#1a1f47の空の下、#001a50の海を横目に少女は浜辺を歩く。

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その色の名は


#004d70

 浜辺を歩く。#001a50の海を横目に歩く。

 

 寄せては返す波が砂を染めて、この足の行く線を決めていく。決して濡れない裸足が砂を時々纏っては落ちて、ざらついていた。不思議と不快ではなかった。

 この手には何もない。恋人の手もなければ、漣を秘めた貝殻も、外界と接続する端末もない。

 ただ、#00aedaのネイルも#c5dae7ワンピースも静かに見えて、#0a0a2dの髪だけが月明かりにも少し目立った。ただ、それが私の空虚さを晒しているように感じられた。

 もう夜も更けて、空は#1a1f47に染まり、海は昼の澄み渡るさまを忘れたかのように#190535の闇と混じって時々月光を反射させている。飲まれそうな夜。私が消えても、その事実すらも隠してしまいそうな夜。いつかは朝が来るとしても、今はただただ夜だった。

 

 不意に足を止めた。波は変わらず少し横まで寄せては返すばかり。おもむろに海に背を向けて、近くにあった漂着物の木の枝を手に取った。そして、砂の地に文字を書く。

 最初は「01010011 01001111 01010011」、次は「11100101 10001010 10101001 11100011 10000001 10010001 11100011 10000001 10100110」。やがて、諦めたように枝を捨てて、また歩き出した。きっと、潮が満ちれば、あの文字も消えるはずだった。確信が持てなかったのは、それが私の知識だけに由来するからだった。消えなかったとして、それで何かが起きるはずもなかったから、どうでもいいといえばそうではあった。

 

 この海の名前を私は知らない。

 太平洋なのか、大西洋なのか、地中海なのか、それとも本当は海ではなくて湖だったりするのか。

 地球という#50c2dcに美しい星で一番大きな湖はカスピ海らしい。海とつくのは、その大きさが昔には海に思えたからなのだろうか。あぁ、今は一部の国が海としているらしい。どちらでも別にいいけど。

 ここがどこの海でも海でなくとも、関係なく私は浜辺を歩く。

 なぜ歩くのか、そう問われたら、声が聞こえたから、と答えるほかない。誰の声かは知らない。誰の声でもよかった。声が聞こえたなら、私は行くのである。私はその声のためにこの浜辺を歩く。

 

 あぁ、でも、海だったらいいなと思う。

 

 何も落ちてはいなかったけど、ただ砂に足をとられて転んだ。

 私は一人ヘラヘラ笑って、立ち上がった。ワンピースについた砂は101回払うとほとんど残ってはいなかった。少し擦りむいた膝が痛かったけど、それでも私は立ち止まることなく歩き続けた。

 

 現実から乖離していくのを感じる。

 何か、幻想的なものに近づいているのだろうか。

 きっと、そんなことはないのだと思う。現実から遠ざかることが幻想に近づくわけではない。そうなら、現実から逃げた者が行き止まりになることなんてない。ただ、現実に近いか遠いかというだけ。なら、私はこのまま進めばどうなるのだろうか。

 少しだけ不安になった。それでも、歩むことをやめようとは決して思わなかった。やめられないのに、この歩みの虚ろさを思うと少し震えた。

 

 少しずつ歩みは遅くなって、やがて足を止めた。

 そのまま膝を抱えて座り込んだ。11110分ほどそうしていた、と思う。

 ふと見上げると、さらに更けて#00243dの空にオリオン座が私を見下ろすように煌々と輝いていた。昼間に見た#50c2dcの海を思って、少し気持ちが落ち着いた。

 私の先に何があろうと関係なんてなかった。少なくとも私は歩み続けるしかない。その先にある答えが、意味も意義も、結果もすべて教えてくれるのだから。

私は歩き出した。義務感だけでなく、私の意思も少し混じった感情に従って歩く。横目に見える海は#190535で、私にはなにより深く、優しい闇が寄り添っていた。

 

 随分歩いた。

 月も空を駆けて、気が付けば私の先にいる。夜明けはきっと近かった。

 ひたすらに歩いていると、私の心が溶けていくような感じがした。正しさも何もなくなって、ただ進もうと思える。疲れなんてない。喉も渇かない。お腹も減らない。夢見心地で、もう覚めないことが幸福であることようにも思われた。でも、夢の底でも自我は眠っていなかった。

 

 私は歩き続けた。そして、ようやく、どうやら私は目的地にたどり着いたらしかった。

 そこは灯台。#ecf4ebの灯台が、真っ暗な世界で輝いていた。

 100000mの灯台に入って、登った。螺旋階段は綺麗で、誰もいないのに埃一つなかった。足についた砂が落ちるのが少しだけ申し訳なかった。

 灯台の光の側にたどり着く。そこには何もなかった。肩透かしに思うことはなかったけれど、ならばここまで歩んだ意味と、声の正体はなんだったのだろうと疑問に思って、ただぼーっと景色を見ていた。

 

 やがて、夜明けが来た。太陽が昇る。空の、海の、世界の色が変わっていく。

 どうしてだかわからないけど、この瞬間が全ての意味だったと悟った。

 空の#00243dは#1a1f47となり、#81a5cdを経た。

 海の#190535は#001a50となり、#252e57を経た。

 声の主が知りたかったことを知った。その色の美しさを思った。

 私がその色に執着したのは声のせいだったのか。ただ、私がそう思ったからだったのか。その答えを知ることは決してないのだろうけれど、少なくともこの感情が今の私のすべてだった。

 真実味がないほど晴れ渡る#8bafdbの空の下には#004d70があった。

 私は朝日昇る世界の中で、ただ一つ、私だけの事実を知った。

 

「ここは、海だったんだ」




オーシャン

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