「結局の所、どう思う?」
「主語と聞きたいことを明朗にして下さい副会長」
言いながらも事務作業をするシロウは、自分に向けられた言葉だろうと思いつつ、とりあえず応じる。
「つまりだ。色んな魔法の家に持ち込まれた国防予備隊の話のことだよ」
「どう思うも何も俺には関係ないですからね」
別に、そういう家にそういう話を持ち込んだとしても、それがそのままにスカウトに繋がるとは関係ない。それとは関係ない家の魔法師をということもあり得る。
「じゃあ、どうしてそういう家に話が持ち込まれたと思う?」
「その家々で『秘術』『秘技』『秘奥』というものがあると仮定して九校戦で開帳させることを目的としたからだろ」
五十里の手伝いということで、この生徒会室までやってきたシロウは、食堂では話さなかったことをとりあえず話す。
「ただ田原君や十九川さんの反応から、ちょっとばかり家の人々は勘違いしている気はあるかな」
目立つことがその部隊へのスカウトに繋がるとは限らないのではないかと思う。軍の関係者がプロ野球の球団スカウト並の目利きが出来るとは限らない。
たとえ甲子園に出られなかったとしても、地方大会でそこまで勝ち上がれなかったとしても「こいつは!」という人材はドラフト指名されるものだ。
「なるほどな……じゃあ、この国防予備隊自体のことはどう思う?」
「俺が答えるべき事柄ではありません」
そこは絶対に『ノーコメント』を貫くシロウに、勇人はちょっとだけ傷つく。
「あえて答えてくれませんか?副会長も色々と戸惑っているんですよ。自分の同級生がいつになく気合いを入れすぎていることに懸念を覚えているので」
「はー、服部先輩の膝枕を堪能していた副会長がですか」
「シロウ後輩!!!!―――矢車先輩も会長の膝枕だったが!!」
何か内心の葛藤でもあったのか矛先を会計に向けた副会長。ともあれ三矢会長が言ってきたので、前置きした上で答えることにする。
「一つ言えることは、この室内では矢車先輩を除いて―――いや、アナタも三矢家の護衛役ということは、同じくかもしれないが、不愉快さを抱くこと間違いないですよ」
「そうなのか?」
少しだけ緊張を室内にもたらしながらもシロウは言葉を紡ぐ。
「はっきり言えば、今回の事は織豊政権における最後の大仕事で大いくさ『小田原征伐』みたいなもんでしょうよ」
「―――つまり……どういうことだ?」
「あの戦いは太閤殿下の戦国最後の総仕上げということは表向きですが、その下で働く大名や改易された武士たちにとっては、武功立ての最後のチャンスと思っていた」
九州攻めの大失敗で改易されても家康に陣借りをしてでも参戦した仙石秀久は手柄を立て、大名に復帰した。
この戦いで大なり小なり武功を上げたものたちは、その後の政権でも活躍した―――そして失敗したものは、後に汚名を残してしまった。
「つまり魔法師界隈では、もう自分の家の『家格』を上げるチャンスが無さそうな所に、こういう話が来たと?」
「実際、小田原北条も恭順・開戦かで迷っている内にそうなったからな。まぁそれはともかくとして、結局の所……日本の魔法師社会は殆どの『席』が埋まっている。そんなところに、そういう話が来たということですから……十師族制度に始まるように目立つ所の席はそれに応じた人たちによる寡占状態、それとは別の機会が巡ったと来れば、そりゃ色めき立つでしょうね。察するに普通の魔法能力を持った軍人とは待遇が違うのでしょうし」
「まぁウチの兄貴もこの制度には『十師族外し』の考えがあるとは言っていたけど……」
「それは国防予備隊を作ろうとしている人々の思惑。しかし、それを知った『十師族』やそれに近しい『お家』とは別の魔法師の家……冷や飯食わされている人間にとっては、チャンスが巡ってきたと思ったんじゃないか?」
シロウの考えはメイの視点を補ってくれる。結局の所、五十里家もまた日本の魔法師社会の『セレブ』であるから、そういった視点がなかった。
「この国防予備隊に対する人間たちには3つの
軍関係者という所に『豊臣太閤殿下』とルビ振り、家の当主という所に『譜代大名・没落武将』と、そして魔法師の学生の所に少々迷うも―――。
「足軽・牢人でよろしいかと思います矢車先輩」
「うーん、そんなんでいいのかなー」
ペン・マーカーを手にサポート役としてそんなことをしてくれた先輩の言葉だが、他の人間からは特に異論は出なかった。
「そして小田原北条は……九校戦という大会そのものということか」
察しよくそういう風にしてくれたことに感謝しつつも、ホワイトボードの図に表せば随分と単純化されつつも分かりやすくなったことは確かである。
「けど、こんなこと知ってどうするんですか?
「違うよ……けども、確かにアレコレ言えないことは確実なんだな……」
今の日本社会で『必要』とされて多くの冨貴に預かれている人間たちが、とやかく言えることではないのだ。
副会長の苦悩を置いて作業を続けるのだが……。
「アンタは何も感じないの?なんていうか、こう……同級生たちが、辛い思いをしながら練習に励んでいるというのに……それを当たり前のことかのようにさ」
一番苦悩しているのは五十里だったりするのであった。だが、その苦悩はシロウにとっては共感出来るものではなかった。
「だから俺にはとやかく言えることじゃないって言ったろ五十里。俺には守るべき家も無ければ、欲するべき社会的地位も何も無い。だからそういう風に家の人―――親兄弟に期待された上で、目標を設定されていることは、尊いことなんだろうなとは思うよ。けどそれ以上は言えない。だってヨソの家の方針に俺みたいな親もいない根無し草の
沈黙。数秒して、あるいは一分間は経ったかもしれない所に……五十里は沈黙を破る。
「わたしたちの上の世代……司波達也様が入学した年に破滅的な魔法師が一高に現れて多くの魔法師を殺害していった―――あの方の御業で命こそ奪われなかったけど、魔法師としては再起不能になった人たちが大勢いたわ。アリサの兄さんや私の兄貴の世代にも多くの犠牲者が出た」
「………お前がそういう慈愛の精神を持っているとはな」
「意外?私はこれでも色々と社会がちゃんと動くように、もうちょっと便利になればいいなと思っているわよ。そういう術を用いてる家だから……魔法師だからと世界は魔法師だけじゃないことぐらい義務教育時点で理解しているもの……だから、こんな風に無茶をして魔法師全体が、そういう風に疲弊するのは好ましくないわ」
自嘲気味にそんなことを告白する五十里ではあるが……。
「それを俺に言ってどうしろというんだ?」
「アナタが料理を用いてそういう精神と身体を疲労した一高生たちを回復させていたのは理解しているわ。あの調律とかいうフルート演奏と同じくね」
「バレバレだったか」
バカにすんなと言わんばかりに、睨みつける五十里。だが、それを用いて―――。
「簡単に言えば……―――ってことをやって欲しいわ」
大きく出たもんだと思いつつ、それだと一高の有利は崩れるのだが、いいのかということを言外に含める。
「最初は一高だけだと思っていたんだがな。だが、そこまでの権限は俺にはないから……三矢会長、色々と『融通』利かせられます?」
「大丈夫です!必要なものは揃えてみせます!!使用許可も!!お兄ちゃんを使ってでも万事を十全にしてみせます!! 一高が有利になるためならば我々だけにシロウ君が頑張ってほしいですが……そういう小さなことに拘るのはダメだよね?」
最後の方の質問は生徒会室にいる後輩一同ではなく隣に座る矢車先輩に対してであった。
少しだけ上目遣いをしての質問に矢車先輩は穏やかな顔のままに答える。
「うん、詩奈が考えたそれは正しいよ。ここで一高だけに拘ったならば、俺はちょっと詩奈を見損なっていたよ。詩奈こそが―――魔法科高校の女神だ」
「さぶろうく〜〜ん♪♪」
まさか後輩の『ブッチギリ』を利用して恋人とのイチャラブを行うとは、これが一高会長 三矢詩奈のイチャイチャタクティクスということか(間違い)
(しかしまぁ……三矢会長と矢車会計はああなのか?)
(まぁね。しかし、
いきなり先輩カップルの先々のことをヒソヒソ声で言い出した五十里に対して―――。
(逆に
応対していたわけだが……。
「あー……会長、会計。この室内には一人身のものもいるんですから、そういう色々とミグルシイものを見せつけるのは……」
咳払いする副会長としては少々、風紀に関して物申す気分であったのだが……。
「「やかましいな!!そんなんだから義妹一人のハートも射抜けないんだよ!!」」
「げぐっ!!げふっ!!!」
正しいことをしたはずなのに、とんでもないカウンターをカップルから食らった副会長が、二度にわたって呻いて机に倒れ伏す。
(人の恋路を邪魔するやつは――――)
(―――馬に蹴られてなんとやらか……)
副会長の身を張った実例の紹介を受けながら五十里との事務作業を淡々とこなすシロウは、やれやれと思いつつ、かつての自分のやったことを少しだけ『後悔』するのであった――――――。