玉衡の元から逃亡したら千岩軍が追いかけて来ていた件について 作:久遠とわ
今回は前回の続き(本来の7話目の後半部分)です。
今回もオリジナル設定や要素、また考察ネタが発揮しております。
尚、前回述べました“和記庁”に関する事ですが、再調査・精査を終えて新たな事実も判明した為、これらを鑑みて、【法律家の師弟達と遭逢する月海亭の二人組】の本編の“和記庁”に関する内容、並びに後書きにある“七星八門”リスト(解説集)の“和記庁”の文言を更新しましたので、よろしくお願いします。
「___という事だ。これが、瞬詠が予測、観測した“最悪な結末”、言うなれば“最悪な未来”という訳だ」
煙緋はそう言い切ると、ふっと息を吐いて、一呼吸置く。そしてゆっくりと瞼を開けると、鋭い眼差しで二人を見据える。
「あ、ぁっ…ぁぁ…そ、そんな、そんなぁ」
「っ…た、確かに、そ、それならば…それであれば、納得、納得ができます」
煙緋の言葉を聞いた二人は衝撃を受けたかのように、顔を真っ青にして、震えた声で呟く。
「うむ、本当にだ。…私だって、私だって受け入れたくはない。本来であれば、璃月の危機が訪れれば仙人達や岩王帝君が動いてくれるだろう。だが、これの場合は違う。本当にこれはよくできた計略や策略だよ。何故なら、___」
煙緋は真剣な表情で二人に言うと、苦虫を噛み潰したよう表情を浮かべながら言葉を続ける。
「____これは人間と妖魔との戦いではなく、同じ人間と人間との戦い。しかもこれは決して血が流れる戦いという訳でもないから、仙人達や岩王帝君が動く可能性が高いとも言えない。むしろ、お互い双方が納得した上で契約を結んでしまうという点のせいで、彼らが動くのが低いのではないかとすら思える…。スネージナヤ、ファデュイの裏の意図を見抜けずに。…だからこそだ。なんとかしなければならない」
そうして苦虫を噛み潰したよう表情を浮かべていた煙緋は一変して、決意に満ちた瞳を瞬詠からの手紙、最後の文章へと向ける。
「…うむ」
(“やろう”。私、いや私達の手で)
煙緋は心の中でそう決心すると、改めて甘雨と忍の方に向き直る。
「っ、ぅぅ、くぅっ」
「甘雨さん、大丈夫ですか。甘雨さん、甘雨さん」
甘雨は胸を押さえて苦しそうな表情を浮かべている。あまりにもショッキングな情報の連続に、身体に負荷がかかってしまったのであろう。甘雨は疲れ切ったかのように席に座り込み、甘雨の瞳から涙が溢れ出す。そんな彼女を見て、忍は心配して駆け寄り、彼女の背中を優しく撫でる。
「…甘雨先輩、それに忍さん。“瞬詠”の手紙の最後の文章の言葉だ。…『俺達の明日を、そして未来を。また璃月の明日、そうして璃月の未来を守ろう。これを読んでいる“煙緋”、それにこれを聞いている“忍”や“甘雨”__」
「っ!?…ぇっ、瞬詠…さん?」
「っ!?…瞬詠?」
涙を流していた甘雨は驚いたように顔を上げ、忍も驚いたかのように顔をあげる。そして、煙緋が手にしていた瞬詠の手紙に二人は視線を向ける。
「そして璃月の明日や未来を守らんとするために群玉閣で、今もなお試行錯誤してあらゆる可能性に関してを熟慮しながら、独りで“法律”と言うフィールドで戦い続けている“凝光”さんや、この案件と直接的な関わりがあるわけではないが、その凝光さんを手助けする為に北国銀行の“建設”という面から凝光をサポートし、そうして奔走し続ける“刻晴”、皆の手で。そして、そんなふざけた未来を、そんな未来を押し付けようとするファデュイの陰謀、それを自分達の手で打ち砕き、奴らに璃月の底力を見せつけてやろう』…だ、そうだ」
煙緋は手紙を最後まで読み上げると、ふぅっと息を吐き、甘雨と忍の方を見る。
「…甘雨先輩、やりましょう。未来を変えましょう。瞬詠の言う通り、私達の力で。スネージナヤ、ファデュイが描き上げようとしている、そんな未来を変えてやりましょう。私達の手でその最悪の未来を」
煙緋はそう言うと、席に座り込んでいた甘雨に右手を差し伸べる。
「……ええ、ええ!勿論です!!必ず、やりましょう!!やり遂げてみせましょう!!璃月の未来は璃月だけのものです。その未来を、私達の未来を!!スネージナヤ、ファデュイに奪われるのを、黙って見過ごすわけにもいきません!!」
甘雨は煙緋の手を取り、力強く立ち上がる。そして決意に満ちた表情で煙緋に言う。
「…煙緋先輩。私にも手伝わせてください。私は稲妻人であるために、これは他国の問題であるために関係は無いですが、しかし……私がお世話になった国、またもしかしたらその国の煙緋先輩や甘雨さん達に何かあった時、きっと後悔すると思うんです。それにもしかしたら、他にも何らかの危機に晒される可能性もあるかもしれない。なればこそ、放っておく訳にもいかない。煙緋先輩、もし私に何か出来ることがあれば、是非協力させてほしい。どうか、お願いします」
忍は煙緋を見つめながら立ち上がり、真剣な表情で言う。
「…あぁ、ああ!!ありがとう!!忍さん!!よろしく頼む!!」
「はい、任せて下さい」
「忍さん……こちらこそ、宜しく御願い致します」
煙緋は嬉しそうに笑いながら忍に言うと、忍は真摯に答える。そして甘雨はふわりとした笑みを浮かべながらも、しっかりとした口調で忍に言ったのであった。
◆◆◆◆◆
「…特に異常は見当たらないな」
「…なぁ、何で俺達は駆り出されたんだ?」
「いや、詳しい話は知らないが、何でも今の璃月港に、外国からのお偉い様方達が大勢来ているらしいぞ。それで警備を強化する為に、人手が足りないとかなんとか。だから、こうして俺達までもが駆り出されて、見回りさせられてるんだろう」
「はぁ、なるほどなぁ。にしても、外国のお偉い様方達ね…。一体、何が起きたのやら?」
陽が真上から少し傾き始めた頃の璃月港、茶色い服に槍を手にした男達が並んで歩く。その男達は同僚達と話をしながらも、周囲の警戒は怠っていないのか、視線をあちこちに向けながら話していた。
「___甘雨先輩。やけに千岩軍の兵士達がいつもよりも多い気がしますが…。これも、やはり…?」
「はい、そうです。煙緋さん。瞬詠さんが発動した“緊急統率指揮権”の影響です。おそらく、この兵士達は瞬詠さんの指揮下に入った“総務司”の命令により、急遽璃月港内の警備や警戒の為に駆り出された者達かと…」
「この兵士達全員、あいつ、瞬詠の指示で動いているのか…」
瞬詠の“緊急統率指揮権”影響下にある璃月港の街を歩く煙緋は、ふと感じた違和感、何故か“千岩軍の兵士達がいつもよりも多い”違和感についてを甘雨に尋ねる。そして彼女は冷静な面持ちのまま、煙緋が感じた疑問に対して答えを出す。そしてそれを聞いていた忍は驚いたような表情で呟いた。
あの後、これからどうするかのを話し合った煙緋達は、煙緋曰く、『凝光殿からの依頼を完璧にこなすには、現在の璃月において業界のトップに立つ商会の情報。例えば私の“得意先”でもある“絹産業”や“紡績産業”の大手であり、また“織物業界”で
だがしかし、何の準備もせずにいきなり直接各商会を訪問するのは不可能であったため、甘雨の、『まずは“王山庁”を訪ねてみては?王山庁であれば、璃月中の書籍や様々な情報資料関連の管理等を行っていますので、煙緋さんが欲するような情報が見つかると思います。それに私も同行すれば王山庁の方々が、すぐにでも煙緋さん達に協力してくれると思います』という言葉に従い、三人はまず七星八門の“王山庁”へ向かう事にしたのであった。
「…ふむ」
(どこを見渡しても、必ず千岩軍の兵士がいるな)
煙緋はさり気なく辺りをきょろきょろと見渡しながら、そんな事を思っていた。
そして、その時であった。
「…あれは?」
甘雨の視界に何かが入り、思わずそう口を開いた。
「ん?どうしました、甘雨先輩」
「どうしましたか?甘雨さん」
甘雨の言葉を聞き、煙緋と忍は彼女が見つめる方向に目を向ける。
「なぁ、なんだあれ?」
「あれはどこかの国の外交団の人達じゃないのか?それに服装的に璃月の月海亭か七星八門の人達と一緒にいるし」
「まぁ、そうだろう。それに千岩軍の兵士達も彼らと付き添うかのように歩いているからな」
「…参ったな、こんなに偉そうな人達がいるなんて。道を迂回するしかないのか?」
「「「「…」」」」
「「「「…」」」」
「「「「…」」」」
そこにはちょっとした人だかりが出来る程集まった野次馬達。そしてその野次馬達の視線の先にある道のど真ん中で、スネージナヤ洋装の服装をし灰色の仮面を身に着けた男や女達、そしてすぐ近くに璃月様式の服装を来た男や女達、おそらく外交関係の者達か甘雨が言っていた瞬詠が連れ出した月海亭の職員達の双方の面々がとても緊張した様子で立ち、そうしてそのスネージナヤ人達と璃月人達の一団を護衛、警護するようにして立っている千岩軍の兵士の姿があった。
そしてその異様な光景の中心には、___
「ほぉ、この建物がそうですか?“瞬詠”殿?これは中々に立派な建物ですね」
「あぁ、以前にやり取りした『雄鶏』の“プルチネッラ”さんの要望でな。『璃月港に開業する北国銀行は璃月様式の建築で、可能な限り壮麗かつ荘厳に仕上げて欲しい』って要望があってね。その要望に応える為に、それに相応しい設計、そしてそれに相応しい土地の選定、そうして今内装の方の最終段階に入っているという訳だ」
「へぇ、そうなんですか。あの“市長”殿はそのような要望を…。それに我が北国銀行の為にそこまでして頂けるとは、とても嬉しい限りだ…。スネージナヤの私ども銀行家の代表として、“瞬詠”殿、そして貴方の上司である『玉衡』“刻晴”殿に最大限の感謝を申し上げます」
「…まぁ、それが仕事だしな。ただ、スネージナヤのお偉いさんの要望に可能な限り答えただけだ。『富者』の“パンタローネ”さん」
___お偉い様方達の対応をしていた“瞬詠”と、そのスネージナヤの“お偉い様方”の一人である、黒服のどこか胡散臭いにこやかな笑みを浮かべる、眼鏡をかけた糸目の黒髪男性、瞬詠に『富者』、“パンタローネ”と呼ばれた男が、まるで久しぶりに会った友人のように親しげに会話をしている姿が見えた。
「えっと……、あれは、瞬詠さん達ですよね……?」
「…あぁ、そう…だな。あいつ、瞬詠で間違いないだろう…」
野次馬達の後ろに付いた甘雨と忍は、目の前にまさか瞬詠達がいたことに少し驚いているのか呆気に取られているのか、目を丸くしながら彼らの様子を見ていた。
「…瞬詠、そして瞬詠の隣にいる、あの黒い眼鏡をかけた男___」
(___あの男が、スネージナヤから来た“お偉い様方達”の一人か……。しかし、何故こんな所に……?)
そして野次馬達の隙間から覗き見るように見つめる煙緋は、瞬詠達の様子よりも彼の隣にいた男の方が気になったのか、そちらの方へと視線を向けながら考えるように呟く。
「…うん?誰だ?」
「…おや?誰でしょうか?」
そして軽い世間話でもするかのように、会話をしていた瞬詠とパンタローネの二人は煙緋達の視線に気づいたのか、同時に煙緋の方に視線を向けた。
「ぁっ」
そして瞬詠は煙緋達の存在に気づくと一瞬だけ驚いたような表情を見せ、すぐに僅かに顔をしかめる。それは、何故、どうして、このタイミングで、この場に煙緋達がいるんだ、という疑問と戸惑い、そして苛立ちや焦りと言った表情であった。
「…おや、彼女達は一体何者でしょうか?…瞬詠さん、彼女達をご存知のようですね?彼女達は何者でしょうか?」
そしてパンタローネも自分と瞬詠をじっと見つめていた煙緋達に気づき、不思議そうに首を傾げる。そしてチラッと瞬詠の方に目を向けると、瞬詠の僅かな反応を見て、瞬詠は煙緋達と何らかの関わりがある人物だと判断し、瞬詠に尋ねたのであった。
「あ、あぁ、彼女達は俺の知り合いだ。…一人は月海亭の職員で同僚、もう一人は知り合いの法律家に、そしてその法律家の弟子の稲妻人だ」
瞬詠はパンタローネにまるで言葉を慎重に選んでいるかのような様子で答える。それはまるでこの男の興味が煙緋達に向かないように、当たり障りのない事を言う事で何とかして注意を逸らそうとしていたかのようであった。
「ほぉ、そうなんですか…。月海亭の同僚に、法律家の知り合いに、その弟子の稲妻人ですか…?」
しかし瞬詠の思いとは裏腹に、パンタローネは興味深そうな顔をしながら煙緋達の方をジロジロと見つめいる。
「…いや、待ってください。法律家…?璃月の法律家?」
そしてパンタローネは、瞬詠の言った言葉の中に引っかかる単語があったのか、眉間にしわを寄せて考え込む。
「法律家、璃月の法律家、…そしてあの朱の髪の女性…。あ、あぁ、もしかして___」
そうしてパンタローネは何かに気づいたのか、納得した様子、そして少しニヤリとした嫌な笑みを浮かべると、瞬詠に呟く。
「___“煙緋”さんですか。璃月港で、そして璃月で名高い、あの“法律家”ですね?」
「…まぁな、璃月港で最も有名な法律家の“煙緋”だよ」
瞬詠は同意するかのように頷く。だが、先ほどまで見せていた怒りや焦りは消え、今は冷静さを取り戻し、まるで想定内だったと言わんばかりに落ち着いた様子を見せていた。
「ふむ、成程、成程…。そうですか、そうですか」
「…ふんっ」
パンタローネは、まるで面白いものを見つけたとでも言うような愉快そうな表情を見せる。そんな彼に対して瞬詠は、ただ黙ったまま何も答えない。
「…」
そしてパンタローネは煙緋達を見つめながら、彼女達に向かって歩き出す。もっと近くで彼女達、煙緋達を観察したいと思ったのだろうか。
「…ちっ」
そして煙緋達の元に歩き始めたパンタローネを見た瞬詠は、パンタローネに聞こえないほどの小さな舌打ちをし、彼の後を追うようにして歩いて行く。
「「…」」
「「…」」
「「…」」
またスネージナヤ人の一団と璃月人の一団、そして彼らの護衛や警護に付いていた千岩軍の兵士達もパンタローネと瞬詠の後を追うように歩いていく。
「あ、あれ、なんか近づいて来たぞ?」
「う、うん?な、なんだ?」
「真っ直ぐ近づいているぞ?と、取り合えず、どいた方が良いんじゃないか?」
「ま、まぁ、そうだな」
そして野次馬達は、何故かパンタローネと瞬詠達が近づいてくることに戸惑いや疑問を感じながらも、そうして煙緋達への道を開けていき、___
「あ、あれ?な、何故か、瞬詠さんと、あの黒いスネージナヤ人の人が、私達に向かって近づいて来てます…ね?」
「そ、そうですね。甘雨先輩。い、一体、どうしたのでしょうか?」
「……」
___突然の事態に甘雨と煙緋は動揺し、忍は自分達の元に近づいてくるパンタローネに、なぜか分からないが警戒心を抱き、思わず一歩後ろに下がる。
「どうも、こんにちは。私はスネージナヤの銀行家達共々の代表、そして北国銀行の総取締役をしております“パンタローネ”と申し上げます。以降、お見知り置きを」
そうして煙緋の元に辿り着いたパンタローネは礼儀正しく頭を下げ、自己紹介をした。
「…」
そしてパンタローネの後を追っていた瞬詠は、彼の元に辿り着くと腕を組みながら静観する。それはパンタローネが余計な事をしないように監視しているかのようであった。
「おぉ、これはご丁寧にどうも、ありがとうございます。こんにちは。私は“煙緋”。璃月の法律家です」
(…ほぉ、この男が北国銀行の総取締役であり、スネージナヤの銀行家達の代表か)
煙緋は顔に微笑みを浮かべつつ、この男、北国銀行の銀行の総取締役でありスネージナヤの銀行家の代表である“パンタローネ”について考える。
スネージナヤの銀行家達、正確には最近璃月の金融業界や銀行業界等の経済界の市場に入ってきたスネージナヤの銀行家達の代表、つまりは瞬詠が示した“璃月資本侵略計画”の鍵を握る人物だ。現在のスネージナヤの資本を璃月に入れている動き、そして璃月の金融機関である“銭荘”を合法的に買収を行っている動きの全ての黒幕であり、張本人と言っても過言ではない男である。
「…」
煙緋は、目の前にいるこの男の目をじっと見る。
以前に、忍が煙緋の弟子入りする前に、煙緋法律事務所の元に多くの“銭荘”の経営者達が煙緋に相談を、スネージナヤの銀行家達の買収を食い止めて欲しいという依頼がやって来た。だが、彼らが用いてきた手段は全て合法的な物であり、問題点や指摘できる点も無かったため、法律家である煙緋は介入する事が出来なかったのだ。それ故、煙緋は彼らに、もう少し冷静になって欲しいと諭す事しかできなかった。
「…」
パンタローネはチラッと甘雨や忍の方に興味深げに視線を向ける。
そうして最終的に起こってしまったのは、スネージナヤから送られてきた莫大な資本の前に彼らの“銭荘”がスネージナヤの銀行家達らに買収されてしまい、スネージナヤの銀行家達の傘下に入ってしまったという出来事であった。幸いにも買収された銭荘は小規模程度の物であったため、この時はまだ璃月の金融業界や銀行業界等の経済界の市場には大した影響は無かったので救いはあった。
だがしかし、彼らは合法的に買収し乗っ取った銭荘をスネージナヤの銀行家達、そして“ファデュイ”の璃月の市場への橋頭保となってしまったのだ。
「…」
煙緋の額に冷や汗が滲む。
そうして間隙を置かずに更なる“銭荘”の買収、遂にはかつての栄華に比べて少々の影を落としていたものの、それでも銭荘の中では老舗でもある“徳安公”の“明華銭荘”という有名な銭荘を始めとする銭荘までも買収されてしまう。
最終的には璃月における決して少なくはない数の小規模な銭荘に、一部の中規模な銭荘までもが、スネージナヤの銀行家達の手に落ち、璃月の金融業界や銀行業界等の経済界の市場の一割から二割程度がスネージナヤの銀行家達の手中に収まってしまったという事態にまで陥ってしまったという事らしい。
「…」
「…」
(…こ、この男)
煙緋は目の前で薄ら笑いを浮かべているパンタローネに対して、ただならぬ警戒心を抱く。
この状態で北国銀行というスネージナヤの外資系銀行なんてものが、このまま法改正と言う法律の鎖という施しをしっかりと行わず、ましてや何の対策なんてされずに北国銀行が開業なんてされた場合、璃月の銀行業界や金融業界が二割から三割近く、つまり四分の一以上の璃月の銀行業界や金融業界が彼らに掌握されてしまう。
そうなればいよいよ本格的に、璃月の銀行業界や金融業界等の経済界の市場がスネージナヤの銀行家達に飲み込まれ始め、それがやがて璃月の全業界や全産業界、またあらゆる市場に波及していってしまう危険性が出てくるという事なのだ。
「…」
煙緋は冷や汗をかく。
それは開業した北国銀行を旗艦とし、スネージナヤの銀行家達が乗っ取ったそれぞれの銭荘達によって形成された強大化したスネージナヤの経済圏。
それが璃月の様々な業界や市場に進出し、そこを足掛かりにして最終的には璃月の有力な商会の買収、もしくはその有力な商会の経営にスネージナヤの銀行家達の影響が及び、徐々にスネージナヤの銀行家達の支配下に置かれる恐れがあるという事。
「…ふむ、煙緋さん。それに瞬詠殿の同僚と知り合いの稲妻人ですか」
パンタローネは意味深げな笑みを浮かべる。
そうなれば遂にいよいよ“璃月七星”までもが彼らの影響を受け始め、最終的には瞬詠が指摘したその“とある点”、“とある制度”を利用されて、“璃月七星”がスネージナヤの銀行家達の手に落ちたり、“璃月七星”が完全に彼らの影響下に置かれ、ファデュイの手によって操られる傀儡となってしまうかもしれない。
「ふむ。そうですか、そうですか…」
そして、目の前の男、この男こそが、今起きている璃月の金融業界や銀行業界の経済界で起きてしまっている事変、“璃月金融経済事変”の元凶であり、全ての黒幕であると言っても過言ではないのだろう。
「…瞬詠殿、このお二人方は?」
「あぁ、こちらが甘雨、自分の同僚だ。そしてそちらが久岐忍、稲妻人で自分の知り合いで、今は煙緋の弟子をしている」
「そうですか。改めて私はパンタローネと申します。どうぞよろしくお願いしますね。甘雨さん、忍さん、それに煙緋さんの皆さん」
パンタローネは、穏やかな笑みを絶やす事なく自己紹介を行う。だが、その表情の奥には何か得体の知れない不気味な雰囲気が感じ取れた。
「あ、どうもパンタローネさん。わ、私は月海亭で秘書をしています甘雨と申します」
「ど、どうも、パンタローネさん。私は稲妻からやって来ました久岐忍という者です」
自己紹介をしてきたパンタローネに甘雨と忍は少し引きつった笑顔を見せながら挨拶を返す。やはりというべきか、彼女達はパンタローネにどこか違和感を覚えているようだ。
「なるほど、甘雨さんと忍さんですね。よろしくお願いします」
パンタローネは甘雨と忍に微笑んで見せると、ふと煙緋の方に視線を向ける。
「…っ」
(っ!?な、なんだ?)
ゾクリ、と悪寒のようなものを感じ取った煙緋は思わず身を震わせる。
「…」
パンタローネの視線が煙緋の方に突き刺さる。まるで、煙緋の心の底を見透かしているかのような、そんな感覚を抱かせる。
パンタローネはにこやかではあるが、決して目は笑ってなどいなかった。むしろ、その瞳の中に宿っている感情を読み取ることができない程に、彼の瞳からは光が消えているように思える。それはまるで、深淵の闇の中に光を一切通さないような、深い闇に包まれた瞳。そして北国銀行の総取締役であり、スネージナヤの銀行家達の長でもある彼の眼、それはまるで煙緋の事を品定めしているかのように思えた。
「…」
煙緋はパンタローネの突き刺さる視線によって、まるで身体が硬直したかのような錯覚に陥る。心臓の鼓動が早まり、全身の血管が激しく脈打つ。額に汗が流れ落ちる。動くことが、呼吸をすることすらも許されない。そんな感覚に陥ったような感じがする。そしてこの異常事態に、彼女の本能が警鐘を鳴らす。気を付けろ、目の前の男は普通の人間ではない、と。
「…なぁ、パンタローネさん。そろそろ、いい加減に___」
そうして煙緋を見つめていたパンタローネに、瞬詠が少しだけドスを利かせた声で話しかけようとした。
その時であった。
「パンタローネさん。私の後輩を、煙緋さんを、そんな目つきで見ないでもらえませんでしょうか…?非常に不愉快です…!」
瞬詠がパンタローネに声を掛けようとした瞬間、甘雨がパンタローネに鋭い言葉を浴びせる。その声音はとても冷たく、怒りに満ちたものだった。
「___っ!…甘雨」
瞬詠は反射的に甘雨の方へ振り向く。
「…」
甘雨はまるでパンタローネの突き刺さる視線から煙緋を守るようにして立ち塞がっていた。その表情は普段の温和なものとは違い、明らかに怒気を含んでいる。普段の優しい雰囲気とは打って変わってピリつき、また普段は濃厚で落ち着いた雰囲気を放っているその水色の髪がゆらりと揺れ、氷のような冷たい殺気が周囲に放たれているように感じ取れるものであった。その様子はまさに、甘雨が本気で怒っていることを示していた。
「甘雨先輩…」
煙緋は自分の盾になるように立つ甘雨の背中を見つめる。その背中から感じられるのは、煙緋に対する強い想い。煙緋への強い不安と心配、そしてそんな甘雨に対して煙緋への強烈な不安や心配を抱かさせた目の前の男、パンタローネに対しての怒りと敵意だった。
「…はぁ」
そして瞬詠はパンタローネに見せてしまった甘雨に溜息をつく。
どうやら甘雨の隠された一面が出てしまったようだ。普段は温和で濃厚な彼女でも、自身の大切なものを目の前で傷つけられたり、傷つけられようとすると、途端に強い感情が表に出るのだ。
それは例え、目の前の明らかに普通ではないスネージナヤの男の“パンタローネ”であっても変わらず。
また以前に月海亭で起きた璃月七星玉衡の“刻晴”に、自分に取って大切な存在であり自身にとっては絶対的な憧れや尊敬の念を抱く存在である“岩王帝君”を思いっ切り侮辱されたと感じた甘雨が我慢できずに、刻晴の顔面に平手打ちをして刻晴を張り倒し、そのまま刻晴に反撃された事で甘雨と刻晴が掴み合いや組み伏せ合い、そうして危うく本格的な殴り合いや蹴り合い、取っ組み合いの喧嘩寸前になっていた時の事。
そうして遥か昔三千年前の甘雨が岩王帝君のため、また今の璃月、今の“璃月港”の前身となる今の璃月港から北方から西方、かつて
“岩王帝君”が降り立った地にて、当時その地に住んでいた民達が築き上げた“山輝砦”から自らの民を引き連れて合流した岩王帝君もとい、“岩の魔神モラクス”とその盟友である“塵の魔神ハーゲントゥス”の二神が築き上げた“帰離原”という大都市があった頃の時代。
テイワット大陸各地で勃発していた魔神戦争にて、自身の大切なもの達の為、岩王帝君のため、そして璃月のために戦っていた頃の、いざという時にはそれぞれのために、己の命を賭して戦う時に見せる、語気が荒くなり苛烈な一面を見せる甘雨が、今、目の前にいる甘雨に被って見えた。
「…ははっ」
瞬詠は甘雨に向かって、思わず苦笑する。そこにはパンタローネへの警戒心は全くと言って良い程無くなっていた。むしろ、甘雨に対してパンタローネによく言ったとでも言うような、またどこか呆れているような、それでいて甘雨なら確実に煙緋を守り、目の前のパンタローネを止めてくれるといった信頼感を抱いているようでもあった。
「ほぉ…?ふふっ、すまない。甘雨殿。私の目つきが悪かったね。謝ろう」
パンタローネはそう言って、先程まで見せていた威圧的な態度に、謝罪の言葉を口にする。
「それにしても後輩…か。煙緋殿の。一体、どのような煙緋殿と甘雨殿は関係なのかな?」
しかし、パンタローネの興味は完全に失せたという訳ではなく、今度は甘雨の後ろで庇われている煙緋の存在から、目の前で自ら立ち塞がる甘雨とその後ろに庇われる煙緋の関係性、そして甘雨そのものの存在に興味が移ったようだ。
「えぇ、そうですね…。煙緋さんとは煙緋さんが幼い頃からの知り合いみたいなものですね。それで偶に仕事で関わり合いがあるという関係です。それ以上でも、それ以下でもありませんよ…?」
甘雨は笑みを浮かべながらパンタローネの疑問に答える。だが、その笑みや言葉にはどことなく不穏な雰囲気を漂わせており、瞳の奥底からは鋭利で鋭い何かを感じ取れてしまうようなものであった。
その笑みはまるで、これ以上踏み込んでくるならば容赦しない、と言わんばかりのものであり、その言葉にもどこか棘があり、甘雨の冷たさがそこにあった。
「ほぉ…?そうですか?なるほど、なるほど」
パンタローネは甘雨の答えや甘雨の態度から何かを感じ取ったのか、どこか納得した様子であった。
「…」
そうしてパンタローネは観察するかのように甘雨の顔をじっと見つめる。まるで甘雨の全てを見透かすように。
「…あの、パンタローネさん。どうか、なされましたか?私に何かが付いてますでしょうか?」
そしてパンタローネの突き刺さるような視線に甘雨は首を傾げながら問いかける。先ほどまでのパンタローネの視線に恐怖を抱いていた煙緋とは違い、甘雨は全く動じていない様子だ。
「…いえ、何でもありませんよ。ふふっ」
パンタローネは薄ら笑いを浮かべるだけで何も答えない。だが甘雨や煙緋に何かしら思うところがあって、甘雨を見ていたのは間違いないだろう。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
そしてその場には、ただじっと煙緋を庇うかのように煙緋の前に立つ甘雨と甘雨の背中の後ろに立つ煙緋を交互を見るパンタローネ、そうして煙緋を庇うように煙緋の前に立つ甘雨に、甘雨に庇われるかのように甘雨の背中に立つ煙緋、また彼らの様子を固唾を呑んで見守る忍に、そのやり取りを見守る瞬詠という、この場にいる5人全員が一言も言葉を発さない、沈黙だけがその場を支配していた。
「…なぁ、パンタローネさん。そろそろ俺の同僚や俺の知り合い達をそんなジロジロと見るのを止めてほしいんだが…?」
そんな静寂の中、瞬詠が沈黙を破り、パンタローネに話しかける。その声色はパンタローネに対する嫌悪感と警戒心が込められていた。
「おや?…ははは、あぁ、これは申し訳なかった。つい、ね。色々と彼女達に気になる所があったものでね。つい、うっかりと。悪い癖が出てしまったようだ。申し訳ない」
パンタローネは瞬詠の問いに素直に謝罪をする。
「全く、本当に勘弁してくれ…。甘雨は俺の同僚でありながら、長い事月海亭を務めてきた頼り甲斐のある人だし、ある意味ではあるが俺の、自分に取っての“命の恩人”と言ってもいい人でもあるんだ…。それに煙緋は煙緋で俺の事を、自分の事をいつも気にかけてくれた、とても“大切な友人”と言っても過言ではないんだ…。俺にとってはそんな、かけがえのない二人とも言えるんだ…。そんな二人に対して俺の目の前で変なちょっかいを出すみたいに、ジロジロと見てほしくはないんだが…?本当に不愉快でしょうがないんだが?」
そうしてパンタローネが見せた一連の行動に対して、瞬詠は普段よりもずっと低い声でパンタローネに語りかける。
「…」
パンタローネの丁度斜め後ろに立ち、腕を組みながらパンタローネを睨むように横目で見つめる彼の表情は険しかった。
「ほぉ、瞬詠殿にとっては彼女達が“命の恩人”、そして“大切な友人”なのか…?それは興味深い話だ。一体どういうことなのか、是非とも聞かせてもらいたいものだ」
パンタローネは目を細め、口角を上げながらそう呟く。
「なに、別に大した事なんてないさ。興味があるならば、その機会がある時に教えるとしよう…。ただ、まあ、それはそうとして…、パンタローネさん、ちょっと一つ忠告があるんだが、興味はあるかい?」
瞬詠はそう言いながら、パンタローネに向かって顔を向ける。
「ほぉ?一体何だろうか?」
パンタローネはそんな瞬詠の言葉に少しばかり興味を示したようだ。
「いや、簡単なことだ。甘雨は自分との同僚と言ったが…、より正確には月海亭に長い間務めてきた秘書、そうして“璃月七星全体”の秘書を担っている人だぞ」
「…なんですって?」
その瞬間、パンタローネの纏っていた雰囲気が一瞬にして変わる。今までの薄ら笑いを浮かべて余裕のあった姿とは打って変わって、呆気に取られたような面持ちで驚きの感情が露わになっているようだった。
「…あ~あ、この出来事がもしも、今“シニョーラ”さん達と会談中の“凝光”さんや“刻晴”達の耳に届いたらどうなることやら。もしかしたら“これ”、何らかの外交的な影響”が出たりして…。それにもしかしたら、”他の何か”が相互作用的な動きをして何か“大きな出来事”を引き起こすかもしれない。はぁ……、考えるだけでも恐ろしい。本当に。…もしかして、シニョーラさん達の努力が水の泡になったりして…?」
「……っ!?」
瞬詠はパンタローネの様子を見ながら、やれやれといった様子でパンタローネにだけ聞こえるような小さな声でそう呟く。また瞬詠が顔を伏せていた事でパンタローネにだけしか見えなかったが、パンタローネには瞬詠がにぃっと悪い笑みを浮かべているようにも見えた。そして瞬詠のその言葉を聞いた瞬間、また真横の瞬詠の顔を見た途端、パンタローネの額に僅かに冷や汗が流れ、また微かにだが彼の肩が震えているように見えた。
「…」
そしてパンタローネは瞬詠、甘雨と煙緋やその後ろにいる忍、また瞬詠が引き連れていた月海亭の職員や役人達や外交関連の職員達等の璃月人達、そうして自分達を護衛、警護する為に連れて来ていた千岩軍の兵士達、また近くでやり取りを見ていた野次馬達の方へと順番に視線を移していく。
「…?」
「…」
「…うん?」
(どうしたんだ…?)
そして急に目の前のパンタローネの様子がおかしくなったことに気づいた不思議そうな様子を見せる甘雨、黙って見つめる忍。またその様子を伺うように見る甘雨の背中から見つめる煙緋。
「……ふっ」
そしてパンタローネは何かを悟ったかのように小さく笑った。それは自身が犯してしまった失敗を悔やみ、それを受け入れた上での自嘲するような笑いにも見えた。
「…パンタローネさん。そう言えば北国銀行の内装の視察もしたいと言っていましたよね。どうしますか?…現状、最終段階という事で完全に完成しているわけではありませんが、それでもよろしければご案内致しますよ。受付等のメインの部分はもう既に出来上がっていますし」
「…あぁ、そうですね。瞬詠殿。是非ともお願いできますでしょうか。それと…内装の視察をしながら、“例のご相談の件”についても是非ともお話ししましょうか?」
パンタローネは瞬詠の方に振り向くと同時に、瞬詠の提案にパンタローネは素直に受け入れる。またそれと同時にパンタローネも瞬詠にそう“提案”した。
「……うん?」
(“例のご相談の件”?瞬詠と?一体、何を?)
そしてパンタローネと瞬詠の会話の中に出てきた“例の相談の件”という単語に対して、二人のやり取りを聞いていた煙緋は首を傾げて疑問符を浮かべる。
「…うん、良いでしょう。それでは内装の視察をしながら、“その話”をするとしましょうか。…甘雨」
瞬詠はパンタローネにそう言うと甘雨の方に顔を向ける。
「すまないな、甘雨。それに煙緋や忍達も、見た感じ仕事でどこかに向かっている途中だったみたいだしな……。何か時間に遅れたら不味い用事だったらいけないから、早くここから立ち去った方が良いんじゃないか?」
「えぇ、そうですね…。それでは、私達はこれにて失礼しますね。ただ、その前に瞬詠さん…。分かっていますよね?」
瞬詠の質問に答えると、甘雨は瞬詠の目を見つめる。
「ああ、もちろん分かっているさ。後で説明するさ。しっかりとな。…こういう時くらい、信用してもらっても良いと思うんだけどな?」
「いえ、それは無理です。だって瞬詠さんは、いつも、いつも、適当で、誤魔化してばかりで、私が知らない間に勝手に色々と物事を進めてしまって、そうして、よく私に迷惑をかけてばかりじゃないですか?」
「ははは、手厳しいな。それは甘雨の事を信頼、信用しているからなんだけどな…」
瞬詠と甘雨はお互いに苦笑いしながらそんな言葉を交わす。
「まあ、そういう事なら分かりましたよ……。その言葉を信じるとしましょう。それでしたら、これ以上は言いませんよ…」
「…」
「…」
甘雨はそう言うと瞬詠から視線を外し、煙緋や忍に目配せをする。それを見た二人は互いに顔を合わせて無言のまま静かに首肯した。
「…それでは、私達は失礼します。瞬詠さん、また後で」
「あぁ、また後でな。甘雨」
甘雨は瞬詠にそう言うと、煙緋と忍を連れてこの場から、パンタローネの元から離れるように去っていく。
「…」
そして瞬詠はパンタローネの方に横目でチラッと見る。
「…」
パンタローネは無言で甘雨と煙緋達の背中を見送りながら、何やら物思いに耽っているような様子であった。
「ふっ…」
「…」
そしてパンタローネが微笑み、何かを企んでいるような表情を一瞬だけ見せると同時に、自身の配下であるスネージナヤ洋装の服装をし灰色の仮面を身に着けたとある男に視線を送らせ、その男性がパンタローネの意図を悟ったのか静かに縦に頷いた。
「はぁ…」
そうして横目でパンタローネとその配下の男のやり取りを見ていた瞬詠はため息を吐き、そして腕を組む。
「…っ」
そして瞬詠は目にゴミでも入ったのか、顔をしかめながら“まばたきを連続でしたり、目を一定の間閉じたり”、また“長いまばたきや短いまばたき”を不規則に繰り返す。
「…はぁ」
そして瞬詠はため息を吐いて、その後に腕を組むのをやめたのであった。
「…ふ~ん、“任務変更”ね」
そうして瞬詠とパンタローネの一団を見物するかのように見ていた野次馬達、その中に混じっていた“瞬詠”と“パンタローネ”を観察していた“商人風の格好をしたその女性”が周りに気づかれないほど静かにそう呟く。
「今日は本当に忙しいわね」
その女性は笑みを浮かべながら呟く。
瞬詠からのまばたきを利用した暗号。
それは光を点滅させる方法で、視界内の離れた場所の間で意志の伝達を図る手段として用いる方法であり、点灯の時間的な長短によって示す符号の組合せである文字符や数字符、記号符および交信区別符からなる信号である“発光信号”に似たようなもの。
「さてと…ふふっ、___」
言うなれば、瞬詠からの“まばたき信号”の暗号を瞬時に解読することで、瞬詠からの“暗号指示”を受け取った彼女は、静かに小さく、そして楽しげに笑って呟くと同時に、甘雨と煙緋達の背中に視線を向け、__
「___“次の仕事”と行きましょうか」
__そうして“その女性”、商人風の格好に変装していた“夜蘭”がそう呟くと、彼女は煙緋達と一定距離を保ちながら、煙緋達の後をつけるように歩き始めたのであった。
これで本来の7話目分が終了です。
尚、しばらくの間は北国銀行(ファデュイ)編です。
また、ファデュイ等に関する解説は北国銀行編が一段落ついてから、軽く纏めて行おうと思います。
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◎解説(“飛雲商会”と“山輝砦”について)
・“飛雲商会”について
→“飛雲商会”は、本作では璃月の織物業界を代表する有力な商会となっていますが、より正確にはどうやら『絹の取引や書物の印刷など、様々な業務に携わっている』商会となっております。
本来であれば飛雲商会の印刷業に関しても記述すべきかと思ったのですが、行秋や甘雨のボイスに印刷業に関する記載が見当たらなかったため、印刷業関連に関して今回は、本編では取り扱わないことといたしております。(原神のWikiにはその情報はあったものの、ゲームや本編の方で見つからず…)
尚、余談ですが飛雲商会が『“絹産業”や“紡績産業”の大手』であり、また『“織物業界”で霓裳花等を活用した錦の織物で有名』と言う点に関しては、“絹産業”や“紡績産業”はゲーム本編における図鑑の“物産誌/テイワット物産”にて大手であるという記述を確認、また行秋のボイスにて『うちの商会の錦の傘は日傘としても雨傘としても使えないみたいだ。』と言っており飛雲商会の錦が使われている事から、やはり絹・紡績を取り扱っている事が確認できます。
そして“織物業界”に関しては直接的な確認は取れなかったのですが、ただ確か稲妻の着物を取り扱っている小倉屋に関するデイリー任務(確か会話のみですが、そこで飛雲商会に関する話、確か霓裳花の輸入に関する話があったはず…)か普通の会話でそれがあった事、また甘雨のボイスにて『飛雲商会のあの青い服の少年は、彼の父親や兄のように織物の経営に熱心ではないようです』と言っている事から、“織物業界”に進出しており、先の情報を鑑みてみると、最大手かどうかまでかは分からないにしろ、ただ業界でかなり上のポジションではないのかと推測されます。
・山輝砦
→“山輝砦”は簡単に解説しますと、かつて天衡山(璃月、雲来の海に位置する山であり、地図上では璃月港の西の峰に「天衡山」の名が付けられています。ただ天衡山についてを調べていくと、帰離原へ続く道を通る港の北側の山脈も天衡山に含まれているという事から、元々は丁度今の璃月港の西から北東までを囲むように存在した山脈だったのではないかと思われます)に降臨した魔神モラクスが降り立った地にて、当時のそこに住んでいた民達が築き上げた町、もしくは集落(当初は砦となっていた事から要塞かと思われましたが、軍事的な記述は見つからなかったため、間を取って小規模な城塞都市的な扱いとなっております)となっています。
より具体的に山輝砦に関しては、“璃月の古代歴史を記録した銘文を翻訳し、編集した史書である【石書集録・1】”と呼ばれる本にある『当初、岩王が降りて、大波を退治、天衡を立ち、川を鎮める。民が遂に安定し、山を開き、玉を取り、岩を破り四方を繋ぐ。曰く、玉を孕めば山が輝く、故に「山輝砦」と名付けられる。当時、天衡の民は採掘を生業とし、千里に及ぶまで貧困者はいなかったという。(注:山輝砦は現在「山輝岩」と転じ、退廃し岩と化して、当初の風貌を再び拝めることはできなくなった。)』という記載がある事から、“帰離原”に合流する前のモラクスはこの地を拠点、守護していたと思われます。(因みに留雲借風真君が改造する前の帰終機あった場所が、この天衡山になります。魔神任務で訪れたあの場所です)
―――
追記1
・サブタイトルを修正しました(修正を忘れていました)