ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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10-9 本当の魔法

「ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

 二匹の雄が咆哮する。

 ナイフとバゼラードを構えたベルが突撃する。

 ミノタウロスは大剣を振りかぶり、それを迎撃する構え。

 

「ああああああああああああっ!」

「ヴモッ?!」

 

 だが大剣の間合いに入る直前、突撃が急加速する。

 これまでとは違う、回避を考えない全力疾走。

 それがミノタウロスの剣尖に一瞬の遅れをもたらす。

 

「ヴモォォォォッ!」

「やった! 行ったあっ!」

 

 鱗と毛皮を切り裂いて、【神のナイフ】が赤い鱗に覆われた右太ももに深く食い込んだ。

 そのまま振り抜き、脇を駆け抜ける。

 今までとは明らかに異なる量の血しぶきが舞う。

 

 石床を蹴る。まるで競泳のような、体全体のバネを使った鋭角的なターン。

 ミノタウロスが振り向いて剣を構えた瞬間には既に懐、大剣の攻撃不可能な間合いの内側にいる。

 

「ヴォォォォッ!?」

 

 再び舞う血しぶき。

 先ほどとは反対側、左の太ももを【神のナイフ】が切り裂いた。

 

「まず敵の機動力を殺すつもりか」

「驚いたね・・・存外クレバーな戦い方をするじゃないか」

 

 ロキ・ファミリアの首領二人が感心したように頷く。

 

 まず走る足を殺せ。次に武器を握る腕を殺せ。そして最後に命を絶て。

 兄から教わった、戦いの心構え。

 意識するまでもなく体がそのように動く。

 

 今までの攻防でわかったこと。

 ミノタウロスは異形と化した後でも敏捷性は上昇していない。

 つまり機動力は未だにベルが上回っていると言う事。

 ゆえに、それを活かした機動戦。

 

 激情に駆られながら戦い方は合理的。

 心はこれ以上ないほど熱く燃えているのに、思考はそれを超越して冷静。

 明鏡止水。されど刃は烈火のごとく。

 

「スコーチング・レイッ!」

「ヴォォッ!」

 

 二度目の鋭角的ターン。ベルの捨て身の全速にも目の慣れてきたミノタウロスの顔面を、速射魔法が直撃する。

 防御のための牽制ではなく、攻撃のための牽制。

 逃げではなく、立ち向かう勇気が生んだ、一歩進んだ速射魔法の使い方。

 

 ひるんだミノタウロスの脇を駆け抜け、左の太ももに二度目の斬撃。

 

「ヴァァッ!」

 

 ミノタウロスが再び苦鳴を上げた。

 

「やったぁ! ベルちゃんすごい!」

「いけいけー! やっちゃえーっ!」

 

 上がる歓声。

 だがベルが力の全てを発揮していなかったのと同様、異形のミノタウロスもその力をまだ見せきってはいなかったのだ。

 

 

 

 三度目の鋭角ターンを成功させたベル。

 その目の前で、ミノタウロスの鱗に覆われた喉と頬が異常にふくれあがる。

 

「っ! いかん! 避けろ、ベルッ!」

「えっ!」

 

 次の瞬間口から吐き出されたのは紅蓮の炎。

 

「うわぁぁぁぁぁぁっ?!」

「なっ!?」

 

 10m近い範囲に広がったそれを、突貫しようとしていたベルがまともに食らう。

 

(ぬかった! 強化魔法(バフ)のたぐいかと思ったが・・・ハーフドラゴンだと!?)

 

 ハーフドラゴン。

 文字通り、竜と他種族とのハーフを指す。

 竜そのものには及ばなくても、その膂力、鎧のような鱗、爪や牙、エネルギー攻撃への耐性などを得て、もう片親の種族とは一線を画する強さを得る。

 ミノタウロスにはどのような手段によってか、後天的にそうした特質が付与されたに違いなかった。

 

 

 

 驚愕と痛みでベルの足が止まっていた。

 

「ヴモォォォォォォォォォッ!」

 

 その隙をミノタウロスは見逃さない。

 天井から降ってくるかのような、打ち下ろしの左拳。

 

「くっ!」

 

 辛うじて直撃は避けたものの、かすってバランスを崩す。

 

「ヴァァァァッ!」

 

 追撃の前蹴り。

 極限まで高めた集中力でタイミングを合わせ、その「蹴り足を蹴る」。

 

 相手の蹴り出す力と自分の足の力を合わせ、ベルは後ろに飛んだ。

 5mほど飛ばされて、空中でバランスを崩しかけるが、辛うじて両足から着地する。

 

「ヴモォォォォォォォォォッ!」

「くうっ!」

 

 大剣を振り上げてミノタウロスが走る。

 ナイフを構えてベルが疾走する。

 

「ヴァッ!」

「こんのぉっ!」

 

 疾走で体勢が崩れたか、これまで以上に見え見えの、荒い斬撃。

 辛うじてそれをかわし懐に入ろうとして、本命が来た。

 

 大剣はフェイント。

 頭をハンマーのように振り下ろす頭突き。

 

「ぐぁっ!?」

 

 巨大化した角が、咄嗟にかばった左腕のプロテクターを貫く。

 

「ヴモォォォォォォォォッッッ!」

 

 頭を振り上げる。

 ふたたびベルの体が宙に舞った。

 

 

「ベルッ!」

「ベルちゃんっ!」

 

 思考が加速する。

 周囲の景色がゆっくりと回転している。

 

 足下には地面を蹴るミノタウロス。

 落ちてくるところを今度こそ角で貫こうとする構え。

 

 自由落下中のベルに、これをかわすことはほぼ不可能。

 だがそれでもナイフとバゼラードを構え――ふと兄の姿が目に入る。

 

 その瞬間、稲妻のようなひらめきが走った。

 加速した神経細胞の中でいくつもの事柄が一つに繋がる。

 

 魔導書(グリモア)。【アーケイン・フレイム】。兄の呪文書(スペルブック)。最初中々出なかった魔法。"スコーチング・レイ"。そして顔のない自分との問答。

 

 あの時、自分は何と答えた? 何を望んだ? 『兄さんみたいな力』。

 確かにそう言ったはずだ。

 それは――この戦いに勝利するための、欠けていた最後のピース!

 

「"秘術の枠(アーケイン・フレイム)"! "即時飛行(スウィフト・フライ)"!」

「なっ!」

「えっ!?」

「おっ?」

「・・・っ!」

「ヴモォッ!?」

 

 その場の全員が――ロビラーすらもが――目をみはった。

 

 落下の軌道がV字の軌跡を描いて急速上昇に転じる。

 そのままベルの全力疾走を上回るスピードで水平飛行し、ルームの端、20mほど離れた所でふわりと着地する。

 同時に、いつの間にかベルトから抜いていたマジックポーションとポーションを続けて一気に飲み干す。

 

「ヴルルルルル・・・・」

「・・・」

 

 異形のミノタウロスが唸る。

 無言のまま、ベルが神のナイフとバゼラードを構え直した。

 

 

 

 ベルの魔法「アーケイン・フレイム」。

 その意は『秘術の炎』(フレイム)ではない。『秘術の枠』(フレイム)

 すなわちその本質は、イサミの使う秘術魔法(アーケイン)を一つ収めるためのスロットだ。

 

 魔法を発動するたびにスロットの中身は(ベルが扱える範囲内で)自在に切り替わる。

 最初に発動したときは、「何を」収めるのかベルがイメージできなかったせいで発動しなかった。

 "灼熱の光線(スコーチング・レイ)"をイメージすることで初めて枠が埋まり、魔法が発動した。

 

 そして今セットしたのが"即時飛行(スウィフト・フライ)"。

 数秒だけだが飛行を可能とする秘術呪文。

 (通常の飛行呪文は数分間は持つが、ベルの技量(レベル)ではまだ扱えない)

 

 もちろんこの二つだけではない。

 自身の魔力と精神力、そして兄に見せられた呪文書(スペルブック)からの知識の許す限り、ベルはあらゆる秘術呪文をこの"『枠』(フレイム)"にセットすることができる――たとえばこのように。

 

「"秘術の枠(アーケイン・フレイム)"! "雄牛の膂力(ブルズ・ストレンクス)"!」

「"秘術の枠(アーケイン・フレイム)"! "猫の敏捷(キャッツ・グレイス)"!」

「"秘術の枠(アーケイン・フレイム)"! "熊の頑強(ベアズ・エンデュアランス)"!」

「"秘術の枠(アーケイン・フレイム)"! "魔道師の鎧(メイジアーマー)"!」

「"秘術の枠(アーケイン・フレイム)"! "(シールド)"!」

「"秘術の枠(アーケイン・フレイム)"! "鏡像分身(ミラーイメージ)"!」

「"秘術の枠(アーケイン・フレイム)"! "元素抵抗:火属性(レジストエナジー・ファイア)"!」

「"秘術の枠(アーケイン・フレイム)"! "音波武器(ソニックウェポン)"!」

「"秘術の枠(アーケイン・フレイム)"! "英雄のいさおし(ヒロイックス):《フェイント強化》"!」

「"秘術の枠(アーケイン・フレイム)"! "移動迅速(エクスペディシャス・リトリート)"!」

 

 筋力上昇、敏捷器用上昇、耐久上昇、力場装甲、不可視の盾、分身、火炎防御、武器への音波属性付与、戦技獲得、移動力上昇。

 これだけの効果を、精神力の続く限り、たった一つの魔法で再現することができる。

 

 そして既存の秘術魔法を収めていると言っても、アーケイン・フレイムが速射魔法であることには変わりない。

 つまりそれは、これだけの自己強化を僅か数秒で完了できると言う事。

 

 一つ一つの効果は圧倒的ステータス差の前には蟷螂の斧。

 だが僅かな強化もこれだけ積み重ねれば・・・。

 

「はぁっ!」

「ヴモォッ!?」

「早ぇっ?!」

 

 ベルが駆ける。敏捷をステイタスにして4段階分引き上げる"猫の敏捷(キャッツ・グレイス)"呪文と、移動力を敏捷30段階分引き上げる"移動迅速(エクスペディシャス・リトリート)"呪文の効果。

 それに元のステイタスを合わせ、今のベルはLv.4に匹敵する機動力を誇る。

 

 20mの距離を瞬時に詰め、ナイフを振るう。

 ミノタウロスが辛うじて構え直した大剣が、ミスリルのナイフをぎりぎりで受け止める。

 

「わっ?!」

「きゃあっ!」

 

 金属同士が打ち合うそれとも異なる、ぎいんっ、という耳障りな音がした。

 ナイフの表面を覆う音波震動の魔力がミノタウロスの大剣を震わせたのだ。

 

「おおおおおおおおおおおおおっ!」

 

 ベルが吼える。

 

 ぎぃん、ぎぃん、ぎぃん、ぎぃん、ぎぃん、ぎぃん、ぎぃん、ぎぃん、ぎぃんっ!

 高周波音が周囲に響く。

 

 真っ向正面からの攻勢。

 体勢の崩れたミノタウロスは、高速の連続攻撃に防戦一方。

 足の負傷もあるがハーフドラゴンの膂力をもってしても重い大剣では防ぐのが精一杯で、反撃に移る隙を見いだせない。

 

 ぎぃん、ぎぃん、ぎぃん、ぎぃんっ!

 

「よっしゃーっ! 英雄譚(アルゴノゥト)くんいっけー!」

「す、すげえ・・・Lv.1の冒険者が・・・!」

 

 今まで圧倒されていた少年が、初めてミノタウロスを圧倒している。

 まさしく英雄譚のごとき光景に、周囲はただただ見入るばかり。

 

「ヴォォォォッ!」

 

 連続攻撃に業を煮やしたミノタウロスが体ごと、力任せに大剣を押し込む。

 力に逆らわず、ベルが後ろに飛んだ。

 僅かに縮まったものの、膂力の差はやはり圧倒的。

 

 間髪を入れず手首を翻したミノタウロスが、踏み込みからの大剣の一閃。

 ベルの周囲に重なっていた鏡像分身が、横薙ぎの一振りでまとめて切り裂かれて消える。

 

 再びぎぃんっ、という耳障りな音。

 バゼラードと神のナイフで辛うじてブロックしつつ、ベルが再び後ろに飛ぶ。

 

 3mほど飛びすさり、互いに武器を構え直す。

 そこでようやく、イサミが口を挟む隙ができた。

 

「ベル! 今のそいつには炎は完全に効かない! 催眠(スリープ)麻痺(パラライズ)もだ!

 ブレスはおそらく一発きりだが、連発できる可能性はゼロじゃないから気をつけろ!

 それから・・・!」

「ヴウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!」

 

 イサミの言葉が途中で遮られる。

 ミノタウロスの鱗に覆われた背中が盛上がり、中から骨のようなものが突き出す。

 次の瞬間、それは大きく展開して、差し渡し5mにも達そうかというコウモリのような翼になった。

 

「ガァッ!」

「おおおおっ!」

 

 ミノタウロスがその翼を大きく羽ばたかせようとする瞬間、ベルがその目の前にいた。

 広げた翼の右側を目がけ、飛び上がる。

 

 両腕を大きく広げ、逆手に構えた【神のナイフ】とバゼラードを翼に突き立てる。

 

「ああああああああああああああああああああああああ!」

 

 突き刺さった刃が、翼の被膜を上から下までたやすく切り裂いた。

 ベルが着地したときには、翼は全く使い物にならなくなっている。

 

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

 翼を奪われたミノタウロスの、怒りの咆哮。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

 冒険者のきざはしを昇らんとする少年の、戦士の雄叫び。

 二匹の雄が振り向きざまに激突する。




 いやあ、「炎」と「枠」のひっかけは感想で誰かに見抜かれないかと戦々恐々でした。
 実はダンまちSSは余り読んでないんですが、ベルくんのチートとしてはどうなんでしょうねこれ。あんまり強くない方だとは思うんですが。
 というか原作の【憧憬一途】と【英雄願望】のほうがよっぽど強いかw
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