ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
10-1 フリュネは起き上がり、仲間になりたそうにこちらを見ている
『男なら、危険を顧みず、死ぬと分かっていても行動しなければならない時がある。
負けると分かっていても戦わなければならないときがある』
―― 『宇宙海賊キャプテンハーロック』 ――
「・・・で? どういう事か説明して貰おうじゃないか」
氷点下とまでは行かないものの、かなり冷たい視線でヘスティアが目の前の罪人達をねめまわす。
罪状は風紀びん乱とか不純異性交遊とかそんなの。
「・・・」
「~♪」
非常に居心地が悪そうな顔でソファに座るイサミが身じろぎする。
その隣には、幸せそうな顔でイサミの首に抱きつく美人の巨女アマゾネス――本人の言を信じるならフリュネ・ジャミール――が座っている。
シャーナはあきれ顔、リリは軽く混乱しているようで、ベルはひたすらにうろたえていた。
イサミが頭をボリボリかいて、ため息をつく。
「えーと、ですね。どこから話したものやら」
「初めから話して、終わりに来たらやめるんだ」
「へいへい」
微妙に冗談が通じないモードのヘスティアに辟易しつつ、イサミはもう一度ため息をついた。
ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~
第十話「英雄の素質」
昨夜、巨漢の戦士と魔姫グラシアが自ら撤退し、後にはイサミとヘルメス・ファミリアの面々、そしてグラシアによって精神崩壊したフリュネだけが残された。
ヘルメス・ファミリアも引き上げた後、イサミはとりあえず霧を呼び出して姿を隠し"
「"
呪文と共に、地上90cmの高さに中型盾ほどの大きさの円盤が現れた。
荷物運搬用の初級呪文だが、イサミの術力をもってすれば優に3tを越える物体を運搬できる。
200kgを優に超える巨体はテレキネシス呪文で持ち上げられない(!)ので、円盤の上に引きずり上げて異次元の邸宅に運びこむ。
(まさかこんな形で使うことになるとは・・・いや、そうでもないか)
テンサーズ・フローティングディスク。
俗に「一番頻繁な使用法は仲間の死体運搬」と言われる魔法である。
ともあれイサミは、フリュネの巨体を乗せてするすると付いてくる円盤と共に異次元の扉をくぐった。中は豪奢な邸宅であり、大きな食事テーブルと厨房にはたっぷりの食料、それを調理したり配膳したりする魔法で作られた使用人もいる。
ダイニングから続く扉の先にはこれも豪奢な寝室があり、イサミはフリュネの巨体をキングサイズのベッドの上に移動させて彼女を横たえると、呪文を解除した。
「ふーっ・・・」
フリュネの瞳は未だ虚ろで、断片的な何かをぶつぶつとつぶやき続けている。
同情のまなざしをちらりと投げかけると、イサミは腰の触媒ポーチから精緻な彫刻を施された金の縁にはまった水晶のレンズを取り出す。
(一応用意はしたが、まさか実際に使うとは思わなかったなあ)
これから使う呪文の触媒である。
買い求めようとしたら、50万ヴァリスはかかるだろう高価なものだ。
"
精神に手を加えて記憶を消去したり改変するのみならず、人格すら消去・再構築できる恐るべき呪文である。
イサミもこんな状況でなければ使おうとは思わなかっただろう。
が、これ以外では"
"記憶操作"を発動させる前に精神を集中させ、女神ミストラから授かった恩恵の一つを呼び起こす。
「我願う・・・この者に美しき容姿を」
願いの言葉と共に強大な魔力が解き放たれる。
肉だるまのような胴体は、均整の取れた豊満な体つきに。
短く太い手足はすらりと伸び、巨大な頭部も――体格に比すれば――小づくりなものに。
顔立ちも太い眉と大きな目、大人の色香と少女のあどけなさを併せ持つとびきりの美人に。
恒久的に姿を変えるだけなら"
最後に、緩やかにウェーブのかかった黒髪がふわりと広がったのを確認して、イサミは次の呪文を唱え始めた。
複雑な詠唱と身振りを1分程続け、呪文を発動する。
「
フリュネの胸の上に置いた水晶のレンズから、イサミにしか見えない小さな光球が飛び出した。
それはフリュネの胸の上で複雑に変形・展開し、複雑なワイヤーフレームに沿って整然と並ぶ無数の小光球となる。
光球の一つ一つがフリュネの記憶であり、それらをつなぐワイヤーフレームがフリュネの思考パターン・・・つまり人格そのものだ。
だがワイヤーフレームは所々途切れて大きく曲がっており、前世で言えば大事故にあってひしゃげた自動車のようにも見える。
記憶の光球も多数がワイヤーフレームから離れ、宙を漂っていた。
記憶情報の一つ一つとワイヤーフレームの接続を丁寧に確認しつつ、イサミは注意深く作業を開始した。
「・・・で? 彼女の精神を癒したらこんな天然さんになったっていうのかい?」
「いえ、容姿は美人に変えたわけでしょう?
だから容姿に関するトラウマを削除して、ストレスでゆがんだ精神構造もなるべくフラットなものにしようとしたんですがその、ストレスが幼児の頃から思春期、その後もずっと続いていたようで・・・成長期の負荷が人格の大半に影響してたみたいなんですよ。
それを削除して整形したら、こんな小さな女の子みたいな性格になっちゃって・・・」
あー、と納得したように顔を手で覆うヘスティア。
話を聞いていたベル達の表情も、一様に同情的なものになっていた。
「それにしても君もほとほと人がいいねえ。襲いかかって来た相手に、ここまでしてやることもないだろうに」
ヘスティアの苦笑混じりの言葉にしゅん、と意気消沈するフリュネ。
それをこちらも苦笑しつつちらりと見やったあと、イサミが少し寂しそうな顔になる。
「まあ、外見で差別されるのは辛いことですから・・・」
「・・・そうだね。うん、そうだ」
ヘスティアが僅かに遠い目になる。
まぶたの裏に浮かぶのは、顔の半分を眼帯で覆った神友のおもかげか。
そこでニヤっとイサミが笑った。
「それにあれですよ。物語をハッピーエンドにするのが魔法使いの仕事でしょう?」
「君も意外にロマンチストだねえ・・・いい年しておとぎ話に夢を見るのはベルくんだけかと思ってたよ」
くすりと笑う紐女神。
神様ひどい!? とショックを受ける白兎は無視。
「まあそれはめでたしめでたしって事でいいと思うんだが、何でまたウチに来たんだ?
まさかこの唐変木を口説きに来たわけでもないだろ」
腕を組んだシャーナが質問を投げかけると、今度はフリュネがしょぼん、とした。
さっきはしゅん、今度はしょぼん、だ。
「その・・・ホームから追い出されちゃったの。私がフリュネだって信じて貰えなくて・・・」
「ああうん、そりゃそうなるわな」
気の抜けたような表情で頷くシャーナ。
同じ巨女でもガマガエルと均整の取れた体躯の美人アマゾネスでは、どう見ても同一人物には見えない。
以前のフリュネなら腕ずくで納得させたところだろうが、どうやら"
女神イシュタルならわかっただろうが、丁度不在。
それどころか周囲のうさんくさげな視線に耐えきれず、自らホームを飛び出してきてしまったと言う事だ。
「それにその、今まで酷いコトしてきたからファミリアの中にお友達もいなくて・・・
それでぇ、ずっと街を歩いてたんだけどお金も何もなくてぇ・・・」
「で、イサミくんを頼ってここまで来たってわけかい」
「うん・・・」
はあー、と腕を組んでため息をつくヘスティア。
申し訳なさげにイサミが口を開く。
「それでですね、神様・・・」
「ああ、いいよいいよ、みなまで言わなくても。眷属の不始末は神の不始末だからね。
フリュネくんはここにおいてあげようじゃないか」
「ありがとごうございます」
「わーい! ヘスティア様だいすき!」
イサミが頭を下げるのと同時、喜色満面のフリュネがヘスティアに飛びつきキスの雨を降らせる。
大人と子供どころではない体格差がある二人であるから、ヘスティアはまるでぬいぐるみのように抱き上げられなすがままにされている。
「わ、ちょっ?! や、やめるんだ?! 君たちも微笑ましそうに見てないで止めないかぁ~っ!」
ヘスティアの悲鳴が地下室に響き渡った。
巨女いいよね・・・!
ん、誰ですか。「シャーナと言いこいつ大概こじらせてんな」とか言ってる人は?