ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
「最後の打ち合わせを始めよう」
ロキ・ファミリア三十七人、ヘファイストス・ファミリア二十四人、ヘスティア・ファミリア三人。
食事を終え、輪になった一同がフィンの言葉に耳を傾ける。
「事前に伝えてあるとおり、51階層からは選抜した一隊でアタックを仕掛ける。
残りはこのベースキャンプの防衛に回って貰う。
パーティは僕、リヴェリア、ガレス、アイズ、ティオネ、ティオナ、ベート。
サポーターにラウル、ナルヴィ、アリシア、クルス、レフィーヤ。
それにヘスティア・ファミリアのイサミ・クラネル、シャーナ・ダーサ、レーテー。加えて椿に武器整備士として参加して貰う」
「うむ、任された!」
イサミ達を含め、名前を呼ばれた者達が真剣な表情で、あるいは笑みを浮かべて頷く。
椿などは後者だ。
そして種々の注意事項や溶解液を放出する芋虫型への対抗策などをフィンが一通り述べた後、椿が立ち上がった。
自慢げな笑みを見るに、こちらも自分の作品を披露したくてうずうずしていたらしい。
「では渡すものを渡しておくぞ! 注文されていた品・・・『
「おお・・・!」
白布に包まれた武具が、ロキ・ファミリアの一級冒険者達の前に差し出される。
フィンには長槍。ガレスは大戦斧。ベートは双剣。ティオナは大剣。ティオネはハルバード。
「連作《ローラン》。それぞれの要望通りに作った。
第二等級武装並みの切れ味は保証しよう」
壊れず、折れず、曲がらず、溶けず、燃えず、錆びない。
強度の溶解液を放ち、体液で武器を溶かす芋虫型に対しても、不壊属性武器は全くその威力を失わない。
魔導士のリヴェリアと元から不壊属性の武器を持つアイズを除き、全てのロキ・ファミリア前衛に不壊属性武器が行き渡る。
一級冒険者達は己の新しい得物を満足げに眺め、あるいは振り回して使い心地を確かめていた。
イサミなどはティオナを拝み倒してちょっぴり彼女の大剣に触らせて貰っていたりもする。
やがてフィンが解散を宣言し、一同はそれぞれ思い思いに動き始める。
天幕に戻るもの。血のたぎりを押さえられず体を動かすもの。明日に備え、静かに剣を研ぐもの。
そしてイサミ達は自分達のテントに戻り、くつろいでいた。
座り込んで食後のお茶を入れた後、シャーナがもの問いたげにイサミを見る。
「それで・・・大丈夫かよ、おまえ?」
「大丈夫かっていうと、何が?」
「すっとぼけんな。59階層の何かのことだよ。・・・絶対あの女なりおっさんなり、どっちかか、あるいは両方が絡んでくるんじゃねえのか」
あいつら相手に戦えるのか? と暗に問うてくる。
「まぁ・・・どうにかするしかないでしょう。いざとなったら逃げる手もある」
「ならいいがな」
いささか疑わしそうにではあるが、シャーナが一応納得のていを見せる。
それと同時に、イサミの背中に柔らかい重みがのしかかってきた。
「・・・なんだよ、レーテー?」
あぐらをかいたイサミを、レーテーが後ろから抱きしめている。
「大丈夫。イサミちゃんはぁ、私が守るから」
「・・・そっか、ありがとな」
姿勢はそのまま、抱きついているレーテーの頭を撫でてやる。
「ん・・・」
「やれやれだ」
眼を細め、気持ちよさそうに撫でられるレーテー。
ため息をついて肩をすくめるシャーナ。
その顔には苦笑が張り付いている。
イサミ達の未到達階層アタック前夜は、そうして過ぎていった。
「ところでお前、女は平気になったのか。前は俺がくっついただけで赤くなったのに」
「ぶっちゃけ慣れました」
「ああ・・・」
「?」
自分に向いた視線に首をかしげるレーテー。
まあ、四六時中抱きつかれていれば耐性もできようというものである。
怪物の咆哮・・・いや、苦鳴が暗闇に響く。
どことも知れぬ暗い空間。
苦鳴が響くごとに、紫紺の光を放つ結晶――魔石が地に落ちる。
それを手に取り噛み砕くのは赤髪の麗人、24階層でイサミ達と交戦した怪人レヴィス。
白装束の仮面の怪人、元闇派閥にして現在は半ば人をやめたクリーチャー、オリヴァス・アクトの姿もあった。
拘束されたモンスターを黙々と屠り、その魔石をレヴィスの元に運んでいく。
それは雛をかいがいしく世話する親鳥のようにも見えた。
唐突に、人ならざるものの声がこの空間に響く。
紫紺のフード付きローブに不気味な仮面を被った謎の人物。
『何ヲシテイル。【剣姫】達ハ既ニ『深層』ヘ向カッタ。何故動カナイ』
「食事だ。この体はひどく燃費が悪いし・・・それに傷は深い」
視線を向けもせず、ひたすらに魔石を貪るレヴィス。
オリヴァスが振り向き、口を開いた。
「『アリア』にあの魔導士の大男・・・今の我々より奴らは強い。正面からぶつかったところで太刀打ちはできまい。
それに今回はあの女が絡んでいるのだろう? 尚更我々の出る幕はない」
『勝手ナ事ヲ・・・神ニ逆ラウツモリカ!』
「貴様らが私を利用するのは好きにしろ。だが私は勝手に動く。話は終わりか? なら消えろ」
レヴィスの最後通告を叩き付けられ、憤懣たる様相でローブの人物はきびすを返した。
足音が暗闇に消えると、レヴィスは魔石をかじる手を止めて傍らの白い怪人を見上げる。
「お前はいいのか? 私と違って貴様はあれに随分と入れ込んでいたようだが?」
オリヴァスはしばし無言でたたずみ、やがて口を開く。
「実際にあやつらが絡んでいる以上、今の私たちでは行ったところで意味がない。
今はお前の戦力を回復させ、強化することが先決だ」
仮面越しのオリヴァスの視線と、見上げるレヴィスの視線が静かに絡む。
「・・・ならさっさと魔石を持って来い。おかわりだ」
「わかった」
頷いて、オリヴァスは闇の中に消えた。
翌朝。
光の届かない迷宮でも着実に時間は流れる。
朝、再びの《
そして冒険者達は無言で準備を整え。
「――出発する」
フィン・ディムナの静かな号令と共に、未到達階層攻略パーティは野営地を発つ。
前衛にベートとティオナ、中衛にアイズとティオネ、そしてフィン、椿。
後衛にリヴェリア、レフィーヤとガレス、イサミ達ヘスティア・ファミリア。
これにそれぞれ予備武器やポーションを抱えたサポーターたちが付く。
シャーナやレーテーはドワーフの大戦士ガレスと共に、イサミを含む後衛の魔導士達の盾になる布陣である。
部外者であり、連携の訓練を積んでいないイサミ達を有効活用するにはこの位置しかなかったとも言える。
「《
「《
呪文と共に数十本の炎柱が立ち並び、モンスターを焼いていく。
「すげぇっす・・・」
今までイサミの魔法を見たことが無かったラウルが呆然とつぶやく。
前後左右、出現する敵のことごとくをイサミの魔法が屠り、パーティは無人の野を行くがごとく51階層を疾走する。
ブラックライノスが炎の柱の中に折り重なって倒れる。
奇襲を得意とするデフォルミス・スパイダーも、イサミの目を逃れることはできない。
四方八方から襲いかかろうとする巨大グモは、的確に出現位置を捉えられて次々焼却される。
もっとも恐るべき敵であったはずの芋虫型ですら、この高速範囲火力には太刀打ち出来ない。
最初のダメージに耐えても炎の柱の列を突破できず、異臭を残して消え去る。
僅かに炎の柱を越えてくるものも、前衛を務めるティオナとベートの前にことごとく瞬時に粉砕されていった。
顔をしかめ、ベートが舌打ちする。
「なーに舌打ちしてんのさー。あ、わかった。《
「馬鹿言ってんじゃねえよ」
けっ、と吐き捨てて炎の列柱の消えた闇の先を透かし見るベート。
「むっ」
遠くに見える敵の姿に、その目が鋭く細まる。
芋虫型らしき影を認め、両手の双剣を構えたその瞬間。
「《
「《
イサミから飛んだ呪文によって芋虫型の大群は接近することすらできず、残らず焼却される。
「・・・けっ!」
さっきより強く、ベートが吐き捨てた。