ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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10-10 born legend

「ヴォオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

 大上段からの鋭い振り下ろし。

 

 ぎいんっ。

 

 神のナイフを横から叩きつけ、強引に回避する余地を作り出す。

 膂力では圧倒的に負けているものの、敏捷と耐久力の上昇がそれを補っている。

 更に斜めにかざした魔法の盾にぶつかり、大剣は完全にベルの体から逸れる。

 

 そしてベルは受け流しに使った【神のナイフ】を大剣の刀身に滑らせ、そのままミノタウロスの右腕を狙おうとして。

 

「っ!」

 

 咄嗟にかがんだベルの頭の5cm上で、がちん、と鋭い牙が噛み合わされる。

 本来のミノタウロスにはない、鋭く長い牙によるかみつき。

 

 これまでは使ってこなかった、大剣とのコンビネーション。

 手首の切断を狙ったナイフの一撃は、鱗の表面を削るにとどまる。

 

「ウヴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」

「くっ!?」

 

 ミノタウロスの圧力が倍加した。

 ベルの攻撃は鱗ではじくに任せ、大剣の攻撃に全霊を注ぐ。

 合間に織り交ぜてくる噛みつきも決して軽視はできない。

 

 防御を捨てたリスキーな戦法。

 だがリスキーなのはベルにとっても同じ。

 

 今ベルが戦い続けていられるのは、ミノタウロスの大剣の攻撃を一度もまともに受けていないからだ。

 まともに貰えば、次の一撃を回避する余裕はおそらく残らない。

 

 文字通り必殺の攻撃を紙一重でかわしながらの綱渡り。

 装弾数の増えたロシアンルーレット。

 

 疲労も蓄積してきている。

 30分近く、この鋼鉄の暴威を前に命の綱渡りを繰り返してきているのだ。

 人の体力も精神力も、無限ではありえない。

 

 そしてもう一つ不利な点。

 それは【神のナイフ】があくまでナイフでしかないと言う事。

 

 たとえ敵の鱗を斬り裂けるにしろ、ナイフの刃渡りでこの巨体に致命傷を与えるには急所を狙わねばならない。

 だがこの鋼の嵐を前にその余裕があるのか。

 

「ヴォォォォォォォォォ!」

 

 打ち下ろし。

 横薙ぎ。

 袈裟懸け。

 

「・・・っ!」

 

 どれもが一撃必殺の鉄塊の暴風。

 かわしながらの反撃は肉を浅くそぐにとどまる。

 

 ミノタウロスは相撃ちでいいのだ。

 巨体とタフネスが致命傷を防いでくれる。

 

 だがベルは攻撃を完全回避した上で反撃せねばならない。

 ここに来て、体格の差が出てきていた。

 

「ヴウゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!」

「ぐっ!?」

 

 ベルが押され始めた。

 足を狙い機動力を完全に殺そうとするが嵐のような連続攻撃を、大剣の壁をかいくぐることができない。

 

(こうなったら、危険覚悟で飛び込むしか・・・!)

 

 ベルが一か八かの大博打の覚悟を決めようとした瞬間、後ろからの声がその足を止める。

 

「やめろ、ベルッ!」

「でも、兄さん!」

 

 兄の叱咤に、振り向かず反論しようとするベルだが、続く言葉を聞いてはっとした表情になる。

 

「ベル! "ウェポン・シフト"だ!」

「あ・・・! うん、わかったっ!」

「ヴムゥンッ!」

 

 隙あり、とばかりにミノタウロスが斜め上から鉄塊を打ち込む。

 受け止めることはせず、横に飛んでかわす。

 大剣が再び不可視の盾に遮られ、斜めに逸れて石床を破砕した。

 

「ヴグッ・・・!」

 

 さらにベルを追おうとするミノタウロスだが、左足の傷口が痛みたたらを踏んだ。

 その間にベルは大剣の間合いの外に脱出している。

 

「おおおおおおおおおおお!」

「ヴモォォォォォォォォッッッ!」

 

 間髪を入れずベルが飛び込む。

 ミノタウロスがそれを迎撃する。

 

 再び始まる鋼の打ち合い。

 だが今度は全くの互角。

 

 次の攻撃を考えず、ミノタウロスが振り回す鉄塊を迎撃することに全身の力を注ぐ。

 神のナイフが打ち合ったときの高周波音と、バゼラードが打ち合ったときの金属音が交互に、あるいは同時に響く。

 

 斬る。弾く。

 振り下ろす。弾く。

 薙ぐ。弾く。

 ひたすら、刀身に刀身を叩き付ける。

 そのような攻防が何十合繰り返されただろうか。

 

「っ!」

「ヴムッ!?」

 

 大上段から打ち下ろした大剣の刀身に、横からバゼラードと神のナイフを叩き付ける。

 その瞬間、鈍い音を立ててバゼラードの刀身が砕け散った。

 そして同時に大剣の刀身も、真ん中から砕けて折れる。

 大剣と、バゼラードと、死闘の末に力尽きた武器たちが同時に地面に落ちた。

 

「・・・」

「ヴゥゥ・・・」

 

 一瞬の間の後、両者が同時に飛びすさった。

 その間合い、10m。

 

「フゥーッ、フゥーッ・・・!」

 

 ミノタウロスが両手を床につけた。

 イサミの前世で言えば相撲の立ち会いにも似た、全力の突撃の姿。

 ミノタウロスの最強武器たる、角を用いた強力無比の突撃(パワフルチャージ)

 

「・・・・・・・・・・・!」

 

 ベルは予備の武器を抜かず、右手の神のナイフを逆手から順手に構え直す。

 

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 ごくり、と誰かが喉を鳴らした。

 ベルの肉体も精神ももう限界。

 魔法を使うための精神力も底をつきかけている。

 

 一方ミノタウロスも深手ではないとは言え、全身に無数の傷を負っている。

 武器も失った。失血も馬鹿にならない。

 

 誰もがわかっている。

 次の激突で、おそらく決着がつくであろう事を。

 

「・・・・・・・・・・・っ!」

「ヴゥ・・・・・・・・・ッ!」

 

 視線が空中で火花を散らす。

 機をはかる。

 限界まで引き絞られる弓のごとく、たがいの戦意と緊張が高まる。

 

 十秒。

 二十秒。

 誰かの頬を汗が伝う。

 

 その瞬間、矢が放たれた。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!」

「ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!」

 

 真っ向正面、一直線。

 人とモンスターが互いを目指して疾走する。

 ミノタウロスのものか、ベルのナイフからぼたぼたと大量の血が流れ落ちて、床に一直線の赤い線を描く。

 

「ベル様っ!」

 

 目をさましたリリが絶叫する。

 

「馬鹿がっ!?」

 

 ベートが叫ぶ。リヴェリアは若いな、というように眼を細めるのみ。

 

 間合い6m。

 ベルが跳躍した。

 

「!?」

「"秘術の枠(アーケイン・フレイム)"・・・"武器形態変化(ウェポンシフト)"ぉぉぉっっっ!」

 

 その瞬間、ベルの手の中の【神のナイフ】が巨大化した。

 一瞬にして形態変化を完了したその姿は、刃渡り2mの超巨大剣(フルブレード)

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

 全身のバネを使い、突撃の勢いと自らの体重と巨大剣の重量と残った精神力生命力の全てをこの一撃に注ぎ込む。

 

「ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!」

 

 ミノタウロスもまた、全身の膂力と慣性を角の一点に集中させて突き上げる。

 

 一瞬の後。

 

 ぎぎぎぎぎぎぎぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃんんんんんっっっ!

 

「がっ!?」

「うわっ!」

「きゃあっ!?」

 

 その瞬間、それまでにない高周波の音が響き、大量の土埃が舞い上がった。

 聴覚の鋭い獣人やエルフは思わず耳を押さえる。

 

「おい! ベルは! ベルはどうなったっ!」

 

 耳を押さえながらシャーナが叫ぶ。

 

「・・・・・・・!」

 

 イサミが目を見張った。

 

 

 

 土ぼこりは晴れていた。

 一人と一匹が動かず立ち尽くしている。

 

 一匹は天高く角を突き上げた姿勢で。

 一人はその足下にうずくまって。

 

 ぱっ、とベルの全身から血が噴き出した。

 そのまま少年は地面にくずおれる。

 

「・・・っ!」

 

 無言の悲鳴で空気がどよめく。

 アイズが蒼白になり、口元を手で押さえた。

 自分はまた、失ってしまったのだ。

 また。また。また!

 

 目の前が真っ暗になる。

 闇が心をじわり、と浸食する。

 怒りと憎しみが心を塗りつぶしていく。

 

 だが。

 

 がらん、という音でアイズは我に返った。

 かなり重い、金属質のものが石床に落ちた音。

 

 向けた視線の先にあるのは、いびつにねじくれた、巨大な角。

 はっと気づき、ミノタウロスの頭部に視線をやる。

 

 天向けて突き上げたはずの角は、根元から消失していた。

 それを叩き折った・・・いや、斬ったのはなんだ?

 そしてそれは、角を斬った後どうした?

 

 ずるり、とミノタウロスの体が傾いた。

 頭の付いた右半身は前に。左半身は後ろに。

 

 左肩口から股下にかけて断たれた線に沿って、体がずれていく。

 それを成した超巨大剣は石床にめり込み、クレーターを作っていた。

 剣からあふれ出した不自然な程の血がクレーターを満たし、血の池を作っている。

 

 "血の刃(ブレード・オブ・ブラッド)"。

 血の形を取った魔力を武器に纏わせ、破壊力に転換する魔術師呪文。

 術者が更に生命力を消費することによって、その破壊力は飛躍的に上昇する。

 

 そして、ベルはそれを恐るべき高速で重ねがけできる――

 文字通り、精神力と生命力のありったけをつぎ込んだ一撃がミノタウロスの肉体を両断したのだ。

 

 

 

 ミノタウロスの巨体が前後に分かれて倒れ、地響きを立てた。

 

「ぐ・・・うう・・・」

 

 地面にくずおれたベルの口からうめき声が漏れる。

 生きている。Lv.1の冒険者が死力を尽くしてミノタウロスを倒し、なお生き延びている。

 

 それは――まさしく偉業だった。

 

「~~~~~~~っ!」

 

 こらえきれず、イサミが両手を突き上げた。

 ルーム全体にとどろく勝利の雄叫び(ビクトリークライ)

 声に出せない弟に代わり、歓喜を爆発させる。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

「わああああああああああああっ!」

「うっしゃああああああああああああああっ!」

 

 シャーナ、レーテー、ティオナがそれに続く。

 フィンやリヴェリアすら、感嘆の色を隠し切れない。

 ティオネは驚愕の色を顔に貼り付け、ベートはただ呆然と、うずくまる勝者を見つめている。

 

 ベル・クラネル。

 この瞬間をもって彼は冒険者の――英雄への(みち)を踏み出した。




 書き終えた死んだー。
 原作のこの部分は本当に神がかってます。
 色々努力はしましたがやっぱ原作が完璧すぎて勝てねーわ、はっはっは。


 なおタイトルの「born legend」は30年ほど前の漫画「影技 -SHADOW SKILL-」のアニメOP(まあ2014年まで連載してましたが)。
 今回の話書く間ガンガン鳴らしてました。曲も歌詞もクッソかっこいいんだこれが。
 我が一撃は無敵なり――!
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