ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

73 / 270
9-2 アクマ(ウェイ)

 "上位透明化"で姿を隠したイサミが深夜の街路を駆ける。

 フリュネに急襲されておっとり刀で飛び出してきたイサミは"飛行の外套(フェニックス・クローク)"を装備していないので、飛行しようとすると"長距離飛行(オーヴァーランド・フライト)"呪文の効果に頼ることになる。

 

 常人に比べれば早いが、イサミの走る速度に比べれば1/4程度のものでしかない。

 地上を走る方がよほど早かった。

 

 なお最大速度"幻馬(ファントム・スティード)"や、【エアリアル】込みのアイズが大体今のイサミの1.5倍。

 素のアイズが一回り遅いくらいである。

 

 閑話休題。

 

 市の城壁がぐんぐんと大きくなる。

 一分程全力疾走すると、音がよりはっきり聞こえてくる。

 下町とはいえ本来このような町中では聞こえるはずのない音・・・冒険者とモンスターの戦いの音であった。

 

 

 

(何なのです? こいつらは!)

 

 アスフィ・アル・アンドロメダは焦っていた。

 "透明化の兜(ハデス・ヘッド)"を用いて怪しい家屋を調査中、奇妙な亜人の集団を見つけた直後に、今まで見た事も無いモンスターと亜人の集団に襲われたのだ。

 

 全身にトゲの生えた、ハリネズミを人型にしたような怪物。

 蜘蛛の巣の張り付いた金属鎧の戦士。

 サソリの尻尾の生えた骸骨のような何か。

 金属鎧を鋲で直接体に固定した巨漢の戦士。体からは絶えず黒い血が流れ落ちている。

 

 幸い、近くで同様の調査をしていた虎人の戦士ファルガーのチームが駆けつけてきてくれたからいいものの、それでも数は十人に満たない。

 40を越える、それもレベル3から4相当と思われるモンスターの群れを相手に苦戦は免れなかった。

 

 頼みの透明化の兜も、キラキラしたチリをまき散らされて無効化された。

 透明化した全身に金粉がまとわりつき、シルエットがくっきりと浮かび上がってしまったのだ。

 

 しかもきわめて強い火炎耐性があるらしく、魔導士メリルの火炎魔法が全くと言っていい程ダメージを与えていない。

 何とか数体は倒したものの、じり貧であった。

 

(脱出を考えたいところですが、このままでは・・・!)

 

 その瞬間周囲に轟音が響き、冷気と稲妻の混ざり合った数十の柱が立つ。

 

「GOAAAAAAAAAAAAAAA!」

 

 苦悶の声を上げ、大半の敵が倒れ伏す。

 残ったのは刺の怪物と顔のない人間型の怪物、赤い肌の小柄な亜人、合わせて5体。

 

「お・・・」

「おっ?」

 

 続けてヘルメス・ファミリアの負傷がかなり回復した。

 全快という程ではないが、重傷を負った者も軽傷域にまで戻る。

 

 そして街路の脇の家の屋根から2m近い巨体が降ってきた。

 猫のように足音も立てずに着地した体術に盗賊のルルネとキークスがうなり、顔を見たアスフィが笑みを浮かべる。

 

「やはりあなたでしたか。助かりました。イサミ君」

「いえ、気づいて良かった。まぁ話はこいつらを片付けた後で・・・っ!」

 

 イサミが反応した。だが一瞬遅い。

 次の瞬間、巨大な肉の弾丸がイサミを吹き飛ばし、地面に叩き付けた。

 

「ぐっ!?」

 

 反射的に逃れようとするイサミ。

 だが圧倒的に相手の方が早い。

 馬乗りになった巨体が右手の先から生えた、50cmほどもある赤い爪をイサミの胸に突き込む。

 

「ぐふっ・・・!」

 

 ガードも間に合わず、胸を串刺しにされる。

 口から鮮血が漏れ、イサミは標本のセミのように石畳に縫い止められた。

 さすがの「自由移動の指輪(リング・オブ・フリーダム・ムーブメント)」も、この状態から脱出することは出来ない。

 

 にたあ、とそいつが笑った。

 3mを越す肥満したピンク色の巨体。

 ぶくぶくとふくれたツノガエルのような頭、耳まで裂けた口にはびっしりと牙が生えている。

 

 何の冗談か口元には真っ赤な紅を、目元には青いアイシャドウを引いている。

 よく見れば爪の赤もマニキュアだ。

 

「よくも可愛いアタシの部下をヤってくれたわねえっ?! オ・シ・オ・キ・よっ!」

「しゃべった?!」

「というかオカマだっ!」

 

 甲高い男の声とともに右手の爪はそのまま、イサミの顔目がけて左手の爪を突き込む。

 

「・・・っ!」

 

 血の泡を吹きながら辛うじて腕を交差させ、防ぐ。

 両腕を突き抜けた爪が、眼球すれすれにまで迫る。

 

(この力・・・レベル6モンスタークラスか・・・っ!?)

 

 このモンスターの名前はパエリリオン。高位の悪魔(デヴィル)だ。

 (D&D世界において秩序の悪魔はデヴィル、混沌の悪魔はデーモンと称される)

 

 魔王や準魔王クラスを除けばほぼ最高位の力を誇る種族であり、特殊能力に長け諜報や工作の指揮を執ることが多い。

 だがそれは、決して戦闘力に劣っていると言う事ではないのだ。

 

(くそっ、この前のビホルダーといい、こっちはステイタスが伸びずに悩んでるのに・・・やっぱり魔石・・・ぐっ?!)

 

 イサミの両腕を貫く左手はそのまま、パエリリオンが肺を貫いた右手の爪をぐりぐりと動かす。

 イサミの口から、冗談のような量の血がこぼれだした。

 

「がっ・・・っ!」

「どぉう? イタいでしょ? 魔術師は大変よねえ。イタいと魔法が使えなくなっちゃうんだからっ!」

 

 D&Dの魔法発動には様々なものが必要とされる。

 詠唱、身振り、触媒、経験点・・・しかし発声出来なくとも魔法を使う術はあるが、精神集中せずに魔法を使うことだけはできない。

 

 こうして継続してダメージを与えられると、精神集中を乱されるイサミは呪文を発動できない。

 むしろ、ショック死していない方がおかしいレベルの苦痛である。

 

「イサミ君っ!」

「アスフィ! 上だっ!」

「っ!」

 

 危機一髪、先ほどのパエリリオンのように上空から降ってきた三叉槍(トライデント)の切っ先がアスフィの髪をかすめる。

 ファルガーの警告が無ければ、今の一撃で倒されていたかもしれなかった。

 

 ねじれ曲がった羊の角にコウモリの翼、尻尾に筋肉質の巨体。

 見るからに悪魔らしいこの悪魔(デヴィル)の名はマレブランケ。戦士の悪魔だ。

 

「アスフィ・・・くっ!」

 

 援軍を得て、刺のデヴィル二匹とのっぺらぼうのデヴィルがヘルメス・ファミリアに襲いかかった。

 皮鎧を着た赤い肌の亜人――こちらももちろんデヴィル――がそれぞれ攻撃呪文と治癒呪文を唱え始める。

 

「ファルガー、援護は要りません! そちらの指揮をお願いします!」

「くっ・・わかった!」

 

 刺とのっぺらぼうのデヴィル、そして後方の二体もおそらくレベル4相当。

 調査と言う事で戦闘専門のメンバーはサブリーダーの虎人ファルガーと、小人族の魔導士メリルしかいない。

 

 一方で目の前のマレブランケの推定レベルは5。

 対応できるのはおそらくアスフィとファルガーのみ。

 

 ファルガーを向こうから外せばおそらく戦線が保てない。

 であればアスフィが一対一で対処するしかなかった。

 

 レベル4の冒険者であるアスフィと、レベル5であろう目の前のモンスターが一対一ならかろうじて互角。

 モンスターのレベルは「同レベルの冒険者が倒せる」という基準に基づいて決められているからだ。

 

 メリルが戦力外であるため、ファルガー達は実質六人。六対五だが、ファルガー以外の面々にレベル4モンスターの相手は荷が重い。

 パエリリオンをイサミが足止めしてくれているだけ、まだマシだと思うしかなかった。

 

(すいません、イサミ君・・・!)

 

 申し訳なさを感じつつ、アスフィは短剣を構える。

 

飛行靴(タラリア)!」

 

 アスフィが魔道具を発動させて天に舞う。有翼の悪魔がその後を追った。

 槍の構えから見て、近接戦の技量は間違いなく向こうが上。

 足を止めての殴り合いは避け、アスフィのアイテムが有効活用できる機動戦を選択したのだ。

 

(とは言え、炎が効かないのでは爆炸薬(バースト・オイル)は使えませんね・・・。

 イサミ君、みんな・・・どうにか持たせてください!)

 

 赤いデヴィルが使った"きらめく塵(グリッターダスト)"の呪文はまだ効果を発揮しており、姿隠しの兜は使えない。

 祈るように下を見下ろしつつ、アスフィは合い言葉を唱えた。

 

「!?」

 

 直後、アスフィを狙ったマレブランケの三叉槍(トライデント)がきらめく塵に覆われたアスフィの体を突き抜ける。

 逆にアスフィの短剣が見当違いな空間を切ると、アスフィとは逆方向の腕が浅く切り裂かれた。

 

「コレハ・・・ッ!」

 

 "光屈折の外套(クローク・オブ・ディスプレイスメント)"。

 先日新しい魔道具を見せるついでに、イサミがアスフィにプレゼントしたマジック・アイテムだ。

 

 この外套の魔力を発動させると、使用者の周囲の光がゆがみ、蜃気楼のように実体から60cmほど離れた場所に像が浮かび上がる。

 グリッターダストの塵の光ごと屈折させるので、実体の位置を気取られる心配はない。

 

(感謝しますよ、イサミ君・・・!)

 

 僅か60cm、されど60cm。

 形勢は今や逆転していたが、この外套の効果は僅か一分半しか保たない。

 急いで決着をつけねばならなかった。

 




今回登場したデヴィルたちですが、デヴィルの中でも主流のバーテズゥと言う種族でして、彼らはデフォで火炎無効を持っています。
なので、ヘルメスお得意の油+火炎魔法アタックも、アスフィさんのバーストオイルも効かないという、相性最悪の相手。

話はずれますけど、ヘルメスの精鋭15人の中にも火力術者がメリルしかいないあたり、強力な魔法や魔導士って本当に貴重な存在なんでしょうねえ。
ロキ・ファミリアでも、リヴェリアとレフィーヤ以外に一応魔導士はいるみたいですけど、完全モブ扱いですし。


本文中に登場した悪魔ですが、

トゲトゲ=スパインドデビル(スピナゴン)
プレートアーマーを着たやつ=スティールデビル(ブエロザ)※
鋲で鎧を固定してる奴=オルソン※
骨みたいの=ボーンデヴィル(オシュルス)

赤いの=リージョンデビル(メレゴン)※、それぞれウィザードとクレリックのクラス持ち
刺悪魔=バーブドデヴィル(ハマトゥラ) 
のっぺらぼう=アサシンデビル(ドガイ)※

です。
基本ルールに乗ってない奴(※印)は、「魔物の書II 九層地獄の支配者」に掲載の奴ですね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。