ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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8-4 ファミリアの休日(ただし主神を除く)

 翌朝。

 上級冒険者のレベルで考えても盛大に飲みまくったシャーナを、昨夜の恨みも込みで無理矢理叩き起こしていつも通りベルの特訓に付き合わせる。

 

 最近朝食は英雄定食、もといドラゴンマークの"英雄の饗宴(ヒーローズ・フィースト)"に切り替えたので、イサミは朝食の準備をすることもなく、のんびりと呪文書をめくっていた。

 "英雄の饗宴(ヒーローズ・フィースト)"呪文で出した食事なら病気を癒し、さらには12時間の間、毒と恐怖に対する完全耐性や魔法の打たれ強さなどを得ることが出来るからだ。

 なお夕食は今まで通りイサミの手製である。

 

 階段から足音が聞こえ、イサミは呪文書を置いてヘスティアを起こしに向かった。

 ヘスティアが顔を洗い、ベルとシャーナがシャワーを浴びれば、後はイサミがちょっと精神集中するだけで朝食の準備は完了する。

 主夫としてはありがたい限りであった。

 

 

 

 ちなみに昨夜のステイタス更新の結果、それなりにイサミのステイタスが上昇していた。特に耐久と魔力は1段階上昇している。

 おそらくフードの女及びビホルダー達と戦った時の経験値(エクセリア)だ。

 

 ランクアップはしなかったがそれはしょうがない。

 魔力だけはちびちびと地味に伸びているものの、それでも評価値F。

 ランクアップの目安である評価値Dにはまだ届いていない。

 

 ウダイオスと一騎打ちをしてレベルを上げたアイズにしろ、それまでにある程度偉業は積み重ねていたのだ。

 そう簡単に器を昇華させられるなら苦労はない。

 多少なりとも偉業経験値が入ったことでよしとすべきであろう。

 

 

 

「・・・・・・」

 

 毎度のごとく抵抗するヘスティアをどうにか起こして居間に戻ったイサミの眉が、いぶかしげにひそめられた。

 特訓を終えて降りて来たとおぼしきベルが、開いたままの呪文書を食い入るように眺めていたのだ。

 

「あ、ごめん、兄さん。今シャワー浴びちゃうから・・・」

「いや・・・そうじゃない。呪文書(それ)、わかるのか?」

「え? いや、難しくてよくは・・・」

「ちょっと待て」

 

 言いつつ、イサミは自分の"ヒューワードの便利な背負い袋(ヒューワーズ・ハンディ・ハヴァサック)"から、一番低レベルの部類の呪文が載っている呪文書を引っ張り出し、慌ただしくそれをめくる。

 

「これだ。これならわかるか?」

「えーと・・・うん、わかるよ! この『マジック・ミサイル』って、兄さんが使ってた奴だよね!」

「・・・!」

 

 今度こそ、イサミは驚愕に目を見張った。

 ウィザードの呪文書は高度な術式記述の塊だ。秘術使いでない人間には読み解けない。

 アルファベットも知らない人間に、プログラミング言語を理解出来るわけがないのだ。

 

「じゃあベル、こっちのページは・・・」

「ええと・・・」

「・・・サポーターくん。ベルくん達は何をやってるんだい?」

「さあ・・・リリにもさっぱりです」

 

 起きてきたヘスティアとリリの前で、呪文書を挟んだ二人の会話はしばらく続いた。

 

 

 

「うーむ・・・わからん。お前、これを誰かから習ったわけじゃないよな?」

「兄さんが読んでるのを横から覗いたことはあるけど、その時はちんぷんかんぷんで・・・今日見たら突然わかるように・・・」

「うーむ」

 

 朝食の後も調査は続いていた。

 普段ならとっくに迷宮に出ている時間になり、ヘスティアもバイトに出かけてしまっている。

 

「しかし、そろそろ皆様迷宮に出ませんと・・・」

「いや、いいんじゃねえか? 俺たちもベルも、昨日は色々あったし、ついでだから今日は骨休みをするってのはどうよ」

「あー・・・まあ、それもいいかもな。ベルはどうだ?」

「うーん、言われてみれば確かに疲れてる・・・かな?」

 

 短い話し合いの結果、ベルとリリはリリの家具を買って回ることになり、シャーナは一人で外出、イサミはホームで調べ物をすることになった。

 

「イサミ様だけ放っておいてよろしかったのでしょうか?」

「いや・・・ありゃ、テコでも動かねえだろ」

「ですね」

 

 肩をすくめるシャーナの言葉に、苦笑しつつ弟が頷く。

 

「それよりそっちは手伝い要らないのか? リリのベッドやら何やらかさばるだろ」

 

 正式にヘスティア・ファミリア入りしたことにより、リリもこのホームに住むことになっている。

 本人は遠慮したが、ヘスティアが強引に決めた。

 昨夜イサミが作ったベッドや寝具は永続しないので、今日明日のうちに買い物に行く必要があった。

 

「まあ、それくらいなら僕一人で・・・」

「リリも重い荷物は慣れてますので、お心遣いだけ頂戴いたします」

「そか。んじゃ、お先」

 

 頷くと、シャーナはぺたぺたと足音を立てて階段を上っていった。

 

 

 

 サンダルの足音をぺたぺたと鳴らしながら、ティオナ・ヒリュテは仏頂面で交易エリアをうろついていた。

 武器を新調したら姉に怒られて、マーケットでの廃品処理を命じられてしまったのだ。

 たった九千万ヴァリス、日本円で九億円程度の借金なのに。

 

「まー、来るだけなら楽しいんだけどねー」

 

 オラリオ西南西、第六区画の大半を占める市場には珍しい海産物や果物、あるいは異国の武具などが所狭しと並び、島国や砂漠など、一見して外国からとわかる服装の商人や旅人達がひしめいている。

 第四区画の歓楽街と並び、オラリオでも特に異国情緒の強い場所だ。

 

「よっしゃ、やってやるぞー!」

 

 その更に西南の方、素人向けの蚤の市の広がる区画に外套を敷き、ティオナは気合いを入れて売り子を始めた。

 

 

 

「おい、モルド! 見ろよこれ! 上物のブロードソードだぜ! 掘り出しもんだ!」

「おお、こんな蚤の市にも足を運んでみるもんだぜ・・・って、げぇ、【大切断(アマゾン)】?!」

「ちょっと、何で逃げるのさー!?」

 

 一目散に遁走する第三級冒険者らしき男達に文句を浴びせてみるも、それで客が戻ってくるわけでもない。

 ティオナの店は、先ほどから大体このような状況であった。

 

「場所が悪いのかなー・・・それとも私も呼び込みとかした方がいいのかなー・・・」

 

 とは言え、その程度でどうにかなるようなら苦労はない。

 結局ティオナは荷物を巨大なバックパックに詰め直し、場所を移動することにした。

 

「蚤の市の方でも色んなもの売ってるなー」

 

 自家製のジャムに趣味で描いたと思われる絵画や工芸品。獣の爪や牙を迷宮のドロップアイテムと称して売っているインチキ店すらある。

 

「あ・・・」

 

 思わず足を止めたのは本を売る屋台の前だった。

 難しそうな哲学書や薬学書に混じって、懐かしい冒険譚のタイトル――『理想郷譚(アルカディア)』に自然と手が伸びる。

 

「「あっ」」

 

 思わず声が漏れた。

 伸ばした手が別の手とぶつかり、互いに手を引っ込める。

 

「あっ、すいません! ぼ、僕、お金ないのでどうぞ・・・!」

「あ、うん・・・」

 

 そう言って本を譲ろうとする目の前の人物を、ティオナはまじまじと見つめた。

 おそらくは冒険者、自分より年下の少年であろう。

 

 あろう、というのは普段着の上からがっしりした漆黒の完全兜を装着しているからだ。

 兜は口元が見えるのみで、頭部のそれ以外の部分が全く露出していない。

 春も半ばを過ぎて暑くなりつつあるこの季節、奇天烈なことおびただしい。

 

「・・・暑くない?」

「その・・・取れないんです、これ」

「は?」

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