玉衡の元から逃亡したら千岩軍が追いかけて来ていた件について   作:久遠とわ

26 / 27
完成したので投稿。

今回はあらすじに書いてある分割した12話目の前半です。

今回も考察ネタ、そしてオリジナル設定や要素が遺憾なく発揮しています。

尚、今回の解説は正直取り扱うかべきかどうかに結構悩んでいましたが、取り扱えずほんの軽く触れてみようと思います。
(因みに取り扱う予定の“それ”に関しては、それを巡る今後の物語のストーリー関係がまだしっかりと決めきれてない事。またもしかすると後の、今後原神の“魔神任務”等のメインストーリーや一部のキャラの“伝説任務”に関連する話、そうしておそらく“魔神戦争期の話”、またもしかしたら“七神成立関係等の話”と関わってくる可能性があるもののため。ただ現時点では本当に謎が多く、正直それを扱うのは非常に難しいために、当たり障りの無い程度にしようと思います。)

また今回は試験的に少し文章の書き方(主に長いセリフ関係)を工夫してみました。個人的に意外と悪くないんじゃないかと思いました。

それと余談ですが、三月の感想欄で頂いた改行に関してのアドバイスをきっかけに始めた『大規模改行改修作業(【本編第1幕・本編第2幕】を対象とした改修作業)』も無事に終わりました。かなり読みやすくなったのではないかと思われます。

改めて、アドバイスを頂いた方々に感謝の意を表明しようと思います。
本当にありがとうございました。



またこれも余談ですが、お気に入り数も間もなく300人を超えようとしています。
本当にありがとうございます。励みになります。

最初はほんの出来心で、AIと書きたいものを書きあっていくという遊びの結果、それなりの文章量の原神の二次創作ものができあがってしまい、消すのはもったいないし折角ならばこのサイトに投稿しよう思ったのがきっかけでしたが、こうして1年以上書き続ける事が出来ました。

これからも少しずつ、また本当にいつ終わるのかが分かりませんが、原神の魔神任務や伝説任務、世界任務や期間限定イベント等を統合させてそれらを活かしつつ、投票で決めた各国を代表するそのキャラ中心視線で瞬詠の足取りを通じた各国の過去や、その過去を通じて明らかになっていく隠されたテイワットの真実、そしてオリジナルストーリーを取り扱った番外編(理想)と、本編で行われているモンドと璃月、西風騎士団や千岩軍、また道中騒ぎに巻き込まれたアビス教団等、それらを派手に巻き込んだ刻晴と瞬詠のモンドと璃月を巻き込んだ壮大で壮絶な喧嘩(西風騎士団・千岩軍の大規模合同軍事演習という名の武力あり元素力ありの追いかけっこ、もしくはある意味命がけのリアルガチの逃走中)の随筆を続けて行こうと思います。



思うような纏まった時間が中々取れず、理想的な更新速度にも乗れておらず、また作者なりの独断や独善的な面も目立つかもしれない作品ですが、面白ければお気に入り登録や高評価等をしてくれたりすると嬉しいです。本当に励みになります。

また文章中に誤字脱字の指摘を行ってくれる人達もありがとうございます。本当に励みになり、またそうしてこの小説の完成度が引き上げる事も出来る為、感謝しています。



こんな拙作ですが、これからもよろしくお願いします。


璃月七星天権の“切り札”と明かされる事実

「___つまり、凝光殿。この法律のこの条項のこの部分だが、これの条項に書かれているこの部分。これらを“彼ら”の都合の良いように解釈されてしまうと、そこが彼らの突破口になってしまうという事だ。ここの部分は今一度、慎重に練り直した方がいいかもしれない。私はそう思うぞ」

 

「…成程ね、煙緋。それは盲点だったわ。甘雨、今の煙緋が気づいたその点を記録しておいてくれないかしら。それにそうなると、それと似たようなこの銀行法の第10条第3項。この部分も法律の脆弱性が認められるかもしれないわね…。甘雨、今の部分も記録をお願い。後でこの点に関して確認、検証する必要があるわ」

 

「はい、分かりました。凝光さん」

 

「…煙緋先輩、凝光さん。少しよろしいだろうか。この部分がいまいちよく分からないし、釈然としないのだが。この部分、もう少し明確にした方が良いのではないでしょうか?」

 

「うむ、どれどれ。…凝光殿。忍さんが指摘したこの部分。この部分が、どういう意図、どういう目的がこの部分に込められているのか、これをもう少し詳しく、そしてもう少し限定した方が良いかもしれない。汎用性が高いのはあらゆる状況に対応出来るようにする、という意味合いで良いのかもしれないが、この法律は限定して特定の範囲に絞って適用しなければいけないような気がする。それにこのままでは彼らにこれを逆手に利用されてしまうような気がする。どうだろう?」

 

「うん、そうね。…その部分の目的と意図に関して何だけど___」

 

璃月様式の落ち着いた雰囲気の部屋にその落ち着いた雰囲気を醸し出している琉璃亭等で使われているような木製の灯籠の暖かな光、璃月様式の高級そうな木材を使用した背もたれ付きの椅子に少し大きなテーブルのような円形机。

その円形机の上に様々な法律に関する資料やそれに関連する璃月国内の金融や銀行に関する資料などが展開され、そのテーブルの周りに椅子から立ち上がっていた煙緋と凝光が難しそうな表情を浮かべて指差ししながら話し合いを行っていた。

そして煙緋の隣に立つ忍は煙緋と凝光のあまりにものレベルの高い会話に戸惑いながらも、それでも何とかギリギリ理解しながら、時折素朴な質問を行い、忍のそれをきっかけに煙緋と凝光が現状の運用されている法律や改定予定の法案について整理しては、その法案に対する新たな改善点や気づかなかった潜在していた問題点を炙り出していた。

そうしてそれを煙緋と凝光が話し合ってその話し合った結果を、凝光の隣に立つ甘雨が顔を上下に動かしながら、ほぼリアルタイムで速記するかのように筆を動かし続けていた。

 

 

 

 

 

とある日の璃月港。その日の璃月港は秋晴れの快晴、日中の心地よい暖かさに加えて快然たる優し気な風が璃月港の赤や黄色に染まった紅葉の葉を優しく撫で、そんな秋の爽やかな風も相まって璃月港はいつも以上に穏やかな雰囲気に包まれていた。

 

そして『玉京台(ぎょくけいだい)』地区にある毎年の迎仙儀式等の重要行事を催す要所である『倚岩殿(いがんでん)』、その直ぐ近くのの上空にてその穏やかな雰囲気の璃月港を見守るかのように鎮座する“それ”、璃月七星のリーダー“天権”、凝光が所有している彼女の象徴である孤高で壮麗な空中宮殿『群玉閣』がその姿を悠然と見せつけていた。

 

そしてそんな凝光の空中宮殿たる群玉閣にて、群玉閣で主に話し合いや会議などを行うための会議用に設けられていた円卓と椅子が並べられた広い部屋で、煙緋、忍、そして凝光、甘雨がこの日も凝光から煙緋に出した依頼である『金融・銀行法改定法案の添削・批評依頼』に関する対応を煙緋と凝光の合同で行っていた。

 

 

 

煙緋が凝光に客人として群玉閣に招かれたその日、異例中の異例の対応とも言える凝光本人による案内の元で群玉閣の応接室まで案内された。煙緋と忍はまさかの待遇に驚きながらも、凝光から案内された応接室へとおずおずと入って凝光との面談を行い、そうして煙緋は凝光ととある“契約”をかわして“特別な身分”を得た事により、群玉閣内の様々な機密事項のある場所での立ち入り許可や群玉閣内での自由な行動などが認められるようになったのである。

 

 

そうして“特別な身分”、“天権専属顧問法律家”の身分となった煙緋はいつものように、凝光と共にそう遠くない内に行われる表向きは大規模な『金融・銀行法法案改正』であるが、その実態はスネージナヤが擁するファデュイの工作活動に対する対策。

スネージナヤ、ファデュイが打ち立てている恐れがあるとされている『璃月属国化工作計画』並びに『璃月資本侵略計画』に関連する開業予定であるスネージナヤ系列外資系銀行の北国銀行や、スネージナヤの銀行家達が合法的に乗っ取った璃月のローカルな金融機関である“銭荘”の悪意ある動きを縛り付けて規制するかのように、凝光が秘密裏に行っていたファデュイの金融や銀行を活用した商会工作や市場工作を阻止するための『対ファデュイ工作活動抑制施策』、北国銀行やスネージナヤの傘下に下った銭荘を通じたスネージナヤの銀行家達やファデュイの暗躍を抑制し、縛り付けるための“法律の鎖”。

 

その凝光の“法律の鎖”とも言うべきその鎖の効力や強度を更に強くするために、凝光が生み出した先の“金融や銀行法に関する予定法案に関する大量の資料”や“現在の金融法や銀行法に関する資料”、また以前に瞬詠が煙緋法律事務所に訪れた際に写真機で写真を撮った璃月のありとあらやる市場や業界、そしてそれらを織りなす商会やその商会に属する人物の相互関係等の情報やその商会やその人物への璃月側とスネージナヤ側の融資に関する情報を取り纏めた“璃月業界情勢図”の写真。またその写真の内容を模した煙緋の法律事務所に置きっぱなしの図表とそっくりな図表を円卓の上に置かれ、それらを元に今日も煙緋と凝光達は話し合っていたのであった。

 

 

「___甘雨先輩、この部分はその条文とその条文はそれぞれ関係があるので、それらの関連付けもお願いします」

 

「___甘雨、それと第25条。この条項に関しても煙緋が指摘したそれと関係があるから関連付けをお願いね」

 

「は、はい、分かりました。…それでしたら、それと関係があった…えぇっと、金融法の方の第14条も一応紐づけしておきますか?煙緋さん、凝光さん?」

 

「あぁ、そうですね。甘雨先輩、お願いします」

 

「ふふっ、確かにそうね。甘雨、それの紐づけもお願いね」

 

「…」

 

煙緋と凝光は甘雨の真後ろに立ち甘雨が速記で書いた内容やそれに付随するメモを見て、甘雨に指示を出したり指摘したりしている中。忍は背中越しにいる煙緋と凝光と話し合っている甘雨、そして甘雨のメモや記録を黙って見つめる。

 

先ほどまで甘雨は煙緋と凝光の法律に関するレベルの高い会話を間隙を与えずに、まるで高速で連射していくマシンガンや速射砲のような速さで、高速で展開されゆく煙緋と凝光の会話をとてつもない速さの速記でメモや記録を取っていた。それは忍の目の前で繰り広げられていたあまりにもののハイスピードで展開されていく速さに忍は甘雨はちゃんとメモや記録を取れているのかが不安になるほどであり、実際に今日も本当に甘雨はメモや記録をしっかりと取れていたのか不安になるほどであった。

だが今回も煙緋と凝光の反応を見るに多少のメモのミスや聞き間違いはあっても概ね問題ないようであり、それでいていつものように特に疲労が溜まっている様子も見られない事に忍は関心を抱いていた。

 

甘雨は前提である法律の知識がほとんど無いにも関わらず、煙緋と凝光の会話だけで二人の法律の話の要約やその内容の把握、そして必要な箇所への速記でのメモ書きや法律用語や専門的な言葉による注釈等を行っていたのであった。

それは煙緋と凝光の話を素人なりにでありながらもしっかりと理解できている事であり、またそれらについての提案や補足を煙緋と凝光に適切に行う事が出来る事の証明でもあった。それは甘雨のあまりにもの要領の良さや頭の回転の速さ、そしてそれに対応する煙緋に引けを取らないほどの凄まじい集中力が為せる技の証であった。

そうしてそれは忍に、璃月七星全体の秘書を務める彼女、そして今の月海亭の職員の中で瞬詠と双璧をなすように彼と同じく頂点に立つ人物である彼女、甘雨という人物に忍が尊敬を抱かせさせる程であったのである。

 

「…うん、これで大丈夫ね。煙緋、甘雨の記録に間違いはないかしら?」

 

「あぁ、問題ないぞ。凝光殿。甘雨先輩、甘雨先輩もありがとうございます」

 

「いえいえお二人とも、大した事ないです。この程度でしたら、お役に立てるのでしたらどんどん私を使ってください。秘書として凝光さん、そして今では凝光さんの専属の顧問法律家になった煙緋さんお二人のお手伝いできる事はいくらでもしますので」

 

凝光と煙緋の言葉に嬉しそうな笑みを浮かべる甘雨。甘雨は嬉しそうな笑みを浮かべながら、円卓の上に置かれた自分のメモや記録を見直し確認し、間違いが無い事を確認するとそれらを全て片付け始めていく。

 

「…甘雨さん、お疲れ様です。甘雨さんって、法律とかは全く分からないんですよね?どうして煙緋さんや凝光さんが言ってる事をあそこまで理解出来ているんですか?」

 

忍は円卓の上を片付ける甘雨に小声でそう尋ねると、甘雨は忍の質問に対して少しだけ苦笑を浮かべながら答える。

 

「えっと、それはですね……。説明するのが本当に難しいのですが、最近時間のある時に基本的な法律の勉強をしているのもありますが、普段から物事の繋がりを意識したり、具体と抽象を分けたり、因果関係を明確にしたりと、それらを高速で出来るように普段から色々と試行錯誤しているんです」

 

「なるほど。それであのレベルの高い会話を理解してメモや記録を取れているんですね。…本当に凄いですね、あの会話内容についていけるのは」

 

「いえ、そんな……。私はまだまだ未熟者なので、もっと努力しないと……。そ、その、ありがとうございます」

 

甘雨は忍の褒め言葉に照れながらそう答えると、円卓の上に展開されていたそれらを一纏めにしていく。

 

「ふふっ…あら、もうそろそろ“瞬詠”がやってくる事かしら?」

 

甘雨と忍のやり取りに笑みを浮かべながら凝光は何かに気づきそう呟く。

 

煙緋は苦笑いをしている凝光に疑問符を浮かべながらそう尋ねる。

 

「っ!?…凝光さん。今、あいつ、瞬詠がこの群玉閣にやってくるって本当ですか?」

 

そしてそれを聞いていた忍が凝光にそう尋ねる。

 

「えぇ、そうよ。実はこの後“玉衡”である“彼女”、“刻晴”ととある打ち合わせがあるのだけれど。先んじて彼女の資料を群玉閣に持ち込んで打ち合わせの準備を行うって話だったのよ。本来、こういうのは璃月七星全体の秘書を行っている甘雨の仕事なんだけど、今の甘雨は完全に私の専属的な補佐として入ってもらっているから、必然的に私の命令で彼女の直属の部下として任命させた瞬詠が、彼女の秘書兼部下みたいな感じになるしね…。ふふっ、もしかしたら騒々しくて面白い光景が見れるかもしれないわよ」

 

「ほぉ…」

(成程、彼女、“刻晴”か…。そう言えば私は彼女とは直接的な面識がないから。これが初めての対面になるな…。ふむ、瞬詠の話や噂で色々と聞いてきたが、実際は一体どんな方なのだろう?)

 

凝光と忍の話を聞いていた煙緋は凝光の言葉に納得したように頷くと、当の話題である“刻晴”について少しだけ思案する。

 

「そう言えば瞬詠さんが今日、群玉閣に来るんでしたね…。なら、丁度良かったです。前に瞬詠さんに“頼まれた事”について、その事をお伝えしようと思っていたところなので…」

 

円卓の上に広げられていた資料や記録等を一纏めにし終えた甘雨は、纏め終えたそれらを確認しながらそんな声を上げる。

 

「成程…。それなら、私も丁度良かったです。あいつ、瞬詠に相談したい事、言いたい事があったので…」

 

そして忍は凝光と甘雨のそんな言葉に頷きながら、なぜか独りでに拳を握りながら呟く。

 

「へぇ…。成程ね」

 

そうして凝光は忍のその反応を興味深そうに見つめる。忍のただならない雰囲気から、もしかしたら面白い事が起きるかもしれないと。

 

「ふふっ……。少し、気分転換がてらに外に出ましょうか。煙緋、忍。…それと瞬詠を出迎えに、ね?」

 

そして凝光は少しだけ愉快そうに笑みを浮かべながら、煙緋と忍にそう声を掛ける。

 

「そうですね…。行きましょう、凝光さん」

 

忍は凝光の言葉に賛同するようにそう答えると、同じように煙緋も同じように賛同するかのように頷く。

 

「うむ、そうだな。凝光殿、行こう。彼を出迎えに。甘雨先輩も一緒に行きませんか?片付けるのを手伝いますよ?」

 

「あ、煙緋さん。大丈夫ですよ。片付けはもう終わりますし、これら資料を保管室まで持っていくのは、私の仕事ですから。終わり次第、直ぐに煙緋さんと凝光さん達の元に合流しますので、私の事は気にせず先に行っててください」

 

煙緋の気遣いに、円卓の上に展開され一纏めにしたそれらを抱えてながら甘雨はそう答える。

 

「そうですか、甘雨先輩。分かりました。それでは先に凝光殿と外に行ってますね」

 

「はい、分かりました。終わり次第、すぐに行きますね」

 

「ふふっ、それなら行きましょう」

 

煙緋と甘雨のやり取りを楽しげに聞いていた凝光はそんな声を上げると、それを機に煙緋と凝光達の四人は部屋を出てそれぞれの方向に向かって歩みを進めて行き始めた。

 

 

 

「…ほぉ」

(それにしても、本当にここは…)

 

部屋を出た煙緋は群玉閣の通路を歩きながら、周囲を見渡す。通路にはどうみても高級そうな壺や置物などが飾られてあったり、また部屋の前の壁にこれまたどうみても高そうな織物が張られてあったりと、明らかに煙緋や忍のような庶民達にとっては場違い感満載な光景が広がっており、煙緋はそんな光景につい感嘆の溜息をもらしてしまう。

 

「…」

 

そしてふと煙緋は、チラリと隣に並び歩いている忍の様子を窺う。

 

「…」

 

彼女は相変わらず無言のままであるものの、どこか緊張しているように煙緋には思えた。

 

「…」

 

煙緋は一瞬、忍はここでの暮らしにまだ慣れずに緊張をしているのだろうかと考える。だが、直ぐにその考えを否定した。

確かに凝光にいきなり『煙緋、忍。申し訳ないけど、これから仕事の関係で煙緋とは密な連携を取る必要があると考えているから、暫くの間になるけどこの群玉閣に滞在して頂戴。因みに煙緋と忍の部屋は既に準備済みよ』と言われて、急すぎる展開にたじたじする暇すら無く、凝光達にあれよこれよと群玉閣の自分達に割り当てられた部屋や群玉閣の中を案内された時は煙緋も忍も目を回しかけてしまったものだ。だが、既にそれなりの日数が経っているのだ。

正直、今更緊張する事はないだろうと、煙緋は首をひねる。

 

「…」

 

そうして忍は少し緊張したような表情、そしてどこか悩めるような表情を浮かべながら無言で歩く。

 

そして凝光と煙緋達が群玉閣の玄関に当たる巨大な扉に到着し、その扉が開き始めたその時であった。

 

「…あの、凝光さん」

 

忍が突然、凝光に声を掛ける。

 

「ん?どうしたのかしら?」

 

「あの……その」

 

凝光がそんな忍に対して振り返ると、彼女は少しだけ躊躇しながらも意を決した表情を浮かべる。

 

「…凝光さん。あの、その。あいつ、瞬詠とはかなり長い付き合いになると思うのですが、その……。あいつ、瞬詠が所属していた南十字船隊から凝光さんの元に引き抜かれたという事なのですが、少しだけそれに関するお話をお伺いしたいのですが……」

 

「あぁ、その事?…ふふっ、それに興味があるの?良いわよ」

 

忍のその言葉に凝光はにっこりと笑みを浮かべつつ、群玉閣の宮殿の外を歩きながら忍にそう返答する。

 

「ほぉ…瞬詠の過去か」

(そう言えば凝光殿本人から、瞬詠の過去について詳しく聞いた事は無かったな……。それに彼が所属していた南十字船隊も私も気になるな)

 

煙緋は腕組みしながら興味深そうに忍と凝光の会話に参加する。

 

「うん、何から話そうかしら…。そうね、私が“船長さん”が率いる南十字船隊から引き抜いたという話だけど」

 

凝光は煙緋と忍の興味津々な様子に少しだけ微笑みながら、自身の過去の記憶を遡っていく。

 

「えぇ、そうね……。そうね、まず、私が瞬詠を南十字船隊から引き抜こうと思ったきっかけなんだけど…。正直に言ってしまえば、瞬詠の存在を知った当初の私はそこまで瞬詠の事を重要視や特別視なんてしてはいなかったの」

 

「えっ…そうだったんですか?」

 

「ほぉ、それは意外だな…。凝光殿がまさかそこまで瞬詠の事を重要視していなかったとは」

 

凝光の独白に二人は三者三様のような反応を示す。

 

「ふふっ、そうね。当時の私というのは、南十字船隊の旗艦である“死兆星号”の“船長さん”である“北斗”の自慢の手下、北斗の大切な部下ともいえ大事な仲間、彼女が絶対的に信用、信頼している部下の一人としてしか、私は瞬詠の事を捉えていなかったのよね。…その時は特に彼に貴重性や希少性なんてものを見出す事は出来なかったしね」

 

凝光は当時の事を思い出しながらそう呟く。

 

「だけど直ぐにその認識は間違いだったと気づいたわ。船長さんの話を聞いていると彼の様々な荒唐無稽(こうとうむけい)な話しか出てこなかったしね。『ははは!!瞬詠は本当に凄いんだぞ!!今や完全に私や私達船隊の目だ!!瞬詠がいるおかげで私達の活動もかなり安全に行えるのだからな!それに瞬詠は空を駆け抜けるだけでなく、とても強くて頼りがいになる男だ!!程度に差はあれど、あらゆる戦いやあらゆる武術の心得を持っているんだ!!何かがあれば、あいつに任せれば安心だ!!これで私達の船隊の航海の旅がより安全になり、そしてより大胆に行動できるようにもなる!!つまりは瞬詠のおかげで私達の活動範囲や行動可能範囲が広がっていき、今まで出来なかった刺激のある冒険や新たな発見ができるんだ!もしかすればこのテイワットの海の先にある“闇の外海”という領域や、まだ見ぬこの世界の“最果ての地”まで辿り着けるかもしれんしな!!』ってね」

 

凝光は当時の事を思い出しながら楽しそうに微笑む。

 

「“闇の外海”、まだ見ぬこの世界の“最果ての地”…」

 

「ほぉほぉ、それで?」

 

凝光の話を聞いている忍と煙緋はそれぞれ興味深そうな反応を示す。

 

「えぇ、それで私は彼に次第に興味をそそられたの。あの不思議な男……瞬詠にね。ふふっ、彼について興味を持てば興味を持つほど、調べれば調べるほど、本当に興味深い事…。

そして船長さんが語っていた船長さんの北斗達と瞬詠との出会いの話から、彼の“出生”やそれにまつわる“とある可能性”に辿り着いてしまったしね。…ある意味彼と言う存在は、私が手に入れてきた価値のある物や形ある有形の資産、知り得た知識という名の形の無い無形の資産等の中でも一際飛び切り希少価値が高い…。そうと言っても過言では無い程になってしまったかもしれないしね」

 

「あいつの“出生”…?」

 

「ほぉほぉ、“とある可能性”……。それで?」

 

煙緋は凝光の話を興味深そうに聞きながら相槌を打つ。

 

「あら、気になるのかしら…?ふふっ、駄目。教えるわけにはいかないわ。秘密よ、ひ・み・つ。

…この話をしたのは私が信用信頼でき、そして瞬詠が心許せる二人だからとも言えるけど、この先は彼、瞬詠自身がこの私や船長さん達でさえ語って来なかった事よ。それはつまり、これは彼が今までひた隠しにしてきた秘密の可能性があるとも言えるわ。私の推察が当たっているにしろ、外れているにしろ、これは簡単に他者に語って良い内容では無いと思うしね。それに私も今まで彼にそんなことを尋ねてきていなかったし。…まぁ、確認しようとしてももしかしたら、実は瞬詠がそれに関する記憶を失ってしまっていて、瞬詠自身も分からないなんて可能性もあるけど」

 

「…」

 

「…な、成る程」

 

凝光は楽し気に微笑みながらも、はっきりと煙緋と忍に釘を刺す。

 

「まぁ、とにかく。彼には当初の私が見積もった以上の価値や評価、そして彼がまだ見せぬその身に秘めていた真価があると判断したわけよ。さっき話したそれ以外にも、彼はこのテイワット大陸において風の翼を達人レベル、またはそれ以上の高度な次元、もしくはそれどころか更に腕を上げて異次元のレベルで巧みに操る事ができる可能性すらあるとても希少で有能な人材。それに加えて、彼はテイワット大陸の空を飛び回った関係で数多くの戦いの場や修羅場に巻き込まれたり、時には自ら飛び込んでいくような経験をしてきて、それらを積み重ねてきている。おまけに少し前の仙人達と千岩軍の兵士達共同の甘雨救出作戦で、更に経験を積み重ねたでしょう?

…まぁつまり、彼は普通の冒険者、また傭兵や兵士と言った枠に収まるわけがないとても特異な存在、例外的な存在なわけね。そしてそんな彼が持つ力や経験等を統合させて評価してみると…」

 

「…評価すると?」

 

「…評価してみると?」

 

忍と煙緋は凝光の次の言葉を待つ。

 

「…そうね、真面目に評価してみると。それはテイワット無二の『単一航空機動戦力』、もしくは端的に『単一空軍戦力』でも言っておこうかしら」

 

「…た、“単一航空機動戦力”?」

 

「…た、“単一空軍戦力”?…う、うむ、よく分からないが。随分と凄い評価なんだな」

 

凝光の言葉に忍と煙緋は首を傾げる。

 

「ふふっ、まぁ貴方達が困惑するのは無理も無いわ。……軍事的な価値や希少性、そして何よりも彼という個人の持つ力や能力が極めて特異であり、またそれらや通常の技能も高いと言う点においては、彼は千金に値すると言えるんじゃないかしら。そうね、分かりやすく言えば…」

 

凝光はそう言うと何かを考えるかのように視線を上にやり、そして改めて煙緋と忍の方に視線をやる。

 

「…少なく見積もってでも千岩軍の小規模程の部隊、もしくは中規模な千岩軍の部隊の兵力や戦力を個人が保持し、その個人がその規模の兵力や戦力を保持した上で自由自在に空を、条件次第では確かフォンテーヌで開発、実験中の“飛行マシナリー”という飛行船よりも早い圧倒的な速力で空を駆け抜ける事ができ、基本的にはテイワットのどこにでも到達することができてしまう個人。

…私の命令で上空から魔物達や敵対勢力達に気づかれないように接近を行い、そのまま彼の写真機で空撮を行う偵察活動から、彼の元素投擲瓶を用いた空爆や空襲等の強襲。また必要であると判断すれば地上に降下してそのまま地上戦に移行して戦闘行動を行い、そうして敵対するもの達全ての制圧や排除を行うと言った芸当が出来る個人…。ここまで来ると、果たして本当に私と同じ人間として形容して良いのか分からなくなってしまう程の個人である彼。…そして___」

 

凝光はそう言うととある方向に視線を向ける。その視線の方向とは、凝光の命令により普段瞬詠が働いている場所である月海亭であった。

 

「___私の武力行使の手段の一つであり、私、璃月七星“天権”が手にしている“切り札”の一枚。普段の平時では月海亭で悠々と過ごしているように見えてしまい、毎回毎回刻晴や甘雨から怒られたり、時折教育的指導としてキレた甘雨にしばかれている彼だけど、今でもこのテイワットで一部の人達から“仕事人”とうたわれている私の切り札。そしてそれが璃月七星天権の“切り札”、“仕事人”とうたわれる男。私の、私が専有している仕事人、それが“瞬詠”という名のうたわれし者よ」

 

「…」

 

「…」

 

凝光の言葉に忍と煙緋は顔を見合わせながら、呆然として言葉を失う。

凝光の言葉を解釈しながら、瞬詠のその異常性についての理解を行おうとし、そして凝光の命令で動いた瞬詠と敵対しているヒルチャールと言った魔物達や宝盗団と言った悪党達の存在を相手取った場合を脳内でシミュレーションし、その結果に戦慄する。

 

 

 

その結果を一言で言えば、それは“蹂躙”という単語に全てが集約されてしまうだろう。

 

 

 

 

 

そもそも前提として普通、戦いと言うのは近距離で剣や大剣、槍を用いて行われ、中距離や遠距離では弓矢やボウガン、または法器と言ったもので戦うのが基本であり、これを“地上”というフィールドで行うのが鉄則である。

だが、瞬詠の場合はスタートから“上空”である。この時点で瞬詠の優位性は絶対的なものだ。空と言うフィールドに立つ瞬詠に剣や大剣、槍と言った武器は届かない。

そもそも空にいる相手にどうやってそれで攻撃を行うのかという話だ。

弓矢やボウガン、法器類と言った遠距離攻撃や遠距離戦に使われるそれらなら話は変わるものの、それでも攻撃を当てられるかどうかは別問題だ。そもそも的が小さすぎる。仮に標的が真っすぐ飛翔し続けられるならば、腕の良い射者達がいるなら当てる事が出来るかもしれないが、相手が不規則に飛行するとそれも困難になる事だろう。

しかも相手が瞬詠だ。卓越した飛翔技術を持ち、招かれた煙緋達が群玉閣へ行く自分達の元に合流する際に見せつけた翼を上下に振るなんていう、少しでも何かが間違えれば墜落死する可能性のある行動を平然とやってのける男である。

当てようにも、瞬詠はあれ以上の予測不可能な鋭い機動を見せつけながら全てを避けていくだろう。

また巷で聞く遺跡守衛の“爆発する細長い棒”であれば、あれは追尾してくるものらしいのであれであれば撃ち落とす事も出来るかもしれない。

だがそれならそれでどうして、瞬詠は五体満足な状態で璃月港で働いているのかという疑問が浮かび上がるし、それも凝光が言っていた数多くの戦いの場や修羅場を掻い潜ってきた瞬詠の事だ。瞬詠はその遺跡守衛の追尾する“それ”に関する挙動の分析や解析を体感的に行っており、その挙動の分析や解析結果から既に効果的な対策を編み出している可能性が高いだろう。

 

更に言えば、瞬詠が必要であると判断して地上に降下してそのまま地上戦に移行した場合を考えてみると、瞬詠の空と言うアドバンテージは確か無くなるのだがそれは瞬詠に取って不利な状況となると言えるのだろうか…?

 

 

 

 

 

答えは否である。

 

 

 

 

 

確かに空を失ったことでアドバンテージは無くなったように思えるが、それはただ相手が瞬詠と対等な条件の元で戦う事が出来るようになっただけで、そもそもの土俵が同じになっただけに過ぎない。

つまりは圧倒的優位性を誇る空と言うフィールドが無くなったとしても、そもそも瞬詠にとってそれは大した問題では無く、それどころか地上に降下した事で、瞬詠が空から空襲や空爆を行っていた時よりもより正確な攻撃や会心の一撃を浴びせられる可能性の方が高いといえるのではないだろうか。

 

それは凝光が述べていた数多くの戦いの場や修羅場をこなしてきた経験。即ち積み重ねられた戦闘経験。

そうして積み重ねられた戦闘経験が本物であるのかと言う証明。分かりやすい形で証明するとすれば、それは不幸な誤解であったとはいえ、留雲借風真君が止めに入るまで本気で殺すつもりで、豹変した様子で襲い掛かった仙人の弟子である“申鶴”、彼女の猛攻を凌ぎながら彼女と互角、対等に渡り合っていたという事実や実績。それらがそれを物語っている。

少なくともこのような事実、またこれと似たような事、つまりこれのような多くの戦いの場や修羅場を掻い潜った過去を積み重ねてきたという事実があるとすれば、そこから言える事というのは、瞬詠という人間を人間という純粋な種族で限定してみた場合、人間という種族の枠組みの中ではかなり、もしくはきわめて上位に入る可能性すらある人物になるのではないのであろうか。

 

また瞬詠が地上戦に移行する状況と言うのは、既に度重なる瞬詠の空襲や空爆で相手は疲弊している状況であると言えるだろう。少なくとも相手は万全な状態では無いのは間違いない。

 

 

 

そこにそんな人物である瞬詠が地面に降下しそのまま地上戦に移行し、そうして瞬詠が確実に相手の息の根を止めるために突っ込んできたら、それはどうなるだろうか。

そう、それはもう間違いないだろう。

 

 

 

仮に間違ってその者達から再び立ち上がり瞬詠に反撃を行ったとしても、瞬詠の事である。

瞬詠は直ちに上空に退避するに違いない。何かしらの離脱手段もそうだし、相手が再び立ち上がって抵抗を行った場合のプランも考えているに違いない。

 

 

 

 

 

つまり先ほどのヒルチャールの魔物達や宝盗団の悪党達、その者達が気づかれぬ間に周辺の上空、ましてや直上までに瞬詠が飛翔してきていた場合、もはや全てが手遅れと言えるのではないのであろうか。

 

 

 

 

 

 

 

それはその者達へ、権力者達らに目を付けられた哀れな者達に対し、その者達の“全ての終わり”を告げにやってきた、たった独りの“死の鳥”。

 

 

 

その死の鳥が飛来しその者達目掛け、如何なる者やどのような者であっても、一切の例外を認めることなく、そうして決して逃れる事は許されない、“絶対的な死”を降り注いでくるような存在。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

忍は言葉を失い、ただただ凝光の話を頭の中で反復させながら思考を働かせる。

 

「…か、彼は人間なのだよな?」

(本当に人外としか思えん…。いや、凝光殿のでたらめ染みた途轍もない話で、彼から、瞬詠から一種の“死神”とでも言うべきか、それに近いものを感じてしまうのたが……)

 

煙緋も言葉を失い、ただ呆然としていた。凝光が言っていた彼が持つ軍事的価値や希少性、また価値や能力の高さ、更には異常性等を脳内で反復させながら。

 

「ふふっ、……もちろんよ。彼はれっきとした人間。…まぁ、本当の彼の価値や真価というのはその面という訳では無いんだけど、ね?」

 

「…はぁ?えっと、それはどういう……?」

 

煙緋が凝光の言葉に首を傾げていると、凝光は笑みを浮かべながらも煙緋の質問には答えず、そのまま口を閉ざした。

 

「ふふっ、それは言えないわ。ただ、そうね…」

 

凝光は煙緋に笑みを向ける。

 

「…そうね、ヒントを与えるとしたら彼が積み重ねてきた経験や体験に起因するものかしら」

 

「あいつが積み重ねてきた経験…」

 

「瞬詠が体験してきた事……」

 

忍と煙緋は凝光のヒントを頭の中で何度も反復させる。

 

「…あ」

 

「うん、忍さん、分かったのか?」

 

忍は煙緋の問いかけに頷くと、口を開く。

 

「はい、もしかたらですけど…。“彼は色んな光景”を見てきた人間”。“つまりは色んなものを見てきた人間”という事ではないですか?」

 

「おぉ!?」

 

忍の指摘に煙緋は目を輝かせる。

 

「そうか!!瞬詠は私と彼が甘雨先輩の仲介で私の法律事務で、初めて顔を合わせた時に言っていたな。『自分は空を飛び回って来たことで、“綺麗なもの”や“美しいもの”…そして、“汚いもの”や“醜いもの”やらまで…。まぁ、色んな光景を見てきたからな』って。もしかして、凝光殿が指していたのはそれの事か?」

 

煙緋は興奮しながら凝光に尋ねる。

 

「ふふっ、煙緋、正解よ」

 

「やったぞ!」

 

そして煙緋は嬉しそうにガッツポーズをする。

 

「…煙緋の言う通り彼は様々な経験を、様々な出来事をその目その身で経験した人間。だから“彼”という人間は強いわ。それは武力的な意味だけでは無く、知的な意味でね。ただの強力な力を持った個人であれば私にとっては別に脅威ともなんとも思わないわ。そこに効果性や効率性と言ったものや、力の使い方や扱い方が分からなければ、その者は脅威となり得ない。ただの宝の持ち腐れね…。ただ、彼はそうではないと言えるわ。そう、___」

 

凝光はそう言うと目を細めながら、言葉を紡いでいく。

 

「___それは、普段の彼は自由奔放に過ごしているけど、本当の彼、私の瞬詠はとても“賢い”。彼の積み重ねられてきた経験というのは、あらゆる困難を切り開いていく糧となっている。だから私は彼のそれらを認めた。それ故に私は天権として彼のそれらを活かすために“特別な権限”や“特別な権利”を与えた。そうして彼に与えた“あらゆる独断専行の許可”の権限や、私達璃月七星への“発言権”の権利、また彼のために私の権限で新たに新設した“特別代行官”という特殊な立場によって、彼は璃月七星の配下と言う立場でありながらも、私達から独立した権利や権限、立場を持って彼の思うがままに、月海亭や七星八門等の璃月のあらゆる場所を自由に行動できるようになった。…当初は私の判断やそんな彼に反発した人たちもいたけど今ではもう居ないわ」

 

「そ、そんな事が…」

 

「ほぉ、反発があったのか…」

 

凝光の話に、忍と煙緋は興味深げに頷きながら言葉を呟く。

 

「えぇ、そうよ。でもそれでも、全く問題は無かったわ。…それは彼が意識的にも無意識的にも数々の結果を出し続けているから。それは、反発していた者達を黙らせるのに十分すぎるほど以上のものを出し続けて来ていたから。平時では月海亭で悠々と過ごしているように見えて裏で動き回っていて、月海亭の各員が重要な何かをしている時にはあらゆるサポートからバックアップを秘密裏に行い、そして非常時となれば私達が命ずる前に事態を収拾させるための段取りを付けたり、場合によってはそのまま私達が状況を把握する前に事態の収拾を行ってしまう。また状況に応じて、私達が本格的に動き出す前の繋ぎとしての支援活動を行い、繋いだ後も独自の判断で私達に適切な支援を行い続けて私や私達に応えてくれる。…その分かりやすい例というのが___」

 

凝光はそう言うとニコッと笑みを浮かべる。

 

「___今の“私達璃月七星達や役員達とファデュイの執行官や外交官達との連日のような会談”よ。彼が上手く時間を稼いで取り持ってくれたおかげで、今璃月とスネージナヤは対等な立場で会談や会合を開けているというわけよ。それ故、彼に反発を覚えている者はいるけれども誰もが彼のその実力を認めて信頼し、そして今は彼の元、彼の指示に従って月海亭の職員達、そうして月海亭を通じて七星八門の役員や職員、また千岩軍の兵士達までもが動いているというわけ。

…言うなれば、今の月海亭の体制と言うのはかつての、実質甘雨一人による平時の璃月七星全体の秘書業務から非常時の月海亭の職員への指示出し。その実質甘雨の一人体制という体制から、甘雨の業務や仕事が瞬詠と上手く分割されて確立された体制。それは“平時の甘雨”と“非常時の瞬詠”という綺麗に調和が取れた関係、そんな感じの体制に移行したと言えるのかもしれないわね。

…ふふっ、おまけに彼のおかげで甘雨の気持ちにも余裕が出来てきて、甘雨の動きが更に良くなり、また彼女の仕事のキレもとても良くなっているもの。本当に感謝しないといけないわね、瞬詠に。彼のおかげで月海亭、七星八門、そうしてまた私達璃月七星達も、より盤石になれたものの」

 

「な、成る程。そう言う事か。…なんとなく、彼の力が分かった気がする」

 

煙緋は改めて、凝光が述べた瞬詠という人間の特異性に納得する。

 

「ふふっ…本当に彼が私の直属の部下、私の仕事人でよかったわ。彼が居なければあのファデュイ相手にここまで善戦なんてできなかっただろうし、それどころかファデュイへの私達璃月の民の反撃の要である『法律戦』、『諜報戦』、『認知戦』の三正面戦を仕掛け、ファデュイを術中の包囲網下に敷いて彼らを追い込んでいくなんて戦略や施策を実現させる事は出来なかったでしょうね」

 

「…え?」

 

「…うん?なんだ、それは?」

 

「あ…。あらら、ふふっ、今のを忘れて頂戴。…なんて出来ないわよね」

 

凝光がそのように述べると、忍と煙緋は凝光の意味深すぎる言葉の真意を尋ねるように凝光に視線を向け、凝光は困ったような笑みを浮かべる。

 

「…凝光殿、それらは一体なんなんだ?」

 

「う~ん、そうね…」

 

凝光は本当に困ったかのように顎に手を当て、そして目を瞑る。

 

「…まぁ、良いわ。煙緋。よく聞いて頂戴。詳しい事は話せられないけど、私達が仮定した彼らの計画では璃月は、ファデュイの外交的な圧力によって、自分達に有利なように物事を進める計画だった。だけど、今は私達の初動の対応が彼らの想定外であった事、それに加えて彼らはそれを挽回する為に諜報員達や工作員達を使って諜報戦を仕掛けてきているんだけど、私達の整備した防諜能力や諜報戦の能力が彼らの推定や想定を上回ってしまっていた事で、彼らの思うように事を進めることができず、そして上手く事を前に進められないが故に、ファデュイが凄く焦っているのよ」

 

「…」

 

「…な、なんだと?」

 

忍は目を細めながら凝光の言葉を聞き入れ、煙緋はまさか今の璃月港でそんな陰謀巡る暗躍合戦が行われているとは思っていなかったのか、目を見開いて驚きを露わにする。

 

「ふふふっ」

 

凝光は煙緋の顔を見ると愉快そうな笑みを浮かべる。

 

「そう驚かないで頂戴。ただファデュイにもまだ逆転の目はあって、油断ならない状況なのよ。そして今はそのファデュイの逆転の目や、彼らの璃月に対する計画自体を白紙に戻すための“計略”。その要となるのがさっきの『法律戦』、『諜報戦』、『認知戦』、これらの“三戦”を用いて今璃月港の水面下で暗躍しているファデュイ達が自ら自壊、自滅する方向に誘導、そして彼らを追い込んでいき、私達とファデュイ達を巡る状況を完全にひっくり返すための“策略”を推し進めているの」

 

「ファデュイの計画自体を白紙に戻すための“計略”…」

 

「ファデュイが自ら自壊、自滅していき、追い込まれていくための“策略”…」

 

「ふふっ、えぇ、そうよ。忍、そして煙緋。…そうしてファデュイから完全にこの会談の主導権を奪い取って、逆にファデュイから有利な条件や有利な権益をもぎ取る。そうして私達璃月の民の底力や私達の恐ろしさを見せつけ、今行っている外交戦や諜報戦でファデュイを完全に、完璧に敗走させる。そうしていく事で将来、ファデュイも下手に璃月に手を打って来れなくさせていく事で、これからのファデュイに関するリスクも逓減させつつ、それと同時に将来またファデュイが暗躍を試みたり再開した時に備えて、今の璃月の防諜能力や諜報戦能力等の能力向上の為の時間を確保していくという施策。…そしてこれが私達、“璃月七星”、そして彼、“瞬詠”と…。

…ふふっ、ふふふっ。そう、そして、そうしてね?…そうして彼、瞬詠、瞬詠によって___」

 

凝光は堪えきれなかったのか、クスクスと笑いながら口を開く。

 

「___騙されて、無理やり連れ込まれ、そうして私達の目の前で『“こいつ”もこの極秘会議に参加させる。こいつなら璃月に関する事であれば何でも、誰よりも分かっているし、ここに集まった璃月七星の誰よりも、そして俺よりも分かっているだろう。こいつの話す事や意見する事、それには非常に大きな価値がある。絶対に役に立つだろうよ、この女は。こいつの知恵は尋常じゃないから、この重大な局面を乗り越える策になるヒントを必ず生み出してくれる筈だ。___」

 

そうして凝光は遂に抑えきれなかったのか、面白可笑しそうな笑みを浮かべながら言葉を続ける。

 

「___こいつの知恵なら今の璃月を救える何かを必ず生み出せるはずだ。俺はこいつを、“甘雨”を信じている。必ずこの難局に対する最適な答えを導いてくれる助けとなると、俺はそう確信している。だから、こいつもこの会議、本来俺と璃月七星の8人しか参加できなかったこの機密の極秘会議に参加させる。言っとくが、異論は受け付けんぞ。これは決定事項だ。良いな?…おい!!甘雨!!さっきからなに、ぼけぇっとしてるんだ!!さっさとそこの甘雨の席に座れ!!さっさと席に座って、お前さんのその知恵を俺に!!そして璃月七星達の七人に貸しやがれ!!』と怒鳴られながら、彼によって私達七星達の会議の場の席に座り、参加する事になった“甘雨”。

…ふふっ、駄目だわ。あの時の甘雨の反応、それにあの時の甘雨の表情。あれは完全にもう…ね。うふふ、そして瞬詠も瞬詠であの時の甘雨の様子にも気づいてないし…。あれは、本当に…。

…ふふふっ、ごめんなさいね。笑いを抑えきれなくて、とにかくそして私達璃月七星の7人と瞬詠と甘雨の月海亭の2人組、そうしてその月海亭の会議室の円卓に座った9人で共同で話し合い知恵を出し合い、そうして打ち立てたのが極秘の対ファデュイ用の計画、それが『三戦計画』よ」

 

そして凝光は抑えきれないその笑みを浮かべながらそう述べたのであった。

 

「『三戦計画』、あいつ、瞬詠に、凝光さんや甘雨さん達、璃月七星達と共に、そんな計画を…」

 

「そ、そこまで、考えていたのか…。こ、これも瞬詠、それに甘雨先輩までもが絡んでいたのか」

 

忍と煙緋は凝光のその説明を聞き、改めて凝光や凝光達の璃月七星達、また甘雨、そして瞬詠の凄さに気が付き、言葉を失った。

 

「ふふっ、そう言う事よ。…因みに、煙緋。この『三戦計画』の『法律戦』と言う面…。この面の中核を為しているのは、煙緋。貴女よ」

 

「え?」

 

煙緋は凝光からそう告げられ、再び言葉を失う。

 

「あら、どうしたのかしら?煙緋」

 

凝光は煙緋のまるで鳩が豆鉄砲を食らったかのような反応に思わず、微笑む。

 

「…」

 

「あ、いや……。その、えっと、そ、それは、本当なのか?」

 

忍は凝光の衝撃発言に動じることなく凝光を見つめ、煙緋は凝光のその発言に動揺を隠せず、何度も瞬きをしながら、凝光に尋ねる。

 

まさか、今の対ファデュイ用の計画であるその『三戦計画』。ある意味璃月の国防計画とも呼べるであろうその計画の要に、ただの一般人に過ぎない自分が関わっており、しかもまさかその国防計画の一分野の中核を担ってしまっていたなどとは思いもしなかったのであろう。別に煙緋は怯えているというわけではないが、まさか自分の知らない所でそんな大事が起きてしまっており、しかもその中核を担っているという事実に驚きを隠せずにいた。

 

「ふふっ、本当よ」

 

「な、何故だ?何故なんだ?わ、私はただの法律家、ただの一介の法律家ではないか?そ、そこは、璃月七星で法律や立法関係を担っている“天権”、凝光殿が務めるべきなのでは?」

 

「あら?勿論、私もその『法律戦』の中核人物の一人よ?…ふふっ、私と煙緋、二人合わせてその『法律戦』の中核を担っているというわけ。法律は璃月の繁栄を支える礎。この礎は磨かれ続けることで美しい姿を保つ。そして煙緋は璃月港で有名な法律家。有名な法律家である貴女は、私の思いもよらぬ角度から私の法律を“巧妙”に法律を解釈し、人々に様々な助言をしてきた。そうして煙緋の言葉によって人々は私の法律にある私の意図を掻い潜って行動を行い、そしてそれを見た私が煙緋が指摘してくれた“法律の抜け穴”を塞いでいき、私の法典を改善することができているの…。もしも煙緋が居なかったら、どれほどの時間を要していたかわからないわね?…いつもいつも法律を改定する度に大変な思いをしながら、私に法律の不備を指摘してくれてありがとうね。煙緋?」

 

「…ほぉ、成る程。そう言う事か。ただ、凝光殿、この場合の私はどう反応すればいいのだろうか?私は凝光殿に煽られていると感じて凝光殿に怒りを表した方が良いのか、それとも私のおかげで凝光殿の法典が改善され、結果的に璃月の法律が完璧なものになっていっているという事に対して胸を張ればいいのか?」

 

先ほどまで自分が『三戦計画』の一面の中核を担ってしまっていた事に深く動揺していた煙緋であったが、凝光からそのように言われると先ほどまで感じていたそれらは吹き飛んでいつものような煙緋に戻り、それどころか逆に何故か凝光に対して悔しさと恥ずかしさが沸々と込み上げてきていた。

 

「ふふっ、それは貴女の裁量に任せるわ。私はただ貴女に感謝の意を述べただけよ。でも、煙緋のその反応を見ていると、どうやら私の感謝の意を素直に受け取っては貰えないみたいね?」

 

「うむ、凝光殿の言葉に少し悪意が感じられたからな。まったく、それらを暗記する私の身にもなってほしいものだ。凝光殿?」

 

「あらあら、ふふっ」

 

「…ふっ」

 

そうして凝光と煙緋はそのような少しの軽口を言い合いながら、互いに微笑み合っている。そしてその光景を目の当たりにした忍も少し微笑み、そして凝光にとある言葉を放つ。

 

「…成程。という事は『諜報戦』またもしかしたら『認知戦』は“瞬詠”が中心に行っているということか」

 

「っ!?…ふふっ」

 

忍の何気なく放ったその発言に凝光は僅かに目を見開かせ、そして静かに微笑みを浮かべる。

 

「あらあら…。忍、どうして忍がその二つは彼が関係していると思ったのかしら?私、一言もそんな事言っていないのだけれど?」

 

「…」

 

凝光はまるで試すかのように、忍に対してその事について問いかける。凝光の真紅の瞳が忍の内心を覗くかのように忍の目をじっと覗き込む。

 

「ふふっ、どうやら何か思い当たったことがあるようね」

 

「凝光さん。その実は…。___」

 

忍は少し言い淀む。だが直ぐに決意したのか言葉の続きを紡ぐ。

 

「___少し前、瞬詠が煙緋先輩と私がいる煙緋法律事務所を訪れて私達に差し入れを持ってきてくれたその日、煙緋先輩が私達の元を離れて私と瞬詠が二人っきりになった時に瞬詠から警告を受けたんです。『煙緋がファデュイに目を付けられている。可能性として煙緋が持つ機密資料の奪取だと思われるが、もしかしたらファデュイは煙緋を誘拐、最悪の場合は煙緋の暗殺、つまり煙緋の命を狙っている可能性がある』と…」

 

「…は?えっ?」

 

忍の言葉に煙緋は拍子抜けしたような顔を浮かべる。

 

「…そして『そのために煙緋の法律事務所周辺、その煙緋の法律事務所があるエリアでは深夜になると、偵察目的や情報収集目的と思われる複数のファデュイの諜報員や工作員達が活動をしている。いずれかは彼らは煙緋や煙緋の法律事務所を襲撃する可能性がある。だから煙緋の身の回りやその周辺に警戒しておいてくれ。最悪、煙緋の警護を頼む』と…そう、あいつに言われたんです」

 

そうして忍は真剣な表情でそう述べたのであった。




完成したのを読み返して思いました。

…正直、あんまり満足のいくようなフォンテーヌに関しての情報収集や考察が行えていない中で、フォンテーヌ要素を出してしまっているけど(というかファデュイ編で彼らを一気に畳みかけていく時に、その周辺でフォンテーヌ要素がそれなりに出てくる予定だから、それもそれで…)、果たしてこれであっているのかが不安だ…。

取り合えず、何か大きな間違いや致命的な間違いを見つけましたら、逐次修正していこうと思います。



また、前回までは現在の【ファデュイ編】が終了するまで、基本的に前半は『煙緋・忍(表・煙緋法律事務所メイン)』、後半は『瞬詠・夜蘭(裏・密偵防諜部メイン)』という流れで行っていましたが、今回より少なくとも“煙緋法律事務所要撃戦(仮)”が終わるまでは前半を『煙緋・凝光(表・群玉閣メイン)』にしようと思います。

尚、後半は密偵防諜部メインのままですが、少し変更を加えようと思います。次回、変更内容を明らかにしようと思います。(というか勘の良い人なら、変更内容をなんとなく察していると思いますが…)





—————
◎解説(“闇の外海”について)
・闇の外海
→“闇の外海”についてですが、闇の外海とは『テイワット大陸の外に広がる、七神の加護が及ばない領域』。『伝説によると、魔神戦争に敗北した魔神たちが遠い島々に逃げ込んでいるという』とされている、“テイワット大陸の領域外にある領域”です。
 これを裏付けているのが“璃月系列の武器突破素材”の『漆黒の隕鉄』シリーズに描かれていた内容です。闇の外海と関連のある部分のみを抜粋してみると、『―――璃月には昔から海の怪物に関する伝説がある、なにせその彼方はテイワットの未知の領域である。七神の守護がない外の世界はどういうものか誰も知らない。岩王帝君の力を黒く染められたのは、まさにテイワットという秩序の外の力である。(漆黒の隕鉄の一片)』、『―――テイワット沿海の国は七神の庇護を越えたところを「闇の外海」と呼んでいる。伝説によると、敗北した魔神たちが新たな七神の秩序の下で暮らしたくないと、遠い島々に逃げ、邪神となった。―――(漆黒の隕鉄の一角)』
 上記のような内容の物が見つかり、テイワットの海の先にはおそらく邪神と呼ばれているかつての魔神戦争の敗北者達、もしくはその魔神戦争に敗北した魔神達と由縁を持つ者達や血縁者達がいても、おかしい事ではないなと思いました。
 尚、また“稲妻系列の武器突破素材”である『遠海夷地の珊瑚』シリーズにも闇の外海と関連のある記述内容があったのですが、この内容がどちらかと言えば闇の外海がメインというわけでなく、『オロバシノミコト』もとい『海祇大御神(かつての“海祇島の守り神”。また血筋とその歴史から“珊瑚宮心海”とは大いに関係あり)』のストーリーがメインであったため今回は除外とし、またテイワットの領域外にあったため一応は闇の外海に属すであろう『金リンゴ群島(“霧海群島”とも呼ばれている。バージョン1.6「真夏!島?大冒険!」の期間限定イベント「真夏!島?大冒険!」とバージョン2.8「常夏!幻夜?奇想曲!」の期間限定イベント「サマータイムオデッセイ」にて登場)』に関しても、正直今の作者の力ではよく分からない事があるので、この部分に関しては除外にしてノーコメントにしておこうと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。