ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
ホームを出て、バベルまで五人でそぞろ歩く。
「それじゃ今日は12階層に挑戦か・・・お前も強くなったもんだな」
「えへへ・・・」
感慨深げにうんうんと頷くイサミと、照れるベル。
「えらいえらい。がんばったんだね」
「あっ、はい・・・ありがとうございます」
レーテーがにこにこしながらベルの頭をなでる。
またたくまにベルの顔が真っ赤になった。
「あー、レーテーは頭の中ちっちゃな女の子みたいなものだし、あんま気にするなよ・・・と言っても無理か」
「無理だよ兄さん・・・」
「あーもう、ベルちゃんかわいい!」
「わぶっ!?」
「こら、ハグ禁止!」
「あれ? 今日はシルさんお休みですか」
「だニャー。そのおかげでミャーたちもあの弁当の犠牲にならずにすんだニャー」
「豊穣の女主人亭」の前。
ヒューマンのルノア、猫人クロエ、同じく猫人のアーニャ。
ウェイトレス三馬鹿トリオが晴れやかな表情でうんうんと頷く。
エルフのリューも、それをちらりと見はするが何も言わない。
「代わりと言っては何ですが・・・私が作っておきました。クラネルさん、どうかお持ち下さい」
「あ、ありがとうございます」
戸惑いながら小さなバスケットを受け取るベル。
一方でイサミはアーニャの言葉に眉をひそめる。
「なあベル。シルって、料理下手なのか?」
「・・・独創的な味ではあるかな」
視線をそらしつつ、ベルが答える。
続けてリューに視線を向けると、彼女も黙って顔をそむけた。
「そーニャ! シルが少年に弁当を作るようになってからミャーたちは・・・! それは聞くも涙、語るも涙の物語・・・」
「リューさん。彼女、調理スタッフに教えて貰ったりしてないわけ?」
「私の知る限りでは・・・」
「聞くニャ?!」
当人がいたら一言どころか百言言わなければ気が済まないところであったが、リュー達に言ってもしょうがないので挨拶をしてイサミ達はその場を辞した。
バベルを抜け、迷宮の一階層。
そろそろ別れようかというところで、いきなりベルが後ろを振り向いた。
「どうした?」
「何か見られてる気がしたんだけど・・・気のせいだったみたい、ごめん」
「そうか」
言いつつ、イサミも背筋にチリチリするような嫌な予感を感じている。
(神様のあれもそうだが・・・嫌な予感がビンビンするな)
それを押し殺して、努めて普段通りの雰囲気で会話を続ける。
「それじゃこの辺で別れるか。ベル、何かあったら"
「うん、わかってるよ」
「"
「そうだな、リリにも知っておいて貰うか。ベル、ちょっと出せ」
「あ、うん」
ベルとイサミが腰の物入れから、それぞれこぶし大の石を取り出す。
自然石のようだが、どちらも全く同じ形をしていた。
「こいつは2つセットでな。もう片方の石の持ち主に短いメッセージを送ることが出来る。手にすれば使い方は自然とわかる」
「兄さん。ピンチの時に使うなら、僕よりリリに持ってもらったほうがいいんじゃない?」
「・・・あ、そうだな」
ちょっと虚を突かれたような顔でイサミが頷いた。
ベルがリリに"送信の石"を手渡す。
「何となく使い方がわかっただろ? ピンチの時は迷宮の階層と場所を伝えてくれれば、10分もすれば駆けつけられるわけだ。
ただ一日一回だから、夕メシの献立を聞いたりするのに使うんじゃないぞ」
「わかりました。お弁当を届けて欲しいときには使ってもよろしいですか?」
「おう、許す」
イサミがにやりと笑い、リリがおどけてみせる。
一同の間に和やかな笑いが広がった。
ややあって歩みを再開した一同は、次の十字路で別れる。
ベルとリリは12階層を目指して歩き出し、イサミ達は適当な通路で「グワーロンのベルト」を発動させ気体になって49階層を目指した。
慣れないレーテーがはぐれたりして、いつもより少し時間がかかったのは余談である。
「《高速化》"
「《二重化》《最大化》《威力強化》《範囲拡大》"
49階層、「
階層の中央でイサミが"
推定レベル4から5、一体で並の上級冒険者なら数十人を相手取れる程の力を持つフォモールたちが紙屑のように次々と巻き上げられ、気流の螺旋にすりつぶされていった。
「ふわぁ・・・」
「まあ、驚くわなあ」
レーテーが目を丸くする横でシャーナが苦笑する。
竜巻は数分程でやみ、フォモール達の魔石を回収した後一行は50階層への階段に向かった。
一方ベル達は12階層に到達している。
11階層から続く階段から1kmほど移動した、広いルームでベルは立ち止まった。
「ベル様?」
「リリ・・・何かおかしくない? 12階層に下りてからここまでモンスターに一度も遭遇していない」
そういえば、とリリも気づく。
言いしれぬ不安感にベルの額に脂汗がにじむ。
(あの時も・・・こんな感じだった。ダンジョンは静まりかえっていて・・・)
「・・・ベル様? 大丈夫ですか?」
リリの言葉ではっと物思いから醒める。
頭を振って考え事の残りカスを脳から追い出すと、強いて明るく振る舞う。
「大丈夫だよ、リリ。それじゃ・・・」
――さあ、見せてみなさい?――
「えっ?」
「ベル様?」
いきなりベルの、ベルの頭の中だけに聞こえてきた蠱惑的な声。
それがどこで聞いた声であるか思い出す暇もなく、
『――ヴ――ォ――』
「その声」が響いた。