ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
「ふぬぬぬぬぬ!」
「あいだだだだだだだ!?」
なんでも、露天でかぶってみたら取れなくなったということらしい。
第一級冒険者の腕力でも外れない――少年の首の方が先にちぎれかけた――兜に、ティオナは目を見開いて叫ぶ。
「これ呪いのアイテムだよ! 絶対呪詛がかかってるって!」
「え、ええっ?!」
情けない声を上げる少年。
「久々に見たなー、この手のアイテム・・・他に何か変な呪いはかかってない?」
「え・・・は、はい。実は、視界に映る人がみんな別人みたいに見えて・・・連れの小人族の女の子は、人間族の女の子に・・・」
「あの露店の店主さん、エルフだけど・・・」
「エルフなんですか? 体格のいい獣人の男性に見えます・・・」
うーむ、と腕を組んで唸るティオナ。
「あ、それじゃ私はどうかな?」
「あ、その・・・華奢でおしとやかなエルフの女の子に・・・」
「エルフ・・・あたしが? ぷっ・・・あはははははは!」
余りと言えば余りの変貌?ぶりに、ティオナの大笑いはしばらく止まらなかった。
「あの、これどうやれば取れるんでしょうか・・・」
「んー、
「あ、なら兄さんが解けると思います。兄さん、腕のいい
「そうなの? すごいじゃん! ・・・あ。
ひょっとして君、"
「へ? いやまあ、美丈夫・・・なのかな?」
戸惑う少年にぬふふ、と怪しい笑みを浮かべて完全兜の耳元に口を近づける。
「アイズのひ・ざ・ま・く・ら♪」
「・・・っ?!」
その一言で、いきなり少年が挙動不審になる。
おそらく何度か見たように、兜の下の顔を真っ赤にしてあたふたしているのであろうと思うと、自然と笑みがこぼれた。
「ひょ、ひょっとしてロキ・ファミリアのひとですか?!」
「あたりー。私はねー・・・」
そこまで言ったところでちょっとしたいたずら心がティオナに芽生える。
普段は「げえ!」などと恐れられる自分が、せっかくばれていないのだ。
「私は・・・エルナだよ」
「それ、もしかしてさっきの・・・」
「あはは、わかる?」
『
「やっぱり君もおとぎ話、好きなんだ?」
「はい、祖父や兄によく読んで貰ってて・・・エルナさんは?」
「私は昔闘技場にいてさー。その中で見つけちゃったのが英雄譚の本だったんだよねー。
それではまって集めるようになって・・・ねえねえ、騎士ガラードが助けようとする人の名前は?」
「王女アルティス様?」
「竜殺しのジェルジオが倒した怪物のすみかは?」
「シレイナ湖畔ですね」
「じゃあじゃあじゃあ、その時に竜を倒した武器は?」
「槍と見まごう聖剣と、乙女のリボン」
「すごいすごいすごーい!」
ベルの知識の深さにはしゃぐティオナ。
このまま別れるのが惜しくなった彼女は、ある提案をする。
「それじゃあさ、君の連れの子探して上げるから、それまで私のこと手伝ってよ!
この荷物、売らないといけないんだ!」
「え・・・まあ、いいですよ。僕も今日はお休みですし」
少年の返事を聞いて、ティオナは満面の笑みを浮かべる。
「オッケー! 君の連れってどんな子?」
「小人族の女の子で、エルナさんと同じくらいのバックパックを背負ってます」
「へー。力持ちだねえ。それでさっきの『
「いいですよね! 何度失敗しても諦めずにアルカディアを探す所なんて・・・」
結局二人は商売などそっちのけで、リリに見つけられるまで英雄譚の話題に花を咲かせたのであった。
「・・・で、リリを放っておいて、お二方は楽しくご歓談というわけですか」
「ゴメンナサイ」
「スイマセンデシタ」
腕を組んで仁王立ちするリリの前で、何故か地べたに正座する二人。
「ええ、ええ、リリは怒ってはおりませんとも。
ただ、あからさまな呪いのアイテムを装備してしまい、連れともはぐれたベル様が、どれほどお心細くていらっしゃるかと思ったら、事もあろうに可愛いアマゾネスのお嬢様と話を弾ませていらっしゃったと。
どれほど力が抜けたかおわかりになりますか、ベル様」
「あ、あのー・・・」
「なんですか、エルナ様?」
「話に付き合わせちゃった私が悪いわけだし、"
それって僕のこと? と首をかしげるベルをよそに、上目遣いでリリを見上げるティオナと、ため息をつくリリ。
「わかりました。それではエルナ様に免じてこれ以上は申し上げませんっ。
ほら、ホームに戻ってイサミ様に解呪して頂きましょう。
いつまでもそんなものをかぶってるわけにはいきません」
「そ、それなんだけど・・・エルナさんの荷物の処理、手伝って上げられないかな?」
「は?」
「え? 悪いよ、サポーターちゃんとも会えたんだし・・・」
「でも約束しちゃったし・・・ねえリリ、どうにかならないかな?」
兜の下で超お人好し顔をしているのだろうと容易に察しがついて、先ほどに勝る重いため息をつくリリ。
そのお人好しに自分も助けられた事を考えると、無碍に突き放すことはできなかった。
夕刻、ヘスティア・ファミリア。
「そいつは災難だったな」
わはは、と手酌で一杯やりながら笑うのはシャーナ。
くだんの完全兜は既に解呪され、今はヘスティアとシャーナのおもちゃになっている。
「うわー、本当だ! ベルくんが虎人に見えるよ! イサミ君は兎人だ! 兄弟逆さまじゃないか、これ?」
「ヘスティア様はそう見えるんですか。俺はベルがドワーフでイサミが小人族に見えましたねぇ」
「二人とも、呪いのアイテムで余り遊ばないよーに。後遺症が出ないとも限らないんですからね」
「うんうん、わかってるわかってる・・・これ、明日バイト先に持って行ったらまずいかなあ」
「か・み・さ・ま!」
さっきから"
「まあ、そう言わずにイサミ君もかぶってみなよ。面白いぜ?」
「あいにくそのサイズだと頭が入りませんので」
「ああ、たしかにそりゃそうか。あはははは!」
「だーっはっはっは!」
何が面白いのか、シャーナと一緒に大笑いする紐女神。
それを横目で見やってイサミはため息をついた。
「・・・まぁ話を聞かない奴らはほっとこう。ベル、明日いくつかマジックアイテム渡すから、迷宮の中でちょっと使ってみてくれ」
「え? 魔道具の実験って事?」
「むしろお前の実験だな。アイテムをどこまで使えるかって話だ」
D&Dのアイテムには、特定のクラスしか使えないものがいくつかある。
〈魔法装置使用〉技能という裏技はあるが、これらは基本
魔術師の呪文書を読み解けるベルが魔術師のアイテムを使えるとするなら、イサミとしても弟を守る手段の幅が増えることになる。もちろん、ベルの能力がどれほどのものかという好奇心もあったが。
「あ、そうだ、兄さん。
エイナさんが、ちょっと来て欲しいって言ってたよ」
「エイナさんが? 何かお叱りかな。随分行ってないし」
「そんな様子じゃなかったと思うけど・・・なるべく早く来てってさ」
「ん」
頷いて、イサミはとりあえず明日持たせるアイテムの選別に頭を切り換えた。