玉衡の元から逃亡したら千岩軍が追いかけて来ていた件について   作:久遠とわ

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完成したので投稿。
今月中に間に合うことが出来てよかった…

今回は少し短いです。

本来ならレザーと瞬詠、またルピカ達の戦闘シーンも含めたかったのですが、分量がかなりのものになってしまう事、また丁度区切りも良かったので導入までという事でここまでを投稿します。

尚、後書きにて少し解説を入れていますので、よろしくお願いします。

また、‘主人公強め’というタグを追加しました。
実際に今までの出来上がった戦闘シーン等を見返してみると、アンバーと協力して普通にヒルチャール暴徒を含むヒルチャール達の集団を倒し、エウルアとの戦闘では純粋な剣術はエウルアに分があるみたいであるものの、搦め手を用いて対等な戦いに持ち込んじゃってるし(おまけに、もしもアンバーとクレーとアルベドがあの場に合流せず、投擲瓶による誘爆を起こして彼女の隙を突けば、エウルアを無力化することもありえたみたいだし)…

それと、ちょっとしたアンケートもあります。
興味のある方は回答をよろしくお願いします。

※敢えて質問文に何に使うか等の詳しい事は記載しません。
尚、締め切りは二週間後の7月11日にしようかと思います。
また、次回投稿時にこのアンケートがなんなのかを明かしたいと思います。

緊急追記
申し訳ありません。
先ほど確認したら、'空'と'蛍'の分のアンケートしかありませんでした。
本当は2問あって、そのように設定したのですが、同時に置くことは出来ないのか、2人の分しかありませんでした。
そのため、2問目を第5話の方に緊急的に置きましたので確認お願いします。
よろしくお願いします。


狼少年はアビス達に突撃し、仕事人はルピカ達と『約束』を交わした件について

「うぁぁっ!!」

 

「くそっ!!レザー!!待て!!止まれ!!」

 

「「「グルゥッ!!」」」

 

「「「ガルゥッ!!」」」

 

奔狼領の林の中から抜け出たとある標高の高い地、瞬詠がいた晴天が広がっていた蒼風の高地とは違い、曇り空が広がる薄暗い高原、『明冠山地』にてレザーが雄叫びを上げながら、駆け抜けていき、その後ろを瞬詠とレザーの『ルピカ』達が追いかける。

 

 

明冠山地。そこはシードル湖を中心に位置するモンド城を起点とすると北西に位置する場所。

 

そしてその場所を更に北西に突き進んでいくと一つの高塔、『デカラビアンの塔』と呼ばれるその高塔を中心に、周囲には遥か昔に人が住んでいたのであろう、そこに住んでいた様々な建物郡の跡地に辿り着く。

 

この地は遥か昔、約2600年前の世界にて七神の統治下に置かれていなかった時代、まだ魔神戦争が大陸各地で勃発していた時代において「モンド」と呼ばれた都市がそこにあった。だが遥か昔にモンドと呼ばれたその都市、また魔神戦争によって現在のモンド領全域が雪と氷に覆われてしまう前までの、その都市の東方と南方にある明冠山地と蒼風の高地の広い地域を治めていた「竜巻の魔神」、「高塔の孤王」と呼ばれた『烈風の魔神デカラビアン』と、彼の首都であるその塔のある地に住んでいた民達、そして後にグンヒルド、ローレンス、エーモンロカの名を持つ者達、やがてその名を持つ者達が民達に『貴族』と呼ばれ、民達を主導する事になった彼らとデカラビアンの民達を中心とした反乱。

 

そうしてそれによって引き起こされた、魔神の彼と自由を求める人間達との間に起こった死闘によって、破壊され尽くした街には草木や苔などが生えており、まるで遺跡のような雰囲気を感じさせる場所であるのだ。

 

 

そしてその地に向かうようにレザーは全速力で一直線に駆け抜けていく。

 

「レザー!!ちっ!!」

 

レザーを追いかける瞬詠はレザーを追い掛けながらも周囲を警戒する。

 

レザーからすればこの辺りの地形はよく知っている。だが、それはあくまでもここが『明冠山地のどこか』であるということだけであって、どこに何があるのかは把握していない。だが、彼にはなんとなく分かるのだ。『ルピカ』達の匂いが。

 

「っ!!ぐっ!!っ!!」

 

レザーの赤い瞳が血走る。彼は今にも爆発しそうな感情を抑え込みながら必死に堪えつつ、何としてでも助け出すために駆け抜ける。

 

「っ!!」

 

そしてその時だった。レザーの鼻腔をくすぐる何かを感じ取る。

 

それは彼にとってはとても馴染みのある匂いであった。

 

「…ルピカ…っ!!」

 

レザーは走る。その匂いの主、レザーに取っては仲間でもあり家族でもある狼達を救い出そうとして。

 

「っ!!レザー!!待て!!」

 

「「「グルゥッ!!」」」

 

「「「ガルゥッ!!」」」

 

そしてそんな彼を瞬詠達は追い掛ける。

 

そうして、レザーと瞬詠は遂に目的地へと辿り着く。

 

「グルァッ!?」

 

「ギャァウンッ!?」

 

「ヤーヴ!!」

 

「ヤー!!」

 

「ヒャーハハハ」

 

「ランランフ~」

 

「フゥ~」

 

「っ!!」

 

レザーが辿り着いた先では、狼達と数多くのヒルチャール達が戦っていた。

 

そしてその中には、それぞれ宙に浮いている杖を持った赤色と青色と白色、ウサギみたいな耳をしてモフモフそうな格好をしている、なにかの可愛らしいマスコットのような 姿が三体がいて、彼等はどうやら戦闘中ではあるもののふざけて遊んでいるようであり、余裕がありそうな雰囲気を感じる。

 

そしてその光景を見た瞬間に、レザーの中でプツン、という音が鳴った気がした。

 

「っ!!……お、おまえ__」

 

「レザー!!」

 

「__っ!!瞬詠!?」

 

レザーが叫びながら、ヒルチャールやその者達に突撃しようとした時、後ろから瞬詠の声が聞こえ、次の瞬間にはレザーの腕が瞬詠に捕まり、そのまま近くの草むらの中に引きずり込まれる。

 

「馬鹿野郎!!お前考えなしにあの場に突っ込もうとしただろ!?冗談抜きでそんなことしたら死ぬぞ!!お前は死にたいのか!?」

 

「「「グルルッ!!」」」

 

「「「ガルルッ!!」」」

 

瞬詠は草むらの中でレザーに向かって叫び、レザーの狼達も吠える。彼らのその声には怒りが含まれているようで、レザーもそれに気づき冷静さを取り戻す。

 

「……ごめん……」

 

レザーは小さく謝りながら頭を下げる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、全く。……気にすんな、レザー。……だが、それよりも」

 

瞬詠は息を整えると、真剣な表情を浮かべながら草むらの中から、ヒルチャール達、その中でも宙に浮いている三体を見て、呟く。

 

「……くそっ、嫌な予感が当たっちゃったよ」

(まさか本当にアビスの魔術師達がいるなんてな…)

 

瞬詠は悪態を吐きながら彼らを見る。

 

アビスの魔術師。それは人類と敵対するヒルチャールを始めとする魔物達の勢力である「アビス教団」の一員である魔術師だ。アビス教団は多くの謎に包まれた組織で、殆どの事がよく分かってないものの、だか確実に言えることは今のテイワット大陸に住む人間達に大して強い憎しみや悪意を抱き、今の七神の支配する世界の打倒を目指している組織である。

 

「……」

 

瞬詠は顔をしかめる。まさかこんな所で本当に遭遇するとは思わなかったからだ。殆どの武器を失っている中で、彼らを相手するのは正直言ってかなり厳しかった。

 

「……瞬詠」

 

レザーは瞬詠に声をかける。

 

「どうした?」

 

「瞬詠、ヒルチャールに投げつけていたあの瓶、あれ今どれくらい持ってる?」

 

「あぁ、あれか……」

 

瞬詠はレザーの質問に苦虫を噛み潰したような顔をしながら答える。

 

「……実はもう無いんだよな。元々結構使ってたのもあるが、蒼風の高地での爆発で自分が吹っ飛ばされたせいで、その時に全部落としちまったんだ」

 

瞬詠は申し訳なさそうに答えた。

 

「…そう…」

 

レザーはその返答を聞き少しだけ残念そうにする。しかしすぐに瞬詠の方を向いて言う。

 

「……なら、オレ、一人で戦う」

 

「っ!おい、レザー!」

 

「「「ギャウッ!?」」」

 

「「「ガルゥッ!?」」

 

瞬詠と狼達はレザーのその言葉に驚く。彼は今までにない程に真剣な眼差しをしており、とても冗談を言っているようには見えない。

 

「瞬詠、頼む。ここにいるルピカを。オレ、行ってくる。仲間達を助ける」

 

「はぁ!?いや、ちょっと待てって!!お前死ぬ気か!?」

 

「ギャウゥッ!!」

 

「ガルゥッ!!」

 

瞬詠と狼達はレザーの言葉に驚き、慌てて止めようとする。しかしそんな彼等に対してレザーは真剣な表情のまま、口を開く。

 

「大丈夫、死なない。絶対に生きて帰る。だから安心して欲しい」

 

「っ!!」

 

レザーの瞳には決意が込められており、その表情を見た瞬詠は思わず息を飲む。そして同時に理解した。レザーが本気であることを。

 

「……お前、本気で行くつもりなのか?あの数だぞ?冗談抜きで死ぬかもしれないぞ?」

 

「あぁ、本気だ。…オレ、もうあんな思いをしたくない」

 

「…あんな、思い?」

 

「…」

 

「…っ」

 

瞬詠が聞き返すが、レザーは何も言わずにただ黙り瞬詠を睨みつけるように見る。それを見た瞬詠は彼の考えている事や彼の気持ちを理解し、レザーのその覚悟を汲み取る。だが、それでも瞬詠はレザーがあの中に突っ込もうとしている事に対して納得できなかった。

 

「…瞬詠、聞いてくれ」

 

「…なんだ、レザー」

レザーは瞬詠の目を見据え、瞬詠も真剣な表情で彼を見る。

 

「オレ、前に。あいつらに襲われた」

 

「…あいつらって、アビスの魔術師どもか?」

 

「そうだ」

 

「…」

 

レザーは頷き、視線を下に落とす。その姿はまるで思い出したくない思い出を、無理やり思い出しそれを心の中で整理しようとしているように見えた。

 

「…その時、みんな死んだ」

 

「っ」

 

瞬詠はレザーのその一言を聞いて、彼が何を言おうとしているのか察する。

 

「殺されたのか……」

 

「うん。…全員、アビスの魔術師に。オレの背後からアビス達が襲い掛かって来て殺されそうになった」

 

「…」

 

「その時…ルピカ、仲間、あいつら、オレを救おうと、あいつらは恐れずにアビスに攻撃をしたが…あいつら、例外なく全員殺された。…アビスにルピカ達を惨殺させられた」

 

「…っ」

 

レザーは声を震わせながら話す。その光景を思い出したのか、レザーの身体は小刻みに震えていた。瞬詠はそんなレザーを見て胸糞悪い気分になる。

 

「オレ、あの時、ただあいつらの惨死を見ることしかできなかった。…何もできなかった。どうすることもできなかった…だけど、今は違う」

 

レザーはそう言いながら自身の‘雷の神の目’を取り出して握り締める。

 

「オレ、今度は助ける。助けられる。今のオレ、あの時とは違う」

 

「…馬鹿が。神の目の力を持った者だとしても、あの数をたったの一人で対応するには限界というものがある。…まぁ、自分は一人で対応できる例外を何人かは知っているが、少なくとも自分から見てレザーはそこまで強い方ではない。…おまけにこの話や今までの話を聞いてて、ちょっと気になったんだが…レザー、お前のその神の目ってちゃんと使いこなせてるんだよな?…まさか神の目を手に入れた事やファルカから鉄の爪を貰ったのって最近とかじゃないだろうな?」

 

「…っ!?」

 

レザーは瞬詠の指摘が図星だったようで顔をしかめる。

 

「…取り敢えず、一旦待て。それに、この際にはっきり言ってやるよ。レザーだけであの場に突っ込んでも、無謀だ」

 

「っ!?…そんなことわかっている!!」

「…はぁ」

 

レザーは怒鳴る。その反応を見た瞬詠はやれやれと言った様子で肩をすくめる。

 

「なら、なぜ行く?お前一人で行って何ができる?」

 

「…わからない。でも、行かなきゃいけない。それに…」

 

「それに…?」

 

瞬詠はレザーの言葉を聞き首を傾げる。

 

「…っ!!少なくとも元素の力を扱えないオマエと比べたらオレの方がまだマシだ!今の戦えないオマエよりも!!オレなら、オレ一人ならなんとかできる!!だから!!ルピカを見てろ!!オマエはここにいろ!!っ!!」

 

「はぁっ!?ぁっ!!おいっ!?レザー!!」

 

レザーはそう言うと瞬詠を置いてその場から走り出した。

 

瞬詠はレザーを呼び止めるために手を伸ばす。しかし、その手がレザーを掴むことはなく空を切った。

 

「ぁぁっ!!ルピカに手を出すなぁっ!!」

 

「ヤァゥ!?ヤァッ!?」

 

「ヤァ!?ギャァゥ!?」

 

「ヤゥ!?ヤァッ!?」

 

レザーは狼達を嬲り殺しにせんとばかりに飛びかかってくるヒルチャール達に対して、大剣を横に薙ぎ払う。そしてその斬撃の奇襲を受けたヒルチャール達はそのまま吹き飛ばされた。

 

「グギャッ!!」

 

「ヤゥッ!」

 

「ヤァアッ!」

 

「っ!!」

 

レザーの奇襲を喰らい、ヒルチャール達は僅かに怯むが、すぐに態勢を立て直す。そしてレザーに向かって棍棒を振り下ろしてきた。レザーはその攻撃に対し大剣で防御するが、ヒルチャールは構わずに四方八方から何度も攻撃を仕掛けてくる。

 

「ぐぅうっ!?ぐっ!!っぅ!!」

 

レザーは危なげながらも、何とかして攻撃を受け流す。

 

だが、いくら受け流してもヒルチャールの攻撃が止むことはない。それどころか、どんどん激しさを増していく。

 

「ヤァアウッ!!」

 

「ガオー!!」

 

「ヤァウ!?」

 

レザーはヒルチャールが振り下ろす棍棒を寸前で躱し、カウンターの要領で雷元素の力で雷を纏わせた鉄の爪による一撃を放つ。それはヒルチャールを斬り裂き吹き飛ばして致命傷を与えた。

 

「……はぁっ……ふーっ……」

 

レザーは自分の身体を見渡し、無傷であることを確認する。

 

「……はぁっ……はぁっ……」

(よかった……。オレ、まだ戦える)

 

「ヤァゥ!?」

 

「ヤァッ!!」

 

ヒルチャールは仲間を切り裂き吹き飛ばしたレザーを見て狼狽える。

 

「グルルゥッ!!」

 

「ガルルゥッ!!」

 

「グゥッ」

 

「ゥゥッ」

その間に動ける狼はその場から離れるべく走り出し、動けない狼は動ける達によって大きな狼の背中に乗せられる。そして、一斉にその場から離脱しようと動き出す。

 

「ヤァゥッ!!」

 

「ヤァッ!!」

 

「行かせるか!!」

 

ヒルチャール達は逃げようとする狼達を逃さんと追いかけようとしたが、レザーはすかさずそれを阻止しようと動く。

 

「……っ!!」

 

レザーは雷元素の力を使い、獣のごとくヒルチャール達に襲い掛かる。

 

「っ!!どけぇっ!!がぁっ!!ぐるるぅっ!!」

 

「イギャァ!?」

 

「ギャァッ!?」

 

レザーの鉄の爪がヒルチャール達の顔面や腹部を貫いて吹き飛ばす。

 

 

「……」

(…不味い、最悪すぎる)

 

そして瞬詠はその様子を草むらの中で潜みながら目を細める。

 

 

瞬詠は既に見抜いていた。レザーの動きが鈍くなり始めていた事を。

 

おまけにレザーの鉄の爪で斬り裂こうとした時に雷を纏ったり纏わなかったりしている。

 

瞬詠は一瞬この状況でレザーは何か考えがあってわざと使い分けているのかと考えたが、だが彼にはレザーの様子からしてそういう風には見えずに考えを改めた。そうなるとレザーの雷元素が安定していないという事、言い換えれば瞬詠の懸念通りにレザーがまだまだ未熟だったため、自身の雷元素の力を上手く使いこなす事が出来ていなかったという事になる。

 

「っぅ!!来るな!!」

 

「ヤァッ!!」

 

「ヤゥッ!!」

 

それにレザーがヒルチャール達に奇襲を仕掛けて混乱させたのはいいが、やはり数が多すぎたのだ。

 

おまけにヒルチャールの集団の動きを観察していて分かった事がある。

 

 

このヒルチャールの集団はこの場にアビスの魔術師がいるせいなのかは分からないが、少なくともある程度であるが組織的に動いている集団であるという事だ。

 

その証拠にヒルチャール達は一方からレザーに攻撃を仕掛けたら、すぐにもう一方がレザーを挟み撃ちにするような形で襲いかかってきている。

 

しかも、無秩序に襲い掛かるというよりかはある程度の隊列、編隊を崩すことなくレザーに攻撃を仕掛けてきている。

 

 

つまりは挟撃、終わることのない波状攻撃。

 

「ヤァゥ!!ヤァッ!!」

 

「……ぐぁっ!?」

 

レザーは後ろから来たヒルチャールの攻撃を喰らって倒れ込む。

 

「ヤゥッ!!」

 

「ヤァッ!!」

 

「……っ!!ぐぅっ……」

 

レザーは苦し気ながらもなんとか立ち上がる。そんなレザーを見てヒルチャール達は笑う。

 

「グヌヌヌ、これじゃあ狼狩りが出来なくなってしまったじゃないか」

 

「なんなんだ?あの人間?急に現れて、狩りが台無しだ」

 

「邪魔だな、しかも雷の神の目を持つ人間。神に認められし者…」

 

「っ!?…オマエら、今、なんていった?」

 

レザーは突如聞こえて来た声に反応し、視線を向ける。するとそこには赤色と青色と白色のアビスの魔術師、それぞれアビス教団のアビスの炎の魔術師、水の魔術師、氷の魔術師がそれぞれいた。

 

「うん?ただ狼狩りが出来ないって言っただけだぞ?お前のせいでな。…さて、どうしてくれようか?」

 

「それよりもなんで人間がこんな所一人でいるんだ?まさか迷子とかか?…まぁ、どうでもいい」

 

「ちょうどいいや。何頭か逃げられたんだ、逃げられた鬱憤をぶつけよう。…こいつにな」

 

「「「ギャハハハ!!」」」

 

「……オマエら」

 

レザーは目の前にいる三人に敵意剥き出しの表情をする。

 

「さぁさぁ、逃げろ!!」

 

「どこまで、耐えられるかな!?」

 

「楽しませてくれよ!!」

 

「……っ!!」

 

アビスの魔術師達は一斉に魔法で、レザーに火炎放射や水弾や氷の塊を放ち、レザーは何とかそれらを避け続ける。

 

「っ!!っぁ!?」

 

「っ!?」

 

「なにっ!?」

 

「なんだとっ!?」

 

レザーはその隙を狙って今度は雷を纏わせた鉄の爪を地面に突き刺し、近くで燃えていた草と雷元素のによる過負荷反応による爆発の爆風や衝撃波を利用して自分の身体を浮かせて空中へ飛ぶ。

 

「ぐぁぁっ!!」

 

そして空中に飛んだレザーは急降下しながらそのまま青色のアビスの魔術師、水の魔術師に対して雷が纏った鉄の爪を振り下ろさんと襲い掛かった。

 

「「「ふぁぅっ!!」」」

 

だがレザーの攻撃が命中する瞬間、水色のアビスの魔術師を含む三体のアビスの魔術師達は、それぞれ赤と青と白の光を放ってその場から消える。

 

「っ!?」

 

そうして目標を失ったレザーの雷の鉄の爪は空しく地面へと激突した。

 

「っ!?」

(くそ、どこに行った!?)

 

レザーはすぐに周りを見渡す。

 

「っ!?」

 

そしてレザーは目を見開いた。

 

「「「ギャハハハ!!」」」

 

アビスの魔術師達は、まるで着地したレザーに対して包囲するように先ほどの赤と青と白の光から、それぞれの元素を使用したバリアーを張りながらその場に現れた。

 

「……オマエら」

レザーは静かに呟く。まさかの瞬間移動にバリアーを張ってくるとは思わなかったのか、レザーはかなり驚いていた。

 

「「「キャーッハッハ!!」」」

 

「っ!?っぅ!?っぁ!!」

 

そして、アビスの魔術師達は魔法でレザーに攻撃を始める。アビスの魔術師達の猛攻の前にレザーは防戦一方であった。

 

 

「…チッ……ったく、アイツ、人の話を聞かないからだよ」

 

そしてその様を見ていた瞬詠は舌打ちをして悪態をつく。

 

「…はぁ」

(…こうなったら、仕方がない。このままじゃ、レザーは本当にアビス達にやられる…やるか)

 

瞬詠はそう思って、その草むらが出ようとする。

 

「「「グルゥッ!!」」」

 

「「「ガルゥッ!!」」」

 

その時にレザーの狼達が吠える。それはまるで、レザーとアビスの魔術師達の元に行かせないと言わんばかりである。

 

「ちぃっ……」

 

それを見た瞬詠は思わず苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

「お前ら……いい加減にしろ、俺の邪魔をすんじゃねぇ」

 

「「「「「「ッ!?」」」」」」

 

すると今まで黙っていた瞬詠は、突然豹変し、ドスの利いた声を出して、狼達に睨みつける。瞬詠に睨みつけたられた狼達は、本能的に今の瞬詠が先ほどまでの瞬詠とは全く違い、今の瞬詠を纏う雰囲気は異質なものと感じ取り、狼達は一瞬にして恐怖を感じて後ずさりしてしまう。

 

「お前ら、俺の邪魔をしてどうするつもりだ?お前らだってレザーを助け出したいんじゃないのか?」

 

「「「「グゥ……」」」」」」

 

「なら、そこを退け。時間がないんだ、俺の邪魔をするんじゃねえ。…はっきり言ってやる。このままならレザーはアビスの魔術師達に嬲り殺しにされるだろうな。お前らのせいで」

 

「「ッ!?」」

 

瞬詠の言葉を聞いた狼達は、驚き戸惑う。そしてしばらくすると、狼達は互いに顔を合わせる。それはまるで瞬詠の言ったことに関して話し合っている様子だった。

 

「…」

 

瞬詠は腕を組みながら、狼達の様子を伺う。その視線は鋭いままで。

 

「ガウッ!」

 

やがて一頭の狼が鳴き、他の狼達は驚いたような表情をする。

 

「ガウ!ガウ!!」

 

「ウゥ〜!!ガウ!!」

 

「「「「「ワォーン!!」」」」」

 

どうやら話し合いが終わったらしく、最初に鳴いた狼以外の狼達は、まるで瞬詠にレザーの事を任せると言わんばかりに遠吠えを上げる。

 

「ほぉ、お前らは、レザーを俺に任せると言う事か」

 

「「「「「ガゥッ!!」」」」」

 

「そうかそうか、そしてお前は…お前さんは、まだ納得してないという事だな?」

 

「グルルゥッ!!ガァルゥゥッ!!」

 

瞬詠は自分の前に立ち塞がる一頭の狼を睨みつけるように見つめる。そして瞬詠の前に立ちふさがる狼はレザーの元には行かせないと言うかのように、瞬詠に対して威嚇をしていた。

 

「ふんっ、そうか。まぁ元素の力を扱えない普通の人間や一般人ならあんな所に行った所で何にもならないな……だが、俺は普通や一般の類には属さない人間だ。あの暴走女のような元素の力は扱えないがな」

 

「グゥッ!?」

 

瞬詠がそう言いきるとその狼は何かを感じとり、身体が震え始める。それはまるで目の前にいる男に対して恐怖しているかのような感じであった。彼から滲み出る異様な気配に怯えているようでもあった。

 

「…安心しろ」

 

瞬詠はそう言いながら、その狼の目の前でしゃがみ込む。

 

「レザーは必ずアビス達から助け出してやる。それについでだ。レザーがまた無茶しても何とかなるように、この場を利用して最低限の基本的な元素の扱い方や戦い方に関してもきっちり教え込んでやる」

 

「ガゥッ!?」

 

狼は驚いたかのように瞬詠を見る。

 

「…どうだ、納得してくれるか?」

 

「…グルゥ」

 

瞬詠の言葉に狼は渋々と言った感じで、首を縦に振る。

 

「…よし、納得してくれたようだな。なら、『契約』は成立…いや、契約じゃないな。この場合は『約束』だな」

 

「ガルゥ?」

 

「いや、何でもないさ。こっちの話だ。レザーのルピカとの『約束』は必ず果たしてやる。必ず…な。それに後でお前達、ルピカ達の場も用意してやる」

 

「グルゥ」

 

瞬詠は軽く狼の頭を撫でながら、狼に微笑む。

 

「グルルルゥ……」

 

狼は瞬詠の優しい笑顔を見て、どこか懐かしく感じるような感覚を覚えていた。そして狼はゆっくりと瞬詠から離れるとその場から離れていく。

 

 

「…はぁ、あ~あ、なんだか今日は、いつかにあった、せっかく刻晴の奴から勝ち取った特別休暇で、璃月港で有意義に楽しく過ごそうと思ったら、上司の七星達から緊急招集で呼び出され、それによって特別休暇が中止になって、そしてそのまま刻晴と共に全速力で現場に急行…、みたいな感じになっちまたなぁ…」

 

瞬詠は狼達が離れていったのを見届けた後、溜息をつき、遠い目になりながら、ヒルチャール達とアビスの魔術師達、そしてレザーの元に歩き出す。

 

「…」

 

瞬詠は歩きながら視線を動かす。この場にいるヒルチャール達とアビスの魔術師達の集団の構成は、まずレザーを包囲するように棍棒を持ったヒルチャールがあちらこちらに多数、また木の盾を持ったヒルチャールがそれぞれ点在している。

 

「…」

 

そして視線をレザーの包囲網から少し外して少しだけ離れた場所の四方に、ヒルチャール達の別動隊なのかは分からないが、それぞれ赤いヒルチャールが1体ずつとボウガンを持ったヒルチャール、正確にはボウガンを持った通常のヒルチャールが2体と赤色のヒルチャールが2体と白色と水色のヒルチャールが2体と紫色のヒルチャールが2体がその場におり、そして彼らの護衛役なのか、彼らの周囲に5体か6体程度の棍棒や木の盾を持ったヒルチャールが立っていた。

 

「…ふぅん」

(もしも草と風と岩の元素を操れるヒルチャールシャーマンがそれぞれいたら、元素反応のフルコースになっていたな…)

 

瞬詠は呑気にそんな事を考える。そして、残りに視線を向ける。

 

「ハハハ!!どうだ!!」

 

「逃げろ!!逃げろ!!人間め!!」

 

「どうした!?動きが悪くなってきたぞ!!」

 

「ぐっ!?くっ!!っぅ!?」

 

瞬詠の視線の先には、それぞれの炎と水と氷を操るアビスの魔術師達がレザーに攻撃を仕掛けている光景が映っていた。そして、その攻撃を苦しげな表情を浮かべながら、何とかして躱して防いでいくレザーの姿も。

 

「意外と良い動きをしてるな…体力温存のために、最低限の動きで攻撃をいなして防ぐ……悪くはない。だが、完全に連携の取れているアビスの魔術師達の前では、彼らの攻撃が激しすぎてあれでは反撃する暇がない。このままだとジリ貧だな」

 

瞬詠はそう言いつつも、特に焦った様子もなく、レザーの戦いぶりを冷静に観察していた。

 

 

 

「…よし、こんなもんか」

 

その瞬間、瞬詠は表情を引き締めた。

 

「…」

(大雑把に言えば棍棒持ちのヒルチャールが多数でおおよそ20体以上、盾持ちが15体から20体程、元素反応を引き起こすボウガン持ちをも含めると8体程、それに元素反応を引き起こすボウガン持ちを含めて、赤いヒルチャールが6体程、それに加えて今のヒルチャール達の指揮官の役割を担っていると思われるアビスの魔術師達が3体、ってところだな)

瞬詠は脳内で現在の状況を整理する。

 

「…はぁ、なんでこんなところにそんだけいるんだか。それにこのヒルチャールの集団がアビスの魔術師達によって統制されているから、更にもっと組織的な動きが可能である可能性があるし。おまけにアビスの魔術師達がここに居るという状況を考えると、最悪を想定して後から増援や別動隊が合流してくる可能性も考えなきゃいけないな。その状況下でレザーを助けつつ彼に教導してやらなきゃいけないし。挙句の果てに今の手持ちはほとんど武器もないから、最初は出来ることがだいぶ限られている」

(…いや、本当にこれは百万モラくらい貰わないと割に合わない仕事だな)

 

瞬詠は苦笑いを浮べる。

 

「はぁ、『真面目』にやろう」

 

瞬詠はそう呟くと服から鉄扇を取り出す。

 

「…さて、そろそろ『仕事の時間』と行くか。まずは…」

 

そうして瞬詠は最初の攻撃目標達に視線を向け、そちらの方に歩みを進め始めた。




『デカラビアンの塔』についてですが、当初はここに関しては『風龍廃墟』と描写しようとしました。
ですが、まずそこの土地が『風龍廃墟』と呼ばれるようになった経緯が、トワリンが過去のドゥリンとの戦いの傷を癒すために、その塔で眠っていたわけですが、目覚めた時にはトワリンをモンドの人々が忘れており、また目覚めた際にドゥリンの毒の血栓による痛みと、その痛みによるイラつきやモンドの人々に忘れられていた事に対しての失望や絶望に付け込まれたアビスによって操られつつあったことから、その結果として原作みたいなような彼になってしまい、結果的にモンドの人々は彼を恐れて「風魔龍」と呼び、それに伴って現在の『風龍廃墟』という地域の名前になったのが経緯でした。
そのため、本作品では時系列的に原作開始の半年前から7か月前辺りとしており、まだトワリンは『風龍廃墟』の塔の中で、未だに眠っている状況になっていますので、現時点ではここの土地は多くの人々に『明冠山地の一角』、一部の人達からは『デカラビアンの塔』と呼ばれていることになっています。

また、レザーとアビスの魔術師達についてですが、レザーは以前にアビスの魔術師に襲われて最終的に倒しておりますが、レザーが倒した際にはそのアビスの魔術師は完全に油断している事、そしてレザーのその攻撃が不意打ちであったことから、その魔術師はバリアーや瞬間移動をしていません。そのため、レザーに取って今回の戦いが初めてアビスの魔術師達の本当の力を目の当たりにした時でもあります。

尚、余談ですが、バルバトスがモンドに再降臨し、ウェンティとして活動を始めたのは原作開始の数ヵ月前となっておりますが、本作品ではおおよそ1年前に再降臨したことになっています。(神様の時間間隔なら数年以内のずれなら別に問題は無い…筈)

次回か次々回辺りで第2幕の前半は終了予定です。
来月中には第2幕の前半を終わらせたいなぁ…。

追記
・弓矢からボウガンの修正を行いました。

追記2
文字間隔の調整を実施中…。
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