ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
「「「「!」」」」
イサミ、ヘルメス・ファミリアの面々、壮絶な殴り合いをしていたフリュネとパエリリオンまでもがそちらを向く。
その視線の先、街路から悠然と現れたのは女性らしきフードの影。
そしてそれと並んで歩く、ひげ面の巨漢。額に黒い布を巻き、灰色の戦闘衣にマントの軽装。背中にロングボウ、腰にはバスタードソードを下げている。
ごくり、と誰かがつばを飲んだ。
フリュネやイサミですら比較にならないほどの存在感が、二人から放射されている。
「ひ、姫様・・・これは・・・」
パエリリオンが卑屈な表情を作り、おびえたように口を開く。
「お黙り」
悲鳴をかみ殺し、パエリリオンが縮こまる。
その隙に乗じてしかるべきフリュネは、だが動けない。
二人から発せられる強者の匂いに気圧されている。
「あなたも撤退なさい。
けど、覚えておくのね。
私が今あなたを殺さないのは、まだしばらくあなたが必要だからよ」
「は、ははーっ! 必ずや、ご下命果たしてご覧に入れますわ! それではこれにて失礼します!」
どんっ、と効果音が聞こえそうな程の勢いで、翼を広げたパエリリオンの巨体が宙に舞う。
その姿は一瞬にして連なる屋根の向こう、南側の夜空に消えた。
「さて」
女の視線――フードに隠れていて見えないが――が、イサミ達をなで切りにする。
多くの者は体をこわばらせ、小人の魔導士メリルは悲鳴を上げて仲間の後ろに隠れた。
「またあなたなのね、ボウヤ。今回は大した損害ではないけど・・・こうも続けざまだと、やっぱり早めに消えて貰った方がいいみたいね。
と言うわけで、やっておしまいなさい!」
「ん? 俺か?」
片方の眉を上げたのは黒ひげの巨漢。
腕を組み、どこか人ごとのように状況を眺めていた顔がいぶかしげなものになる。
「そうよ。そもそもこの子はあなたの担当じゃない。
あなたが放っておいたからこうなったのよ、責任を取りなさい」
「お前が勝手に決めたんだろ・・・まあいい。この小僧にはちっとばかり興味もある」
悠然と、巨漢が一歩前に出る。
気づくとその右手には、腰の鞘に収められていたはずのバスタードソードが下げられていた。
黒い刀身が、冷え冷えとした冷気を放っている。
(・・・!)
フードの女を除く、その場の全員が息を呑んだ。
この巨漢は、Lv.5のフリュネにすら抜いたと気づかせない程、ごく自然に剣を抜いて見せたのだ。
それがどれほど困難なことか、素人は知らず、この場にいる人間は理解している。
この男が――ステイタスはともかく――技量においてはフリュネすらはるかに隔絶する達人だと言う事だ。
「まぁそういう訳だ、兄ちゃん。ちょっと付き合って貰おうか」
「・・・ゲーッゲッゲッゲ! 待ちなよ! 人の男に手を出すのは感心しないねえ!」
フリュネが、イサミを守るかのように一歩前に出た。
3m。
いわゆる一足一刀の間合いで二人が対峙する。
フリュネの肩が僅かに震えているのに、イサミとアスフィは気づいた。
「どいてくんねぇかな、お嬢ちゃん。女を切るのは余り好きじゃあないんだ」
「ゲッゲッゲ、なんだい、この子に嫉妬してんのかい? 何だったらこの子の後にあんたも相手してやるよォ!」
「そうかい」
巨漢が興味なさげにつぶやいた瞬間、フリュネの方から仕掛けた。
突進から体全体で踏み込んでの右ストレート。
速度はイサミの眼でギリギリ追い切れるかどうか。
だが剛拳が巨漢に突き刺さるかと思われた瞬間。
「!?」
フリュネの拳は空を切っていた。
否、拳そのものが空に舞っていた。
「うっ、腕が・・・アタシの腕がァァァァァ!?」
フリュネの上腕部の断面から血が吹き出す。
右腕が肘から綺麗に切断されて地に落ちた。
傍目には巨漢の振るう剣にフリュネが自ら突っ込んでいったようにしか見えない。
男が無造作に放ったカウンターによって、フリュネの鋼鉄の肉体はたやすく切り裂かれていた。
「がっ、がが・・・」
「言ったろ? どいてくれってな」
「・・・・っ!」
イサミが瞠目する。
(今のは・・・《
「豊穣の女主人」亭の前でイサミがベートを相手に使ったカウンター技である。
イサミが相打ちだったのに対し巨漢が無傷なのは、ひとえに巨漢の身のこなしがフリュネを圧倒しているためだ。
「っ! "
我に返ったイサミが治療呪文を唱え、血は止まった。
次に呪文を唱えると、腕がふわりと浮き、更にもう一度の呪文と共に接合される。
その間、巨漢は眉を片方上げただけで動かない。
腕は戻った。しかし技量だけではなく、ステイタスも圧倒的に上。
次に巨漢が剣を動かしたとき、フリュネは回避も出来ずに死ぬ。
フリュネ本人を含めて、誰もがそう信じた。
「あ、ちょっと待って」
フードの女がのんびりとした声をかけるまでは。
「なんだ。まだ何かあるのか?」
巨漢がいやそうな顔で振り向く。
くすくすと、女が笑った。
「ああ、そうじゃないの。その女は私が相手するわ」
「・・・? 珍しいな。お前の好みそうなタイプじゃないが」
「ええ、美しくはないわ・・・でも、とても面白い」
好きにしろ、と言いたげに巨漢が肩をすくめて脇にのいた。
フードの女がどこか気品を感じさせる身のこなしでフリュネに歩み寄る。
額の汗をぬぐい、フリュネがフードの女と相対した。
「ゲッゲッゲ、言ってくれるじゃないかい。アタイよりよほど不細工なくせしてさ」
「ええ、ええ、そうなんでしょうね。あなたにとっては自分こそが美。それ以外は有象無象でしかない」
「ゲゲゲゲゲ、当然じゃないかァ? アタイは美しい。お前は醜い。美の女神だってアタイには敵いやしないさァ」
くすくすと女が笑う。
「ふふっ・・・本当に面白いわね。魔法も魔力も使わず、自分の心を操ってしまうなんて。人間の心って本当に不思議・・・ねえ、そうは思わない、ネサレテ?」
「っ?!」
それまで不敵な表情を――表向きだけでも――崩さなかったフリュネの顔が、初めて恐怖にゆがんだ。
「な・・・何故その名前をォ?!」
「忌々しい神々とは違うけど、私にもそのくらいのことはわかるの・・・だって私、悪魔ですもの」
はらりとフードが背中に落ちる。
現れたのは美しい女の顔だった。
白い肌、赤銅色の髪、青い瞳、赤いくちびる。
フレイヤやイシュタルと言った美の女神にも劣らぬ、しかしどこか不安をかき立てる美貌。
底知れぬ深みとよどみをたたえた青い瞳がフリュネを射貫く。
顔を恐怖にゆがめたまま、金縛りになったかのようにフリュネは動けない。
「美人揃いのアマゾネス でもその子はカエルそっくり
みんながはやし立てる フリュネ フリュネ
「な・・・・あ・・・」
歌うように女が言葉を紡ぐ。
顔色を蒼白にしたまま、フリュネは動けない。
「だから女の子は自分に魔法をかけた 自分は美しい 世界で一番美しい
みんながはやし立てるのは自分に嫉妬しているから
誰も近づいてこないのは自分の美しさに気後れしているから
こうして女の子は幸せを手に入れました、めでたしめでたし・・・
でも魔法の時間はもうおしまい
ごらん十二時の鐘が鳴る 魔法の鏡はひび割れる 後に残るのは・・・」
幼い女の子がいやいやをするように、フリュネが弱々しく首を振る。
くちびるが、酸欠のキンギョのようにぱくぱくと動く。
「や、やめて・・・やめてくれよォ・・・」
「哀れな醜いカエルの子」
女がパチン、と指を鳴らすと、フリュネの目の前に突然鏡が現れた。
彼女の巨体を余すところ無く映し出す、巨大な鏡。
鏡の中の自分をフリュネは見る。
それは人間ではない。いぼだらけの肌、瞳孔のない真円の目、指の間の水かき・・・人間の姿をした、ガマガエル。
ほとんど物理的な音を立てて「何か」が切れた。
「あ・・・あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
絶叫が響く。
家々の板戸を震わせる程の、悲痛な慟哭。
「・・・」
慟哭が唐突にやんだ。
枯れた大木のごとく、フリュネがくずおれる。
体を丸めて何事かをブツブツつぶやき、瞳孔は焦点を合わさず虚ろに開いている。
その表情には一片の生気も感じられなかった。
「・・・えげつねえなあ。これだから女は」
「ええ、女だもの。悪魔でもあるけど」
女は楽しげに笑った。
フリュネの本名として設定したネサレテという名前ですが、これはフリュネという名前が古代ギリシャの超高級娼婦から来ていて、彼女の本名がネサレテだからです。
フリュネというのはガマガエルという意味で、彼女は絶世の美女でしたが肌が黄色かったのでそう言うあだ名をつけられたようです。
女がフリュネの目の前に立てた鏡は疑似呪文能力による幻影です。
(彼女はメジャー・イメージ呪文を無制限に使える)
交渉系技能馬鹿高い上に幻影や魅惑の呪文も使えるんだもの、精神攻めるしかないじゃないw
《暗黒語/Dark Speech》特技が名前はそれっぽいのに、この手のことに役に立たないのがちょっと残念w
ダークスピーチッスよダークスピーチ。
恐怖を与えたり物体を腐敗させたり精神融合したりは出来るんだけどねー。