ってきたんだよ。それに木竜のドロップアイテムもだ。それだけでも三千万は固いぜ」

 

 にっ、と笑いあうイサミとシャーナ。

 リリは驚きの余り声も出ない。

 

「まあ宝石樹は売るにはちょっと惜しいし、貯金から出しましょう」

「わ、私の蓄えがありますから、まずそれを・・・!」

「それは後で精算しよう。

 リリ、正面から行って入れてくれるか?」

「・・・難しいと思います。先ほども言ったように、今のファミリアはザニスに壟断されていますから」

「なるほど。それじゃしょうがないなあ」

 

 何を考えているのか丸わかりの笑みを浮かべるイサミを見て、リリは考えるのをやめた。

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