ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
「"
詠唱が終わると共に、円陣の中にいるイサミの周囲からぶんぶん言う音が起こる。
「え、なにこれ?」
首をかしげるティオナその他の疑問には答えず、イサミが声を張り上げる。
「それじゃ壁を消すぞ! 『~~~』」
"力場の壁"の呪文を逆順に詠唱し、不可視の壁を解除する。
『グウォォォォォ!』
『フゥゥゥゥゥゥッ!』
なだれ込む怪物たち。だが《高速化》されたイサミの呪文の方が一瞬早い。
「《高速化》《範囲拡大》《最大化》《威力強化》《二重化》"
轟、と風が唸った。
この広大なルーム中からイサミ達の周囲にたかってきていた大海嘯のごときモンスターの群れ。
それら全てを飲み込み、巻き上げる直径4kmの巨大な竜巻。
「・・・・・・・・」
「っ・・・・・!」
「あ・・・が・・・・」
さすがのロキ・ファミリアの精鋭達が声もない。
恐れ知らずの椿でさえ口を開けて
3mサイズのホリッド・アンバーハルクやバトルブライア―が木の葉のごとく宙を舞う。
それどころか5mを越すブラッドサウルス・タイラントですらこの暴威にあらがえず、気流に飲み込まれてすり潰されていく。
さすがにヴァルガング・ドラゴンは耐えているものの、それでも地面に縛り付けられ身動き一つできない。
大火炎を吐いて攻撃するどころか、口を開くことすら困難な有様だ。
上の階層に出現するイル・ワイバーンの群れが、砲竜の空けた穴を通っていつの間にか出現していたが、それらも大渦巻きの周囲を飛行するだけで、到底中に突入することができない。
時折不注意な個体が渦に巻き込まれ、翼を持たない同類と同様、気流にすり潰されていった。
数分後。
気流に巻き込まれ、地面に叩き付けられ、また巻き上げられ、を繰り返していた怪物達のほとんどが動きを止めている。
無言で精神集中を維持していたイサミがフィンに目をやった。
「カウントダウンを。20秒で頼む」
「了解。20、19,18・・・」
イサミが頷いてカウントダウンを始めると、フィンが声を張り上げた。
「カウントダウン終了と同時に砲竜に仕掛ける! リヴェリアとレフィーヤは遠距離にいる奴を、前衛は手近な奴を潰せ!
ナルヴィ、アリシア、クルスは魔剣で仕掛けろ! ラウルは待機! いつでもアイテムを使えるようにしておけ!
みんな、砲竜を確実に仕留めてくれ!」
「「「「はいっ!」」」
周囲の一同が頷く。
「13、12、11・・・」
既にリヴェリアとレフィーヤ、アイズは詠唱を完成させ、ベートのミスリルの長靴にも魔剣の威力が充填されている。
そのほかのものも、飛び出すタイミングを今か今かと見計らっていた。
「7、6、5、4・・・」
レフィーヤの表情が緊張に引き締められる。
前衛達は武器を手におのおのの獲物を見定め、体勢を低くして飛び出すときに備える。
「2、1・・・ゼロ!」
轟風の壁が唐突に消失する。
「っ!」
「!?」
その瞬間、誰よりも――ベートやアイズよりも――早く、ドワーフの大戦士ガレスが飛び出す。
敏捷度に劣るはずのドワーフという種族が、しかし経験によって「機」を誰よりも早く掴んだ。
努力と経験が種族の壁を凌駕したことに驚愕しつつ、その他のメンバーも負けてはならじと自らの獲物に走りよる。
「ウィン・フィンブルヴェトル!」
「アルクス・レイ!」
全力の精神力を込めた氷の嵐と光の矢が合わせて三体の砲竜を屠った。
「ふんっ!」
直後ガレスの大戦斧が、砲竜の一匹の足を文字通り吹き飛ばす。
体勢の崩れたその首を、二の斧がたやすく断ちきった。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』
砲竜が咆哮する。
だが前足が翼になったその体型は砲撃に特化しており、近接戦には決して向いていない。
「うぜぇぇぇぇっ!」
「はぁぁっ!」
「よっしゃぁぁぁぁぁぁっ!」
氷雪を纏った蹴りが、疾風の斬撃が、巨大な双刃が砲竜の頭を打ち砕き、体を両断する。
「どりゃあっ!」
「やあーっ!」
続けてシャーナの大剣が竜の足を半ばまで断ち、体勢の崩れた頭を、レーテーの双大戦斧が打ち砕いた。
「ははっ! やるのう!」
「んもう、やっぱりもっと重い武器にして貰うんだった!」
椿とティオネ、そしてサポーター達の魔剣による一斉攻撃もそれぞれ砲竜にダメージを与えるが、倒すには至らない。
「冷気変換《
「冷気変換《
「!?」
残る四体の砲竜の足下から凍れる炎が吹き出し、負傷していた三体にとどめを刺す。
だが、残り一匹。
その口が大きく開き、大きく空気を吸い込む。
へばりついた氷がばらばらと剥がれ落ち、喉の奥に明かりが灯る。
「来るぞっ!」
「くっ、間に合わない・・・」
「耐えろ! ババァの術だ、一発くらいどうってこた・・・」
どんっ。
ベートの言葉が途切れるのと同時、明かりの灯る喉奥に一本の長槍が突き立っていた。
切っ先は喉を貫き、首の後ろまで貫通している。
「これで11頭・・・綺麗に全滅だね」
投擲の体勢を元に戻しつつ、フィンが微笑む。
最後の砲竜が地響きを立てて倒れた。
「お見事!」
親指を立てるイサミにウインクを返しつつ、フィンが続けて指示を飛ばす。
「円陣を組み直せ! リヴェリアとレフィーヤは補給の後詠唱開始!
イサミ・クラネル、君は上空のイル・ワイヴァーンを頼む・・・一人で大丈夫かな?」
「雑魚の相手は得意ですので」
「結構」
にやっと笑って視線を戻す。
「フィン!」
「ん」
アイズが投げてきた己の長槍を軽く受け止めると、フィンは彼方に目をやる。
大竜巻の効果範囲外にいた地上モンスター、そしてワイヴァーン達が殺到して来ていた。
2km近い距離があるとは言え、レベル5相当モンスターのステイタスはそれをあっという間に詰めてくる。
だが、冒険者達の隊列の乱れを突けるほどではない。
「冷気変換《
「冷気変換《
飛竜の群れの先頭が200m程に迫った時、空中に数十の氷の華が咲く。
直径3mの冷気の爆発の連鎖。直撃を受けたワイヴァーン達が氷像と化してぼたぼたと地に落ちる。
全速で飛行していたのが災いし、後続の相当数も自ら冷気の壁に突っ込んでその後を追った。
「冷気変換《
「冷気変換《
転進が間に合い、迂回しようとしていた後続の飛竜どもに再び氷の爆発が炸裂する。
損害は最初の一撃ほどではないが、これで飛竜の群れの勢いが完全に止まった。
「冷気変換《
「冷気変換《
さらなる連打が飛竜の群れを襲う。
一撃ごとに100近い飛竜が地に落ちるが天井の穴から次々と新たな飛竜が現れ、その数は減じることがない。
上空の戦いは一進一退であった。