ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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11-2 "戦造人間(ウォーフォージド)"

 数日前。

 イサミとシャーナが50階層に到達した翌々日である。

 49階層を抜けて50階層に下りたイサミとシャーナの前に、あの黒ローブが現れた。

 心底嫌そうな顔でシャーナが黒ローブを睨む。

 

「なんだよ、また無理難題か?」

「そう言わないで話を聞いて貰えないかな。損はさせないよ」

 

 実際先だっての報酬として、イサミ達はルルネやアイズと共に宝石や宝飾品、貴重なアイテムや魔導書など、数億ヴァリスにも達するであろう莫大な財物を受け取っている。

 無論、いくら莫大な報酬があるからと言って依頼を受けるかどうかは別の話なのだが。

 

「その代わり命の危険があるってんだろ。聞き飽きたぜ」

 

 イサミが苦笑してまあまあと間に入る。

 

「このタイミングであんたが出てきたって事は、59階層の何かのことか?」

「そうだ。私にとっても52階層から下に入ることはかなりのリスクを伴う。

 ロキ・ファミリアが遠征に出ることは知っているな?」

「まあね」

 

 仮届けの段階であるものの、ロキ・ファミリアの遠征はこの時点で既に街の噂になっていた。

 情報収集に余念のないイサミも当然耳にしている。

 

「君たちが報告してくれた24階層での事件――そして59階層に何かあるという敵の言葉。私としてはそれをはっきりさせたい。

 ロキ・ファミリアはそれに挑むつもりだろうが、彼らですら生還できるかどうかはおぼつかないところがある」

「・・・」

 

 無言のままうなずくイサミ。

 確かに、ロビラーとグラシアのいずれか・・・あるいは両方が出てくれば、迷宮都市の双璧たる彼のファミリアも無事で済むとは考えにくい。

 

「そこで、君たちには彼らと共同して事に当たって貰いたい」

「それはいいが、向こうに話は通ってんのか?」

 

 疑いを消さないシャーナの視線に、怪人が僅かに沈黙する。

 

「・・・いいや。ロキ・ファミリアには今回の件は伝えていない。

 あの女神は今ひとつ信用しきれないし――我々の依頼を唯々諾々とこなすほど素直でもあるまい」

「確かに彼女は天界では随分大暴れしてたらしいが。それだけか?」

 

 片目を閉じて怪人に視線を送るイサミ。

 

「いやそれよりもだ。俺たちは都合良く動くってか? ムカツク物言いじゃねえか」

 

 シャーナの怒りの混じった視線を無言で受け流し、怪人がイサミの方を向く。

 

「彼女はともかく、君は動いてくれるものと思うが。

 君はそのためにここに来たはずだからな」

 

 イサミの片眉がぴくりと動いた。

 

「そう言うセリフが出るって事は、やっぱりあんたも俺と同類と思っていいんだな。赤いじいさんと会ったか?」

「む? いや、それは知らないな。君と私は別口と言う事だろう」

 

 怪人の返答にイサミが頷く。

 

「だろうな。あんた、"エベロン"の人だろう。その銀の手。籠手じゃないんじゃないか?」

「・・・わかるかね」

 

 今度はフードの怪人の方が僅かに驚いた様子になる。

 

「歩き方や関節の動きで何となくな。ローブで隠してても動きがヒューマンやエルフとは違うんだよ、"戦造人間(ウォーフォージド)"は」

 

 "戦造人間(ウォーフォージド)"。

 善悪の戦いが繰り広げられるファンタジーが主のD&D世界にあって、魔法による疑似産業革命・国家間の大戦と暗闘・曖昧な善悪の境目などなど、特異さが際だつ"エベロン"世界にて生み出された人造人間である。

 黒曜石の骨格に植物性繊維が絡みつき、表面を金属製の装甲が覆うその外見はファンタジー版アンドロイドといった趣で到底生物には見えない。

 

 実際彼らは秘術的な実験から生まれた人工物だ――だが、それでも彼らには生命があり、自我があり、魂がある。

 泣き、笑い、歌を歌い、魔術を行使し、神に仕えて信仰の奇跡を授けられさえする。

 戦のために生み出されながら、確固たる意志を持つひとつの命――それが"戦造人間(ウォーフォージド)"という存在であった。

 

 

 

「なあおい。どっちでもいいから、俺にもわかる言葉で話してくれよ」

 

 すっかりくさった様子のシャーナが口を挟み、二人の会話はそこで途切れる。

 

「悪い悪い。前に予言の話をしたろう? このおっさんも俺と同じ予言を受けてるお仲間ってことさ」

「おっさん・・・私が若かったり女性だったりしたらどうするつもりか、君は」

「ウォーフォージドだろ。それもかなりの年を経た。おっさんでいいじゃないか」

「・・・」

 

 あからさまに不服そうな雰囲気をかもし出す怪人。

 にやにやとイサミが意地の悪い笑みを浮かべた。

 ちなみにウォーフォージドには性別は――少なくとも肉体的なそれは――ない。

 

「まあ、お前の同類ってのはわかった。

 色々ややこしいみてぇだが、そのウォーなんたらってのはなんだよ? おまえがそうなのか?」

「ふむ・・・」

 

 フードに隠れた視線がちらりとイサミを見た。

 イサミが軽く頷く。

 

「やっぱり見て貰った方がいいんじゃないか?」

「そうだな。だが、驚かないでくれよ」

 

 そう言って怪人はフードとヴェールを取る。

 その下から現れたのは、白銀の兜に覆われた頭部と、人の顔を抽象的に模した同じく白銀の仮面だ。

 古代の神像のようにも見えるし、SF映画のアンドロイドのようにも見える。

 

「仮面・・・?」

「いいや、違う。これが私だ、シャーナ・ダーサ」

「しゃべった?!」

 

 目の部分の玉石がぎょろりとシャーナの方を向き、口が動いて言葉を紡ぎ出す。

 仮面と思っていたものが動くのを目の当たりにして、シャーナは絶句した。

 

「この体の半分位は石とミスラル――ミスリルでできている。

 これがウォーフォージド・・・戦のために生み出された種族だ。

 だが勘違いしないで欲しい。私たちはモンスターではない。

 心があり、魂があり、命があるのだ――人間やエルフと、何ら変わらぬ命なのだ」

「・・・」

 

 沈黙が落ちる。

 ややあって、シャーナがはーっ、と長いため息をついた。

 

「色々納得はいかないが、イサミに免じて勘弁してやる。

 だが、俺がてめぇを気に入ってる訳じゃないのは覚えておけよ」

「感謝する。それで十分だ」

 

 怪人が一礼した。

 

「ところで、そろそろ名前を教えて貰えないかな。怪しい人とかウォーフォージドとかじゃ呼びづらい」

「『フェルズ』だ。今はそう名乗っている」

「"愚者(フェルズ)"? また自虐的なネーミングだな」

「実際愚者なのさ、私は。今ここにいるのも、己の愚行の償いのようなものだ」

 

 嘆息するその声には、深い後悔の色があるように思えた。

 

「・・・まぁそれはいい。それで、59階層でロキ・ファミリアと協力して調査なり探索なりを行えばいいのか?

 俺がここに来た理由がそこにあると?」

「で、あろうと私たちは考えている――少なくともその一部ではあるはずだ。

 私たちも、事態の全てを把握しているわけではないのだ」

 

 嘘では無いが、事実を全て述べてもいないと感覚は告げていたが、それでもイサミは首を縦に振った。

 

「わかった。どのみち二人だけで59階層の攻略は難しそうだからな。それこそ階層主が出てくる可能性もある――シャーナはどうする?」

「今更そういう事は言いッこなしだぜ、相棒。お前が行くって言うならついてくだけさ」

 

 隣の巨体を見上げてニッ、と笑う。

 イサミも笑い返し、二人は拳を軽く打ち合わせた。

 

 

 

「・・・と、言う訳でさ。59階層の攻略はロキ・ファミリアとタイミングを合わせなきゃいけない。それまでにできる限り強くなっておきたいのさ」

「ふーん・・・つまり、みんなでがんばろうってことだね!」

「ああうん、それでいいよ」

 

 満面の笑みを浮かべるレーテーに、二人揃って苦笑をこぼす。

 そしてイサミが天を仰いだ。

 

 その視線の先には都市の中央にそびえ立つバベルの塔。

 迷宮のフタにして入り口。

 

「それに俺はあいつの兄貴だからことさらだけど・・・お前達もあいつの戦いを見て、何か感じるところはあったろう?

 こう、さ・・・体を動かさずにはいられないんじゃないのか?」

「・・・」

「・・・」

 

 イサミの問いに、シャーナとレーテーは無言のまま、しかし雄弁に肯定の意を返す。

 

「特に俺は兄貴だからさ。あいつより強くないといけないんだよ。

 だからさ、ダンジョン行こうぜ、ダンジョン。あんなもの見せられたら、強くならずにはいられないよ」

「だな」

「うんっ!」

 

 にやりとシャーナが笑い、レーテーは満面の笑みでこくりと頷く。

 そのまま三人は、足早にバベル目指して歩みを進めた。




 たったひとつの命を捨てて、生まれ変わった不死身の体
 鉄の悪魔を叩いて砕く、フェルズがやらねば誰がやる!(CV:内海賢二)


 なおウォーフォージドは公式で寿命がないので(多少劣化はしますが)、原作のフェルズと同じく不老不死ではあります。
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