ここはとある場所にある、主にゴシップ記事を扱う小さな出版社。ここに務める記者の町田崇典。可もなく不可もない記事を書く彼には、裏の顔があった。それは、世間で「悪党」と言われた組織や個人に対し、自分の好奇心で取材をすると言うものだった。得られた情報は出版社で記事にする事無く、自宅の端末に保管している。
彼が何故そのような趣味を持つのか?本人は好奇心半分、そして、悪党達も人間である以上、邪険にせずにお話したいと言うのが半分。余り誉められた事では無い為に、記事にする事は無い。もとい、町田自身の持つ不思議な雰囲気は、悪党達を自然と惹き付けるのだ、本人が聞いたらきっと怒るであろうが。
革命運動家、指定暴力団、猟奇殺人犯、不法滞在外国人等々…町田はこれまで数々の悪党らに取材をしてきた。普通ならばゴシップ記事を書く記者などに取材を許可するなどあり得ない。しかし、彼が書くゴシップ記事は彼等をネタにしない、ごく普通のものである。これらの悪党に対しては、本当に本人の純粋な好奇心のみで取材をするのだ。
町田、彼は普通のゴシップ記事を書きながら、今日も悪党達の言葉を聞きに行く。良心の欠片は無いのか?町田はそれを持ってはいるが、職業柄、どんな記事を書こうと罵られる為、敢えて良心が無いように振る舞うのだ。
だが今回の相手、立浪忍に関しては、純粋な好奇心を後悔する程の人物だった。
※非常に読む人を選びます、ご注意下さい。
東京拘置所のとある一角の房、未決囚を収容する施設である拘置所の中で、その一角は他と雰囲気が違う。何故ならばそこは、未決囚ではなく、確定死刑囚の収容される場所であるからだ。ここに収容されている死刑囚の男は、まだ年若い。
確定死刑囚、立浪忍、28歳。猟奇殺人事件、通称「鬼騒動」事件の犯人である。鬼騒動、それは当時17歳の少年だった忍が、同年代の少年少女ばかりを強姦、殺害、そして肉体の一部を喰らうと言う非常に猟奇的な事件を起こした。逮捕後の彼は何も喋らず、黙秘を続け、公判に入っても一言も喋らなかった。逮捕から二年後、死刑判決を受け、その時も一言も発しなかった。控訴は自らの意思で棄却し、死刑が確定した。
それから九年、法務省の方で死刑執行が近々行われるのではと言う話を耳にした町田は、立浪忍が実はどのような人物だったのか、事件の真意とは何なのかを知るため、彼とアポイントメントを取る事にした。先ずは事前に手紙を送り、確認。立浪忍は今までマスメディアの取材や家族との接見も禁じていた。拘置所側は特に面談の禁止をしていないものの、本人が一切を拒否しているのだ、アポイントメントは門前払いされる可能性が極めて高い。しかし、意外な事に、立浪忍は町田との面談を受けると言う連絡を受けた。町田は拘置所に行き、許可を取って録音機を持ち、早速面談へと向かう。面談は合計で五回、手紙のやり取り十回、その期間は僅か三ヶ月…法務大臣が死刑執行の号令を出し、立浪忍が死刑執行されるまでの記録、町田のみが知る、悪党立浪忍へのインタビュー。
ー立浪忍さんですね。
「はい…町田崇典さんですね、私に個人的に興味があると言ったのは、貴方が初めてです。」
立浪の第一印象、それは何処にでもいるような男。猟奇殺人を行った男とは思えない柔らかな好男子。しかし、殺人犯とは大概見た目が地味で何処にでもいるような印象であると言うのは今まで多くの悪党に取材をした事から学んでいる。しかし町田は犯罪の糾弾をするような事はしない、そんな事は他の下品な週刊誌や新聞記者がやっている事、町田は二の句を告げる時は、その辺にいる気のいい一般人に話すような事をする。
ー今更話したくない事は話さなくても結構ですよ、私は貴方がどのような人物であるかを知ったとしても、次の日に書くゴシップ記事は芸能人の不倫とかそんな感じですから。
「面白い人ですね、私に興味があると言ってきた人なんて今までいなかったし、糾弾するような物言いをしない。貴方にならば、私が黙秘し続けた事、そして私の身の上に関する事を全て話してもいいと思います。」
立浪は、徐々に、しかし、はっきりとした口調でこれまでの事を話した。
立浪忍、東京は浅草に生まれた。立浪の家族は両親と姉、弟、妹の六人家族で、祖父母は近所に家を持つ。裕福でもなく、貧乏でもないごく普通の家庭に生まれ育ち、情緒ある浅草の活気の中で過ごした。この辺りは彼が逮捕された当時にマスメディアに知られている事である。家族仲も良好、友人も多く、何故彼が凶行に走ったのか、黙秘し続けた為に一切知る事が出来なかったので、表面上の事しか報道されなかった。
しかし、立浪は町田に対し、少し微笑みながら言葉を放つ。
「私は、五歳の時に、人を食べたんです。」
短い言葉だったが、町田は直ぐに理解出来た。立浪はまだ年端もいかぬ幼少時代に殺人をしていたのだ。しかもこの時既に殺害相手を食すると言う奇行すら行っていた。サイコパスかと言われていたが、心理学の専門家がそれを否定していたので、その線は無かった。事実、立浪の事をよく知る人間は皆、あの普通を絵に描いたような男が何故?…そう話していた位には正常そのものだったのだ。
「同年代の少年少女、何故かは分からないですけど、時々無性に食べたくなっちゃうんです。」
常人には理解しがたい性癖…本人は恐らく殺人をしている感覚は無い、何故なら殺された被害者は全員食べてしまっている事から、釣った魚を捌いて食べた位の感覚であったからだ。
「最初に食べたのは女の子でした。何と言うか、とても美味しそうに見えたから、二人きりになれる公園に誘って、家から持ってきた包丁で、その子を裸にして、首を切って血抜きしました。」
言動のおぞましさとは裏腹に、立浪はまるでごちそうを食べた感想を言うように目を輝かせる。想像しただけで嘔吐しそうになるが、町田はあくまで平静に、かつ僅かに笑みを浮かべながら、立浪の話を聞いた。
異食症は世界中にかなりいるが、立浪のような人間が食べ物に見えると言う比喩抜きの言葉を放つ者はそういない。気分は悪くはなったものの、同時に町田は取材する意欲を増してもいた。
「首を切ったら全身の力が抜けて、その子はおしっこを漏らしながら痙攣してるんです。その姿に興奮した私は、その子の陰部に包丁を突き立ててくり抜き、食べたんです。美味しかったですよ。」
今日一番の嘔吐感に襲われたがここも我慢した。立浪の貴重な話を聞けなくなるのはもったいない、しかし、倫理観に反するそれは、やはりきつかった。
立浪はその後、女の子をバラバラにした。内臓は肝臓を食べて、尻肉と心臓をビニールに詰めて、残りの肉は公園の砂場に雑に埋めたと言う。狂っている、しかし立浪は罪悪感とかそんなものを持っていない、何故ならば殺人をしているのではなく、生きたものを調理している感覚だから。
「一年に三回、多い時は十回かな?普通のご飯より美味しそうな人間を見る度に、我慢せず食べて来ました。八歳の頃に食べた男の子の睾丸は美味しかったなぁ。」
立浪の危険な性癖は、性別を問わない。殺人の条件が美味しそうか否か、シンプルだが絶対理解出来ないししたくないものだ。町田は取材後暫くは獣肉は食えなくなるなと諦めつつ、立浪の話を聞いた。
立浪は食品に見える者以外の人間とは、ごく普通の関係を築いていた。人並みに笑い、人並みに泣き、人並みに怒る。立浪本人は世間に良く知られる殺人犯の事については全く理解出来ないと言う。立浪自身、殺人の自覚等無い故に質が悪い。
立浪は小中高、成績は並で特筆するような事は無い。食に関しては食いしん坊であると言っていたが、その後取材をした(勿論立浪本人の独白を伏せて)殺人を示唆するような発言は一切無かったと言う。食べた物に関する作文や日記を見ても、カレーだとかカツ丼だとか、肉が美味しかったとかそう言った感想を書いているだけ。しかし町田には何となくだが悟ってしまった。本当のごちそうに関しては、立浪は触れていない事を。それを悟るのは二回目のコンタクトからであった。
ー立浪さん、元気ですか?またお話しが聞きたくて来ました。
「どうも町田さん。私が捕まってから笑顔で接してくれたのは貴方だけでしたので。私の話なんてごく普通ですよ?」
立浪にはやはり自覚なんて無い。捕まった理由なんて理解出来ないようである。しかし、誤認逮捕だとか冤罪だとか一切言わずに死刑を受け入れたのは何故なのか?町田はそこが分からない。
ー逮捕から裁判の結審まで黙秘を貫く、立浪さんは喋る気にもならなかった。私ももし誤認逮捕されたなら、黙秘しますね、公権力は信用出来ないもので。
「町田さんもそうなんですね。ええ、あいつら功名心しか頭に無いんで一言も話しませんでしたし、遺族だなんだと言ってる連中も食事しただけの私に何もかも押し付けようと言う頭しか無い、理解出来ないですよ。」
ー食事、と出ましたね?そう言えば立浪さん、食べたものを日記に書いてらしたらしいですね?
「ええ、食には興味がありまして。ただ、本当の意味のご馳走は書かないんですよ、見られると恥ずかしいから。」
立浪はそう語る、名店の隠れたメニューと混ぜながら、今まで食べた人間、特に中学生時代に食べたと言う少女について嬉々として語っていた。
「過去最も美味しかった食材じゃないかな?良い乳房を持ってたんでしめる前に切り取って食べましたよ。
下半身は見たら何故か勃起しちゃったんで、その子の中に気が付いたら入れてましたね。」
立浪は気付いていない、快楽殺人をしている事に。独白は続いた。犯すだけ犯して生きたままその子をバラバラにした立浪は、何とその子を骨の髄に至るまで平らげたと言う。町田は聞いていて気を失いそうになった。
(立浪が殺した被害者達の多くは、顔見知りが存在しなかった。少なくとも彼が独白した中学生時代までの時点では、何の接点も無い少年少女ばかり。かつ、彼はごく普通の人物だったと言う評価ばかり。だから捜査線上にも浮かばなかったし、その少年少女達に関しては全くの初耳ばかり。)
立浪の凶行が表になったのは高校二年になってからの十件。町田は薄々気付いてはいたものの、冷や汗を隠しながら、インタビューを続けた。
ー立浪さん、ご馳走の話ばかりで申し訳ないですが、立浪さんが人生で一番ご馳走を当てた年って何時ですか?
立浪は少し寂しそうな表情を浮かべながら、しかしやはりと言うか、嬉々として答えた。
「高校二年に上がってからですね、だってクラスにご馳走が転がってるんですもの。男の子は歯応えがありそうで、女の子はまったりしてそう…まあ、その年は私が逮捕された年ですから、悪い思い出が出来た年でもあるんですけど。」
ークラスにご馳走、ですか。
「ええ、生きたご馳走ってのはグルメガイドに載らないので、中々当たりません。ましてや、私と同じ年齢のご馳走ですから、見つけるのは意外と大変なんですよ?だから、あの年は凄く運が良かった、まぁ、そこで運を使いきっちゃったかな…」
立浪の話し方は、まるで、宝くじが当たった後の人のその後の発言や、ゲーム等でのレアアイテムを手に入れた後に失敗したゲーマーの発言に似ていた。ただ一つ違うのは、立浪のやっている事は立派な殺人、それも、殺人を殺人と認識していない。
十人の殺害方法は大体同じだった。人気の無い場所に呼び出して首のつけ根を殴打し、身体を拘束、被害者が目覚めた瞬間に犯して自分の気に入った部位をえぐり取り、最後は生きたまま心臓を引きずり出す…これらは僅か一ヶ月の間に行われた。
しかし立浪の命運もここまで。ご馳走と認識したのがクラスメイトであった事から、学校側も警察も本腰を入れて捜査し、最後に殺害された少女を食していた所を現行犯逮捕された。現場を見た警察官らはトラウマになっており、全員がその後職を辞した程であった。少女は発見時は生きていたが、陰唇をくり貫かれ、子宮を抉り出され、波打つ心臓が露になっていた…一目で助からない事を悟ったと言う。
ー立浪さん、どうもありがとうございました。また取材する時は、お手紙送ります。
「こちらこそ、町田さんに会えて本当に良かった。いつ死刑が執行されるか分かりませんが、またお話ししたいな。」
立浪の顔は、とてもいい笑顔だった。だから、立浪が見えなくなってから、町田は拘置所のトイレに駆け込み、嘔吐した。悪党と言う表現がマシに見える程、立浪の表情が醜悪に見えてしまったのだ。多くの殺人犯に取材をしてきた町田が、唯一肝を潰されるような思いをした立浪忍と言う、猟奇殺人犯。彼のフィルターを通して見た情景の一部を、本人の口から聞く…事実は巷の週刊誌よりも遥かにエグいものだった。後日、町田は立浪の五歳から中学までの足跡を調査した所、その時期に起きた立浪と同年齢の死者及び行方不明者を調べた。後日町田は匿名でそれらの情報をリーク(この時立浪の名前は出していない)、立浪の証言と一致した場所から遺骨が見つかった。骨の髄まで喰われた少女については伏せたが、遺族の心情を鑑みて、町田はその情報を流した。
立浪忍が死刑執行されたその日。彼の表情は晴れ晴れとしたものだったと言う。最期の言葉は、彼の世でご馳走を探したいだった。常軌を逸した悪党、立浪のような殺人犯は、今日も何処かで、イカれた殺人を犯している。町田は、あくまで好奇心でそれらを取材するが、悪党には決して同情等しない。町田は取材を全て終えると、無惨に殺された被害者達へと黙祷し、また新たな悪党へと取材をするのだった。
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ゴシップ記事の記者が、好奇心から悪党に取材と言う貞でそれらに接触する…世界を探すと結構いるみたいです。
五話位の短編にしようかと思ってましだが、立浪を凌ぐ犯罪者が思いつけなかった……