斜陽のレイブンロアー   作:kurono20

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一話

「…はぁ〜…えー、君たちは、MS教習訓練で高い適性を示したため…はぁ。私管轄の、ここ、レイブンロアー隊に配属と、なりました。と。ハイ、拍手。」

「…ふざけてる。」

連邦軍、本部であるジャブローにいくつもある小会議室。その一室に、男達はいた。

「こういう雰囲気、暗いっての?嫌いじゃないんだけど苦手だね。上官サン?」

「…」

目の前に立つ三人を見比べて、また喉の奥から溜息があふれる。

「…はぁ。三者三様、ご機嫌だね。でもこれは仕事。私は上官だから。…はぁ。指示には従ってね。」

「かたっ苦しい挨拶はいいからさ、早く俺の機体を見せてくれよ。」

「はいはい。ま、これが終わったら連れてくよ。…はぁ。かたっ苦しい挨拶、規則でしなきゃだから。」

「えー…」

「貴様、黙っていろ。今は一応、部隊挨拶の時間なんだ。」

「あんたもさっき喋ってたじゃーん。」

「あれは呟く、だ。」

「…はぁ。そっちの君もいいかい?」

「…ああ。」

「…こっちが一番暗そうだな。」

軽口を叩く二人を無視しつつ、話を進める。

「…はぁ。えーっとまずはまずは…?ああ、部隊指揮官決めか。はい、この中で一番階級高いのは?」

「俺は二等兵。」

「同じく。」

「伍長。」

「…はぁ。私は少尉。これからは私の言うことに従ってね。」

「…あいつ伍長だって?」

「…まあ貫禄、なのか、あれは?」

…まだ、黙らないのか。

「…はぁ。…貴様ら学生か?黙って話も聞けんのか。」

「ごめんなさーい」

「…」

「…はぁ。んで、次。現場指揮官決めだ。…はぁ。残念ながら私は自分のデスクで書類を片付けるのが性に合っててね。…はぁ。現場のことなんざ露ほども知らないの。つまり。…はぁ。君たちの中で一番強いやつ、誰?」

「強い?であれば俺すよ。」

「貴様のシュミレーターのスコアは?私は二万を越えたが。」

「ああ、そう、それ。…はぁ。うち、シュミレーターとかのスコア、あてにしてないから。強い弱いとか、実戦で語って。」

「実戦だと?」

「仲間同士で殺り合えって事か?」

「違う違う。…はぁ。そんな甘っちょろいやり方で大事な役は決めないよ。」

考えが至ったのか、真面目そうな方が一瞬口を噤む。

「…って、事、は…」

遅れてやんちゃそうな方も顔を青くする。無口な方は相変わらずだ。

「おいおい、冗談だろ?」

「…はぁ。冗談を言っているのは、さっきから君たちだけだ。とりあえず、前線。五日間くらい行ってきて。生きて帰ってきたやつが指揮官ね。…はぁ。じゃ、ジムのとこ行きましょー。」

「ちょっと待て、俺たち…」

まだモゴモゴと、反論しようとする部下候補を睨み、黙らせる。

「何。自分たちは多少他より強いから特別かなんかだと?…いいや。貴様らまとめて捨て駒だ。帰ってこい。そうしたら貴様らは捨て駒ではなく、私の兵士だ。」

「…言うじゃねぇか。」

「…まともな喋り方も出来るんだな。」

「…」

 

「なんだここ、なんだここ!ただの地獄じゃねぇか!」

4日間戦った総括を、呪詛として吐き捨てる。そこらじゅうから飛んでくる弾に、どこにいっても聞こえる足音。濃すぎるミノフスキー粒子のせいでレーダーは使い物にならなくなってから久しい。どこを向いても見える敵の痕跡に、もう囲まれて、孤立しているような錯覚を覚える。

「黙っていろ!喋ったところでどうにもならん!右だ!マゼラアタック!」

言葉への反射だけで引き金を引くと、すぐに反撃が飛んできた。

「あいつは?あの無口な奴!」

「知らん!どこかで死んでるかもな!」

「おいおいザクの群れだ!まっすぐこっちに来てるぞ!」

「クソっ!タンクに狙われている!ここから出たら撃ち抜かれるぞ!」

混乱を極めて行く戦場に振り回されながら、なんとか生き残る道を組み立てて行く。…しかし、頼みの綱になりそうなものは見つからない。掴む藁もないのではどうしようもないのだ。

「万事窮すじゃねぇか…!友軍は!?」

「いない!全滅したか、撤退したか!どちらにしろ、俺たちが今最前線だ!」

「祟ってやるからな!あの少尉!」

 

走る、走る。なるべく音を立てないように、勘付かれないように。標的は、すぐそこ。橋の残骸を超えた所。回り込むか、飛び越えるか。…速さ重視だ。一瞬の浮遊感、のちに軽い衝撃。目の前には、無防備な、敵のタンク型MS。

「まず、後方を潰す。というのは、よく言われるものだよな。」

目の前の敵MSを切り伏せ、周囲を確認する。すぐに次の標的を見つけ、また突撃を開始する。

 

「…あれ?」

異変に気づいたのはすぐだった。

「どうした?」

「こっちに来てたザク共が急に反転していった…?」

「なんだって?…敵タンクが…」

ただの残骸になっているタンクを見つけ、命が繋がったと胸を撫で下ろす。しかし、それは早いとすぐに思い直す。

「一体、何が起きてるんだ?」

「分からない。分からないが…何をするにしろ、今が絶好のチャンスだ。俺は、行く。」

「おい、待てよ。俺もこんなとこ嫌なんだ、俺も着いていくぞ。」

 

これで、最後。コックピットを突き刺していたサーベルを引き抜き、すぐに移動を開始する。戦場の音が変わった。恐らくこの動きに気付いた敵がこっちに向かって来ているんだろう。少しでも有利な位置に。…目の前の廃ビルの屋上に潜もう。頭上からの強襲なら、ザクを数機は持っていけるはずだ。

「…」

一機、二機…五機。機体数を数えると、すぐにビルから飛び降りる。マシンガンをザクの群れに向かって乱射し、咄嗟に防御出来なかったザクが二機、着地と同時に倒れ、そのまま動かなくなった。

「…あいつ、厄介だな。」

いち早く上空からの強襲に反応し、まだ動揺している他のザクと違い、既に臨戦体制になっている角付きのザクを睨みながら、素早くマシンガンをリロードする。リロードを終え、マシンガンを構えるより先に角付きがザクバズーカを連射してくる。マシンガンを適当に撃ち返しながら横に走ってそれを避ける。適当に撃った為、弾は数発当たるが致命傷には至らず。しかしこちらにバズーカの弾は当たらなかった。走りながらビルの影に退避する。直後に動揺から復帰した角無し達がマシンガンを斉射してきた。マガジンを取り出しながらどうするべきかを考える。ここにいればいずれザクに囲まれる。弾数も残り少なく、これ以上撃ち合うのははジリ貧だ。

「…そうだ。」

思い付いた作戦をすぐさま実行に移す。グレネードを取り出し、それを投げていく。

 

「よし、行くか。」

盾を前に掲げてビルの影から飛び出し、一番近くのザクの元に駆けていく。すぐさまマシンガンで迎撃されるが、ジム本体に届いた弾はなかった。走る勢いのままザクに突進して押し倒し、頭を盾で押さえつけてコックピットにビームサーベルを突き立てる。…一瞬の静寂の後、残った方の角無しがマシンガンを乱射してくる。角付きは格闘戦に入る気なのか、ヒートホークを取り出している。盾を構え、マシンガンに備えて。

「…そろそろ時間だ。」

ピッ。…ピッ。

電子音がコックピットに響く。一度では無く、何度も。視線を落とし、画面の隅に表示されている時間を確認する。…あと30秒。少し長過ぎたか。ドス、ドスと音を立てて角付きが迫ってくる。こちらに来るまで流石に30秒は掛からないだろう。であれば、時間を稼ぐか。サーベルを抜いてザクを迎え撃つ。閃光、火花。ヒートホークとビームサーベルが何度か交わり、その度に飛ぶ火花で地面が溶ける。何度目かの狙撃を避けられた角無しが業を煮やして格闘戦に加わろうと近づいてくる。…しかし。

…ピッ。…ピピピピピピ。爆音。それは連鎖し、バキバキと鉄骨をへし折りながら何階建てかも分からないビルが倒れてくる。驚いたのか一瞬動きが止まった角付きを蹴り飛ばし、その勢いのままスラスターを吹かして離脱する。コロニーには到底及ばないが、十分すぎる大質量だ。下敷きになって、果たして生き残れるものか。砂煙の中から手が伸び、煙を振り払う。そこには、ジムがいた。

「損傷は無し。…さっさと友軍と合流するか。」

言葉の通りに行動を開始し、戦闘区域の離脱を始める。派手に暴れた。すぐに敵が寄ってくるだろう。また戦う為に、急いで補給を済ませよう。

「…そう言えば。…あいつらは?」

 

「ヘイヘイ敵前で背中を向けるとは愚の極みだぜ、ジオン共!」

「まっすぐ突撃するな!せめてジグザグにだ!」

「わーかってるって!」

そう言うが、どう見てもまっすぐ進んでいる。急速に近づいてくるMSに敵が気づかない訳もなく。振り返った数機のザクが臨戦体制をとる。

「来るぞ!」

「だーかーらー、わーかって、る!」

言い終わると同時に地面を蹴り上げ、マシンガンを避ける。サーベルを抜き、迎撃しようとヒートホークを振ったザクと鍔迫り合いになる。

「む、こいつちょっと強い!」

「だから突撃するなと…」

鍔迫り合いの横にいるザクのメインカメラをマシンガンで破壊しながら近づき、接近に反応出来ないザクを串刺しにしていく。

「借り、一だぞ!」

「分かってるよ、援護ありがとう!」

話しながらもヒートホークを弾き飛ばしてザクを撃破し、すぐに他のザクに斬りかかる。

「おい、そんな暴れるな!狙いがつかないだろうが!」

「んなこと言われたって…よっ!」

ザクの頭をシールドで叩き潰しながら返事を返す。腕を切り飛ばし、胴体を切り離し。数体やられて、他のザク達はすぐに撤退することにしたようだ。

「だから、背中向けてんじゃねえよ!」

「おい!…ッチ。突撃バカめ。」

マシンガンで撃てばいいものを、サーベルを抜いて走る一時の相棒に呆れながら、しかし援護のために結局ついて行く。…全く。言い出しっぺは自分だから、嫌ってわけでは無いんだが…

 

「で、具体的にはどうする気だ?」

「む?追うに決まってるだろ。」

「やっぱりな、そうこなくっちゃ!」

早速飛び出そうとするお隣さんを掴んで戻す。すぐに勢いを殺されたお隣さんから、不満げな批判が飛んでくる。

「なんだよ、まだなんかあんのか?」

「落ち着け。追うったってお前どうする気だ?」

「ん?強襲して殲滅かな。」

「馬鹿か。まっすぐ行っても反撃されるだけだ。奴らが下がっていった理由を探って、可能ならお前の言う方法で行こう。出来なさそうならさっさと逃げるぞ。」

「え、逃げんのかよ?」

「当然だろう…。お前、死ぬ時は俺を巻き込むなよ。マジで。」

 

「あと一機!」

ザクからサーベルを引き抜き、また追い始める。とうとう最後の一機になったザクは入り組んだところに逃げ込む気のようだ。逃げ込まれる前に倒そうとマシンガンを構える。が。

「…だから邪魔だ!目の前をウロチョロすんな!」

「俺のやり方にこれ以上指図すんじゃねえ!指揮官振りやがって、うざったいんだよ!」

「俺の方がずっと確実だ!冷静に考えろ!」

くだらないことで言い合っていると、遂にザクは逃げ込むのに成功した。

「…お前が邪魔するからだぞ。」

「知るかっての。どうせ追いつけばやれんだ。関係無いさ。」

二人はそのままザクを追う。何故、抵抗も碌にせずに、ただ逃げ続けたのか。その可能性に気づかないまま。

「よおっし追いつい…た…?」

「おい、なんで止まるんだよ。…うわ。」

命からがら逃げ切ったザクを庇うように、何体ものザクが動く。目の前には、幾つものモノアイが光る、正に死地が広がっていた。

「…おい、これ、逃げ切れると思うか?」

「無理だな。…はあ。だから短気はよせと言ったんだ。」

「降伏も、聞き入れそうには見えねえな。…んじゃ…やれるだけ、やってみるか?」

「当然。」

 

「ぐ…」

「片腕取られたぐらいで諦めんなよ?」

「わかってる、弾はまだある。全部奴らに撃ち込むまで絶対に倒れん!」

「その意気だ。」

『暑くなってるとこ悪いが。さっさと下がってくれ。』

「な、誰だ!?」

『あと5秒。』

「…一旦従うぞ。盾で援護してくれ。」

「…分かった。急げ!」

後退を始めていると気づいたザクの大群が一斉に動く。マシンガンを、バズーカを、ヒートホークを持って押し寄せ、自分達を刈り取ろうとしてくる。

『1…』

爆発音。何度も、後ろから、ずっと前へと伸びていく。そしてそれが止んだ頃…左右のビルが倒れ始める。

「うわ、何だこれ!下がれ下がれ!くるぞ!」

「ああ…ぐ、脚部がイカれた!先に行け!」

「はあ!?…ッチ!手、取れ!」

「すまん!」

「借りを返すだけだ!」

迫り来るビルから逃れるため走るが、しかし。戦闘で消耗した状態では全速で走ることもままならない。

「よく生き残った。お陰でじっくり爆薬を設置する時間がを得られた。」

「…お前は…」

目の前には、何機かのジムが立っていた。

「コックピットから出ろ。二機も引っ張る余裕はない。…離脱するぞ。」

ハッチを開け、久しぶりに日の光を浴びる。もう一機から出てきた戦友と頷き合うと、ジムの手のひらの上に飛び降りた。

 

「…へえ。」

柔らかそうな椅子に座った男が、椅子をキイキイ鳴らしながら声を出す。よほど意外な事だったのか、その声色には驚きが含まれていた。そんな声どころか、何らかの…疲労以外の感情を含んだ声を聞いた事のなかった秘書がが思わず聞き返す。

「…?どうしたんです?」

「いやいや。…はあ。思ったより部下候補は優秀らしくてね。5日も生き残ったらしいし。…はあ。そろそろ迎えにいかなくちゃな。」

持っていた紙を机に置き、席から立ち上がり、一度伸びをする。ふああと欠伸をしながら、男は華麗に仕事をほっぽり出して戦場へと向かった。




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