ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
一方全身を焼き尽くされた融合精霊だったが、それでも致命傷にはほど遠い。
焼け焦げた表皮、焼け落ちた眼柄や触手もまたたく間に再生していく。
『フシュウウウウ・・・』
『グググググ・・・』
人のものではあらざる声帯から声を絞り出すザナランタールとネヴェクディサシグ。
左手のキャリオンクロウラーもキチキチと声を上げており、グラシアは無言。
堕ちた精霊は先ほどから一切のリアクションを見せない。
完全にグラシアに制御されているのだろう。
「散開しろ! アイズ、ベート、椿、リヴェリアは右手!
ティオネ、ティオナ、ガレス、ナルヴィ、アリシア、クルス、レフィーヤは左手に回り込め!
ラウルとシャーナ、レーテーはイサミを守るんだ! 総員、攻撃はなるべくかわせ!」
だがもちろん、回復を黙って見過ごすロキ・ファミリアではない。
反魔法の目を避けるべく、イサミを含めて魔法攻撃を行うメンバーを三方向に分け、有効活用する戦法に打って出た。
これはD&D世界におけるビホルダーへの定石でもある。
展開するロキ・ファミリアを横目に、ザナランタールが眼柄の一つでグラシアの方を見た。
イサミがアンティマジックフィールドの中で呪文を発動できるとなれば、そもそもの大前提が狂うからだ。
アンティマジックフィールドの中に対してはザナランタール当人も呪文は放てないし、当然呪文相殺も行えない。
「
回復できないうちに確実に殺すわ」
「随分と好かれたもんだな」
再び呪文に精神集中しつつ、イサミが苦笑する。
そのイサミと視線を合わせ、グラシアが晴れやかに笑った。
「ええ、もちろんよ。弟くんと違って美しくない上に手強い厄介者となれば、生かしておく理由はないわ。
それに、あなたの死は彼の美しさをいっそう引き立たせてくれるでしょうしね」
「美しい、ねえ」
引っかかるものはあったが、今はそんな事を考えている状況ではない。
会話を打ち切りイサミは呪文を放った。
「《範囲拡大》"
高さ12m、厚さ4mの鉄の壁が出現する。
最早城壁とすら呼べそうな支え付きの壁は、いかに融合精霊と言えどもたやすく打ち破れそうにはない。
いつも使う"
だが、力場でも炎でも魔法の氷でもないただの鉄であるがゆえに、一度生み出されれば持続時間が切れて消えることもないし、反魔法力場の中でも存在できる。
(そして、
壁が建った瞬間、腹の大穴と全身の傷口が見る見るふさがっていく。
先ほどシャーナとラウルが飲ませ、振りかけたエリクサーが、反魔法力場の効果範囲外に出た瞬間本来の効果を発揮したのだ。
10本近い、それも最高品質のエリクサーをぶちまけただけあって、負傷はかなり回復した。
これだけのエリクサーを使って完治しないことに改めて脅威を感じつつ、次の一手を打つ。
「シャーナ、レーテー、ラウルさん! 後方に離脱・・・」
言いさして、ぞっとする感覚がその背を伝った。
他の三人も程度の差はあれ似たような表情を浮かべている。
次の瞬間、鋼鉄の城壁を引き裂いて現れた融合精霊が何の反応を示すいとまもなくイサミ達を巻き込み、蹂躙した。
「~~~~~っ!」
悲鳴すら上げられず、融合精霊の巨体に挽き潰されるイサミ達。
やや離れた場所で指揮を執っていたフィンを始め、椿を含めたロキ・ファミリアの面々が揃って顔色を失う。
イサミ達が瓦礫の下に消えたからだけではない。
厚さ4m、高さ12mの鋼鉄の城壁を薄紙のように突き破る膂力。
そして一級冒険者達に反応を許さない速度を目の当たりにしたからだ。
僅か1秒弱。
その間に既に融合精霊は50m程も彼方へ移動してしまっている。
ウダイオスを凌駕する巨体にしてこの速度。
恐らく追いつけるのは【エアリエル】を発動したアイズのみであろう。
だがそれも
そしてあの巨体。あのリーチ。あの質量。
今のように突っ込んでこられたとき、第一級冒険者と言えども、前衛は後衛の魔導士やサポーターを守りきれるのか?
(無理だ)
戦慄と共にほとんど全員がそれを認めた。
だが、それでも諦めていないものが三人。
「総員散開しろ! とにかくあの
絶望的ながらも、最善の手を打つフィン。
【舞い踊れ大気の精よ、光の主よ。森の守り手と契を結び、大地の歌をもって我等を包め――】
鋼鉄の壁が挽き潰されたのを見た瞬間、自らの持つ最強の結界魔法の詠唱を始めたリヴェリア。
「・・・」
そして手に持つ二振りの大戦斧を何やらいじり始めるガレス。
その首領達の姿を見て、他のメンバーの動揺も僅かながら鎮まる。
だが、敵はそれより尚早い。
融合精霊が身を翻した瞬間、炎の爆発が連続して発生する。
『"
「きゃあっ!」
「ちいっ!」
四つの爆発が連続して起こり、冒険者達を炎で焼く。
一つ一つは一撃必殺に程遠い威力しかないが、無視できるダメージでもない。
そして次の瞬間爆炎を裂いて、瞬時にトップスピードに乗ったその巨体が突っ込んできた。
想像してみればいい。
6階建てのビルほどの「何か」が、F-1並の(時速300kmを軽く越える)速度で突進してくるのだ。
いかに超人であろうと、人の身が太刀打ち出来るものではない。
「レフィーヤッ!」
先輩冒険者であるアリシアの声と共に、エルフの少女は突き飛ばされた。
その目前で、巨大な怪魚が姉のようなエルフの姿をかき消して通過する。
アボレスの触手が少女の金髪をかすった。
「レフィーヤっ! ・・・【
『
「!?」
右腕を動かし、こちらに向けたビホルダーの巨眼からカミソリのように細い一筋の光線がほとばしる。
今まさに跳躍しようとしていたアイズの風が瞬時に『分解』され、白銀の剣士がつんのめる。
かつてアスフィの
アイズの抵抗力がまさっていなければ、《デスペレート》を含めた装備のほとんども一緒に破壊されていただろう。
だが今は蹂躙に巻き込まれたアリシア、そしてティオネだ。
ティオネは辛うじて立ち上がるが、レベル4、しかもエルフであるアリシアに彼女のような耐久力はない。
「アリシアさんっ!」
レフィーヤの声がむなしく響く。
エルフの女性冒険者は全身から血を流したまま、瓦礫の中で動かない。
「い、今・・・」
「馬鹿っ!」
駆け寄ってエリクサーで治療しようとするが、今度はティオナに襟首を掴まれる。
そのまま脇に抱えられて、一緒に前に飛ぶと同時に、再び炎の爆発がその体を焼く。
次の瞬間、巨大な質量がたった今いた場所を通過するのを感じた。
「っ・・・・!」
今度狙われたのはティオナ、ナルヴィ、クルス、そしてレフィーヤ。
レフィーヤはティオナに抱えられて辛うじて飛び避ける。
だが蹂躙の中心線近くにいたナルヴィとクルスは間に合わず、まともに巻き込まれた。
ガラス化した地面を削り取った瓦礫の中には、虫の息の二人が残される。
これで行動不能になったのはイサミ達三人とラウル、クルス、ナルヴィ、アリシアの合計七人。
また椿が駆け抜けざま左腕のキャリオンクロウラーから攻撃を受けたが、
この巨大な怪物は、頭と下半身と両腕が、それぞれ独立して行動できるようだった。