体力テストの翌日。入学式を蹴った前日とは違って今日は通常通りの学科授業が午前中は行われた。元々すでに特定の分野では大学レベルで学べるぐらいには学習を進めている大鴉だが、学校のテストで点が取れるように丁寧に勉強をしているわけでもないので、授業内容のメモを取りつつ、教科書や参考書の問題を勝手に解いて時間を有効活用していた。
昼食時には尾白と昼食をとった。自然とグループが形成されているものの、今後も交流の機会はあるだろうから焦ることはない。
ここまでは普通の学生生活である。
そしてここから。いや。
午後からが、ヒーロー科特有の学習の時間。
「わーたーしーーーが!! 普通にドアから来た! HAHAHAHA!」
ドアから勢いよく入ってきたのはNo.1ヒーロー《オールマイト》その人である。彼が担当するのは“ヒーロー基礎学”。それが今日の午後初めて行われる授業で。生徒達がこれほどまでにワクワクしていた理由であった。その興奮は、彼の登場によって更に高まる。
「オールマイトだ! 本当に先生やってくれるんだ!」
「銀時代のコスチューム……! やばい鳥肌が……!」
生徒達が口々に興奮を呟く中、大鴉は静かな表情でオールマイトを見つめていた。
(ちゃんと元気そうなんだよな。これが気張ってる状態だってんだから流石だ)
「私が担当するのはヒーロー基礎学! ヒーローの素地を作るために様々な訓練を行う科目だ! そして早速だが今日はコレ!」
そう言って彼が突き出した板には『BATTLE』と。何故か英語で書かれた戦闘訓練の文字。その文字に生徒たちは目を輝かせる。やはりヒーローと言えばヴィランとの戦闘は花形だ。
「戦闘訓練……!」
「いきなりか! 熱いぜ!」
「それに伴ってコレだ!」
続けてオールマイトが教卓のボタンを操作すると壁が動き始め、収納されていた棚が現れる。棚に収められているのは、1から20までの番号が書かれたケース。
「入学前に送ってもらった『個性届け』と『要望』にそって作った
「「うおおおおおおおお!」」
戦闘服の登場によって、クラスのボルテージは最高峰に上昇した。
「では全員、着替えてグラウンドβに集合だ!」
オールマイトの言葉に、生徒達は我先にと棚へと詰めかける。
「大鴉は取らないのか?」
「んな? いやだって今行ってももみくちゃじゃん」
「それもそうか」
一足先にケースを取ってきた尾白に問いかけられるが、今の大鴉はそういう熱いのは苦手なのである。やがて他のクラスメイトらがコスチュームを取り終えた後に取りに行き、待っていてくれた尾白とともに更衣室へと向かう。
「……だいぶゴチャっとしてるね」
「そういう尾白はシンプルすぎね?」
「個性が個性だし基本素手だからね」
かたや道着主体のコスチューム。かたやいつの時代のものかわからないようなシャツにコート。そんな印象が正反対の2人は互いのコスチュームを見て感想を言い合う。
「ほー」
「どうしたの?」
「ほら」
コスチュームを説明書通りに装着、というか来ていた大鴉は、今日は使わないであろう数本のベルトをケースの中に放ったまま説明書の最後のページを開けて顔をしかめる。
「『コスチュームに関する要望の内容が深いフードと多数のポケットのみだったため、デザインはこちらで行わせていただきました。とある古いゲームのキャラクターを参考にしています。またカラスがとまっても大丈夫なように肩やフードの頭部、腕の部分等を分厚くしています。もしかしてなんですが、鴉と視界を共有したり出来たりします? 出来たらとっても嬉しいんですが。是非私と一緒にアサシンを目指しましょう。他のデザイン案も別冊で入れておくので、もしコレが気に入らなかった場合には連絡してください』。これ……」
それを読み終えた尾白は、なんとも言えない表情を作る。
「コスプレだぜこれ完全に。いやまあ、結構かっこいいから良いんだけどさあ」
それは正しく、一般人がアニメキャラやヒーローの格好をするというコスプレであった。道理で。何かコスチュームを着る際に必要かどうかわからないボタンなどを止める羽目になったわけだ。
「大変、だね」
「まー確かにフードとあっちこっちにポケットとかポーチがついてるから良いけどさ。コレ絶対尾白のより金かかってるよな」
「金は……まあそうかも知れないけどさ」
生々しい話をする大鴉に尾白は微妙な表情になった。
******
他のクラスメイトから少し遅れて大鴉と尾白がグラウンドβまで移動すると、先に移動していたクラスメイト達とオールマイトが待っていた。やがて後ろから最後に緑谷もやってきて全員が揃うと、咳払いを下オールマイトが話し始める。
「みんな似合ってるぜ!! それじゃあ始めようか有精卵共!! 戦闘訓練のお時間だ!」
「先生! 入試の会場ということは本日は市街戦演習を行うのでしょうか!」
オールマイトが言うやいなや問いかけたのは、少々お堅い様子を初日から見せていた飯田だ。フルフェイスの甲冑のようなコスチュームで顔は見えないが、そのはきはきとした口調から誰かわかりやすい。
「いいや! 今日は屋内での対人戦闘訓練をする! 市街戦演習の更に先さ!」
続けて訓練の意図について説明し始めるオールマイトが言うには、一般市民の目から目立つヴィラン退治や大捕物は屋外で行われることが多いものの、ヒーローの目線から対峙するヴィランはむしろ屋内の方が多いらしい。いきなり屋外で暴れ始めるようなヴィランは暴れることが目的になっていることが多く、何かを目的として犯罪を行うヴィランは屋内に出現することが多いのだ。
(人に暴力を振るい振るわれる、個性を向け向けられる感覚をいきなりつかませる、か。一応ぬるくはないな。まあそこすらしてなかったら拍子抜けだが)
大鴉の考えた通り、オールマイトから入試で対峙したというロボットと今回相手する人間は別物だということが改めて説明された。
「そこで君たちにはこれから『ヴィランサイド』と『ヒーローサイド』に分かれて2対2の屋内戦を行ってもらう!!」
更にカンペを見ながら具体的なシチュエーションを説明していくオールマイト。大きな手に対して笑ってしまいそうなぐらい小さなカンペだ。
「……ヴィランは何を考えて核兵器を自分のアジトになんか隠すんだろうな」
「え? 大事だからとか、かな?」
「まあそんなもんか」
「俺も無理があるとは思うけどさ。そんな不満そうにしなくても良いだろ」
適当過ぎる設定にぶすくれる大鴉を尾白はなだめようとするが、大鴉からするとこの設定は本当に信じがたい。もし仮に。核兵器を所持しているヴィランが存在した場合には『2対2』なんてシチュエーションには絶対ならない。少なくとも警察や軍の部隊が投入されたときはそうだ。確実にヴィランを無力化し核兵器を起動される隙すら与えず制圧する作戦を考案する。
そんな中途半端なシチュエーションを用意するなら、普通に2対2の殲滅戦とかにでもすれば良い。少なくとも核兵器はありえない。なんて。
言っても意味が無いであろう文句は飲み込んで、尾白に『暴れ過ぎたらドカーンだな』とニヤリとした笑みを向ける。
「コンビ及び対戦相手はくじ引きだ! さあみんな引いてくれ!」
「くじなのですか!?」
「まだみんな互いのこと知らないだろうしね!」
「プロヒーローになったら即席のチームアップとかもあるから……」
「そういうことか! 流石雄英! 慧眼だ!」
「んんー! 良いよ! 早くやろ!」
少々生真面目が過ぎる飯田とオールマイトの相性はあまりよろしくないらしい。
率先して動いた飯田から順にオールマイトの持っている箱からくじを引いていく。
「俺Iだった。大鴉は?」
「俺はG。ゴキブリ、か」
「その表現はかなり嫌だな」
「でもゴキブリの個性ってエグ強くねえ? 反応とか速度とかめっちゃ速いと思う」
「いやそういうことじゃなくて……」
そんなことを言い合っているうちに、クラスメイトたちはそれぞれペアの相手を探し始めている。
「ゴキムグッ!」
「Gの人いないか! こっちに相手いるぞ。後Iの人!」
ゴキブリチーム、と言いかけた大鴉の口をとっさに塞いだ尾白は彼の代わりに声を上げる。すると全身が透明になっているであろう女子生徒と、ロックっぽい格好をした女子生徒が近づいてきた。
「(絶対にゴキブリとか言うなよ! 女子だぞ!)」
「えーと、Gの人?」
「俺じゃなくてこっちだけどね」
「ハイ。Gチームデス」
「Iチームの人!」
「あ、俺がI、だけど」
「私も! よろしくね!」
透明人間の少女がIチーム、ロックな少女がGらしく、尾白が離れていったところで大鴉は肩の力を抜く。
「えと、よろしく?」
「よろしく~。俺大鴉八咫」
「うちは耳郎響香。大鴉は、ってちょっと呼びづらいね」
「鴉でも八咫でも好きなよーに呼んでくれていーよ。五文字ってちょっと多いよね。四文字までだよな」
「え、うん。じゃあ……でも鴉ってなんか悪口みたいだから、やっぱり大鴉にしとくよ」
自己紹介をしている間に、一試合目のカードがAチームヒーロー側、Dチームヴィラン側と発表され、試合に参加する2人以外はビルの地下にあるモニタールームに移動するようにと指示が出される。
ひとまずモニタールームに移動したが第1試合開始まではまだ時間がある。フレンドリーを標榜している大鴉としては、この言葉少なな少女にも話しかけたい。
「打ち合わせとか、しておく?」
「……しとこう」
「どっちサイドになるかわかんないから情報の共有ぐらいかね。俺の個性は《鴉使い》。カラスと意思疎通したりとか体力消耗するけど感覚共有したりとか。後一応カラスとテレパシーみたいなのも出来る。以上」
「え、以上? あ、ごめん、けど」
「ん。まじで個性は戦闘に使えないよ。まああれだね。ビルの窓から覗き込んだりとかビル内に突入させれば索敵は出来るって感じかな。戦闘はロープとナイフと警棒と……素手の格闘戦は一応出来るぐらい」
武器その他は一応要望にも書いておいたのだが、それぞれにうまく使えるように収納スペースをコスチュームの各所に作ってくれている。腰に刺さっている警棒や腰の後ろに専用のポーチで装着されているロープはともかく、ナイフはこれでもかというぐらい身体のあちこちに収納されていた。まず両腕の前腕の内側に鞘付きで装着されており、他にもブーツの側面、腰の後ろである。他にも装着できそうなスリットがあるのが恐ろしいところだ。
『アサシンブレードは危険なので許可が降りませんでした! 再申請しておきます!』なんて説明書に書かれていたのが本当に恐ろしい。おそらく説明書を書いた人が言っている『アサシン』というのは、ゲーム内で暗殺者のような役回りのキャラクターなのだろう。それを考ると、体中に暗器を隠せそうなこのコスチュームにも納得が行く。絶縁、耐熱等高耐久の手袋や全身を覆っているのも、痕跡を残さないためのものなのだ。少々気になるので後ほど調べておくことにしよう。
「武器多いね……」
「ま、お手々からドカーン出来るやつとか氷出せるやつとかと比べると個性で出来ることが少ないからな。積極的に武器使っていかんとねってことで色々申請してみたの」
ふーん、と興味深そうに考え込んでいた耳郎は、はっと気づいて視線を大鴉に戻す。
「あ、うちの個性はこれね。イヤホンジャック。普段から耳が良くなるのと、ジャックを自由に伸ばしたり動かせるのと、壁とかに刺して音聞いたり、逆に自分の心音を流し込んだり出来る」
「心音?」
「そ。ちょっと手借りて良い? 弱くするから」
言われるままに、大鴉は手袋を外して手を差し出す。そこに耳郎の耳たぶから垂れていたジャックの先端が伸びてくると、ぷすりと刺さる。刺さった事自体には痛みは無かったが、直後にドクンと衝撃のようなものが走った。
「おおー。なんかビリビリする」
「威力上げたら結構痛く出来る、かな。一発で倒せはしないけど動けなくするぐらいは出来ると思う」
「すげー個性だな。んーじゃあ戦闘は任せるかな!」
「え、いやうち武術とか全然わからないから戦うのは無理だよ。そういうの得意なんでしょ、そっちは」
「まー出来ないこともないけど、ジャック刺したら勝ちって強くね?」
「……じゃあ大鴉が戦ってる間にうちがジャック刺すの狙うとか?」
方針を話し合っていると、最初のチームのスタンバイが終わったようで、一試合目が始まった。
******
試合開始と共に緑谷と麗日のペアがビル内に突入していくのが見えた。コレまで見てきた個性的にも用意している道具的にも明らかに索敵に向いていないペアだと大鴉は予想していたが、案の定曲がり角から飛び出してきた爆豪の奇襲を受けていた。
「いきなり奇襲!!」
「奇襲なんて男らしくねえぜ!」
「おっと! 奇襲も作戦の一部! 彼らは今まさに実戦の最中なんだ!」
切島の言葉にオールマイトがプロとしての視点を伝える。
それを見ていた大鴉は、爆豪の甘さとも言えるこだわりに顔をしかめていた。
正面からの戦闘はともかく、単身での潜入、あるいは迎撃に関する技術については大鴉はまだ学習している段階で完璧に身に着けているとは言い難い。
だがそれでも、初手で1人も仕留め切れなかった爆豪の動きが甘いということは容易に考えられた。大鴉があの場で爆豪同様に奇襲を仕掛けるのであれば、確実に1人は仕留められるように襲いかかっている。それこそコスチュームに想定されているアサシンのように。まあ殺しがヒーローにとってはタブーなのは理解しているので、殺すというよりは昏倒させる、あるいはスタンガンなどで無力化するというのが近いだろうが。
そう考えている間にも、モニターの向こうでは爆豪と緑谷の1対1に推移し、一緒にいた麗日が先へと進んでしまっている。
「強っ……」
緑谷をいたぶるような爆豪の戦闘に思わず耳郎がそう呟く。それはモニターを見ている全生徒も感じていたことで、緑谷はかろうじて対抗しているものの全体的に爆豪が優勢であった。
そして2人の距離が開いたところで、爆豪が大きな籠手に手を当てる。
「っ! 爆豪少年ストップだ!!」
咄嗟に静止の声を上げたオールマイトに何事かと生徒達が視線を向けた直後。
モニターを覆った。大爆発。壁を打ち抜き、地響きと揺れは地下のここまで伝わってくる。
「わーお、派手だねどーも」
「あ、ありがと」
「ん、どーいたしまして」
よろけた耳郎を支えつつ大鴉は口笛を鳴らす。籠手を使っていたことから考えて連発は出来ないのだろうが、威力だけは一級品だ。
「先生止めた方がいいって! 爆豪相当クレイジーだぜ!? あのままだと殺しちまう!」
「……爆豪少年! 次それ使ったら強制終了で君らの負けとするよ! 良いね!」
音が聞こえていない生徒たちには分からないが、オールマイトの言葉を聞いた爆豪は近接戦にシフトしたようであった。そしてそちらでも、爆破と拳を混ぜつつ緑谷を圧倒する。
「こんなのリンチじゃねえか! テープ巻き付ければ勝ちなのに!」
「ヒーローの所業にあらず……」
「緑谷もすげえと思ったけど、戦闘において爆豪はセンスの塊だぜ。勝てねえよ……」
モニターの向こうでは爆豪が憤怒しつつ緑谷に何か言っている。技術として読心術を習得している大鴉は、途切れ途切れではあるが彼らの会話の内容を掴んでいた。
(だから高校段階でヒーロー科は無茶なんだ。俺ですら心揺れるときがあるのに普通に育ってきた奴らが揺れずにいられるわけがない)
「2人ともスト────!」
互いに個性を使って振りかぶった2人を見てオールマイトが静止の声をあげようとするがそれよりも早く。緑谷の個性を使ったアッパーが天井を破壊し、その先にいた麗日の勝利へとつないだ。
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重傷で保健室に運ばれた緑谷以外の3人がモニタールームに戻ってくる。
「さて講評の時間だ! ちなみにベストは飯田少年だ! なぜだかわかる人!」
「ハイ、オールマイト先生。飯田さんが状況設定に最も即していたからですわ」
挙手してスラスラと応える八百万。それにクラスメイト達が感嘆する中で、大鴉は彼女が意見を述べ終えた後に挙手する。
「大鴉少年、他になにかあるかな!」
「はーい。誰がベストかって言ったら飯田君なのかなって思うんすけど、爆弾のある部屋で迎撃した飯田君もあんまよろしく無いかなって。実際核爆弾に対して今日みたいなことしてたら飯田君も麗日さんも戦死してたわけですし」
「うん! はっきり言うね君! でもそのとおり! ナイス指摘だ大鴉少年!」
「えー、じゃあどうしたら良いんですか?」
疑問の声を上げた芦戸を筆頭に、クラスメイトの大半は不思議そうにオールマイトに視線を向ける。
「それじゃあ大鴉少年、君ならどうする?」
「爆豪が出ていった時点で難しいかもですけど、少なくとも核爆弾の部屋の外で迎撃するかな」
「うん、今回はそれが正解だ! わからなければ核爆弾の代わりに『人』を守っていると考えてみるんだ。守るべき者がいる部屋で君たちは敵と戦うかい?」
「それは、たどり着かせないようにするということですか! ヴィランに徹するあまり思いつかなかった……!」
悔しそうにしている飯田に、周囲はなるほどと頷く。大鴉が言ったことは尤もなことである。今回のルール的に核爆弾の設置場所は予め決められているが、本来は自分たちで置いておく場所を決めるところからすれば良いのだろうが。それに今回も、『爆弾を使ってヒーローを脅す』のであればむしろ室内にとどまることにも意味はある。飯田がそこまで考えていたとは思えない、というだけで。
「よし、それでは次の対戦のくじを引こう!」
オールマイトがくじを引いている間に、大鴉はふらふらと立ち尽くしている爆豪に近づいていった。
「バクゴー負けたなー」
「……」
俯いて返事の無い爆豪に、大鴉は人差し指をトン、と喉に当てる。
「仕留めるなら確実に、少ない手数で仕留めろ。余計な時間をかけるな。くだらないこだわりはお前を殺すぞ」
「っ!」
爆豪にだけ聞こえる声で呟かれた言葉に、ゾクリと、背中に冷たいものを感じた爆豪は一歩後ずさる。それを悔しいとすら思えないほど、爆豪は大鴉に気圧されていた。
「て、めぇ……!」
「お前はまだ甘いよ」
最後にひと押し、喉元を軽く突くと大鴉は爆豪のもとから離れていった。後に残された爆豪がその悔しさから拳を壁に叩きつける頃には、大鴉はすでにいつものヘラヘラとした表情で耳郎と『派手だったねー』なんて話していて。その変わり身の早さに、爆豪は知っているはずの人間に薄ら寒いものを感じた。
******
「次はGチームがヴィランサイドでFチームがヒーローサイドだ!」
最初の爆豪らの試合を含めて数戦が終わったところでようやく大鴉と耳郎の番が回ってきた。途中瞬殺された尾白と葉隠を宥めたりもしたものの、一試合目の緑谷ほどの怪我人は出ることはなかった。
「ヴィラン側かー」
「そうだね。どうする?」
ヴィラン側は先にビルに入るように告げられて、大鴉と耳郎は歩いていた。
どうする、なんて聞かれている大鴉は、『んー』なんて生返事をしながらもビル内の部屋を見たりとあちこち寄り道をして進むのが遅い。
「何してんの?」
「どこで待ち伏せすんのが良いかなって」
「待ち伏せ?」
「そそ。さっき爆豪が核爆弾から離れて緑谷達襲ってたじゃん? あれってヴィランとしては最適解なのかなって」
「最適解? 奇襲するのが?」
「だってヒーローが来るのがわかってるわけじゃん? 罠張って待ち伏せるよ俺なら」
大鴉の言葉に、耳郎はそれもそっかとうなずきを返す。
「でもどのルートで来るかとかわからないよね。階段も二つあるみたいだし」
ビル内はそれなりに広く、適当に歩いていると遭遇しないままに入れ違う可能性も高い。
「やーそこは耳郎さんでしょ」
「うち? あ、そか別にヴィラン側でも索敵はいるのか」
「そーそ。んで耳郎さんがこれで教えてくれたら俺が待ち伏せして……2人で待ち伏せする? どっちが良いかな」
「相手は八百万さんと上鳴電気、だよね」
「なんでそこフルネームなの」
「まだ話したこと無いからどう呼べば……ってそれはどうでも良いから。とにかく、どうする?」
対戦相手は大鴉と耳郎とくらべておそらく索敵には長けていない。八百万が様々な道具を作り出せるかもしれないが、それでも耳郎の個性で十分に対抗できる。
「でもターゲットの側離れるのは良くないよね」
「それもそーなんだよね」
「じゃあうちはターゲットのすぐ近くで隠れる場所探す。大鴉はもっと下の方で仕掛ける、って感じで良いかな?」
「そうするかあ」
難しいねこういうの、とぼやく大鴉に、耳郎は分かれて核爆弾のある部屋へ移動しようとして足を止める。
「あ、あんた個性は使うの?」
「んー、警戒されないように外から見させる程度かな。元々耳郎さんだけで索敵は十分っぽいし」
「わかった。じゃ、奇襲頑張ってよね」
「りょーかい! やられたら後よろしく!」
「ちょっと、うち戦うの苦手なんだからやられそうになったら逃げて良いから戻ってきてよ」
そこで分かれた2人は、耳郎が5階のターゲット付近、大鴉が3階の中央付近へと移動していた。
『大鴉、聞こえる?』
「聞こえてるよー」
大鴉が窓を開けて外で監視させていたカラスを呼び込んでいると耳郎から通信が入る。
『下の入口からまっすぐ入ってきたみたい。それでえっと……うちらが登った方の階段わかる?』
「わかるよ」
『そっちから登ってきてる』
「りょーかい」
耳郎からの報告を受けつつ、隣でカーカーと鳴くカラスからも同様の報告を受け取る。このビルは演習のためか階段があちこちに散らばっており、下から上層階まで直通する階段は1つとして存在していない。そこから、2階から3階につながる階段のルートと、更にそれらを登ってから4階への階段にたどり着くために移動するルートを頭の中で思い浮かべる。
「あのあたりで仕掛けられる、かな。耳郎さーん、移動しますよー」
『わかった。なるべく足音立てないようにね』
「頑張る」
ごついブーツを履いているものの、足音の殺し方はすでに身につけている。不自然にならない程度の音の出し方も出来る。それを利用して、大鴉は待ち伏せ場所へと向かう。
待ち伏せ場所は曲がり角が入り組んだ場所。最短ルートで上の階へ向かうことを考えれば通る必要がない場所にヒーローチームより先に移動し、そこで待ち伏せることにする。
やがて数分後。姿を表した2人は、八百万は多少警戒した様子で。上鳴は気を抜いた様子で、それでも急ぎすぎること無く歩いてきた。
「そんな警戒しなくても大丈夫じゃね?」
「上鳴さん……先程の爆豪さんのように奇襲されたらどうするんですの」
「あれは爆豪だから出来たことでしょ。耳郎も大鴉もそんな強そうには見えないし」
そう話しながら2人は、大鴉の“眼下”を通過した。
大鴉が待機していた場所。そこは曲がり角、の天井部分。飛び出していた監視カメラにロープを引っ掛けて、天井部分にぶら下がるようにして待機していたのだ。直線の天井であれば看破される可能性が高い。曲がり角では、見られれば終わりだ。だからこそ、曲がり角の天井部分という死角になりやすい場所に隠れたのである。
そして2人が通過した直後。するりと逆さまになっていた体勢を戻した大鴉はトン、と軽い足音とともに着地する。
ハッ、と八百万が振り返る頃には、大鴉はすでに捕縛用のテープを手に上鳴の背後に手を伸ばしていた。
「上鳴さん!」
「へ?」
「かーくほ」
上鳴の手にテープを巻いた大鴉は、そのまま上鳴を八百万に向かって突き飛ばす。
果たして。突き飛ばされてきた上鳴を受け止めるか避けるか悩んだ八百万は、上鳴の影から這うように接近していた大鴉に腕にテープを巻かれた。
『ヴィランチーム、WIIIIIIIINN!!』
「だいしょーり」
『すご、ほんとに1人で勝ったの』
「待ってるから降りておいでー」
『はいはい』
インカムを使って耳郎と連絡している大鴉を、呆然とした様子の上鳴と八百万が見つめていた。
「は!? 爆豪みたいに奇襲!?」
「待ち伏せ待ち伏せ。強そうな相手に正面から仕掛けるなんて無理だから。耳郎さんが索敵してくれたから先回り出来たんだよね」
「まじかー!? 全く気づかんかったぞ!?」
「気づき、ませんでしたわ。警戒していましたのに」
「まー上鳴くんが色々話しかけてたからねー」
「え、俺のせいなの!?」
悔しげに呟く八百万をなだめて矛先を上鳴に向ける。
「そりゃあさ、集中してるのに横で色々言われたら集中力なくなると思わん?」
「うぇ、ごめんなさい……」
「まーそれでも気づかれないように隠れてたけどさ。演習中ぐらいはシーねシー」
人差し指を口の前に立てる大鴉に、八百万と上鳴の身体から力が抜ける。真剣な場面に似合わない大鴉の行動が、場の空気から緊迫感を抜いていくのだ。
その後降りてきた耳郎とともに、4人で揃ってモニタールームまで降りていく。
「4人ともお疲れ様! それじゃあ講評だ! 今回のベストは大鴉少年! 耳郎少女も良かったが、相手を捕縛したのは大鴉少年だったから、そちらをベストにしよう!」
「はーい! 奇襲がうまく決まったと思います!」
「うん、そのとおりだ芦戸少女! 索敵能力に長けている耳郎少女が個性をうまく活用したね! 大鴉少年もうまく隙をついた! 八百万少女と上鳴少年は、索敵に向いていないなら向いていないなりに慎重に行こう!」
オールマイトが試合のまとめをし、次の試合へと移行する。その後も緑谷以外が大怪我をすることもなく、順調に演習は終わりを迎えた。
******
放課後。そそくさと帰る用意をしていた大鴉の席に赤い髪の少年が近づいてくる。
「なあ、みんなで訓練の反省会すんだけどさ、一緒にしないか? あ、俺切島鋭児郎! よろしくな!」
「あー、悪い、今日はちょっとやることがあるから──」
「おい!」
切島と名乗った少年と大鴉が話していると、横合いから爆豪が荒々しく声をかけてくる。
「……ちょっと付き合えや」
「何、交際の申込み?」
「っこの──」
「ジョーダンよジョーダン。悪いね切島くん。俺爆豪と一緒に帰るわ」
「お、そうか! 悪いな引き止めて」
他の人もおつかれさーん、また明日ねー、と親しげに声をかけてから大鴉は先に行った爆豪を追う。
「どーしたのバクゴーくん」
「……てめぇは……」
何やら呟いた爆豪は、それきり口を開かなくなってしまう。昇降口を抜けて校門までやってきたところで、後ろからやってきた誰かが爆豪に声をかけた。
「かっちゃん!! あ、と大鴉、くん……」
「おー緑谷怪我治らなかった感じ?」
「あ、うん、その、一気には治せないから明日になったんだけど……」
そう言ったっきり緑谷は、もじもじとしながら爆豪の方をチラチラ見ていた。
「もしかして爆豪に用がある感じ? なら俺先行っとくわ。爆豪後から追いついてきてちょーだい」
「あ、ごめん大鴉君!」
「……おう」
申し訳無さそうにする緑谷と爆豪を置いて、大鴉は少し先へと歩を進める。そして近くの壁にもたれかかり目を閉じた。
使役する鴉との感覚の
校門に止まった鴉の目と耳を借りた大鴉の耳に、爆豪と緑谷が話している声が飛び込んでくる。
直接の明言は避けているものの、緑谷が個性を受け継いだという言葉。大鴉が監視するよう指示されたそれに、会話の内容を記憶しておく。
オールマイトとその個性の秘密に関しては、特に上からは守ったり暴露したりするようにと指示は受けていない。ただ、何か動きがあったときにすぐに知れるようにと監視しておくように依頼されたのだ。そのためには同じヒーロー科の、それも同じクラスにいることが都合が良い。
しばらく話を聞いて、爆豪の内心の吐露を聞いている途中で
「……待たせた」
「いーよ別に。調べ物してたらすぐだし」
そう言ってひらひらとスマホを振ってみせると、爆豪は大鴉の隣を通り過ぎてあるき始める。
「それで、結局何に付き合えばいいの?」
「……」
話を振ってみるものの、爆豪は応えない。強さ以外を外に見せたがらない爆豪は、何をどう口にすれば良いのかわからないのだ。
「俺さ、高校のヒーロー科ってシステムとしておかしいと思うんだよね」
「あ゛?」
だから、自分から話してみることにした。
「高校生ってさ、精神的にまだ全然未熟な時期なのよ。ちょっとしたことで精神的に揺らぐし傾くわけ」
「……それがどうしたんだよ」
「ヒーローなんて言う、固い決意と信念とその他色々が必要になるもんを目指すのに、高校はまだ速いって話。そういう覚悟は、高校卒業してから専門学校とかで固めるべきだと思うんだよね」
意図の読めない大鴉の話しに、爆豪は無言になりつつも文句を言わなかった。
「今爆豪の中ではさ、多分いろんな考えとか感情がぐるぐるしてると思うのね。で、それはまだ精神の未熟な俺たちにとっては、どうにかしようとしてどうにかなるもんじゃないの。長い時間をかけて向き合ったり、カウンセラーなんかの助けを借りてどうにかすることなのよ本当は」
「……俺が何考えてるかわかるんか」
「これでも心理学は色々とかじってるからね。ちょっと予想出来るぐらいだけど」
そんな俺から、爆豪勝己にアドバイスだ。
ストン、と。ヘラヘラとした表情が大鴉の顔から抜け、あのときの、喉元に
「お前はもっと、自分の方を向いた方が良い」
「俺が自分のことすら出来ねえと思っとんのか」
「そういうことじゃない。外に自慢するのも、他者と比べて己の評価を高めたがるのも、今のお前にとっては毒にしかならない。自分の方を向いた方が良いってのは、自分の中でいろんなことを完結させてみろってことだ」
「……それに何の意味があんだよ」
「すくなくとも、今お前が感じているような不安や焦りを置いておくことが出来る」
不安や焦り、と。そう指摘した瞬間に、爆豪は大鴉の襟元に手を伸ばし。その手は大鴉の手によって捉えられた。
「お前が他の者より上だということは、お前以外に言葉で喧伝しなければならないものなのか? ならば俺は今この場で、俺がお前よりも強いということを主張したほうが良いか?」
「何が言いてぇ……!」
爆豪の手首を固く握りしめつつ、大鴉は言葉を続けた。
「行動と結果で示す、というのを一度やってみると良い。お前が自ら他者より優れていると言葉で主張するのではなく、お前の残した成果に他者が言葉で称えるように」
おそらくそれだけで、この難しい時期の心が解決することはあるまい。だが。『評価を他者に委ねる』という選択で、爆豪の心を捉える雑念をほぐすことが出来るかもしれない。
「今のお前は、まだ『自分は強いと主張したい者』であって、真に『強さを追い求める者』になりきれていない」
「てめぇに何が──!」
「俺はな爆豪」
締め付けていた手を下に降ろして、大鴉は語勢を弱めて語りかけた。
「例え世界の誰も俺を見ていなくても、己を高め続けると決めている。やりたいことがあるからな。お前はどうなんだ? お前の強さは、見ている誰かが存在しなければ成立しないのか? 誰かに示さなければならないのか?」
「……」
「そうだと言うなら、今と同じように他者に向けて主張し続ければいい。俺はすでに強く、他の者のように無駄な努力を重ねる必要など無いと傍観していればいい。だが強くなることが最優先ならば、一度その視点を捨てろ。ただ己と向き合え。己が何をなせるか、どう成長するか。それを見据えろ」
第一、と。
「お前が凄いことなど、当の昔から知っている」
そう告げると、大鴉は爆豪の背中を軽くはたき、その場を後にした。後に残された少年は1人。何を心に思うのか。
大鴉のコスチュームは、『アサシンクリード ローグ』で検索して出てくる画像の黒いフードの人を見てください。
後主人公の素顔のデザイン全く思いつきません。どうしましょう。
原作の描写、例えば体育祭なら緑谷が轟と決勝トーナメントで戦う試合を、主人公目線でリアルタイムで書くべきでしょうか。それとも、ダイジェストでどういうことがあって、主人公が何か気づいた事考えたことを軽く書けばいいでしょうか。どのあたりを本作に求められているのか知りたいです。というのも、体育祭を書いていて、主人公の試合よりも他の試合について尾白たちと話している場面が増えて書きづらいのでどうしたものかと。
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主人公周りだけでいい
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原作の内容を主人公目線で見たい
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主人公が何か気づきを得る場合など一部だけ