ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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9-3 オカマとデブの地獄絵図

(しくじった・・・!)

 

 口から血の塊を次々と吐きながらイサミは心の中で毒づく。

 肺を貫かれ、発声できないので、合い言葉が必要なマジック・アイテムは使えない。

 ビホルダー戦で使った"|時間流加速のブーツ《ブーツ・オブ・テンポラルアクセラレイション》"も、合い言葉無しでは発動しない。

 

 ワンドやスタッフもコマンドワードは必要だし、そもそも両腕が封じられている。

 もっとも両腕で防がなければ、今頃左手の爪はイサミの目を貫通し頭を串刺しにしていただろう。

 

 そして自身で呪文を発動するには、肺をえぐられ続けるこの痛みを克服しなくてはならない。

 

(〈精神集中〉をブーストするアイテムを、もっと強化しとくんだった・・・!)

 

 後悔先に立たず。だがその瞬間、重い打撃音がしてパエリリオンが吹き飛んだ。

 無論、イサミの胸と腕に突き立った赤い爪もろともにである。

 

(!?)

 

 イサミが見たのは、自分と吹き飛んだパエリリオンとの間に立ちふさがる肉の壁。

 

「ゲーッゲッゲッゲ! アタシの男を横取りしようなんざ、舐めた真似してくれるじゃあ無いか、このオカマ野郎がァ!」

 

(おまえかーっ!?)

 

 目を丸くしながら、それでもドラゴンマークの"大治癒(ヒール)"をかけ、傷口を塞ぐ。

 肺と両腕に開いていた穴がふさがり、口からこぼれていた血もすっと消える。

 

「ゲーッゲッゲッゲ。本当にタフじゃないかァ。こりゃ後が楽しみだねェ・・・

 ん、どうしたい。鳩が豆鉄砲喰らったような顔をしてさァ」

「・・・いや、助かったよ。ありがとう」

 

 素早くイサミが立ち上がり、フリュネに礼を言う。

 

「ゲッゲッゲ、惚れ直したかい」

「驚いてるよ。まさかカエル顔の天使がいるとは思わなかった」

 

 にまぁっ、とフリュネが唇をゆがめた。

 現金なもので、今はそれすら頼もしく思える。

 

「あああああああああ!」

 

 二人がさっと前を見た。

 パエリリオンが自分の指を見て悲鳴を上げている。

 指先には、唇をぬぐったときに付いたであろう、黒い血がしたたっていた。

 

「血が! アタシの血がぁっ! 良くもやったわねカエル女?!」

「ゲーッゲッゲッゲ。今の方が色っぽいよォ、オカマデブ」

 

 腹を抱えて笑うフリュネに、パエリリオンの頭に更に血が上る。

 

「殺すっ! 殺して魂に永劫の苦痛を与えてやるわっ!」

「やってみなよォ、デブガエルゥッ!」

 

 身長3m、約1.4倍の体格を誇る相手に対し、フリュネは武器も防具も身につけていない。

 にもかかわらず、巨躯のアマゾネスは臆せず拳を握る。

 

「フリュネさん、そいつ少し任せていいですか?」

「ゲッゲッゲ、どってこたないさァ。ザコどもを助けたいなら好きにしな」

「どうも」

「キェェェェェェェ!」

 

 イサミが身を翻すと同時、怪鳥音を上げてパエリリオンがフリュネに襲いかかる。

 

「ゲゲゲゲゲェッ!」

 

 マニキュアを塗った50cm超の爪が鋭く突き出されるが、前屈みのファイティングポーズを取ったフリュネは頭を振ってそれをかいくぐる。

 

「ゲボァッ!?」

 

 フリュネの剛拳がカウンターでみぞおちに打ち込まれ、パエリリオンが苦悶の声を上げた。

 

 

 

 パエリリオンの苦鳴を背中で聞きつつ、イサミは上と左方に視線をやる。

 上では、アスフィがマレブランケと空中戦を繰り広げており、少し離れたところではファルガー達がデヴィルの生き残り相手に苦戦している。

 

「電気変換《最大化(マキシマイズ)》《威力強化(エンパワー)》《二重化(ツイン)》《エネルギー(エナジー)上乗せ(アドミクスチャー)(ファイア)(エレクトリシティ)冷気(コールド)(アシッド)》"雷の炎の泉(エレクトリシティ・ファイアーブランド)"!」

 

 デヴィルの主流を占めるバーテズゥという種族は、炎の常時渦巻く地獄に住んでいるからか、あらゆる炎を受け付けない。

 ヘルメス・ファミリアの魔導士メリルの呪文が通用しなかったのもそれゆえだ。

 

 だが、炎が効かないならば別のエネルギーに変換してしまえばよい。

 大魔導士(アークメイジ)の能力で呪文の威力を丸ごと電撃に変換した呪文が炸裂する。

 

 夜の街路に数本の雷の柱が立った。同時に上空に直径3mの球電が発生し、マレブランケをすっぽりと覆う。

 

「ギエエエエエエエエ!」

 

 一方、雷の柱はパエリリオンにもダメージを与えている。

 背中を電撃で焼き焦がされ、再び悲鳴を上げる巨体の悪魔。

 

「ハッ、面白いねェ! ますます惚れ直したよォ!」

 

 歯ぐきまでむき出しにして笑うフリュネが、パエリリオンを蹴り倒す。

 

「あぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 体ごと雷の柱の中に叩き込まれ、さらなる悲鳴を上げるパエリリオン。

 

「ゲーッゲッゲッゲッゲッゲ!」

 

 巨大アマゾネスの笑い声が高らかに響く。

 僅かに間を置いて、雷の柱からよろめき出てきた瀕死の刺悪魔をファルガーが両断し、同時にアスフィの短剣で喉を切り裂かれたマレブランケが墜落、石畳に激突して動かなくなった。

 これで、残るはパエリリオンのみ。

 

 アスフィが街路に舞い降りる。

 ファルガーと小さく頷き交わした後、イサミの方に歩み寄った。

 

「助かりました、イサミ君。傷は大丈夫ですか?」

「タフなのが取り柄でしてね。俺を殺したいならまずい飯を食わせるのが一番確実です」

 

 ほっと息をつきつつ、くすりと笑みをこぼすアスフィ。

 が、すぐに表情を再び曇らせ、パエリリオンとの壮絶な殴り合いを再開したフリュネの方を見やる。

 

「"男殺し(アンドロクトノス)"ですか・・・その、イサミ君を?」

「・・・ええまあ」

「・・・」

 

 無言で眼鏡を直すアスフィ。

 うつむき加減のその表情は、頭一つ高いイサミにはうかがい知れない。

 

(やばい。何か怒らせたか?)

 

 さすがの〈真意看破〉技能も、相手のアクションがこれだけではいかんともしがたい。

 目に見えておろおろしはじめた大男と自分たちの団長を、ヘルメスファミリアの面々が生暖かい視線で見つめている。

 そんな弛緩した時間の中にふわりと優しげな花の匂いが香り――次の瞬間、戦慄が走った。

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