日陰者の鴉   作:アママサ二次創作

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2.いざ雄英高校へ

 二拝二拍手一拝。超常社会では廃れた、日本古来の神道の神々への参拝方法である。大鴉はそれを毎日繰り返している。お供物も毎日新しいものに取り替え、神前に奉納していた御札を持ち歩くぐらいには、真剣に神を信仰していた。

 

 超常黎明以降、かつて存在した多くの宗教はその影響力を失った。特にそれが顕著なのは三大宗教であるキリスト教、イスラム教、仏教である。端的に言ってしまえば、超常黎明以降の混乱、人が人の形すら失い悪魔になってしまったような大混乱の中で、それらの宗教は救いをもたらしてくれなかったのだ。特に個人的に悟りを開くことを是とする仏教を除いた二つは、もはや歴史上の存在になってしまったと言っても過言ではない。かつての規模と比べれば、という注釈はつくが。

 

 それと比べれば『荒ぶるモノ』を神と崇め奉って害を抑えるという神道の考え方は超常黎明において多少は受け入れられたのでマシだと言えるだろう。実際神としてお供物を貰って大人しくなった者もいるわけだし。もっともそれも新興の宗教であったりヒーローという信仰の対象と比べれば遥かに下火であるのだが。それでも日本人は何かあれば神社に参拝するので、文化としての神道は形上は存続している。

 

 最後の一拝を終えた後に顔を上げた大鴉は、ポケットから取り出したお守りを神前に捧げていたそれと入れ替える。お守りに描かれるのは通常書かれるような何らかの祈願の文字ではなく、1つの紋章。翼を広げた鳥のシルエットに3本の足が生えたそれをポケットにおさめてその場を後にする。

 

「行ってきます」

 

 1人ぐらしをしているので誰もいない部屋へと声をかける。本来なら返事など無いはずのその声に、どこか遠くから響くカラスの鳴き声のようなものを聞いて、大鴉は家の扉を閉めた。

 

 

******

 

 

「んんー、でかいなこれ。いくらバリアフリーつったってこのサイズとかいる?」

 

 流石全国トップの高校だけあって正門から見上げた校舎も昇降口も廊下も精錬されていたが、八咫が一番驚いたのは教室の扉の大きさである。

 

(このサイズのやつは潜入に向かないな。目立ちすぎる。ヒーローならそのあたりを気にする心配は無い、ってことか)

 

 扉を開けると一気に視線が集中するので、それに肩を揺らしながらも教室内に入った大鴉は教室の前の黒板で席の位置を確認する。

 

「げっ! 一番前の席じゃん、ついてにゃーの」

 

(教卓のど真ん前、か)

 

 独り言としかめる表情ほどには内心は乱れていない大鴉は、ゆっくりと一番前の席につく。

 

「おいテメェ!!」

 

 直後に左の方から叫びながら近づいてきたのは、誰あろう爆豪であった。

 

「あ、バクゴーおひさ。またクラス一緒だな。よろしくな~」

「なんでてめぇがいやがる!!」

 

 今にも噛みついてきそうな爆豪に、内心に苦笑を押し隠して飄々とした表情を作る。

 

「いやー、俺もやっぱヒーローかっけーよな、って思って」

 

 そう言いつつ、他のクラスメイトに聞こえないように手元のメモ帳にペンを走らせ、爆豪にそれを注視させる。

 

「あ? なんだ?」

 

 書いた内容は、ヒーロー科にはスカウトを受けて入学したものの入学まで口外を禁止されていたこと。続けてそれをあまり他の人には言いたくないこと。一応真面目にヒーローを目指したカリキュラムを学ぼうとしていることなどを書こうとする。

 

「親戚とあってヒーローの話になってさ。それでヒーロー科にやっぱり行ってみてえなあ、なんて思っちゃったんだよねー」

 

 口から紡がれる言葉と手元で紡ぐ言葉で違う内容を示している大鴉に、自分にだけ伝えたいのだろうと気づいた爆豪は大きな舌打ちをすると大鴉の腕を掴んで立ち上がらせた。

 

「なははは、どーしたのそんな怒って。俺もしかして告白されちゃう感じ?」

「ぶっ殺すぞ!」

 

 引きずられるようにしつつも軽口を忘れない大鴉に、爆豪は半ギレしつつも教室を出て、廊下を曲がった先まで引きずっていった。

 

「んであんなめんどくせーことしやがる」

「なはは、いやー、一身上の都合ってやつ?」

「あ゛?」

「まま、そう怒るなって」

 

 中学時代よりも格段に軽薄になった大鴉の口調に苛立つ爆豪をなだめつつ、大鴉は自分の意図を説明する。まず始めに説明するのは、ヒーロー科に来る気は当初は無かったものの、スカウトを受けて授業料も免除になるということだったので来た、という内容だ。

 

「……てめーヒーローになるんか」

「前言ったこととそんな変わってないけどもね。ここの先生らしい人からそれでも良いから来いって呼ばれちゃったわけよ」

「お前が? なんでそんなことになる」

「なはは。実は人命救助してるのを見られちゃって。そんな嬉しいこと言われたら来るしかないじゃん!」

「そんなキャラじゃねえだろテメエ! その気持悪い口調もやめろや!」

「あ、やっぱりわかっちゃう?」

 

 なはは、とヘラヘラ笑いながら首の後ろに手を当てる動作は、クラスメイトとして多少の交流のあった爆豪が見たことの無いくせである。中学時代の大鴉は、クラスの中でボッチになるというわけではなく、かと言って中心人物になるわけでもなく、適度にクラスメイトと騒ぎつつそこにいる存在だった。そんな大鴉に対する印象が、目の前の男とどうしても重ならない。

 

 そんな違和感に苛立つ爆豪に、大鴉は“すんっ”とヘラヘラした表情を消した。

 

「ちょっとした訓練だよ」

「訓練?」

 

 訝しげにする爆豪に、大鴉は素の口調で話すことにする。

 

「そ。中学の頃の俺は『そこにいるその他大勢』になるように演技してた。で、高校に上がってからは妙な存在感があるけど軽薄なやつ、っていう人格を作ろうとしてる。ちなみに趣味はソシャゲとメイド喫茶巡りな。ナンパはあんま積極的にはしない感じで行くつもりだから」

「は? んなことしてどうすんだよ」

 

 全くもって意味がわからない、と言いたげな爆豪に、大鴉は首をすくめて説明を続ける。

 

「俺が将来やりたいことにはそういう技術がいるんだよ」

「……変装して潜入すんのか」

 

 少し考え込んだ後爆豪のはなった言葉に、大鴉は表情こそ動かさないものの意外に思う。

 

「……なんでそうも鋭いかねお前は。興味なかっただろそんなの」

「てめぇに言われてから調べたわ。そういうのもあるらしいってことぐらいしか興味ねえけどな」

 

 不機嫌そうに吐き捨てる爆豪に、だが確かに何かしら調べたのだろう。中学時代の爆豪は、自分がヒーローになって活躍することを疑っておらず、それ以外の全てを些事と考えている節があった。だからこそスパイじみた行動なんて興味が無いものだと思っていたのだが、そうでもなかったようだ。原因は、いつかの会話で大鴉が放った、ヒーロー以外にも守るための職業は存在している、という言葉なのだろう。そこから警察や消防の業務だけでなくスパイにまで意識が及ぶのはさすがと言わざるを得ない。

 

 そんなことを考えた大鴉は、とりあえず説明を終えることにする。

 

「そんなわけで、とりあえずこんな感じのキャラで行こうと思ってる。ヒーロー科に来たのはスカウトされたから。向こうも高校在学中に心変わりしてくれればありがたいって言っただけで絶対ヒーローになれとは言ってきてないしな。俺としては高卒資格取れれば良いからどこでも良かった」

「てことはてめーの将来は警察か軍になんのか」

「そのあたりは秘密ってことで」

 

 本当は自分が存在したという記憶すら残すべきではない、とまでは言わなかった。それはいくら爆豪相手とはいえ高校1年生にはショッキングな内容であり、またそんな役回りについて話すべきでも無いからだ。

 

「……なんで俺に話した」

「ん? まあお前だけは俺がヒーローに興味無かったこととか中学時代の性格とかはっきり知ってるだろ。だから隠すよりは説明しといた方がいいと思ってな」

 

 緑谷は言うほど話してないし、という大鴉。その説明を聞いた爆豪は、何か言いたげに口を開くものの何も言わないまま踵を返す。だが、少し進んだところで大鴉の方を振り返った。

 

「テメェが何を目指して何を訓練しようが、やりあったら俺の方が上だ。ぶっ潰してやるよ」

 

 それはまさに宣戦布告。お前はスパイでも何でも目指せばいいが、強いのは俺だと。

 

 それに対して大鴉は、真面目にする説明は終わったと表情を切り替える。

 

「なはは、俺あんまり目立ちたくないんだよね」

「手ぇ抜きやがったらぶっ殺す。つうかテメェが本気でやっても俺のほうが目立つに決まってんだろうが」

 

 目立つほどには頑張らないよ、と暗に言った大鴉に対して、爆豪はどうせ俺の方が目立つと挑発を繰り返す。それだけ、爆豪の中で大鴉の存在は大きかった。もちろん、戦闘力として脅威だと感じているのではない。ただ。

 

 自分には無かった考え方を持っている、という意味で、意識する相手なのだ。

 

(んー、なんかめんどくさいことになりそうだな)

 

 言いたいことを言い終えて去っていく爆豪の背中を見た大鴉は、首の後ろに手を当てながらその背中を追った。

 

「──早速だが、体操服来てグラウンド出ろ」

 

 爆豪の後について大鴉が教室に戻ると、教室を入ってすぐのところにいつか見た格好の真っ黒な男が立っていた。

 

 流石の爆豪も困惑する中、次々と黄色いバッグ、いや、寝袋の中から体操服を取り出していく相澤の肩越しにそれを覗き込んだ大鴉は、クラスを代表して彼に尋ねた。

 

「何するんすか?」

「後で説明する。早くしろ」

 

 はーい、と間延びした返事をしつつも自分の分の体操服を持った大鴉が動き始めたことで困惑していたクラスも動き始める。

 

 ヘラヘラとした様子で『おー、なんかジャージなのにかっこいいな』なんて言っている大鴉に、相澤は視線を向ける。

 

(随分と、演じるのが上手いな。入学前と全く違う)

 

 率先して動き出す行動力もそうだが、その口調や行動。予め説明されていた相澤だからこそ気づけたその自然さに、瞠目しつつ、相澤は一足先にグラウンドへと向かった。




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原作の描写、例えば体育祭なら緑谷が轟と決勝トーナメントで戦う試合を、主人公目線でリアルタイムで書くべきでしょうか。それとも、ダイジェストでどういうことがあって、主人公が何か気づいた事考えたことを軽く書けばいいでしょうか。どのあたりを本作に求められているのか知りたいです。というのも、体育祭を書いていて、主人公の試合よりも他の試合について尾白たちと話している場面が増えて書きづらいのでどうしたものかと。

  • 主人公周りだけでいい
  • 原作の内容を主人公目線で見たい
  • 主人公が何か気づきを得る場合など一部だけ
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