ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
9-1 フリュネさん無礼帖
『ぶう』
―― 『外谷さん無礼帖』 ――
「ゲーッゲッゲッゲ。見つけたよぉ」
べろり、と巨大な舌が革紐のような分厚い唇を舐める。
「フリュネ・ジャミール・・・」
「おや、知ってくれておいでだったかい。嬉しいねえ」
フリュネの唇がまくれあがり、気の弱いものなら失神しそうな笑顔を作る。
イシュタル・ファミリア団長、"
レベル5、迷宮都市全体で見ても屈指のつわものだ。
だがそれでも、イサミは目の前の侵入者がフリュネであることに奇妙な安堵を覚えていた。
それがあのフードの女への恐怖心の裏返しであることに、うすうす気づきつつ。
「それで、フリュネ・ジャミール氏。何のご用でしょうか?」
「ゲゲゲゲゲッ。つれないねえ。あんたに決まってるじゃないかぁ。
――うん、改めて見ると悪くない。いや、上物だよォ! アタイの鼻も捨てたもんじゃないねぇ?」
顔の端から端まで裂けた口でにばぁっと笑う。
顔を引きつらせないよう、イサミは必死で感情を押さえ込む。
「そう言うわけだから、お嬢ちゃんはいい子で寝てなァ。ここからは大人の時間さ」
「・・・」
絶句していたシャーナの顔が愉快な感じにひきつった。
「それで・・・どうやってここを突き止めたんですか? まさかとは思いますけど・・・」
「言っただろう、鼻だよォ。迷宮の中で、若い男の香りをかぎつけてねえ・・・辿って来たらドンピシャってわけさァ!」
(獣かお前は!)
奇しくも、後にロキ・ファミリア団長が抱くのと同じ感想を、イサミもこの時共有した。
ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~
第九話「キャラモン・マジェーレを性転換すると、身長2mの桜橋涼香になる」
「なんだなんだなんだ・・・・うわっ?!」
「うわぁぁっ!?」
「な・・・何ですかあれは・・・!?」
シャーナやイサミからやや遅れて、ベルやヘスティアたちも飛び出して来た。
その体が一様に固まり、侵入してきた巨大な肉の塊を凝視する。
背後のそれを感知しつつ、イサミは目の前の妖物から目を放さない。
「それで・・・俺に何のご用で?」
「何だ。わからないのかい? ウブだねえ。それともカマトトぶってるのかい?
まあ、どっちでもいいけどさ。ゲーッゲッゲッゲ」
巨大な眼が細められ、イサミに流し目を送る。
ぞぞぞぞっと走る悪寒に耐え、イサミは必死に頭を回転させる。
(明らかにこいつは本気だ。俺以外の目的はない・・・となれば)
「お、おい、イサミ?」
シャーナが戸惑う。じりじり、とイサミが後退した。
笑みを大きくして、その分だけフリュネがにじり寄る。
「怖がらなくてもいいさぁ。たっぷりとかわいがってやるよォ」
「・・・シャーナさんはここで待機していて下さい。万が一の時は神様達をお願いします」
「お、おい、イサミくん?」
脂汗を浮かべながら、イサミが更に下がり、フリュネが更に近づく。
イサミが壁際にまで下がり、フリュネが居間の半ばにまで達したとき――イサミが動いた。
前傾姿勢になり、全力でフリュネの脇を駆け抜けようとする。
「イサミ!」
「トロいよぉ!」
鋭く、そして破壊力に満ち満ちたフリュネの右拳が、イサミのこめかみにクリーンヒットする。
「ぐっ!」
「ぬォ!?」
が、僅かにバランスを崩しただけで、イサミはそのまま走り抜ける。
鋼鉄の盾をへこませる拳をこめかみに受けて崩れ落ちないイサミに、フリュネが驚きのまなざしを投げた。
フリュネの傍らを走り抜けたイサミは、そのままフリュネの背後の階段に駆け込む。
後ろでフリュネが振り向く気配。
足下のガレキに足を取られないように注意しつつ、数歩で地上、教会内部に飛び出す。
僅かに遅れて、巨大なカエルがその後を追って地上に現れた。
この世界と、通常のD&D世界との間には様々な差異がある。
最たるものは「恩恵」によるステイタスの上昇だが、それ以外にも魔法の形態や《特技》と《拡張アビリティ》、ポーションの効果、マジックアイテムの種類や製作方法などさまざまだ。
そしてこの世界の常識に比して、D&D世界が優れていることの一つに移動能力がある。
攻撃力や回避力などと異なり、この世界では特殊なスキルや敏捷のステイタスを伸ばす以外に方法のない移動速度の上昇が、D&Dの魔法やマジックアイテムを使えば比較的たやすく強化できる。
飛行・水中移動・地中移動能力などを付与できる事を考えれば、その差は更に開く。
「うおおおおお、
"移動迅速《エクスペディシャス・リトリート》"呪文、素早さの領域特典、《早足》や《思考のごとき早さ》特技、"
今のイサミにはレベル2相当のステイタスによるものに加え、《特技》と魔法、
それらを全て合わせたイサミの足は、レベル5ではあっても自らのステイタスに頼るしかないフリュネのそれを遥かに上回っていた。
なお《
夜の街を走るイサミと"
見る間に開く差を見て、フリュネの目が信じられないと言ったように見開かれる。
イサミには疲労を防ぐ《特技》もある。
このまま持久力勝負になったとしても、十分以上に渡り合えるはずであった。
(だが、このままじゃにっちもさっちも行かない!)
怪物祭でシルバーパックに追われたベル達と同じである。
たとえ引き離したとしても、相手に非常識なタフネスと鋭敏な嗅覚がある限り、決してまくことは出来ない。
いや、イサミの場合は呪文を使ってまくこと自体はできなくもない。
だがホームを知られてしまった以上、フリュネ本人をどうにかしなければ問題解決にはならないのだ。
十分距離が開いたところで足を止め、振り向く。
フリュネが近づいてくる間に、ドラゴンマークを使ってシャーナに
今、ホームではシャーナがいきなりの緊急メッセージを受け、目を白黒させていることだろう。
フリュネが足をゆるめ、ゆっくりと近づいて来た。
「ゲゲゲゲゲッ、驚いたよォ。足が速いじゃないかァ」
「おかげさまでタフなのと足の速さには自信があってね」
「タフなのはいいねぇ。ベッドの中では特にだよぉ」
ウナギのような舌がべろり、と唇を舐めた。
再びイサミの背に悪寒が走る。
深夜の裏町に人影はない。
いっそこの場で息の根を止め、"
「一つ聞きたいんですが、いつもこのように男を口説いてるので?
よそのファミリアのホームまで押し入るのは普通とは思えませんが」
「ゲッゲッゲ、弱小ファミリアの事なんざ知ったこっちゃないねえ。
アタシをどうこうしたいなら、もうちっとでかいファミリアに入るこった」
フリュネについては、イサミも"
時折、美形の男を無理矢理ベッドに連れ込んでは、薬で無理矢理興奮させて、廃人になるまで搾り取る。
フリュネの口調からして、他のファミリアに属する冒険者もしばしばその犠牲になってきたのだろう。
確かにLv5のフリュネと、Aランクの大派閥であるイシュタル・ファミリアを向こうに回せるファミリアというのは、オラリオ中を探してもそうはあるまい。
多くのファミリアが泣き寝入りを強いられてきたことは想像に難くなかった。
「・・・素朴な疑問なんですけど、無理矢理男として楽しいですか?」
「ゲゲゲゲゲッ! これだからお子様はわかってないねえ。
いいかい、見ての通りアタシは世界一美しいんだよ? それこそイシュタル様よりも、フレイヤよりもねえ・・・
だったら、いい男はすべからくアタシに奉仕しなくちゃいけないはずだァ。違うかい?」
本気で言っているようにしか聞こえない、フリュネの言葉。
しかし、魔法と《特技》で限界以上に〈真意看破〉技能を強化したイサミは僅かな違和感を感じている。
だがその違和感の正体を考えるより前に、イサミの人間離れした聴覚はある叫びを捉えていた。
おそらくは西方、2kmほど先、オラリオの城壁の近く。イサミの聴覚でギリギリ聞き取れるレベルだ。
「お話はそれだけかい? じゃあそろそろ・・・」
「悪いけど用事が出来た。またな!」
短く唱えるのは"
短距離瞬間移動の呪文だが、当然、今まで何度も試したように転移効果は発動しない。
しかし、呪文自体は発動している。
そこがイサミの狙いだった。
「ぬゥ!?」
突然、イサミとフリュネの間に渦巻く黒煙が現れた。
さしわたし3mほどの黒雲は、フリュネの視界から完全にイサミの姿を隠す。
特技《
空間転移や魔物召喚など、召喚術に属する術に副作用として嘔吐性の黒煙を発生させる特技だ。
そしてイサミは本命の呪文を発動する。
「《高速化》"
突進したフリュネが黒煙を突っ切ったとき、イサミの姿も、足音も、残り香すらそこにはなかった。
新沢靖臣をいじめるとすずねえのお姉ちゃんパンチが飛んでくる。
レイストリンをいじめるとキャラモンのお兄ちゃんパンチが飛んでくる。
これは同一人物ですね!(ぉ
ちなみに
わりとマジで。