ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
「で、どーすんのよ、フィン!」
「どうすると言っても、戦う以外にあるかい?」
「そりゃまあそうだけど・・・」
尻すぼみになって消えるティオナの声。58階層への退路はすでに肉壁によってふさがれている。
フィンはイサミに目をやった。
「あいつらと直接戦ったのはアイズと君だけだ。何か意見はあるかい?」
「見ての通り、あれは複数の怪物の集合体です。左手の芋虫は触手を伸ばして麻痺攻撃をしてきます。
下半身の魚は触手に当たると、体が溶けて動けなくなります。また若干の魔法も使います。
そして右手の球体は、頭部の触手から超短文詠唱の魔法を同時に11回発動でき、中央の目を開くと前方45mの円錐形に、俺がさっき使った反魔法力場を発生させ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
さすがのフィンが渋い顔をして眉間を揉んだ。
他のロキ・ファミリアの面子も似たり寄ったりの表情になっている。
「よくもまあ、そんなのを相手に勝てたね・・・」
「攻撃魔法の威力は大した事はないんですよ。一方向には4発までしか撃てませんし、それ全部でも俺の魔法一発に大きく劣ります。
ただ石化とか閃光とか空気を固体化させて動きを阻害するとか、そう言う特殊な魔法を使いこなしてきますので、決して油断はできませんね」
「十分すぎるよ」
肩をすくめるフィンにイサミが苦笑する。
「後、魔法を能動的に打ち消してくる事があります。同じ量の魔力を当てて相殺するんですね。
長文以上の魔法なら恐らく大丈夫でしょうけど・・・とも言い切れないのが怖いところですが」
D&D世界の術者が使う"
であるからして、魔法の系統も違えば一つの魔法に込められる魔力の上限が一桁違うこの世界の魔法を打ち消すのは基本的に難しい。
が、"
イサミの言ったのはそういう事だ。
「で、対策は? 少なくともあの目玉をどうにかしないと、にっちもさっちも行かないよ?」
「そっちは・・・俺がどうにかしてみましょう」
表情を真剣なものにして、小さな声で何かをつぶやいた直後、イサミの姿が消えた。
「!?」
ロキ・ファミリアの面々がざわめく暇もなく、次の瞬間、肉の柱に叩き付けられた影が一つ。
「イサミッ!」
「イサミちゃん?!」
「イサミ殿!」
全身をズタズタにされ、腹に触手が突き刺さったイサミ・クラネルだった。
ずるり、とイサミの腹から触手が抜ける。
粉砕された肉柱の残骸の中に埋もれていたイサミの体が、力なくくずおれた。
『グッグッグッグッグ・・・』
『ファファファファファ・・・一度使った手に、対策を取っていないと思ったか・・・? まぬけが!』
下半身のアボレス、ネヴェクディサシグが唸るような声で笑い、右手のビホルダー、ザナランタールが嘲笑を放つ。
呪文相殺を受ける前に、魔法では相殺できない"|時間流加速のブーツ《ブーツ・オブ・テンポラルアクセラレイション》"で速攻しようとしたイサミだったが、その行動は完全に読まれていた。
イサミがそれに気づいたのは、ブーツの魔力を発動させた瞬間だった。
異なる時間の流れに存在するものは、生き物であれ物体であれ微動だにせず、僅かに灰色がかって見える。
だがその瞬間、ザナランタールの十個の眼柄は、確かにイサミを見たのだ。
(っ! "
次の瞬間、堕ちた精霊の上半身、乳房と言わず腹と言わず、無数の触手が射出された。
下半身のタイタン・アルムは焼け落ちてしまったが、『死体の王花』を融合吸収した『堕ちた精霊』は、その性質をも継承していたらしい。
だが、単純にタイタン・アルムの触手を再現しただけではない。
今射出したそれにはグラシアの好んで使う
「くっ!」
刀を構え、先ほどのように触手を弾こうとして――イサミの体に巨大なイバラの触手が直撃した。
「がっ!?」
数十センチの鋼鉄のトゲが存分にイサミの肉体を切り裂き、血しぶきが舞う。
一撃で、左肩から腹までの部分がズタズタになった。
もちろん一撃では終わらない。
二度、三度、四度。
五度、六度、七度。
直径1mを越えるイバラが空を裂き、唸るたびに、イサミの肉体から血しぶきが舞い、見る間に全身の肉が削れていく。
イサミに一級冒険者のレベルで見ても桁違いの耐久力があるからもっているのであって、並の冒険者なら一撃で即死、恐らく死体も原型をとどめていないはずだ。
無論イサミも全力で防御している。
だが先ほどの触手の全力攻撃をことごとく凌いだ魔法の力場が、強化された敏捷性が、先読みが、剣でのいなしが、全く意味を為していない。
グラシアと融合したことで膂力と速度が上昇しているのか、精霊ではなくグラシアが操っている分、技の冴えが増しているのか。
おそらくは両方であろう。
咄嗟に放とうとした呪文はやはりザナランタールに相殺され、為す術無く連打を受けること十二秒。
"|時間流加速のブーツ《ブーツ・オブ・テンポラルアクセラレイション》"の効力が切れ、通常の時間流の中に戻ったイサミは触手に腹を貫かれたまま、肉柱に叩き付けられた。
『グッグッグッグッグ・・・』
『ファファファファファ・・・! 来るとわかっていれば、対策は容易よ!
所詮きさまの勝利は奇策に頼ったもの。絶対的な実力差に二度目はない!』
「しゃべったぁぁぁぁぁ!?」
時間はイサミが肉柱に叩き付けられた時点に戻る。
笑い声を上げる眼球と巨大魚に、素っ頓狂な声を上げたのはティオナ。
話を聞いてはいても、実際に目にするとショックが大きいのだろう。
「イサミッ! ちょっと待ってろ!」
「イサミちゃんッ!」
「い、今エリクサー用意するっす!」
一方、イサミの元に駆けつけたのはシャーナ、レーテー、そしてラウル。
シャーナとラウルはバックパックからエリクサーを取りだし、それぞれ口に含ませ、腹の大穴に振りかけようとする。
レーテーは二丁斧を構え、盾となるべくその前に立ちはだかる。
だが。
その瞬間、ザナランタールが中央の巨眼を開いた。
「!」
「な、なに?」
「鎧が・・・重くっ!」
前方45mの範囲に広がる反魔法力場に捕らえられた存在は、その魔法的能力の全てを失う。
そしてそれは魔法の力のこもった武器や防具、魔道具に至るまで効果を及ぼす。
つまり。
「傷が・・・治らねえ!?」
「こっちもっす! ディアンケヒト・ファミリアの、最高級のエリクサーっすよ?!」
顔を青くするのはシャーナとラウル。
飲めば全身の傷を癒し、傷口に振りかけてもたちまちそれを塞ぐ最高位の霊薬が、全く効果を発揮していない。
追加のエリクサーを取りだして更に飲ませ、また数本まとめて全身に振りかけるが、それらもやはり何の治癒効果ももたらさない。
何故ならポーションもまたマジックアイテムであるからだ。
魔力ある素材からそれを抽出合成し、作り手の魔力を注いで作られる、飲むマジックアイテム。
それがポーションというアイテムの本質なのである。
『貴様は放っておくと何をしでかすかわからんからな・・・反魔法力場の中で何もできぬまま死ぬがよい!』
だがザナランタールが哄笑し、女神の胸像から再びイバラの触手が射出されようとした瞬間。
「電気変換《
「電気変換《
『グウォウォ!?』
『ガガガガガガガッ!』
全身を走る電撃に悲鳴を上げるザナランタールとネヴェクディサシグ。
左腕のキャリオンクロウラーもぎちぎちぎちと苦悶の叫びを上げ、ここまで余裕たっぷりに無言を保っていたグラシアすらもが流石に顔色を変える。
「そんな馬鹿な・・・! アンティマジック・フィールドの中で呪文を発動するですって?!」
「なぁに、奥の手ってやつでね・・・」
ぺっ、と血の唾を吐きながら笑みを浮かべるイサミ。
やはりこいつは"グレイホーク"以外知らないようだ、とこれまでの認識を確信に変える。
D&Dでもっともメジャーでスタンダードな背景世界がグレイホーク(オアース)。
対して、イサミはほぼあらゆる背景世界の技術や呪文を使いこなすことができる。
《ミストラの
術者の術力次第だが、見ての通りアンティマジック・フィールドの中での呪文発動を可能とする反則的《特技》である。
そも魔法を使うには、いわゆる"マナ"と呼ばれるような魔法の源と自身の精神力を反応させなければならない。
そのマナの働きを一時的に抑止するのがアンティマジック・フィールド。
そして抑止されたマナに能動的に働きかけ、無理矢理に稼働させる秘術が《ミストラの秘伝》。
フェイルーン世界のマナそのものである魔法の女神ミストラのしもべだからこそ許される、超反則技だ。
(なお本来はミストラの僧侶か兼業僧侶でなければ取得できないが、イサミはウィッシュによる取得でその辺をクリアしている)
D&Dでタイムストップを合わせる、なんてことはできませんがまあ正直できてもおかしくは無いかなと言うことで。
鳥取案件(プレイグループごとに細かいルールが違う)と思ってください。