玉衡の元から逃亡したら千岩軍が追いかけて来ていた件について 作:久遠とわ
来月以降はどうなるのか分からないので、取り敢えず急ピッチで、ファルカ大団長や西風騎士団等を中心に必要最低限な分のみの情報を集めて、設定を確認し直して、無理やり今月中に投稿しました。
また久々に小説情報を開いたら、お気に入り数が100人を超えてびっくりしました。
こんな作品をお気に入り登録していただき、本当にありがとうございます。
尚、あらすじにもある通りにタグを追加しました。
ネタバレに関しては、今のところはメインストーリーの魔神任務の方はネタバレはほとんど無いと思われますが、各キャラの伝説任務やプロフィールを参考にしているところがある事からネタバレを追加しました。
考察ネタに関しては、現状では第2幕から本格的にファルカ大団長が物語に間接的にも直接的にも関わってくる事になるため、ファルカ大団長に関する情報が不足している中、不足部分を考察ネタで補っている事から、そういう事で考察ネタを追加しました。
オリキャラのタグに関しては、ファルカ大団長はその内に原作で登場すると思いますが現状は登場してないので、完全に‘オリキャラ(一部はチート※予定)’の類いになると思われるために追加しました。
また、第2幕から既にあるオリジナル設定やオリジナル要素のタグも発揮していきますので、よろしくお願いします。
それでは、お待たせしました。
第2幕、開幕
狼少年達に絡まれ、そのまま彼らと共に行動することになった件について
「…うん?『ルピカ』に手を上げないでくれ…か?」
奔狼領の林の中のとある場所、その場所で敵意を抱いて自分を囲うように包囲する狼達に警戒していた男、黒い鉄扇を開いていた瞬詠が疑問の声を上げる。その声には困惑、そして緊張の色がある。何故なら、彼の目の前にいる赤い瞳に体つきが逞しく、まるで狼の体毛のような長髪の少年、レザーの言っている意味、そしてその意図が理解できなかったからだ。いや、正確にはレザーの放ったその言葉。その中に隠された真意によってはこれから大変なことになる危険性を秘めている可能性があるからだ。
「そうだ、頼む、‘あの高く大きい男’の匂いがする男」
「……」
レザーは頷き、瞬詠は黙り込む。
『ルピカ』。瞬詠はレザーの言っている、その『ルピカ』という意味が分からなかった。
だが、レザーの様子からして何か大切であり、重要なものなのだろうと思った。
「…」
(…『ルピカ』って何だ?それにさっきからレザーが言っている‘あの高く大きい男’も気になる…まさかだとは思うがレザーという少年は)
瞬詠は首を傾げる。瞬詠はレザーをじっと凝視する。それはまるでレザーの挙動を一つでも見逃さないと言わんばかりに。
「…悪いが、その『ルピカ』って何なんだ?全くもって分からんのだが」
瞬詠は正直にそう言った。
「…ルピカは『狼の家』。違う、『狼の家族』。彼らはオレを『ルピカ』だと言った…だが、オレ、『ルピカ』を守れなかった……だから!!」
レザーはそう言うと、背中にあった大剣、かなり使い込まれていたのか、あちこちに傷があり、刃も多少はボロボロになっているものの、全体的には綺麗な形を保ち、切れ味の良さそうな大剣を取り出し、その切っ先を瞬詠に向けた。
「っ」
瞬詠は目を細める。
「もしも、お前が『ルピカ』を傷つけるなつもりなら、容赦しない!オレ、今度こそ『ルピカ』を守る!例え、相手が僅かに‘あの高く大きい男’の匂いがする男であっても!!」
レザーはそう言って大剣を構える。
「「「グルルゥ!!」」」
「「「ガルルゥ!!」」」
レザーのその言葉に呼応するように、瞬詠を取り巻く狼達が低く喉を鳴らし始める。
「…」
瞬詠はレザーと自分を取り囲む狼達を交互に見つめた後、小さく息を吐く。そして彼は開いた鉄扇を閉じる。
「…はははは!!」
すると、瞬詠が笑いだすと同時に、偶然なのか瞬詠の周囲に強い風が巻き起こり、周囲の木々の葉っぱや落ち葉が激しく舞う。
「ぐっ!?」
「「「グルゥッ!?」」」
「「「ガルゥッ!?」」」
レザーと瞬詠を取り囲んでいた狼達は瞬詠が急に笑い出したこと、また瞬詠が笑い出したのと同時に強烈な突風が吹き始めたことがまるで瞬詠が自分の意志で起こしたかのように感じられ、混乱し戸惑い、思わず怯んでしまう。
「…」
(な、何だ……)
レザーは瞬詠の突然の変化に驚く。
「っ」
(何だ、この男は……一体、何を考えているんだ?)
レザーは困惑し、瞬詠を見る。
「ははは!!いやー、すまん!!すまん!!悪かった!!レザー!!あんまりにも酷すぎる勘違いをしていたわ!!」
瞬詠は閉じていた鉄扇を、自身の手のひらを軽く叩きながら笑う。
「…勘違い?」
「あぁ、そうだ!!お前が言っている『ルピカ』の意味が何のことか分からなくてな。てっきり、まさか宝盗団で使われている自分の知らない何か新しい暗号か何かかと思っちまったよ」
「……宝盗団?」
レザーは首を傾げる。
「おっと、そこから説明しないとダメだったな……。えっとだな……」
瞬詠は頭を掻いて説明する。
「まぁ、簡単に言えば盗みをする組織だ。あいつらはただの盗賊集団だよ。前に璃月にいたとある宝盗団と璃月港に住む表向きは普通の一般人や璃月港にやって来た商人達がいたんだが、実はその宝盗団の協力者達だったという事があってな。そいつらは足が付かないように璃月港で色々と暗躍したり工作活動をしていたんだ。それで、そいつらの使っている暗号の中に偶々だがレザーの言う『ルピカ』とよく似た『ルビカ』という暗号があって、その意味が奴らの『全ての準備が終わり、間もなく行動を起こせる』って意味だったんだ。それを聞いて、その言葉がその暗号にあまりにも似ていたもので、つい反射的に『ルピカ』という言葉が『宝盗団の新たな暗号』だと勘違いしちまってたんだよ。…いやぁ、本当にすまなかった」
瞬詠はそう言い頭を下げる。
「……そう、だったのか……」
レザーは瞬詠の説明を聞き、納得したのか構えを解く。
「あぁ、そうだ。だから、俺はレザーの言っていた『ルピカ』って言葉の意味が、もしかしたら宝盗団の『ルビカ』よりも危険な意味を持つ暗号かもしれないと警戒していたんだ。だけど、違った。安心したよ。自分が警戒しているようなものではないようだな」
瞬詠はレザーに警戒していた理由を説明する。
「……なるほど、それなら『ルピカ』を傷つけるつもりはない、という事でいい、そういうことだな?」
レザーは瞬詠の言葉に安堵する。
「ああ、もちろんだ。自分は『ルピカ』、お前の家族を傷つけるつもりは毛頭ないさ。約束しよう」
瞬詠は微笑みながらレザーにそう言った。
「……分かった」
レザーは瞬詠を信じることにしたのか、大剣を背中に仕舞い込んだ。
「「「グルルゥ」」」
「「「ガルルゥ」」」
そして瞬詠に低く喉を鳴らしながら取り囲んでいた狼達も、レザーが戦闘態勢を解除したことでレザーと同じように警戒を解き、瞬詠に近づき始める。
「ん?どうした?」
狼達の行動を見て瞬詠は不思議そうにする。
すると狼達は瞬詠の前で伏せつつ、また瞬詠の匂いを嗅ぎ回し始める。
「「「グルゥ」」」
「「「ガルゥ」」」
狼達のその行動に瞬詠は困った様子を見せる。
「えっと……自分を襲わないでくれるのは嬉しいんだけど、流石にそこまでされると逆に怖くなるぞ……」
狼達は瞬詠がそう言うと狼達は瞬詠を見つめる。
「「「グルゥ」」」
「「「ガルゥ」」」
狼達は瞬詠のその様子に仕方がないと言うように鳴く。
「……はぁ、分かった。でも、せめて少しだけ距離を取ってくれないか?流石に怖いから」
瞬詠は狼達を説得すると、狼達は瞬詠から離れた。
「「「グルゥ」」」
「「「ガルゥ」」」
狼達は互いに見合って瞬詠を見上げる。まるで狼達が瞬詠と以前にどこかで会ったことがあるような反応をしており、全ての狼が瞬詠から距離を取ったものの、瞬詠の匂いをずっと嗅ぎ続けていた。
「……何だか、随分と懐かれたのかな?」
瞬詠は自分の体臭を嗅いでいる狼達に苦笑いを浮かべながら呟く。
「…なぁ、オマエ、名前はなんていう?」
瞬詠と狼達の様子を見ていたレザーは瞬詠に声をかける。
「自分の名前か……。自分は瞬詠だ」
「そうか、瞬詠、聞きたい事がある」
「ん、なんだ?」
瞬詠はレザーの方へ振り向く。
「瞬詠、なぜ瞬詠から‘高く大きい男’の匂いがするんだ?」
レザーは瞬詠に尋ねる。
「‘高く大きい男’の匂い?」
瞬詠はレザーの言っている事が分からず首を傾げる。
「あぁ、瞬詠、オマエから…いや、正確にはオマエの服、そこから、その男の臭いがする」
レザーは瞬詠に答える。
「えっ……」
瞬詠は思わず声を上げる。
「自分じゃなくて、自分の服から?…あ、もしかして」
(もしかして、‘あいつ’の‘あれ’の事なのか?この前にリサさんからお願いされてスメールの教令院から取り寄せていた本を、くそ暑い思いをしながらスメールの教令院近くまで飛んでそれを返却し、そのついでにそのままフォンテーヌにある修理屋に直行して、そこに預けていた修理の終わった‘あいつ’の‘あれ’の事か?…今は‘それ’を持っているが)
瞬詠はそう思い、自身の服からとあるものを取り出す。
「…!?これだ!!」
レザーは瞬詠の出したものを見て、目を見開く。
「「「グルゥッ!?」」」
「「「ガルゥッ!?」」」
そして、下がっていた狼達も瞬詠の手にしたそれを見て驚く。
「あっ、なんか、ごめんな」
狼達の驚いた様子に瞬詠は謝る。
「「「グルルゥ」」」
「「「ガルゥ」」」
狼達は見えたそれに興奮した様子で喉を鳴らした。
「…」
(なんで、レザーや狼達は‘これ’をそんなに見てるんだろう?)
瞬詠は狼達の様子に首を傾げながら、それをじっと見つめる。それはかなり使い古されたような物で、所々に小さな傷があるものの、立派な懐中時計であった。
「「「グルルゥ」」」
「「「ガルルゥ」」」
狼達は瞬詠の持つ懐中時計を食い入るように見つめ続ける。
「ん?これがそんなに気になるのか?」
瞬詠は狼達の様子に懐中時計を軽く振ってみせる。すると狼達はさらに喉を鳴らし、瞬詠に近づこうとする。
「「「グルルルゥ」」」
「「「ガルルルゥ」」」
狼達はかなり興奮しているようであり、瞬詠は困った表情を浮かべる。
「うーん……流石にこれはあげられないよ。だって、これは‘あいつ’のだし」
瞬詠はそう言いながら懐中時計を仕舞おうとする。
「なぁ、瞬詠」
「うん?どうした、レザー」
懐中時計を仕舞おうとした瞬詠はレザーに声をかけられ、動きを止める。
「瞬詠が持っているその懐中時計、よく見せてくれないか?」
レザーはそう言いながら瞬詠の方に歩く。
「ん?別にいいけど……ほら」
瞬詠はレザーに言われるままに懐中時計を渡す。
「「「グルルゥ」」」
「「「ガルゥ」」」
狼達は興味深そうに懐中時計を見ており、狼達は瞬詠とレザーの様子を見守る。
「……確かに、これは、あの男の懐中時計だ」
「えっ?」
瞬詠はレザーの言葉に驚く。
「あぁ、オレ、鼻が良い。この懐中時計から、‘あの男’の匂いがする…」
「…ちょっと待て。レザー、お前はその懐中時計の持ち主、‘ファルカ’を知っているのか?」
瞬詠はレザーの言った言葉を聞き、驚きながら尋ねる。
「知っている。…ファルカは、名前だ。あの男、高く大きい。レザーの名前、鉄の爪、彼にもらった」
レザーはそう言いながら、自分の両手に装着されているオレンジ色の手甲を見せる。
「あぁ、そういう事なのか……」
瞬詠はレザーの説明を聞いて納得し、まじまじとレザーやレザーの装着されている手甲、そしてそれについている鉄の爪みたいな物を見る。
「…」
(これ、この手甲の外側についている鋭利なものって、もしかして鉄甲鉤や鉤爪の一種か?…というか、レザーは人間なんだよ…な?レザーから感じられるのは獣としての気配だが、人間としての気配も混じっている。なんだ、このレザーの纏っている雰囲気は…長い間に狼達と過ごしていたからなのか?)
瞬詠がレザーについて考えて、その事を考察をしている間に、レザーは自分の手に着けられた鉄甲鉤のような武器を、より瞬詠に見せつけるように彼の目の前に持っていく。
「これ、あの男がくれたものだ。オレ、必要無いと言ったが、彼、『こいつ、上手く扱えば大木や岩ですらも裂く事が出来るものだ。これから先、必要になるかもしれない。それでお前、お前の大切な者、家族、友達、それらを守りきるんだぞ』と言って、これ、渡してくれた」
「へぇ~そうなのか。あいつそんなことをしたのか」
(まさか、ファルカの奴がな)
瞬詠はそう思いながら、ファルカの意外な一面を知って驚く。
西風騎士団の大団長、ファルカ。背が高くて大柄な男で、『北風騎士』と呼ばれる西風騎士団の生きた伝説と呼ばれた男だ。
また、『獅牙騎士』と呼ばれる西風騎士団の代理団長のジンが平和と自由を守る女性騎士と謳われる彼女に対し、西風騎士団の大団長のファルカは征服と伝説を創った男性騎士と謳われる彼でもある。
そしてそのように謳われる彼の戦闘能力は西風騎士団の中でも群を抜いており、彼が彼自身の氷元素の力を全力で振るえば、彼の周りの辺り一面が熾烈な猛吹雪が吹き荒れる銀世界となると言われ、また彼の剣術自体の腕前も相当なものであり、例えば年数が経っていないにも関わらず、既に古強者の一人となってしまっている『波花騎士』のエウルアよりも上であると言われている男だ。
そうしてそんな多くの戦いの中で数多の数の武勲を上げてきた男だが、実はとても自由奔放な男であり、例えば気に入った相手を見つければ何かしらの理由をつけて一緒に酒を飲みに行こうと誘ってモンド中の様々な酒を求めては、モンド城の様々な酒場を飲み歩いたり、また気まぐれでモンド城から出て散歩して、立ち寄った場所で面白そうなことがあれば首を突っ込むなんてことも多々ある。そして首を突っ込んだことはに関しては、大抵の場合はファルカ自身が大団長という立場のせいもあってカオスな状況になってしまうらしい。そうして、最終的には主に西風騎士団の隊長格の誰かがその場を収めて、ファルカをモンド城にまで連れ戻し、西風騎士団本部に戻ったら代理団長のジンが待っている反省室に入れられ、その部屋の中にいたジンに叱られるというのがお決まりのパターンとなっているとか……。
また、以前に瞬詠がアルベドに対して『ジンの事をどう思っているか』について聞いた時のアルベド曰く、『ジン?彼女は真面目な代理団長だよ。あの大団長よりも頼もしいと言えるよ。…皆も、彼女が正式に団長となる日を密かに期待してるんじゃないかな』と、アルベドにナチュラルにディスられる程の自由人だ。
「……」
(そういえば、自分がファルカと初めて会った時もジンさんに叱られてたな。しかもあの時、初対面なのになんか馴れ馴れしく‘あんちゃん’呼ばわりして、おまけにいきなり『あんちゃん防壁!!』とかわけ分からないこと言って、自分の事をジンさんから守るための盾にしていたな)
瞬詠はふと思い出す。
そしてそれをしたファルカの行動は、ジンに取って火に油を注ぐ行為だったらしく、最終的にファルカは椅子に座るクレーの真横で床に正座させられて更にジンに詰められるように滅茶苦茶に怒られていた。
「…っ」
瞬詠はその日の事を思い出したのか、僅かに苦笑いする。
「瞬詠、瞬詠はファルカの知り合いなのか?…オマエ、ファルカと同じ西風騎士団か?」
「うん?ファルカと知り合いで、自分が西風騎士団の人間か?」
レザーは瞬詠に尋ね、瞬詠は少し悩む。
「いやファルカとは知り合いだが、西風騎士団の人間ではない……いや、この場合だとどうなるんだ?確かに西風騎士団の人間ではないが、ちょっとした関係者になるのか?…まぁ、そんなものだろうかな」
瞬詠はレザーに説明しながら、自分なりの考えを口に出し、瞬詠は自分の答えに納得するように何度か小さくうなずく。
「……瞬詠、オレ、瞬詠の事もっと知りたい。実は、オマエと赤いリボンの女が、ヒルチャール達をやっつけていたのを見ていた。オマエ、凄く気になる。瞬詠、もっと話を聞かせてくれないか?それにファルカや西風騎士団の騎士達についても、もっともっと知りたい」
レザーは瞬詠に興味津々の様子で瞬詠に尋ねる。
「おぉ!?レザー、自分とアンバーの戦いを見ていたのか!?…あぁ、ただな。実は自分はこれから明冠山地の近くに行こうかと思ったんだが」
「なら、大丈夫だ。実はオレも、丁度『ルピカ』を連れてその辺りに用がある。だから一緒に行く、瞬詠」
瞬詠の言葉を聞いたレザーはそう言い、瞬詠の手を引っ張って自分の方へと引き寄せる。そして、レザーは自分の後ろにいる狼達の方を振り返り、自分の後ろで控えるように立っている自分達の仲間達に言う。
「みんな、そろそろ行く」
「「「グルゥッ!!」」」
「「「ガルゥッ!!」」」
レザーの一言で、その場に伏していた狼達は一斉に立ち上がり、レザーと瞬詠の後ろや周りにつくように立ち並ぶ。そして瞬詠はレザーに引っ張られながら、レザーと共に狼の群れとなって歩き始める。
「なぁ、瞬詠。オマエ、明冠山地に行くって話だが、そこに行って何をするつもりなんだ?」
レザーは瞬詠の方を振り向いて質問をする。
「んー、そうだな。…まぁ、レザーになら教えてやっても良いか。実は、今自分は訳あって西風騎士団から逃げていてな。まずは自分の事を探し回っている西風騎士団の騎士達、特に自分と知り合いの騎士達には絶対に見つからないように、ここから一刻も早く離れようと思ってな。その為に、まずは奔狼領から明冠山地の方に行こうと思ったわけだ。それに、あの辺りの場所なら丁度いいしな」
(明冠山地ならシードル湖と隣接しているし、今の状況的に…な)
瞬詠はレザーに自分がここに来た理由を説明する。
「…なぁ、瞬詠。オマエ、なんで西風騎士団の奴等から逃げるんだ?なにか、悪いことしたのか?」
「いや、モンドや西風騎士団に対して悪いことはしてないさ。ただ、そうだな。大雑把に言えば、璃月でちょっと俺の上の立場にいる偉そうぶっている暴走女、刻晴って奴が追いかけてこれないように、嵌めてきついお灸を据えてやってから久々に仕事を休んだら、あの暴走女がブチギレてモンドで言う西風騎士団に相当する千岩軍を動かして、彼らに自分の事を捕まえる為に差し向けてきたってわけだ。そして、なぜかその千岩軍に西風騎士団が協力したって訳だ。結果的に、今の自分は刻晴が命じた千岩軍とそれに協力した西風騎士団に追いかけまわされているわけ。もう、酷すぎると思わないか?」
瞬詠はレザーに説明する。
「…もしかして、今日、ルピカ、清泉町の方や色んな所で見たことがない茶色い服に槍を持った人間達を大勢見かけたと言っていた、あれがそうなのか?」
「あぁ、そうだ。それらが千岩軍。刻晴の命令で、自分を捕まえる為に動いている人間達だ」
「っ!?」
瞬詠は同意するように頷くと、レザーは絶句した。
「…オマエ、色んな意味で凄い奴なんだな」
「…まぁな」
(それこそ、なんか璃月で『天権の懐刀』や『玉衡の日蔭』、『未来を観測する異能者』やら『予言の類を扱える異常者』とかなんとか言われて、もう色々とうんざりするほどだしな)
レザーは瞬詠の話を聞き、少しだけ呆れたような表情を浮かべる。
「全く、本当に刻晴の奴め。ふざけんなよ。あ~あ、こんな無駄な事をする位なら大きな仕事の一つや二つを終わらせれば良いだろうに。時間は有限じゃねえのかよ?…ふんっ、あの暴走女め」
「…」
瞬詠は刻晴への愚痴を言い、それを聞いていたレザーは少し考え込む。
「…瞬詠、ずっとそのまま刻晴から逃げ続けるのか?」
「……まぁ、そうなるな」
「…瞬詠、瞬詠は刻晴が嫌いなのか?」
「あぁ、嫌いだ。あの暴走女は」
「…それ、嘘だな」
レザーは瞬詠に自分の思ったことを言う。
「え?いや、そんなことはないぞ」
「だって、瞬詠、刻晴の悪口を言う時、顔が少し笑ってた」
「……」
「オレ、分かる。瞬詠、本当は少なくとも、刻晴の事、嫌いだとは思ってない」
「…はんっ、それはどうだが」
瞬詠はレザーの言葉を否定する。
「…瞬詠、本当は刻晴と仲直りしたいと、思っているんじゃないのか?」
「……はぁ」
「?」
瞬詠はレザーの指摘にため息をつく。
「……まぁ、確かにそうだな。このままじゃ、いけないとも思ってはいる。でも、だからと言って俺に何が出来る?それに大人しく捕まったとしても、あいつにボコボコにされて半殺しにされるだけだろうし」
「……瞬詠、瞬詠と刻晴は喧嘩しているようにみえる」
「……喧嘩?」
瞬詠はレザーの言った言葉の意味が分からず首を傾げる。
「…話を聞いていて思った。瞬詠と刻晴は意地を張り合っているように思える」
「……」
(意地、ねぇ)
瞬詠はレザーに指摘され、心の中で呟いた。
「……」
(……まぁ、そうかもしれんな)
瞬詠はレザーに言われた事を考えながら歩く。
「…前、ルピカで喧嘩が起きた」
「…狼同士でっでことか?」
「あぁ、そうだ」
レザーは前に狼と狼との間に起きた出来事を話す。
「その時、そいつが怒って、怒らせたそいつに嚙みついたり、引っかいたりしようとして、他の仲間達が止めたんだ」
「……ふーん、それで?」
「…その後も喧嘩が何度も起きそうになった。その度に、他の仲間たちが止めた。何度も何度も繰り返した。だが、決してそいつらは恨みあったり憎しみあったりしているわけではなかった。むしろ、お互いに信頼し、相棒として認め合っていた。」
「へぇ、そりゃ珍しいな」
(信頼、それに相棒ね……)
瞬詠はレザーの話を聞き、そう思う。
「……彼ら、瞬詠と刻晴、なんとなく似ている。オレ、そう思う」
「…似ているね」
瞬詠は複雑そうな表情を浮かべる。
「……信頼、相棒ね」
瞬詠はレザーにそう言われてふと、とある事を思い出す。
璃月港のとある日、七星迎仙儀式を迎えた日。
その日は、玉京台で半分麒麟、半分龍の姿の岩王帝君が天から舞い降りて、その年の璃月の経営方針についての神託を下す日。
そしてその日は玉京台で神託を聞くために瞬詠と刻晴がその場にいたのだが、何がどうしてそうなったのか、隣に立っていた刻晴が、いきなり岩王帝君に質問としてとんでもない事を口走ったのだ。
しかもそれがある意味で岩王帝君や今の璃月に対しての宣戦布告染みた内容だったせいで、その場は酷く騒然となってしまった。
しかもその際に何故か、岩王帝君に刻晴の放った言葉に対してどう思うと聞かれてしまい、瞬詠は何とか当たり障りの無い事を言ってごまかそうとしたら、その場で刻晴に釘を刺されてしまい、もう開き直ってその場にいた凝光や甘雨、煙緋や夜蘭等の上司や同僚や知り合い、また一時的に仕事で関わっていた飛雲商会顔見知り達等、そして璃月だけでなくテイワット大陸中の各国から集まった商人やその関係者達が注目している中で、岩王帝君に今まで思っていたことや考えていたことを思いっきりぶちまげてしまった。
その結果、何故か刻晴と瞬詠の発言を聞いた岩王帝君は意味ありげに笑い、最終的に岩王帝君に刻晴や瞬詠に自分達の名前を尋ねられ、『二人のその名は、我の中に深く刻まれた』と言われ、そのまま『刻晴と瞬詠よ。中々興味深かったぞ。次の七星迎仙儀式でも、また会おうではないか』と言い放って、そのまま岩王帝君が天に駆け上って行ったということがあった。
「…」
瞬詠はその出来事を思い出して、冷や汗を掻いた。
「…瞬詠」
レザーは瞬詠の様子を見て心配する。
「っ!?い、いや大丈夫だ!うん!」
瞬詠はレザーに声を掛けられてハッとする。
「…はぁ」
瞬詠はため息を吐きながらレザーと一緒に歩く。
「……」
レザーは瞬詠の様子を黙って見つめていた。
「…信頼と相棒ね」
瞬詠はレザーに言われた言葉を呟く。
「……自分とあの暴走女の刻晴が、お互いに信頼して相棒として認め合っているね。あぁ、なんか馬鹿馬鹿しいな。そんなんだったら、こんな事をするわけがないだろうが」
瞬詠は自分の手を見下ろしながらそう言う。
「…瞬詠、それ、信頼の形だと、オレ、思う」
レザーはそう言いながら瞬詠の手を握る。
「っ、レザー」
瞬詠はレザーの言葉を聞いて驚く。
「……瞬詠?」
「あぁ、悪い。なんでもない。こんな形の信頼とか最悪すぎるなと思ってな」
「…ある意味、ルピカの喧嘩、互いに本音をぶつけあった、コミュニケーションの一つ。瞬詠と刻晴の喧嘩、これもコミュニケーション」
「……どういうことだ?」
瞬詠はレザーの言っている事が分からず首を傾げる。
「……ルピカの喧嘩、これは互いの本音を喧嘩を通してぶつけることで信頼しあう。瞬詠と刻晴との喧嘩、お互いの気持ちを伝え合う事で絆を深める、似てる」
「……」
「…喧嘩、瞬詠と刻晴、本音をぶつけ合う為に行われた。…いや、お互いの本当の想いを互いに隠しあっていたそれを、瞬詠が刻晴を嵌めた事がきっかけで、それを曝け出しあい始めた」
「……」
瞬詠は黙り込み、困惑する。レザーの言った言葉、それが何故かなんとなく分かるようで分からない、いや理解したいが理解したくない。自分の中でそのような正反対な感情や思いが同時に湧いてきた感じがしたからだ。
「……瞬詠、刻晴にそれをしたのは考えてからやったのか?それとも、勝手に身体が動いたのか?」
「…身体が勝手に動いたってわけはない。…だがあの時は、珍しくよく考えずに行動していた…かもしれない」
瞬詠は素直に答えた。
「…」
(…レザーの言っている事、それは、つい無意識にやってしまったかってことなのか…?)
瞬詠はそう考える。
「…」
(今まで、自分と刻晴は一線を越える事を避けてきた。仕事の時やそうじゃない時に互いにイラついて、お互いにボロクソに言い合っても、どこか行き過ぎないように引き際を調整していた。何故ならそれは、もしも自分と刻晴が本当に本気で喧嘩になってしまえば、立場の問題も相まって周囲に多大な影響が及んでしまうからだ。だから刻晴と自分の関係は、表向きは上司と部下の関係で、二人の関係は仕事で遠慮なく言い合える、という関係が望ましいと思っていたからな……だが本音、それに自分自身の無意識…)
瞬詠はふとそんなことを考えてしまう。
「…あぁ、なんだかな。だが…」
瞬詠はげんなりとする。だが、彼の眼には強い意志が宿っていた。
「…瞬詠?」
レザーは瞬詠の顔を見て不思議そうな顔をする。
「……なんでもない。ただ、自分にも色々と思うところがあったんだ…そして、これから自分が何をしたいのかが、何となく分かった」
(まぁ、どのみちこのふざけた状況を終わらせるために、自分はモンドから璃月に、少なくとも璃月港まで行かないといけないしな。もしかしたら、最終的にはこの騒ぎを終わらせる事が出来る場所、あの場所に刻晴が待ち構えているかもしれない)
瞬詠は目を細める。
「…やっぱり、刻晴。今のお前が心底、気に入らない。…いや、そりが合わないと言えば良いのか?…まぁ、そんなことはどうでもいい」
(…良いだろう、大人しく捕まってお前の前に引きずり出されれるくらいなら、こっちからお前のいる璃月港に直接乗り込んでやるよ。おまけに、こんな変な気分にさせてくれた八つ当たりも兼ねてな)
瞬詠はそう決意して、顔を上げた。
「…瞬詠、顔が晴れた。どうした?」
「…いや、別に何でもない。…ただ、レザー、ありがとうな。レザーのおかげで自分の中にあったモヤモヤが取れた」
「……うん?」
「ふんっ、気にしなくていいぞ」
「分かった」
瞬詠はそう言ってレザーと共に歩く。
「…あ、そういえば、レザー。ちょっと良いか?」
「ん?何だ?」
「いや、そういえばレザーやルピカ達も明冠山地に行くって話だが、なんでレザー達もそんなところに行くんだ?」
瞬詠はレザーに尋ねる。
「……それは、明冠山地に行ったルピカ達、いつまで経っても戻って来ないんだ。だから、そこに行ったルピカ達を探すために、行く事になった」
「へぇー、そういう事か」
レザーは少し心配そうに言う。
「でも、ルピカ達が帰って来ないって、なんかあったのか?」
「分からない。ただ、こうなってくると、ルピカ達、身に何かが起こったのかも」
「…なるほどな」
(…正直、自分は狼の群れの事などは良くわからないが、だがレザーに取って狼は『家族』だし、その家族の誰かが行方不明になったとしたならば、誰だって心配するしな)
「…まぁ、そうだな。それならば、少しでも早く明冠山地に行かないとな…見つかると良いな、ルピカ」
「…瞬詠、ありがとう」
レザーは瞬詠の言葉にお礼を言う。
「いや、気にしないでくれ」
「…あぁ」
レザーが瞬詠に頷いた。
その時であった。
「…っ!?」
「…ぐっ!?」
「「グルゥッ!?」」
「「ガルゥッ!?」」
瞬詠とレザー、それにレザーのルピカである狼達は目を見開く。
「…な、なんだ?」
(…この匂い)
瞬詠は突然の事に驚き、瞬詠は鼻をひくつかせる。
「…」
(……間違いない。この少しずつ強くなっていくこの匂い、まるで腐った鉄のような匂いは)
「…血の匂い」
レザーが静かに呟いて、血の匂いがする方に視線を向ける。
「…」
「「「グルルゥッ!!」」」
「「「ガルルゥッ!!」」」
そして瞬詠と狼達も警戒するように、レザーと同じく血の匂いがする方向を見る。
「……」
(なんなんだ、一体……)
瞬詠は緊張した表情で、ゆっくりと服の中にある鉄扇に手をかける。
「……」
そしてその時にレザーと瞬詠、狼達の視線の先で草むらが揺れる。
「……」
「……」
瞬詠とレザーは目を細める。
「「「グルルゥッ!!」」」
「「「ガルルゥッ!!」」」
そして、狼達も警戒するように吠える。
瞬詠は息を殺しながら、じっと気配を殺して様子を伺う。
「…」
(……出てこいよ)
瞬詠はそう思いながらも、油断せずに構えて待つ。
「…」
(……来る)
そして、目の前の茂みから、それが出てきた。
「グルゥ……」
「…は?」
瞬詠は思わず呆けた声を出す。草むらから出てきたのは、一頭の狼であった。だがその狼はレザーの連れていたルピカ達とは違い、傷だらけでボロボロで、所々出血してしまっており、今にも倒れてしまいそうな状態であった。
「おい!?お前大丈夫か!?」
「っ!?」
「「「グルァッ!?」」」
「「「ガルゥッ!?」」」
瞬詠とレザーは慌てて、その傷ついた狼に駆け寄る。またその後ろを狼達が駆け寄る。
「おい!!大丈夫か!?」
瞬詠は傷ついて倒れたその狼に声をかける。
「……グルルル」
「……お前、酷い怪我だぞ?すぐに手当しないと」
瞬詠がそう言うと、その狼は首を横に振る。
「グルゥ、グルァ、グルルゥッ!!」
「えっ?何言っているんだ?」
その狼は瞬詠に何かを必死に伝えるように鳴く。だが、瞬詠には何を言おうとしているのか分からない。
「グルルゥッ!グガァッ!」
だが、狼は諦めずに何度も鳴き続ける。
「…一体何を?」
「…っ!!」
瞬詠は狼の言いたいことが分からずじまいであったが、レザーは違ったようで、レザーはその傷ついた狼に近づき、その狼の口元に耳を近づけると、何やら聞き出す。
「……そうか。分かった。……っ!!瞬詠!!明冠山地でルピカが襲われた!!」
「なに!?」
瞬詠はレザーの言葉に驚く。
「こいつ、助けを呼ぶために、一人でここまで来た…!!今もまだ仲間が動けない仲間を助けるために戦っている!!」
「おいおい、嘘だろ!?」
瞬詠は驚きの声を上げる。
「っ」
(明冠山地に行った他の狼達が戻ってこなかったのはそういう事なのかよ……)
瞬詠は明冠山地の方角を見て、険しい表情をする。
「レザー!!襲われたってのはヒルチャールどもか!?」
「あぁ!!ただ!!それだけじゃない!!ヒルチャールの他に!!もっと人に近くて!!人の言葉を話せて!!宙に浮いて!!それぞれ氷や水、炎を放ってくる奴らもいた!!」
「なっ!?」
(おいおい、それってもしかして!?)
瞬詠はレザーの言葉を聞いて、ある者達が浮かび上がる。
「…っ」
(いや、待てよ。もしかして、少し前のアンバーと相手していた妙に連携や指揮が取れていたヒルチャール達、もしかして'そいつら'と関係が……)
瞬詠はそう思いながらも、明冠山地の方に視線を向ける。
「……っ!!面倒みろ!!頼む!!」
「グルァッ!」
レザーは狼達の一頭に傷だらけの狼を任せて、険しい表情で明冠山地に視線を向けた。
「…レザー」
「…」
瞬詠はレザーに視線を向ける。レザーは決意を込めた瞳で明冠山地を見つめていた。
「……行く、今度こそ。ルピカ達を守る…!!ぅぅぁぁ!!」
「っ!?レザー!?」
レザーは瞬詠に視線を向けることなく、そのまま明冠山地の方に走り出した。
「っ!!」
「「「グルァッ!!」」」
「「「ガルゥッ!!」」」
レザーの後を追うように、瞬詠と狼達もレザーと同じように明冠山地の方に駆け出した。
尚、今後の投稿についてですが
リアルに忙しくなってしまっているので、
取り合えず、月に一度程度の更新は出来るように頑張りますので、よろしくお願いします。
また、次回に関しては今月末に出せそうであれば、多少短くなるかもしれませんが出してみます。
よろしくお願いします。
追記1
・レザーの大剣の描写を修正しました。
追記2
文字間隔の調整を行いました。
以下の人物から一人を選んでください
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行秋
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煙緋
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鍾離
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雲菫
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タルタリヤ