「ちょっとちょっとそこのお姉さん」
いつかの欧州。いつかの月夜の晩。どこかの路地。
薄明りに照らされた煉瓦作りの路地の上を一人の修道女が歩いていた。そこへ、突然建物の間に立っていたパンクファッションの少女が声をかける。
「はい。何でしょうか」
「火薬の臭いがするよ、あんたただのシスターじゃないでしょ」
「……」
シスターの表情が少し固まる。
「アタシさ、そういう人相手に商売してんの。ちょっと見てかない?」
赤いメッシュの入った前髪をかきあげながらあっけらかんと少女は言う。そんな少女を前にシスターは一瞬俯いたが、やがて
「へぇ」
不敵に笑って返事をした。
「こっちこっち。この裏のコンテナがアタシの店。今月ちょっと売り上げよろしくなくってさ~。ちなみにお探しのものとかある?」
「軍隊」
「じゃあ威力重視で商談しよっか。アタシグロック。あれ、オーストリアの傑作が由来」
けらけらとグロックは笑い、シスターを路地裏に連れ込むと、そこにあったコンテナの扉を雑に開いた。
中には無数の木箱や棚が並び、壁には小銃が並んでいる。みすぼらしいコンテナではあったが、中身はいっぱしの銃砲店と変わらなかった。
「……」
それなりの品揃えにシスターは目を細め、品定めするように視線を店内にまわす。ふと、その時グロックがシスターの腰周りに不自然なふくらみを見つけた。
「え、何いっつも銃持ち歩いてんの?……うっわしかもトカレフ。いや待て安全装置ついてんな。コピーじゃん。何から何まで真っ黒。敬虔な使徒がそんなの持ってて大丈夫?ほら……神サマに怒られたりしないの?」
「負けたら地獄へ連れて行こうとするヤツと戦ってる、大して変わらない」
「それはご苦労なことで」
なんでもないようにシスターが言うと、グロックは近くの木箱に手を置く。
「トカレフが主兵装ってことはピストル使ってるね?重視するのは威力?携行性?それとも変た……芸術性?」
「威力」
「じゃあこれは?FN Five-seveN。5.7mmを撃ち出す大威力。サービスでオリジナルのホローポイント弾もつけよう」
「ファイブセブンは駄目」
「なんで?」
グロックが聞くとシスターは右手を広げて見せた。
「いい銃だけどグリップが太い。あいにくだけど私の手には余る。文字通りね」
「デブちんは駄目か~。あ、そうだ。弾は?見てかない?」
グロックが箱から一発取り出し、シスターへと放る。
シスターはそれを空中で受け取ると、弾頭に視線をやり、そのままグロックへと放った。
「いいよ、サービス」
「いらないって意味。何がオリジナルだ。ただのダムダム弾じゃないか」
「この国で使うんでしょ?ここはハーグ条約に署名してないから使ったって問題ない」
それに、とシスターの服を指す。
「祓魔師は人間相手に銃使ったりしないでしょ」
「ガワが人間ってこともある。私に弾を売りたいなら銀のフルメタルジャケットを出せ」
「街中でフルメタルジャケット使うの?」
「貫徹力がないと連中には効かない」
そう言ってシスターはポーチからひしゃげた煙草の箱を取り出すと、舌打ちして一本、同じくひしゃげた煙草を咥えた。
瞬間、銃声が響く。
「!」
煙草に火がついた。シスターが見やると、グロックが銃を抜いている。
「そんなら大口径でいこう。デザートイーグル!」
「だからグリップが太いのは」
「を、元に改造したウチの特性モデル。どうよコレ」
グロックがシスターに拳銃を渡す。見ると、確かにそれはデザートイーグルだったが、グリップが妙に細く、それに合わせて様々なパーツが換装されている。
「ウチは女性客も多くてね、そういう人向けに趣味も兼ねて作ってみたの」
「ずいぶん手を入れたな」
「もちろん。まずバレルはライフリングを限界まで浅くしてあるし、ハンマーはリングハンマーにして軽量化、同じようにトリガーも肉抜きしてる。ほんとはレールもつけたかったんだけど、正直この構成じゃ長持ちしないし、そもそも軽い大口径を作りたかったわけだしまぁそれはいいかなって」
「確かに軽い……いや軽すぎるな、何をしてる?」
と、そこでシスターが細くなっているグリップに目を落とす。
「……弾倉がない」
「グリップ細くするために取っ払っちゃった。結果チャンバーに直接弾を詰め込む単発式になっちゃったケド、まぁコンテンダーを使ってると思えば」
息をつく。そうしてグロックに拳銃を押し返した。
「なら初めからコンテンダーを使う」
「おろ」
「それに、あいにく見た目程几帳面じゃなくて。これだけ手が入ってると繊細な子になってるはず。そういうのは合わない」
「なるほどリボルバー派だったか。あ、でも丈夫さならそれこそグロックとかは?」
「……いや、せっかくだからリボルバーを」
オーケー、とグロックは背後の木箱を開き、中から一丁のリボルバーを取り出し見せつける。
「SAA。ピースメーカー。どっちで呼ぶ?」
「ふざけてんの?」
「ジャパニーズにはよく売れるんだよねコレ。なんかゲームに出てくるみたいで。まぁあとは西部劇効果」
「せめてパイソン出しなよ。あるならマテバがいい」
「マテバ?変わった銃欲しがるね」
と、そこまで言うとグロックは言葉を切る。
「……マテバもジャパンの漫画に出てきたね?」
「うるさい」
グロックは小さく笑うと、拳銃をしまい、今度はもう一つ奥の木箱に手をかけた。
「あいにくマテバは品切れだよ。代わりに今度はでかいのいこうか」
そう言って勢いよく一丁の小銃を引っ張り出す。
「あんたのことだし、普通の子はお呼びじゃないでしょ?というわけでまずはこいつから。G11!」
「帰る」
「ゴメン冗談。冗談だってば待ってよ!」
シスターが足を止める。そうして振り返ると、グロックが新しい銃を抱えている。
「横流し品を改造したオリジナルモデルの小銃」
「ブルパップ方式?元になってる銃は……」
「L85」
「もういい。お世話様」
「あぁ待って!じゃ最後にこれだけでも見てってよ」
グロックがシスターを呼び止める。振り返ると、グロックが上着を脱ぎ捨てた。
「じゃーん、どうよコレ」
その下には黒い防弾ベストがあった。グロックはそれをシスターに見せつけるようにわざと煽情的な動きをしてみせる。
「ウチのオリジナル。正直その辺の市販品よりずっと丈夫だよ」
「本当?」
「もちろん。ちゃんとテストだってし──」
銃声。
突然光った閃光とともにグロックが背後に吹き飛ぶ。
「な──か、はッ──!?」
シスターが銃を抜いていた。銃口の煙を吹き消し、ホルスターに収めるとそのまま大股にグロックに近づく。
「見せてみな」
そのまま乱暴にグロックの肩を掴み引き起こすと、腹の辺りを確認する。
「は……は……ほん、とに……撃つぅ……!?」
そういうグロックの胸の辺りで、一発の弾丸が変形していた。シスターはそれを拾い上げると、グロックの眼前に突きつける。
「……さっきお前に貰った弾だ。弾の威力が低いのか、それともベストが高性能なのか。どっち?」
涙目で荒い息をしているグロックに対し、シスターは淡々とそう告げる。
「はぁ……あ……ベ、ベストが……すごい、から……。お勧め、だよ……」
「……」
防弾ベストはあくまで弾丸が体内に侵入するのを防ぐものであり、着弾の衝撃まで打ち消すものではない。グロックは今しがた体を貫いた衝撃に肩で息をしながら、それでも薄気味悪く笑ってみせた。
「二着もらおう」
「へへ……まいどありぃ……」