ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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第十二話「男ロビラー大勝負」
12-1 穢れた精霊


 

 

 

『真の勇気とは打算なきものっ!! 相手の強さによって出したりひっこめたりするのは本当の勇気じゃなぁいっ!!!』

 

 ―― 『ダイの大冒険』 ――

 

 

 

 剣を手に再び隊伍を組み、一行は第五十九階層への階段を下りていく。

 

「寒いどころか・・・」

「蒸し暑いですね・・・」

「何この匂い? 鼻がひん曲がりそう」

「ジャングルの匂いに似てるけど・・・それだけじゃないわね」

 

 二十四階層未経験組が違和感に眉をしかめる中、ベートやアイズ、レフィーヤは既視感にあるいは顔をしかめ、あるいは身を固くする。

 

「・・・おい、アイズ。気づいてるか? このくっせぇ匂い」

「はい・・・あの時の食料庫の匂いです」

「気を抜くなよ。お前にゃ言うまでもないだろうがな」

 

 それだけを言って、ベートは自分の位置に戻る。

 アイズも一つ頷き、緊張を新たにした。

 

 あの赤髪の怪人の言った、「59階層へ行ってみろ」という言葉。

 自分を「アリア」と呼んだ彼女たちの言葉。

 

 この先に待つのは、ロキやリヴェリアたちしか知らないはずの自分の秘密に関わるものなのかもしれない。

 剣を握る手に、力がこもった。

 

 

 

ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~

 

第十二話「男ロビラー大勝負」

 

 

 

 そしてついに一行は、ゼウス・ファミリア以来初めて、五十九階層にその歩を記した。

 

「これは!」

「何これ・・・?」

 

 そこには資料に記されていた氷山も氷壁も何もない。

 赤黒い肉の壁と緑色のツタの毒々しいマーブル模様。

 肉の壁から吹き出す蒸気と異臭。

 立ち並ぶ壁と同色の肉の柱。

 

「これってまるで・・・」

 

 アイズ達の報告した二十四階層そのままの光景。

 唯一異なるのは、地面が灰色の何かで覆われていること。

 

「・・・全隊、前進」

 

 五十八階層よりもなお広大なはずのルームの中央から聞こえてくる異様な音。

 何がそれを発しているのか、肉柱の林に阻まれて見ることはできない。

 フィンの号令一下、パーティはルーム中央に向かって進み出した。

 

 

 

「っ・・・!」

 

 そして数分後、肉の柱が途切れて視界が開ける。

 広大なルームの中央近く、距離は300mほどか。

 

 そこにいたのは体高10mに達するであろう、上半身が女体型、下半身が植物の巨大な緑色のモンスター。

 そしてそれに群がる無数の食人花と芋虫型。

 

「うぷっ・・・」

「タイタン・アルム・・・か?」

 

 深層に生息する巨大植物のモンスターに寄生した宝玉の胎児。

 食人花と芋虫型は、その巨大な緑の女性型に自らの魔石を捧げ、次々と食われては灰になっていく。

 その様はさながら女王蟻と、それに栄養を与える働き蟻。

 

「魔石を・・・食ってる」

「強化種を喰らう強化種だと?!」

「つまり食人花と芋虫は、あの女体型の触手・・・言い換えればあれを育てるためのエサ係だった、と言うことか」

 

 食人花と芋虫は、ダンジョンで他のモンスターを襲い、その魔石を食らう。

 そして蓄えた栄養を、自らが食われることによって女体型に与える。

 

「ちょ、ちょっと待って下さいよ。じゃあこの床の灰って・・・」

 

 レフィーヤが真っ青になる。

 分厚く降り積もり踏み固められた灰。

 これらが全て、あの芋虫と食人花の死骸だとしたら。

 

 どくん。

 アイズの心臓が跳ねる。

 視線の先にいる存在に血が反応している。

 

 あれは――いてはいけないものだ。

 

『――ァ』

「!」

『――ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』

 

 フィン達の訪れに反応したのか、あるいは元よりその時が来ていたのか。

 絶叫と共に、女体型の背中が割れ、つるりと脱皮する。

 

 中から現れたのは美しい女体。

 それまでの女体型が人の姿をかたどった不格好な彫刻とするなら、それは天女か、はたまた女神か。

 すべすべとした緑色の肌、流れるような緑色の髪、美しい裸身を極彩色の衣が覆う。

 

 それと同時に下半身の植物部分がざわりとうごめき、巨大な花びらや無数の触手を生み出す。

 女神の上半身と植物の下半身を持つ巨大な怪物が、歓喜の声を更に強める。

 

『アアアアアアアアアアアアアアアアアア!』

 

「ぐっ!」

「ちくしょう、キンキンと・・・!」

 

 耳を押さえる冒険者達の中で、アイズは視線を離すことができず、立ち尽くす。

 巨大な金色の双眸が、その瞳を正面から見返し――そして怪物はその言葉を紡いだ。

 

『アリア!』

 

「えっ!?」

「何だと!」

 

『アアアアア、アリア!』

 

 ゆがんだ歓喜をにじませるその表情に、アイズは確信する。

 あれは――

 

 

 

「―――ウラノスっ! あれは・・・!」

 

 ギルド地下、祈りの間。

 アイズの腰の『目』を通して59階層の様子を見ていたフェルズが絶叫する。

 玉座に座する巨神は心なしかそのまなざしを険しくして頷く。

 

「ああ。あれは――精霊だ」

 

 フェルズの水晶の中、美しい巨大な女体型はアイズに対してアリア、アリアと歓喜の声を上げ続けている。

 

「古代、我らが降臨するより以前、神々の意志の元に数多の英雄に助力した精霊達――オラリオで散っていった精霊達の一柱だ」

「取り込まれ・・・反転したとでも言うのか。精霊が」

 

 さすがのフェルズの声にも震えが混じる。

 神に準じる存在であり、その力を保ちつつも、精神と姿は怪物と成り果てた異形。

 

「あれは・・・『穢れた精霊』だ」

 

 

 

「精霊?! あんな薄気味悪いのが!?」

 

 アイズのあれは精霊であるとの言葉に、ティオナが叫ぶ。

 美しさと醜さを兼ね備え、圧倒的な嫌悪感をまき散らす女神のごとき怪物は、いまだに歓喜の声を上げ続けている。

 

『アリア、アリア、アリア! 会イタカッタ、会イタカッタ! 私ト一緒ニナリマショウ?』

 

 ぞくり、と。その言葉に寒気を覚える。

 リヴェリア達が、緊迫した表情を浮かべ、ティオナ達がアイズの方をぱっと振り向く。

 そして女体型は。

 

『アナタヲ、食ベサセテ?』

 

 瞳孔のない瞳を真円に開き、口を三日月の形にして、笑った。




 ちなみにタイトルはイサミやロビラーが使った特技《ロビラーの大博打》のボツ翻訳案。
 何でこっちにしなかった翻訳スタッフ・・・!
 なお今回ロビラーさんは出てきません(ぉ
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