ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
"上位透明化"で姿を隠したイサミが深夜の街路を駆ける。
フリュネに急襲されておっとり刀で飛び出してきたイサミは"
常人に比べれば早いが、イサミの走る速度に比べれば1/4程度のものでしかない。
地上を走る方がよほど早かった。
なお最大速度"
素のアイズが一回り遅いくらいである。
閑話休題。
市の城壁がぐんぐんと大きくなる。
一分程全力疾走すると、音がよりはっきり聞こえてくる。
下町とはいえ本来このような町中では聞こえるはずのない音・・・冒険者とモンスターの戦いの音であった。
(何なのです? こいつらは!)
アスフィ・アル・アンドロメダは焦っていた。
"
全身にトゲの生えた、ハリネズミを人型にしたような怪物。
蜘蛛の巣の張り付いた金属鎧の戦士。
サソリの尻尾の生えた骸骨のような何か。
金属鎧を鋲で直接体に固定した巨漢の戦士。体からは絶えず黒い血が流れ落ちている。
幸い、近くで同様の調査をしていた虎人の戦士ファルガーのチームが駆けつけてきてくれたからいいものの、それでも数は十人に満たない。
40を越える、それもレベル3から4相当と思われるモンスターの群れを相手に苦戦は免れなかった。
頼みの透明化の兜も、キラキラしたチリをまき散らされて無効化された。
透明化した全身に金粉がまとわりつき、シルエットがくっきりと浮かび上がってしまったのだ。
しかもきわめて強い火炎耐性があるらしく、魔導士メリルの火炎魔法が全くと言っていい程ダメージを与えていない。
何とか数体は倒したものの、じり貧であった。
(脱出を考えたいところですが、このままでは・・・!)
その瞬間周囲に轟音が響き、冷気と稲妻の混ざり合った数十の柱が立つ。
「GOAAAAAAAAAAAAAAA!」
苦悶の声を上げ、大半の敵が倒れ伏す。
残ったのは刺の怪物と顔のない人間型の怪物、赤い肌の小柄な亜人、合わせて5体。
「お・・・」
「おっ?」
続けてヘルメス・ファミリアの負傷がかなり回復した。
全快という程ではないが、重傷を負った者も軽傷域にまで戻る。
そして街路の脇の家の屋根から2m近い巨体が降ってきた。
猫のように足音も立てずに着地した体術に盗賊のルルネとキークスがうなり、顔を見たアスフィが笑みを浮かべる。
「やはりあなたでしたか。助かりました。イサミ君」
「いえ、気づいて良かった。まぁ話はこいつらを片付けた後で・・・っ!」
イサミが反応した。だが一瞬遅い。
次の瞬間、巨大な肉の弾丸がイサミを吹き飛ばし、地面に叩き付けた。
「ぐっ!?」
反射的に逃れようとするイサミ。
だが圧倒的に相手の方が早い。
馬乗りになった巨体が右手の先から生えた、50cmほどもある赤い爪をイサミの胸に突き込む。
「ぐふっ・・・!」
ガードも間に合わず、胸を串刺しにされる。
口から鮮血が漏れ、イサミは標本のセミのように石畳に縫い止められた。
さすがの「
にたあ、とそいつが笑った。
3mを越す肥満したピンク色の巨体。
ぶくぶくとふくれたツノガエルのような頭、耳まで裂けた口にはびっしりと牙が生えている。
何の冗談か口元には真っ赤な紅を、目元には青いアイシャドウを引いている。
よく見れば爪の赤もマニキュアだ。
「よくも可愛いアタシの部下をヤってくれたわねえっ?! オ・シ・オ・キ・よっ!」
「しゃべった?!」
「というかオカマだっ!」
甲高い男の声とともに右手の爪はそのまま、イサミの顔目がけて左手の爪を突き込む。
「・・・っ!」
血の泡を吹きながら辛うじて腕を交差させ、防ぐ。
両腕を突き抜けた爪が、眼球すれすれにまで迫る。
(この力・・・レベル6モンスタークラスか・・・っ!?)
このモンスターの名前はパエリリオン。高位の
(D&D世界において秩序の悪魔はデヴィル、混沌の悪魔はデーモンと称される)
魔王や準魔王クラスを除けばほぼ最高位の力を誇る種族であり、特殊能力に長け諜報や工作の指揮を執ることが多い。
だがそれは、決して戦闘力に劣っていると言う事ではないのだ。
(くそっ、この前のビホルダーといい、こっちはステイタスが伸びずに悩んでるのに・・・やっぱり魔石・・・ぐっ?!)
イサミの両腕を貫く左手はそのまま、パエリリオンが肺を貫いた右手の爪をぐりぐりと動かす。
イサミの口から、冗談のような量の血がこぼれだした。
「がっ・・・っ!」
「どぉう? イタいでしょ? 魔術師は大変よねえ。イタいと魔法が使えなくなっちゃうんだからっ!」
D&Dの魔法発動には様々なものが必要とされる。
詠唱、身振り、触媒、経験点・・・しかし発声出来なくとも魔法を使う術はあるが、精神集中せずに魔法を使うことだけはできない。
こうして継続してダメージを与えられると、精神集中を乱されるイサミは呪文を発動できない。
むしろ、ショック死していない方がおかしいレベルの苦痛である。
「イサミ君っ!」
「アスフィ! 上だっ!」
「っ!」
危機一髪、先ほどのパエリリオンのように上空から降ってきた
ファルガーの警告が無ければ、今の一撃で倒されていたかもしれなかった。
ねじれ曲がった羊の角にコウモリの翼、尻尾に筋肉質の巨体。
見るからに悪魔らしいこの
「アスフィ・・・くっ!」
援軍を得て、刺のデヴィル二匹とのっぺらぼうのデヴィルがヘルメス・ファミリアに襲いかかった。
皮鎧を着た赤い肌の亜人――こちらももちろんデヴィル――がそれぞれ攻撃呪文と治癒呪文を唱え始める。
「ファルガー、援護は要りません! そちらの指揮をお願いします!」
「くっ・・わかった!」
刺とのっぺらぼうのデヴィル、そして後方の二体もおそらくレベル4相当。
調査と言う事で戦闘専門のメンバーはサブリーダーの虎人ファルガーと、小人族の魔導士メリルしかいない。
一方で目の前のマレブランケの推定レベルは5。
対応できるのはおそらくアスフィとファルガーのみ。
ファルガーを向こうから外せばおそらく戦線が保てない。
であればアスフィが一対一で対処するしかなかった。
レベル4の冒険者であるアスフィと、レベル5であろう目の前のモンスターが一対一ならかろうじて互角。
モンスターのレベルは「同レベルの冒険者が倒せる」という基準に基づいて決められているからだ。
メリルが戦力外であるため、ファルガー達は実質六人。六対五だが、ファルガー以外の面々にレベル4モンスターの相手は荷が重い。
パエリリオンをイサミが足止めしてくれているだけ、まだマシだと思うしかなかった。
(すいません、イサミ君・・・!)
申し訳なさを感じつつ、アスフィは短剣を構える。
「
アスフィが魔道具を発動させて天に舞う。有翼の悪魔がその後を追った。
槍の構えから見て、近接戦の技量は間違いなく向こうが上。
足を止めての殴り合いは避け、アスフィのアイテムが有効活用できる機動戦を選択したのだ。
(とは言え、炎が効かないのでは
イサミ君、みんな・・・どうにか持たせてください!)
赤いデヴィルが使った"
祈るように下を見下ろしつつ、アスフィは合い言葉を唱えた。
「!?」
直後、アスフィを狙ったマレブランケの
逆にアスフィの短剣が見当違いな空間を切ると、アスフィとは逆方向の腕が浅く切り裂かれた。
「コレハ・・・ッ!」
"
先日新しい魔道具を見せるついでに、イサミがアスフィにプレゼントしたマジック・アイテムだ。
この外套の魔力を発動させると、使用者の周囲の光がゆがみ、蜃気楼のように実体から60cmほど離れた場所に像が浮かび上がる。
グリッターダストの塵の光ごと屈折させるので、実体の位置を気取られる心配はない。
(感謝しますよ、イサミ君・・・!)
僅か60cm、されど60cm。
形勢は今や逆転していたが、この外套の効果は僅か一分半しか保たない。
急いで決着をつけねばならなかった。
今回登場したデヴィルたちですが、デヴィルの中でも主流のバーテズゥと言う種族でして、彼らはデフォで火炎無効を持っています。
なので、ヘルメスお得意の油+火炎魔法アタックも、アスフィさんのバーストオイルも効かないという、相性最悪の相手。
話はずれますけど、ヘルメスの精鋭15人の中にも火力術者がメリルしかいないあたり、強力な魔法や魔導士って本当に貴重な存在なんでしょうねえ。
ロキ・ファミリアでも、リヴェリアとレフィーヤ以外に一応魔導士はいるみたいですけど、完全モブ扱いですし。
本文中に登場した悪魔ですが、
トゲトゲ=スパインドデビル(スピナゴン)
プレートアーマーを着たやつ=スティールデビル(ブエロザ)※
鋲で鎧を固定してる奴=オルソン※
骨みたいの=ボーンデヴィル(オシュルス)
赤いの=リージョンデビル(メレゴン)※、それぞれウィザードとクレリックのクラス持ち
刺悪魔=バーブドデヴィル(ハマトゥラ)
のっぺらぼう=アサシンデビル(ドガイ)※
です。
基本ルールに乗ってない奴(※印)は、「魔物の書II 九層地獄の支配者」に掲載の奴ですね。