ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
「「ウィン・フィンブルヴェトル!」」
そして地上もまた、エルフの魔導士師弟によって、極寒の地獄と成り果てている。
山雪崩のごとく迫り来るモンスターの群れを、六筋の冷波が氷の彫像へと変えた。
だが後続のモンスター達は仲間の氷像を踏み砕き、なおも前進する。
その怒濤の狂奔を。
「どっせいぃぃぃぃぃっ!」
ティオナがその巨大な双刃を振り回し、粉砕する。
双刃の軌跡に沿ってモンスターの体が上下に両断され、上半身が文字通り吹っ飛んでいく。
続けてガレスの大戦斧が、ティオネのハルバードが、ベートの双剣が、レーテーの斧が、シャーナの大剣が、次々とモンスターを屠っていった。
「シャーナちゃん、大丈夫?」
「へっ、どってことねえよ!」
レフィーヤの気遣いにも、にやりと笑って返せる程度の余裕がシャーナにはある。
いまだLv.4、ロキ・ファミリアで言えばサポーター達と同格であるシャーナが前衛を張れているのは、Lv.4にしては並外れた耐久力もさることながら、イサミが武具に付与した魔力のおかげでもあった。
ロキ・ファミリアの面々が普段の得物と不壊属性武器を使い分けているのと同様、レーテーとシャーナには溶解液対策の"
この階層に多いドラゴン系統のモンスターに対してステイタスで言えば筋力18段階、丸々1レベル分に相当する威力上昇をもたらす魔力である。
D&D風に言えば+5
もとより第一等級武装に匹敵するスペックの上に、打撃力重視、対火炎系・対竜系特化で可能な限りの強化を施した、まさに"
「うっしゃ、どんどん来いやぁ!」
「す、スゴイ・・・」
「うひゃあ、やるねえシャーナちゃん!」
こと竜系に関する限り、今のシャーナはLv.6に匹敵する打撃力を持つ。
耐久力についても、イサミ謹製の鎧と盾、そして本人の耐久力がLv.5並の防御力を彼女に与えていた。
元よりLv.5のレーテーはなおさらだ。
強靱な前衛を二人、椿も含めて三人加え、ロキ・ファミリアの鉄壁の円陣はモンスターどもの大波にもびくともしない。
「えーいっ!」
新たに壁から生まれた砲竜めがけ、レーテーが右手の大戦斧を全力で投げつける。
生まれたばかりで無防備なその首に"
元より重装甲に二丁斧のスタイルであるから、得物はもう一本残っている。
だがこれでもう替えの武器は無い。そうロキ・ファミリアの面々が思った瞬間だった。
砲竜の首を断ち切り、勢い余ってくるくる飛んで行く大戦斧の軌道が不自然に曲がった。
回転しながら空中でUターンし、そのままバトル・ブライアーを切り割ったレーテーの右手に綺麗に収まる。
隣で戦っていたティオナが目を丸くした。
「えーっ? 何それ?!」
「ふっふーん。イサミちゃんに作ってもらったんだぁ。うらやましいでしょー!」
得意満面の笑みを浮かべながら両手の大戦斧を振るい、レイジドレイクの首を二匹同時に落とす。
呪文を詠唱していたイサミが思わず苦笑した。
"
ブーメランのごとく、投げても武器が戻ってくる魔力である。
レーテーの戦闘スタイルに合わせて、イサミがチューニングした武器であった。
(しかし赤いフルプレートで二丁斧で、しかも斧投げたら戻ってくるとか、ねえ・・・ゲッター□ボG?)
それを見ていたイサミの脳裏に、何だか懐かしい音楽がガンガン鳴っていた事を誰も知らない。
"竜の壺"の怪物をも圧倒する面々ではあったが、とは言え三十分後、再び周囲には数百メートルに及ぶ分厚いモンスターの垣根ができていた。
上層から下りてくるモンスターの数に、倒しても倒しても追いつかないのだ。
「それじゃそろそろ」
「わかった、やってくれ」
「了解」
イサミが左太ももの辺りに手をやると、虚空から120cmほどの飾り気のない杖を取り出す。
"
こちらの世界で言えば魔剣に相当する、特定の呪文を込めた魔法発動装置。
だが魔剣と
それはしかるべき者が使えば、その術力をもってスタッフの中の呪文を発動できること。
「《範囲拡大》"
発動と共に、圧倒的な大自然の暴威が再び顕現する。
『ギエエエエエエッ!』
『ギョォォォッ!』
木の葉のように舞う数m級のモンスター達。
呪文修正を重ねていないぶん、やや時間はかかったものの、20分経たずに周囲の怪物達は全滅した。
『グウォォォォォ!』
「おりゃああああああああああっ!」
死闘は続く。
予想されていたことだが、戦いは持久戦になった。
モンスターは無限であるかのように途切れることなく現れ、途中からは芋虫型の大群やローブの怪人までもが乱入して三つどもえになった。
イサミも魔法の使用回数を1割ほど消費したところで戦術を変え、ワイヴァーンが上空に溜まって来たところでスタッフからの"
この戦法では中心の「台風の目」直上を攻撃することはできないのだが、リヴェリアとレフィーヤというオラリオ屈指の魔導士二人がいれば、それもどうということはない。
そして二時間後。ついにモンスター達は全て駆逐された。
「うーん、見あたらないなあ・・・」
「あのローブの怪人? リヴェリアの魔法でぶっ飛ばした後、モンスターがもみくちゃにしちゃったからねえ・・・
その上イサミくん・・・さんの竜巻で吹き飛ばされたら、もうどこにあるやら」
「おお、砲竜の牙に鱗に・・・!」
「椿、それは後にしてくれ。どのみちこれだけの量だ、帰りでないと運べない」
「おいナルヴィ、ハイポーションよこせ」
「は、はい!」
「すまない、こちらにはマジックポーションを頼む」
「前衛ども順番に並べ! 武具を手入れするぞ!」
「何これ美味しい!」
「ヘルメス・ファミリアのルルネって人から貰った携行食・・・ひとつだけで一日もつって」
「・・・」
一行がしばしの休息を取り回復と補給に努める中、ひとりフィンは59階層へと続く階段を見つめている。
ふと、その周囲に影が落ちる。
振り向いたフィンに、イサミは無言のまま会釈した。
「君か・・・仲間のほうはいいのかい?」
「俺は魔導士ですし、武器の手入れも二人分だと手早く済むので」
そうか、と頷いてフィンは前に視線を戻す。
「それより、何か気になる事でも?」
「ゼウス・ファミリアが残した59階層の資料は見たかい?」
「ええ、59階層から先は氷河の領域。酷寒の・・・」
そこでイサミの声が途切れる。
フィンの言わんとすることを察したのだ。
かつての最強ファミリアの猛者達の動きを鈍らせるほどの冷気。
たとえ一階層分の距離があるとしても、そこに続く階段の間近に立って、それが全く感じられないということがあるだろうか?
ふんふん、と鼻をうごめかせ、階段から立ち上る空気の流れを鼻腔に吸い込む。
「・・・下からの空気に感じるのは、湿気と臭気。俺が知っている中で一番近いのは・・・第二十四階層の
無言のままフィンが頷いた。
きびすを返して一同のもとに戻る彼に、イサミも続く。
「あの、団長。そろそろサラマンダー・ウールの準備を・・・」
「いや、いい。椿、武器の手入れは終わったな? 総員、三分後に出発するぞ」
右手の親指を舐め、フィンが宣言した。