玉衡の元から逃亡したら千岩軍が追いかけて来ていた件について 作:久遠とわ
今回は前回のノエル&クレーとヒルチャール暴徒戦から、レザーの大剣や鉤爪、そして神の目を求め、それを手に入れるきっかけとなった出来事の丁度半分辺りまでです。
尚、今回も考察ネタ・オリジナル要素に設定等が(ファルカ大団長、その他関連で)ふんだんに発揮されております。
また、前回投稿した『狼少年の追憶、そして道標となった騎士達の姿の件について』ですが、今回の投稿に合わせてノエルの描写を若干変更しました。(『不屈』と『覚悟』の2つから、『信念』を加えた3つという部分)
余談ですが、この作品も遂に10話に達してかなりの分量になりました。今は若干グダグダな展開になっていますが、それでも多くの方がお気に入り登録してくださってありがとうございます。
ほぼ一発ネタから始まり、書きたいものをAIと協力しながら書き上げるというスタンスで進めて参りましたが、これからもスローペースになりますが、ゆっくりと確実に進めて行き、まずは第二幕を最悪でも今年中に完結に持っていきたいと思います。
「くっ」
「っ」
ノエルとクレーは目の前に佇むヒルチャール暴徒の些細な挙動も見逃さず、それぞれ構える。周囲の状況は多少は良くはなってはいるものの、未だに大混乱に陥った商人達や一般人達等の避難が済んでいない状況だ。万が一にでも、このヒルチャール暴徒の興味や関心が自分達では無くて避難中の他の商人達や一般人達に向かってしまった場合は甚大な被害が出る可能性がある以上、二人はここでこのヒルチャール暴徒を釘付けにする必要があった。
そして、それは同時に周囲の人達を守ることに繋がるからだ。
「ボッフゥッ!!ボッフォッ!!」
だが、幸いにも巨大な斧を持つヒルチャール暴徒の興味はノエルとクレーにしか向いていないようで、二人に威嚇するように吠えながら二人を観察するようにじっと見つめていた。
「っ」
ノエルは小さく息を飲み、そしてノエルは大剣を構えたまま深呼吸をする。
ヒルチャール暴徒の威圧感か、それともこれからこの獰猛なヒルチャール暴徒と戦うという緊張感からか、額には僅かに汗が流れておりその緊張度合いが窺えた。
「…っ」
またクレーの周りに自身の本が漂っているクレーもクレーで、周囲の様子に気を配りながらもヒルチャール暴徒から視線を外すことはせず、事が始まればいつでも攻撃が出来るように準備をしているようだった。
「…ボッフォッ!!」
そして、遂に戦いの火蓋が切って落とされたのか、ヒルチャール暴徒は雄たけびを上げながらその場を跳んでノエルとクレーに巨大な斧を降り下ろす。
「っ!?」
「っ!!」
ノエルとクレーの二人は飛び降りてきたヒルチャール暴徒の釜を回避するように、それぞれ左右に分かれるようにして回避する。
「ボッフォォォッ!!」
「っ!!」
「クレー先輩!?」
斧を回避された着地したヒルチャール暴徒はそのままクレーの方に顔を向けると同時に、クレーに対して巨大な斧を薙ぎ払う。
「ほっ!!」
クレーはヒルチャール暴徒が振るった斧をぎりぎりで避けきりながら、ヒルチャール暴徒から距離を取る。
「ボッフゥ!!ボッフォ!!ボォッフォッ!!」
だが、ヒルチャール暴徒は距離を取ったクレーを追うように、何度も執拗に巨大な斧を振るい続ける。
ヒルチャール暴徒にとって、先ほどのノエルから引き離すために、クレーの赤い魔法陣から照射されたレーザーのような攻撃がよほど脅威だと判断したのか、ノエルよりもクレーの方が無視できない脅威であると認識してしまい、ヒルチャール暴徒はクレーのことだけを狙い続けていた。
「よっ!!ほっ!!はっ!!」
そして、その猛攻を受けているクレーは次々と振るわれるヒルチャール暴徒の斧を次々と回避していく。クレーが幼女であるが故にヒルチャール暴徒にとって狙いづらいためか、それとも『火花騎士』という称号を持つ者の実力なのか、ヒルチャール暴徒の攻撃は全くと言っていい程にクレーには当たらずに、クレーはその身のこなしだけでヒルチャール暴徒の攻撃を見切っているかのように、最小限の動きで攻撃をかわしているように見えた。
「やぁっ!!」
そして、ヒルチャール暴徒とクレーの間を横やりするように、ノエルは大剣をヒルチャール暴徒に叩き込む。
「ボフッ!!ボフォッ!!」
「うわっ!?」
だが、ノエルの大剣はヒルチャール暴徒に何発も命中したものの、打ち込みが悪いのかヒルチャール暴徒にはほとんどダメージが通っていないように見える。
しかし、それでもヒルチャール暴徒の注意を引くことぐらいは出来たようで、ヒルチャール暴徒はノエルに斧を振り回した。
「ほっ!!よっ!!」
「ボッフォッ!?」
そしてその瞬間、クレーが丸い物をヒルチャール暴徒に投げつけると、ヒルチャール暴徒に投げつけたそれが爆発して、爆発の衝撃によりヒルチャール暴徒の巨体が宙に浮いた。
「っ!!」
ノエルはその隙を逃すまいと、ヒルチャール暴徒の懐に飛び込んで思い切りヒルチャール暴徒の腹に大剣を打ち込んでそのまま押し切って、ヒルチャール暴徒を弾き飛ばした。
「ボッフォッ!?ボォッフォッ!!」
そして、ノエルに吹き飛ばされたヒルチャール暴徒はそのまま地面に転がりながらも即座に態勢を立て直して、ノエルに突っ込んでいく。
「くっ!!」
ノエルは突っ込んできたヒルチャール暴徒に驚きつつも、冷静にヒルチャール暴徒の突進や斧を避けつつ、カウンター気味に攻撃を叩きこむ。
「ボッフォッ!!」
「くぅっ!?」
だが、ノエルの放った一撃がヒルチャール暴徒の身体に当たるものの、やはりと言うべきか、ヒルチャール暴徒の体力をそこまで削れてるようには見えず、更にはヒルチャール暴徒もノエルの動きは見切り始めたのか、的確にノエルの攻撃を防いで反撃したり、斧を振り回してノエルに圧を掛けたりとノエルの行動を制限し始める。
「ほっ!!やっ!!」
「ボフォッ!?」
そしてノエルが行動の制限を受けつつある中で、クレーは軽やかかつ俊敏な動きで自分に振るわれるヒルチャール暴徒の斧を回避しつつ、時折ヒルチャール暴徒に向けて丸い物を投げつける。
すると、その度にヒルチャール暴徒の身体が爆発し、ヒルチャール暴徒はたまらないのか悲鳴を上げながら、クレーにも斧を振り回す。
「はっ!!ほっ!!そんなんじゃクレーを捕らえられないよ!!ジン団長と比べたら全然遅いもんねぇー!!」
「ボォォッフォォォッッ!!」
クレーはヒルチャール暴徒の斧を回避しながら、ヒルチャール暴徒を煽るように叫ぶ。そしてその言葉をヒルチャール暴徒は理解したのか、ヒルチャール暴徒は、このくそガキがぁ!!、とでも言うようにノエルを無視してクレーに向かって斧を振るい続けた。
「ボッフゥ!!ボッフゥ!!ボッフウゥゥ!!」
「ほっ!!よっと!!やぁっ!!」
クレーはヒルチャール暴徒の攻撃を回避し続ける。
「ふぅっ!!やぁっ!!」
そしてノエルも無駄だとは分かっていても、大剣をヒルチャール暴徒に振り続ける。
「ボォッフォオオオオッ!!」
「よっ!!ほっ!!はっ!!」
ヒルチャール暴徒はノエルを無視することに決め込んだせいか、ノエルが攻撃しても反撃することなく無視をしながら、クレーだけを狙って攻撃し続けていた。
そして、クレーもヒルチャール暴徒の攻撃を紙一重で回避し続け、ヒルチャール暴徒を煽り続ける。
だが、その時であった。
「ほっ!!っぁ!?」
ヒルチャール暴徒の斧を跳んで回避して着地した際に、クレーは足を滑らせてしまって転倒してしまう。
「ボォッフゥ!!」
そしてその隙にヒルチャール暴徒はクレー目がけて、巨大な斧を振るう。
「あぁ……っ!!」
「ボッフォッ!!」
ヒルチャール暴徒の斧がクレーに迫る。
「させませんっ!!」
「ボッフォッ!?」
そこにノエルが斧とクレーの間に割り込んで、ノエルは大剣を構えながら力むと同時にノエルの周囲に茶色いシールドが展開される。
「ボォフォッ!!」
「っ!!」
ノエルのシールドはヒルチャール暴徒の斧を受け止めることには成功する。しかし、ノエルはヒルチャール暴徒の斧の威力を抑えきれずにじりじりと押されていく。
ヒルチャール暴徒の斧の勢いが強くて、ノエルの足は地面から離れていきそうになる。ノエルはそのことに焦りを感じつつも、どうにか踏ん張って耐えきろうとする。
「ボホォッ!!ボフォォッッ!!」
「くっ!?」
更にヒルチャール暴徒はノエルのシールドを破壊しようと斧に力を籠める。ノエルの表情に段々と余裕が無くなっていく。
ノエルは歯を食いしばりながら必死に堪えるが、このままではノエルのシールドが破壊されてしまうだろう。
「ボフォォッ!!」
「っ!?」
そして、ノエルのシールドにヒビが入り始める。
「ノエルお姉ちゃん!!」
クレーはノエルの背中に向かって叫ぶ。
「っ!!…私は大丈夫です!!絶対に守り切ります!!」
ノエルは叫んだ。しかし、その時であった。
「ボフォォッ!!」
「くっ!?」
ノエルのシールドが破られ、ヒルチャール暴徒の斧がノエルに差し迫る。
「ぁぁっ!?」
「っ!?」
クレーは叫び、ノエルは目を見開く。
「私は…まだ、皆様を___」
ノエルは何かを呟く。
刹那、ノエルの意志に呼応するかのように、ノエルの神の目が盤石の色の如く、銅のようなあかがね色の輝きを放ち始めた。
ヒルチャール暴徒がそのままノエルに斧を振り下ろそうとした瞬間、ノエルの周囲に黄金の粒子のような物が溢れ出し、その粒子はノエルの大剣へと集まっていき、大剣が粒子を吸収して凝集するように大剣が光輝いていく。
「ボフォッ!?ボフォォッ!!」
ヒルチャール暴徒は目の前でノエルに何が起きたのか理解できず、僅かに動きが鈍る。しかし怯むほどではなかったようでそのままノエルに斧を振り下ろす。
「やぁっ!!」
ノエルは大剣を振るう。
「ボフォォッ!?」
ノエルの大剣とヒルチャール暴徒の斧がぶつかり合い、ヒルチャール暴徒は衝撃に耐えきれず斧ごと弾き飛ばされる。
「ノエルお姉ちゃん!!」
「ここは私に任せてください!!」
ノエルは自身の背中にいるクレーに向かって叫ぶと同時に、盤石の力を凝集した大剣を横に薙ぐ。
「やぁあああっ!!ふぅうっ!!たぁあっ!!」
「ボッフォッ!?ボフォッ!?ボホォァッ!?」
ノエルは大剣を振るった。すると、大剣から黄金に輝く斬撃がヒルチャール暴徒に叩きつけ、ヒルチャール暴徒は後退しながらダメージを負っていく。
そして、ノエルは今までの仕返しと言わんばかりにヒルチャール暴徒を追撃し、ヒルチャール暴徒が体勢を立て直す前に斬りかかり、ヒルチャール暴徒はノエルの猛攻に対応できず、そしてノエルの振り上げた大剣をもろに喰らってしまう。
その一撃によってヒルチャール暴徒は吹き飛ぶ。
「っぅ!!行けぇ!!」
そしてヒルチャール暴徒が吹き飛んで宙に上がると、クレーが右手を上げると同時にクレーの周りを漂っていた本のページがぴたりと止まって、先ほど放った時と同じクローバーの形をした赤い魔法陣がクレーの頭上に現れる。その次の瞬間、クレーの上空に出現した赤いエネルギーが渦巻き始め、そしてクレーの手がヒルチャール暴徒に向けられると、ヒルチャール暴徒に向けて一直線に伸びて行き、それがヒルチャール暴徒に直撃する。
「ボッフォッ!?ボフッ!?ボフォ!?ボフォッ!?」
その攻撃はヒルチャール暴徒に大ダメージを与え、それだけでは終わらずにヒルチャール暴徒は木々をへし折りながら吹っ飛び、やがてそのまま地面に落下すると共に勢いそのままに地面を転がっていく。
「ボフッ…ボフォッ」
そしてようやく地面を転がっていたヒルチャール暴徒が止まると、身体からは白い煙が立ち上り、ヒルチャール暴徒は立ち上がるそぶりを見せる。だが、ヒルチャール暴徒はフラついていて今にも倒れそうであった。
「ふっ!!はっ!!ノエルによくもやってくれたわね!!」
「ボフォッ!?ボフゥッ!?ボフォァッ!?」
刹那、そのフラついているヒルチャール暴徒の元にエウルアが大剣を掲げながら駆け寄り強襲する。ヒルチャール暴徒は強襲してきたエウルアの前に斧を構えるが、エウルアは構わずにヒルチャール暴徒に突進し、そのまま猛攻を浴びさせていく。
「「ぇっ!?」」
ノエルとクレーは目を丸くして驚き、そしてそのまま周囲を確認する。
「二人とも大丈夫か!?」
「だ、旦那様…」
「っぅ、何とか大丈夫です」
ノエルが守ろうとしたアカツキワイナリーの者達二人はディルックが駆け寄り、二人の様子を確認しつつその場から退避させようとしていた。
「ここは危険です!!落ち着いて清泉町の方に避難してください!!」
「落ち着いて!!慌てずにお願いします!!皆様方の安全は我々西風騎士団が保証しますので!!」
「はい!!分かりました!!」
「騎士団さん!!ありがとうございます!!」
「落ち着いて避難してください!!大丈夫です!!…よし!!これで何とかなりそうだ!!」
「団長!!一般人達の避難は間もなく無事に終了します!!」
「分かった!!このまま避難の継続と周囲の警戒を!!また一般人の中で混乱の際に怪我した者がいる場合は清泉町にて簡易的な治療!!そして、重度な怪我の可能性のある者はモンド城に連れて行き、そのまま教会まで搬送を!!」
「「「「はっ!!」」」」
またジンは騎士達に的確な指示を出しつつ、周囲の警戒をしていた。そして周囲で混乱していた一般人達も落ち着きを取り戻して避難を行い、残りの者達であるジンの指示を受けた騎士達が、歩けなくなった者達の応急処置や、彼らを背負ってを運び出したり、指示通りに更なるヒルチャール達の襲撃が来ないかを警戒していた。
「…ふぅ」
そして、その様子を見ていたノエルはホッと安堵の息を漏らす。
「「ノエル!!クレー!!」」
「アンバー先輩、アルベドさま」
「アンバーお姉ちゃん!!アルベドお兄ちゃん!!」
そしてそこにアンバーとアルベドが駆けつける。
「クレー、大丈夫かい?それにノエルは?」
「ノエル!!クレー!!大丈夫!?」
「うん!!クレーは大丈夫だよ!!」
「アンバー先輩、アルベドさま、私は大丈夫です。ありがとうございます」
アルベドが心配そうな表情を浮かべながらクレーとノエルに声をかけ、アンバーも二人の身を案じるように声をかける。そしてノエルは感謝するように微笑みかけ、三人はそれぞれ無事を確認し合うように互いの安否を確認する。そしてノエルはエウルアとヒルチャール暴徒の方に視線を向けた。
「ボフォッ……」
「ふぅ……どうやらこれで本当に終わったようね」
エウルアは完全に倒れ伏したヒルチャール暴徒、また周囲に他のヒルチャール達が居ないことを確認すると一安心したのか大剣を背中に仕舞い込む。
「…良かったです」
「…良かったぁ」
ノエルはエウルアの様子を見て胸を撫で下ろし、クレーは心の底から嬉しそうに声を上げた。
「…」
そしてクレーが崖から駆け降りてから全ての顛末を見た崖の上にいるレザーは、どこか安心したかのような表情を浮かべつつ、何かを考えるかのような様子を見せていた。
◆◆◆
「…」
月光の夜空が広がるとある日、青白い光が草原を照らすその場所、奔狼領に隣接しているとある高台の草原にて、レザーが一人岩に腰掛けながら、目の前に広がる景色を眺めていた。
「…」
だが、レザーのその瞳には特に何も映っておらず、ただボーっとしているように見え、また彼は何かを考えている。もしくは何かに悩み続けているように見えた。
「よぉ、坊主。久しぶりだな。こんな所に一人だとは珍しいじゃないか」
「…ファルカ」
レザーは背後から近づいてきた気配に気づき、振り返るとそこには西風騎士団の大団長、ファルカが立っていた。
「隣良いか?」
「…ん」
ファルカはそう言いながらレザーの隣に座る。
「…坊主、どうした?いつもなら『ルピカ』と共にいるはずだが。こんな所に一人でいるなんて…レザー、お前らしくないじゃないか?」
「…」
隣に座ったファルカは不思議そうに問いかけるが、しかしレザーは何も答えず黙っていた。
「まあ、いいか。別に『ルピカ』に追い出されたり、喧嘩したわけでは無いんだろう?」
「…」
レザーは無言で俯きながらも、同意するように小さく首を縦に振った。
「そうか、妙な心配をしたがそういう事ではないんだな…なら、良かった」
ファルカはそう言って頷くと、岩に腰掛けるのを止めて立ち上がる。
「…レザー…取り合えず、今すぐ___」
「…ファルカ!!」
「___っ!?…うん?どうしたんだ?レザー?」
ファルカはレザーに何かを言おうとしたが、そこに何かを決心したレザーが突然大声で彼の名を叫んだ。
「…オレに教えてくれ」
「…?何をだ?」
レザーは真剣な眼差しで、どこか決意を込めたような口調でファルカに問いただした。
「オレ、人、なのか?それとも『ルピカ』と同じ狼なのか?…そして、強くなるには、西風騎士団の、あの騎士達、あの日のクレーやノエル、ディルックやジン、アルベドやアンバーと言った騎士達、そして大団長、ファルカ、オマエみたいな強さを得るには」
「……何があったか知らないが、どうしてそんなことを、そして強くなりたいと思ったんだ?」
ファルカはそんなレザーの質問に対して、まず理由を問う。
「それは…」
レザーは口籠る。だが、直ぐにその理由を口にする。
「……オレ、弱い、いつも、『ルピカ』達の足を引っ張っている」
「……ふむ」
「オレ…狼じゃない、だから狩りの時にはいつも『ルピカ』達の足を引っ張る。かといって人らしく振る舞う事も出来ないし、人、それをよく知らないし分からない。オレ、中途半端。それに…」
レザーはそう言うと悲しげな表情を浮かべながら、言葉を続ける。
「オレ、何度もヒルチャール達に襲われている『ルピカ』達を助けようとした…だけど、その度に他の『ルピカ』達の邪魔になったり、オレ、逆にオレがヒルチャール達に襲われる。オレ、ルピカを守れない、守られる、守られ続けている。オレ、役立たず」
「……」
レザーはそう言い切ると、どこか悔しげに拳を強く握り締め、そして歯噛みをした。
「……それで、強くなりたいと?」
「……あぁ。オレ、あの日見た。西風騎士団の騎士達、そしてその西風騎士団を率いているファルカのような力を、ヒルチャール達を圧倒することが出来るほどの力を。そして『ルピカ』達を守ることが出来るほどの力を!!」
レザーはそう言い切ると、まるで懇願するかの様にファルカを見つめた。
「……そうか、坊主、お前はそう考えていたのか」
ファルカはレザーの話を最後まで聞くと、腕を組みながら考え込む。
「坊主。いや、レザー……。お前が『ルピカ』を守りたいという気持ちは分かった。……だがその上で、敢えて言っておく…力を求めて努力したとしても、誰もが俺達のような力を得られるとは限らない、それに『神の目』が無ければそもそも元素の力を操ることすらできない」
ファルカはそう言いながら、自身の氷の神の目を手に取る。
「…分かってる」
そしてファルカのその言葉を聞いたレザーは、どこか残念そうな様子を見せる。
「…『人は”守るべきもの”があると強くなれる。そして、何が起きても”決して諦めないという覚悟”を決めた時に、人には想像を絶する力が宿る。そうして、どんな困難にも陥った時でも、”自分がやる”と決めたのならば、その瞬間から何事にも負けない力を持つ』」
「…ファルカ?」
ファルカはまるで自分に言い聞かせるかのように、何かの詩のような一節を口にした。
「ははは…レザー。これは、俺の先代の大団長、そして俺の知り合いのとある璃月人、いや’あんちゃん’は璃月人というか、璃月に住んでいて、そして璃月七星の元で働かされている”あんちゃん”の言葉だ」
「…”先代の大団長”?そして、璃月の”あんちゃん”?」
ファルカはそう言って苦笑すると、レザーにそう言った。
「ああ。…坊主、俺の昔話に興味があるか?俺がこんな役職に付くまでの、そして俺が神の目を手に入れた時の事を聞きたいか?」
「…あぁ、聞きたい」
ファルカの問いかけに対して、レザーはすぐに肯定の意を示すように首を縦に振った。
「あぁ、分かった。そうだな、簡単に説明すると…そうだな」
ファルカはそう言うと、どこか昔を懐かしむような遠い目をしながら語り始めた。
「__俺はな。元々騎士団じゃなくて冒険者にでもなろうかとも考えていたんだ」
「……そうなのか?」
ファルカの口から語られた衝撃の事実に、レザーは思わず目を丸くした。
「あぁ、そうだ。冒険者になって、様々な宝を手に入れたり、様々な所を旅してみたり、そして七国を見て回ったりしたいと考えていた。…だが、俺の親父が、騎士団の人間でな。俺の親父は騎士団の中でも決して上の立場という訳では無かったが、それでも一人の西風騎士団の騎士として立派な人物だった。だから、そんな親父の姿を幼い頃から見ていたせいなのかは分からないが……気が付けば、俺も騎士になる道を選んでしまっていた…亡き親父、最後まで西風騎士団の騎士として、強き者達を挫き、弱き者達を守り続けるという、それを最期まで貫き通し続け、最終的には西風騎士団の一人の騎士として殉職した親父が残した手紙…親父の遺言に書かれていた言葉に従ってな」
「……」
ファルカはそう言うと、自分の胸元に手を当てながらどこか寂し気に微笑み、レザーは真剣な表情を浮かべるとファルカの話を聞き続ける。
「だから、本当は冒険者になろうかと考えていたが、その親父の遺言に従って、西風騎士団に入団したという訳さ。それに、騎士団の活動を通じて宝盗団等の悪人達を捕まえて、その宝物を押収すればその宝物は騎士団の物、つまりは考えようによっては騎士団である俺の物になるという事にもなるから、まぁ悪い話じゃないと思ったんだ。…だが騎士団の人間として過ごしていた俺は気づいた。本当の宝物は宝石とやモラという類では無いという事を。…レザー、お前は何だと思う?」
「本当の宝物…?」
レザーはファルカの質問に考える。だが、その問いの答えが出ず、首を傾げた。
「ファルカ、分からない。なんなんだ、それは?本当の宝物は?」
「ははっ、それはだな。人々の笑顔だよ。何気ない日常の幸せ、酒を飲みながら馬鹿騒ぎする者達の笑顔、友人共に過ごしている時の幸せな笑顔、吟遊詩人達の紡ぐ物語を聞いている時の笑顔、恋人と共に居る時の幸福感に満ちた顔、家族と過ごす暖かで幸せそうな顔、夢を追いかけて頑張っている時の眩しい笑顔……。それこそが宝石やモラ等より本当の宝物、守るべきもの、守らなければならない宝物だと俺は思ったんだ」
「……人々の、笑顔」
レザーはファルカの言葉を聞いて、何かを思い出すかのように視線を落とす。
「あぁ、そうだ。そうして、それらを護る為に俺や俺達西風騎士団がある。例え何があっても、どんな困難にも陥った時でも決して諦めない覚悟と、自分達が必ず守り抜くのだという強い決意を抱いてな」
「…守るべきもの、決して諦めない覚悟、そして自分がやり遂げると決めたのならば、その時点からいかなる物にも負けない力を得られる…か」
レザーは呟く。そして、あの日の出来事、清泉町で人々を守ろうとした西風騎士団の者達と人々を襲おうとしたヒルチャール達、そしてあの場にいたノエルとクレーを思い出す。
「…」
ノエルのエメラルドのような綺麗な瞳に宿していた、決して一歩たりとも引かないという『不屈』という『覚悟』の意志に、ノエルの背中にいたアカツキワイナリーの者達二人を守るために、決して自ら敵うわけではないのにも関わらず、それでも決して折れる事のない固執の『信念』の元、勇猛果敢にも獰猛な巨大な斧を手にしていたヒルチャール暴徒に対峙し恐れることなく戦っていたノエルの姿。またクレーの燃えるような紅の瞳に宿していた、ノエルを必ず助け出すという強い『決意』の意志、また何かを間違えれば大変なことになりかねないにも関わらず、ノエルを助ける事に『執心』して、崖を駆け降りながらヒルチャール暴徒にレーザーを放ったり、ノエルと共にヒルチャール暴徒を相手取った勇気を見せて、幼いながらもノエルを守る事に『執念』を燃やしながら、勇敢に戦ったクレーの姿を。
「…成程」
レザーは納得したかのように小さく、そして力強く頷いた。
「あぁ、そうだ。そうして、騎士団に入団した後の俺は、騎士団の中で様々な任務をこなした。俺がしてきたのは主にモンド城内やモンド城外の見回り、盗賊団やモンドの治安を乱す悪人達の捕縛、また人々を襲っている魔物達やヒルチャール達の退治。それらをしてきたんだ。そして、そのような毎日をこなしていたら、俺の日頃の活動、特に悪人退治、それに魔物やヒルチャール等の退治関連が騎士団の中でも評価されたのか、俺は騎士団の中でいつの間にか隊長に抜擢されて、その役職に就かされていたよ。…俺は全く嬉しくは無かったけどな」
ファルカは苦笑しながらそう言った。
「ファルカが隊長に……」
「あぁ、そうだ。俺も最初は断ったさ。俺は親父みたいにモンド城内やモンド城外で見回りをして、そこに住んでいる人やそこで過ごしている人々を見守る仕事に就く事で、彼らを直接俺自身の手で守りたかったし、それに仕事をしながらそこの住民やモンドにやってきた商人達と面白おかしい話をするのが面白くて楽しみだったんだ。そんな仕事を辞めたくはなかったさ。…だが、騎士団の連中は、俺が普段から一人で遭遇した魔物達やヒルチャール達の集団の全てを殲滅をしてきたこと、それに悪人達全員を一気に捕らえた功績を高く評価してくれたようでな。それでそのような実力であるのだから、かつての俺の親父のような一般の騎士ではなく、隊長として騎士団を引っ張っていけるだろうと言われてしまったんだ。だが、俺としては正直勝手にそんな事を言われても困るし面倒くさかったから、毎回彼らに、いきなりそんな事を言われても困るし、俺は今まで通りに普通の一般の騎士と同じように人々を見守っていく方が性にあっていると言って、毎日拒否して断っていたんだ。だが……ある日の事だった」
「……ある日?」
「あぁ、その日、まさかの大団長、先代の大団長本人のあの人まで出てきて、更には先代の代理団長達まで出てきたものだから、流石にそこまでされたらもう断り切れなくてな。……結局、俺はその抜擢を受け入れざるを得なかった訳だ」
「……」
ファルカは肩を落として項垂れると、レザーはその話を聞いて思わず黙ってしまう。
「…そうして、その次の日から遂に騎士団の隊長になってしまった俺は……。まぁ、それからが大変だったな。今までのモンド城内やモンド城外の見回り、そして悪人や魔物退治とは違って、今度は西風騎士団本部で自分に割り当てられた部下の育成や管理、そして俺の隊の騎士達の命令や指揮等々……。まぁ色々とやって、周りの助けを得ながら何とかやってきて、その時に隊長として求められていた事をやりつつ、そして先代の大団長を見習って冷静沈着で物腰柔らかに振る舞い、合理的に物事を考え、そうして時には必要であれば、躊躇いなく俺の部下である騎士達に非情な判断を下して、わざと危険目に合わせる…そのような事をしてきたんだ」
ファルカは疲れ切ったように大きく溜息をついた。
「…ファルカ?」
「…いや、大丈夫だ」
レザーは心配そうな表情でファルカを見つめるが、ファルカは首を横に振った。
「まぁ、俺は本当は俺自身がやりたい事とは違う事をして、何とか頑張りながら、それこそ自分を偽りながらもやって来たおかげで…何を考えているのかが分からないと恐れられながらも、それでも他の者達から頼りになると思われて、信頼され、慕われているようになったさ。……何度も、自分自身を見失いそうになりながら、自分が何者なのかを忘れそうになりながら……だが、そんなある日のことだ」
「…どうしたんだ?」
ファルカはレザーの問いに対して、一瞬だけ辛そうに顔を歪める。しかしすぐにそれを振り払うかのように、ファルカは大きく深呼吸する。
「……俺が隊長になってから暫く経って、ようやく一人の隊長として認められてきた時のことだった。その時に先代の大団長である、あの人が急死したんだ」
「なに?」
レザーは驚いた様子を見せた。
「…死因は詳しく分からん。だが、急死する前の一か月前は遠征を行っていてその時に軽い怪我をしていたという事だ。それがきっかけであるんだと思う。…あんなに元気そうにしていたのに、突然に亡くなったと聞いた時は本当に信じられなかったよ。…あの人が亡くなる前日、俺はあの人と普通に世間話等をしていたのによ…はぁ、それに殉職という訳ではなくて、突然死だったという事も相まって騎士団にも酷く動揺が走り、モンド城だけでなくモンド中で大騒ぎになった。当然俺もその報せを聞いた瞬間に、自分の耳を疑ってしまったよ。そして、あまりにも衝撃的過ぎたのか、頭が真っ白になってしまって、しばらく何も考えられなくなってしまったさ」
ファルカはそう言うと、どこか遠くを見るような目つきをした。
「ファルカ……」
レザーは悲しげな表情を浮かべる。
「すまん。話が逸れたな。それでその後、俺が騎士団の隊長として出来る事は何かと考えたら、まずは混乱している自分の隊の騎士達を落ち着かせて纏める事だと考えて俺の隊の騎士達を落ち着かせた。そしてその上でそのまま先代の代理団長の指示に従って、何とかこの現状を立て直そうと思った。だが、肝心の代理団長も酷く動揺して混乱してしまったようで、まともに指示を出す事が出来ないでいたんだ。それでこのままでは本当に不味いと思って、俺は独断で俺の隊を独自に動かして、自分達なりの判断で行動を開始したんだ。…その時はまさかあの人がいきなり亡くなったとはいえ、こんな事になるとは思っていなかったから、俺もだいぶ焦っていたんだろうな。俺達はとにかく先代の大団長であったあの人の死によって騎士団全体が混乱してしまわないように、そしてモンド中が騒乱にならないように必死に頑張ったさ」
ファルカは自嘲するように笑みを浮かべて言った。
「ファルカ…凄いな……」
「いや、全然凄くは無いさ。…だが、結果としてそれは上手くいった。先代の大団長が死んだ事でモンド中は騒然となったが、それでも何とか騎士団が纏まり、またモンドの人々の混乱を最小限に抑えられた。そして全てが無事に終わって落ち着いた頃に、あの人の西風騎士団の組織再編や改革、そしてあの人の葬儀の準備が始まったが…」
ファルカはそこで一旦言葉を区切る。
「…あの人が亡くなった事で、あの人の代わりになる存在が必要だとなった。それで例年なら先代の大団長の座に、代理団長が就くはずだったんだが、あの人が亡くなった時に代理団長は動揺して混乱していたとはいえ、ちゃんと指示を出すことが出来なかった事。それに代理団長本来の役割である騎士団の統率を果たすどころか、そもそも代理として相応しい人物であったのかという指摘もあった事もあり、代理団長は責任を取らされて解任。そしてこのままでは西風騎士団を纏める者がいないという事で騎士団は頭を悩ませたかつ、また空いてしまった大団長の座や代理団長の座を巡って、それぞれの隊長達、またその他の騎士達が争うのではないかと恐れられたんだ…俺達は静観していたがな」
ファルカは真剣な表情でレザーに説明をする。
「そんな状況の中、とある日に騎士団達が先代の大団長の部屋の遺品整理をしていた時だった。その時、あの人の机の引き出しの中にとある手記が見つかったんだ。そうしたら、その手記の最後には何が書いてあったと思う?……その最後にはこう書かれていたんだ」
ファルカはレザーの方へ顔を向ける。
「『ファルカ、私と初めて会った時に比べて随分と立派に成長したものだ。正直、私の想像以上だ。それに彼は隊長に昇進し、遂に一人前の隊長になるまで時が経ったのにもかかわらず、相変わらず彼の瞳は真っ直ぐで曇りが一つも無く、その輝きは一切失われていなかった。やはり、私の目に狂いはなかったかもしれない。いつか、彼にこう言いたいものだ。‘ファルカ、好きにやれ。そして、私のやり方や考え方を真似る事、私と似たような振る舞いをするのもいい加減にやめるんだ。君の思う通りにやってみろ、君らしくな。そして、我らの西風騎士団を引っ張っていけ’……まぁ、今の彼が聞けば嫌がるだろうがな』……と」
ファルカはそこまで言うと、一度深呼吸をして言葉を続ける。
「…俺はそれを知った瞬間に酷く困惑した。なんて言ったってその時の俺は、俺が隊長であるが故、当時の不甲斐ない俺のせいで、万が一俺のせいで、部下である俺の隊の騎士達にまで迷惑を掛けてしまった事を考えると、とても怖かったんだ。だから俺は他の隊長達のやり方や考え方、そして騎士団の人間全員に認められていたあの人のやり方や振る舞いを見習って、決して俺の隊の騎士達に迷惑をかけないようにするために、それを実践していたんだ。…それこそ、隊長になってからは、なる前の本来の俺を偽りながらな。……なのに、あの人は俺に、俺の本当の姿を晒せと言ってきたんだ。その事に俺は酷く動揺してしまったよ。今までのを投げ捨てろと…」
ファルカは悲しげな表情を浮かべてそう言った。
「ファルカ……オマエ……」
「…それに、一部の隊長達や上層部の人間は俺の事を良く思っていなかったようで、あの手記の最後に書かれていた一文の内容は、実は嘘ではないか、俺が書いたものではないかと疑い、俺に激しく漫罵する者もいた。だから、俺自身も酷く悩んださ。あの人の遺言ともいえる言葉を無視すればいいのか、それともあの人の言う通りに従うべきかを」
ファルカは苦笑する。
「だが、結局のところ、そんな話はすぐに消えた。何故なら、そもそもあの手帳が入っていた場所には鍵が掛かっていて、その鍵が無ければ開けられない。そして、その鍵は生前のあの人が常に肌身離さず持っていたものなんだ」
ファルカはレザーの方に視線を向ける。
「つまり、あの人自身、あの人の意志で書いたことになる。その結果に、少なくとも他の隊長達は納得し、俺に対して暴言を浴びせた奴らは黙ったよ。それどころか、俺に暴言を浴びさせていた者達や非難していた者達に、逆に普通の一般の騎士達、それどころかモンドで俺の事を知っていた住民達や訪れていた知り合いの商人達が、その者達に対して激しく糾弾してくれたんだ。そして俺への罵倒は完全に止み、むしろその逆になってしまった。……そうして、それがきっかけで俺が大団長に就任することで話は纏まって、就任式の準備が始まったんだ。…そして就任式当日、俺が壇上に立って西風騎士団の騎士達の前で演説している最中…俺は、ようやく決断することが出来た」
「…決断?」
「あぁ、そうだ。決断だ」
ファルカは真剣な表情でレザーを見る。
「……俺は決めたんだ。あの人の遺志を尊重し、あの人の言う通り、そしてあの人の想いを引き継ぐことを」
ファルカは真剣な表情でレザーを見つめる。
「あの人の遺した言葉、それは俺自身の意志で俺の思うように、俺らしく西風騎士団を引っ張っていくという事。……それは俺の今まで振舞い、そしてこれからも振舞おうとした“西風騎士団の大団長という厳格な人物かつモンドの希望の象徴であるため、現実的で常に冷静、時には必要であれば非常な判断をする事すらする男”ではなく。それらを引き継いでもなお、継承しながらでもなお、自分の気持ちに素直になって、自分自身の意思で行動する。…つまり本来の俺である、俺がかつて憧れていた“少年の心を持ち続けた冒険者のように、時には隠された秘宝を探すために数多の危険を冒し、また時には弱い人や困っている人を助ける為に魔物達を討つような自由人でかつ、熱い心を持った男”、そのような理想的な自分を…な…」
ファルカはそこまで言うと、一度大きく息を吸う。
「それが、俺の答えだ。…これは、自分でも酷すぎる『二面性』や『矛盾』を抱えていると思った。だが、それでも俺は、そのそれらを受け入れて、自分を偽るのを辞めると決意し、俺は俺らしく振舞ってこの西風騎士団を引っ張って行ってやると『決断』したんだ。俺の話を聞いている騎士一人一人の顔を見ながらな…そうして、騎士達の前で演説を終わらせようとしたら…」
ファルカはそこで区切ると、自身の”神の目”を手に取った。
「…そうしたら、何故か分からないし、何が起きたのかはさっぱり覚えてない。だが気づいたら、いつの間にかこの”氷の神の目”が俺の手から現れていて俺はそれを握っていたんだ…それが、俺の昔話。俺がこんな役職に付くまでの、そして俺が神の目を手に入れるまでの経緯だ」
「…成程」
レザーはファルカの話を聞き終えると、頷いて何かを考え込むように腕を組む。話を聞いていて何か思うところがあるのか、少し難しい顔をしていた。
「…ファルカ、ありがとう。…ファルカは、先代の大団長のその人に会いたいか?」
「あの人か?あぁ、もちろんだ」
ファルカは即答した。
「会えるなら会いたい。俺が今の俺、最終的に大団長となった俺をここまで導いてくれた人とも言えるし、あの人は俺の師とも言える。それにあの人にはしっかりとお礼が言えてないし、色々と言いたいことや話したい事もあるからな。…もしも、出来るならば死んでしまったあの人にもう一度会う事が出来るなら、あの時言えなかったことを伝えたい…」
ファルカはそう言いながら空を見上げた。
そして、その時であった。
「なるほど。ならば、我々が貴様をその人の元に送り届けてやろう」
「っ!?誰だ!?」
「っ!?…ほぉ」
突如、どこからともなく男の声が聞こえてきた。
レザーが警戒するように声を上げると、ファルカは驚いたように周囲を見渡し、そしてどこか感嘆するような声で呟く。
「…アビス教団か?」
ファルカはその男の声に問いかける。
「如何にも」
ファルカの言葉に対し、男は肯定する。
すると次の瞬間、ファルカとレザーの目の前に、深淵のような紫色の空間が現れ、そこからその男の声の主、その者達が現れた。
「…ようやく、ようやくこの機会が訪れた」
「…我々はこの時を、ずっと待っていた」
「…西風騎士団大団長、ファルカ。覚悟しろ」
「…我ら、アビス教団が貴様の最期に相応しい名誉ある死を与えてやる」
姿を現した者達の姿。それは、まずその男の声の主の前や斜め前に浮遊する杖を手にしたアビスの炎、水、氷、そして雷の魔術師達がファルカとレザーを見据え。
「ンゥゥッ…!!」
「ンォォッ…!!」
そして男の声の主の真横に立つ、まるで大地を震わすような唸り声を上げながらファルカとレザーを見つめる、その身に豊富で不動な岩元素エネルギーを蓄積し続けた事によって巨人化したかのようなヒルチャールと、その身に莫大で霹靂のような雷元素エネルギーを累積し続けた事によって巨大な肉体と化したヒルチャール、それぞれヒルチャール・岩兜の王とヒルチャール・雷兜の王が、まるでファルカとレザーを睨みつけるかのように見下ろし。
「「ボフォォッ…!!」」
「「ブフォォッ…!!」」
そしてその二体の王者達のヒルチャールに付き従うように斜め後ろに控えている、それぞれ巨大な斧を手に持った二体のヒルチャール暴徒と、大きな盾を手にした二体のヒルチャール暴徒が雄たけびを上げながら、見つめ。
「…大団長、ファルカ。我ら、アビス教団の妨げとなる者よ。まさかこんなところ、一人でいる時に遭遇するとは思わなかったが……お前には、我らの崇高なる計画の為、今ここで朽ち果てて貰う」
最後に、その男の声の主である物々しい全身鎧の騎士風の出で立ちをした人形の異形の怪物の姿をしたその者、アビスの使徒がファルカにそう宣告を行った。
「…成る程、お前か。ヒルチャール達を操って俺達のモンドを襲わせていた張本人、というわけか」
ファルカはそう言いながら、アビスの使徒を見つめる。
「そうだ。それは、我らの復讐のため。その為の我らの計画を実行するため。それらは、この七神の支配するこの世界を打倒するため…そうして!!」
アビスの使徒はそこまで言うと、一度区切る。
「我らにこのような屈辱を味合わせてくれた、全ての元凶である『天理』を下し!!そして奴の定めたこのテイワットの理を根底から覆す!!言うなれば、この愚かな『テイワットシステム』を完全に破壊するためだ!!」
アビスの使徒は、まるで己の目的を語るように叫んだ。
「…お前の言っていることは、さっぱり分からん」
それに対してファルカは、アビスの使徒の言葉を一刀両断する。
「ふんっ、そうだろうな。七神の庇護下にあるお前達、そしてのうのうとその理という檻の中で生きている、愚か者達には何も分かるまい」
「檻か…そうだな、お前の言う通り俺や俺達には、お前の言っていることは全く分からないし、理解できない。…だが、一つだけ分かった事、そして理解できたことがある」
「…ほぉ?何だ?」
「あぁ、それはだな。お前の言う『天理』や『テイワットシステム』が何なのかはよく分からん。だが、お前達がその計画のために、この世界に復讐する為に、今を生きている俺達を害しようとしていることだけははっきりと分かった」
「…ふっ、愚かだな。まぁ、今を生きている貴様らにとっては、何の理由もなく害されようとしていると思われても仕方がない。だが、我々の数百年の屈辱や雪辱を晴らすには、それ相応の犠牲が必要なのだ」
「相応の犠牲か…はんっ、そのために俺達、俺達のモンド、いやそれどころかこのテイワット大陸をヒルチャール達やアビス教団が活動、暗躍していたという事か」
「その通りだ」
アビスの使徒はファルカの言葉に同意するように答える。
「…っ」
そして、ファルカとアビスの使徒が話しあいながらも互いに相手の隙を探るかのように睨みあう中、ファルカの横にいたレザーは怯え身体を少し震わせながら、静かに息を飲む。
目の前にいるアビスの使徒。その者はファルカの言うアビス教団の中でも、恐らくトップ、もしくは幹部クラスといっても良いほどの人物であろう事はレザーは理解していた。そして、ファルカとアビスの使徒の会話でヒルチャール、自分やルピカ達の天敵とも言えるヒルチャール達を従え、束ねているのがアビス教団であると知り、そしてそのアビス教団のトップか幹部クラスの怪物が、今ファルカと自分の目の前に存在していることに、レザーは恐怖を覚えた。
「…成程な」
だが、そんな様子のレザーとは異なり、ファルカは一歩前に出て、アビスの使徒を見据える。その姿は威風堂々、そこに恐れなど一切なかった。
「…使徒様。あの者はどうしますか?」
「…あの少年はおそらくかつての魔神、“アンドリアス”の……」
すると、じっとレザーを見ていて、何かに気づいたアビスの氷の魔術師と雷の魔術師がそれぞれ使徒に話しかける。
「ふんっ、あの少年の事は気にするな。それよりも、目の前の男。目の前の化け物の事だけに意識を集中しろ」
「分かりました」
「承知しました」
アビスの使徒の言葉にそれぞれ氷と雷の魔術師は返事をした。
「ははっ、化け物か?俺がか?……確かに俺は強いかもしれない。だが、お前達の方がよっぽど化物に思えるぞ?」
アビスの使徒の言葉に対し、ファルカは笑みを浮かべながらアビスの使徒に向かってそう言い放つ。
「ふんっ、そうだろうな。……ならば、お前も我々と同じ存在になり、我々が歩んできた旅路を歩んでみればいい。さすれば、我々の言っていることも理解できるようになる。…もっとも、そうなったらこの世界に対しての恨み、そして絶望しか感じられなくなるがな」
「おぉ、怖いものだな」
ファルカはそう言いつつ、肩をすくめるような動作を行う。そしてその表情からは余裕のようなものを感じさせた。
「…………」
それに対し、アビスの使徒は無言のまま何も言わず、ただファルカのことを見つめていた。
「…ははっ、この世界に対しての恨みや絶望か。…まぁ、そんな事は良いだろう…おい、ここにアビス教団。しかもアビス教団の中でもかなり上の立場の者がここにいる。…ということは、そこにいるんだろう?__」
ファルカはそう言いながら、とある方向に視線を向ける。その視線の先にあったのは何一つ代わり映えの無い木であった。
「…まさか」
だが、アビスの使徒はファルカの意図に気づき、そして何かを感じ取ったのかファルカと同じようにその木の方向を見る。
「___ガイア」
「あぁ、いたぜ。随分と興味深い話を聞かせてもらったぜ」
突如、木の後ろからコインが定期的に弾かれる音、そしてとある男の声が響く。それとほぼ同時にファルカとアビスの使徒の前に男は姿を現した。
「貴様っ!?」
「お前っ!?」
「そこにいたのか!?」
「遂に姿を現したな!!」
アビスの魔術師達は姿を現したその男に驚き、声を上げる。
「ガイア・アルベリヒ…」
「おぉっ、アビスの使徒様に名前を憶えてもらってるとは光栄だぜ」
アビスの使徒の言葉に反応したその男、ガイアはニヤリと笑いながらそう言った。
「…」
そして、まるでファルカの背中に隠れるようにして、レザーは姿を現れたガイアの事を見た。ガイア自身はニヤニヤとしながらアビスの使徒やアビスの魔術師達を見ているが、アビスの魔術師達やアビスの使徒は警戒しているのが見て取れる。
「ははっ、相変わらずふざけた奴だな。ガイア」
ファルカはそう言うと腕を組む。
「おいおい酷いぞファルカ大団長。…だが、ここで大団長が来たという事は、そういう事か?」
「あぁ、そうだ'あんちゃん'のおかげだ。…ガイア、無理するな。もし、俺が来なかったら、どうするつもりだ?」
「ははは、そうだな。もしかしたらやられていたかもしれないな。…本当はこの場にアビスの炎の魔術師とモンドには珍しいアビスの雷の魔術師が同時に行動をしているということだから確認をするために、この場に来たが……まさか、それ以上に面白いことになっているとはな。……アビスの魔術師達にヒルチャー暴徒にそれぞれのヒルチャールの王、さらにアビスの使徒……。これは……本当に面白い。予想外にも程があるぜ」
ガイアはそう言うと愉快げに、そして自虐的に笑う。
「…ふんっ、ちょうど良い。ガイア・アルベリヒ、よく聞け。本来、我らはお前を抹殺するのが目的で、この場に来たのだが、今この場で機会を与えてやる」
すると、黙っていたアビスの使徒が口を開く。
「……機会だと?」
「あぁ、そうだ。…お前の本当の正体。それは我々がモンドに送り込んだスパイだ」
「…」
「っ!?」
ガイアはアビスの使徒の言葉に黙り混み、ファルカは思わず目を大きく見開き、驚愕して息を呑む。
「…」
そしてレザーも、アビスの使徒の言っていることはよく分かっていないものの、ファルカの反応からしてそれが何か、恐ろしい事、おそらく良くないことなのだと言うのは理解できたのか、不安そうな表情を浮かべる。
「…どういうことだ?ガイアがスパイ?…アビス教団の?…一体何の悪い冗談だ?」
ファルカは僅かに震えた声でそう言いながら、ガイアの方へと顔を向ける。
「…お前の使命はモンドに送り込まれたスパイとして情報を集めること、そして適切に我らの活動や暗躍をサポートし、必要に応じて報告をすることであった…」
「……」
アビスの使徒の言葉に対し、ガイアは何も言わない。
「……おい、答えろよガイア。……アビスの使徒の言っていることは本当なのか?」
「……あぁ、その通りだ」
「っ!?」
ファルカはガイアが肯定した事に驚き、思わず絶句する。
「…だがお前は我々を裏切り、そしてただの裏切りどころか、我々の同胞を殺していった。それだけではない。お前は我々の行動や活動の妨害も行い、お前が元々はこちら側の者と言うことも相まったせいで、無視することは出来ないほどの実害も出た」
「……」
アビスの使徒は淡々とガイアに告げるが、それに対してガイアは黙ったままである。
「…よって本来なら赦されることはない重大な大罪人、我らに歯向かった由々しき反逆者を処断するため我々はこの場に現れた。…だが」
アビスの使徒はそう言うと、ファルカの方にチラッと視線を向けた。
「もしも、お前がかつて見せていた忠誠心と使命を果たすという心意気が、まだお前の中に残っている事を、それを証明する事が出来たのであるとしたら、我々はお前を赦し、全ての事を水に流そう」
「っ!?」
「…へぇ?」
アビスの使徒の言葉にファルカは動揺し、ガイアは意外そうな声を上げる。
「…どうだ?ガイア・アルベリヒ」
「……」
アビスの使徒はガイアの方を向き、そう尋ねる。
「……」
それに対し、ガイアは少し考えるような仕草を見せた後、ニヤリと笑みを浮かべた。
「…それは、つまり。西風騎士団の大団長、ファルカ。この男をこの場で殺せと、そういうことか?」
「あぁ、そうだ。その通りだ。無論、お前一人では手に負えないかもしれないから、我々も手を貸してやる」
ガイアが確認するように言うと、アビスの使徒はそれに肯定するように縦に頷いた。
「…ふーん」
ガイアはファルカ、そしてアビスの使徒に視線を交互に送る。
「だが…もしもだ」
アビスの使徒はドスの利いた低い声でガイアに言葉を投げる。
「もしも、この場でお前がその男を始末することなく、ましてやその男と共に我らに歯向かうというのであれば、今度こそお前は絶対に赦さない。その時はお前は裏切り者として、我々はこの場で処断し、ここでお前は死んでもらう」
「成程な…つまり再び俺はお前達の元に戻って共に行動するか、それとも大団長や騎士団達と共にするかそういう事か」
「そうだ。…そしてもし、お前があの頃のような忠誠を誓い、そしてかつての使命を全うすると言うのならば、我らはお前の命を助けてやるし、もしもそれらを投げ捨てたというのであれば、我らはお前の命をこの場で奪う」
「……」
ガイアは無言でアビスの使徒の話を聞き、そしてしばらく考える。
「…」
そして、アビスの使徒とガイアの会話を聞いていたファルカは険しい表情を浮かべながら、ガイアのアビスの使徒への返答を待つ。
「…そうだな。俺は__」
ガイアは口を開く。
そして、ガイアがアビスの使徒への問いに対して、返答をしようとしたその時であった。
「ヤァッ!?」
「ヤァウッ!?」
「っ!?なんだ!?」
「今のは!?」
「っ!?」
突如、とある方向からヒルチャールの断末魔のような叫び声が響き渡り、アビスの使徒とファルカが同時に驚き、レザーは思わずビクつく。
「__あぁ、あいつが来たようだな」
そしてガイアは誰がこの場にやって来たのかを察したのか、そう呟く。
「…っ!?あの格好は!?」
「…っ!!あの姿!?」
「…あれは!?間違いない!!奴だ!!」
「…っぅ!!どうして、この場に!?」
叫び声の方に視線を向けたアビスの魔術師達は、こちらに向かって歩いてくるその男の姿を見て驚愕する。
「っ!?ディルック!?どうしてここに!?いや、それよりも!?その格好!?…まさか!?」
ファルカはその男の正体に気づき、そして何かに勘づいたのか驚きの声を上げる。
「…“闇夜の英雄”か」
アビスの使徒は静かにそう言い放つ。
「…」
そこにはアビスの使徒達に向かってゆっくりと歩く、普段の分厚い外套を着こんだ姿ではなく、彼の黒を基調とした落ち着いた雰囲気や低めのポニーテールから、より赤と黒からコントラストがはっきりした格好に、首元には首輪を身に着けていることでより活発的でワイルドな印象を抱かせ、高めのポニーテールにより彼自身の激越のような強き意志を表しているかのような姿。
「…ようやく、見つけられた」
モンドの夜に現れる、闇夜を烈火に染める紅き炎、その炎で悪意ある者達を例外なく、その業火を持って全てを焼き尽くしてきた男。
「…そうか」
悪人達が抱いた野望やその夢を等しく焼却してきた、人知れずモンドに蠢く闇の中を駆け抜けてきた一人の英雄。
「ここにいたのか_」
『レッドデッド・オブ・ナイト』。
「_アビス教団…!!」
闇夜の英雄、ディルック・ラグヴィンドが目を細めながらアビスの使徒に視線を向け、ファルカやレザー、そしてガイアやアビスの使徒を始めとするアビス教団の元に歩いて来ていたのであった。
尚、久しぶりにレザーの過去回が終了後に『神の目』関連(考察ネタベース)について、第二幕のエピローグ・アビス教団回が終了後に、現在の西風騎士団の状況や原作と本作との相違点(ファルカの簡単なプロフィール整理や、ガイアのカーンルイアのスパイ関連、また各西風騎士団のメンバー同士との関係についての整理)についての補足説明や解説を軽く行いたいと思います。
余談ですが、公式の発表から次のVer3.1の更新でどうやら『遊撃小隊の測量士“ミカ”』という人物がファルカ大団長からの手紙を持ってモンドに来るそうですね。
楽しみですね。
新キャラのミカもさることながら、ファルカ大団長に関しては本当に謎が多いので、この手紙の内容から何か新しい事実や真実(何の目的で大部隊を引き連れて遠征に向かっているのか、征服なのかそれとも調査なのか、またどこに向かったのか、どの方向か、どの国の近くなのか)が分かるかもしれません。(そうなると、個人的には本当に書きやすくなると思います)
また、それと同時に原神のアニメ化正式決定もおめでとうございます。
アニメ化に関してはufotable(鬼滅の刃をアニメ化した所)が手掛けるとの事みたいですね。現時点で分かっているのは長期プロジェクトという事くらいで、実際にアニメ化したらそれはまぁ、えぐいことになりそうくらいですね。
原神アニメのコンセプトPVが公開されていたので見てみましたが、見たら凄すぎて開いた口が塞がらず、飲み物を傾けすぎて服を少し汚してしまいました。
一体これからどうなるのかが分かりませんでしたが、アニメが完成して公開されるのが今から本当に楽しみですね。
追記1
・レザーの台詞が間違えていたので修正しました(お前→オマエ)
追記2
文字間隔の調整を行いました。