玉衡の元から逃亡したら千岩軍が追いかけて来ていた件について 作:久遠とわ
お久しぶりです。ようやく資格関連から解放されて、自由になった作者です。(試験の結果?…試験はAとBの二種類あって、Aの方は合格、Bの方は不合格でしたよ?…また、再受験して取りに行きますよぉ…)
閑話休題。今回もいつも通り、オリジナル設定や要素、また考察ネタが発揮しております。
尚、実は今回の話はかなり長くなってしまい、製作途中で2万字を超えてしまったため、2話に分割しています。そのため、今回は本来の7話目の前半という事になりますので、よろしくお願いします。
また前回と今回の分の解説に関してですが、今回の話分の解説は前回の分と今回の半分ほどを行い、残りのもう半分は次回に次回の分と合わせて行います。
それと【法律家の師弟達と遭逢する月海亭の二人組】において、“七星八門”について解説したのですが、その中の“和記庁”に関して新たな情報を発見(甘雨のボイスにて、“和記庁”ではないですがそれに関連する組織である“和記交通”に関してのボイスがあった事。また、スメールのオルモス港にて“和記庁”は海上輸送に関する割り当てを担っている。またスメールの他国との貿易はオルモス港でしか出来ないという情報を確認したため、状況的に確実に言える事として“和記庁”は外国と貿易に伴う輸送関連、つまり『“和記庁”は璃月と他国間との運輸関連の役割を担っている可能性が高い』と判断)しました。また、“和記庁”と“和記交通”の関係を推察してみると、おそらくこれは省庁とその省庁の部署(交通部)か課(交通課)みたいな関係になるのではないかと考えました。そうなると“和記庁”の中に“和記交通”という部や課という関係になるわけですから、和記庁は他の役割を担っている可能性も高いと思われます。(例えば和記庁の本業は“貿易”で、それの関係上“他国間運輸関係”も携わっているみたいな)
そのため後日になりますが、一度“和記庁”関連の情報をもう一度調査、精査を行い、それが終わり次第、その【法律家の師弟達と遭逢する月海亭の二人組】の後書きに置いてある“七星八門一覧”の情報を更新・修正を行い、本編でのそれに関する記述部分も修正していきたいと思います。
そして、アンケートの結果もありがとうございます。アンケートの結果は、1位が『八重神子』、2位が同率で『九条裟羅』・『神里綾華』3位は『宵宮』、以降は『久岐忍』、そして『その他※本アンケートの結果を無効化』でした。
そのため次の番外編、稲妻編では『八重神子』視点でこの前の【琉璃亭と”依頼人”】での話やそれ以前の話で上がっていた瞬詠との話や、稲妻に来国、逆に璃月を訪れた際の甘雨との絡みや、そして他の稲妻キャラの絡み、またどの程度かはまだ未定ですが過去の稲妻(“雷電眞”や“狐斎宮”達等が居た頃の時代や漆黒の軍隊(カーンルイア)による稲妻侵攻関連、そして“雷電影”と“国崩”関連)に関しても触れていければと思います。
「___なるほど、78条と79条の違いはその点だったのですね。ようやく理解出来ました」
「うむ、そう言う事だ。忍さんは本当に理解が早いな。…では、次に移るとしようか」
「はい、よろしくお願いします」
とある日の璃月港。またとある日の煙緋法律事務所。そこではいつものように煙緋が自分の弟子である忍に法律についてを教えている最中であった。
煙緋が忍に法律について質問をし、忍がそれに答えるといった形式を取って、その解答に対して合っていれば煙緋が褒め、間違っている場合はどこがどう間違えているのかを指摘しながら正しい答えを教える、と言った感じに教えていくといった形を取っているのである。
だがしかし、ここ最近は…。
「…」
「…あの、煙緋先輩?どうかしましたか?」
忍がふと横を見ると、そこには煙緋が真剣な顔をしながら、何かを考えているかのような様子を見せていたのである。
「あぁ、すまない。少し考え事をしてしまった」
煙緋は忍に謝罪する。
「…先日の瞬詠が煙緋先輩に予告した『とある依頼』、璃月の経済や金融業界を左右しかねない『大きな依頼』についての件ですか?」
「…あぁ、そうだ」
忍は、先日瞬詠が煙緋に話していたことを口に出すと、煙緋はそれに同意するかのように頷いた。
「例の『“北国銀行・璃月港支店”開業計画』という案件。…あれが一週間以内には私の元にやってくるだろうという話だったからな。どうにもその件の方が気になって仕方がないのだ」
(それに元々その件、ここ最近様々な法律に関する相談を受けた客達が、よく世間話として話題に出していたので気になってはいたが…なぜ、瞬詠はあそこまで警戒しているのだろうか)
煙緋はあの時見せていた瞬詠。普段のどこか適当で自由気まま、真面目とは程遠い雰囲気とは違い、あの時の瞬詠は一切の緩い雰囲気が消え失せた真面目な雰囲気とも言えばいいのか、真剣そのものの雰囲気を纏っていると言えばいいのか、とにかくただならぬ覚悟でも決めているかのような雰囲気が漂っていたのであったのだ。
「…」
煙緋にとって、その時の瞬詠は初めて見る光景でもあった。だからそれも相まって余計に気になっているのかもしれない。
「……まぁ、考えても仕方がないな。さて次は___」
煙緋が忍に次はどの法律の条項や条文に質問を投げ掛けようかと考えた。
そして、その時であった。
「こんにちは、煙緋さん。お邪魔します」
煙緋法律事務所の扉が開かれ、一人の女性が事務所の中に入ってきたのである。
「___ん?あ、甘雨先輩!」
「あ、甘雨さん」
煙緋と忍はすぐさま開かれた扉の方に視線を向ける。そして視線の先には月海亭、そして璃月七星全体の秘書を担っている甘雨の姿であった。
「甘雨先輩、今日はどうなされましたか?___あ」
(それは、もしかして…)
そして煙緋は法律事務所に入った甘雨を、甘雨が抱えているある物、分厚めの資料、正確には厳重な封まで施されている資料を見て、すぐに察した。その資料は、まさしく今自分が気にかけていた案件に関わる書類であることに間違いはないからだ。
「甘雨先輩、その手にあるのってまさか……」
「はい、煙緋さん。こちらは『月海亭』、そして『群玉閣』から煙緋さん宛への依頼に関する資料です。それで本日はこちらまで伺わせていただきました」
そう言うと、甘雨は抱えていた資料の束を煙緋に見せる。その資料、資料の先頭には『最重要・極秘機密文書』に『指定者以外の閲覧厳禁』、またその文字の後には『“天権”・特例認可済』、そして『閲覧指定者-“煙緋”、並びに“閲覧指定者の煙緋が閲覧の許可をした者達”のみ-』と書かれていた。
「…こ、これは」
「これは、随分と大掛かりですね」
「えぇ、ですがそれだけ重要な内容、“凝光”さんから煙緋さんへの『依頼』となります」
忍は甘雨が見せてきた書類をまじまじと見つめる。煙緋もまた同様だ。そして甘雨も真剣な表情を浮かべながら2人に話す。
「…ふむ、分かりました。甘雨先輩、まずはこちらの席に腰をかけてください。忍、すまないが席にある本等を全部片づけてくれないか?」
「は、はい!分かりました!」
煙緋は甘雨を自分の前の椅子に座るように促すと、忍は慌てて本や紙等の散らかっている机の上を急いで整理し始める。
「ふぅ、これで大丈夫でしょうか?」
「うむ、ありがとう、忍さん。では甘雨先輩、その資料をそちらに」
「はい、煙緋さん」
忍がせっせと整理したおかげで、なんとか3人が同時に見れるぐらいに綺麗になった机の上に、甘雨は手にしていたその重要機密事項が書かれた書類の山を置いた。
「……よし、準備完了だ。では早速拝読させていただくとしよう。因みに、甘雨先輩はこの資料の中身や依頼内容についてを何かご存知だったりしますか?もし何か知っているようでしたら、その内容を教えて欲しいのですが……」
「いえ、残念ながら私はこの資料の中身や依頼内容については一切知りません。この資料の中身や依頼内容を把握しているのは依頼人である“凝光”さん。…そして“瞬詠”さんのただ二人のみとなっています」
「凝光殿、それに瞬詠だと」
「凝光、それにまさか、瞬詠もか」
“凝光”、そして“瞬詠”と、意外な名前が飛び出てきたことに煙緋と忍は驚きを見せる。
「はい、そうです。すみません、本来でしたら瞬詠さんも私と同行し、そして瞬詠さんの方からこの案件、凝光さんからの依頼を直接お伝えする筈だったのですが……」
甘雨はどこか不安そうな顔をしながら話を続ける。
「瞬詠に何かあったのですか?」
煙緋は甘雨に尋ねると、甘雨は申し訳なさそうに顔を俯かせた。
「えっと実は…その瞬詠さんに緊急の用件が出来てしまったらしくて、瞬詠さんが同行する事が出来なくなり、私が一人で煙緋さんの法律事務所を訪れる事になってしまったのです」
「なっ、そうだったのですか?」
「はい、瞬詠さんが私に『すまない、甘雨。“不測の事態”、まだ何が起きたのか、何が起きようとしているのかは不明だが、もしかしたら“緊急事態”が発生してしまったかもしれない。“自分”、いや“俺”は甘雨、お前さんと同行することが出来なくなってしまった。本当にすまない』と…」
「“不測の事態”、それに“緊急事態”ですか?」
(一体、何があったんだ?)
煙緋は首を傾げる。
「はい、そうです。そして今の月海亭、また七星八門の四分の一から三分の一程度の職員や機能等、それに総務司にいる一部の千岩軍の兵士達も、瞬詠さんの判断で凝光さんから瞬詠さんに与えられた特別な“権限”を発動させた影響で、一時的に瞬詠さんの元にそれらが集約され、そうして瞬詠さんの指揮下で動いているのです」
「な、なんだって!?」
「なに!?」
甘雨の言葉を聞いた途端、煙緋と忍は目を見開いて驚く。
「…そうだったのですか。因みに甘雨先輩。もしかして、甘雨先輩も…?」
「は、はい。私も一時的に瞬詠さんの指揮下に入っております。期間は、『現在発生してしまっている“事案”の対応の終了』、もしくは『事案と関係のある“璃月七星の当該人物”に、その事案が引継がれるまで』…と」
甘雨は煙緋の問いに答える。その言葉を聞いて、煙緋は甘雨が一人でここに来た理由を完全に理解した。
「なるほど、そういうことだったのですね。だから甘雨先輩はこうしてここに一人で来たわけですか…」
(いったい、今の璃月港、いや今の璃月に一体何が起きているというのだ?)
煙緋は心の中で疑問を抱き、そして僅かに額に汗を滲ませる。
「…あの、甘雨さん。あいつ、瞬詠は、その、何をしようとしているのですか?それに瞬詠は、何か、何かを言っていましたか?それにこの璃月に何が起きているのですか?」
煙緋の隣にいた忍が恐る恐る甘雨に質問をする。すると甘雨は一瞬だけ目を閉じてから答えた。
「はい、忍さん。…その、私には瞬詠さんが何をしようとしているのか、また今の璃月に何が起きているのかは分かりません。ただ___」
甘雨は一度そこで言葉を区切ると、すぐにまた話し出す。
「___ただ、瞬詠さんが凝光さんから与えられた特別な権限で私や私達を指揮下に入れる前、私が予定通り瞬詠さんと煙緋さんの法律事務所を訪れる為、月海亭の瞬詠さん専用のスペースに向かっていたのですが…。その時、その瞬詠さんの専用の作業スペースに、大慌てで瞬詠さんに話しかけてきたいた大勢の人達がいたんです」
「瞬詠に話しかけてきた大勢の人達…?」
「はい、その大勢の人達はいずれも外交関係を担当していた者達だったのですが、その者達の話を聞いていた瞬詠さんは直ぐに顔色を変え、そしてその外交関係の人達に何かしらの命令を出して、その者達を走らさせていました」
「外交関係の者達に命令を?」
「はい…ちょっとあんな瞬詠さんを見た事がなかったのでびっくりしてしまい、瞬詠さんが何を命令したのかを聞き取ることは出来ませんでした…。ただ___」
甘雨は一度顔を伏せる。そして直ぐに顔を上げて煙緋達の顔に視線を向ける。
「___ただ、命令を出した後の瞬詠さんは『なんでこのタイミングで、璃月港に“スネージナヤ”からの“お偉い様方達”が団体様でやってくるんだよ__』、『__恐らく“北国銀行・璃月港支店”開業計画関連の会談だと思うが…。全く、“序列”を無視したとしてもそんな人数でやってこられたら、まるでスネージナヤが“砲艦外交”を仕掛けてきたみたいな感じになるじゃねぇかよ__』と、瞬詠さんは小声で呟いていたのを覚えています」
「やはり“スネージナヤ”の“北国銀行・璃月港支店”開業計画関連…」
「それに“お偉い様方達”、そして“序列”や“砲艦外交”…」
煙緋や忍は甘雨の話を聞いて、それぞれ反応を示す。
「はい、また『__お偉い様方達の人数から考えるに…。はぁ、単純計算で璃月方面に“彼ら”の三割近くの人員を動員させている事になるな。…スネージナヤ、“彼ら”の何かしらの強い意志がありそうなくらいは分かるが、目的がはっきりしないと何とも言えないな』」
「…」
「…ふむ」
忍は甘雨の話を聞きながら、何かを考えるかのように視線を上にやり、また煙緋も煙緋で腕を組みながら甘雨の話を聞きながら考える。
「『__あぁ、凝光さんや刻晴とかに判断を仰ぐ時間や、確認を取る時間も無い。それに彼らが“自分”を、“俺”を指名してきてるし、北国銀行の総取締役である“あの人”までもが璃月港まで直接やって来て、俺の事を待っているし…。まぁ、一応は北国銀行開業計画に携わっちゃってるし自分の立場や役職、それに持たされている権限からして、彼らから見たら実質俺が、今の“北国銀行・璃月港支店開業計画”の…、璃月側の“総責任者”みたいなものになっちゃってるところもあるしなぁ…__』とも言っていたのも覚えております。そうして私に気付いた瞬詠さんが、先ほどのように私に“不測の事態”、“緊急事態”と説明し、そして__」
甘雨はそこまで言うと一旦話を止め、小さく息を吐く。それから再び口を開いた。
「『___仕方ない、“真面目”にやるか。今こうしている間にも状況が刻一刻と変わってしまう可能性や危険性があるくらいなら、自分が“直接対応”を、“初動対応”をするのが最善、最適解になるか。…“
甘雨は再びそこで言葉を止めると、また話し出す。
「『__聞けぇ!!一度しか言わん!!耳をかっぽじて、よぉく聞けぇ!!先ほど入った緊急報告により、今の璃月港は不測の事態に突入しつつあると判断した!!そのため、璃月七星“天権”凝光と交わした契約により、凝光から与えられた特別な権限である“緊急統率指揮権”を発動させる事を!!今この場で宣言する!!この事態を早急に対応、解決に導くために必要となる月海亭や七星八門の権限等を、一時的に自分の元に集約させ、俺の指揮下に置く!!』と、月海亭にいる職員達に向かって大声で叫びました。そしてその場にいた職員達に指示を出していき、速やかにこの件と関係のある七星八門や凝光さんがいる群玉閣へと伝令を走らせて情報共有を行わせつつ、そうして瞬詠さんにあらゆる権限が集約、掌握されていったのです」
「なっ……!?」
「あらゆる権限が瞬詠に…だと…?」
甘雨の言葉に忍や煙緋は驚きの反応を見せる。
「はい。その通りです。そうして指示を出し終えた瞬詠さんは、その場にいた何名かの職員達を引き連れて月海亭を出て行きました」
「な、成る程、そ、そうだったのか…」
「…」
煙緋と忍はその日の月海亭、また瞬詠の身に何が起ったのか、何を行ったのかを把握し、煙緋は自身の想像を絶するその状況に言葉を詰まらせ、忍は絶句したかのように目を見開いていた。
「…そうか。前に万民堂でヨォーヨを連れていた瞬詠が香菱に話していた“身分”や“立場”はこれの事か」
はっ、とした様子で呟くように言うと、煙緋は納得したような表情を浮かべる。
あの時に瞬詠が万民堂のコックである香菱との言い合いの時に出た“特別な権限”や“国家権力”、そして瞬詠が『半分”璃月七星”みたいな存在になってしまっている』、といったような言葉を思い出していたのだ。
「…成程、あの時から既にこのような事が出来るほどの地位や立場に就いていた訳か…」
煙緋はかつて瞬詠が語っていた自分に持たされている絶大すぎる強大な影響力を持つ“特別な権限”、そして彼が話していた『半分”璃月七星”みたいな存在になってしまっている』という言葉の意味を理解し、そして納得した。
「…うむ」
「…」
「…」
そして煙緋は頷く。改めて、今の璃月の状況、瞬詠がその“特別な権限”を発動させ、その七星八門や月海亭の指揮を執り始めたという事実の重大さを理解させられた気分になっていた。それは甘雨、また忍も同じようであった。3人は押し黙る。
「…まぁ、私の知りうる限りの事はここまでになります…。あ、それと実は瞬詠さんが煙緋さんへの手紙としてメモを私に預けていました。こちらです」
甘雨は思い出したかのような素振りを見せて懐から手紙を取り出す。それは一枚の紙切れであり、大急ぎで書いたせいか文字が乱れているものの、それでも丁寧に書き記された文章であると見て取れた。
「これを、煙緋さんがこの“北国銀行・璃月港支店開業計画”に関する依頼の資料の中身を確認をする時に、それと同時にこの手紙のメモを一緒に渡して欲しいと頼まれまして。はい、どうぞ」
「なるほど、ありがとうございます、甘雨先輩。確かに瞬詠のメモを、彼から受け取りました」
煙緋は甘雨からそのメモを受け取る。そして手紙の方に視線を向ける。手紙の先頭には“煙緋へ”と書かれていた。
「ふむ…」
煙緋は手紙のの文章を追っていく。瞬詠からの簡単な謝罪、甘雨に持たせた資料の保管等の注意事項、本題の煙緋への依頼内容、そして___
「…なに?」
瞬詠からの手紙を最後まで読み終えた煙緋は、思わず声を上げる。そこに記されていたのは衝撃的な内容だったからだ。煙緋は驚きながら、再び軽くその文面に目を通す。だが何度読んでもその内容は変わらなかった。煙緋は信じられないといった様子で、机の上に置かれた甘雨が持ってきた煙緋への依頼の資料である重要機密事項が書かれた書類の山に目を移す。その瞬間、煙緋の頭の中で全てが繋がった気がした。
「…成程、私宛の“依頼”はそういう事か…。それにこの前の夜蘭さん達との琉璃亭で夕食していた時に、瞬詠が私に予告してきたが、つまりは『“そう言う事”、そういう“危険性”や“陰謀”を“スネージナヤ”、スネージナヤが擁する“ファデュイ”という組織が企てていて、それらを璃月に仕掛けてくるという“最悪な可能性”を考慮していたから』なのか」
(どうりであの時の瞬詠は、まるで覚悟を決めたかのような険しい顔つきをしていた訳だ…。それに“最悪な結末”、そして“最悪な未来”…か)
煙緋は驚きと困惑、混乱が入り混じった複雑な感情を抱きながらも、何とか冷静さを保ちつつ心の中で呟く。そして、改めて自身の目の前にある書類の山と、この璃月港で現在進行形で起こっている出来事について考えていく。
「え、“スネージナヤ”?それに“危険性”ですか?」
「“ファデュイ”?“陰謀”?どういうことですか、煙緋先輩」
甘雨と忍の2人は煙緋の言葉に首を傾げる。
「あ、すみません。甘雨先輩、それに忍さんも、それは資料の中身を確認しながら説明しますよ。…甘雨先輩、もう資料の中身を確認していいですよね?」
「あ、はい。大丈夫ですよ」
煙緋は甘雨からの許可を取ると、その手に持っていた手紙を机の上に置く。そして机の上に置かれていた重要機密事項が書かれた書類の山を手に取り、それを甘雨と忍に見せる形でその中身を確認し、甘雨や忍も見やすいように煙緋の隣に立つ。
「…これは、“現在の金融法や銀行法に関する資料”、そして凝光さんが現在改定中の“金融や銀行法に関する予定法案に関する大量の資料”ですね…うわ、こんなに」
「…こっちは、“北国銀行”の融資の審査の可否の決定に関する資料、また現在の融資の実行可能額や返済額の試算表関連…。それと璃月の金融機関、例えばこれは“かつての明華銭荘”を始めとする一般的な“銭荘”方式等の金融機関の融資の審査の可否の決定に関する資料、またこれも現在の融資の実行可能額や返済額の試算表関連ですね…。こんなに、事細かく。確かに機密事項扱いになりますね」
甘雨と忍は煙緋と共に、それぞれの重要機密事項が書かれた書類にざっと目を通しながら呟くように言う。それはあまりにも膨大な量の情報量であった。
「あぁ、そうだ。だが今一番重要なのはこれらではない。忍さんの側にある、“その資料”だ」
煙緋は真剣な表情を浮かべながら、煙緋が見つめていた“その資料”、“北国銀行動向予測一覧”と書かれた、これもまた分厚い資料を指さす。
「取り扱い厳重注意…?」
「第三者閲覧厳禁だって?」
そして甘雨や忍も煙緋の指先にあったその資料に視線を向け、また思わずその資料に書かれている文字を読み上げる。他の資料とは違いその資料にだけ、そのような注意書きが目立つように大きく書かれていたからだ。
「あぁ、その通りだ。それもそのはず、それは瞬詠が独自に調査を行っていた、開業した北国銀行が今後どのように推移していくかの予想や考察をまとめたもの、そして長い時間を掛けて情報収集を行い、それらの情報を取り纏めた瞬詠が導き出した最悪な可能性である、その北国銀行を活用した“璃月属国化工作計画”、並びに“璃月資本侵略計画”という計画の存在。それらの情報が記載された資料だからだ。こんなもの、下手すれば璃月とスネージナヤとの大きな国際問題、最悪両国の国交が断絶しかねない代物だよ」
「そんなものが、この中に!?」
「なんだって!?そんな物が!?」
難しそうな表情を浮かべながら煙緋が言い放った言葉に、甘雨と忍は驚愕の声を上げる。
「勿論、これは独断で動いていた瞬詠や、瞬詠の指示の元で密かに調査してきた者達が独自で調べあげてきたものであり、その内容が事実無根の可能性もある。決定的な証拠はまだ何一つも見つけられていないとの事だからな。…だが、それでもこの内容がもし本当だった場合、そのような計画が実際に現実に存在していた場合には、この璃月に大きな波乱が巻き起こる可能性があるだろう…うむ、よいしょっと」
煙緋はそう言うと席に座る。
「忍さん、そこにある北国銀行の融資に関する資料と北国銀行の資本金に関する資料を。それと計算やメモを取る為の筆と紙も。甘雨先輩、そちらにある現行の金融・銀行法の資料の一覧表と改定予定の金融・銀行法の資料の一覧表を上下で対比できるよう、こちらに」
「分かりました、煙緋先輩。はい、どうぞ」
「はい、煙緋さん。どうぞ、こちらですね」
そしてすぐに、忍と甘雨に指示を出して所定の位置にそれらの資料を置かせた。
「えっと…この記載のあるこのページだな。そして瞬詠からの手紙によれば…」
煙緋はそう呟きながら、”北国銀行動向予測一覧”の資料の所定のページを開き、また瞬詠からの手紙を再び手に取り、そこに記載されていた内容と手元にあるそれらの資料の内容を照らし合わせていく。
「ふむ、ここの額と額、それにこの額だろ。後は現行の銀行法の第12条第2項、金融法第17条1号のこの部分が、仮にその通りに解釈されてしまった場合…」
「…」
「…」
煙緋は慣れた手つきで次々と資料を捲り、確認しながら思案するかのようにぶつぶつと言いながら考え込み始める。そして隣に立つ甘雨と忍は固唾を飲んでその様子を見守る。
それは煙緋がどのような結論を導いてしまうのかという不安、そして自分達の目の前でそれ以上に自分達には理解できないような高度な知識を用いて、北国銀行、そしてファデュイの企みを見破り、暴こうとする、普段は決して見せないであろう、完全に本気になった“璃月港で有名な法律家”の姿であり、“璃月一流の法律家”の姿でもある“煙緋”の姿が、そこにあったからである。
「…よし、繋がった」
そして煙緋は何かを確信したのか、ようやくやり遂げられたぞ、とでも言うように、満足げな表情を浮かべて呟いた。
「…煙緋さん、一体どんな事が分かったのですか?」
「…煙緋先輩、どういう事が分かったのでしょうか?」
煙緋の言葉を聞いた甘雨と忍が恐る恐る尋ねると、煙緋は席を立ち、二人に説明を始める。
「あぁ、説明しよう。まずは、瞬詠からの手紙の内容にあった“この部分”に注目してほしい」
「えっと…」
「どれどれ…」
煙緋は瞬詠の手紙の文章のとある部分を指し示して言うと、甘雨や忍もその手紙を覗きこむようにして、その部分に視線を向ける。
「この文章の、『__ファデュイの“璃月属国化工作計画”、並びに“璃月資本侵略計画”を完遂する為には、最終的に璃月の“実権を完全に掌握”しなければならない。つまり、ファデュイの最終目標、それは現在の璃月の統治者とも言える岩王帝君に次ぐ、“璃月を統轄する七人の尊貫なる者達”、つまりは“璃月七星の完全なる掌握、もしくは彼らを自分達の思い通りに動かせる駒にする事”』。つまりは、ファデュイは“璃月七星”を手中に収めようとしているという事だ」
「なっ!?」
「っ!?」
煙緋は真剣な表情を浮かべてその部分を指さす。そして甘雨や忍も驚きに目を大きく見開く。
「まぁ、驚くのも無理はない。私だってこれを読んで、そんな馬鹿な事があるのかと思ったよ。…だが、これは紛れもない事実なんだ」
「そ、そんな…い、いえ、そんなのは嘘、嘘ですよね?…ねえ、煙緋さん…?」
煙緋は深刻な表情を浮かべて静かに告げると、甘雨は動揺した様子で尋ね返す。
「甘雨先輩。残念だが、これは事実だ。先輩、璃月七星がどういう存在なのかを、よく考えてみてくれ。彼らは岩王帝君が毎年出した方針に従い、実際にその方針に従って璃月を統治する七人の有力者達。それ故に彼らによって璃月は治められているといっても過言ではない。だが、___」
煙緋はそこまで言い切ると、目を閉じる。そして数秒程黙った後、再び口を開く。
「___しかしだ。その璃月七星の“とある点”、そして“とある制度”。この二つを上手いこと同時に、ファデュイに利用されてしまえば“璃月七星”が彼らに乗っ取られてしまう可能性が格段と上がってしまうんだ」
「えっ!?そ、それは!!それらは!!一体何なんですか!?」
「…っ!?煙緋先輩!!その“とある点”、そして“とある制度”って、何なんですか!?」
甘雨は慌てたように煙緋に尋ね、そして遂に耐えきれなかった忍も声を荒げる。
「ふむ、それはだな…。璃月七星、“いずれの七星のメンバーも、有力な大商人であったり商人貴族、またはビジネスのリーダーという、いずれも商業や貿易に関するその業界や実業界を牽引するほどの力を持つ人物であったり、強大な影響力を持った有力者や実力者ばかり”という点。そして璃月七星が、七星メンバーの引退等でメンバーの入れ替わり等を行う時に行われる“七星選考”という制度だ」
「“業界や実業界にて強大な影響力を持った有力者や実力者ばかり”という点ですか…?」
「“七星選考”という制度…ですか?」
煙緋の説明に甘雨と忍は首を傾げながら尋ねる。
「ああ、そうだ。群玉閣からの、天権“凝光”殿からの依頼内容も兼ねて、順を追って説明するとな__」
「__ぇっ!?」
「__っぅ!?」
煙緋は順を追って説明していく。そして説明を受ける甘雨と忍の顔色がどんどん青ざめて行き、驚愕に染まっていったのであった。
次回は本来の7話の分の後編です。後編の投稿予定日に関しては、現状8月の上旬の中間辺りから中旬の初めの辺りまでには投稿する予定です。
尚、“七星選考”に関してはオリジナル設定に当たるもの(厳密には璃月七星のメンバーになるための規定やその資格者に関する規定などがあるはずだと思ったのですが、作者の力では有力そうな情報が見つからず、その部分はオリジナルとしています)です。これに関しては次回か次々回以降のどこかで解説を行おうと思います。
―――――
◎解説(前回の“笹百合”、今回の“明華銭荘”について)
・“笹百合”について
→“笹百合”に関してですが、現状が稲妻の番外編の主人公が『八重神子』と決まり、またどの程度稲妻の過去についてを掘り下げるのかが未定のためにネタバレ防止の保険として、取り合えず基本的な情報のみで纏めますと“笹百合”は、雷電将軍の盟友の一人であり、『影向天狗』の武者である男性と思われます。また彼は『大天狗』と呼ばれるほどの実力を持ち、その厚い忠義から『愛将』とも呼ばれていた男性のようです。
尚『影向天狗』とは何者なのかという事ですが、『影向天狗』とはその名の通り、『“影向山(稲妻の鳴神島にある山で、その山頂には鳴神大社がある山)”に住んでいた天狗達の総称の事』だと思われます。
まだ作者は稲妻の考察を行えるほどの詳しい情報を集めていないために断言することはできません(むしろ間違っている可能性もありえます)が、天狗である“笹百合”はこの山と関連がある、もしくはこの山の出身(天狗達が他の山や場所に住んでいるという情報が見つからなかったため)であり、天狗の血が流れている事から血縁関係上で、ある意味“笹百合”の孫とも言えるかもしれない“九条沙羅”もおそらく、その影向山の出身であると思われます。
一応、彼女のキャラクターストーリーの『人間と共に育ったとはいえ、裟羅は天狗の習性を持っている。たまに天領奉行所を離れるが、そのほとんどは山に行くためである。彼女は山に詳しく、人間の物語ではあまり語られることのない、多くの妖魔を見てきた。』という件の“山”はおそらく自身と関係のある影向山のはずであり、また彼女の神の目に関する文言、天領奉行、幕府軍に入る前の過去に関する文言である『彼女は元々、穏やかな山の森に住んでいた。いつの日か、悪霊が騒ぎ出し、かつての平和を失った。天狗の力をもってしても、幼かった彼女は魔物に対抗できなかった。そして、戦いで羽を傷付けられ、崖から落とされた。高所から落ちた彼女は、傷ついた翼を開くことができず、絶望しながら地面へと落下していった。「そんなはずはない!私の力があれば、この山を永遠に守れると思っていたのに…」翌朝、山の麓を通りかかった住民が、道端で倒れている少女を見つけた。その少女は、取り乱してはいたが、無傷のようであり、なぜそこに横たわっていたのかという謎が深まった。人々はあまりにも驚きながら、彼女を町に連れて帰り、天領奉行に報告した。』とある事から、この穏やかな山の森、また崖や山の麓というのは、影向山の事を指しているのではないのかと思いました。
尚、影向山には天狗以外に住んでいるかどうかは正直不明です。ですが肯定出来る材料や否定できる材料も無い事から、作者的にはもしかしたら天狗以外に住んでいた可能性もありえるのでは無いのかと思います。根拠としては正直弱いと思いますが、過去の期間限定イベント『秋津ノ夜森肝試し大会』にて妖怪(モブでしたが…)の一つ目小僧、河童、妖狐の子供達が登場していた事、また彼ら(確か妖狐辺りが言っていた筈…)は山に住んでいると言っていたため、もしかしたら、影向山には天狗達ほどではありませんが、他の種族の妖怪達や妖怪も住んでいる、もしくは住んでいた可能性が充分ありえるため、今の影向山は分かりませんが昔の影向山はもしかしたら、他種族の妖怪達が共存するという、言うなれば妖怪の山的な感じになっていた可能性を否定することは出来ないかと思われます。
・“明華銭荘”について
→“明華銭荘”に関してですが、これは“徳安公”(昼に冒険者協会の隣の建物の近くにいる老人)が所有していた彼の銭荘の事です。“明華銭荘”自体に関しては次回も取り扱うのでそれ自体の解説を行いません。
ただ余談になりますが、そもそも“銭荘”と言うのは、Wikipediaやコトバンク等から纏めると、『中国の旧式の商業金融機関、明代から清代にかけて行われた小規模な金融機関の事。19世紀の初め以来、銭票、銀票、会票などを発行し、銭、銀の預金、貸付、為替(かわせ)手形を扱っていたが、近代銀行制度の導入とともに衰亡』となっており、かつての中国の小規模な銀行みたいなものと見ても良い事から、“銭荘”は璃月のローカル銀行、ローカルの金融機関としております。
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追記1
・“何を行ったのかを把握し”の部分と“自分に持たされている”の部分の修正を行いました。“円周率で猫好き”さん、誤字報告ありがとうございます。
追記2
・“そのような計画が実際に存在してしまった場合”という行の部分を、“そのような計画が実際に現実に存在していた場合”と修正しました。