ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
一方、後衛ではリヴェリアとレフィーヤが曰く言いがたい顔になっていた。
「・・・こんなの反則です・・・」
「まったくだな」
「レフィーヤはまだしも、リヴェリアさんに言われたくはないんですが」
「君ほどではないよ、イサミ・クラネル」
走りながら「うー」と見上げてくるエルフの少女と、こちらは呆れ顔のエルフの美女に肩をすくめるイサミ。
ともにこの世界の常識を覆す反則魔法を有する二人ではあるが、問題はそこではない。
「出てくる敵を全部魔法で片付けられたら苦労はしませんよ! マジックポーションも飲まずにどれだけ精神力蓄えてるんです!?」
これである。
もっとも、イサミからすればこちらの世界の魔法も十分反則だ。
なにしろ重ねに重ねた呪文修正の効果で、"炎の泉"呪文の威力は素のそれの実に24倍に達している。
しかしこれはほぼ無制限に《特技》を取得できるイサミだからできる技であって、本来"炎の泉"に重ねられる呪文修正は戦闘特化した20レベル術者でもせいぜい3つか4つ、威力にして6倍という所だ。
だがその全力を振り絞った威力の遥か上を、この世界の術者達は悠々と行く。
レベルが同じなら五分の力で既にD&D術者の全力を上回り、下手をすれば三分で互角。
効果範囲も圧倒的だ。
イサミの魔法が感心されているのも素早く発動する事と連発できる点であって、威力と効果範囲については「まあ一流」程度なのである。
(ただし"
この世界の魔導士は魔力のアビリティによってあらゆる魔法の効果を上昇させることができる。
D&Dにもそれに近い能力を持つ
しかもどうやら【魔導】アビリティによって、呪文修正に似た効果を付与できるらしい。
(この世界の魔導士の長文詠唱は約一分。D&D世界の魔術師なら、その間に10回は呪文を発動できる。その分威力や効果範囲が広いと考えれば納得はできる、できるが・・・)
詠唱の長さやレパートリーの少なさという弱点はあるものの、この世界の魔法は威力・効果、特にその上限においてD&Dのそれを圧倒的に上回っている。
しかもポーションを飲んできわめてお手軽に使用回数を回復できるおまけ付きだ。
(精神力のつぎ込み方次第で威力が上下するのは魔法というより
にしても《恩恵》といい、D&Dの世界にしても恐ろしく戦闘力が高いんだよなあ、ここ・・・そもそも《恩恵》ってのは・・・)
「っとっ!」
「イサミ! 敵だっ!」
シャーナの叱咤より一瞬早く、イサミは物思いから覚めた。
「《
「ギィィィィィイィ!?」
脇の通路から忍び寄ってきていたデフォルミス・スパイダーの群れが焼き尽くされる。
「ぼっとしてんな、タコ!」
「悪い」
走りながら謝るイサミ。
確かに今はのんきに考察をしていられる状況ではない。
頭を切り換え、イサミは周囲に注意を集中させた。
さして時間も要せず、一行は52階層に続く階段の前に立った。
「ここからはもう、補給は望めないと思ってくれ」
アイテムの使用等はこの場で済ませろというフィンの言葉に対し、ここまで無傷の冒険者達は無言。
ヘスティア・ファミリアの三人を含めて走る緊張に砲竜のことを知らない椿が怪訝な顔をするが、それを気に止めるものはいない。
「それでは、イサミ・クラネル。あれを」
全員の反応に頷き、フィンはイサミに視線を送る。
イサミも頷き、懐から「それ」を取りだした。
迷宮58階層、『竜の壺』最深部。
「
中型の竜である
植物質の装甲に覆われた六本足のライオンのような歩く植物、バトルブライアー。
昆虫と人のあいのこのような褐色の巨人、ホリッド・アンバーハルク。
石の巨獣、スローターストーン・ベヒモス。
下層に出現するブラッドサウルスの上位種である恐竜、ブラッドサウルス・タイラント。
いずれも、推定レベル5に分類される強敵ばかりだ。
その中でひときわ巨体が目を引くのが、この階層の名の由来ともなった砲竜、ヴァルガング・ドラゴン。
10匹ほどたむろするそれらの内の一匹が、ぴくり、と顔を上げた。
それが合図であったかのように、その他のヴァルガング・ドラゴンも次々と顔を上げる。
捉えたのだ。遥か頭上をうろつく不遜な冒険者の存在を。
深く、竜が息を吸い込む。間近にいればその呼気で全身が震えた事だろう。
天向けて開いた口の奥に光がともる。
次の瞬間、極太の火線が天高く立ち上った。
直径数メートル、イサミの使う"炎の泉"呪文の倍以上に達するそれは数百mの距離をものともせず、それどころか天井の岩を易々と貫通する。
火線が次々と天井を穿ち、広間にたむろするモンスター達がギャアギャアと吼える。
ややあって火線が途切れた。
砲竜達が口を閉じ、満足げに再びうずくまる。
侵入者の気配は消えた。
おそらく火線の内一本が命中して消し飛んだのだろう。
やがて騒いでいたモンスター達も落ち付き始める。
その瞬間だった。
『シギャアアアアアアッ!?』
『ゴヴァァァァァァァァッ?!』
階層の中央近く、直径20m程の範囲に数十本の冷気の柱が立つ。
ワンテンポ置いて不可視の衝撃波の柱が同じ範囲に。
凍り付いた体を衝撃波で打ち砕かれ、モンスターどもが崩れ落ちる。
それによって空いた空白に、次の瞬間、一人の冒険者が姿を現した。
2m近い巨躯、側頭部に白いメッシュの入った黒い髪、白い長杖。
イサミである。
『ガァァァアァァ!』
『グウォォォォォッ!』
「《高速化》"
イサミを認識した瞬間、周囲から殺到するモンスター達を高さ12mの不可視の壁が阻止する。
単純な力や火力では決して打ち破れない力場の壁は、モンスターの爪牙はおろか、砲竜の大火炎すらものともしない。
それらを尻目に、イサミは左手で素早く懐からハンカチ大の折りたたんだ布を取り出した。
軽く振るとそれは直径1.8mほどの円状になり、ふわりと地面に広がる。
次の瞬間、そこには深さ3mの穴が出現していた。
中にはシャーナ、レーテーをはじめ、ロキ・ファミリアの面々がぎっしりと詰まっている。
ガレスの肩の上に地味なラウルが立ち、フィンは幸せそうな顔のティオネに肩車され、小柄なシャーナとレフィーヤは胴上げ状態でこの狭い空間に詰め込まれている。
「よっしゃ! うまくいったみてぇだな!」
シャーナが素早く起き上がり、長身のベートの肩を踏み台にして穴から飛び出す。
手に持っていたガラス瓶をイサミに投げると、そのままベートの手を取って引っ張り上げた。
同時にフィンが飛び出し、やや遅れてレフィーヤがあたふたと這い出してくる。
レーテーが残ったメンバーを穴の外に投げ、あるいは自分で穴の縁に飛びついて這い出すのを見ながら、イサミはキャッチしたガラス瓶をバックパックにしまった。
ガラス瓶は"
そして床に広がった布は"
イサミは自分以外のパーティをポータブル・ホールに詰めこみ、単身52階層に突入。
砲竜の階層間攻撃を誘って58階層直通の穴を空けさせる。
(イサミとその装備は圧倒的な強度の《ドラゴン譲りの抵抗力》特技で守られているため、直撃でも傷一つつかない)
しかる後"
"炎の泉"呪文でスペースを空け"力場の壁"で遮蔽を確保した後、ポータブル・ホールを広げてパーティを解放したのだ。
「まあ最初の予定だとシャーナだけだったから、ちょっと窮屈だったがな」
ポータブル・ホールをもう一枚出せば良かったか、とこれは口に出さずに考える。
その間にレーテーと椿、ロキ・ファミリアの精鋭達は素早くポータブル・ホールから飛び出してきていた。
広がった布を素早く畳んで懐にしまうイサミに、フィンが話しかける。
ちらりと周囲に目をやると、四方全ては見えない壁に取り付く怪物たちに封鎖されていた。
「さて、ここまでは見事にはまってるけど・・・この防護呪文はいつまで持つんだい?」
「そうですね、あと六分という所ですか。準備があるならその前にどうぞ。
ただ、こちらも壁が消えると同時に"とっておき"をカマしますので、攻撃魔法は待機してて貰ったほうがよろしいかと」
「ふうん・・・聞いたな、みんな! リヴェリア、防護魔法を今のうちに! 他のみんなは円陣! 中央に魔導士達を!」
「了解!」
ものの数秒で円陣が組まれ、一分ほどで全員にリヴェリアの防護魔法が行き渡る。
それを確認して、イサミは自分の詠唱を始めた。