玉衡の元から逃亡したら千岩軍が追いかけて来ていた件について   作:久遠とわ

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完成したので投稿。

いよいよフォンテーヌに入りますね~。楽しみですね。(←何だかんだ、まだスメールが終わってない人。纏まった時間が取れないんだ…)

今回、考察ネタはそこまでありませんが、物凄いオリジナル設定や要素(正直、作者的にやりすぎじゃない?って思うところもあります)がふんだんに使用されています。

尚、今回は前半と後半に分かれており、前半のメインが煙緋となっております。

また今回は軽くになりますが、解説もありますのでよろしくお願いします。


”璃月業界情勢図”と“かにみそ豆腐”

「…」

 

「…」

 

書物がめくられる音に筆で紙に字を書く音が部屋の中に響き渡る。

 

煙緋と忍はそれぞれの椅子に座り、それぞれの大きな机の上に広げた資料を見ながら手元にある書類を一枚ずつ精査し、その内容や重要と思われる事項を纏めて記載していく。

 

煙緋は真剣な面持ちをしながら黙々と作業をこなし、忍も集中力を途切らせる事無く作業を進めて行く。

 

「…」

 

煙緋の集中力は凄まじいもの。目の前の金融や銀行法に関する既存の法律や改定予定の法案の資料、また瞬詠がもたらしたファデュイの計略や謀略の要である北国銀行に関する膨大な量の情報を、煙緋は持ち前の記憶力の高さを活かし、素早く正確に整理しながら、それを自分のものに昇華させていく。

 

「…」

 

そして忍も煙緋に負けじと自らが煙緋の元で得てきた知識や経験を活かしながら、煙緋に割り当てられた自分の仕事を的確にこなしていき、その手を止める事なく動かし続ける。

 

忍の目の前にあるのは、煙緋と共に、そして凝光や瞬詠の命令で協力してくれた“総務司”や“王山庁”、また“和記庁”と言った“七星八門”の大勢の職員達や、たまに個人的な手伝いとして同行してくれた甘雨などと言った人物達の協力、それらの元で行われた璃月中の各商会への大規模な聞き込み調査や、“天権”凝光の命によって発行された令状を根拠を元に行った非常に大掛かりな立ち入り調査、それらの結果の報告書に書かれた情報。

そして瞬詠のもたらした情報を併せたそれらの情報が、忍の机の上にある“それ”に集約され、その全てが一つの巨大な塊となり、忍の目の前には、その巨大な情報の塊が鎮座していた。

 

「…」

 

忍は視線をずらして全体を見渡す。それは一つの“巨大な紙”でありその紙には、図、数値、単語、文章、記号等、煙緋達が集めてきたありとあらゆる情報の集合体。それはまさに、璃月の市場や業界、そしてそれらを織りなす商会等の相互関係等の情報を纏めた、いわば“璃月という国家の縮図”そのもの。

 

「…ふぅ」

 

忍はその璃月という巨大な国家の縮図、“璃月業界情勢図”に圧倒される。しかし、忍は気を引き締めてその圧巻な縮図を見つめる。

 

その縮図の最上部には“璃月七星”という文字、そしてその“璃月七星”の文字と璃月七星を構成する七星名である“天権(テンチェン)”、“玉衡(ユーヘン)”、“天枢(テンスゥー)”、“天璇(ティエンシェン)”、“天璣(ティアンジー)”、“開陽(カイヤー)”、“揺光(ディェォーグェン)”という単語が棒線で結ばれており、その七星名の下にはその七星という役職に付いている者の名前。そうしてその各々の七星には幾つかの棒線が結ばれており、その棒線の先は鉱石業界や鍛冶業界などと言った璃月の産業や市場に関する業界が、そうしてその業界を現す巨大な図の中にある商会等の名称が記されており、それはつまり、その七星の出身の業界や深い繋がりや関わり合いがある商会が一目で分かるようになっていた。

 

またその業界や産業、市場を構成している各商会の代表者の名前やその商会の有力者の人物の名前なども記されており、そうしてその商会やその各商会の代表者や有力者の人物の名前には“二重丸”や“丸”、“三角”や“逆三角”印のマークがつけられている。

 

そしてその業界間や市場間、商会間だけでなくその人物達の間にも非常に多くの数の棒線が引かれており、そこには“協力・協調”、“中立”、“競争・敵対”と言った単語に、それを補足するように数行だけ書かれた補足説明の文章が記されていた。

 

「…」

 

忍はその紙の両端に目を向ける。

 

一方の端には端の中央部に“璃月”と大きく書かれた文字に、璃月の金融機関である各銭荘の名前が書かれており、“二重丸”や“丸”印のマークが入ったその各銭荘から各業界の各商会、そしてその商会の代表者の名前や有力者の名前が結ばれており、また銭荘と商会間の棒線の傍らには融資や出資額に関する数字が記され、銭荘とその商会の代表者の名前や有力者の名前間の棒線の傍らに数行の文章が書かれていた。

 

そうしてもう一方の端には端の中央部に“スネージナヤ”と大きく書かれた文字に、開業予定の“北国銀行”の名前や元は璃月の金融機関であった銭荘だが、今ではスネージナヤの銀行家達、そして“ファデュイ”の手に落ちたスネージナヤの各銭荘の名前が書かれており、先ほどと同じようにそのスネージナヤ側の各銭荘から、そして今度は“三角”や“逆三角”印のマークが入っている各業界の各商会、その商会の代表者の名前や有力者の名前が結ばれており、そうしてスネージナヤの手に渡った銭荘とそれら商会間の棒線の傍らには融資や出資額に関する数字が記され、またスネージナヤ側に立つ銭荘とその商会の代表者の名前や有力者の名前間の棒線の傍らに数行の文章が書かれていた。

 

「…」

 

忍は目を細める。目の前に広がる巨大な情報の塊。数多の数の棒線が交錯しあい、複雑な模様を描くその巨大な紙を見ながら忍は考える。

 

この巨大な紙にあるそれらは璃月という国家の現状。そしてそこに記された膨大な数の棒線はそれぞれの複雑な関係を示しており、その紙は正しく現在の璃月という国の内情を取り纏めた縮図であり、その縮図で繰り広げられる璃月という国で行われている“それ”。

 

言うなれば璃月という国の盤面上で行われている“璃月”と“スネージナヤ”、それぞれ双方の駒である金融機関の“銭荘”が、璃月とスネージナヤの銭荘同士、そしてその“銭荘”の影響下にある商会やその商会の代表者の名前や有力者の名前の人物が繰り広げているであろう、それぞれの利権争いや駆け引きを暗示しているようであり、それはそれら“銭荘を使った璃月とスネージナヤの影響力と言う名の勢力争いの図”、あるいはそれを含めた“互いの計略や謀略による現在の状況を現している絵図”のように見えた。

 

「…」

 

忍は難しそうな表情を浮かべながら、それらの図を見て、改めて自分が、今の自分達の状況が、どれだけ複雑で難しい局面にあるのかを理解する。

 

今のところ、璃月七星のそれぞれの七星のメンバーと深い繋がりや関わり合いがある商会というのは、全て“二重丸”や“丸”印のマークが入っている商会であった。

 

「…だが、油断は出来ないな」

 

忍はそう呟く。

 

忍の視線が幾つかのの商会に突き刺さる。その幾つかの商会自体は“丸印”であり商会の代表者も“丸印”であったが、その他の有力者達の印のマークの四分の一から三分の一程度が“三角”や“逆三角”印であり、またいずれもそれらの商会と他の商会間を結んでいる棒線、“協力・協調”もしくは“中立”関係にあるその商会や代表者や有力者達の印のマークの大半が“三角”や“逆三角”印であったのだ。

 

「これが彼らの“計略”、そして“謀略”というわけか…」

 

忍は難しそうな表情を浮かべる。

 

それはその幾つかの商会は三角や逆三角印の包囲網下、つまりスネージナヤ、ファデュイの計略や謀略の影響下に置かれつつある要注意な商会という事であり、しかもその二つの商会のそれぞれからあらゆる方向に伸びている棒線の中のには、最上部にあるとある七星名へと目掛けて直接伸びていき、そしてそれらが直結して結ばれてしまっている棒線があったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある日の少し曇り空の璃月港。本来であれば太陽が真上から照らされる時間帯ではあるが、偶々雲に隠れてしまい、その光を隠していた。

 

そしてそんな街中とある建物、その建物こと煙緋の“煙緋法律事務所”で煙緋と忍は“天権”凝光からの依頼、“金融・銀行法改定法案の添削・批評依頼”、そしてその凝光の依頼を確実に遂行するために行うための調査、“璃月産業界・商会調査”等の対応を行っており、この日は特に調査等のために出かける必要はなかったので、二人は事務所の中でそれぞれの事をしながら過ごしていたのであった。

 

「…」

 

煙緋はチラッと忍の方に目を向ける。

 

「…はぁ」

 

忍が真剣な眼差しでその図や、近くに置かれていた商会の調査に関する資料を眺めているのだが、明らかに疲れが溜まっているような様子を見せていた。

 

「…ふふっ」

(真面目だな、忍さん)

 

そう思いながら煙緋は微笑み、大きな机の上に広げた資料や手元にあった書類や本を閉じる。

 

「忍さん。どうやら、かなり疲れが溜まっていそうだね。そろそろ休むかい?丁度、お昼の時間だし」

 

「あっ、煙緋先輩…。えっと、そうですね。もうこんな時間ですか……」

 

そう言って忍は窓から外を見る。外は丁度太陽が雲に覆われてしまっているためにそこまで明るくなかったが、それでも十分な晴れやかな青空が見えており、また窓の外からは心地よい風が流れ込んできており、それが忍の頬を撫でたのであった。

 

「…そうですね。では、そうしますか」

 

「うむ、分かった。なら、ちょっと待っていてくれ。…あ」

 

煙緋は何かを思い出したかのような声を出す。

 

「どうかしました?」

 

「ああ、すまない。そう言えば作り置きしていた料理が今は無かったんだな」

 

煙緋はそう言いながら立ち上がる。

 

「…ふむ、ついてないな」

 

(そう言えば食材が殆ど無かったんだった…。面倒だが、まずは食材の買い出しに行かなければ)

 

そう考えながら煙緋は身支度を始めようとした。

 

 

 

その時であった。

 

 

 

 

 

 

「邪魔するぞ」

 

 

煙緋法律事務所の扉が開かれると同時に、一人の男の声が聞こえてきてそしてその男が法律事務所の中に入ってきたのである。

 

 

 

「うん?…この声は、まさか?」

 

「っ!?瞬詠なのか…?」

 

煙緋と忍は驚きながら声が聞こえてきたその方向に振り向いた。

 

「久しぶりだな、煙緋と忍。凝光さんからの依頼、また璃月港にある商会の調査の方も順調のようだな」

 

そこには、黒髪の中に少し灰色の髪が混じり、灰色を基調とした璃月洋装の服装をしていた瞬詠が入り口の所に立っていたのである。

 

「おぉ、瞬詠じゃないか!!久しぶりではないか!!…全く、ここ最近、姿を中々見せてくれないから心配したよ。まぁ、相変わらず元気そうな顔が見れて安心したが」

 

「久しぶりだな、瞬詠。しばらく会っていなかったが、仕事が大変だったのか?」

 

煙緋と忍は嬉しそうな表情を浮かべると、すぐに椅子から立ち上がり、瞬詠の元まで駆け寄った。

 

「ははっ、本当に久しぶりだな。すまなかった、今までかなり色んな出来事や案件が立て込んでいてな。なかなか顔を出せなかったんだ。今ようやく、ある程度落ち着いてきたから、多少は自由に動けるようになったという訳だ。それにしても、二人共、変わりなくて何よりだよ」

 

そう言うと、瞬詠は優しく微笑みかけた。

 

「成程な。瞬詠も随分と忙しかったみたいだな…。うん?」

(…なんだ、この匂い、美味しそうな匂いは?)

 

その時、煙緋は事務所の中が先ほどよりもずっと良い香りが漂っている事に気付く。

 

「成程、そうだったのか…。そう言えば、瞬詠。それは何だ?」

 

忍は瞬詠の話に頷く。そしてふと、瞬詠が手にしていた手提げ袋を指差しながら尋ねる。

 

「これか?これは自分の差し入れだよ。以前に甘雨が、凝光さんからの依頼をこなす煙緋達の手伝いをするために甘雨がよくここ、煙緋の法律事務所を訪れていたという話を聞いていたんだが、その時によく差し入れをしていたという話を聞いていたから食べ物を持って来たんだよ。…甘雨から煙緋の好物が豆腐だと聞いたから、万民堂で“かにみそ豆腐”を買って、ここまで持って来たんだ」

 

瞬詠は万民堂で買って来たというかにみそ豆腐が入っている袋を軽く持ち上げて見せた。

 

「おお、かにみそ豆腐か!?それは、ありがたい。とても嬉しいぞ!!」

 

「差し入れか。瞬詠、あんた、ちょうどいいタイミングでここに来たな。ちょうど、今の仕事に一区切りをつけようと思っていた所だ」

 

煙緋は満面の笑みで、忍は落ち着いた様子で感謝の言葉を述べた。

 

「それなら良かった。なら、冷めないうちに早く食べよう。まだ十分に暖かいはずだ」

 

「うむ、そうだな。早速、頂こう。瞬詠、それらをその空いている机の方に置いといてくれ。忍さん、忍さんは皿などを頼む」

 

「ああ、分かった」

 

「分かりました、煙緋先輩」

 

そうして、三人は事務所の中にある来客用のテーブルに食事の準備を始め、それぞれの皿に料理を盛り付けていったのであった。

 

「よし、準備できたな。では、頂こう。うむ、いただきます」

 

「はい、先輩。いただきます」

 

「あぁ、いただきます」

 

そしてそれぞれの席に着いた三人は、瞬詠が万民堂で買って来た料理を食べ始めたのであった。

 

「んっ、んぅ、…ふぅ」

(やはり豆腐、それも万民堂のかにみそ豆腐は絶品だな……。美味しい……)

 

煙緋は満足そうに微笑んで、ゆっくりと味わうように食べる。煙緋の口の中に豆腐本来のあっさりとした味わいと柔らかい食感、そしてカニの旨みや風味に味噌のコクが合わさって煙緋の舌の上に広がり、それが煙緋の心を癒し、心を踊らさせた。

 

「んっ、美味しいな。…やはり万民堂の料理は、本当にどれもこれも本当に美味しいな」

 

忍もそう言いながら、黙々と箸を進めて口に料理を運ぶ。忍の口の中に豆腐の優しい味わいとほのかな甘味が広がり、それが忍の心を満たしていく。

 

「あぁ、本当に美味しいな…。ははっ、煙緋、そんなに美味しいのか?随分と幸せそうに食事をするな」

 

「あっ、美味しくてついな……」

 

瞬詠は微笑ましそうに煙緋を見ながら言う。

 

「んっ、ごちそうさま」

 

「ごちそうさま」

 

「ごちそうさま」

 

そして瞬詠が買って来たかにみそ豆腐を食べ終えた煙緋達は食後の挨拶をしたのであった。

 

「…ふっ、どうやら煙緋は本当に、豆腐が大好きなんだな」

 

瞬詠は口元が緩んでいる煙緋を見て、楽しそうに笑う。

 

「うっ、あぁ、私は豆腐が大好きだぞ。…豆腐のこの味わい、この柔らか~~い食感、それにどんな汁物にも合って、栄養豊富な点。そして何よりもだ。豆腐、豆腐は季節を問わず安定している入手性が私の好みに刺さっているんだ。この『最高になれずとも完璧を求める』。豆腐料理こそまさに私の欲する味そのものなのだよ~~!!……っと、いかん、つい熱く語ってしまったな」

 

煙緋は興奮気味に早口で言うと、ハッと我に帰る。

 

「ははっ、相変わらず面白いな、煙緋。まさか豆腐にそこまでの強いこだわりがあるなんてな」

 

「ふっ、先輩もそういう所があるんですね」

 

瞬詠はおかしそうに笑い、忍も小さく微笑んでいた。

 

「う、うるさいぞ!!瞬詠、忍さん!!…全く、どうやら君達に豆腐の素晴らしさやありがたさについて、今度時間のある時にじっくりと教えてやらねばならないようだな…。あっ、そうだ!ふふっ」

 

煙緋は少し恥ずかしそうにする。だが、すぐに何かを思い付いたのか悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 

「うん?どうしたんだ?煙緋?」

 

「どうしたんですか、先輩?」

 

瞬詠と忍は不思議そうな表情で首を傾げる。

 

「いや、今度時間のある時…。まぁ、まずは凝光殿からの依頼の仕事が終わってからになるが、瞬詠と忍さんに私の豆腐料理を…。そうだな、この万民堂のかにみそ豆腐と同じくらい美味しい豆腐料理を振舞おうと思ってな」

 

「おぉ、本当か?ははっ、それは楽しみだな」

 

「本当ですか、煙緋先輩。それは嬉しいですね」

 

煙緋の言葉に瞬詠は嬉しそうな笑顔で、忍は落ち着いた様子で答える。

 

「あぁ、勿論だ。『約束』だ…。ふふっ、瞬詠と忍さんには私の豆腐料理の手伝いをしてもらいながら、色んな豆腐の良さを分かってもらうとしよう。覚悟しておいた方がいいぞ?瞬詠、忍さん。ふふふっ」

 

そして煙緋は瞬詠と忍に向かって不敵に笑ったのであった。

 

「えぇ、自分も手伝うのかぁ?」

 

「何を言ってるんだ瞬詠?ついさっきの口頭でのやり取りで『約束』、つまりは『契約』をしてしまっただろう。もう逃れる事はできないぞ。破ったら、私直々に『炎食いの刑』を受けて貰おうか?」

 

「うわっ、この悪徳法律家め」

 

「ふふん、何を言う?私は悪徳法律家ではなく、璃月港で有名な法律家だぞ?」

 

瞬詠はしてやられたと苦笑いを浮かべて言うと、煙緋は得意げに笑って返す。

 

「ふふっ、そうですか。その日が楽しみです、先輩」

 

そして忍も煙緋と瞬詠のやり取りに微笑んで言った。

 

「あぁ、その通りだな。ふふっ」

 

煙緋は楽しそうに微笑んで返した。

 

「よし、瞬詠。ありがとうな。それでは私は、この皿を片付けてくるとしよう。その間に二人は休んでいてくれ」

 

「ああ、分かった」

 

「はい、分かりました。煙緋先輩」

 

そうして、煙緋は自分達の使った食器を持って流し台の方へと持って行く。

 

「ふっ、ふふ~ん♪」

 

煙緋は鼻歌を歌いながら、機嫌良さそうに煙緋は自分達の使った皿を丁寧に洗っていきながら、いつか瞬詠や忍に自分の豆腐料理の料理を手伝わせて一緒に料理をする光景を想像し、それを楽しみにしていたのであった。また、その時にはどのように瞬詠と忍の二人に豆腐の素晴らしさを教えてあげようかと心の中で考えていたのでもあった。

 

「ふぅ…待たせたね。おや?」

 

そうして、煙緋はそれらを済ませて二人のいる場所に戻って来た。

 

「___あぁ、任せたぞ。忍。これはおそらく、いや、忍にしか出来ない事だと思われるからな」

 

「あぁ、分かった。瞬詠。まぁ、取り合えず、気を付けてみてみるさ。もしも先輩の身や周辺で怪しい事や不審な事があれば、瞬詠に連絡、相談する。些細な事であってもな。それに最悪もしも、先輩に__」

 

そこには真剣な面持ちで話し合う瞬詠と忍の姿があった。

 

「……瞬詠、忍さん。どうかしたのか?」

 

「___おっ、煙緋か。もう終わったのか。いや、特に何でも無いぞ。ちょっと忍と個人的な話をしていただけだ」

 

「___あっ、煙緋先輩。お疲れ様です。特に何でもないですよ」

 

瞬詠と忍は煙緋に気が付いて声をかける。

 

「……うん?そうか。なら良いんだが……」

 

煙緋は少し不思議に思いながらも、深く追求しなかった。

 

「…それにしても」

 

そう言いながら瞬詠は席を立つ。そして、忍の机の方に置かれていた巨大な紙、璃月の市場や業界、また商会等といったそれぞれの相互関係等の情報を取り纏めた“璃月業界情勢図”の方に視線を向ける。

 

「本当に凄い……。自分も甘雨経由で煙緋や忍が凝光さんの依頼を完璧にこなすため、璃月の市場や業界、また各商会に関する情報を集めて、一纏めにしているとは聞いていたが……。ここまで詳細なものを作っていたなんて……。こりゃあ、驚いたな」

 

瞬詠は感嘆した様子で呟く。

 

「あぁ、それの事か」

 

「これか…本当に大変だったんだぞ」

 

煙緋は瞬詠の視線の先にあるその“璃月業界情勢図”に気が付き、忍は本当に疲れたかのような苦笑いを浮かべる。

 

「…煙緋、この紙、この図を“写真機”で撮っても構わないか?」

 

瞬詠はそう言いながら、写真機を取り出す。

 

「写真機だと?構わないが…。ほぉ、これはこれは」

 

煙緋は瞬詠が手にしている写真機に目を見開く。それは厳格な法治国家でもあり高度な技術国家でもある正真正銘のフォンテーヌ製の写真機であったからだ。

 

「ふむ……。まさか、璃月で写真機を。それにフォンテーヌ人でもない瞬詠が、写真機を持っているとはな。瞬詠、どこでこれを手に入れたんだ?写真機、フォンテーヌ製の製品と言うのは、とんでもなく高価なはずだぞ?」

 

煙緋は興味深げに瞬詠に尋ねる。

 

「あぁ、それはだな……。実は以前、北斗の姐さんの“南十字船隊”に所属していた頃、その時に知り合ったフォンテーヌ人の知り合いから貰ったものなんだ。『瞬詠って、ある意味空を自由自在に飛べる訳だから…、それってつまり上空から綺麗な写真を!!場合によっては迫力のある写真を取れるってことだよね!?ねぇ!!試しに写真撮ってみてよ!!あの場所からとか!!』とかなんとか言って、最終的にこの写真機を自分にくれたんだよ」

 

「ほぉ、成る程」

(確かにそう言えば、瞬詠は“南十字船隊”の時に船長の北斗殿、そうして南十字船隊の“眼”として、船隊上空や海の上を飛び回っていたとも言っていたな…)

 

煙緋は瞬詠の話を聞いて、納得したように軽く首を縦に振る。

 

「まぁ、そういう訳だ。この写真機は今でも大事な仕事道具だし、結構使い込んでるから、もはや仕事道具と言うよりか、相棒と言えば良いのか、それとももしかしたら、自分にとっては“風の翼”に次ぐ自分の半身的な物になってるかもな」

 

瞬詠はそう言うと写真機を構える。そして、パシャリと音を立てて、煙緋が作成したその図を写し取る。そして写し取ったそれが、写真機内部で現像され、一枚の写真となって排出される。

 

「…うん、ざっとこんな感じだ」

 

瞬詠は排出された写真を見て、納得したかのように一つ小さく首肯すると、その写真を煙緋に差し出す。

 

「ほぉ、これは…。これが写真か。机の上にあるその紙と全く同じだな」

 

煙緋は瞬詠から受け取ったその写真を手に取り、まじまじと見つめていた。

 

「ああ、そうだろ。全く、フォンテーヌの技術力には驚かされてばかりだよ。フォンテーヌでは写真機の他にも色んなものが開発されていて、例えば“映影機”という、どうやら動いているものや流れているものそのものを記録して、その記録したものを再度その場で映写して再生する事ができる機械もあるらしいぞ」

 

「ほぉ、そうなのか。それは興味深いな」

 

「“映影機”か…」

 

瞬詠は思い出すかのように呟き、煙緋や忍も興味深げに話を聞く。

 

「さてと、あと二枚程、凝光さん達に渡す用の写真を撮るか」

 

瞬詠はそう言うと、再び写真機を構えてその図の写真を撮っていく。

 

「…よし、こんなもので良いだろう。煙緋、その写真を返してくれ」

 

「あぁ、分かった」

 

煙緋は瞬詠から渡された写真を瞬詠に手渡し返すと、瞬詠はそれらの写真をしまった。

 

「さてと、そろそろ行くとするか…。あ、煙緋、ちょっと良いか?」

 

そうして煙緋法律事務所の出入り口に行こうとした瞬詠であったが、何かを思い出したかの如く、煙緋の方を振り返る。

 

「んっ?どうかしたのか?」

 

「いや、実は今日この後に、ちょっと用事で凝光さんがいる“群玉閣”に行くつもりなんだが、何か凝光さんに言っておいてほしい事、もしくは伝言とかはあったりするか?何でも良いぞ?」

 

「凝光殿に言っておいてほしい事、それに伝言か?うむ、そうだな…」

 

煙緋は少し考える。

 

「あ、そう言えば一つ良いか?今私が行っている凝光殿の“金融・銀行法改定法案の添削・批評依頼”に関して何だが」

 

「おっ、なんだ?」

 

「あぁ、凝光殿にこう伝言をしてくれないか?『順調に凝光殿の依頼は進められているが、可能であれば凝光と直接現行の法案や改定予定の法案についてを話し合いながら行いたい。今の手紙を介したやり取りの方法よりも効率的、効果的だ。認識の誤りや齟齬による修正や指摘のズレもより少なく済ませられるだろう。だから、もし良ければ一度直接お会いして、今の法律、そして凝光殿の法案や凝光殿の法案をベースに私が考えた法案に関して話し合う機会を設けて頂けないだろうか?』といった内容で凝光殿にお願いして欲しいんだが、頼めるか?」

 

煙緋は瞬詠にそう伝える。

 

「あぁ、勿論だ。それぐらいなら任せてくれ」

 

「それは良かった。じゃあ、よろしく頼むぞ」

 

「あぁ、分かった。…あとそれとなんだが、煙緋」

 

瞬詠は頷くと、真剣そうな表情を浮かべながら煙緋に尋ねる。

 

「なんだ?」

 

「煙緋はここ最近『身の回りで怪しい事や不審な出来事』、もしくは『この辺りで挙動がおかしい人物や怪しい人物、また不審者等を見た』とかはしていないか?」

 

「んっ?『身の回りでの怪しい事や不審な出来事』、それに『この辺りで挙動がおかしい人物や怪しい人物、また不審者等を見た』かだと?ふむ…」

 

瞬詠からの質問を聞いた煙緋は考え込む。

 

「…いや、特にそれと言った心当たりは無いな。ここ最近、事務所付近で何か気になった事があったわけでも無いし。…まぁだが、今度から瞬詠に言われたことを意識して、周りに目を配るようにはしてみるよ」

 

「そうか、ありがとう。まぁ、もし何かあったら、いつもこの近くの見回りをしている巡回中の千岩軍や総務司に報告や相談するなりすると良いぞ。それか普段、自分や甘雨がいる月海亭まで来てくれれば、いつでも自分が相談に乗るからな」

 

「…ふむ、分かった。何かあったら相談しよう」

 

「あぁ、頼むぞ」

 

煙緋は瞬詠の忠告に一つ首肯すると、瞬詠も一つ首肯した。

 

「さてと、それでは自分はそろそろ失礼するとするよ。煙緋、それに忍も凝光さんからの依頼を頑張ってな」

 

「あぁ、そちらこそな。瞬詠も仕事を頑張ってくれ」

 

「あぁ、瞬詠も頑張るんだな」

 

「あぁ、お互いにな。じゃあ、また来るよ」

 

瞬詠は忍と煙緋に別れを告げると、扉を開けて外に出ていったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

「…」

 

とある月光が照らす璃月港。完全に日が落ち、月夜が支配する夜の時間となった頃。

 

その璃月港の外れにあるとある桟橋にて、一人の男性が佇んでいた。

 

「…っ」

 

男は海風に当たる為に桟橋の上に立ち、そこから見える景色を見つめていた。そこから見える景色と言うのは、海に沈む美しい満天の星空であるが、彼はそれより先、遥か地平線の先にある“とある海洋国家”を見つめていた。

 

「…ふふっ、“瞬詠”。そんなに“稲妻”が恋しいのかしら?」

 

刹那、彼の背後より突如として女性の声が響く。

 

「…まぁな、“夜蘭”。稲妻が恋しくないなんて言ったら、嘘になるな」

 

音や気配を発することなく、いつの間にかそこにいた女性。彼女、夜蘭は妖艶な雰囲気を漂わせて腕を組みながら彼、瞬詠と同じように地平線の彼方に視線を向けていた。

 

「あら、やっぱりそうだったのね。…ふふっ、本当に面白いわね。忍さんが言っていた稲妻で『瞬詠もとい“黄金の翼”が冥界巨獣の“海山”との戦いで刺し違えて、そして命を落とした』…こんな感じの噂が流れただけで、稲妻の有力者達が非常に悲しんだり、酷く取り乱し、そしてそれが稲妻の“天領奉行”や“社奉行”を中心に大きく動かして、それが先の『稲妻の外交団の怪しい動き』に繋がっていたなんて…ふふっ、まさかこんなに面白可笑しい展開になるとは思わなかったわ」

 

夜蘭はくすっと小さく笑う。

 

「いや本当に笑い事じゃないんだけどな…。取り合えず、彼らや彼女達宛に謝罪の手紙を書き終えて、もう彼らや彼女達全員に手紙が届いた頃だと思うが……」

 

瞬詠は困ったように頭を掻く。そして夜蘭の方に振り返った。

 

「…まぁ、それはそうとして。今回の報告を聞かせて貰おうか」

 

「えぇ、勿論よ。ほら、これがその“報告書”と例の“故郷を忘れた同郷達と関わり合いのある者達に関する名簿”よ。“怨人達に関する者達の名簿”の方はまだ情報収集中だから出来てないわ。ただいずれにしろ、“故郷を忘れた同郷達と関わり合いのある者達に関する名簿”の方もまだ暫定版だから。まだまだ検証する余地があるわね」

 

そう言うと夜蘭は懐から二つの書類を取り出した。

 

「そうか、ご苦労様だな。じゃあ、早速確認させて貰うとするよ」

 

瞬詠はそう言いながら書類を受け取ると、一通り内容を確認する。

 

「…ふむふむ、成程な」

 

そう言うと瞬詠は難しそうな表情を浮かべながら、考え込むような素振りを見せる。

 

「どうだったかしら?…“特別監査官”殿?いえ、“特別代行官”様?」

 

夜蘭はニヤニヤと意地悪そうな笑みを浮かべながら尋ねる。

 

「…はっ、そうだな、一言で言えばかなり面倒くさい事になってるな…と。奴らの本命の目的、この内どれの動きが本命なのかが分からん。…それになぜだ。なぜ、___」

 

瞬詠は苦笑いしながらそう呟くと、再び口を開く。

 

「___璃月港にいるファデュイの外交官達や執行官達、そして彼らの配下の部下らしき者達や諜報員らしき者達の動き、なぜこれに全体的な統一性が無いんだ?…いくら何でもバラバラすぎる。普通であれば目的や目標を達成する為に、動きのどこか繋がりや共通点があってもおかしくはないはずなのに、それすらも見えてこない。いやむしろ、だからこそ、か?……だが、そうだとしても、これは一体どういうことなんだ?」

 

瞬詠は首を傾げながら、不思議そうに眉をひそめる。

 

「確かに、そう言われてみると妙よね。おまけにまるで、意図的に彼らの動きを私達の方に見せつけているみたいに動いているところもあるし…。本当に、不可解よね」

 

夜蘭は顎に手を当てて考える。

 

「あぁ、そうだろう?…だがそれよりも、この名簿の方だが…。正直、覚悟はしていたが、実際に見てみたら、まぁ…。うん、思った通りだな」

 

「ふふっ、総務司や王山庁、それに和記庁を中心とする“七星八門”、それに瞬詠や甘雨が所属している“月海亭”に、まさか彼らの“内通者”や“協力者”がいたとはねぇ?」

 

夜蘭は面白そうにクスリと微笑む。

 

「あぁ、全くだ。妙に気になる動きをする者達が何人かいるのには気づいていたが、実際にその可能性が高い事を目の当たりにしたら、さすがに驚きを禁じ得ないな。…やはり、凝光さんに無理言ってお願いして正解だったな」

 

「えぇ、そうね。それにこの多くの情報。私単独だったらここまでの量や精度の高い情報は得られなかったでしょうね。…瞬詠、貴方の『密偵防諜部』。本当にこれを設立して正解だったわね?これのおかげでもっと組織的に動けるようになった分、より多くの、より高度な情報収集を行う事が出来るようになった事だし、また私自身の情報収集の量も質も大きく上がったもの。ふふっ」

 

夜蘭は妖艶に笑う。

 

「まぁな。…と言うか元々当初は、ただ夜蘭さんの能力を最大限に発揮させ、そしてその能力をふんだんに活用するための簡単な小さな支援組織だった筈だったんだが…。それがどうして、こんなちょっとした本格的な秘密機関みたいなものに…。でもまぁ、もう今になってはもう良いけどな。それどころか、俺達の『密偵防諜部』はまだまだ改善の余地があるんだ。現時点の防諜能力、諜報能力ではまだまだ完璧とは言い難いからな…。この程度で、満足することなんてできんよ」

 

瞬詠は夜蘭に苦笑いを浮かべながら、そして真剣な表情で呟く。

 

「…それぞれ少し違うが、例えば稲妻であれば表の『天領奉行』と裏の『終末番』、モンドであれば表の『西風騎士団』と裏の『地下情報網』、そして璃月の表の『千岩軍』と裏の『密偵防諜部』のような感じの組織にしなければならないし、行く行くはそれ以上の諜報能力や謀略能力、場合によって工作能力を開発、それらを向上化させていかなければならないからな。…そう、全てはより効率的、効果的にファデュイに対する抑止力、またファデュイにとっては無視できない程の牽制能力や反撃能力を保持する事で、結果的に彼らが璃月に手出ししづらくさせ、好き勝手な事をさせない為に。…必ず、必ずだ。必ず、一流の諜報機関を築き上げなければ」

 

瞬詠は力強くそう言いきる。

 

「ふふふ、随分と理想的ね。だけどそこまで行くのはなかなか大変だと思うわよ…。まぁ、だからこそやりがいがあるのかもしれないけど」

 

夜蘭は苦笑する。

 

「まぁな。…全くとんでもない事になっちまったよ。ただでさえ、あの暴走女の刻晴の部下なんてやっているからもの凄く忙しい上に、稀に凝光さんからの仕事がやってくるわけでそれの対応も行わないといけないわけで今も一部行っているわけだし、おまけにたまに自分の仕事を終わらせるために甘雨を探し回ったり、また終わらせるために彼女の仕事の手伝いをしなきゃいけない事態になって、そうして今度は夜蘭さんの『密偵防諜部』だろう?…冗談抜きで、このままいくと過労死してしまう未来しか見えないんだが……?」

 

瞬詠は困ったように笑う。

 

「あら、それは大変ね。……でも、大丈夫よ。貴方なら何とかなるでしょ?何故なら貴方は月海亭や七星八門で“仕事人”として名を馳せているから。だからきっと、これからもどうにかやっていけると私は思うわ」

 

「…いや、それって周りには“凄腕”とかそういう意味の方で名が通っているようだが、俺的には“働きすぎ”もしくは“激務”という意味の方としかで受け取れてないんだが…。全く凝光さんが、凝光さんの頼まれている仕事や今の夜蘭さんの『密偵防諜部』に関する仕事を刻晴に知らせるのは厳禁、また刻晴、一部は甘雨達にもバレないように秘密裏にやりなさいなんて無茶苦茶すぎる制約なんてつけるから、こんな面倒な事になるんだろうが…」

 

「ふふっ、大変ね。…でも、分かっているんでしょう?」

 

夜蘭はニヤニヤと意地悪そうな笑みを浮かべる。

 

「あぁ、分かってるよ。全てはあの暴走女、刻晴のためだ…。特に“怨人”達関係は…。本当に、本当にだ!!認めるのは癪ではあるが!!…はぁ、___」

 

感情を爆発させていた瞬詠は大きく溜息をつく。

 

「___あいつは次の時代の象徴となる存在だ。きっとあいつの存在が次の時代の扉を開く鍵となる。…言うなれば、この璃月港にいる“彼女達”、“甘雨”の奴に“凝光”さん、そして暴走女の“刻晴”が時代の象徴だとすれば…それは、___」

 

瞬詠は深く考え込み、そして口を開く。

 

「___そう、それは『“甘雨”が神や仙人達が人間達を率いる時代』の象徴。そして『“凝光”が神や仙人達を頼りに今を生きる人間達の時代』の象徴。そうして『“刻晴”が神や仙人達に頼らず自らの手で未来を築いていく人間達の時代』の象徴だ。だからこそ、凝光さんは自分を刻晴の直属の部下にしたんだろうよ…。あの暴走女、時に俺と怒鳴り合い、時にはお互いに手まで出しあう寸前の間柄の奴を、あの女がな…はっ、本当に笑えるよ。だが、まぁ…な?」

 

瞬詠はそう呟くと、口角を上げて、フッと微笑む。

 

「まぁ、俺はどこまでも、俺自身に割り当てられた仕事や責務を果たし続けるだけだ」

 

「…ふふっ、成る程ね」

 

夜蘭は瞬詠に微笑む。

 

「あぁ、あっ、そうだ。夜蘭さん。ちょっとこれの添削をお願いしたいんだが頼めるか?夜蘭さんは『特別重視名簿』、『秘密情報名簿』の編集者だから、是非とも俺が今までに試作した“これ”の添削をして貰いたくてな。頼むよ、夜蘭さん。…いや“特別情報官”殿?」

 

「あら、さっきの趣返し?…ふふ、良いわよ。」

 

瞬詠は先ほど夜蘭にされたようにニヤニヤと意地悪そうな笑みを浮かべ、夜蘭も悪戯っぽく笑う。そして瞬詠は夜蘭に“これ”、『有事行動指針書』と書かれた書物を渡す。

 

「…ふぅん」

 

夜蘭は瞬詠から渡されたそれを流し読みする。

 

「どうだろうか?」

 

「そうねぇ……。まぁ悪くはないわね。様々な事態を網羅していて、それでいて必要な情報やまた代替法とかも抜けていない。それに、とても簡潔明瞭にまとめられていて分かりやすいわ。でも、そうね……もう少し、もっと踏み込んでい良いんじゃないかしら?」

 

「…例えば?」

 

「そうね…思いっ切って『璃月七星のリーダーである“天権”凝光が暗殺、もしくは暗殺未遂に遭った』とか、更にもっと踏み込んで『岩王帝君が暗殺、もしくは暗殺未遂に遭った』とか?」

 

「はぁ?…いや、まあ確かにそういう状況はありえないという訳ではないが…。まぁ、ありとあらゆる状況を想定するならばそう言った状況をも考慮しないといけない…か」

 

瞬詠は夜蘭の指摘に呆れ顔になりながらも、どこか納得した表情を見せる。

 

「えぇ、そうね……。まぁ、これでも悪くは無いわ。及第点と言った所かしら?…でも、意外ね。瞬詠がこんなのも作れるなんて」

 

「まぁな…。今までに暇な時に“万文集舎”で良さそうな本を買って読んでみたり、後は稲妻の、海祓島にいる知り合いの“巫女”、いやこの場合は“軍師”と言えば良いのか?まぁ、彼女が過去にざっと見せてくれた“虎の巻”、またその虎の巻のその製作作業を見せてくれた時の事や製作する時のコツや注意点を軽く教えて貰ったりしたからな…。それを元手に、まあ彼女のオリジナル版には劣るが、璃月版虎の巻であるこの『有事行動指針書』の試作版が、今日ようやく完成したって訳だ」

 

瞬詠はそう言いながら夜蘭が手にしている『有事行動指針書』に、視線を向けながら頷いた。

 

「へぇ、そうなのね。…凄いわね、本当に」

 

夜蘭は感嘆の声を上げながら、改めて『有事行動指針書』に目を通した。

 

 

 

そしてその時であった。

 

 

 

「…うん?」

 

「…あら?」

 

瞬詠と夜蘭はすぐ近くに人の気配を感じ取り、そちらの方に視線を向ける。

 

「失礼します。瞬詠様、夜蘭様。ご報告がございます」

 

二人の視線の先には今の璃月港の闇夜に紛れるように黒と青の装束に身を包んだ、一人の男性が立っていた。

 

「あら、どうしたのかしら?」

 

夜蘭は笑みを浮かべる。

 

「はい。警戒監視中の第六班より緊急報告です。当該監視エリアにて“彼ら”、何らかの作戦行動中と思われる“彼らの諜報員らしき人物”の二人程の姿を捕捉しました。

 

男はそう言って、懐から小さな紙切れを取り出し、夜蘭に手渡した。

 

「……ふむふむ。成る程ね」

 

「…第六班の監視エリアと言えば…、“煙緋法律事務所”があるエリアだったか?もしかしたら、一部の奴らは勘づいたのか…?」

 

瞬詠は顎に手を当て、考える仕草をする。

 

「…さぁね?ただ、この前の夜の時は一人だったのに、今夜は二人となっているから…。ふふっ、何かあったのかは知らないけど、随分と面白くなってきたじゃないかしら?」

 

夜蘭は妖艶な笑みを浮かべる。

 

「…因みにその二人は“一線は超えた”か?…もしくは“一線を超えそう”か?」

 

瞬詠は真剣な眼差しを男に向ける。

 

「…いえ、まだそこまでには至っていないようです。しかしながら、作戦行動中の彼らの作戦目標次第では、“一線を越える”のは時間の問題かと思われます」

 

男は淡々と答える。

 

「…そうか」

 

瞬詠は小さく息をついて、思考する。

 

「……」

 

「……」

 

そして報告を行った男は黙って瞬詠をじっと見つめ、夜蘭も瞬詠の様子を静かに見守っていた。

 

「…まず第四班に伝達。第四班の監視エリアには半分残し、残りは至急第六班の監視エリアに急行せよ。そしてその後に警戒待機中の第七班に伝達。半分は至急第四班の薄くなった警戒監視網の穴埋めを、もう半分は大至急六班の監視エリアに急行せよ。そしてそのまま気づかれないように静観対応で対象の彼らの監視を行え。万が一彼らが煙緋法律事務所に接近を試みた場合、即刻煙緋法律事務所周辺で巡回中の千岩軍を、彼らと鉢合わせになるように誘導を行い彼らを撤退に追い込め」

 

そうして思考していた瞬詠は、思考した結果を元にそのように指示を出した。

 

「…申し訳ありません、瞬詠様。献言させてください。先に第七班に伝達を行い、第四班の補強を行ってから第六班に向かわせるべきでは?…このままでは第四班の監視対象の監視が手薄になってしまいます」

 

そこに、男はおそるおそる瞬詠に進言する。

 

「いや、それは駄目だ。確かに、第四班の監視エリアにある七星八門の“銀原庁”や“輝山庁”の監視を疎かにするのは愚策であるが…。今日、状況が大きく変わった。今や第六班の監視エリアにある“煙緋法律事務所”は“群玉閣”、“月海亭”に次ぐ重要施設の一つとなった。それに今の煙緋法律事務所には、“天権”凝光からの依頼に関する資料や、そして煙緋達が作成したとある“重要な図表”が置いてある。彼らの目的が何のかはまだ分からないが、どのみち我らが死守すべき最重要拠点の一つとなった以上、優先順位を変えるべきだ。…分かったか?」

 

瞬詠は鋭い瞳を男に向け、そう言い放つ。

 

「成程…。はっ、承知致しました。それでは直ちに第四班に伝達を行ってきます」

 

男は瞬詠の言葉に納得したかのように頷く。そして、瞬詠に頭を下げてからその場を離れた。

 

「…はぁ、本当に面倒な事になったな。…くそっ、何とかしてでも煙緋と忍の安全の確保をしなければ。それに目的が分からない以上、最悪を考慮して煙緋や忍を上手い感じに煙緋法律事務所から安全な場所に避難させるように誘導する必要もあるな…。いや、待てよ。…確か煙緋は凝光さんと直接話し合いをしたいって言ってたな?これを上手い事利用して…。それに凝光さんにもこの事を相談して…。それと___」

 

瞬詠は夜蘭から渡された“故郷を忘れた同郷達と関わり合いのある者達に関する名簿”に視線を向ける。

 

「___暫定版であるが、予定通り内部に潜んでいた内通者や協力者達の名簿も手に入った。これを利用して“次なる手”を打っても良い頃合いなわけだ。それに以前、彼らの内の一部が璃月の闇市場に流そうとして、結果的に夜蘭が鹵獲した“あれら”、“あの人”の協力のおかげで“改造”や“実証実験”も無事に終わった事だし、完全では無いもののある程度はファデュイの奴らが使用している“暗号の解読”も出来ている。あとは“個人的なファデュイの関係者達とのお話”もじっくりと出来たからな…。大方の準備は終えたと言えるだろう。…ならば___」

 

瞬詠はそう言うととある方向、以前に璃月七星とスネージナヤの外交官やファデュイの執行官達との会談を行い、そして今の遅い時間でも璃月とスネージナヤの一部の外交官達が会談を行っている会談会場に視線を向ける。

 

「___そろそろ本格的に、今璃月港で好き勝手動き回っているファデュイ、まぁどの執行官の配下にいるファデュイなのか、もしくはどの執行官のどの派閥のファデュイなのかまではまだ分からんが、どのみち今璃月港で傍迷惑な活動をしている彼らに対しては、“撹乱工作”を仕掛け始めても良いわけだ。…多少の事は今まで目を瞑ってきたが、そろそろお灸を据えても良い頃だろう。…璃月で警戒すべき相手は、岩王帝君や仙人達だけではなく、璃月の人間達をも警戒しなければならないという事を、ファデュイの連中にじっくりと教え込んで、分からせてやろうではないか…」

 

瞬詠はその方向を見つめながら服から“黒い鉄扇”を手にし、それをもう片方の手のひらを軽く叩きながら、静かにそう言い放つ。

 

「ふふっ、なんて聡明で、恐ろしい御方。…流石、“天権の懐刀”と呼ばれているだけはあるわね」

 

そして隣でずっと瞬詠の事を見ていた夜蘭は、隣で静かに呟くと同時にクスッと微笑む。

 

「ん?何か言ったか?」

 

「いえいえ、何でもないわ」

 

そうして瞬詠は夜蘭の方を振り返って、不思議そうな表情を浮かべ、それに対する夜蘭は瞬詠に向かって、ただ楽しげに首を横に振ったのであった。

 

 




随筆している最中、そして完成したのを読み返して、結構久しぶりに思いました。

何か主人公がいつの間にか勝手に(一応は凝光の許可の元で)璃月に新しい機関(秘密組織である諜報機関)を設立しちゃってるけど、これ大丈夫なの?(結構、ノリノリで書き上げちゃったけど…)

まぁ、相手がファデュイという巨大な組織なんだから、璃月側も組織で対抗するべきなのか…?

他にも随筆していて最終的に夜蘭がファデュイの“あれ”が鹵獲され、それを使えるように“改造”したって、なってしまっているけど。これ、ありなのか…(考えてみれば例えばモンドでの改造なら無理そうだけど、璃月なら普通の人間達なら無理だが…。これ、行けるの…か?)

…もう、そう言う事にしておきましょう(呆)。(一旦まずは、瞬詠の設立した『密偵防諜部』とそれに関わる“夜蘭”の設定をちゃんと固め、ちょっと全体的なストーリーの流れも一度整理、修正しておきます)



――――
◎解説(“璃月七星”について)
・璃月七星
→今までのストーリーで語られていますが、(前提として岩王帝君が亡くなられる前になりますが、)璃月七星は商業国家である璃月を優秀な商人達や業界のリーダーから選出された璃月を統治する七人、また璃月を管理する七人の事です。
具体的に璃月七星は毎年行われている迎仙儀式にて岩王帝君からのその年のビジネスや商業に関する神託や予言の内容を受け、受けたその神託や予言の内容やそれら方針に従い、それぞれ七星に割り当てられた職務をこなすことで、岩王帝君が定めた璃月の一年を実現させていく璃月の代表者達七人という事です。
七星の中で職務が明らかになっているのは、現在の所では凝光の“天権”が法律、刻晴の“玉衡”が土地・生活管理・建設・不動産となっております。他の七星は現在の所明らかになっておりません。
尚、それぞれ璃月七星の、“天権”、“玉衡”、“天枢”、“天璇”、“天璣”、“開陽”、“揺光”の元ネタは“北斗七星”のようで、七星名は“七星を構成する星の中国語名”みたいです。
余談ですが、璃月七星の七星名の呼び方ですが、取り合えずWikiで読み方の英語名があったので、(例えば“天璇”(Tianxuan))それをグーグル翻訳で発音させた音を参考にしてみましたが、正直リスニングには自信が無いため、間違っている可能性がありますが、そこはご了承ください。



―――――
追記1
・終盤の“瞬詠”と“夜蘭”の会話のシーンの追加修正(言い回し関連)を行いました。
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