ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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8-3 イサミ悩む

 廃教会に戻り、リリの部屋とベッドを作った後、イサミは自分の部屋に引っ込んだ。

 

「・・・」

 

 ベッドに仰向けに転がっていると、ややあってノックの音が響く。

 酒瓶とグラスを二つずつ、手に提げたシャーナがドアの隙間から顔を出した。

 

「・・・何か?」

「いや、飲みたいんじゃねえかと思ってな」

 

 イサミの返事を待たず、シャーナが部屋に上がり込む。

 グラスに琥珀色の蒸留酒を注ぎ、片方を上半身を起こしたイサミに渡した。

 からん、と氷が音を立てる。

 

「何に乾杯します?」

「生き残ったこと・・・でいいだろ。俺たち冒険者にとって、何より重要なことだ」

 

 頷き、イサミがグラスを掲げた。

 遅れてシャーナも。

 

「生き残ったことに」

「生き残ったことに!」

 

 そのまま二人とも一気にグラスの中の液体をあおる。

 

「くぁ~っ、キく~っ!」

「おっさんくさいですねえ」

「悪いか、俺はおっさんだ」

 

 言いつつ、エルフの少女は手酌でグラスにお代わりを注ぐ。

 ん? と視線でイサミにもお代わりを勧めてくるのに、グラスを突き出して応える。

 

 差しつ差されつ、しばらく二人は無言のまま杯を重ねていた。

 

 

 

「・・・・」

 

 シャーナがグラスを机の上に置き、ため息をついた。

 無言で付き合っていたイサミもグラスを持ち上げる手を止める。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 無言のまま視線を交わす。

 

「で、どうなんだ?」

「どう、とは?」

「すっとぼけんな、あの女の事だよ。

 俺たちと剣姫の三人がかりでびくともしなかったあのマジモンの怪物だ。

 くそったれ、あの赤毛どころじゃねえ怪物がまだいるたぁな」

 

 実際に【剣姫】を加えて戦ったわけではないが、だとしても勝てた気はしなかった。

 どうにか膠着状態に持ち込めたのも"力場の壁(ウォール・オブ・フォース)"があったからであって、相手が力場を簡単に無効化するような能力を持っていれば、【剣姫】が来る前に二人が倒されていた可能性は低くない。

 

 イサミが無言のまま指を動かすと、まだ開けてない蒸留酒の瓶が宙を飛んでその手に収まった。

 

「お、おいっ?」

 

 封を切り、そのまま中身を一気に喉に流し込む。

 蒸留酒の中でも特に度数のきついドワーフの火酒が喉を焼く。

 

 だが、それだけだ。

 毒への完全耐性を持つイサミが酒で酔うことはない。

 

(酔いたいときに酔えないってのも辛いもんだな)

 

 空になった瓶をイサミが放り投げる。

 絨毯の上を転がった瓶は、反対側の壁に当たって止まった。

 

 

 

(・・・こりゃ重症だな)

 

 シャーナが小さくため息をついた。

 何となく気になって酒に誘ってはみたが、思ったよりも大きな地雷を踏んでしまったようである。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 再び、両者無言。

 イサミは何も語らず、シャーナもどう切り出していいか考えあぐねている。

 

 しばしの後、沈黙を破ったのはイサミだった。

 天井を仰ぎ、口を開く。

 

「・・・三歳の時からね、わかってたんですよ。

 自分がいずれここに来なきゃならない、怪物どもと戦って強くならなきゃならないって」

「例の予言とやらか」

「ええ。もっとも実際には生まれる前、おそらく魂だけの状態で受けたんですけどね。だからこのことはじいさんもベルも知りません」

 

 思い起こすのはあの赤いローブの老人。

 おそらくは世界の守護者と呼ばれる存在。

 

「厳密に言えば、俺には何らかの使命があって『敵』ってのはそれを阻む存在らしい。

 だから、それを思い出した三歳の時からずっと、俺にとって一年365日全てが鍛錬の日々だった」

 

 実際イサミはLv.1の冒険者としては破格に強い。

 ステイタスはLv.2相当、《特技》その他を加えれば、物理戦闘力はLv.3にも匹敵する。

 呪文修正特技を加えた術の威力は第一級冒険者並みであるし、魔法の使用回数と打たれ強さはあらゆる冒険者から隔絶している。

 

 だがそれゆえに、イサミの「恩恵」は成長していない。

 更に言えば精神的にも、戦闘経験という意味でも未熟だ。

 強くはあるが、きわめて偏った強さ。それが今のイサミという冒険者であった。

 

「それに使命を果たすため、俺には力が与えられていた。

 どんな願いでも叶える、たとえば24階層から18階層へ冒険者20人を救い出すような――そんな力を一日に二回使えた」

「・・・そりゃ、何でもやりたいほうだいだな」

 

 どう反応していいかわからない、そう言う表情でシャーナが相づちを打つ。

 頷き、イサミが話を続けた。

 

「毎日二回、"願いの呪文(ウィッシュ)"で自分を少しずつ強化し、体を鍛えて、本を読んで。

 弓が持てるようになったら狩りのふりをして山に入って狼や熊、時にはゴブリンと戦って実戦訓練を積んで・・・

 でも結局、どこか真剣味というか、命のやりとりというリアルを感じてなかった気もします」

狩猟(ゲーム)のようにか?」

遊戯(ゲーム)のようにです」

 

 打てば響くようにイサミが答える。

 

「迷宮に来てからも・・・打たれ強さは念入りに強化してたから、どんな傷を負っても命の危険は感じなかった。

 だから魔法を駆使すればもうどんな状況でも対応できると思ってたし、殺害の予言にも現実味を感じてなかったかもしれません」

「・・・だが、あの女に出会っちまった・・・か?」

「はい」

 

 憂鬱そうにイサミが頷く。

 

「ただの敵なら逃げればいい・・・だが、あいつはベルを狙ってる。

 もし今回みたいな事があったら、俺はあいつを守りきれないかもしれない。

 そう考えると・・・」

「・・・」

 

 ベッドの上で片膝を抱えるイサミ。

 シャーナはため息をついて、頭をボリボリとかき回す。

 

「よしわかった! 飲もう!」

「おいおっさん」

 

 イサミのジト目にもシャーナはひるまない。

 

「考えたってどうにもならねえ事はどうにもならねえよ。

 そんな時はな、酒飲んで寝ろ! 頭を切り換えればどうにかなることもある!」

「・・・・・・」

 

 そういやサンマ傷の眼帯海賊がそんなことを言っていたような、と薄れつつある前世の記憶を呼び起こすイサミ。

 

「酒が嫌なら女だ! いきつけの伎廊(みせ)があんだよ! 美人揃いでサービスもいい!」

「酒でお願いします」

 

 真顔で即答するイサミに、シャーナが破顔一笑。

 

「そうと決まれば、そら、行くぞ!」

「うぉっ!?」

「朝まで開いてる酒場を知ってるんだ! いい酒出すところだぞ!」

 

 イサミの腕を掴み、強引に引きずるシャーナ。

 ステイタスが違いすぎて、シャーナがその気になったらイサミでは止められない。

 "自由移動の指輪"の魔力を使えば逃れるのはたやすいことだが・・・

 

(ま、野暮か)

 

 腕を引かれるまま、イサミは流されてみることにした。

 

 

 

「うぐぇぇぇぇぇっぷ!」

「ぎゃあああぁぁぁぁっ?! 何でおぶってるときに吐くんです!

 解毒の呪文要らないって、無くても大丈夫だって言ったじゃないですか!?」

「す、すまん・・・オロロロロロ・・・」

「うわあああああ!?」

 

 その後、盛大に後悔する事になったが。

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