玉衡の元から逃亡したら千岩軍が追いかけて来ていた件について 作:久遠とわ
今回より、遂に番外編の“中編”が始まります。
また今回より“煙緋”に“久岐忍”が同行しております。
尚、今回はオリジナル設定や要素、考察ネタがふんだんに使用されています。
(作者の総力を結集して、現在の璃月という国家の組織構造や組織体制関連について調べ上げました…間違ってはない…はず。間違っていたら、すみません)
そして今回も解説はあります。
「うむ、良かったな、忍さん。空が曇っていたから、もしかしたらと思っていたが、逆に晴れきて良かったな」
「そうですね、煙緋先輩。…改めてよく見ると璃月港は本当に綺麗で、そして賑やかな町ですね。私の出身国である稲妻、そして鳴神島にある稲妻城の城下町の花見坂とは全然違う景色ですが、この璃月港の街並みも、とても落ち着きますね」
「ほぉ?そうだろう。そんな事を言ってもらえるとは光栄だよ。何せ、ここは璃月七星、そして岩王帝君が統治している都市だからな。そうして、この美しい都市には長い年月の歴史が積み重なっているんだ」
「なるほど…稲妻の花見坂では出入り口にある大きな櫻や街にある桜並木、そして風に吹かれることで舞う桜吹雪が花見坂の街並みを彩っていますが、この璃月の璃月港では、鮮やかな橙色や黄色の紅葉や楓が街の至る所にあって、それがまるで街を包み込むように美しい風景を作り出していますね」
「ははは、そうであろう。この璃月港の美しさ、それは璃月人にとって誇りでもあるのさ」
覆っていた暗い空が晴れ始めたとある日、爽やかな風が吹くことで紅葉や銀杏の葉が舞い落ちる中、とある女性の二人の影が、璃月港の大通りを並んで歩いていた。
一人は、紫の稲妻のような目と黄緑の髪を持つ、キリッとした表情の女性。もう1人は、薄めの朱色の髪と翡翠の瞳を持ち、活発的な雰囲気を纏っている女性。稲妻人の“久岐忍”が璃月港の調和のとれた景観に見惚れ、その様子に、隣にいた璃月人である“煙緋”は少し得意げになって答えていた。
あの日、久岐忍が煙緋に弟子入れを頼み込んで煙緋が驚きの声を漏らした後、悩んだ煙緋はとりあえず詳しい話を聞くために、事務所の中に入ってもらい、そこで詳しく話を聞いてみた。その結果、忍の話を聞き、また今の忍の事情を知った煙緋は、忍の法学校で見せていた法律への姿勢や考え、また忍が自分の事務所の場所を調べて、わざわざここまで来てくれたという事実から、煙緋は感心し、そうして正式に煙緋の弟子とする事を決めて、忍を迎え入れたのだ。
その日以降、忍は毎日のように煙緋の法律事務所に通い続けて煙緋の弟子として、また彼女の助手として煙緋の元で様々な事をこなしていった。
実際、当初の忍は右も左もよく分からない状態だったものの、それでも彼女が今まで稲妻で数多くの資格を勉強して取得してきた経験や、自身の要領の良さを活かし、またかなりの努力家でもあった性格も相まって、煙緋の予想以上に早く仕事に慣れ、また煙緋も忍の成長ぶりに満足していた。一流の法律家である煙緋から見たら、まだ忍は半人前未満ではあるものの、それでも忍は少しずつではあるが、着実に一流の法律家としての階段を上っていっており、上手く行けば‘来年’の“七星迎仙儀式”辺りで、一流と呼ぶにはまだまだではあるが、少なくとも一人前でかつそれなり、三流もしくは二流程度の実力を持った立派な法律家になれるだろうと煙緋は考え、そうして期待した煙緋はより一層、忍の指導を厳しくし、煙緋法律事務所通いから事務所に住み込むようになった忍も煙緋の厳しい指導を受けつつ、また忍自身も法律知識や法解釈などの技術や考え方を学び取りながら、煙緋の下で成長していったのであった。
「…煙緋先輩。今日はどこに行くんですか?今日行く場所は、少し遠いから早めに行こうと仰っていましたけど」
「あぁ、それはだな。今日は実はとある人物からの依頼をこなすために、その資料の原本の確認や資料の写しを入手する為に”七星八門”の“総務司”、それに加えて、“王山庁”まで行くんだ」
「“総務司”と“王山庁”ですか?」
「あぁ、そうだ。“総務司”と“王山庁”は流石に離れすぎているからな…。忍さん。これから話すことは、他言は無用だぞ?…実は今の私はな、“厄介な案件”を請け負っていてな。“総務司に属するとある人物”から、とある粉飾決算にまつわる厄介な案件を依頼されたのだが、その件について調べていく内に、どうも今のままでは手に負えそうになさそうという事が分かったんだ。それで、今回手持ちにあるものだけでは足りないと判断し、その案件を解決する為に必要な資料や情報を集めるべく、まずはそれらの資料や情報が保管されている場所へと向かう事にしたという訳さ」
「なるほど、そういう事ですか…」
忍は納得したようにそう呟くと、煙緋の方へと顔を向けた。
“七星八門”、それは璃月七星が管轄する8つの部門である。それぞれの部門はそれぞれに割り当てられている職務に従い、璃月の実際の実務やあらゆる経済活動を取り仕切ったり、また璃月の産業や行政を担っていることから、璃月の“月海亭”を除く政府機関や公務機関というのは全て、この内のどれかに属しているのである。
より具体的な内訳と言えば、例えば“総務司”は璃月七星の下で璃月の様々な実務を行っている組織であり、この中で璃月の治安維持を担当している“千岩軍”はこの組織の配下に当たる。
そして、煙緋が言っていた“王山庁”というのは璃月中の書籍や様々な情報資料関連の管理等を行っている組織の機関であり、その中には璃月に存在している全ての法律関係の資料も含まれており、また余談ではあるが“古華派”の要地でもあることから、かつての“古華団”という名の武侠の名門と縁のある者やかつて縁のあった者達の関係者達が務めている庁でもある。
他には“和記庁”なら璃月と外国間における通商や貿易関連、“輝山庁”ならば璃月の鉱業関連、そうして今は亡き“塩の魔神ヘウリア”を崇拝していた者達の子孫達の多くが務めている、塩業関連を担当している“銀原庁”、他にも古代に“層岩巨淵”の近くに住んでいた先住民族の末裔達が務め、彼らの代々受け継がれてきた芸術である釉薬のかかった“陶磁器”関連やそれに伴って璃月中の“文化遺産”の保護や管理を担っている“盛露庁”等と言ったそれぞれの七星八門の機関が、璃月七星が“月海亭”で定めた政策や条例をそれぞれ執行したり、またその方針に基づいてそれぞれの職務を果たしているのである。
「…おや、あれは?」
「…?どうしましたか、煙緋先輩?」
ふと、何かを確認した煙緋はそう言って足を止めると、その場に立ち止まった。忍も煙緋に釣られて足を止めた後、不思議そうに首を傾げながら、煙緋の視線の先にいる人物達を見つめた。
「___全く、本当に反省してください!!瞬詠さん!!分かりましたか!?」
「あぁ、もう反省したって。分かったから、落ち着けって、な?甘雨?」
「…本当に反省していますか?」
「あぁ、うん」
「…反省しましたか?」
「あぁ、うんうん」
「…反省していませんね?」
「あぁ、うんうんうん…あ」
「瞬詠さん!!貴方って人は!!」
「いや、そこで引っ掛け問題みたいに自分を嵌めるなよ!自分はちゃんと反省してるから!」
「嘘をつかないでください!!貴方はいつもそうやって適当な事ばかり言っているじゃないですか!!大体ですね、瞬詠、貴方はどうしてそうやって毎回毎回__」
「あー、分かった分かった。だから、もう勘弁してくれ、甘雨ったら__」
煙緋達の視線の先では、黒髪の中に少し灰色の髪が混じり、灰色を基調とした一般的な璃月の服装に身を包んだ男が困ったような表情を浮かべて、目の前にいる金と紫が混ざり合ったかのような独特な色の瞳に、氷のような水色の髪に2本の赤と黒入り交じる角みたいな髪飾りの少女から説教を受けつつ、自分達に背中を向けながら道を歩いている光景が広がっていた。
「あれは…“瞬詠”と“甘雨”先輩ではないか?」
「えっ、見間違えか?あそこにいる“彼”…。あれは“瞬詠”なのか…?」
煙緋と忍の視線の先にいた瞬詠と甘雨の姿を目にすると、煙緋は驚いたように目を丸くしながら声を上げ、忍は目の前の瞬詠の後ろ姿をまじまじと見つめた。それはもしかしたら、もう二度と会うことはないかもしれないと思っていた人物と、まさかこんな場所で再会する事になるとは思っていなかったでも言うような反応であった。
「…」
「あ、煙緋先輩」
そして立ち止まっていた煙緋は瞬詠と甘雨に向かって、早歩きで駆け寄る。その後ろを忍は慌てて追いかけていった。
「お久しぶりです、甘雨先輩、それに瞬詠」
「__えっ?あっ、煙緋じゃないですか。お久しぶりです…。あら、そちらの方はどなたですか?」
「__うん?おぉ、煙緋じゃないか、久しぶりだな…。えっ?」
背中を向けてそれぞれ言い合っていた甘雨と瞬詠の元に辿り着いた煙緋はそのまま2人に声を掛け、声を掛けられた2人もまた煙緋の存在に気づくと、驚きの声を上げ、そうして、煙緋の後ろにいた忍の姿に気づいた。
「お初にお目にかかります、甘雨さん。私は稲妻から璃月で法律を学ぶべく、煙緋先輩の弟子としてこの璃月にて留学しております、久岐忍と申します。よろしくお願いいたします」
「あら、そうなんですか。初めまして、私の名前は、甘雨といいます。ご丁寧にありがとうございます。私は月海亭にて、璃月七星達の秘書を務めております。こちらこそ、よろしくお願いしますね、忍さん」
「はい、こちらこそ。…」
「…」
「…えっ、どうしたんですか?瞬詠、それに忍さん?」
「…どうした?瞬詠、それに忍さん」
忍は甘雨に自己紹介を済ませると、急に立ち止まったまま何も言わずに黙っている瞬詠を見つめる。対する瞬詠も複雑そうな表情をしたまま、自分の方へと振り返ってきた忍の事を無言で見つめ返した。そして急に無言になって見つめ合った瞬詠と忍の二人に、甘雨と煙緋は不思議そうに首を傾げる。若干、困惑しているかのような雰囲気を漂わせていた。
「……。瞬詠、あんた、どうやら何事もなく、無事に生きていたんだな。大怪我をしているわけでも無さそうだな…。船から降りたと聞いて、心配したんだぞ?」
「…」
「…私だけじゃない、“親分”や他の荒瀧派の奴らもそうだ。それに例えば、あの長野原花火屋の店主の花火職人の“宵宮さん”や社奉行の白鷺の姫君と呼ばれている”神里さん”。また私の友人である天領奉行の“九条さん”、そして、あの鳴神大社の宮司様である“八重様”でさえだ…。瞬詠、あんたの事を、皆、色んな人達が、あんたの事を心配し、そして悲しんでいたんだぞ!!瞬詠!!」
「えっ!?えぇっ!?」
「忍さん!?君は一体何をやってるんだ!?」
「…」
忍は瞬詠に近づいてその両肩を掴むと、真剣な眼差しで瞬詠の顔を見ながら、そう怒鳴った。そして、忍の唐突な行動に煙緋と甘雨は思わず驚愕の声を上げた。一方、忍にいきなり怒られるような形で叱られた瞬詠は、驚きと動揺が入り混じったような表情を浮かべて固まっている。
「…まぁ、だよなぁ。そりゃあ、そうなるよな」
「…」
そうして瞬詠は、目の前にいる忍が怒っている理由に納得しているかのように小さく頷くと同時に、どこか諦めたような笑みを浮かべた。一方の忍はというと、瞬詠が無事だった事に安心しつつも、呆れたようで、そして未だに怒りが収まらないといった様子であった。
「…忍、その、すまなかった」
「…ふんっ、謝るのならば私にではないだろう。瞬詠が直接稲妻まで行って、彼らにちゃんと頭を下げてくるべきだ」
「それもそうだな」
そして瞬詠は忍に向かって、謝罪の言葉を口にすると、彼女は不機嫌そうに腕を組みながらそっぽを向いた。
「…あ、あの、忍さん?瞬詠と貴方はどういう関係なんですか?それに、瞬詠のことをとても気にかけてくださってるようですけど?」
「…忍さん、一体、君と瞬詠との間はどういう関係なんだ?君が何故瞬詠に対して、そこまで怒っていることにも疑問だが、そもそも君達は知り合いだったのか?」
甘雨と煙緋は、目の前で起こってしまった光景がよく理解できていないらしく、お互いに顔を見合わせながら首を傾げていた。
「…煙緋先輩には話していなかったですね。すみません、すっかり忘れていました。私と瞬詠は稲妻で知り合った仲で、以前に荒瀧派の者達、そして親分がとある件で、天領奉行から冤罪を被せられかけたことがありまして、その時に彼がその場にいなかった私の代わりに弁護し、また荒瀧派の仲間達や親分の無実の証明を手伝ってくれたのです。__」
忍はそう言うと瞬詠に横目を向ける。
「__正直、偶然ですが彼があの場に居合わせていなければ、きっと親分達は牢屋の中にいましたでしょうし、それにもしも彼が“幕府軍の大将である九条さん”と知り合いでなければ、天領奉行の者達を上手く言いくるめて彼らを止める事は出来ませんでした。おまけに彼が知り合いの”天領奉行の探偵である彼”を呼んでくれて、私に紹介してくれていなければ、最終的に、荒瀧派の仲間達や親分が捕まるという事を避けられなかったのかもしれないのです」
「へぇ、そうなんですか…えっ、“幕府軍の大将”?」
「なるほどね。そういうことか。瞬詠、君も中々やるじゃないか…うん?待て、今、聞き捨てならない単語が聞こえた気がしたのだが……」
甘雨と煙緋は、忍の説明を聞いて、瞬詠の意外な一面を知った事で驚いているようであったが、その一方で、二人はふと何かに気づいたように目を見開き、お互いの顔を見合わせて、瞬詠の顔をじっと見つめ始めた。
「…あれ、煙緋はともかくとして、甘雨には話してなかったか?」
「瞬詠さん!!そんな事、私は一言たりとも聞いた覚えはありませんよ!?」
「あー、それはだな__」
甘雨は瞬詠に詰め寄る。そして瞬詠は目を泳がせた。
「__まぁ、なんだ?機会が無かったというか、話す必要も無いと思っていたからさ……」
「はぁ…。全くもう!!どうして貴方はいつもそうなのですか!?」
「すまない、すっかり言う機会を逃してしまったようだ」
「貴方のそれ、いい加減直した方が良いですよ…。あぁ、もう!!ようやく理解できましたよ!!今日、情報共有として外交関連の職員達から私に“気になった報告”が共有されてきた理由が!!」
「えっ、“気になった報告”だって?」
瞬詠は不思議そうに首を傾げる。
「えぇ。実はですね…。“かなり前より稲妻から来ている稲妻の外交団の者達の一部の者達が、どうにも少し奇妙な行動を取っている。さりげなく“とある人物”に関しての探りをいれてきたり、情報を集めようとしたりしている。稲妻の外交団の者達から正式にその男に関しての情報提供を求められてはいないが、特に少し前からその一部の外交団の者達の気になる行動が顕著になってきており、稲妻、しいては稲妻幕府という稲妻の政府機関の意志としてその男に関して何かしらの興味を抱かれている可能性が高いと推測される。本件、十分に注意されたし”…と。そして、その“とある人物”、その対象人物の名は“瞬詠”という名前…。つまり瞬詠さん、貴方の事ですよ」
「…」
甘雨はじっと瞬詠の目を見る。彼女は怒っているような、呆れているかのような表情を浮かべていた。そしてその話を聞いていた瞬詠は、一瞬心当たりが無いといった様子で困惑しているようであったが、直ぐに全てを察したのか冷や汗をかきながら引きつった笑みを浮かべていた。
「瞬詠さん。貴方、まさかとは思いますけど、この事、特に貴方の異常とも言える交友関係の広さについて、凝光さんはしっかりと把握しているんですよね?」
「あ、あぁ……うん。そうだな。うん。……うん。知ってる」
「……それ、断言できますか?下手に対応を間違えれば、最悪もしかしたら璃月と稲妻との外交問題に発展する可能性も考えられますよ?」
「……すみません、断言できません」
「…はぁ…本当に貴方って人は……いえ、今は良いです。この後、必ず確認しますから。瞬詠さん、後で一緒に凝光さんのいる群玉閣まで来てください。絶対にですからね?もしも破ったら、分かってますよね?瞬詠さん、もし破ったら…。久しぶりに“教育的指導”してあげないといけませんね?」
「ひっ!?は、はい!!甘雨さん!!仰せのままに!!むしろ、喜んで同行させていただきたく存じ上げます!!」
「はい、よろしいです」
甘雨の意味ありげな微笑みに、瞬詠は恐怖を覚えて、震えながら何度も首を縦に振る。それを例えるならば、深い眠りについていた巨大な仙獣の麒麟が小さな人間によって呼び覚まさまれ、そして温厚な筈の麒麟が呼び覚ましたその者を踏み潰さんと凄まじい殺気を放ちながら迫りくるが如く、普段の甘雨の温厚な雰囲気は消え去り、まるで夜叉のような恐ろしい雰囲気を放ちながら瞬詠を睨む甘雨の姿があった。
「…ははは」
「…」
煙緋は思わず苦笑いし、忍は甘雨から発せられるただならぬ気配に気圧されていた。
「ははは、ま、まぁ、甘雨先輩。落ち着いてください。ほ、ほら、甘雨先輩や瞬詠はまだ仕事中ですよね?」
「あっ、確かにそうですね……。なら、行きましょう。瞬詠さん」
「あ、あぁ、そうだったな…。甘雨。行こう、“総務司”へ」
煙緋は瞬詠に助け舟を出すかの如く、甘雨に声を掛けた。甘雨はその声を聞き、正気を取り戻したのか、先程までの殺気だった姿は何処にいったのかと言わんばかりに元の甘雨に戻り、瞬詠は元の甘雨に戻ったことに安堵しながら頷いた。
「うん?“総務司”だと…?奇遇ですね、甘雨先輩、それに瞬詠。実は私達もちょうどこれからそこへ行くところなんです。ご一緒しても構わないでしょうか?もしかすると、お二人とも忙しくないのであれば、ですが」
「えぇ、構いませんよ」
「もちろんだ、構わんぞ」
「ありがとうございます、先輩、それに瞬詠。よし、忍さん、行くぞ」
「はい、煙緋先輩」
煙緋の言葉に、忍は静かに返事をして歩き出し、煙緋達も歩き出す。
「…そう言えば、瞬詠」
「うん、なんだ?」
「瞬詠は最近はどうなんだ?瞬詠が“凝光”の直属の部下になってから、そして月海亭で働き始めてからもう随分と経つが」
「あぁ、そうだな…」
「えっ…?瞬詠はあの“天権”凝光の直属の部下だったのか…?」
煙緋と瞬詠のやり取りに、忍は思わず驚いてしまう。
「そうですよ。瞬詠さんは、4ヶ月前から5ヶ月前くらいに凝光さんが、彼を群玉閣まで連れて来て、そして瞬詠さんは凝光さんとの間に幾つかの“契約”等を結んで凝光さんの直属の部下となり、そうしてそのまま月海亭の一般的な職員の身分と違って、“特務職員”として働いてもらっており、またとある“特殊な役職”にも就いて働いてもらっております」
「ほぉ、月海亭の“特務職員”、そして“特殊な役職”に就いている…か」
「あの璃月七星のリーダーである天権、凝光と“契約”を結んだのか……」
甘雨の言葉に煙緋と忍は驚きを隠せないでいた。
「えぇ、そうですよ。ただ、今の瞬詠さんは、丁度一か月前辺りに出した凝光さんの命令で異動となって、現在は璃月七星の玉衡、“刻晴”さんの直属の部下となっておりますが」
「ほぉ、今は璃月七星の玉衡、刻晴の直属の部下になっているのか…」
煙緋は感心したように呟き、瞬詠の方に視線を向ける。
璃月七星の“玉衡”。“玉衡”という主な役職、そして玉衡の重大な責務というのは、主に璃月領内の土地、生活管理、建設、不動産関連等を担当しており、それらに関する厳格な規則に従って施行することで、未然に深刻な災害や事故などの回避、または防止策を練る事で、それらの面から璃月領内の恒久的な安全の確保や保全、そしてそれらの面から璃月の繁栄を支え、璃月の栄華を保つ事が主な職務であり、それが璃月七星の“玉衡”という重大な責務なのである。
「あぁ、そうだ。あのくそ面倒くさい“暴走女”、刻晴の元で色々やっているぞ…。全く、凝光さん。なんで、あんな面倒くさい奴の直属の部下なんかにしたんだよ」
そして、瞬詠は少し嫌悪染みた表情を浮かべて愚痴を吐いていた。
璃月七星の玉衡、“刻晴”。“刻晴”こと、彼女は名門な商人貴族の出身の人物であり、その身分の事も相まって岩王帝君が璃月に与えた影響を深く理解している最も神に近い人間である彼女であるが、それに反して彼女は“岩王帝君”に強い“対抗意識”を燃やし続けている女性である。
煙緋が把握している限り、当初の名門な商人貴族の出身のお嬢様であった彼女の評価というのは、とある者達からすれば危険思想を持った有力な実力者である若手であるために要注意人物とされ、また別の者達にとってはその才覚を認めつつも、彼女に近づきたくないと敬遠する存在であり、またそんな彼女に対して敬う者達からすれば、彼女の事を尊敬しながらも、彼女と距離を置きたがる存在でもあった。だがそれでも幾ら有力な実力者であるとはいえ、所詮は大した経験も無い若手であるが故にその内に職務で失敗して、最終的には失脚してしまうだろうと噂されていたのだ。
しかし、彼女は自身の尋常ではない聡明さ、また類稀な才覚を次々と発揮しながら電光石火の如く、数々の重要な業務や案件をこなしていき、瞬く間にその地位をより強固に、より盤石な物としていき、そうして彼女の雷霆の如き判断力と決断力、それに迅雷のような行動力の前に“玉衡”の座を狙っていた者達は誰もが皆、そんな彼女に恐れを抱き、敬い、そして諦めていったのである。その結果、今では彼女は誰もが璃月七星の“玉衡”として認められており、その影響力と言うのは璃月にてその名を知らぬ者は居ないという程にまでなっていたのである。
「…ほぉ、あの“刻晴”殿を、そんな風に言うとは中々だな」
煙緋はそんな瞬詠の態度に、まるで面白いものでも見たかのような笑みを浮かべていた。
「ふんっ、あいつは自分にとってただの厄介な上司だ。まぁ、確かに仕事に関しては有能だし、頭も切れるし、何よりも行動力がある。それに度胸もあるし、あの女は自分なりに璃月の事や璃月の未来について考えているのは分かるんだが……だからと言って、こっちが仕事や別の事をしている間に、何でもかんでも自分に全力で仕事を投げつけてきたり、自分が一息ついて休んでいる時に、あいつ一人で出来る仕事でいちいち自分を巻き込んだりしてくるんじゃねぇ……!!」
瞬詠は拳を握り締めながら、憤怒の表情でそう呟いた。
「ま、まぁ、瞬詠さん。それだけ、刻晴さんは瞬詠さんの事を認めているという事ですよ。正直、私は刻晴さんと瞬詠さんは正反対すぎて、絶対に相性が良いとは思えませんでしたが、実際は何だかんだ言って、とても上手くいってるじゃないですか。あの刻晴さんの働きにしっかりと付いていけている点や、先回りして刻晴さんの仕事を手助けできる時点で、それは証明されてますよ。凝光さんはそれを見越して、刻晴さんと瞬詠さんをお互いに組ませたんですよ」
「はぁ?それ、本気で言ってるのか?」
甘雨は、苦笑いをしながら宥めるように言い、甘雨の言葉に、瞬詠は呆れたような様子で返答していた。
「全くもって意味が分からない…。あーぁ、最初は凝光さんに、ただ契約通りに凝光さんが求めている結果を残せていけば、後は好きにして良いと言われたから、自分は月海亭で自由にやりたいように過ごしていこうようと思っていたが、まさかこんな事になるなんて思ってなかったぞ……」
「ふふふ、そうですね。…『もっと真面目になりなさいよ!!瞬詠!!君がもっと“真面目”に“やる気”になればなるほど、この璃月港、そして璃月そのものがより変革を遂げるの!!私はそう確信しているわ!!…そうして人々が自立し、この璃月を人間達が統治するという理想的な未来を築き上げる事が出来る。だからこそ、君は私、璃月七星の玉衡の直属の部下として、もっともっと真面目に尽力しなさいよ!!』…でしたね」
「あぁ、そうだ…。全く、本当に!!頭おかしいんじゃないか!?意味が分からねぇよ!!刻晴の奴!!」
「ふふふ、相変わらずですね。刻晴さんも」
「ふむ…。ふふっ、どうやら刻晴殿は瞬詠に対して随分とご執心らしいな」
「…瞬詠、あんたは璃月に着いてからは、仕事で色々と大変だったんだな」
甘雨は刻晴の物真似をしてみたつもりなのか、どこか楽しげに微笑み、それに対して瞬詠は不満げな表情を浮かべていた。一方で煙緋は、瞬詠の話を聞いて面白おかしそうに笑い、忍は璃月に着いてからの瞬詠の苦労話を想像しながら同情するような視線を送っていた。
「はんっ、本当にだ…。そう言えば、そういう風に笑っている甘雨は刻晴の事、どう思ってるんだ?」
「えっ、どういう意味ですか?」
「…いやぁ、この前、月海亭で甘雨と刻晴、本格的な殴り合いや蹴り合い、取っ組み合いの喧嘩寸前になっていただろ。ははっ、月海亭で思いっきり刻晴の顔面に平手打ちをかまして張り倒して、そして刻晴に平手打ちされ返されて張り倒され、そのまま二人とも掴み合いや組み伏せ合いになっていったじゃないか」
「あっ、あれは!?」
「えっ!?甘雨先輩!?」
「っ!?」
瞬詠の言葉に、甘雨は慌てた様子で両手を振る。その隣では、煙緋や忍は驚いた様子で甘雨の顔を見つめていた。
「ちょ、ちょっと瞬詠さん!!それをこんな所で言わないでください!!いや、その前に、もう、あの時の事は忘れてください!!」
「おいおい、そんなに恥ずかしがる事は無いだろ?あんなに感情を剥き出しにした甘雨を見るのは初めてだ。『っぅ!!刻晴!!帝君を、帝君を…!!それ以上、帝君を侮辱するなぁっ!!』からの刻晴の顔面めがけての見事な一撃。そして、『はんっ!!甘雨こそよく分かっていないじゃない!!それに私は帝君を…!!帝君を、帝君を侮辱なんかしていないっ!!』と刻晴から顔面にやり返されて張り倒され、刻晴を見上げながら睨みつけていた姿。ははっ、あの時だけは、いつものお淑やかで穏やかな甘雨の姿はどこにも無かったぞ。あの時は驚きを超えて、思わず笑ってしまった。…ただあの後、二人の喧嘩を止められるのが自分しかいないから止めてくれと月海亭にいた人達に嘆願されて、喧嘩している二人の間に割って止めなきゃいけなくなったのは予想外だったがな」
「うぅ、そ、それは、つ、つい……」
瞬詠のからかい混じりの問いかけに、甘雨は顔を真っ赤に染めながら俯いていた。
「ははは、いやぁ、“3ヶ月後”が、まぁ、楽しみだな。3ヶ月後の“七星迎仙儀式”、今年、岩王帝君から神託を迎える役目が璃月七星の“玉衡”、つまりは“刻晴”だったもんな」
「えぇ、そうです……。正直、嫌な予感しかしません。それに刻晴さん、何かと帝君の事になると、すぐムキになりますし、今回七星迎仙儀式、正直、刻晴さんに任せるのは心配なのですが……。……いえ、何でもありません。とにかく頑張らないと」
甘雨は不安そうな面持ちで呟くと、自分の両頬を軽く叩き、気合を入れ直していた。
「ははっ、そうだな…。そうこうしている内に目的の“総務司”に辿り着いたぞ」
「そうですね」
「そうだな」
「あぁ」
瞬詠はそう言うと足を止めた。目の前には、他の建物よりも一際大きな建物、璃月の様々な実務を担い、璃月を守る千岩軍を束ねている組織、“総務司”の建物があった。
「よし、うんじゃあ、行くか。みんな」
「はい、行きましょう。瞬詠さん」
「うむ、行こう。瞬詠」
「あぁ、行こう。瞬詠」
そして4人は、総務司の中へと入っていったのであった。
次回は日常(もしくは煙緋達の仕事終わりの回?)です。
尚、次回は今後の話の展開上どうしても描写したいものがあるのですが、煙緋視点だけでは描写できない部分があるため、次回のみ(確約はしない)煙緋ともう一人のキャラ視点の回とします。
―――――
◎解説(“七星八門”について※現在判明している範囲のみ)
・“総務司”について
⇒“総務司”は璃月七星の下で璃月の様々な実務を行っている組織であり、その中で璃月の治安維持を担当している“千岩軍”はこの組織の配下に当たります。様々な実務に関しては、璃月港等にいる千岩軍や住民達との会話で何となく色んなことをやってそうなんだなと見て取れます。そして“千岩軍”が総務司の配下にいるという事に関しては、璃月の“とあるシリーズ物の世界任務”の中にある、“とある世界任務”において、とある人物が『夜叉のためにお寺を修繕すると聞いた総務司が、護衛の千岩軍を何名か派遣してくれた』的な事を言っており、総務司が千岩軍に指示を出しているという事実から、“千岩軍”はこの組織の配下に当たる事に関しては間違いなさそうではないと思われます。
・“王山庁”について
⇒“王山庁”は璃月中の書籍や様々な情報資料関連の管理等を行っている組織の機関となっております。ただ、実際はそれに関する決定的な文章や事項を見つける事が出来ず、唯一裏付けられたのは、“行秋”のキャラクター詳細の中にあった“神の目”関する記述にて『真理を悟った行秋は、歩理の口訣を作成した。当時の古華派の当主はそれを読み涙を流し、そしてその場で宣言した。「行秋が古華派を必要とするのではなく、古華派が行秋を必要とするのだ」。あれから、この口訣は古華派の要地である「王山厅」に保管されるようになった。』と、確認する事ができ、そこからおそらく書籍関連、それに派生して情報資料関連等の管理等を行っている組織としております。またそれに伴って“古華派”やかつての“古華団”の縁のある者やあった者等の関係者達が務めているという事にしています。
・“和記庁”について
(旧)
⇒“和記庁”は璃月の司法や一部外交関連となっておりますが、まず“璃月の司法”という部分に関しては、和記庁には煙緋の知り合いがおり(“煙緋の悩み…”『和記庁の友人によく釣りに誘われるんだが、切磋琢磨という割には、皆その手腕を見せつけたい気持ちが見え見えでね。そういった人たちに勝つ方法は百通り以上あるんだが、いつも仕事で世話になっているから負かすのも忍びなくて…だから、いつも演技をするんだ、それでわざと負けてやってるってわけ…』と、確認する事が出来ます)、そのやり取りの内容から考えるに、そして“一部外交関連”については、若干こじつけすぎる所があるのかもしれませんが、“エウルアのキャラクターストーリー3”『「先日、西風騎士団の遊撃小隊隊長がドーンマンポートで一人の女性を救出しました。そして調査の結果、港に潜伏していたアビス教団を発見し、一網打尽にしたんです。救出した女性は璃月でも有名な法律家で、後日騎士団は璃月の和記庁から感謝の手紙を…」』という事から、一部外交関連を担っているのではないかと思われました。
(新)
⇒“和記庁”に関しては【天権からの“依頼”と“陰謀”、そして“最悪な未来”】の前書きにある通りに再調査・精査を行い、その結果“和記庁”は“璃月の国内における取引や交易関連、璃月と外国間における通商や貿易関連”を担っていると判断しました。
根拠としては、上記の前書きにある通りの『(甘雨のボイスにて、“和記庁”ではないですがそれに関連する組織である“和記交通”に関してのボイスがあった事。また、スメールのオルモス港にて“和記庁”は海上輸送に関する割り当てを担っている。またスメールの他国との貿易はオルモス港でしか出来ないという情報を確認したため、状況的に確実に言える事として“和記庁”は外国と貿易に伴う輸送関連、つまり『“和記庁”は璃月と他国間との運輸関連の役割を担っている可能性が高い』と判断)しました。また、“和記庁”と“和記交通”の関係を推察してみると、おそらくこれは省庁とその省庁の部署(交通部)か課(交通課)みたいな関係になるのではないかと考えました。そうなると“和記庁”の中に“和記交通”という部や課という関係になるわけですから、和記庁は他の役割を担っている可能性も高いと思われます。(例えば和記庁の本業は“貿易”で、それの関係上“他国間運輸関係”も携わっているみたいな)』である事。
そして再調査・精査して判明した事として、稲妻の鳴神島の離島にて(鎖国解除後の場合は、璃月の璃月港の南口出てすぐの集落にて)、“奔雷手の秦師匠”と言う人がいたのですが、この人が“和記庁”に雇われて李暁という商人の護衛を行っていたという事が判明した事、また和記庁が担っている役割と言うのは、今までのから外交・司法・貿易・交通となっているのですが、今までの情報と再調査した結果を鑑みるに、和記庁の役割は“貿易”であり、そして貿易をするに当たって必要となる他国との貿易限定の外交関連(例えば璃月と他国との流通ルートに関する他国との外交関連)、また輸入する時や輸出する時に関する司法関連(この場合は税関等の手続、また輸出貿易管理令の手続や輸入貿易管理令等の手続等)、実際に外国と貿易する為に輸入や輸出を行う時の交通関連(“秦師匠”の場合だと道中の護衛として、また甘雨のボイスの『飛雲商会が栽培した霓裳花には十分の露が必要ですが…和計交通の方たちは雨の後のぬかるんでいる山道が嫌い…』という事から、和記庁(正確には和記交通)の職員や雇われている人は、商人達の貿易に護衛役や運搬役等として雇われている可能性が高い)を専属で担っている可能性が高いと判断しました。
つまり、和記庁という“庁”単位でみれば“貿易”を担っており、その貿易を実際に行う為や、サポートするための“部門”としてみれば“外交”“司法”“交通”という単位の役割に細分化されている物と判断を行いました。
・“輝山庁”について
⇒“輝山庁”は璃月の鉱業関連を担っていると思われ、これに関しては“明蘊町”にある掲示板にて確認する事が出来ます。
・“銀原庁”について
⇒“銀原庁”は亡き“塩の魔神ヘウリア”を崇拝していた者達の子孫達の多くが務めている、塩業関連を担当している庁となっておりますが、これに関しては“鍾離”の伝説任務である“古聞の章・第一幕 ”等にて確認できた筈であり、またその伝説任務にて、“とある亡き塩の神ヘウリアの信奉者”とも出会っており、その者の所属が“銀原庁”の者であったはずです。
・“盛露庁”について
⇒“盛露庁”は古代に“層岩巨淵”の近くに住んでいた先住民族の末裔達が務め、彼らの代々受け継がれてきた“陶磁器”関連やそれに伴って璃月中の“文化遺産”の保護や管理を担っている庁でありますが、総務司外側の璃月港にある“緋雲の丘の告知板”の“盛露庁の告知”等にて確認する事が出来ると思われます。
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追記1
・“頼み込んで”の部分の修正を行いました。“円周率で猫好き”さん、誤字報告ありがとうございます。
追記2
・“和記庁”に関しての記述や記載を更新・修正しました。