ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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11-3 お茶会再び

 その後ベルは丸一日寝込み、そしてヘスティアの手によってランクアップした。

 

「ほら、拡張アビリティは【幸運】。スキルも発現したぜ・・・【英雄願望(アルゴノゥト)】だって。かわいいね、ベルくん?」

「うわぁぁぁぁ神様のばかぁぁぁぁ!」

「わははははは、純だなあ、少年!」

「えっとねえ、レーテーはかっこいいと思うよ? ベルちゃんはちっちゃな男の子のままなんだね」

「わああああああああん!」

「あ、逃げた」

「あれ? なんで?」

 

 

 

 更にその翌々日【神会】でベルのランクアップが承認され、【リトル・ルーキー】の二つ名が授けられた。

 フレイヤが不自然な程にベルとイサミに肩入れし、不倶戴天の間柄であるはずのロキがヘスティアに忠告するなど奇妙な雰囲気が流れる。

 

 一方で食人花についての警告には多くの神がその表情を改め、ロキ、ディオニュソス、ヘルメスが神々の中に一連の事件の首謀者がいないかどうか探りを入れたが、それは不発に終わった。

 

 更にベルがお調子者の神々に絡まれたり、

 イサミもからまれそうになって直前で回避したり、

 ランクアップお祝いパーティで酔った冒険者に絡まれたり、

 これまでの最短記録を大きく破ったランクアップ速度が話題になったり、

 ベルが新たな仲間を得たり、

 【英雄願望】スキルが発動して小ドラゴンを一撃で撃墜したり、

 イサミが中層進出の前祝いにベルとリリにマジックアイテムをプレゼントしたり・・・

 

 その間もイサミたちは黙々と探索と準備を続け、ミノタウロスとの戦いから数えて六日後。

 ついにロキ・ファミリアが49階層に到達した。

 

 

 

「うおー! やってきたぞ49階層ー!」

 

 闘志満々で吼えるのはアマゾネス姉妹の妹ティオナ。

 ベルとミノタウロスの戦いを見て以降、ロキ・ファミリアの一級冒険者達には火がついていた。

 

 未熟ながらも魂を震わせるような、全力を振り絞った強敵との戦い。

 それは教え導く立場のフィンやリヴェリアですら例外ではない。

 

「私だって・・・!」

 

 一方、エルフの魔導士レフィーヤも無言で杖を握り、闘志をたぎらせている。

 リヴェリアから聞いた戦いぶりに加え、己のお株を奪うかのような万能コピー魔法。

 アイズを巡るライバルとして(勝手に)認定している相手の雄飛に、闘志を燃やさずにはいられないレフィーヤである。

 

 

 

 整然と隊列を組んで、ロキファミリアは『大荒野』を進む。

 

「・・・?」

 

 それに最初に気づいたのは感覚の鋭い獣人族のベートだった。

 

「おい、おかしいぞ・・・クソッタレのフォモール共の姿が全く見えねえ」

「間違いないのかい、ベート?」

「このだだっ広い階層で、ここまで影も形も見えないってのはねえよ。おまけに匂いすらしねえ・・・こっちが風下だってのに」

「フム・・・」

 

 その場で停止し、足の速いベートやアイズらを偵察に出す。

 それで判明したのは、この階層からモンスターが一掃されている事実だった。

 

「大量の灰が残ってた・・・魔石をえぐり出したフォモールの死体だと思う」

「こっちも同じだ。後、裏ッ返しになったり砕けたりした岩が多々あった。

 どういうことかはわからねえが・・・」

 

 彼らの話を聞きフィンは僅かに瞑目していたが、やがて前進を命じる。

 結局50階層への階段に到達するまで、彼らはモンスターと遭遇しなかった。

 

 

 

 50階層。

 

「やあみなさん、おそろいで」

「ちょっと待て! なんでテメエがここにいるんだ!?」

 

 安全階層に到達し、ベースキャンプを設置しようとしたロキ・ファミリアの前に現れたのは、8人程が入れる大型テントとその前にテーブルセットを設置してお茶を楽しむイサミ達の姿であった。

 ベートは当然だが、イサミのことを知らない一般の団員やヘファイストス・ファミリアの鍛冶師達も目を丸くしている。

 

 もちろん計算ずくの行為である。

 ロキ・ファミリアの進行を見計らって再出現の前に彼らが49階層を通るようにフォモールを全滅させ、更に初見でインパクトを与える。ウダイオスのお茶会に招かれたフィン達には効果が薄いだろうが、それでもある程度のはったりにはなるはずであった。

 

「おい! 何でいるのかって聞いてんだよ!」

 

 食ってかかるベートに半目をくれ、イサミは涼しい顔で受け流す。

 

「別にお前の家ってわけでもあるまい。何か問題でもあるのか?」

「・・・っ!」

 

 歯ぎしりするベートに代わり、軽い呆れ顔のガレスが口を開いた。

 

「他のファミリアの遠征の話は聞かなんだが・・・おぬしら、届け出はしておらんじゃろう?」

「報告は義務ですけど、届け出は慣習であって義務じゃないんですよ。うちはあまり注目されたくないので出してません」

「そうなのか? 初耳じゃぞ」

 

 ガレスはいぶかしげだが、事実である。

 お役所仕事ではまれによくあることだ。

 

「良くあることなんだよなあ・・・」

「なんでため息をついとるんじゃ」

「いえ何でも」

 

 イサミはお役所仕事のなせる業だと思っているが、実際のところは少し違う。

 深層への「遠征」というのは探索系ファミリアの義務である到達階層更新のために行われる事が多いのだが、まれに事故やノリで更新してしまう場合もあるため、そうした事後報告も認められているのである。

 閑話休題。

 

 

 

 リヴェリアと苦笑を交わしていたフィンが口を開いた。

 口元に笑みは残っているが、ただし目は笑っていない。

 

「で。聞くまでも無いことだろうけど、君たちも59階層にアタックするつもりかい?」

「ええ。一度失敗してますからね。今度は準備を整えてきましたよ――芋虫対策も、砲竜対策も。どうです? ここは一つ、協力してアタックするというのは」

 

 ぴくり、とフィンの眉が動いた。

 

「協力とはまた大きく出たね。こちらの傘下に入る、ではなく?」

「ええ。そちらは戦力を、こちらは技術と策、ついでに物資を提供する。

 戦力についても、俺たちだって三人で49階層のフォモールを全滅させるだけの実力はある。

 十分な交換条件ではあると思いますが。それに、飯のうまさは保証しますよ?」

 

 にやりと笑うイサミに、今度は本当の苦笑を一瞬漏らす。

 

「まあ、それについては疑いはしないけどね。

 実際君の火力は有用だし、君の仲間も腕利きなのはわかる。

 ただ、もう一押し欲しいところだね」

 

 賭け金をつり上げる小人族の英雄に、イサミも再び上乗せ(レイズ)

 

「それは・・・」

 

 イサミの説明を聞き、しばらく沈思黙考する。

 

「わかった。だが戦闘では基本僕の指示に従って貰うと言う事でいいね?」

「商談成立ですな」

 

 団長同士の間で握手が交わされる。

 フィン・ディムナはイサミ達を受け入れることを決定した。

 

 

 

「うめー?! 何っすかこれうめー?!」

「んー! これよこれ! もっぺん食べたかったー!」

「・・・!」

 

 阿鼻叫喚のごとき歓声が50階層に響き渡る。

 "英雄の饗宴(ヒーローズ・フィースト)"でイサミが用意した晩餐である。

 

 ロキ・ファミリア中堅団員のまとめ役である――にもかかわらず地味で影が薄い――ラウルはうまいうまいと連呼し、ティオナはかたっぱしからむさぼり食う。

 ベートは恐ろしい程不機嫌な顔で牛のアバラのあぶり肉にかじりついていた。

 一般の団員の反応についてはことさら述べる必要もあるまい。

 

「そう言えばアイズ、その腰にぶら下げてるのは?」

「出発前にルルネから貰ったんです。体のどこかに下げておいてくれって・・・」

「おう、ちょっと邪魔するぞ」

 

 褐色の肌を持つ女性がイサミ達の隣に腰を下ろした。

 ヘファイストス・ファミリア首領、椿・コルブランドである。

 入れ替わりに、レフィーヤに呼ばれたアイズが一礼して席を立った。

 

「久しいの、イサミ殿」

「どうも、椿さん。なんでまた・・・ひょっとして例の芋虫絡みですか?」

 

 51階層を探索している間に、イサミ達も何度も強化種の芋虫型に出会っていた。

 何でも溶かす溶解液を放出し、体液も同様の強酸性を持つため、普通の武器では攻撃することもかなわない難物だ。

 

「当たらずといえども遠からずだの。それ対策で不壊属性武器(デュランダル)を注文されてな。

 ついでにファミリアぐるみで遠征中の武器の整備も引き受けたわけだ。その分予備武器が不要になり、魔剣を運べるからな」

 

 あー、と納得するイサミ。

 次の瞬間、表情が一転して興味と好奇心が顔に浮かぶ。

 

「ってことは、今椿さんの作った不壊属性武器(デュランダル)がここに?」

「ぬっふっふ、食事の後に打ち合わせがあろう、そこでとくと堪能するがよい」

「いいですねえ。楽しみですよ」

 

 イサミが笑みを浮かべると、椿は期待しておれ、とでもいうように大きく頷いた。

 

「そう言えば芋虫対策、お主らは大丈夫なのか? お手前は魔導士だからいいとしても、ほかの二人は前衛であろう」

「もちろん考えてますよ。"青輝鍛造(ブルーシャイン)"という技法がありましてね。武器や鎧の腐食を完全に防いでくれるんです」

「ほう、ほう、ほう。神秘アビリティとはその様な事もできるのか。鍛冶で再現できるなら是非やり方を・・・」

「だから大きな声で言うなっつーの。まぁ難しいと思いますが、可能性としては・・・」

「むー・・・」

 

 そのまま技術方面の話に突入するイサミと椿を、レーテーが頬をふくらませて不満そうに睨む。

 話に混じれないのが悔しいらしい。

 

「あーもー、かわいいよねえ、シャーナちゃん」

「ほら、焼き肉食べる?」

「フルーツ取って上げるよ!」

「こっちの焼き菓子も美味しいぞー」

「はは・・・ははは・・・」

 

 一方でシャーナはやっぱりレフィーヤを初めとする女性陣に愛でられていた。

 元よりロキ・ファミリアは男性より女性のほうが多い。

 その分シャーナの周囲の女性の壁は分厚くなっており、シャーナの流す冷や汗の量も比例して増えていた――人それを因果応報という。




インガオホー・・・おお、インガオホー!
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