ウィザーディング・ロイヤル 古き王家と穢れた血   作:ただの杖振り

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年金やら口座開設やら実印作りやら銀行印作りやらで忙しくて死んでいました。まだ、ハリーたちが本登場しません。では、どうぞ


麗しの姫の涙

 飛行訓練のあった日の夕方。

 ドラコは立ち直って、ハリーが罰則をくらうぞと談話室中に吹聴して回ることで元気を取り戻していた。

 最初はポッターが退学すると信じていたのだが、シュロモがマクゴナガル教授の唯一の欠点(・・・・・)を指摘すると、非常に嫌な想定だが可能性が高いと考えを改めたのだ。

 敬愛すべき我らが寮監に匹敵する程、厳格なあの教授が規則を無視して私情を優先する姿など想像が付かなかったが、教授の持つ欠点は有名だとドラコの父が話していたことがあったとドラコは思い出したのだ。

 だが、ポッター退学説を改めた真の理由は別にある。ポッター退学説を声高らかに唱えていたのだが、「ハリーが退学になったら、先に飛んでたドラコはどうなるんだろ」とシュロモが呟いたのを耳にしドラコは瞬時に考えを一転させた。

 ハリーが退学になることはドラコにとって喜ばしいプレゼントに違いない。だが、勝手に箒に乗ったことを理由に退学になるのならドラコも退学される可能性が出てくる。

 だからドラコは考えを改めて、ハリーが罰則を喰らうことに懸けたのだ。

 

 

 

 シュロモが指摘した嫌な妄想は見事的中し、ハリーが史上最年少シーカーに抜擢されたとドラコやシュロモが知ったのは、夕食を食べるために大広間に着いた時だった。

 クィディッチ馬鹿とは聞いていたが、厳格であることを期待していたドラコは、自身が抱いていたマクゴナガル像が間違いであると否応なしに分からせられた。

「ポッター、これが君の最後の晩餐かい?」

 ドラコは、クラッブとゴイルを引き連れてハリーのいるグリフィンドール席に向かった。

 シュロモは我関与せずと優雅に夕食を食べていた。

 未だ慣れぬ異邦の料理に舌鼓をうつシュロモの邪魔をするなんて酷な真似をドラコにはできなかったのだ。

 

 そしてドラコはハリーに決闘の約束を取り付けた。

 

 

 その日の夜、きっとポッターたちはトロフィ室でぼうっと突っ立って罰則を喰らったに違いないとドラコは上機嫌に笑っていた。憎きハリーを嵌めて愉悦に浸っているのだ。

 

 その次の日からだ。

 ハーマイオニーの様子が少し変わったのは。

 

 

 

 

「……どうしたんだ、ハーマイオニー。ぼうっとして」

「……っ、いえ何でもないわ」

「けれど……」

「良いから! ホントに何でもないの!!」

「いや、しかしだな……」

「それより、あなた変身術の復習をしたほうが良いわ。というかしましょう! 他の1年生と比べるとましだけど、あくまで他と比べると(・・・・・・)よ? 呪文学や魔法薬学はお得意のようだけどそれに並べるとあまりにお粗末じゃない」

 いつものように図書室で2人で、自習をしていると、ハーマイオニーが呆けていることに気付き、シュロモは何かあったのかと問い掛けた。

 ぼうっとするハーマイオニーの横顔が儚げで、そして悲しげな雰囲気を帯びていたのだ。

 しかし、そんなシュロモの心配をハーマイオニーは切り捨てた。

「……確かに変身術は苦手だけれども。……、君が言うなら俺は追及しないよ。ハーマイオニー、さぁ俺に変身術を教えてくれたまえ」

「ええ、いいでしょう。教えてさしあげます」

 違和感を覚えたのだが、他ならぬハーマイオニーの言葉だからシュロモは引き下がった。

 ハーマイオニーに嫌われたくない故に、ハーマイオニーの嫌がることはしない。――シュロモは、まだまだ若い思春期ボーイだった。

 

 

 

 クラップとゴイルのトロール並みの言動に、ドラコが不憫に思ったシュロモが、ドラコへ恩返しの一環としてとしてクラップ&ゴイルトロールブラザーズを「人間なみの知能にしようプロジェクト」を計画し、いざ実行すると予想よりも時間を取ってしまい図書室に行く時間が中々取れなくなってしまった。

 それでも、大広間にいるときはアイコンタクトしたりと交流を、欠かすことはなかった。

 

「最近、少しようすがおかしいが、本当になにもないのか?」

「……っ。あなた、少しお節介が過ぎるわ。何でもないって言ってるでしょ」

「けれど、最近ずっと上の空だ」

「大丈夫だから、大丈夫よ! 平気、平気。シュロモが気にすることはなにもないから」

「……だが」

「私の心配よりあなた自身に気を向けたほうが良いと思うわ。変身術、初回の出来は素晴らしかったけど、それ以降はちょっーー」

 そこまで言うと、ハーマイオニーは慌てて口を噤んで、恐る恐るといった様子でシュロモの顔色を伺った。

 シュロモは涼しい表情をしていたのだが、ハーマイオニーのハーマイオニーらしからぬ仕草に疑問を覚えた。

 が、なにも言わなかった。

「ならば、今日はハーマイオニーの苦手な魔法薬学と、俺の苦手な変身術を復習しよう。噂によるとハロウィンから変身術と魔法薬学はクラブを開催するらしい。レベルが高いと聞く。出るためにも、それなりの実力を身に着けたい」

「あ、あらそうなの。それは初耳ね」

 言いたいことはあるだろうに、それを呑み込んだシュロモ。

 ハーマイオニーは、助かったと喜ぶ半面、何故だか悲しかった。何故、悲しむのか自分でも分からない。

 

 

 

 

「……シュロモ。君に話がある」

「話し? 君が私にかい?」

 大広間時、昼食を早く食べ終えたシュロモと、ドラコは魔法界のチェスをしていた。

 魔法がかけられていて、声で指示を出すと駒が勝手に動くのだ。

 しかも意思を持っていて、プレイヤーの指示が気に入らないと戦術に口出ししてきたり、相手の駒を取る時殺すような仕種をする、多少野蛮なチェスだ。

 暇つぶしに始めたが、良い差し手同士でやると中々どうして面白い。

 

 地味に白熱していた折、ドラコが言い難そうに口を開いた。

「……マグル生まれを擁護してるみたいで、あまり気が進まないけど。――あぁ、君のお友達? そう、お友達に関して言っておきたいことが」

 シュロモは、形の良い眉を釣り上げた。

「君のお友達だが、グリフィンドールで上手くいってないみたいだぞ? 言葉を選ばずに言うなら避けられてる。シュロモがいないときに泣いていることもあるらしい。一応、純血が目をかける存在だから目をつけていたし、それに彼女は良くも悪くも有名だから、君の耳に入ってると思ったんだが――その様子だと初耳みたいだな」

「……恥ずかしながら今知った。人とのそういった機敏には疎いからね。……いつからだ?」

「あぁ……それが、その」

 言い淀むドラコ。

 シュロモは、少し焦った様子で身を乗り出した。

「何を躊躇ってるんだ? 言ってくれよ」

「4週間前。つまり、飛行訓練の翌日からだ」

「――ッ。図書室に行ってくる! 次の授業には必ず間に合うから安心してくれ」

 シュロモは、矢の様に駆け出した。

 目指す先は図書室。

 何か悩んでいたのは分かっていたが、涙を流すほど思い詰めているとは全然知らなかった。

 シュロモは自分が恥ずかしかった。

 嫌われることを恐れて踏み込めなかったせいで、ハーマイオニーが泣いてしまったのだから。

 

 図書室に入ると、シュロモは足音を忍ばせて、いつもの定位置へと向かった。

 ハーマイオニーと逢瀬を楽しむ指定席に。

 すると、そこからやはりすすり泣く音と嗚咽が微かにだが聞こえてきた。

 いつもは輝かしい笑みと期待と羨望に満ちた瞳をしているのに、光り輝く眼は涙で曇り、眩い笑みは悲しみ一色になっている。

 シュロモは、雷に打たれたような衝撃に襲われた。

 電撃が足元から、頭の天辺にかけて走った。動けなくなったと錯覚した。

 だが、目を閉じて心を落ち着かせると、咳ばらいをして声をかけた。

「やあ、ハーマイオニー」

 

「――ッ。シュ、シュロモ」

 いきなり声をかけられたハーマイオニーはびくんと跳ね上がり、慌てて振り返った。声の主は、案の定シュロモだった。涙を流すところを見られたくなかったハーマイオニーは、眦から頬を伝う涙を拭うが。

「君が泣いているのを、俺はもうばっちり見たよ。慌てて拭わなくてもよろしい」

「そう」

 ハーマイオニーは拭うのを止めた。

「それで、どうして君は泣いてるんだ? 恐怖故に踏み込めず、友に言われるまで、ハーマイオニー、君が泣いていることにまるで気付かなかった愚か者の俺だけど。そんな俺でも良ければ、君の話を聞きたい」

「あ、ははは。そう、よね。ごめんなさい。私、あなたと対等でいたくて、それで」

「対等に?」

「だって、私マグル生まれじゃない?けれど、あなたは王子様。純血も純血、しかもマグルでも知らない者は少ない『ソロモン王』の直系。マグル基準でもあなたは最古の王族の王子。私とは身分がまるで違うもの。だから、少しでも対等になりたくて勉強も頑張ったわ。楽しかったのは認めるけど、それでもあなたと少しでも対等になれるようにって。だから、私弱みを握らせたくなくて、少しだけ避けてしまったの、ごめんなさい」

「謝るのは俺の方だよ。君が俺に隠れて涙を流していたことにまるで気付かなかった。……それに血の貴賤だとか、身分だとか気にする必要はないよ? 君は俺と対等だ」

「け、けれど、釣り合わないわ。あなた座学も実技も出来るしハンサムだし……」

「聡明さの話をするなら、君は既にこの学年一の優れた魔女だ。君は気付いていないようだけど、ハーマイオニー。君も十分に可愛いよ。……だから、話しておくれ? 君が涙する理由を」

 いつものおちゃらけた様子は鳴りを潜め、至って真剣な眼差しでシュロモは、ハーマイオニーの答えを待った。頬を僅かに紅潮させたハーマイオニーは、うつむき呼吸を整えると、静かに言った。

「私、避けられてるの」

「……」

「飛行訓練の日、あなたは忠告をくれたわよね? だけど私我慢できなくて、ついとやかく言っちゃったのよ。その後の決闘騒ぎでも色々あって。……私ね、おしゃべりだけど実はあまりヒトと接するのが得意じゃないの。だから、遠慮なしにずけずけ言ってそれで皆から避けられて……頭でっかちなのよ私は」

「他人にずけずけ踏み入ってヒトを少々不快にさせるきらいは確かに否定できないな」

 それは、人との会話経験が欠落しているシュロモでさえ初対面時に感じたのだから、他の人間はことさらに感じたことだろう。だから、シュロモであっても否定できなかった。

「ひどいわ。そこは庇ってくれてもいいじゃない」

「ハーマイオニーが求めているならいくらでも庇うし歯の浮くようなセリフだって吐くが、少なくとも今君が望んでいるのは否定だ。それくらい愚かな俺にでもわかる」

「……私なりに上手くやろうとしたのよ? だけど、当たりをキツく言っちゃって。教えてあげてるつもりでも、自慢にしか聞こえないって。気付いたら、私孤立してた。……シュロモの前じゃ、泣きたくなかったから我慢してたけど辛くて悲しかったわ」

「俺が思うに君は随分とグリフィンドール的ではない。むしろ――」

「レイブンクロー?」

「そうだ。君は知的探求心と個人達成感を求める姿は獅子というより鷲の素質に思える。目立ちたがりで誇り高く仲間の共感を求める獅子の中で、孤立するのは当然の帰結であってハーマイオニー、君が悪いわけじゃない」

「……そうね、私でも時々そう思うわ。あの時、見栄を張らずにレイブンクローで良いって言えば良かったって。あなたも、レイブンクローかスリザリンで悩まれたんでしょ?」

「ご名答。どちらかと言うと、レイブンクロー的スリザリンらしい。……そして、君が孤立する最大の理由が一つ、――たった今分かったよ。ハーマイオニー、君は今も俺に隠し事をしているね」

「……してないわ。孤立してる理由はこれで全部よ」

 ハーマイオニーは目を伏せた。明らかに動揺している。

「確かに獅子は身内の団結を好むが……多少異端だからと爪弾きにするほど狭量ではない筈だ。ましてや、ちょっとのアレコレで女の子が一人泣くほど避けるものか。まだ一ヵ月しか経ってないのに」

 

 一ヵ月で女の子が一人で泣くほど追い詰めるとは思えない。

 ドラコの口から聞く、ドラコの父のグリフィンドールへの所感を何度も聞いたが、それを総括するとグリフィンドールは獅子の名違わず実力社会である。行動力と、実力を示し勇敢的行動を取る者が持て囃される。

 だが同時に、弱きを助け、時には団結して共通の敵に立ち向かう結束力の強い騎士道の寮でもある。

 女性も勇猛な獅子でなければならないが、入学したての女子を泣かせることまではしない筈だ。

 

 ならば、ハーマイオニーの行動の何が、獅子の琴線に触れ、群れから弾かれたと言うのか。

 

「君が孤立し、泣いてしまうほど避けられている理由は(スリザリン)だね、ハーマイオニー」

 

「……」

 

「さしもの獅子も、蛇とつるむ異端がいれば狭量になるか。グリフィンドールとスリザリンの仲の悪さは千年の歴史があると言う。俺と仲良くする姿が話題になって、それで君は孤立したわけだ、ハーマイオニー。違うかい?」

「……正解よ、その通り。さすがは学年一の魔法使い様、お見事な推理ですこと」

 

「……レイブンクローになれば良かったわ。そうすれば、あなたもレイブンクローを選んでいたでしょう?」

「それは勿論。そしたら、このような煩わしい柵も消えていただろう。君の孤立を解決する手段だが……俺と会うのを止めよう」

「……は?」

「俺との交流を完全に断ち切れば君は獅子の群れに歓迎されるはずさ。俺とこっぴどく喧嘩して訣別すれば、間違いを自分で清算したと認められるさ。君と話せなくなるのは悲しいが――」

 怒涛の勢いで畳みかけるシュロモの言葉に、ハーマイオニーは頭が真っ白になった。

「そ、それだけは絶対にいや! あなたと一緒にお話しができないなんて、そんなの私耐えられないわ」

 と、大声で叫び終わりハーマイオニーは肩で息をした。

「冗談だよ、冗談。解決策の一つとして提案しただけさ。……それよりも、思ったよりも君に大事だと思われてて俺は嬉しいよ」

 ニヤニヤと嬉しそうに言うシュロモを見て、ハーマイオニーは先程感情が赴くままに何を口走ったのか思い出して、顔がみるみる赤くなった。

「もうしらないっ」

 ハーマイオニーは机に突っ伏した。

 

「やっと元気が出たみたいだから、嬉しくてつい揶揄っただけだよ。そんなに拗ねないで」

「ふんっ」

「……孤立のことなら気にしなくて良いよ、ハーマイオニー。君の素晴らしさに、君の良いところに気付いて友達になってくれる人が必ず出てくるから」

「本当に?」

 ハーマイオニーは突っ伏したまま、顔を上げずに問い掛ける。

 

「王の尊き御名に懸けて誓う。君に素晴らしい友が出来るとも」 

 本当は嫌だが間違いない。

 

 だって、復讐と虚無に燃え尽きた心に火を灯し、今も俺がこうして生きているのは間違いなくハーマイオニー、君のおかげなんだから。

 

 絶対に、素晴らしい友達ができるようになる。

 

 




次回、ハリー&ロン登場! 
 シュロモ、覚醒!!!
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