ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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8-7 放課後職員室(ギルド)に来なさい

 時間は戻って夕方。

 アイズがベルを襲撃するしばらく前くらい。

 イサミは、ひとりギルド本部を訪れていた。

 

「こんにちはー。来ましたよー」

「悪いわね、わざわざ来て貰って・・・ボックスの方に行きましょう。少し待っててね」

 

 珍しく硬い表情のエイナにこれは何かやっかい事かと眉をしかめつつ、イサミ達は面談用のボックス室に入った。

 しばらく待つとエイナがどこかで見たようなドワーフと入って来た。

 

「お待たせ」

「いえいえ。あれ、そっちの人は確か・・・」

「アルヴィースだ。冒険者管理業務課の課長・・・まあ、嬢ちゃんの上司の上司と言った所だな」

 

 怪物祭りの時に、西のゲートの責任者をしていたドワーフである。

 

「あー、あの怪物祭りの後な、色々と調べさせてもらったんだ。

 おまえさん、Lv.1でソロでやってるらしいが・・・魔石鑑定部の連中にちょいと当たってみたら深層クラスの魔石を、それも毎日大量に持ち込んでるらしいじゃないか」

 

 怪物祭りの時、彼やエイナを含む数人の職員にはレベル2モンスター、トロルを魔法で一撃のもとに倒したのを見られている。

 偽装用の幻影魔法円(マジックサークル)を展開するところもだ。

 

 ギルドにはLv.1で申請しているので、彼らが怪しむのも当然である。

 実際まだLv.1ではあるのだが、オラリオの常識からして信じられないのも無理はない。

 

「魔法円を展開しているのも見ちまったし、トロルを一撃で倒すのも見ちまった。

 その、なんだ、怪物祭の時はおかげでけが人もほとんど出なかったし、感謝してるんだ。

 だが実のところ、ギルドの上の方ではレベル詐称じゃないかって問題になっててな。

 できれば大ごとにはしたくないんだが・・・」

 

 済まなそうにイサミの巨体を見上げるアルヴィース。

 一方イサミとしては来るものが来たか、という心持ちであった。

 

 ギルドの魔石鑑定士はその道のプロだ。

 魔石のサイズと質を見れば、大体どのあたりの階層のものかはわかる。

 魔石を収入にしている以上、今回のようなことが起きるのは避けられない事だったと言える。

 

 とはいえ、まだオラリオに来て一月余り。こんなにも早くギルドに睨まれるとは思わなかった。

 

(ちっと目立ち過ぎたかなあ)

 

 ため息をついて、頭をボリボリとかいた。

 

「あー、まあ、おっしゃるとおり、俺は深層をうろついて稼いでます。ただレベル1ってのは嘘じゃないですよ」

「んじゃあれか、誰かレベルの高いのと組んでるってのか?

 最近おたくのファミリアに入った、シャーナ・ダーサってのとか・・・にしたって、おまえさんがレベル1てのはねえだろ」

 

 あからさまに疑っている様子のアルヴィース。

 まあトロルを瞬殺した所を実際に見ているのだ、疑いたくもなる。

 

「嘘じゃありませんよ。何なら背中のステイタスを見て貰ってもいい。

 エイナさんにだけ、と言う条件はつけさせて貰いますが」

「む・・・」

 

 そこまで言われるとアルヴィースも口ごもらざるを得ない。

 ファミリアにとって秘中の秘である構成員のステイタス。

 とあるファミリアにステイタスの開示を命じた結果ギルドが多額の賠償金を支払った件は、まだ職員の間で記憶に新しい。

 

「うーむ、このまま放置は出来ん問題ではあるしなあ。チュール、悪いが確かめて来てくれるか?」

「・・・わかりました」

 

 戸惑いながらも、エイナが頷く。

 そして一度エイナと共にホームに戻り、ヘスティアの帰宅を待ってステイタスを確認して貰ったのだが・・・結果は当然、イサミの言うとおりであった。

 

 ベルに色目をどうのこうのとエイナが釘を刺されつつ、イサミ達はギルド本部にとんぼ返りする。

 裏路地を歩きながら、エイナが口を開いた。

 

「本当にレベル1だったのね。じゃあ、深層に潜っているって言うのも本当?」

「本当ですよ。でも、それを正直に言ったら信じてくれました?」

「・・・そうね。本当は何階層まで行ってるの?」

「47階層です」

「47階層ー?!」

 

 耐えきれず、今度こそエイナが吹き出した。

 

 

 

 時間は元に戻って、夕食後のヘスティア・ファミリア。

 ベルが皿を洗っている間にヘスティアが身を乗り出し、イサミに耳打ちをしてくる。

 

「そう言えばイサミくん、あのギルド職員の件はどうなったんだい?

 何かごたごたに巻き込まれそうな気がするんだが・・・」

「とりあえずは保留って事にして貰えました。後でまた、今度は俺の能力自体を調べたいという依頼があるかもしれない、とは言ってましたが」

 

 普通なら往復に数日かかるような階層の魔石を毎日、それも大量に持ち込んでくるのである。迷宮から上がる利益で運営されているギルドとしては、そこに何らかの秘密があるなら知りたいと思うのが当然であった。

 

 とは言え、先ほど述べたようにファミリア構成員のステイタスはギルドもおいそれと手を出せない領域。どうなるかはわからないが、すぐに結論が出ると言う事はないだろう、というのがアルヴィースの言だった。

 

「魔法の件についてはエイナさんも口をつぐんでくれると約束してくれましたから、今のところ問題なのはファミリアのランクが上がって税金が増えるくらいですね。

 ただどっちにしろ、その内また面倒が起こりそうではあります」

「うーん」

 

 腕を組んで天を仰ぐ紐女神。

 イサミが黙って茶をすすった。

 

 

 

 翌朝、まだ夜も明けない時間からアイズとベルの特訓は始まった。

 既にレベル1の限界を突破しつつあるベルのステイタスと、シャーナから叩き込まれた身のこなしにアイズが目を見張ったことは言うまでもない。

 

 更にその翌日レフィーヤがベルを追いかけ回し、自分にも特訓を付けてくれるようアイズに可愛い脅迫をしたのはささやかな余談であるが、ささやかで済まない余波もあった。

 

 

 

 薄暗い室内。

 迷宮直上、バベルの最上階。美の女神フレイヤの座する玉座。

 

「あの子、見違えたわ。ステイタスがどうこうじゃないの。

 あの子の輝きはいっそう鮮やかになった――器が洗練されたようにも見える」

 

 手の中のワイングラスを転がす女神。

 若い白ワインに、誰かの面影を重ねるように。

 

「でも一つだけ、輝きを邪魔するよどみがある・・・オッタル、あなたはわかる?」

「因縁かと」

 

 部屋の隅、直立不動で立っていた猪人の従者が短く答えた。

 

「因縁?」

「はい、フレイヤ様がお話しくださったあの者の因縁・・・過去の汚点が刺となり魂を苛んでいるのでは無かろうかと・・・」

 

 フレイヤ自身詳しいことは知らないが、かの少年がミノタウロスに手ひどい惨敗を喫したことは疑いようがない。

 

「つまり、トラウマ・・・ならばその茨を取り除くには・・・」

「因縁たる過去と決別するならば、おのれの手でそれを取り除く以外にありますまい」

「さしものあなたもそうだったのかしら、オッタル?」

「男はみな、轍を踏む生き物ではないかと愚考いたします」

 

 くすり、とフレイヤが笑みをこぼす。

 

「あの子はもう、私が手を出さずとも強くなる・・・でも一つ気になる事があるの」

「時間がかかりすぎる・・・ということですか?」

「いいえ。私以外に、あの子を狙っている者がいる。それのことよ」

 

 怪物祭でのキャリオンクロウラーのことだ。

 フレイヤの勘は、その後ろに潜むフードの女の存在を明確に捉えていた。

 

「であるならば、強引にでも庇護下に置いてしまうのがよろしいかと存じますが」

「・・・それも思惑に乗るようで嫌なのよね。それに、身の安全は頼りになるお兄さんがいればどうにかなるでしょうし」

「噂は聞いております。魔導士でありながら、単身深層にまで到達する腕利きとか・・・では、時計の針を進めるのはいかがでしょう」

「時計の針?」

 

 フレイヤの視線がオッタルの方を向く。

 

「こちらでかの者に試練を与え、成長を促進するのです」

「自分で自分を守れる力を育てるということ?」

「それもありますが、輝きを引き出すのであれば、試練を乗り越える以上のものはありますまい。収穫が早くなれば、ちょっかいを出されることもございますまいし・・・何より、冒険をせぬものに、自分の殻は破れぬ道理かと」

「ふぅん・・・」

 

 妖艶な流し目を、フレイヤはおのれの従者に送る。

 

「何か?」

「その試練、あなたに任せるわ」

「・・・どのような風の吹き回しで?」

「だって、私よりあの子のことをわかっているんだもの・・・嫉妬しちゃうくらいに」

 

 そう言うと、瞳を細めて、美の女神は妖麗に笑った。

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