ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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12-2 "縄操り(アニメイト・ロープ)"

「総員、戦闘準備っ!」

 

 それが戦いの合図だったかのように、芋虫型と食人花が突進を開始する。

 同時に階層の入り口が肉壁で覆われ、退路が断たれる。

 

 瞬時に陣形を整えるロキ・ファミリアの猛者たち。

 だが芋虫型が彼らの元にたどり着くより、イサミが魔杖を発動させる方が遥かに早い。

 

「《範囲拡大》"風制御(コントロール・ウィンズ)"!」

 

 風が唸る。

 半径2kmの大竜巻。

 芋虫や食人花はことごとくその渦に飲まれ、空気の臼にすり潰されていく。

 

 堕ちた精霊本体は流石に耐えているものの、極彩色の薄衣ははぎ取られ、下半身の触手も無残に引きちぎられていく。

 下半身から触手を打ち出そうとするも、風速480km、秒速133mの烈風の中ではそれも狙った場所を大きくそれる。

 

「わー、"美丈夫(アキレウス)"くんったら、エッチなんだー♪」

「"目"の外に蹴り出すぞこの野郎」

 

 ティオナとイサミのやりとりに、周囲が苦笑を漏らす余裕すらある。

 だがひとり、フィンだけは違った。

 

「リヴェリア、レフィーヤ、詠唱は待て」

「フィン?」

「親指のうずきが止まらない――嫌な予感がする」

 

 

 

「――」

「? なんか聞こえたか?」

「いや、俺には何も・・・」

 

 竜巻の轟きに遮られて、それは最初冒険者達の耳に響くことはなく。

 

「あ、あれ! あの女体型の口、なんか動いてます!」

「まさか。モンスターが呪文詠唱するわけ・・・」

「・・・いや! 魔力が集まっている! あいつは、魔法を使おうとしているんだ!」

「そんな?!」

 

 驚愕が走った。

 

 魔力を用いて火を噴いたり雷をまとったりする怪物もいる。

 だが、それはモンスターとしての生理現象に過ぎない。

 魔力と呪文、精神集中をもって超常の現象を呼び起こす技術である魔法は、知恵あるものの特権なのだ。

 

「【――猛ヨ猛ヨ炎ノ渦ヨ紅蓮ノ壁ヨ業火ノ咆哮ヨ突風ノ力ヲ借リ世界ヲ閉ザセ燃エル空燃エル大地燃エル海燃エル泉燃エル山命全テヲ焦土ト変エ怒リト嘆キノ号砲ヲ我ガ愛セシ英雄ノ命ノ代償ヲ――】」

 

 今や堕ちた精霊は10mを超す巨大な魔法円を展開し、巨大な魔力を隠す事もなく発散している。

 リヴェリアですら及ばない超高密度の魔力と呪文詠唱。

 フィンが叫ぶように指令を出す。その顔にも最早余裕はない。

 

「リヴェリア、レフィーヤ、詠唱を! イサミ・クラネル、壁の魔法はすぐ発動できるな? 合図したらすぐに! あるいは君の判断で発動を!」

「わ、わかりました!」

 

 精神集中を解かれ、超自然の竜巻が消滅する。

 芋虫型や食人花の死骸が次々落下し、魔導士三人がそれぞれ魔法の準備に入る間にも、堕ちた精霊の体から立ち上る魔力は無限かと思う程に増大していく。

 

 

 

「レア・ラーヴァテイン!」

「ヒュゼレイド・ファラーリカ!!」

「「「てーっ!」」」

 

 エルフ師弟の呪文が僅かに早く完成した。

 巨大な火炎がサポーター達の魔剣と共に堕ちた精霊に炸裂し、わずかにその体を揺るがせる――だが、そのほとんどは下半身から展開した巨大な花弁に食い止められ、ダメージを与えられていない。

 精霊が、再び三日月の笑みを浮かべた。

 

「イサミ・・・っ!」

「《高速化》"力場の壁(ウォール・オブ・フォース)"!」

『【ファイアーストーム】』

 

 堕ちた精霊のそれより一瞬早くイサミの魔法が発動する。

 世界が紅蓮に染まった。

 

 周囲を囲む高く透明な壁に遮られ、炎は直接中に入り込んでこない。

 だが壁一枚外は地獄だった。

 

 岩壁の表面を覆っていた赤と緑のマーブル模様は一瞬にして焼き尽くされ、岩はガラスとなって融解する。

 床も同じだ。

 灰となった死骸が更に焼き尽くされて分解し、炎が舐めた岩の床もまた溶融し冷えてガラス体となる。

 

「・・・・・」

「くっ・・・・!」

 

 あるいは冷や汗をぬぐい、あるいは身をこわばらせる冒険者達。

 だがこの炎の地獄もまだ序章に過ぎないことを、彼らは直後に知る。

 

『【地ヨ、唸レ―――】』

 

「うそっ?!」

「連発だとぉ!」

 

 今度展開されるのは黒い魔法円。先のそれほどではないが、莫大な魔力があふれ出す。

 

「・・・っ!」

 

 ぎり、とイサミが歯ぎしりをする。

 

「フィン! あいつの魔法だけは何とか封じてみます! 後をよろしく!」

「!? 何を・・・」

 

 それには答えず、イサミは呪文を逆に唱えて"力場の壁(ウォール・オブ・フォース)"を解除し、単身飛び出す。

 

「飛んだ!?」

「早ぇっ?!」

 

 【エアリエル】を発動させたアイズを除けば、イサミの移動速度はこの場にいる誰よりも速い。

 そして魔道具「不死鳥のマント(フェニックス・クローク)」は、走るのと等しい速度で宙を駆ける事を可能とする。

 堕ちた精霊の頭部を目がけ、黄金のマントをひらめかせたイサミは秒速39.5m、時速142kmで突貫する。

 

「くっ・・・リヴェリアとレフィーヤは呪文の詠唱を! ラウルたちは二人を守れ! 残りは全員突撃だ!」

「大丈夫なの!?」

「ここは賭けるしかあるまい! 無駄口を叩いておらんで、行くぞ!」

 

 

 

 後方で仲間達が一斉に動き出す気配を感じながら、イサミは飛ぶ。

 堕ちた精霊の一瞬迷う気配。

 

(?)

 

 いぶかしげに思う暇もなく、イサミ目がけて弾丸の速度で射出される、丸太のような触手。

 だが。

 

『!?』

「こっちだってなあ・・・無策で突っ込んでるわけじゃねえんだよ!」

 

 イサミはそのことごとくをかわし、先読みし、剣で払い、装甲で弾き、不可視の障壁で防ぐ。

 守りの刀、外皮の護符、防護の指輪、大魔導士の胴着、敏捷の手袋、修道士の帯、"(シールド)"と"梟の洞察(アウルズ・インサイト)"呪文。

 

 一級冒険者でも苦労する触手の射出を、防御に徹したイサミはことごとく払いのける。

 元より触手をどうにかする気はない。

 

 8秒。

 目標へ到達するまでのその短い時間をくぐり抜けられればそれでいい。

 動きを止められさえしなければ、脚の一本くらいは許容範囲。

 最悪腹に大穴が空いたとしても、堕ちた精霊の喉元に取り付くことができさえすればそれでいいのだ。

 

 そして無限とも思える攻防の一瞬をくぐり抜け、イサミは詠唱を続ける堕ちた精霊の喉元に潜り込む。

 その左手には、いつの間にか一束の頑丈なロープが握られていた。

 

 

 

「取り付いたっ!」

「だがあいつ、何を・・・?」

 

『【来タレ来タレ来タレ大地ノ殻ヨ黒鉄ノ宝閃ヨ星ノ鉄槌ヨ開闢ノ契約ヲ持ッテ反転セヨ空ハ焼ケ地ハ砕ケ橋ヲ架ケ天地ト為レ降リ注グ天空ノ斧破壊ノ厄災――】』

 

 堕ちた精霊の詠唱は続く。

 集まる魔力の量からしておそらく長文詠唱、呪文が完成するのには約一分。

 だが詠唱開始に気づくのに6秒、力場の壁を消すのに6秒、相手の懐に飛び込むまで10秒余り。

 まだ30秒以上の時間が余っている。

 

 そして、30秒もの猶予を与えた時点で、堕ちた精霊がイサミを止める術はなかった。

 

「"縄操り(アニメイト・ロープ)"!」

「はっ?」

『?』

 

 冒険者達と堕ちた精霊が等しく疑問と不審の感情を漏らす。

 呪文の完成と共にロープがイサミの胴体ごと精霊の首回りに素早く巻き付き、イサミの体を固定してしまったのだ。

 ちょうど、堕ちた精霊のチョーカーか何かになったような形である。

 

「おっと、本命はこっちだ・・・《高速化》《持続延長》"反魔法力場(アンティマジック・フィールド)"!」

「!」

『代行者ノ名ニオイテ命ジル与エラレシ我ガ名ハ・・・?!』

 

 今度こそ、その場に驚愕が走る。

 イサミの魔法が発動すると同時に、堕ちた精霊の展開していた魔力が雲散霧消したからだ。

 詠唱は続いているが、魔力が伴わないのではいかなる呪文もただの繰り言に等しい。

 

「そうか、あの一つ目の怪物の使っていたのと同じ・・・!」

 

 その中で、一度同じ現象を経験していたアイズだけがイサミの魔法の正体に気づく。

 

「こいつは俺から3m以内のあらゆる魔力や魔法を打ち消す! 今のうちだっ!」

 

 反魔法力場(アンティマジック・フィールド)

 名前の通り、範囲内の全ての魔法・魔力・マジックアイテム、そのたぐいの全てを打ち消す力場。

 自分を中心としてしか発動できないゆえのイサミの無茶だった。

 

 余談だが、"縄操り(アニメイト・ロープ)"呪文は「縄に物理的に結び目を作って固定する」ので、アンティマジック・フィールドの中でもほどけたりはしない。

 閑話休題(それはさておき)

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