日陰者の鴉   作:アママサ二次創作

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1.鴉とイレイザーヘッド

 ヒーローとは。

 

 個性という超常の力が日常となった世界で、その超常の力を用いて人々を守る献身の存在。人々を傷つけるヴィランに立ち向かい、人が抗うことの出来ない災害にも立ち向かい。人々の心の支えにすらなる彼らは、まさにヒーローと呼ぶのがふさわしいだろう。

 

 市民のためにその身を捧げる献身。

 

 あるいは、人々の心の拠り所となるカリスマ、象徴性。

 

 それら全てを併せ持つ、物語の英雄のような存在が、プロヒーローだ。

 

 だが。

 

 この国の。日本の平和を守っている存在は何もヒーローだけではない。

 

 例えば犯人逮捕や初動捜査などは基本的にヒーローよりも警察の役割である。ヒーローが表の英雄として立つのを支えているのが、警察組織であるといえるだろう。他にも消防組織は災害救助などで個性をガンガンに使うヒーローの手足として活躍したりする。ときにはヒーローに向いた個性がなければ率先して消火活動にあたったりもする。

 

 そして。

 

 ヒーロー達が活動するその裏側、暗部とも言える場所で活動している者たちもいる。

 

 国家公認の存在であるにも関わらず、彼らの存在が表に出ることはない。彼らはただ闇に潜み。ヒーローすら踏み入れることのない暗い場所で犯罪者たちや危険分子と戦い続けている。

 

 あるいは。この国ではなく他国に潜伏し。不穏の影が無いか常に調査をしている者もいる。

 

 そんな、人の目に当たらない日陰者達。

 

 彼らはただ。国民が平和ボケしてヒーローを応援できる日々を作るために、日夜戦い続けているのである。

 

 

 

******

 

 

 放課後。学校の屋上に出ていた少年は、自分の下から聞こえた爆音にビクリと肩を揺らした。

 

「またやってんのか?」

 

 ボソリとそう呟くと同時、屋上のフェンスの上に一羽の烏がやってきて少年の足元へとノートを放り出す。

 

「あーあー焦げちまってまあ」

 

 それを拾い上げてポンポンと叩くと、少年は屋上のフェンスを超え。1つ下の階のベランダの塀めがけて飛び降りた。手すりの上でビタリと止まった少年に、下の階にいた2人の少年のうち緑のもじゃもじゃ頭の方が怯え、尖った金髪の方が不機嫌そうに舌打ちをする。

 

「またてめーかよ!」

「いや、まあ、うん。拾ってこられたからさ」

 

 金髪の方にそう反した少年は緑髪の少年へとそのノートを差し出した。

 

「ほい緑谷」

 

 呼ばれた緑谷少年は、へたり込んでいた状態から慌てて立ち上がってノートを受け取る。

 

「あ、ありがとう、大鴉君」

「爆豪もいい加減やめろよな。そろそろ進路決めの時期よ? 問題起こすのはまずいでしょ。暴言ぐらいにしときなさいよ」

 

 再び舌打ちが返ってくるが、それを鑑みることなく大鴉はベランダの内側へと降り立つ。

 

「緑谷も。やめてほしいならちゃんと言えよな。言った上でやられたならそりゃあもうきっちり爆豪訴えれば良いんだからさ」

「余計なこと言うなやボケ! そのザコがヒーロー目指すとか抜かしてるからだろうが!」

「え、そうなの?」

 

 初めて聞く情報に、大鴉は緑谷へと視線を向けた。

 

「う、うん……」

「はっ! 無個性のザコがヒーローになんかなれるわけねえだろ!」

 

 自信なさげにうなずく緑谷に爆轟が叫ぶ。そんな中大鴉は、今自分が回収したノートの表紙に注目した。

 

「へえ……ヒーローについて色々調べてんのか。ちょっと見ても良い?」

「う、うん。はい」

 

 緑谷に一言断った後そのノートを見ると、ヒーローに関する情報が事細かに、それはもうびっしりと書かれていた。

 

「ほー。凄いねこれ。ネット見るよりわかりやすそうだわ。あ、ありがとさん」

 

 緑谷にノートを返すと、そのまま大鴉はベランダから教室へと入っていこうとする。

 

「おい!」

「あ、あの!」

 

 緑谷と爆豪に同時に呼び止められて不思議そうな表情で振り返るが、むしろ2人からしてみれば話の最中に大鴉が退席しようとしているのだ。

 

「どした?」

「いや、その、えっと……」

「何話の途中で抜け出してんだテメェ」

「ああ、そうだっけ? ノート返したからもう用は無いかと。それで、何さ」

「この無個性のザコがヒーローになれるかって話だろうが」

 

 そういう爆豪は自信満々に、一方言われた緑谷はいつも言われている言葉を言われるのだろうと体を強張らせる。

 

「なれるかどうかは知らねえけど。緑谷、別にヒーローなるつもり無いだろ?」

「……え?」

「は?」

 

 緑谷も爆豪も、大鴉の言葉に驚愕する。これまで、緑谷がヒーローを目指すことを馬鹿にする者は数多くいた。爆豪自身もそう。

 

 だが。緑谷のその言葉を、嘘だと断じたものは初めてだった。

 

「ど、どういうこと? 僕は、ヒーローに……」

「あ、いやごめん。厳しい言い方になったな。ヒーロー目指してるっていう割には何かをしてるようには思わなくてさ」

「何か、って……?」

「筋トレとか? いやまあ別にしろっていうわけじゃないぞ。ただ俺がお前みたいに無個性、無個性なんだよな?」

 

 大鴉の問いかけに緑谷は小さくうなずく。

 

「無個性でヒーローになりたいなら、個性以外で出来ることを探すな。まずはしっかりした体をつくることと格闘技とかで体術を鍛えるか。後は走ってスタミナ増やしたり、スタンガンとかで使えるもの考えたりとかするけど。緑谷ヒーローについて調べてるだけで全然体とか鍛えてる感じしないからさ」

「そ、れは……」

「んなことしてもなれるわけねーだろうが!」

 

 緑谷をけなしているように見えて、逆に言えば個性がなくてもヒーローにはなれると言わんばかりの大鴉の言葉に爆豪が噛みつく。

 

「え、それは知らないけど。でも多分あれだぞ? 陸軍の特殊部隊の人とかなら、個性使わなくてもヒーローを1対1で普通に倒せそうだし。まああの、なんだっけ。……そうそう、オールマイトみたいな凄いヒーローになれるかどうかは疑問だけど、ヒーローだって別に全員がそんなに強いわけじゃないんだろ?」

「う、うん。それは、そうだけど……」

 

 自分を応援してくれているように思えるのに、ヒーローをけなしているようにも思える言葉に緑谷は喜んでいいのか悲しんでいいのかわからなくなる。

 

「その点爆豪は体も鍛えてるよな」

「当たり前だわボケが。基本中の基本だろうが」

 

 そう言って再び舌打ちを残すと、爆豪は不機嫌そうに教室へと入っていく。それを受けて話が終わったと考えた大鴉もまた、彼の後を追った。

 

「なんでついてくんだ糞が!!」

「いや俺も同じ道だから。下校すんの」

 

 今日は用事も無いし、とブチギレ状態継続中の爆豪に返した大鴉は、彼のすぐ後ろを歩く。歩幅があってしまうものは仕方がないだろう。

 

 しばらく互いに黙って歩いた後、爆豪が口を開く。

 

「……お前、無個性のデクが本気でヒーローになれると思ってんのか」

「……んー。無個性でもヒーローになれる、とは思ってるよ」

「んなわけ」

「けど緑谷がなれるかって言われると、どうだろ」

「どういうことだよ」

 

 ブチギレがおさまってきた爆豪が、純粋に疑問に思うように問いかけてくる。

 

「なんていうか、緑谷って『個性が無いからヒーローになれないのは仕方ない』『個性が無い自分かわいそう』って思ってる節ない?」

「知るか」

「お前が聞いたんだろ。まあとにかく、そう考えてる状態じゃあ個性以外で努力とかも出来ないだろうし、無理なんじゃないかね」

 

 大鴉は別に個性が無いからヒーローになれない、とかは思ってない。ただそれ相応の努力が必要だというだけで。そして現段階の緑谷がそれを満たしているとは思えなかった。

 

「個性無しでなれるっつうのはどういう意味だ。常識的に考えて無理だろ」

「爆豪みたいに強力な個性は、個性無しに対して圧倒的なメリットになる。それはわかる。でもさ。うちのクラスにも手を岩にするだけのやつとか首が伸びるだけのやつとかいるじゃん」

「ああ」

「そいつらと比べて個性なしが劣ってる点て何よ。腕岩にするぐらいならハンマーとかガントレットとか使えば良いし、首が伸びるとか別に強力なメリットにならないだろ。視界が確保できるってんならカメラ付きのドローンでも飛ばせば良い」

 

 大鴉の言葉に爆豪は沈黙する。自分は誰にも負けない強力な個性を持って生まれた。だからこそ誰にでも勝てる。トップヒーローになれる。

 

 そう思ってきた。

 

 なのに大鴉は、個性の強さを否定するような言葉を口にする。

 

「あ、別に個性がいらないって言ってるわけじゃないぞ? 特にお前の個性とか、ほんとにトップヒーローになれるんじゃないかなとか思ってるし。ヒーローにも上から下まであるだろ。で、上の方のヒーローは個性が強いか、あるいは極めれば強力になる個性かだと思う。けど下の方は、正直個性よりも本人の練度が問題なんじゃないか、ってな」

「……それをあいつに言ってやらねえで良いのかよ」

「自分から言うのってなんか偉そうじゃない? 聞かれたら答えるけども」

 

 大鴉は正直、ヒーローに誰がなろうがどうでもいいのだ。誰がなろうと、市民はその時々のヒーローを英雄として称える。別に誰じゃないと困るというわけでもないのだ。

 

「テメエは」

「うん?」

「テメエもヒーロー目指してんのか。無個性で」

 

 爆豪の問いかけに大鴉は一瞬沈黙する。無個性。誰が? 俺のことか、と。

 

「俺無個性ではないぞ」

「は?」

「人の前で使ってみせたことが無いだけで個性あるぞ。まあヒーロー目指しはしないけど」

「……あんだけ言うのにか」

「別に言うだけならただだろ? 俺は努力をそういうものだと考えてるってだけ。ヒーロー自体は、まあ……お前がなるんなら大丈夫だろ」

「はっ! 当たり前だ」

 

 そう答えつつも、爆豪はヒーローを目指さないという大鴉に不満げだ。クラスメイトも8割以上がヒーローを目指すほどヒーローが憧れられているのが現代社会であり、その中で目指さないというのは異端なのである。明確に目指す、とはいかなくても憧れはするものなのだ。

 

「不満げだな」

「……なんでヒーローを目指さねえんだ。憧れとかはねえのか」

「お前がいれば大丈夫だから」

「それはテメエが目指さねえ理由にはならねえだろうが」

 

 本当のワケを言え。そう目線で訴えてくる爆豪に大鴉は肩を竦める。

 

「ヒーローってのは花形だ。誰もが憧れるおとぎ話の英雄だ」

「……」

「けども人助けなんてのはヒーローだけで回ってるだけじゃない。例えばヴィラン逮捕なんかは捜査をするのはヒーローよりも警察の方がはるかに多い。火事とか災害救助もそう。そういうの向けの個性を持ってるヒーローは活躍できるかもしれないけど、その活動を支えたり、ヒーローの手が足りない時には消防なんかが頑張る。避難誘導とか応急処置とかな。むしろ向いてないヒーローはそれ以下だったりするわけだ。俺にとってヒーローって、そんな言うほど大したものじゃないのよ。もちろん凄いとは思ってるんだけどな」

「……」

「納得した?」

「うるせえ」

「突然の理不尽」

 

 大鴉の言葉になにやら考え込んだ様子の爆豪はそれ以上口を開くことなく。互いに別々の方向へと分かれて帰途についた。

 

 

 

******

 

 

 翌日の放課後。用事があった大鴉は少し離れた街のカフェを訪れていた。ビルの上層、3フロア分を使った本屋の上層にあるそこは、買ってきた本を静かに読みたいという客のために設けられたスペースだ。今はまだ朝早くでもあり本屋が開いてもいないので、開店待ちをしているであろう女性の二人組と店員が1名と少ないが、昼ごろから夕方にかけてはそれなりに客も入る隠れた名店のような場所である。

 

 そんな中で大鴉は待ち合わせをしていたのだが。

 

「お客様方! 下でヴィランが暴れているそうです! 念のため建物外への避難をお願いします! 非常階段を使ってください!」

 

 そう店員が叫ぶと同時に、大鴉の脳内にも同様のイメージが送られてくる。5階にある位置の都合上はっきりとは聞こえないが、外で破壊音がするのはそのヴィランのせいなのだろう。

 

「ヴィランってことはヒーローも来るよね?」

「見に行こ!」

「誰が来るかな。このあたりだったらレッカーとか?」

 

 避難指示に対してきゃあきゃあとはしゃぎながら、ビルの側面に飛び出した非常階段ではなくエレベーターの方へと移動していくのは、はっきり言って馬鹿としか思えない。それを見送った大鴉は、男性店員と連れ立って非常階段に向かおうと思ったのだが。

 

「避難しないんすか?」

「あ、いえ、先程のお客様方が……」

 

 非常口に向かおうとする大鴉とすれ違うようにして店員が走っていこうとするので、思わずその腕を掴んで引き止める。

 

「ここのビルは、階段の配置が少し複雑になっていて脱出に時間がかかるんです」

「だから非常階段を使うように、と」

「先程のお二人にも伝えますので! 失礼します!」

 

 急いだ様子の男性店員が走っていったのはさもありなん。たしかに彼の言う通りここのビルの構造は少し特殊である。階段と階段が接続しておらず、エレベーターも直通ではない。おそらくはもともとこのビルを作ったときになんらかの事情があったのであろうが。

 

(脱出するか)

 

 はしゃぎながら危険な場所に飛び込んでいった女性2人はともかく人のために行動した男性店員のことは気がかりなものの、だからといって自分に何が出来るというわけでもない。

 

 そう考えた大鴉は、だが一応念のためと非常口の扉を大きく開けた状態で固定し、そこから中へと烏を侵入させる。数は5匹。特に大鴉をしたい、知性も高い者達だ。

 

「中に入ったら男性1人と女性2人を上層階から探しておいてくれ。脱出できてるならそれで良い」

 

 手すりに並んだカラス達に伝えると、彼らは一声鳴き声を上げた後開け放たれた扉から店内へと飛び込んでいった。カフェとしてはアウトかもしれないが、いずれにしろヴィラン騒ぎが真下で起こった以上今日はまともに営業できない可能性が高いだろう。

 

 そう考えながら3階付近まで下った直後。

 

 突き上げるような揺れにたたらを踏んだ大鴉は、脳内に送られてきた映像を見て壁を叩く。

 

「馬鹿が……!」

 

 彼に送られてきた映像に映るのはいくつかの光景。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。複数のヴィランとの戦闘を行いながら、崩落するビルから距離を取っているヒーロー。そして。2人が暴れている影で、ビルに対して個性を発動し、崩落させているヴィラン。

 

「入れ違ったのか……。面倒だな」

 

 ビル内に侵入したカラスに共有された視界を見る限り、ヒーローは一旦カフェまで逃げ遅れた人がいないか声をかけながらも上がっていた。にも関わらず先程の3名に気づけなかったのは、シンプルに入れ違いになったのだろう。これだから複雑な構造の建物は困るのだ。後ろ暗い取引をするスペースなんてのは、もっと地下にでも作って欲しい。

 

「リゥイ!」

 

 大鴉が声を上げると、ビルの周囲を飛び回っていたカラスのうち一匹が飛んでくる。その足に手早く書いたメモを細く折って縛りつけ、下で警戒しているであろうヒーロー達のもとへと飛ばせた。

 

「さてと……。男の人ぐらいは助けてやりてえな」

 

 現在カラス達から送られてくる視界からは、先程カフェにいた3人が揃って昏倒しているのが見て取れる。先程の突き上げるような揺れで頭をうったか何かで気絶してしまっているようだ。

 

 そして崩壊自体は、ビルを半分にわって向こう側。ありがたいことに大鴉や3人がいるのとは反対側で激しく起きているようでひとまずは安心出来るのだが、とはいえこちら側にも被害が出ているのでいつこれ以上の崩壊が進むかわからない。

 

 数秒悩んだ結果、助けに向かってそのまま割れ目から脱出することを決めた大鴉は周囲にいる鴉を招集し大半を屋上で待機させ、残りの一部を屋内へと侵入させる。

 

 彼らがいるのが3階部分であるが、非常口は外から開けることは出来ないので一旦さっき開けたところまで戻って中に侵入する必要があった。

 

 5階から侵入し、揺れの影響あれた机や椅子を飛び越えながら室内を駆ける。カフェは崩落し始めているのがスタッフスペースの存在している側なので、問題なく階下へと降りることが出来た。

 

 そして4階も飛ばし、共有している視界を頼りに3人の昏倒している3階の場所へと向かった。たどり着くとまだ3人とも目を覚ましていないようで、地面に力なく横たわっている。特に男性店員は頭部を強く打ったのか地面に血が広がりかけていた。

 

 男性の方は激しく動かすわけにはいかないので、ひとまず女性2人に声をかける。

 

「おい! あんたら! 起きろ!」

 

 そう声をかけながら強く揺さぶると、女性の内片方だけが目を覚ます。

 

「……う、うん……なに……」

 

 状況が把握出来ていない様子の女性を放っておいて、もうひとりの方を起こそうとするが目を覚まさない。

 

「え、ちょっと何やってるの変態!」

「気絶してるから起こそうとしてるんだろ」

「は、ちょっと何。ていうかどうなってんの!?」

 

 気が動転した様子の女性に、これなら起こさない方がマシだったかとため息が出そうになるもののそれを飲み込む。

 

「ヴィランが暴れてビルが崩壊してる。幸いこのあたりはどうにかなってるけど割と時間の問題だ。ヒーローも呼んだけどまだヴィランは暴れてるしビルは崩壊し始めてるしですぐに来れるかは微妙。ってことで脱出するぞ。ここからなら非常階段が近いから」

 

 そう言って大鴉は男性をゆっくりと起こすと背中に担ぐ。

 

「優香は、どうするの?」

「背負ってくれ」

「……やって、みる」

 

 震えながら言う女性に酷かもしれないが、大鴉はそんな便利な個性は持っていない。女性が相方を背負うのを補助してやり、

 

「あんた個性は?」

「え?」

「個性。何か使えるかもしれないだろ」

「あ、そっか。でも私、自分の体重を軽く出来るぐらいしかないや」

 

 ぐらい、と。女性は卑下するが、大鴉からしてみれば値千金の情報だった。

 

 そのまま3階の非常口を開けて非常階段へ。だが。

 

「どんだけヴィランに好き勝手させてんだよ」

 

 開けた先。非常階段があったはずの場所には何もなく。上を見上げると階段が途中で途切れているのが見えた。おそらくヴィランが個性で破壊したか、その影響が伝播したか。見る限りは分解するたぐいの個性だったようなので、その分解が外の階段にまで及んだのだろう。

 

「階段無いじゃない!?」

「ここだけもげたみたいだな。ドラッグでも使ってるのか……?」

 

 呟きながらも、大鴉はウェストポーチからロープを取り出す。

 

「手を出してくれ」

「え?」

「下、階段があるのは見えるか?」

 

 その言葉に恐る恐る扉から下を覗き込んだ女性は、コクリと小さく頷く。

 

「そこまで降りれば後は徒歩で下までいける」

「で、でも、どうやって」

「こうやる」

 

 そう言って大鴉はロープの先端。いくつにも分かれたそれを空中に向けて放った。それを急降下してきたカラス達が鉤爪や嘴でキャッチする。

 

「アイツラが支えてくれるから、なるべく体重を軽くして身を任せて」

「そんなの、出来るわけ……!」

「大丈夫だ。体重を減らせるなら、ずっと飛ぶことは出来ないけどゆっくりと着地することは出来る。それとも俺が先に行ったほうが良いか? その場合おいていくことになるぞ」

 

 そう問いかけると、女性は震えながらも右手を出してきた。

 

 と。

 

「おい! 誰かいるのか!」

 

 非常口の下から声が聞こえる。

 

「4人いる! 男2人女2人! 男女1人ずつ気絶してる! 男の方は頭部から出血!」

「下からヒーローを突入させる! 少し耐えろ!」

「塞がってるから無理だ! あんたそこにいてくれ!」

 

 女性の手にロープの先端を巻き付けて固定しながら大鴉は答える。

 

「降りたらすぐに解いて。俺たちも使うから」

 

 コクコクと頷く女性を確認し、扉から顔を出す。そこにおそらくヒーローであろう人が1人立っているのを見て声をかける。

 

「今から女性陣から降りるから受け止めてくれ!」

「は? 飛び降りるのか?」

「個性で減速する!」

 

 言うだけ言っておいて、女性へとうなずきかける。それを受けた女性は、恐る恐る空中へと足を踏み出した。その体を支えるのは10匹のカラスによる牽引力。浮かせるほどの力は無いが、ある程度減速させてくれる。

 

「まだ2人いるんだな? おいマイク! まだこっちにヒーロー回せねえのか!」

 

 通信でどこかへ叫んでいるようだが、生憎とそれどころではなくなった。

 

「やべ」

 

 崩れる、と。カラス達の視界から捉えた大鴉は普段使っている方のロープを空中へと投げ、そのまま飛び出す。

 

「崩れるぞ!! 逃げろ!」

 

 セーフティもなく飛び出した大鴉に下の2人が驚愕した様子で見上げてくるが、女性の方のロープを離したカラスが大鴉に繋がっているロープの先端をキャッチしてくれる。ただこちらはあくまで1人用でしかないのでさっきの女性達ほどの減速が出来ず、また飛び出した勢いも殺せずそのまま斜め下の民家に向かって突っ込んでいくことになった。

 

 背後ではビルがついに原型を残さない程に崩落していく中を、先程のヒーローが女性2人をかばいながら避難していくのが見える。

 

「ふ、ぬん!」

 

 目の前に迫る民家の壁に、男性を背負う手を離すことは出来ないので両足を振り上げ、壁を蹴る形で勢いを殺した。そしてそのまま下方向へドサリと落下する。

 

「ふい、なんとかなったな。サンキュ。後でまた飯用意しとくから」

 

 助けてくれたカラスたちに声をかけて、気絶したままの男性をヒーローのところへと連れて行くことにする。治療の必要があるだろうが、大鴉が病院についれていくよりもヒーローに任せたほうが色々と早いだろう。

 

 そう考えて先程のビルの方へと歩いていると、隣の塀の上から声をかけられる。

 

「無事みたいだな」

「お、さっきのヒーローさん。女の人たちは無事?」

「ああ、なんとかな。その人が怪我人か」

「そうそ。頭から血が出てる。あんまり大きい傷じゃないけど頭部ぶつけたってことだから病院にいかせねえと。俺よりあんたの方が速いよな?」

「……そうだな。俺が運ぶ」

 

 そう言って塀から飛び降りたヒーローは、ゴーグルを外しながら大鴉の方へと近づいてくる。こういうのはなんだが、あまりヒーローらしくない、いかにも地味な見た目をした男だ。

 

「お前もついてこい」

「へ? なんで俺も……」

「事情聴取。お前も被害者の1人だろ」

「なるほど? でも怪我とかしてないぞ」

「中で何があったかとかは記録しとかないと行けないんだ。特に今回は……お前が、あのカラスにメモをもたせたんだろ?」

 

 背中の男性を揺らすことなく走るヒーローに追従しながら大鴉は答える。

 

「そうだな」

「お前が気づいて、そして救助してくれなけりゃあ3人は命が失われてた。こんな状態で悪いが、感謝する。それに警察とヒーローとしては再発防止につとめないといけないからな」

「そういう事情聴取ね」

「そういうことだ」

 

 まずは怪我人が先、ということで控えていた救急車へと男性を預け、そのまま2人は現場近くで話し始める。

 

「事情聴取なら警察は来なくていいの?」

「犯人を探しているわけでもないからな」

「そういうもの?」

「ヴィランは逮捕された。怪我人はいるものの死者は無し。となるとそれ以上にやる必要がなるくなるんだ」

「つまりこれはヒーローさんの趣味ってことか」

 

 大鴉が特に含むところなくそう告げると、ヒーローは若干顔をしかめるもそのまま話を続ける。

 

「まあ……そういうことだ。お前が救助してくれたってのは俺だけが知ってる話だからな」

「そ。で、何を話せばいいわけ?」

 

 その後尋ねられるままに、自分がヴィラン出現時どこにいたのか、どう避難しようとしたのか。何故救助に戻ったのかなどを説明した。

 

「そうか。わかった。そして改めて礼を言う。救助ありがとう。お前のお陰で、3人の命が助かった」

「ヒーローとしては一般人が勝手したら怒らないといけないんじゃないの?」

「お前はそれを理解しているだろ? そしてその上で、ヒーローに連絡をした上で間に合わないと判断した」

 

 違うか? と問われて大鴉は首を横に振る。

 

「もちろん、お前のやった行動は褒められたことじゃない。本当なら、お前は1人でも避難しなければならなかった。お前が無断でいくことで、救助しなければならない人数が増えて救助が間に合わなくなる可能性もあった。それは理解しているな?」

「はい」

「だが、まあ……今回は助かった。人の命をすくってるんだ。それは責められん。だがこれで味をしめて事件に踏み込んでいったりするなよ」

「それはもう。今日はあのお兄さんが気になっただけだからな」

 

 そこでヒーローが何らかの連絡を受け、一旦席を外す。勝手に帰っても良いものかと悩んだものの、一分もしないうちに戻ってきた。

 

「引き止めて悪かったな。俺はイレイザーヘッドだ。念のために名前と学校教えてもらっていいか」

「え、なんのために?」

「こっちから何か連絡する可能性があるし、お前が助けた相手もお前に礼を言いたいだろう。まあ強制じゃないがな」

 

 とはいうものの、別に学校名と名前ぐらい知られても困らないし、なんなら警察なんかにかかればすぐに調べられるだろうからと大人しく携帯の番号付きで教えておくことにした。

 

 その後イレイザーヘッドと分かれてすぐに携帯を取り出し、不在着信の1つへと電話をかける。

 

『もしもーし』

「ごめんごめん、ちょっとヒーローに捕まってた」

『は? なにしたん自分』

「人助けして礼と無茶しないように注意されただけ」

『そゆことね。災難やったな。見てたでビルが崩れるの』

「いやもうほんと。で、どうする?」

 

 電話相手と気楽に会話をしつつ、大鴉はしばらく歩いたところのカフェへと入る。

 

「いうて自分、もう俺のおるところわかっとるやん」

「ま、その辺はね」

 

 そのまま店員の案内を断って、奥の方のテーブルへと向かった。そこに座っているのが、大鴉が今日待ち合わせをしていた相手である。細目に眼鏡、珍しい銀髪と、全て合わせって微妙に胡散臭いような見た目をしている。というか顔に張り付いている笑顔ですでに台無しだ。

 

「あれ、今日もしかして本体?」

「そうよ。たまには表にでらんかいゆうて怒られてな」

「当たり前だわ。あすみません、ナポリタンとコーヒーホットでお願いします」

 

 自然に店員に注文し、人目が離れたところで対面に座る男の方へと一冊の雑誌を差し出す。

 

「『これ、こないだ借りてたやつ』」

「『どや、面白かったやろ?』」

「『まあねなかなかに過激で面白かったよ』」

 

 互いにニコニコと交わす言葉は、真意ではない。符号。あるいは互いにのみ通じる隠喩。

 

 受け取った雑誌をそのままカバンに突っ込んだ男は代わりにメモ帳を取り出す。

 

「お前、スケジュールどうなっとる?」

「なんで?」

「みんな会いたいーゆうてな」

 

 この日なんてどう?、なんて言いながら差し出してくるメモ帳は、スケジュール表ではなく箇条書きにまとめられた文章を指し示していた。

 

「あー、この日は無理。模試がある」

「ありゃとなるとまたしばらく会えんか……」

「いや、来月には会えるかな。ちょっと待って、メモしとくから」

 

 そう言って男のメモ帳に示されている内容を自分のメモ帳にまとめた後、日付を調整する。

 

「ん、ありがとさん」

「はいはい」

 

 用事も終わり、やがて届いたナポリタンを大鴉が食べている間は男はゆっくりとコーヒーを飲みながら読書をしていた。

 

「ところで、自分高校どうするん?」

「ん? そうだな……」

「まだ考えてない感じ?」

「いや、どこでもいいと思ってて。まあただ、面白そうだし雄英や士傑の普通科にしとこうかなと思って」

「普通科? ヒーロー科とかサポート科やないんか?」

「そこらへんは卒業後の進路がな。それに俺ヒーロー科行ってもヒーローならないし。他のとこのヒーロー科ならまだしも、雄英程となるとそういうのはダメじゃない?」

「そりゃそうや」

 

 実際のところはすでに大鴉は受験する高校は決めているし、そして目の前の男もそれを知っている。ただ、今の2人は『久しぶりにあった知人』なのだ。互いのことを知りすぎていてはいけない。

 

「じゃ、そろそろ行くわ。会計しとくで」

「はいお疲れさん。お仕事頑張って」

「はいよー」

 

 立ち去っていく男性を見送った大鴉は、カバンから本を出して読書をする。今日の用事はもう終わったが、だからといってすぐ帰る必要もない。のんびりと休日を楽しむのもいいだろう。

 

 

******

 

 

 ビル崩落事件の折に救助した男性、女性それぞれから感謝の電話をもらって数日後。

 

 帰りの学活で呼び出しを受けた大鴉は、担任に連れられて校長室を訪れていた。数日前から予告されていたのだが、何があったかあの雄英高校からスカウトが来る、という話だったのだ。まあ大方爆豪あたりと人違いをしているのだろうとは思っているものの、スカウトに関しては外に漏らしていい内容では無いらしいので黙っていたのだ。どちらにしろ顔を合わせて話してみればすぐにわかることである。

 

 校長室に着くと、担任がいやに丁寧に入室の伺いをたて、促されて大鴉も入室する。確かに雄英高校はヒーロー科以外でも日本トップと言っても過言では無いほどの名門校なので一中学の教師としてはへりくだるのはおかしなことではないのだが、それでも教育機関間に上下があるなんてなんとも滑稽に感じるものである。

 

 担任に続いて室内に入ると、担任が来客に一礼した後横に避けるので、その向こうに座っていた来客の人物と目があった。スーツを着た少しばかり目線の鋭い男。以前会ったときとは全く違って見えるが、たしかに見覚えのある顔だった。

 

「こんにちは。その節はどーも」

「ほう? 気づくのが速いな」

「そう、すか? 目元とか顔の傷とか結構特徴的だと思いますよ」

 

 プロヒーロー、イレイザーヘッド。数日前にあったばかりのその人だが、今日はずいぶんと小綺麗にしてきている。それでも顔の特徴というのは大きくは変わらないので、なんとなくの印象ではなく顔のパーツで人を見る癖のある大鴉は気づくことが出来た。

 

 それがまたイレイザーヘッドからすれば観察眼の鋭さという彼を評価することにもつながるものになるのだが。

 

 大鴉の隣に担任が座り、その更に奥には校長が座るという体制を取る。そこでイレイザーヘッドも雑談を取りやめ、居住まいを正した。

 

「本日はお時間をいただきありがとうございます。雄英高校で教師をしています。相澤消太です」

 

 相澤の会釈にペコリと返す。

 

「事前にもお伝えしましたが、現在雄英高校では大鴉君のヒーロー科へのスカウトについて検討しています。本日はその事前の聞き取り調査をさせていただきたいと思い来校させていただきました」

 

 ヒーローというのは実力がものを言う世界である。中学校までは、高校や専門学校に存在しているヒーロー科のように個性の扱い方や戦い方について具体的に学べることはほとんどなく、したがって明確に実力の差のようなものが生まれることも殆ど無いが、それでも『素質の差』とも言えるものはヒーロー科にはいるものを選抜する上で重要である。

 

 ただ一方で、かつてのスポーツのように中学校の段階からその実力を図るような手段が無いので、ヒーローの素質を示すような機会はほとんどなく、したがってヒーロー科へのスカウトというのも基本的には行われてこなかった。

 

 よほど。そう、よほど強力な個性として研究者の間で有名となるか、あるいは何らかの事件を解決する、または教師陣、あるいはプロヒーローに推薦され、その上で勧誘に値するとみなされなければ、スカウトどころかその検討すら行われない。

 

 そして今回は、先日の事件の際の大鴉の行動を見た相澤が、それに値するか検討したいと教員会議で提案したのである。今日行った聞き取り調査を持って帰り、そこでまた実戦テストを行うかそのままスカウトするか、あるいはスカウトはなしとなるかというわけだ。

 

「それじゃあいくつか質問をさせてもらいたいんだが……」

「あーその前に何個かいいですか?」

 

 相澤の質問を遮るようにして大鴉は手を挙げる。

 

「なんだ?」

「えーと、人間違ってないすか? 本当に俺? 爆豪とかじゃなくて?」

「いや、確かにお前、大鴉八咫のスカウトを検討している。その爆豪というのは?」

「俺のクラスメイトなんすけど、あいつこそヒーローに向いてんじゃないかなって。まあ性格にはかなり難がありますけど、いうてもあたりがきついだけなんで」

 

 会話を担任がハラハラしながら見ているが、大鴉はそれを気にせず相澤との会話を続ける。

 

「なるほど……ちなみにその子はヒーローに?」

「そうっすね。多分雄英受けると思いますよ」

 

 なるほど、と言いつつ相澤は気を取り直して話を戻す。あげられた生徒の名前は気になるが、それは今は後回しで良い。

 

「そうか。調べておく。とりあえず今は、大鴉君から話を聞きたい」

「あー、それともう一つあるんですけど」

「なんだ?」

「雄英のヒーロー科に行くのはかまわないんですけど、卒業してもヒーローにはならないです。かなりの確率で」

「ほう……」

 

 失礼とも取れる言葉に担任と校長が顔を青ざめさせるが、そこは大鴉が絶対に主張しておかなければならないところである。

 

「何か他にやりたいことがあるのか?」

「そうですね。そっちでもヒーロー科で鍛えたことは使えるには使えるんで通う分には良いんですけど、その先はちょっと……。ああ、あとあれです。絶対というわけじゃないんですけど、個性をなるべく暴露したくないので、体育祭とかも嫌だなって思ってるんですよ。ヒーローなら自己主張するのは大事なのかもしれませんけど、おれはそういうわけでもないので」

「そうか……。やりたいことというのは?」

 

 相澤の質問に、大鴉は『あー……』と言葉にならない声を上げる。別に言っても構わないとは思う。いや、これ言ってもかまわないのだろうか。なぜかと聞かれた場合に返答に困ることになる。とりあえずぼかして言ってみることにした。

 

「警察か陸軍、それか重捜に入りたいと思ってます。特に重捜からは個性が最適だと一応声をかけてもらっているので」

 

 大鴉の言葉に理解の出来ない教師2人はキョトンとするが、話の内容を理解した相澤を表情を真剣にさせる。

 

「ほう……個性というと」

「あれ、調べてないんすか?」

 

 ヒーローの権限があれば人の個性見るぐらいは出来ると思ったのだが。というか見てないでスカウトは無理ではないだろうか。

 

「一応調べた。カラスと意思疎通が出来る、と。先日カラスを頼っていたのもそうだな」

「そうっすね」

「それが捜査の役に立つのか」

「まあカラスの視界に入るところ全てが俺のレンジになりますから。それにカラスなんてどこにでもいるし、伝書鳩ならぬ伝書ガラスなんてことも出来ますからね。お天道様の下に出る以上確実に見つけますよ」

 

 更に言えば、人の操作している端末なんてカラスの視力なら簡単に覗き込むことが出来る。もっとも室内に入られるとその限りではないので、どこに誰が行ったか、誰と誰が会っているのかなどしかわからないといえばわからないのだが。だがカラスに小型カメラとスピーカーをつければ更に捜査ははかどる。そういうわけで重捜、重要情報捜査局と、警察や陸軍もそれぞれ個性の使用を前提とした特殊部隊からほしい人材だと言ってもらっている。過去の事件とそこからつながった縁のおかげではあるのだが。

 

 そう、あくまで断るつもりの話をしたわけだが、それがむしろ相澤の興味を引いたのか。

 

「なるほど……。もし仮にうちのヒーロー科に来たとしてだが、心変わりする可能性はあるんだろう?」

「それは、もちろん可能性はありますけど」

「ならいい。それで、君がヒーローではなく今言ったような職業を目指している理由を聞かせてもらえるか? いずれも人助けにかかわると思うんだが」

 

 そういえばそうなんですけどね、と大鴉は自分の思うところを説明する。

 

「ヒーローって花形じゃないですか」

「……何と比較してのことかは知らないが、言わんとしていることはわかる」

「ヒーローって認められるんですよ。それも個々人が。でも警察とか消防とかは、個々人が認められることなんてない。特に警察の公安なんて死ぬほどきつい思いしてテロ組織を壊滅させても、市民から歓声を浴びるどころかそれが表沙汰になることすらない」

 

 花形と、日陰者。そのどっちが一般的に喜ばれ憧れられるかなんて現代社会が示している。

 

「軍なんかもそうだ。今は軍って名前に変わりましたけど、国民からの意識はかつての自衛隊時代となんら変わらない。『君たちが日陰者の時の方が国家国民は幸せなのだ』なんて。俺がなりたいのは、そういう人たちなんですよ。日陰者であることを是としつつ、それでも国家を、国民を守るために死力を尽くせる」

 

 それでも。そうやって戦う人たちがいるのである。

 

 ヒーローを目指す? 大いに結構! 大鴉はそれを悪く言うつもりは無いし、ヒーローのことは認めている。だがその上で、自分が目指すのであればより日陰者である軍や警察なんかに行きたいと思うのだ。

 

「なるほど……。なら、俺についてはどう思う?」

「尊敬してます」

 

 大鴉の情報に対する意識を確かめんとする問いかけに、大鴉は相澤を、いや、イレイザーヘッドを褒める言葉を返す。

 

「気になってネットでイレイザーヘッドについて調べてみたんですけどほとんど情報が出てきませんでした。メディアとかに全く露出せずに活動しているヒーローで、そのせいでいろんな憶測が出てるってことぐらいしか。だから、あなたに関しては、率直に尊敬しています」

 

 こういうヒーローもいるから、ヒーローが目立ちたがり屋だけではないのだとはっきり認識することが出来るのである。

 

 その言葉を受けた相澤は。一瞬ポカンとした表情をするがすぐに顔をもとの無愛想なものに引き締める。だがその口角はわずかに上がっており、その目には先程までとは違う光が宿っている。

 

「では事前聞き取りはここまでとさせていただきたいと思います。今日はお忙しい中ありがとうございました」

 

 相澤の言葉を皮切りに、互いに礼を返す。大鴉の言葉がどう感じられたかわからないが、大方帰ってから職員会議なんかで考えるのだろう。学校の有名度からして大鴉よりはるかに強力な個性を持つ入学希望者も多く来るのだろうし、ヒーローに対してやる気が無いやつを入れるほど雄英も暇ではないだろうと大鴉は楽観視していた。

 

 去り際。

 

 担任に案内されて先に退出しようとした相澤は大鴉の方を振り返る。

 

「大鴉。俺は絶対に、お前をヒーロー科にスカウトする」

「は? はあ」

「雄英でまた会おう」

 

 そう言葉を残して去っていく相澤の背中を、大鴉はポカンとした様子で見送った。

 

「……スカウトされる要素ありました?」

「私にもわからん」

 

 校長が匙を投げるに至って、考えるのをやめることにした。別に入るのが嫌なわけではないし、そうなったらそうなったで良い。

 

 

 数日後。雄英から正式にスカウトの書類が届いたのは、もはや当然のことと言えた。




湧いたネタをとりあえず残すために書きました。続き読みたい人がいたら続くかも。

原作の描写、例えば体育祭なら緑谷が轟と決勝トーナメントで戦う試合を、主人公目線でリアルタイムで書くべきでしょうか。それとも、ダイジェストでどういうことがあって、主人公が何か気づいた事考えたことを軽く書けばいいでしょうか。どのあたりを本作に求められているのか知りたいです。というのも、体育祭を書いていて、主人公の試合よりも他の試合について尾白たちと話している場面が増えて書きづらいのでどうしたものかと。

  • 主人公周りだけでいい
  • 原作の内容を主人公目線で見たい
  • 主人公が何か気づきを得る場合など一部だけ
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