玉衡の元から逃亡したら千岩軍が追いかけて来ていた件について   作:久遠とわ

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第1幕:璃月から逃亡してきた異常者
玉衡の元から逃亡したら千岩軍が追いかけて来ていた件について


「チャールズ、もう一杯頼むわ。ッ、ヒック」

 

「おいおい、瞬詠。かなり酔っぱらってるぞ?」

 

「ヒック、良いんだよ、別に。むしろ酔いたい!!っぁ!!」

 

そう言いながら、灰色の璃月の服装をし、黒い髪に灰色の髪が混じった男

──瞬詠は、カウンターテーブルをバンと叩く。その振動で用意していた蒲公英酒が揺れて零れそうになるが、それを店主であるチャールズは咄嗟に掴んで器用に中身の波をコントロールする。

 

そんな彼を見て瞬詠は「おぉ~」と言いながら何処かわざとらしく拍手をした。そしてそれを見たチャールズは苦笑しながらコップを差し出し、瞬詠はそれを手に取ってグイッと一気に飲み干した。

 

「っぷは!うんめぇな!やっぱりモンドの酒は最高だよ!嫌なことも全部忘れられる!」

 

「……全くお前は相変わらずだな」

 

呆れた様子で呟くチャールズだったが、内心では少し安堵したような表情を浮かべていた。瞬詠がこうやって荒れるのは決まって何かあった時だったからだ。だが今回は何かあったと言う訳ではなく、ただ単に普段のストレス発散の為でここに来たとのようだ。

 

ここはシードル湖の中心に位置するモンド城、そしてそのモンド城の中の酒場のエンジェルズシェア。そこに彼こと。瞬詠は一人で訪れていたのだ。そこに訪れた彼はいつものように酒を頼み、いつもと同じように飲み始める。

 

しかし、いつもと違い、今日はかなり荒々しい。それが気になったチャールズは理由を聞いてみたのだが……どうやら話を聞く限り、特に何もないと言い張る。

 

それにしても、と思いながらチャールズは訝しげる。

 

「っ~!!」

 

どこからどうみても普段の瞬詠ではない。自分が知っている限り普段の瞬詠は気分屋、また常に面倒臭がり屋で何でも適当にこなす男、だが実はかなりの切れ者であるという側面を持った男だ。

 

「あー!!もういい!!とにかく飲まねぇと気が済まないんだ!!」

 

そう言って再び酒を飲む瞬詠を見ながらチャールズは再びため息をつく。

 

「おぉ、やっぱりここにいたか」

 

「ん?」

 

「っ、ぁぁ」

 

酒場の扉が開かれ、そこに1人の男が入ってくる。その男は青髪で右目に眼帯を掛け、そして氷の神の目を持つ男、ガイア・アルベリヒであった。

 

「となり、座るぜ」

 

「勝手にしろ」

 

ガイアは許可を取ってから彼の隣に座り込む。

 

「久しぶりじゃねぇか瞬詠よ。今日は随分と荒れてるみたいだな」

 

「うっせぇ!こっちだって好きで荒れているわけじゃないんだよ!」

 

「ははは、落ち着けって」

 

瞬詠がそう叫ぶと、ガイアは笑いながら宥めるように言う。

 

「全く大変だったぜ。……いきなりモンドに璃月の使者達とその警護の為の千岩軍の兵士達がやってきて、彼らがお前を探しているとか言ってきた時はさすがの俺でも少しは焦ったぞ?」

 

「……マジで?」

 

「ああ、大真面目だ」

 

「……」

 

ガイアの発言に瞬詠は黙りこむ。千岩軍がまさかのモンドにまで来て自分を捜索しに来ているという事に対して、驚きを隠せなかった。

 

「……まぁ、確かに千岩軍の連中には何も言わずに飛び出してきたけどさ。……というか律儀に使者達を連れてだと……」

 

瞬詠は項垂れる。

 

「ははは、だろうと思ったぜ。それにしても驚いたぜ?お前、更に偉くなったみたいだな?確か遂に璃月七星の新たな一員になったんだって?」

 

「なっ!?」

 

「断じて違ぁうっ!!」

 

ガイアの爆弾発言にチャールズは目を見開きながら声を上げ、瞬詠は全力で否定した。

 

 

璃月七星。それは現在、テイワット大陸7ヵ国の内の一つ、璃月を統治する岩神である岩王帝君に次ぐ権力を持ち、璃月の経済等の管理を担う7人の統治者の総称だ。

 

 

そしてガイアの発言はその絶大な力を持っている7人の内、その一人がこの瞬詠と言うことになる。

 

「いやいや違う!!違うんだ!!あの人達と同列じゃない!」

 

「おいおい、冗談だって。だが、お前がそう思っていても向こうはそう思っていないかもしれないぞ?それに彼らが言うにこれは、かなり大規模な演習ということらしいしな。曰く璃月を揺るがした重大な大罪人を捕縛し、今回は璃月七星の玉衡の前に突き出すという事を想定した大規模演習だってさ」

 

ガイアは面白そうな表情でそう語る。だが、それに対して瞬詠の顔色はどんどん悪くなっていく。

 

「おいおい、大丈夫か瞬詠よ。顔色が真っ青になってるぞ?」

 

「……最悪だよ。本当に最悪だよ。どういう想定だよ。それ完全に自分を捕まえる為のものだろ。ピンポイントすぎるだろうよ……」

 

瞬詠は頭を抱えてそう呟く。璃月七星の玉衡、刻晴は瞬詠に対してどうやら怒り心頭のようで、刻晴の部下や動かせる限りの兵士達を総動員して瞬詠の事を探していたのだ。

 

刻晴がここまで怒っている理由はいくつかあるのだが、理由の一つとしては彼が結果的に彼女の仕事の邪魔をしたからだろう。

 

 

刻晴は元々、璃月港で起こる様々な問題の解決や改善をする為に日々、忙しい生活を送っていた。だが、そこに彼が現れた。最初は瑠月七星のリーダーである凝光が彼女のとある知り合いからの紹介という事で刻晴に紹介し彼女の直属の部下になった。

 

そして当初の彼は気分屋かつ極度の面倒臭がり屋で何でも適当に仕事をこなしていた為に、刻晴は瞬詠に強烈な不満を抱えていた。だが、ある日に舞い込んだ刻晴にとって、そして璃月の港にとって、本当に大切な仕事だけはまるで人が変わったかのように真剣に取り組んだのだ。

 

そこで彼の本来の並みならぬ切れ者としての才覚を発揮した。

 

結果、その仕事を無事に終えた後に刻晴は彼の評価を一変した。彼は完璧に彼女の仕事に対する考えや動き、彼女の行動に同等に付いていけていたのだ。しかも、刻晴のその仕事が円滑に進むように、先回りして適格にサポートすることすらも出来たのだ。

 

よって刻晴は、刻晴と瞬詠は本当に正反対な性格だが、しかしお互いの根本的な仕事に関する考え方、そして後に璃月の在り方についての考え方に関しては程度の差はあるにしても同じ物であると知り、その才能と実力を認め、信頼出来るパートナーとして、彼を認める事になったのだ。

 

そしてそんな本来の瞬詠を知ったからこそ、刻晴は彼を気に入っていたし、そして同時に瞬詠も、良くも悪くも刻晴の事をかなり気にかけていた。その為になんだかんだ言って、お互いに切っても切れない関係になったのだ。

 

それ故、たまに衝突し合うことも多々あり、喧嘩寸前になってしまうこともかなりあったがそれでも2人は何とか上手くやっていた。そして瞬詠に取っての大事な仕事だけに関しては、真面目に取り組んで圧倒的な成果を残した彼に、璃月七星のメンバーも彼を認めては良いのではないのかという話も出始めていた。

 

 

「……はぁ」

 

そんな彼、瞬詠は絶望する。

 

「ははは、どうする?瞬詠、店の外は大分愉快なことになってるぞ?」

 

ガイアは笑いながら瞬詠に言うが、それに対して瞬詠はため息をつく。

 

瞬詠はガイアの言葉の意味を瞬時に理解した。つまり、今このモンド城の中には自分を探している璃月の使者と千岩軍の兵士達、そして最悪の場合、西風騎士団のファルカ大団長が璃月の使者達に協力してしまえば、モンドの西風騎士団の面々や騎士達、更にはそれに乗じて冒険者協会の人間達が自分を探し追いかけ回してくるということもありえるのだ。彼にとってはとんだ地獄絵図である。

 

「……ガイア、“玉衡の元から逃亡したら千岩軍が追いかけて来ていた件”についてどう思う?」

 

「ははっ、中々面白い状況だと思うぞ」

 

「…はぁ」

 

ガイアは面白げに笑いながらそう言い、瞬詠は疲れ切ったかのように溜息を吐いた。

 

「……」

 

彼は無言で脳内でシミュレーションしてみる。

 

 

仮にこのまま逃げ回り、また場合によって反撃してしまえば更に状況はカオスになっていき、終いには考えたくないが刻晴が自分を直接取っ捕まえるために璃月からわざわざ出向いてここにまでやって来る可能性すらもあった。

 

そして最終的に抵抗して捕まるにしろ、ここまでの騒動を引き起こしているので確実に璃月七星、少なくともリーダーである凝光には報告が行く。そうすれば何かがとち狂ってしまえば彼女が更に自分の腕を認めてしまい、もしかしたら甘雨のような秘書、もしくは本当になりたくもない璃月七星の正式な新たな一員となり、激務の毎日がやってくるかもしれない。

 

「……」

 

かといって、大人しく捕まれば一応は自分の実力を発揮してないので璃月七星の新たな一員へと前進することはないが、間違いなく怒り心頭中の刻晴の前に突きださせられれば、場合によってはサンドバッグよろしく彼女にめちゃくちゃにボコられる可能性もある。

 

いや、かなりその可能性の方が高い。

 

 

むしろ、それが確定事項とすらも思える。

 

 

「……」

 

瞬詠は黙り混む。もう何もかもが嫌になっていった。そしてその瞬間だった。

 

「なるほど、やはり君はここにいたか」

 

その時、1人の男が店の中に入ってきた。

 

「うん?…あぁ」

 

瞬詠は声の主の方を見る。そこには赤髪ロングで細見の男、分厚い外套を着こんだディルック・ラグヴィンドが立っていた。

 

「オーナー!?」

 

「はは、まさかこんなところで会えるとはね」

 

チャールズは今日来る予定では無かったディルックを見て驚き、ガイアは笑みを浮かべる。

 

「ガイア、君もここにいたのか」

 

ディルックはガイアをジト目で見る。

 

「おいおい、別に良いじゃないか。暫く仕事はほとんど無さそうだしな。あるとしても事後処理だけだ」

 

「はぁ、君って奴は」

 

ガイアは面白げにそう言いながら言うと、ディルックは呆れながらも納得したような表情をする。

 

「はは、別に良いじゃないか。それで、何しに来たんだ?瞬詠、もしくは俺に用事か?」

 

「ああ、その通りさ。実は僕がここに来た理由は、偶々騎士団の連中がガイアを見かけたら伝言を頼んでくれと言われてね。そうしたら君がここにいた。どうやら、千岩軍の連中。ここまで来るまでの道中、瞬詠の捜索も兼ねて広範囲の探索を行っていたようだが、その際にモンド領内にて宝盗団の拠点を幾つか発見したらしく、ついでにそこにいた宝盗団の人間達を捕縛して騎士団に引き渡しをしようとしているらしい」

 

「……ほう、それはありがたい話だ。流石は璃月を守る千岩軍の連中だ。想像以上の仕事っぷりに感動するぜ」

 

ガイアは感心するように言った。

 

「はぁ……モンドの警備員達も、千岩軍を見習って欲しいものだ」

 

ディルックは皮肉るように呟く。

 

「はは、そう言うな。ディルック。それじゃ、そろそろ千岩軍の連中が途中までやってくれた俺の仕事も終わらせるか」

 

ガイアはそう言って席を立ち、店を出ていった。

 

「……」

 

瞬詠は無言で頭を抱えた。

 

想像以上の展開になりつつあったからだ。ディルックの話を聞いて推測するに少なくとも今のモンド城には思った以上に多数の千岩軍の兵士、刻晴が動員した規模によっては下手したら璃月の重要施設である造幣局、黄金屋並みの警備体制に匹敵する警戒体制が璃月の使者達の護衛と言う名目でモンド城内に敷かれている可能性が高かった。また、それに準じてモンド城外にもそれなりの警戒体制が敷かれている可能性も高い。

 

「……はぁ」

 

瞬詠は再びため息をつく。しかしそんな彼の様子を無視してディルックは彼に言う。

 

「……瞬詠、僕の純粋な疑問なんだが、君はいったい全体何をやらかしたんだ?君のことだから無意味にこんな騒動を起こしたりはしないと思うが……」

 

「あー……」

 

瞬詠は言葉を濁すように返事をした。刻晴の件については正直あまり話したくなかったのだ。

 

「ん?どうした?」

 

「いや……その、ちょっと……うん、自分、実際に色々とやらかしまくってるわ」

(正確には普段の鬱憤も兼ねて、徹底的に刻晴を嵌める為にあれこれした上で逃亡して、今頃彼女が滅茶苦茶怒っているだろうなって思ってたら、モンドのこの様子で予想以上に激怒しているといったて感じだけどな。……いや、本当にこれは不味い)

 

「……ふむ、なるほど」

 

ディルックは何かを察したかのように、瞬詠に頷いた。

 

「チャールズ、暫くの間だが僕は瞬詠と二人っきりになりたい。それで悪いが、暫くの間は外してくれないか?」

 

ディルックは瞬詠から視線を外し、チャールズに視線を向けて言う。

 

「分かりました。オーナー」

 

チャールズは頷くと、そのまま店から出ていった。

 

「……」

 

そして、ディルックはそのままカウンターの中に入り、瞬詠の前に立った。

 

「……えっと、ディルック?」

 

「瞬詠、これは僕の奢りだ。流石に今の君を取り巻く状況と立場には同情する。それに君には僕との間に借りや貸しもあるしな」

 

ディルックはそう言いながら、まるで熟練したバーテンダーのような慣れた手つきでカクテルを作り始めた。

 

「……すまない」

 

瞬詠はディルックに謝った。

 

「構わないさ。君も大変だったみたいだしな」

 

ディルックは苦笑しながら言う。

 

「あぁ、本当にだよ。一体、どうすればこの騒ぎを丸く収められるかが分からない」

 

「君はもう少し自分の行動を考えるべきだ。君が思っているより、今の君には良くも悪くも影響力があるんだぞ」

 

「……分かってはいる。だが、自分としてはそんなものはいらない」

 

「はぁ、君は相変わらず変わらないな」

 

「ははは、そうかもね」

 

「さて、これを飲んでくれ」

 

ディルックは自分の作った酒を瞬詠に差し出した。

 

「ありがとう。でも、いいのか?君だって忙しいんじゃ……」

 

「ああ、構わんさ。どうせ今日は何も用事はなかったからな。さっきも言ったが、これくらいなら大したことは無い」

 

「そうか」

 

そう言うと瞬詠はディルックから貰った酒を飲み始める。

 

「っ」

 

「どうだ?美味いか?」

 

「うん、美味い。今まで飲んだことが無い味だ」

 

「それは良かった。気に入ってくれて何よりだ。それは今試作段階の物だ。悪くなさそうで良かった」

 

ディルックは僅かに微笑みながら言った。

 

「さてと、そろそろ本題に移ろうか。……君は引き続き“ファデュイ”と接触を続けていると言う事だが……最近は、どうなんだ?」

 

「うん、ファデュイ?……あぁ」

 

瞬詠は一瞬ディルックが何を言っているのか分からず困惑したが、直ぐに理解した。

 

「うん、そうだね。あいつらとは相変わらずだよ。前にやった璃月の北国銀行開業の件が無事に終えられて以降、どんどん彼らに自分の事を『理解者』や『協力者』、若しくは『同志』やら『お友達』、果てには『盟友』とすらって呼ばれている……だけど、ちょっと本当にそれは勘弁して欲しい」

 

瞬詠は疲れ切った表情で呟く。

 

「はは、随分と気に入られているようだな」

 

ディルックは呆れたように笑いながら言う。

 

 

ファデュイ。それは現在のテイワット大陸で最強の国力を誇る氷の国・スネージナヤの擁する組織。彼らは表向きでは外交官や使者として大陸各国で活動しているが、その実態は表では外交特権や使者としての権限を用いて合法的に外交圧力をかけ、裏では各国に傾国の策謀を巡らせるという存在。

 

 

瞬詠自身は、正直彼らとは関わりたくなかったが、北国銀行開業の案件は自分が一番齧ってしまっていたので、仕方なく協力して適当にさっさと銀行開業に取り付けたのだが……

 

「……はぁ」

 

瞬詠は溜め息をつく。ファデュイという組織は嫌いだが、だが少なくとも自分と関わった普通のスネージナヤ人、またファデュイの構成員であるとあるスネージナヤ人達には頭がおかしいのはいたものの、基本的に善人や話の分かる者達も多かった。だからと言って、別に彼らのことを好きになれたわけでもないが。

 

「……まぁ、少なくとも北国銀行としての銀行の活動自体はちゃんとしてるから問題はないものの……なんとも言えないわな」

(色々と黒い噂は耐えない……が、現状メリット、デメリットを比較するとメリットが上回ってる。それにうれしい誤算だが、このまま璃月の必要悪として活動し続けてくれるのであれば文句は特にないし、少なくとも今の所は彼らの主導権はこちらが握り続けてる。おまけに万が一の際の保険も何重に掛けてるし、そして璃月には、煙緋さんや刻晴の奴、それに凝光さんや姐さん、そしてなによりも自分達の璃月には自分達の千岩軍だけでなく、岩神である岩王帝君に仙人達もいる)

 

瞬詠は心の中で思う。

 

「……まぁ、ディルック。少なくとも今のところ、お前さんの求めてるような情報とかは自分は聞いてないな。ただ、そうだなぁ……」

 

瞬詠はそう言うと何かを思い出そうとするように視線を上げる。

 

「ふむ、どうした?」

 

「あぁ、うん。確か、っ!?」

 

瞬詠は何かを言おうとすると、直ぐ様何かを感じ取ったのか、カウンターの中に飛び入り、ディルックの足元でしゃがみこみながらカウンターの後ろに隠れた。

 

その直後。

 

「ほぉ、ここが、モンドのエンジェルズシェアか」

 

「任務でモンドに来てなければゆっくりと味わいたかったな」

 

「おや、今日は珍しくディルックさんがいるじゃないか」

 

「珍しいな、いつもならチャールズがいるのに」

 

エンジェルズシェアの中に複数の瑠月の千岩軍の兵士とモンドの西風騎士団騎士の面々が入店してきた。

 

「……っ」

(嘘だろ!?まさか千岩軍と騎士団がこのタイミングで来るなんて!)

 

隠れた瞬詠は心の中で叫ぶ。

 

「ホフマン、それにゲイルか。騎士団は仕事中じゃないのか?」

 

ディルックの足下で縮まる瞬詠に対して、ディルックは腕を組ながら入ってきた二人の男に話しかける。

 

「あぁ、いや違います。ディルックさん、確認したいことがありまして」

 

「ここに璃月の服装を来た人とかは来たりしませんでしょうか?」

 

騎士団のホフマンとゲイルはディルックに問いかける。

 

「……いや、今のところは来てない。どういう奴だ?」

 

「はっ、黒い髪に灰色の髪が混じった男です」

 

「灰色の服装をしてます。何か心当たりはありますか?」

 

千岩軍の二人はディルックに向かって答える。

 

「いや、悪いが知らないな」

 

「そうですか。失礼しました」

 

「邪魔してすみませんでした」

 

「あぁ」

 

ディルックは頷くと千岩軍の二人と騎士団のホフマンとゲイルがそのまま店を出て行った。

 

「……ふぅ~危なかった」

 

瞬詠は立ち上がると、額の汗を拭う。

 

「……」

 

ディルックは無言でジト目で瞬詠を見つめながら、水を差し出す。

 

「……瞬詠、君はそろそろ店から出たほうが良い。少なくとも騎士団と共に行動をしているという事はファルカ大団長が璃月の使者に協力しているかもしれない。僕はまだ詳しくは知らないが、ちょうど近々に騎士団は大規模な遠征を控えていたから、もしかしたら騎士団の動きや連携等を確認する、それらの最終確認としてはこの出来事は十分すぎる機会と理由になる」

 

「あぁ、そうだな。……っ、とりあえず出ていく」

 

瞬詠は一気に水を飲みほして酔いを醒ます。そしてカウンターから出て、後ろに振り返ってディルックの方を見た。

 

「……ディルック」

 

「なんだ?」

 

「……すまん、迷惑をかけたな」

 

瞬詠は申し訳なさそうな表情をしながら頭を下げる。

 

「……気にすることはない。それに、あの時は君が隠れてやり過ごそうとしてくれなければ、今頃捕まっていただろうからな」

 

「あぁ、ありがとう」

 

瞬詠はそう言うと、そのままエンジェルズシェアの裏口から外に出た。

 

 

 

 

 

■■■

 

「おいおい、いくら何でもやばすぎるだろうよ」

 

瞬詠は悪態をつきながら建物の影に身を隠す。そして、彼は周囲の様子を伺う。

 

「……はぁ、なんでこうなったんだよ」

 

瞬詠は溜め息をつく。だが、それも無理はない。なにせ、彼の周囲には多くの璃月の千岩軍、そしてモンドの西風騎士団の面々が共に行動していたからだ。

 

「……はぁ」

 

瞬詠は溜め息を吐き、そして再び周囲を見渡す。

 

「にしても、こりゃまずいな……。どこを見ても千岩軍の兵士と西風騎士団の騎士だらけじゃねぇか……」

(刻晴の奴め。これじゃ、まるで本当に俺が璃月で大罪を犯した大悪人のような感じになってるじゃねえか)

 

瞬詠は心の中で呟く。そして、頭を掻きながら空を眺める。

 

「はぁ、こりゃあ地上からここを脱出するのは絶対に不可能だな。少なくともこの様子だとモンド城の正門や橋には千岩軍と騎士団との共同の検問が敷かれていてもおかしくないし。このシードル湖を泳いで脱出したとしても対岸で先回りされて捕まるがオチ……ならば、っ!!」

 

その瞬間、瞬詠は城壁を駆け上っていき、モンド城の城壁の上に立つ。

 

「……」

 

城壁の上に立った瞬詠は周囲を確認する。幸いにも瞬詠の周辺には西風騎士団の騎士や千岩軍の兵士がおらず、誰もいない状況だった。

 

 

「…よし、どうやら運が良かったみたいだ」

 

瞬詠はほっとしたような表情をする。そしてすぐに真剣な表情を浮かべた。

 

彼の視線の先にはシードル湖のどこまでも広がる大きな湖。そして、彼は空気の僅かな変化を意識していた。

 

「……」

 

彼の周りに優しい風が流れる。シードル湖の水面は穏やかな波を立つ。

 

「……」

 

彼は目を閉じる。

 

 

彼の瞼の裏にはどこまでも広がる青い海に青い空、自分の周りに付き従う帆に前に進めるためのオールに武装された帆船達。そして、瞬詠が乗る周りの船よりも、一回り大きな船の上で周りには屈強な男達等がせわしく動き回り、そして瞬詠の隣にはその武装船隊の旗艦の船長である眼帯を掛けた女性が豪快に笑っていた。

 

___姐さん、来ました!!行けます!!行ってきます!!

 

___おう!!行ってこい!!瞬詠!!しっかりと見つけてくるんだぞ!!全員!!瞬詠の目の前にある邪魔な物を全てどけろぉっ!!これから瞬詠も空から探すぞぉっ!!

 

「……っ!!」

 

彼は瞼を開ける。シードル湖の水面の波と風が横なぎに吹いていた。

 

「っ!!あそこにいるのは!?」

 

「いたぞ!!例の男だ!!」

 

「取り押さえろ!!」

 

その時に城壁に西風騎士団の騎士と千岩軍の兵士が現れ、彼を見つけて走り出す。

 

「…行きます」

 

瞬詠は独りでに呟くと駆け出し、そのまま城壁から飛び降りる。

 

「…っ!!」

(今だ!!)

 

次の瞬間、彼の背中に翼が現れる。その翼は黄色を基調としており、所々に目立つような金色の装飾が施された美しい鳥のような羽のような風の翼であった。

 

「っ!?飛び降りたぞ!?」

 

「滑空しても無駄だ!!どのみちシードル湖に落ちるだけだぞ!!」

 

「滑空した後に泳いで逃げる気か!?」

 

滑空していく瞬詠を見た西風騎士団と千岩軍の兵士の面々は驚きの声を上げる。

 

「……っ!!」

 

そして、湖の水面ギリギリを飛ぶ瞬詠は顔を空に上げる。

 

 

その瞬間。

 

 

「ぐっ!?」

(この感覚、本当に久しぶりだな!!)

 

突如、瞬詠の真下に強烈な上昇気流が生まれてそのまま急上昇していく。そして、瞬詠は凄まじい勢いで上空へと舞い上がっていった。

 

「……よし」

(ここまで来れば、暫くの間は大丈夫だ)

 

瞬詠は下を見る。先程までいたモンド城が小さくなっており、城壁にいた騎士団と兵士達は完全に慌てていた。またモンド城のあちこちから瞬詠を発見したことを意味するのだろうか、あちこちから鐘の音と法螺貝のような音が響き渡っていた。

 

「……さてと、さっさとトンズラするか」

 

「瞬詠!!待ちなさーい!!」

 

「っ!!」

 

その瞬間、瞬詠は目を見開き聞いたことのある声がした方を見た。

 

「おいおい!?もう勘弁してくれよ!?」

(来るのが早すぎるだろうって!?)

 

瞬詠は翼を翻して急旋回しつつ、進路を取りながら彼女を見る。

 

瞬詠の視線の先には赤いリボンを身につけた全体的に赤い格好の茶髪の少女、西風騎士団の偵察騎士の“アンバー”が風の翼を広げて、瞬詠と同じように上昇気流に乗りながら瞬詠と同じように高度を上げつつある光景であった。




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