玉衡の元から逃亡したら千岩軍が追いかけて来ていた件について   作:久遠とわ

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完成したので投稿。

今回は前回の続きです。

尚、非常に申し訳ありませんが今回でこの作品を完全な完結にしようと思います。(打ち切りとも言えますね…)


実は前回“社畜ニキ”さんから頂いたコメントの指摘やそれに伴って得られた気づきから、
「この作品、言われてみればタイトルに玉衡と書かれている割に刻晴の出番全然ないし、それどころか刻晴要素薄いし、少ないような気がするな」と考え、「また本編が二つある状態になってるな…。しかも、話の内容的に番外編の方が本編になりつつあるし、本当にこのままでいいのか…?」と思いました。

そのため、まず本編の刻晴関連に関して修正を加えるとなると、更なる時間が掛かる事。
またこれの初投稿時は原神のゲーム本編はスメール公開前だったのですが、現時点はフォンテーヌの四幕に入るまでの過程で様々な事実が明らかになったり(リサのフルネーム、ファルカの人物像、レザーという名前の由来、ガイアとカーンルイア(アビス教団)の関係性)、新キャラ(西風騎士団のミカ)が追加されたり等の関係、また本編や番外編を通じてオリ主の瞬詠という人物像もそれなりに確立してきた関係で、当初の初期の頃の仮案の予定とはだいぶ異なる様相をしていたり、このまま進めると破綻することは無いとは思いますが、かなり見苦しい無理やりな話になる可能性が無きしにもあらずなんですよね…。

それ故に以上の二つを考慮して修正するとなると、とんでもない時間が掛かる恐れがあるんですよね…。

また本編が二つある状態もよく考えてみると、それはそれで不味い状態なのではないかと思えますし。





そのため一旦区切りをつける為に、本作品を今回で終了させ、新たにちゃんとした「リメイク作品(場合によっては新作とも言える?)」を作ろうと思います。

現状の予定では、「リメイク作品」は番外編(仙獣の法律家と変動する璃月港(※今行っている番外編の璃月メインの話)の方を本編とした瞬詠目線の話を中心に(たまに凝光や刻晴、甘雨視点を彼女達を中心とした話、また稀に夜蘭や煙緋、途中で合流してくる忍視線の話も)、行おうかと考えております。(余談ですが作者的に凄く一番熱が入っているのもこちらになっており、番外編はダイジェスト版的に書いていた事もあって、描けなかった描写等もあるので)

尚、以前に行った稲妻キャラのアンケートに関してですが、こちらはそのままリメイク作品に反映させておきます。(当初の予定とはだいぶ異なりますが璃月と稲妻の国交の関係、また彼女達の役職や交友関係をしっかりと活かし、璃月港の行事等を利用すれば、彼女や一部の他の稲妻キャラ達も璃月の地を訪れるという展開が可能であると判断した為。)

それでは、本作品の最終話をお楽しみください。


吐露される思いと漆黒の姿

「なっ!?なんだって、それは!?」

(フ、ファデュイが私を誘拐…?そ、それに私の暗殺、私の命を狙っているだと…!?)

 

煙緋は忍から告げられたその衝撃的な事実に驚愕の表情を浮かべ、凝光は妖艶な笑みを浮かべながら「あらあら」と少し驚いたかのように忍の事を見つめる。煙緋はまさか自分がそのような事実に巻き込まれていたなど露とも思わず、凝光と忍を交互に見ながら動揺した表情を浮かべている。

 

「ふ~ん?彼が忍にそんな事を…?機密情報と言っても過言ではないそれを忍に情報を渡すとはね…?それは瞬詠が忍を信用しているから?それとも実は忍は…?」

 

凝光は何かを見定めるかのように忍を見据える。

 

「…因みに忍。貴女は彼、瞬詠から警告を受ける前、もしくは受けた後、何か違和感や覚えのある点はあったかしら?例えば、“何か変だ”とか“これはおかしい”と思ったことはないかしら?」

 

凝光は目を細めながら、まるで試すように忍にそんな質問を投げかける。

 

「はい…。実は以前から、遠くから妙に視線を感じるような違和感を感じていました。最初はただの気のせいかと思ったのですが、あまりにも長い間感じ続けて、その違和感が徐々に大きくなっていきまして……。しかも私の気のせいでなければ深夜ではない昼間の私と煙緋先輩の二人っきりで歩いている時、また甘雨さんに月海亭や七星八門の職員さん達と商会調査等を行うために璃月港の街を歩いていた時、妙に何度も“何者か達”が私達の後ろを付けてくるかのように、私達を尾行するかのような視線、気配を度々感じました」

 

「そ、それは本当か!?忍!?なんでそんな大事な事を言わなかったんだ!?」

 

煙緋は忍がそんな事実を語ったことに驚愕し、思わず忍にそう問い詰める。

 

「ほ、本当にすみません、煙緋先輩。それは今まで確証が無いために私の気のせいだと思って、片づけていた事。また煙緋先輩に余計な心配をかけさせたくないと思い、その事を黙っていたんです。そして瞬詠に警告を受けた際にあいつから『煙緋にこの事を伝えるのは厳禁だからな。万が一煙緋がその事を知ってしまい、それがファデュイの諜報員達に勘づかれてしまって次の段階に移行してしまったり、ファデュイの諜報員達や工作員達が“一線を越える”なんて事をしてしまったら、もうそれは取り返しのつかない事になりかねない。だから絶対に煙緋にこの事を悟らせないようにしろ』と念を押されていたもので……。本当にすみませんでした。煙緋先輩」

 

「そ、そうだったのか……。し、忍さん…。い、いや、忍さん。私の方こそ、すまない。そしてありがとう。私の事を守ってくれていて」

 

煙緋は忍の謝罪を聞き、申し訳なく感じたのか少し気落ちした様子で煙緋も忍に対して謝罪をする。

 

「…ふふっ、成る程ね。忍、貴女、“悪くない”わね」

 

そして忍と煙緋のやり取りを聞いていた凝光は満足そうな表情で忍に向かって、静かにそんな言葉を呟く。

 

「し、しかし、もし本当にそうなら…。ぎ、凝光殿。私はこの群玉閣にいて大丈夫なのだろうか?こ、こんな話を聞かれてしまっては、凝光殿に迷惑がかかるし、ここも危なくなるのではないか……?」

 

煙緋は慌てていた気持ちが落ち着き、冷静になって考えれば考えれる程自分の現状に危険を感じてしまい、顔を青ざめさせながら凝光に問いかける。

 

「それは大丈夫よ。この群玉閣は完全に璃月港と隔離された場所にあるし、群玉閣に入る手段というのは完全に限られている。そしてここの警備体制は万全よ。ファデュイの諜報員や工作員達が侵入してくる事はまずありえないわ」

 

「そ、そうか……。それならば安心だが……」

 

「ふふっ、それに煙緋や忍を招き入れてここに長期滞在する事を許可したのも、実は煙緋、貴女をファデュイの手から保護するためでもあるしね。ここであればファデュイは手を出せないし、また依頼主と依頼を受けた請負人という関係から、煙緋がここに長期期間いたとしてもファデュイの諜報員達から怪しまれることもほとんど無いわよ」

 

凝光は不安を隠しきれていない煙緋に対して、微笑みながらそう答える。

 

「そ、そうなのか……。それならば良いのだが…。だ、だがしかし。その忍さんが昼間に感じたそれはいったいなんなんだ…?彼らは深夜に動くのだろ?まさか昼間にも彼らは動いているのか?」

 

凝光からそのような説明を受けた煙緋ではあったが、それでもまだ不安が拭いきれない煙緋は凝光にそう問いかける。

 

「ふふっ、そうね。その答えなんだけど…。私が知りうる限り、状況的に考えておそらく“味方”の可能性が高いと思うわよ?」

 

「な、なに?み、味方だと?」

 

「えぇ、そう。少し前に私は『私達の防諜能力や諜報戦の能力が彼らの推定や想定を上回ってしまっていた事』って言っていたでしょう?つまりそれ、忍が感じたそれらはおそらく煙緋を秘密裏に護衛、周辺警戒や警護を行っていた璃月の諜報員達によるものでしょうね」

 

「わ、私を警護してくれていたのか?璃月の諜報員達が?…い、いや璃月、璃月側にもそんな諜報員達という存在、それにその諜報員達を取り纏めている機関が存在していたのか?

 …だが、私が知る限り七星八門等の行政機関にそんな諜報員達等を取り扱っている部門は無かったはず…」

 

煙緋は動揺を隠しきれない様子で、凝光に向かってそのような言葉を発する。

 

「そうね。だってその諜報員達、もっと言えばその諜報員達が所属しているとある“諜報機関”は七星八門等の表の行政機関には属さない秘密組織のようなものだからね」

 

「…ち、諜報機関?」

 

「えぇ、そう。この組織やその秘密の諜報機関の存在に関してはある意味、璃月の最高機密に近いと言えるわ。公でその存在自体を知っているのは、私達璃月七星七人のみ。そしてその彼らの事を良く知る人物は天権、ただ私だけで、そうしてそんな彼らに指示命令を出し、彼らを自由自在に動かすことが許されているのも天権である私だけよ」

 

「な、成る程」

 

凝光は誇りと自信に満ちた笑みを浮かべながら、煙緋に対してそのように説明を行う。そして煙緋は凝光のその説明に納得し、そうして思う。この璃月港には街を守る千岩軍だけでなく、秘密機関の諜報機関が存在しており、日夜、璃月港の治安維持の為に人知れず暗躍していたのかと。

 

「ふふっ、それと煙緋。煙緋なら分かっていると思うけど、璃月港に降りたら間違ってでも私のその秘密の諜報機関を口に出そうなんて考えないでね?もしその秘密の諜報機関の存在を公に口外しようものなら……。ふふっ」

 

凝光は鋭い視線を煙緋に向けながら、そう煙緋に告げる。

 

「わ、分かっているぞ!?凝光殿!!念を押されなくても、絶対にそのようなことは口に出しないとも!!も、勿論だ!!」

 

煙緋は凝光のその言葉に冷や汗を掻きながら慌ててそう答える。

 

「ふふっ、よろしいわ」

 

凝光はそんな煙緋の反応に対して満足そうに微笑み、そして視線を忍の方に移す。

 

「…」

 

忍は鋭い目つきで凝光の話を聞き入り、なにか考え込んでいる様子だった。

 

「さて、忍?そろそろ本題と入りましょうか…?忍は、なにか私に聞きたい事があったんじゃないのかしら?」

 

凝光は忍に優しく微笑みながらそう問いかける。

 

「あ、あぁ……。凝光さん、お聞きしたいことがあります。ですがその前に確認したいことがあります」

 

「あら、何かしら?」

 

「はい。それは、瞬詠とその凝光さんの秘密の諜報機関。それらは一体どういう関係なのか、という事です」

 

忍は真っすぐな視線で凝光を見ながらそう問いかける。

 

「ふふっ、なるほどね……。良いわ、正直に答えてあげましょう」

 

凝光は忍のその言葉に、まるで彼女の事を認めたかのように小さく微笑んでそう答える。

 

「瞬詠とその秘密の諜報機関との関係。…端的に言えば、瞬詠はその秘密の諜報機関の___」

 

「…」

 

「…」

 

凝光は小さく息を吞み、煙緋や忍の次の言葉を待つ。

 

「___“創設者”。正確には創設者の一人と言えるんだけれども、実質は創設に当たってその時の中核を為していたんだから、創設者、もしくは“創始者”と言ってもいいのかもしれないわね。だから、瞬詠は私の秘密の諜報機関の“長官”、もしくは“統括官”とも言えるかもしれないわね」

 

「っぅ!?」

 

「っ!?そ、そうなのか!?」

 

忍と煙緋は凝光が放った衝撃的な事実に驚愕の表情を浮かべる。

 

「…わ、分かりました。凝光さん。ありがとうございます。…それでは改めて聞かせてください、凝光さん」

 

そして凝光の衝撃発言に少し頭痛でも起きたのか頭を抑えていた忍だったが、忍は先程より鋭い視線を凝光に向けながらそう問いかける。

 

「ふふっ、何かしら?」

 

凝光は不敵な笑みを浮かべながら、忍に問い返す。

 

「はい。凝光さん。教えてください。瞬詠は今、なにをやろうとしているのか。凝光さんは瞬詠に、今なにをやらせようとしているのか…を」

 

「ふふっ、その事ね」

 

煙緋は真剣な眼差しでそう尋ねる忍の様子を見て、少し笑った後、彼女と同じように真剣な眼差しを凝光に向ける。

 

「…申し訳ないけど。それは言えないわね」

 

「っ!!なんでですか!?凝光さん!!」

 

「っ!!し、忍さん!?どうしたんだ!?」

 

凝光の答えに対して、忍は怒りとも取れる表情をして凝光に問い詰める。そしてまさか忍がここで怒りを露わにすると思っていなかった煙緋は、動揺しながら忍に対してそのように問いかける。

 

「…なんでですか!?どうして教えてくれないんですか!!なぜ答えてくれないんですか!?」

 

「し、忍さん!!一体、本当にどうしたんだ!!落ち着いて、忍さん!!」

(どうしたんだ、一体!?)

 

忍は焦りながら凝光に訴えるかのようにせがむ。そして急に豹変した忍の様子、まるで凝光に掴みかかるのではないかと錯覚させるような彼女の様子に対し、煙緋は冷や汗を掻きながら忍に落ち着くよう必死に声をかける。

 

「…ふふっ、確かに忍のその疑問はもっともね。でもごめんなさいね、忍。やっぱり言えないわ。今の瞬詠の動向というのは、実は機密事項に当たるのよ。いくら貴女が瞬詠や璃月七星である私と多少なりとも面識があるとはいえ、おいそれとは言えないわ。…それに今は本当に“大切な時期”でもあるし」

 

「っ……そ、それは……つ、つまり…」

 

忍は目を見開いて、身体を震わせながら絞り出すかのような声でそう言う。

 

「えぇ、そうね…。忍、貴方は瞬詠とは長い付き合いでしょう?ならば貴女は瞬詠が今、何をしようとしているのかが分かっているんじゃないのかしら…?それに今の璃月の情勢を考えてみたら、彼が何をしようとしているのか?彼は何を果たさなければならないと考えているのか?そんな単純な話よ」

 

凝光もまた真剣な眼差しで、動揺を隠しきれていない忍に対してそう語りかける。

 

「……っ!?……し、しかし……ま、まさか、そ、そんな…。凝光…さん、し、瞬詠は…あいつは、大丈夫なんですか?おそらく、あいつがこれから、やろうとしているのは…」

 

忍は歯を食いしばるようにしながら、凝光に向かってそう言う。

 

「ふふっ…そうね、忍。忍の考えている事。多分それ、間違ってないと思うわよ」

 

「っ!?…凝光さん!!お願いです!!お願いです!!瞬詠を___」

 

「でもね。忍。もうどうしようもないの。それに、これには瞬詠自身が決断した事も含まれている。忍は瞬詠、彼の決断や意志を踏みにじるつもりかしら?」

 

「___っ、そ、それは……」

 

忍は凝光からそのように言われてしまうと、何も言い返すことができない。忍は唇を嚙みしめて、血が滲むほど拳を握り締める。

 

「…それに今の璃月とスネージナヤ、私達璃月七星とファデュイを巡る情勢の鍵を握っている人物の一人は瞬詠であり、そうして私は璃月七星天権の義務としてこの璃月港や璃月という国を守らないといけない。だから私、ただの“凝光”という一人の人間においてはこれ以上瞬詠に負担を掛けさせたくないし、危険なことをさせたくもない。だけどね。___」

 

凝光は少し顔を伏せながら、静かに忍に語る。

 

「___私、璃月七星のリーダーとしての“天権”は、彼に命令をしたの。璃月の未来の為、璃月の繁栄の為。今ここで、私、“天権”と交わした“契約”を果たしなさい。この璃月に悪意を持つ者達を最適な手段で排除するために、行動を起こしなさい。“役割”を果たしなさい。例えあらゆるリスクやあらゆる危険性がその身に___」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうやめてください!!それ以上は聞きたくないです!!」

 

 

 

凝光の言葉に被せるように、忍は悲痛な声を上げながら凝光の話を途中で遮る。

 

 

「___っ!?…ごめんなさいね、忍」

 

そして忍の反応を目の当たりにした凝光は、申し訳なさげに謝罪する。

 

「……」

 

そうして煙緋も苦虫でも噛み潰したかのような表情で、凝光や忍のことを見つめる。

 

「っ……はぁ、はぁ……っ」

 

忍は荒くなった呼吸を整えつつ、悔しさの余り目に涙を浮かべる。

 

 

 

「わ、私は…怖いんです。彼が、あいつが、瞬詠が、また私の知らないところで……今度こそ、遠くへ、私達が決して辿り着かないような場所に、行ってしまうような気がして。彼がまるで…」

 

「…」

 

忍は声を震わせながら、少しずつ自身の思いや感情を吐露していく。そして忍のその言葉を聞いている凝光は何も言わずに忍の言葉を聞き入れる。

 

「瞬詠、あいつが、あいつを…失うのが、消えてしまうのが、本当に怖いんです…。かつて花見坂や離島で流れていた『海山』に『南十字船隊』の『竜殺し』、そして『黄金の翼』の噂話…。

 大切な者達を守るために、その身を傷つけながら、自らのその命を削りながら、海の怪物がいるあの絶望の海と空を駆け抜け…。そうして『竜殺し』や『南十字船隊』をギリギリのところで守り抜いた『黄金の翼』。役割を果たした『黄金の翼』は、最期まで役割を果たした事により、静かに満足げにその生涯を閉じた…。

 そんなあの話みたいに、今度は瞬詠は、璃月の、璃月の為に、ファデュイという悪意ある者達の手から守るために…。このまま、このままでは…今度こそ、今度こそ本当に…!!___」

 

忍は目に涙を浮かべながら、その思いの丈を静かに吐露する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「__瞬詠が本当にもう死んでしまうかもしれない!!そう思うと、そう思うと、私は、私はぁっ…!!」

 

 

 

 

 

そうして忍は泣き叫ぶかのように、胸の内に秘めていた思いを吐露したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

そして煙緋も黙って、肩を微かに震わせながら、唇を嚙みしめる。忍のあまりにも悲痛なその表情に、何も言えなくなってしまったのだ。

 

 

 

「…私は不安なんです。不安でどうしようもない。稲妻であの噂が流れ、彼の姿が見えくなった時……私はもう、頭が真っ白になって何も考えられなくなった。目の前が真っ暗になって何も見えなくなって、本当に怖かったんです。…そうしてようやく、この璃月で再び彼の姿を見つけた時、本当に嬉しかった……。

 私だって、瞬詠が、彼が、璃月の明日や未来の為に命を懸けていることくらい分かっています。でも私は…。怖くて、怖くて、仕方がないんです。もう私は……大切な人が私の知らないところで失われるのは嫌なんです!!もう失いたくないんです!!」

 

 

「…忍、貴女の瞬詠を思う気持ちは分かるわ。それは私も同じよ。…私だって、瞬詠を失いたくないわ」

 

吐露される忍の思いを、ただ黙って聞いていた凝光は静かに口を開く。

 

「忍が、私や彼のその決断や選択を快く思わないことは分かる。私だって本心では、貴女や煙緋と同じように瞬詠に危ない事はしてほしくないと思う。それに私も瞬詠と長い付き合いを通じて彼の事を理解し、そうして彼は、瞬詠は___」

 

凝光はそう言うとどこか儚げな笑みを浮かべる。

 

 

 

「___数少ない、璃月七星の“天権”でない私、ただの一人の人間、“凝光”として私を分け隔てなく接してくれた人物なの。そしてそれは彼女、“刻晴”も同じことだと言えるわ。

 …だから私は、そんな彼の事を。…失うのが、怖い…のよ…」

 

「っ!?凝光さん…?」

 

「っ!?凝光殿…?」

 

凝光の絞るかのように発せられたその言葉、弱りきっていたその言葉に忍は思わず驚きの表情を浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…だけど、だけど!!」

 

その時、凝光はまるで自身を奮い立たせるように声を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

けれども、私は璃月七星の天権としてこの璃月という国を守らなければならない!!璃月七星のリーダー、天権としてこの璃月を守る責務がある…!!

 

凝光は張り上げるかのように声を上げる。

 

 

 

 

 

「…はぁ、本当に…。現実、それは…本当、に…こう…とても、残酷な…もの、よね………」

 

凝光はまるで自嘲するかのように笑みを浮かべるのであった。

 

「凝光さん……」

 

「凝光殿……」

 

そして凝光のその姿を見た忍と煙緋は無言になり、苦しげな表情を浮かべる。

 

「…だから私は瞬詠を止める事は出来ないし、誰かが瞬詠を止めようものならば、私は自らの権力で以てその者を罰するわ…。

 いかなる者であっても、もう瞬詠を止める事は出来ない…。彼は私が下した命令によって…、その命令を完全に遂行しきるまで」

 

「そ、そうですか…」

 

「そ、そんな……」

 

忍と煙緋は哀愁を感じさせる様子で語る凝光の姿に、何も言えなくなってしまう。

 

 

 

「…忍」

 

そして黙していた様子の凝光は、真剣な眼差しを忍に向けて口を開く。

 

「先ほど言った通り、私には瞬詠を止める事やどうこうする事は出来ないし、ましてや煙緋、それに甘雨ですらも止める事は出来ない。今の彼を止められるのは、誰一人といないでしょう…。ただ、もしかしたら、もしかすると…」

 

「……」

 

忍はただ無言で、凝光の続く言葉を待つ。

 

「…忍、貴女は“瞬詠を止める”以外にも“瞬詠の為に出来る事がある”筈よ。そしてその可能性も十分に持っている」

 

「…“瞬詠の為に出来る事”?私に…?」

 

凝光の言葉に忍は流れていた涙を拭いながら、不思議そうな表情でそう呟く。

 

「えぇ、そう。…瞬詠を止める事は出来ない。だから忍、貴女のその不安は絶対に払拭する事は出来ない。…ならば、貴女には“何が出来る”の?」

 

「…“何が出来る”?」

 

「そう、貴女には何が出来るの?忍はその不安や恐怖、絶望に苛まれたままでいたいの?そういうわけでは無いのよね?それらを払拭したいんでしょう?それなら、“忍が出来る事”、“忍にしか出来ない事”。“忍がやらなきゃいけない事”。今の私達璃月七星の諜報員達とファデュイの諜報員達の暗躍戦を巡る璃月の情勢において、今の貴女には何が出来るの?貴女にしか出来ない事は、何なの?そして貴女は一体“どうありたい”の?」

 

「“私が出来る事”、“私にしか出来ない事”。“私がやらなきゃいけない事”。そして“どうありたい”…。わ、私は…」

 

凝光の言葉によって、忍は思考を巡らせる。

 

「…そうか。わ、私は、私は……っ!!」

 

そして忍は何かに思い至り、勢いよく顔を上げる。

 

「ふふっ、どうやら“答え”が出たようね」

 

「は、はい。…ただ、絶対に瞬詠は反対しますと思いますが…。しかも猛烈に反対されると思いますが……」

 

忍は苦笑いを浮かべつつ、凝光にそう返答する。

 

「ふふっ、そうね。きっと瞬詠は、猛烈に反対するでしょうね。…彼、きっとこういう事に関わってほしくないと思ってるし、巻き込まれてほしくもないと思っている筈だしね」

 

「そうですね。絶対にあいつ、瞬詠は嫌がると思いますけど…。ただ、少しでもあいつの傍、あいつの近くに居たいんです」

 

忍は強い意志の籠った瞳で凝光を見つめながら、決意と共に言葉を紡ぐ。

 

「…うむ、そう言う事か。…忍さん、本気なんだな?」

 

そして忍と凝光のやり取り、また今までの話の流れからして、忍がどのような決意を、どのような覚悟を決めたのかを察した煙緋は、忍に真剣な眼差しを向けながらそう尋ねる。

 

「はい、本気です…。今度こそ、私はあいつ、瞬詠の傍、もしくは瞬詠のすぐ近くで彼を支えてやろうと思います」

 

忍は真剣な眼差しを煙緋に向けながら、はっきりとそう答えた。

 

「ふむ……そうか」

 

煙緋は忍の返答に納得したように頷く。

 

そしてその時であった。

 

「「「お疲れ様です、瞬詠様!!」」」

 

群玉閣の警備兵である千岩軍の兵士達の響き渡る声が、煙緋や忍、凝光達三人の耳に入る。

 

「っ!?来たのか…」

 

「ふむ、瞬詠が来たようだな」

 

「…ふふっ、そのようね」

 

忍と煙緋、凝光はそれぞれそんな反応を示す。

 

「…忍。どうやら、忍のその“答え”を実行に移す時が来たようね」

 

「は、はい。……そう、みたいですね」

 

凝光の言葉に対して、忍は緊張の面持ちで静かに頷く。

 

「…ここまで来たら、もう後戻りは出来ない…か。私は……、絶対に……っ!!」

 

そして忍は拳を強く握り、決意を新たにするようにそう呟く。

 

「…おっ、凝光さん、それに忍に煙緋じゃないか。もしかして自分を出迎えに来たのか?…いや、待て、どうした。一体、何があった?」

 

そうして忍達三人の目の前に群玉閣に降り立った瞬詠は、そこで待っていた凝光や煙緋、それに忍が集まっているのを見つけ、彼女達に声を掛けようと声を掛ける。だがすぐに忍達の只ならぬ雰囲気を感じ取ったのか、戸惑い歩みを止めてその場に立たずむ。

 

「…瞬詠、聞いてほしい事がある」

 

そして忍は静かな口調で、そう口を開いた。

 

「…なんだ?突然改まって」

 

瞬詠は不思議そうに首を傾げながら、忍にそう尋ねる。

 

「いや、そ、その、だな…」

 

忍は顔をこわばらせながら、どう話を切り出そうか迷う。

 

「うん?本当にどうしたんだ?忍?なにかあったのか?」

 

瞬詠はそんな忍の様子を不思議に思い、さらに怪訝な表情を浮かべる。

 

「あ、えっと……だな。しゅ、瞬詠。瞬詠に頼みたい事がある。やらせてほしい事がある」

 

「うん?頼みたい事とやらせてほしい事?それって何だ?」

 

瞬詠は不思議そうに首を傾げながら、忍に尋ねる。

 

「あぁ、それは_____をさせてほしいという事だ」

 

「っ!?…忍。お前、自分が、自分が何を言っているのか、分かっているのか?分かって、言っているのか?自分が何に、どういう事に、首を突っ込もうとしているのか、分かっているのか?」

 

瞬詠は忍の言葉を聞くと、表情を険しくさせ、やや強い口調でそう尋ねる。

 

「わ、分かってる!!私は……っ。本気だ。私は……、あんたの傍で……っ!!だ、だから、瞬詠、私を___」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「__そんなのは駄目に決まっているだろうが!!」

 

 

 

 

 

 

「___っ!?」

 

瞬詠の強い否定の言葉、そして普段の瞬詠であれば絶対に口にしないような怒声に、忍は思わず目を見開かせ、驚きの表情を浮かべ、そうして大きく肩を跳ねさせる。

 

「え、あ……」

 

そしてそんな瞬詠の気迫に圧されたのか、忍は息を詰まらせたような声を漏らす。

 

「っ!?」

 

そして煙緋も瞬詠の凄まじい剣幕に気圧されたのか、思わず息を吞んでしまう。

 

「っ…。はぁ…」

 

そうして凝光は瞬詠が今まで見せてこなかった、怒りや憤りといった感情を露わにしている姿を目にし、驚愕と困惑が入り混じったような表情を浮かべる。だが、直ぐに冷静さを取り戻し、目を細めながら瞬詠を見つめる。

 

「す、すまない……、ごめん。ただ私は、私、は……っ!!」

 

忍は強い口調で叱責してきた瞬詠に対して、心底申し訳ないといった表情を浮かべながら謝罪を口にする。

 

「……」

 

しかし瞬詠は無言のままで何も語らず、ただ真剣な眼差しを忍に向けていた。

 

「っ、わ、私は……ただ、瞬詠の力になりたくて……」

 

忍はそう言いながら、縋るような眼差しを瞬詠に向ける。

 

「…いや、大丈夫だ。忍、頼むから、安心してくれ。むしろ、すまなかった。こんな事に巻き込んでしまって、本当に悪かった。だからこの問題は俺がどうにかする。これは俺の“仕事”だ。だからお前さんは、安心して煙緋と共に群玉閣で待っていてくれ」

 

「……っ!!」

 

瞬詠の言葉、それはまるで突き放すような、遠ざけるような、そんな強い意志の籠った言葉であった。

 

「……」

 

そして瞬詠はそのまま、その場を立ち去ろうとする。

 

 

 

 

 

だがその時であった。

 

 

 

「…待ちなさい、瞬詠」

 

「…どうした?凝光さん?」

 

その時、瞬詠の真横に立っていた凝光が静かに口を開く。

 

「……瞬詠、忍。忍は“悪くない人材”だと、思うわよ?」

 

「…なに?」

 

凝光のその言葉に、瞬詠は怪訝そうな表情を浮かべる。そして瞬詠と凝光は睨みあうかのように、二人は瞳だけお互いに向け合い、お互いの視線だけを交える。

 

「瞬詠、前に言っていたわよね?『“ファデュイ”という組織は質量ともに優秀で油断ならない存在だ。だから、前提としてこちら側は限りあるリソースの中で最善を尽くす必要がある。

 ファデュイという組織に対抗する璃月の千岩軍、密偵防諜部。千岩軍の兵士達は数多くの兵士達、多くの部隊、そして千岩軍を支えている商会達や腕の良い鍛冶職人達等の大勢の民間協力者達によって構成されている。“量”という観点で見れば千岩軍は十分満たしている。

 ならば、密偵防諜部は“質”を極めた方が効果的だし、そうしていかなければならない』と」

 

「あぁ、確かにそう言った。…それがどうした?」

 

瞬詠は凝光の言葉に怪訝そうにしながら首を傾げる。

 

「…瞬詠、忍はその“質”において優れた人材、そう思うわよ」

 

「……本気で言ってるのか?」

 

凝光の言葉に、瞬詠はさらに訝し気な表情を浮かべる。

 

「あら?私の能力を疑っているのかしら?私のものの価値を正しく評価できる能力、潜在的価値や投資した場合の将来生み出し得る利益を予測し、それらを勘案した上で損得勘定できる私の能力、私の商才とも言うべきそれを、瞬詠はとても高く評価してくれると思っていたのだけれど?」

 

凝光は悠然とした笑みを浮かべながらそう告げる。

 

「…認めているさ。それは事実だ。そうでなければそもそもこうして、凝光さんが天権の座に座っている事を許されているわけがないからな。…だが、しかしだな」

 

瞬詠は目を細めながら、凝光の視線を真っ向から受け止める。

 

「そうだとしても、忍が、俺のやっている事。俺達のやっている事に足を突っ込む必要はない。もし突っ込んでしまえば最悪…」

 

瞬詠はそこで言葉を途切らせる。

 

「“人手不足”、“余力が無く、ギリギリの状態というのは考えもの”」

 

そしてそこに凝光の言葉が続く。

 

「っ……」

 

瞬詠はその言葉に、強く歯を嚙み締める。

 

「ふふっ、貴方、そう言っていたわよね?『一定以上の質を担保するためには、ある程度の量は犠牲にしないといけない。それはつまりどうやっても、少数精鋭になりがちになってしまい、良い意味では理想的な質を確保する事ができる一方で、悪い意味では質の確保を最優先にしてしまった結果、人員的な意味での余力がほとんど無くなってしまった。それはつまりちょっとした事が原因で、密偵防諜部は機能不全に陥ってしまう脆さを抱えているという事、それ故この弱点となる部分をなんとかカバーしなければならない』…と、違ったかしら?」

 

「……あぁ、確かにそう言った。だがな、凝光さん。俺は認めんぞ。部外者である忍を___」

 

「“使える物は何でも使い、利用できるものは何でも利用する”…。瞬詠、貴方はそう言っていたわよね?」

 

「___っ!?」

 

凝光がその言葉を口にすると、瞬詠は息を吞んで目を見開き、そのまま完全に固まる。

 

「ふふっ…」

 

そして凝光はまるで勝ち誇ったかのように不敵な笑みを浮かべる。

 

「ねぇ?貴方だって分かっているのでしょう?今の璃月港の状況を。…相手はあのファデュイよ?なら出し惜しみは無し、でしょう?…違うかしら?」

 

「っ……!!」

 

凝光は瞬詠の耳元で囁くようにそう告げる。そして凝光のその言葉を受けた瞬詠は、まるで痛い所を突かれたかのように表情を強張らせる。

 

「本当に、本当にっ…!!凝光さん…!!お前さん、凝光の事が嫌いだ…!!大っ嫌いだ…!!」

 

「あらあら」

 

瞬詠は苛立ちと怒りを込めた声で、凝光にそう言い放つ。しかしそれでも、凝光は余裕のある態度を崩さない。

 

「…」

 

そして瞬詠は凝光から忍に視線を向ける。それはまるで忍の価値や有用性を、今一度吟味するような瞳であった。

 

「瞬詠、私は、私…は……」

 

そしてじっと見つめられる忍は、その視線に対して口を開く。だが、瞬詠に向かって何を言えばいいのか、何をどう説明すればいいのか、それが全く分からず、結局は何も言えなくなってしまう。

 

「…凝光さん、忍が“悪くない人材”だと思った根拠はなんだ?」

 

瞬詠は静かな口調で、凝光にそう尋ねる。

 

「えぇ、そうね。それは昼間の璃月港を歩く煙緋の警護や護衛に秘密裏に付かせていた諜報員達、密偵防諜部の彼らの存在に気づいた事かしら」

 

「…なに?」

 

瞬詠はその凝光の答えに眉をひそめる。

 

「それに、忍の硬い意志かしら。石珀のように硬い鉱石のように。そう、それは忍はとても強い覚悟、決して折れる事は無い信念の強さを持っている。私は忍からそれを感じ取り、そうしてそう判断したわ」

 

「……」

 

瞬詠は凝光から視線を外すと、考え込むように押し黙ってしまう。

 

「…成程。凝光さんの言いたい事は分かった。確かに、それであれば悪くないかもしれん」

 

「え……」

 

瞬詠のその言葉に、忍は目を見開きながら驚いたように声を漏らす。

 

「だが、しかしだ。今回は相手が悪すぎる。ただの宝盗団とかの一般的な悪党だったらまだ何とかなったが、相手は“ファデュイ”だ。それ相応の実力者達が数多存在するファデュイ。非常に厄介な連中。忍には間違いなく、荷が重い。それこそ宝盗団等のそこらの大勢の悪党達を相手取る方がまだマシだ」

 

「……えぇ、そうね。それは認めるわ。だけど、瞬詠、貴方は忍の事を認めていたじゃない?」

 

「…なにがだ?」

 

瞬詠は再び、不機嫌そうな表情を浮かべながら凝光に視線を向ける。

 

「とぼけないで頂戴?ふふっ、忍から聞いたのよ。煙緋が私の保護を受けるまでの間の周辺警戒や煙緋の警護、貴方が忍にお願いしていたそうね」

 

「なっ!?」

 

瞬詠は目を見開かせ、驚愕の表情を浮かべて忍の方に視線を向ける。

 

「あ、あっ!!しゅ、瞬詠……!」

 

忍はそう言いながら、慌てた様子で手をバタつかせる。

 

「忍…っ」

 

瞬詠は忍の表情を見つめながらそう呟く。

 

「あ、そ、その…瞬詠、本当に、その……」

 

忍は困ったような表情を浮かべながら、何とか言い訳をしようと必死に言葉を探す。だがしかし、上手く言葉が見つからず、結局何も言えなくなってしまう。

 

「…いや、いい。大丈夫だ。忍」

 

瞬詠は呆れたかのようにため息を吐き出すと、忍に声を掛ける。

 

「……」

 

忍はそんな瞬詠の言葉を聞いた瞬間、しゅんとした表情を浮かべて俯いてしまう。

 

「…」

 

そうして凝光はそんな瞬詠と忍の方を見据えながら、静かに口を開く。

 

「ふふっ、瞬詠は忍の事を信頼しているのね」

 

「……ふん、まあな。確かに俺は忍に煙緋の警護を任せたさ。こいつは稲妻でそれなりの経験や格闘に関する研鑽も積んでいたからな。…それに、俺としても忍の事を信頼しているからこそ、こうして任せているんだしな」

 

瞬詠は凝光の言葉に対して呆れたように苦笑しながら、凝光に答える。

 

「…瞬詠?」

 

そして瞬詠の言葉を聞いた忍は、キョトンとした表情を浮かべながら首を傾げる。

 

「……忍が実力者。自衛や護衛もある程度はこなせるほどの人物であるという事は認めよう。だが、それでも相手が悪いし、ましてやこれから行おうとしているのは自衛や護衛の範疇を超えている行為だ。…果たして、忍が務まるのかどうかの疑問は多少は残るし、また彼ら相手にどこまで忍の力が通用するのか。……それが一番の問題点なんだよな」

 

「…ふ~ん?少なくとも“忍は足手まといになる事は無い”という認識はあるのね」

 

凝光はニマニマとした笑みを浮かべながら、瞬詠に対してそう告げる。

 

「本当に癪に触れる言い方をするなぁ。凝光さんはよぉ……」

 

「ふふっ」

 

瞬詠は疲れた様子で凝光の方に顔を向けながらため息を吐くと、凝光はどこか楽しげに微笑む。

 

「……はぁ、まぁいい。実際、忍を信頼しているか信頼していないかと言われたら、信頼はしているからな。

 ただ今回の場合、相手がファデュイという事。ヒルチャールと言った魔物達の集団や宝盗団のような烏合の衆の悪党達と違い、彼らは規律ある軍隊の集団であるという事。しかもファデュイを擁しているスネージナヤという国家というのは、テイワット最強の国力を誇る国家だ。そしてその軍事大国とも言えるスネージナヤが抱えている組織、それがファデュイだ。…正直、忍では荷が重すぎる。それに正直、今のこの有利な状況だが…」

 

瞬詠はそう言うと顔を顰める。

 

「…実はこれがファデュイどもの策略で、自分達を嵌める為の罠なのではないか、とつい疑心暗鬼に陥ってしまうところもあるし、ファデュイはわざと今の状態を受け入れて、カウンターを狙っているんじゃないか、とも考えてしまう。

 …こんな不可解な状況下では、絶対に忍を巻き込みたくない、それが本音だ…」

 

瞬詠は顔を顰めながら、低い声でそう告げる。

 

「えぇ、それは確かにそうね。それにスネージナヤという国の強さ、恐ろしさは私も理解しているつもりよ…」

 

凝光は真剣な面持ちで静かに頷く。

 

「…」

 

そして瞬詠はチラッと忍の方に視線を向ける。

 

「…」

 

そして忍は忍で黙って、瞬詠を見つめる。そこには先ほどまでの戸惑いや困惑の様子はなく、強い意思の籠もった瞳で瞬詠の事を見つめ返していた。

 

「…今の話を聞いていても、頑固なお前さんは一切引く気は無いんだな?」

 

瞬詠は皮肉交じりの口調で忍にそう尋ねる。

 

「…あぁ、私の覚悟はとっくに決まっている。あんたの近くにいる…。何かがあった時、直ぐに駆けつけられるように」

 

忍は真剣な眼差しで瞬詠の事を見据えながら、そう答える。

 

「___そうか…。それは、本当に…残念だ」

 

瞬詠は忍の言葉を聞くと、一度目を瞑り、少し時間を置くと、何かを決意したように目を開く。

 

「…忍、この件に関しては直ぐに決める事は出来ない。それは良いか?」

 

「…あぁ、分かった」

 

忍は瞬詠の言葉に対して静かに頷く。

 

「悪いな。その代わり、今夜。“深夜”、時間はあるか?」

 

「“深夜”だと?」

 

そして瞬詠は忍に対して、そう質問を投げかける。

 

「あぁ。……俺とお前さん、“誰の邪魔も入らない場所”、“二人っきりで話”をしたい。果たして、“本当にお前さんは大丈夫なのかどうか”を。それをじっくりと“判断”したい」

 

瞬詠は真剣な面持ちで、忍に向かってそう告げる。

 

「…ふ~ん?」

 

「…ほぉ?」

 

そして瞬詠の言葉の意味や彼の真意に気づいた凝光や煙緋は、興味深げに瞬詠を見つめる。

 

「…あぁ、分かった」

 

忍も一瞬驚きの表情を浮かべたが、すぐに表情を戻すと再び静かに頷き、瞬詠の言葉に同意を示す。

 

「…場所の指定は後で。甘雨経由で知らせる。俺は、自分は、今は忙しいからな。これから刻晴が群玉閣に来る前に、準備を終わらせないといけないんだ。それじゃ……また“深夜”、“その場所”で会おう」

 

瞬詠はそれだけ言い残すと、忍、そして凝光や煙緋の方に視線を向ける事なく、そのまま群玉閣の中に入っていった。

 

「…」

 

そして忍は、そんな消えて行った瞬詠の背中を見つめ続ける。

 

「……ふふっ。随分と面白くなってきたわね」

 

忍と瞬詠のやり取りを見ていた凝光は、楽しそうにニヤニヤとした笑みを浮かべる。

 

「…忍さん、何と言えばいいのか…。まぁ、頑張れ。何とかして瞬詠を“納得”させるんだぞ」

(…瞬詠の事だ。一筋縄ではいかないだろう。だがしかし、忍さんはもう“覚悟”を決めたからな…)

 

煙緋は忍に向かって激励の言葉をかける。また煙緋は深夜、その場所で何が起きようとしているのかが、何となく察しが付き真剣な表情になると、改めて忍に向かって頑張れと心の中でエールを送る。

 

「あ、ありがとうございます。煙緋先輩」

 

忍は煙緋からの激励に対して、感謝の言葉と共にペコリと頭を下げる。

 

「…ふふっ、忍。頑張りなさい。私が手伝えるのはここまで。あとは貴女が彼に証明してさしあげなさい」

 

そうして凝光も煙緋同様に、忍に対して激励の言葉をかける。

 

「はい、ありがとうございます。凝光さん。凝光さんのおかげで、瞬詠がまともに取り合ってくれる所まで出来ました。後はなんとかしてみせます」

 

忍は凝光に対して、深くお辞儀をする。

 

「ふっ。頼もしいわね…。いいかしら、忍。幾つか忠告しておくわ」

 

凝光は笑みを浮かべながら、忍に向かってそう告げる。

 

「はい」

 

そして忍はそんな凝光の言葉に対して真剣な表情を浮かべて頷く。

 

「瞬詠が最後の最後まで反対していたという事は、おそらく瞬詠はまだ忍の事を完全に認めていない事になるわ。それはつまり___」

 

「___瞬詠が私の事を密偵防諜部の“一員”もしくは“正式な協力者”となる事を認めるつもりはなく、全力で私を止めにかかる。……という事ですよね?」

 

「…えぇ、そうよ」

 

忍の言葉に対して凝光は真剣な表情で頷く。

 

「…まぁ、それはそうでしょうね。ですが、私だって引くつもりはありません。なんとかして、瞬詠に認めさせてみせます」

 

「えぇ、そうなさい。おそらく、彼は___」

 

凝光はそう言うと、深く考えるかのよう無言になる。

 

「…」

 

「___一切の手加減をすることなく、忍を完全に叩き潰すつもりで来るかもしれないわね。普段の瞬詠とは違い、完全な“仕事人”である瞬詠として、忍を優先排除すべき対象者として、本気で来ると思うわ。そうなると…。おそらく、最悪、彼は“あれら”を持ち出してくる可能性があるわね」

 

凝光は眉間に皺を寄せながら、険しい表情を浮かべる。

 

「“あれら”…?なんですか、それは?」

 

忍はそんな凝光の様子に首を傾げると、彼女に対してそう尋ねる。

 

「……そうね。端的に言えば、この璃月港の水面下で暗躍しているファデュイの諜報員達や工作員達、彼らに対抗する為に彼の密偵防諜部内で研究、開発や試作を行いながら、少しずつ実験的に配備を進め始めている密偵防諜部の‘特殊武器’の一種。

 そして元々はファデュイから鹵獲した物だったんだけど、彼と縁を結んだとある仙人の協力でゼロから作り出す勢いで、改めて生み出された瞬詠専用に改造を施した“あれ”。

 彼曰く、まだまだ“問題”を抱えているがそれを無視し、それによって引き起こされてしまった自身の身に降りかかるだろう弊害やその結果を受け入れ、そうした上でそれの“真価”を発揮させてしまえば…。それが彼の切り札になり最後の手段となり、ある意味で元素関連の法則を乱しかねない“超兵器”となりえるかもしれないと語っていた、瞬詠の“最終兵器”とも言えるその“代物”。

 “それら”、瞬詠が秘密裏に保管していた‘特殊武器’とその“代物”である“超兵器”の類をね」

 

「っ……!?そ、それは……?」

 

忍は驚きの表情を浮かべながら、凝光に尋ねる。

 

「なっ!?なんなんだそれは!?」

(“特殊武器”!?それに“超兵器”だと!?一体、何なのかは分からないが…。だが、まさか、瞬詠はそんなものを、忍さんに使ってくるつもりなのか!?)

 

煙緋も凝光のその言葉に驚愕し、目を見開く。

 

「…忍、一度しか言わないから、よく聞きなさい」

 

「は、はい。分かりました……」

 

凝光は一度静かに目を閉じると、ゆっくりと目を開けながら真剣な表情で忍に対して言葉を紡いだのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

「…」

 

夜の月が放つ青白い月光が地表を照らしたり、月が薄い雲に覆われたりする事で著しく暗くなってしまい、深夜の闇夜に覆われてしまうような璃月港。そんな薄闇が支配する深夜の璃月港の街並みを忍はただ独りで道を行く。“片手剣”を携えながら。

 

「…」

 

海の潮風と波の静かなさざなみが、まるで忍の進む道に流れていくかのように流れており、忍はその潮風を肌で感じながらゆっくりと歩き続ける。それはまるで“自分を監視している者達”に対して、“あんた達の存在は分かっている”、と忍が無言で告げているかのように。

 

「…」

 

そしてやがて目的の地が見えたのか、忍は目を細目ながら前を見据える。

 

 

 

 

 

「……」

 

忍の視線の先にあるのは璃月港市街地中心から外れ、本当に端の方にポツンとあった殆ど使われることはないであろう、少し乱雑に置かれたり積まれていた木箱が乱雑している場所である埠頭。

 

そしてその埠頭から少し古めかしい大きめの木製の桟橋が延びており、その先の奥に一人の人物の姿が、まるで璃月港の闇夜に浮かび上がった亡霊かの如く、静かに背中を見せながら佇んでいた。

 

「……瞬詠」

 

その人影の正体が誰なのかを即座に見抜いた忍は、その人物の名を呟き更に足を進めていく。それと同時に忍の表情が、若干の緊張で強張る。

 

 

 

___普段の瞬詠とは違い、完全な“仕事人”である瞬詠として、忍を優先排除すべき対象者として、本気で来ると思うわ

 

 

 

「…っ」

 

昼間の凝光が告げた言葉を思い出し、忍は息を呑む。

 

「…」

 

目の前で独り佇んでいた瞬詠、今の彼はやはり普段の瞬詠ではない。それは今の瞬詠の格好を見ても明らかだ。

 

 

 

今の瞬詠の格好。

 

普段の瞬詠の格好であれば、灰色を基調とした一般的な璃月の服装の格好をした瞬詠の姿をしているのだが、今の瞬詠の姿と言うのはこの闇夜に紛れ込み、溶け込むような漆黒のフードのようなかぶり付きの衣装を身に纏った姿であり、腰には瞬詠が使い込まれてきたのではないかと思われる少し古そうな“片手剣”を携えていた。

 

 

 

つまり、普段璃月港で見かける瞬詠とは違い、目の前の男、目の前にいる今宵の男は完全武装を施した“瞬詠”という事。

 

 

 

「…」

 

忍は顔を更に引き締めると、歩みを止めることなくそのまま瞬詠がいる場所へと歩を進める。

 

 

 

凝光の忠告が当たってしまった。

 

 

 

瞬詠が武装化の施しを行ってしまっている。

 

しかも服装までもが普段と違うという事は、あれは完全に“仕事人”、もしくは“密偵防諜部の長”である瞬詠として、ここに立ってしまっているという事。

 

 

 

そして瞬詠は本気で忍を止めようとしている。

 

 

 

 

 

つまり瞬詠の懐の中には彼が長年愛用している“鉄扇”や、神の目を得る事が無かった彼が代用手段としてよく使用している“元素投擲瓶”の他にも、凝光が忠告や警告として語ってくれた“特殊武器”や“超兵器”の類を衣の中に隠し持っている可能性が高い。

 

 

 

「…残念だな、忍。本当なら天気が良ければ、うっすらではあるがここから稲妻が。鳴神島の影向山の姿が見える筈だったんだがな。今は生憎、海と月、雲しか…見えないな」

 

瞬詠は埠頭から見える景色を眺めつつ、埠頭にいた忍に向かっていつものような穏やか口調でそう告げた。

 

「…そうなのか、瞬詠。それは、残念だったな」

 

そして瞬詠に話しかけられた忍は歩みを一度止め、こちらも普段と同じように淡々とした口調で言葉を返す。

 

「あぁ……残念だ」

 

瞬詠は忍の言葉にゆっくりと頷いた。

 

「…忍、ここに来るまでに何人いた?」

 

そして瞬詠は後ろの埠頭にいる忍にそう問いかける。

 

「…」

 

問いかけられた忍は、今度はその言葉をすぐには返さない。今この瞬間、瞬詠による“試験”が始まったと直感で感じたからだ。

 

そして瞬詠に質問された忍は、一度大きく息を吐き出した後、静かにこう答えた。

 

「……三人だ」

 

そして少しの沈黙の後、忍は静かにそう言葉を紡いだ。

 

「へぇ……、成る程」

 

瞬詠は忍の言葉を聞いた後、小さくそう呟く。

 

「どうやら、凝光さんが言っていた事。…それは、あながち大袈裟な事でもなかったようだな」

 

そして瞬詠はさらに言葉を続けた。

 

「さて、忍。…お前さんに一つ、確認したい事がある」

 

瞬詠は後ろにいる忍に背中を見せながら、静かな口調でそう言った。

 

「なんだ?」

 

「…お前さん、“人を殺す”事が出来るのか?お前さんは、自らの意志で“人を殺せる”のか?

 

「っ!?」

 

瞬詠の言葉に対して、忍は驚きの表情を浮かべる。

 

「…答えられないのか?」

 

瞬詠は少しだけ、まるで試すような口調でそう問い続けた。

 

「……」

 

忍は黙ったまま何も答えない。否、答えられないと言った方が正しいだろうか。

 

「…俺が歩んできた道、それは“血の小川”、と言っても良いかもしれない」

 

「……っ!?」

 

そして瞬詠のその言葉に忍は目を見開いたのであった。




今まで、ありがとうございます。

殆ど見切り発車に近く、ノリと勢いで始まってしまった作品ですが、
それでもこのような作品を楽しんでいただければ、幸いでございます。

リメイク作品の投稿はいつになるのか。
現状は不明(リアルな事情で年末は忙しく、また3月か4月中には去年受けた資格の再試験の予定も控えているでかつ作者本人が社会人という事情もある為に、かなりスケジュールがギリギリなんですよね。そのため、タイミング的におそらく来年の4月か5月以降に投稿する予定)ですが、なるべく早いうちに投稿等は行えればと思います。(それにもしかしたら、年始辺りに一幕分の少しくらいはできるかも…しれないですし。ただ、あまり期待はしないでください)

尚、匿名設定を解除(今まで特に気にせず、普通にそのままであったのを忘れていました。)し、作者のページに飛べるようにしましたので、何かあれば、作者のページの『活動報告』にある『ご意見箱』に投稿していただければと思います。(場合によっては全てが全て返信できるとはいうわけではございませんが…)



以上です。

リメイク作品が投稿できるレベルまでに完成し、実際に投稿を行うようになるまでかなり期間が空いてしまうと思いますが、気長にお待ちいただければと思います。



今までありがとうございました。

リメイク作品の投稿まで、気長にお待ちください。
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