ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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2-2 怪物祭(モンスターフィリア)

 

 それからは何事もなく過ぎた。

 イサミとベルはダンジョンに、ヘスティアはバイトに。

 ダンジョンから戻ってくると、廃教会一階を改造した空きスペースを使って兄弟で特訓。

 ベルがボロボロになるまで模擬戦をして、気絶したら治療、模擬戦再開。これを寝るまで繰り返した。

 

 翌日の夜ヘスティアは「神の宴」に向かい、兄弟は二人で夕食を取り、特訓をした。

 二人だけの夕食がさらに二日続き、神の宴から三日目の朝。

 二人は一緒にダンジョンへの道を歩いていた。

 いつもよりそこはかとなく活気のある通りを見回してベルが首をひねる。

 

「何だろ? なにか賑やかな気がしない?」

「ああ、そういえば今日は怪物祭(モンスターフィリア)だっけ」

「怪物祭?」

「ガネーシャ・ファミリアがモンスターを捕まえてきてな、それを観客の目の前で調教してみせるのさ。

 東の端にある闘技場でやってるんだ。何なら見てく・・・・」

「おーい、待つニャー、そこのでこぼこトラウサ兄弟ー!」

 

 後ろからかかった声に、兄弟が同時に振り向く。

「豊穣の女主人亭」の猫耳ウェイトレスが手をぶんぶんと振っていた。

 

 

 

 

「白髪頭はシルのマブダチニャ。だからこれを渡してほしいニャ」

「えーと・・・」

 

 ベルが訳がわからず戸惑うところに、エルフのウェイトレス、リューが現れる。

 

「アーニャ。それでは説明不足です。クラネルさんも困っています」

「彼女は怪物祭を見に行ったけど、財布を忘れたので届けてほしいと、そう言う事じゃ?」

 

 さらりと正答したイサミに、リューとベルが賞賛のまなざしを向け、アーニャがなぜか胸を張る。

 

「ほら見るニャ! そんな事話さずともわかる事ニャ!」

「そう思います?」

「いえ、あなたのお兄さんがすごいだけでしょう」

「ですよねー」

 

 胸を張ったその横で盛大にスルーされ、猫耳ウェイトレスがわなわなと震えだした。

 

「このでかちん! なぜストレートに理解したニャ?! そのせいでアーニャが恥をかいたニャ!」

「俺かよ?!」

「そういうわけですので、申し訳ありませんが、頼まれていただけないでしょうか。私たちは店の準備で手が離せませんので・・・」

「別にかまいませんけど・・・」

「スルーしてるなよ、おい!」

 

 アーニャを押しつけて、二人で会話しているベルとリューにイサミがぼやく。

 

「おまえが悪いニャー! まあともかく、うっかり娘に財布を届けてほしいニャ。さっき出たばかりだし、すぐ追いつけると思うニャ」

「まあそれくらいなら請け負うけどね・・・」

「いいですよ。シルさんにはお世話になってますし」

「なってたか? うまくはめられて客寄せに使われただけのような」

「あはは・・・」

 

 兄の容赦ない言葉に冷や汗を流すベルであった。

 

 

 

「はい、これ」

「おおおおおおお・・・・!」

 

 ヘスティアは感嘆の声を上げた。

 30時間連続耐久土下座と、二億ヴァリスの借金と引き替えに作ってもらった、ベルのためだけの武器。

 鍛冶の女神ヘファイストス入魂の業物、黒い短刀「ヘスティア・ナイフ」。

 なお、ヘスティア発案の「ラブ・ダガー」のネーミングはヘファイストスが必死で阻止した。

 

「ご要望には応えられたかしら?」

「うんうん、十分十分っ! 文句なんてあるわけもないさ!」

 

 頭の横のツインテールをゆらゆら揺らし、喜色満面でナイフをケースに収める。

 

「言っておくけど、借金踏み倒すんじゃないわよ」

「わかってるわかってる!」

 

 ヘファイストスの釘差しを幸せ絶頂、といった風で聞き流し、ヘスティアはうきうきと部屋を出て行く。

 何を想像しているのか、でへへとゆるむその表情に、男装の麗人がひとつ、ため息をついた。

 

 

 

 『豊穣の女主人』から東へ早歩きに移動し、『バベル』を過ぎて東のメインストリートに入る。

 人混みの密度が上がってきたところで歩調をゆるめるが、さらにしばらく歩いたところでイサミがしきりに首をかしげ始めた。

 時々立ち止まり、ゆっくり一回転するも、思ったような結果が出ず、困惑しているようである。

 

「さっきからどうしたの、にいさん?」

「いや・・・全然あの子の反応が無くてな。『ちょっと前に出た』って話が本当なら、とっくに見つかってると思うんだが」

 

 今イサミは"生物定位(ロケート・クリーチャー)"の呪文を発動している。

 《呪文距離延長(エンラージ)》の呪文修正も込みで、有効距離はおおよそ1.7km。

 目標はシル一人に絞っているので、この範囲内にあのウェイトレスがいるならすぐに見つかるはずなのだ。

 

「ひょっとして追い抜いちゃったんじゃない?」

「いや、呪文を使ったのは酒場の前でだからな。そのときも引っかからなかったんだよな」

「それじゃ、もうコロシアムまで行っちゃってるとか?」

「まあ、それかな。もう少し行けばひっかかるだろう」

 

 そんな事を話しながら、人混みの中を行く兄弟に声がかかったのはそのときだった。

 

「おーい! ベルくーん! イサミくーん!」

「神様!? どうしてここに?」

「そりゃあもちろん、君に会いたかったからさ!」

 

 ふふん、と胸を張るヘスティア。体格に不釣り合いな胸がぶるん、と揺れる。

 

「この人混みでよく見つけられましたねえ」

「愛の力だよ!」

 

 割とマジでそうかもしれない、と納得してしまうイサミ。

 さしもの彼も、美の女神がお膳立てしたとはわかるはずもない。

 

「いやあ、それにしても素晴らしい! 会おうと思ったら本当に会えるなんて!

 やっぱりボクたちはただならぬ絆で結ばれてるんじゃないかな!」

「か、神様? すっごいご機嫌ですけど、何があったんですか?」

 

 徹夜明けの異常なハイテンションにやや引き気味のベルに、ヘスティアはぬふふふ、と不気味な笑みを浮かべる。

 

「実はね・・・やーめた。今は教えない。楽しみは後に取っておこう!」

「えー?」

 

 露骨にがっかりするベルに再びぬふふふ、とほくそ笑んでからヘスティアがちらっとイサミに目をやった。

 イサミも視線でそれに答え、ごく自然な風に次の言葉を切り出す。

 

「ついでだ、ベル。神様のエスコートして祭りを回ってこい。彼女を見つけるなら俺一人いれば十分だしな」

「そうだね、それがいい! それじゃイサミくん! ベルくんを借りるよ!」

「どうぞどうぞ、こんなのでよければいくらでも」

「え? え? え?」

 

 まさに阿吽の呼吸。

 流れるように腕を絡めて歩き出す主神に、ベルはうろたえながら引っ張られるしかない。

 幸せそうにくっつきながら、ヘスティアとイサミの視線が一瞬絡み合う。

 

(よくやった! さすがボクの眷属、褒めてつかわす!)

(お褒めにあずかり恐悦至極)

 

 瞬時の――無駄に高度な――アイコンタクトを交わし、ヘスティアはベルを引きずってイサミから離れてゆく。

 それを曖昧な笑みで見送り、イサミはコロシアムの方へ身を翻した。

 

 

 

「ベルくん、ほら、あーん」

「か、神様っ!?」

 

 ・・・などと、二人が(主にヘスティアが)デートを満喫しているころ。

 闘技場の入り口付近、南ゲートでイサミが難しい顔をしていた。

 

(ここまで来て、まだ反応がない・・・それだけならまだしも、"上級念視(グレーター・スクライング)"はおろか、"完全位置同定(ディサーン・ロケーション)"にすら反応がないのはどう言うわけだ?)

 

 "上級念視"は対象の周囲に起きていることを見聞きする呪文、"完全位置同定"は"生物定位"の上位に当たる呪文である。

 とりわけ"完全位置同定"はこの種の呪文の中でも最上級の物で、効果範囲は無限大、次元の壁やほぼあらゆる魔法的障害も貫通するという強力な呪文だ。

 この呪文ですら反応がないと言う事は、シルという存在が髪の毛一本残さず完全に消滅したか、もしくはきわめて強力な魔法的防御に守られているかのいずれかということになる。

 

 万が一死んでいたとしても、死体のかけらすら残っていないというのはそうそうあり得ない。

 となると後者だが、これも余りありそうにはないことではある。

 ダンジョンの構造物ですらこの呪文を阻害することはできないのだから、よほど高レベルの術者か、さもなくば神の力が関わってでもこない限り無理な相談だ。

 

(この世界だと次元の壁を越えた場合も探知できない可能性はあるが・・・)

 

 そう簡単に次元の壁が越えられるなら、イサミの迷宮探索はもっと楽な物になっているはずである。

 例外として彼の持っている(ベルにも持たせている)マジックアイテム「ヒューワードの便利な背負い袋(ヒューワーズ・ハンディ・ハヴァサック)」などはいわゆる異次元ポケットになっており、内部はある種の別次元として扱われる。

 が、これとて"完全位置同定"の呪文を阻害することはできない。強固なのはあくまでこの世界の次元の壁だけなのだ。

 

 閑話休題。

 

(何か厄ネタの匂いがするなあ・・・)

 

 苦い顔で頭をボリボリとかくイサミ。

 正直やっかいごとはゴメンだし、あのシルというウェイトレスにも義理はないが、万が一何かの事件に巻き込まれているなら、見捨てるのも寝覚めが悪い。

 

「つっても、全く手がかりがないとなると・・・地道に聞き込みっきゃないか?」

 

 人口数十万の大都市で、しかも祭りの日に女の子一人の行方を追う。

 正直どうすりゃいいんだと叫びたくなるレベルの不可能事であろう。

 

「イサミ君」

「ん?」

 

 聞き覚えのある声に振り向くと、そこにいたのは眼鏡をかけたパンツスーツのハーフエルフ。

 イサミ達兄弟の担当アドバイザー、エイナ・チュールである。

 担当冒険者に対して非常に親身に接し、特にベルが世話になっているため、イサミにとっては頭の上がらない相手だった。

 

「あ、これは・・・いつも弟が世話になってます。その、この前もご迷惑をおかけしたようで・・・」

 

 冷や汗を流しながら頭をぺこぺこと下げるイサミ。

 彼の弟が血まみれトマト状態でエイナに迫った(一部誇張あり)のは、つい先日のことである。

 

「あはは・・・まあ、あのときは興奮してたみたいだしね?

 それより君の方はどうなの? ベルくんと違って、全然来てくれないけど。何階層まで行ったの?」

「十階層でちまちま稼いでますよ」

「十階層?!」

 

 驚きの声と共に、形のよい眉がきりりとつり上がる。

 あ、やばいな、とイサミが思う間もなく、エイナが爆発した。

 

「そろいもそろって何を考えているの、あなたたち兄弟は! 冒険者になってからまだ半月でしょう!

 それで十階層? ベルくんと違ってあなたはしっかりしてると思ってたのに!」

 

 ベルもベルでえらい言われようだな、とは思ったものの、そこはフォローできないのでとりあえず聞き流す。

 もちろん実際に降りているのは十階層どころではないのだが、まさか正直に言えるわけもない。

 

「いや、言ったでしょう? 俺は魔法が使えるんですってば。超短文詠唱で、しかもオークの10匹くらいなら一撃でほぼ全滅させられるんです。

 正直、十階層というのも、割と余裕を見てるんですよ?」

「だとしても、急すぎるでしょう? 魔法だって、使いすぎたら気絶したりするのよ? しかも、深い階層での戦闘に慣れないうちに」

「そのへんは覚えてますよ。それに、エイナさんの授業ではちゃんと結果出してるでしょう?」

「まあ、それはそうだけど・・・」

 

 痛いところを突かれてエイナの声がトーンダウンする。

 実際、授業で結果を出すどころか、知識面ではエイナを圧倒しているイサミである。

 曲がりなりにも高等教育を受けた、この世界では1%にも満たない知識層であるエイナにとっては未だに信じられない事実であった。

 

 あらゆる技能の判定を可能にする《何でも屋(ジャック・オブ・オール・トレード)》特技と、知識判定にボーナスを与える《ドラゴン譲りの知識(ドラコニック・ナレッジ)》特技。

 それを強化する大量の《ドラゴン譲り》特技を組み合わせているイサミならではであるが、もちろんエイナはそんな事を知るよしもない。

 

「そういえば、短い灰色の髪の女の子を見ませんでした? 年の頃は十五、六のヒューマンで、背丈はベルと同じくらいなんですが。財布無くしたんで困った顔でうろうろしてたりするかもしれません」

「え? えーと・・・うーん、覚えがないわね。友達?」

「知り合いの酒場のウェイトレスです。財布を届けるように頼まれたんですが・・・」

「おーい、エイナ! こっち来てくれ!」

 

 そこで、後ろから声がかかった。

 顔をしかめてから、叫び返す。

 

「はーい! 今行きます! ごめんね、ちょっと手が離せなくなっちゃったみたい」

「いいですよ、ダメ元の話ですし」

 

 もう一度ごめんね? と謝って、エイナは同僚のもとへ駆けだした。

 その背を見送ったイサミは少し考え込んだ後、闘技場の方に歩き出し――数歩歩いてぴくり、と足を止めた。




 待ちに待ってたやっと出た!
 中盤以降割と影薄いよねとか言われそうな主人公専用武器!(ぉ

 ちなみにタイトルになってる「レガシーウェポン」(古代の偉大な遺失武器くらいのニュアンスでしょうか)も使い手の成長に伴って成長していく武器ではあるのですが、何故か成長するたびにメリットを相殺するかそれ以上のデメリットが降ってくるので、3.5版的には割とゴミアイテムと言われております。
 いやほんと、召喚獣を呼べる代わりに命中率が下がる剣とか、純戦士が欲しがる理由が無いって・・・
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