ウィザーディング・ロイヤル 古き王家と穢れた血 作:ただの杖振り
「えっと、それは何ですかスネイプ教授? ラブレターですか? だったら私はハーマイオニー一筋なので、送り主にやんわりとお返ししてほしいのですが」
大広間でいつも通り、ドラコやパンジーらと食事を楽しんでいた時のこと。
スリザリンが親愛なる寮監スネイプ教授が、手紙をわざわざ直接渡しに来てくださり、シュロモはラブレターと判断して丁重にお返ししたのである。
スネイプ教授には苦労を掛けるが、文通する仲ではない。故に、ラブレターを渡す代行と判断したのだが。
「――招待状だ馬鹿者。我輩は素質ある者に、その才能を伸ばす場を提供している。……耳の早い君のことだ、どうせ既に知っておろう。これは吾輩主催の魔法薬クラブの招待状だ。既にドラコにも渡してある。参加するしないは自由だが、授業では教えぬ我輩の技を手自ら伝授する唯一の機会だ。後学の為に、参加しておいた方が君の為になるのではないかね?」
「これが噂の
スリザリンの堅物が揃って絶賛する、素質ある者には堪らない学びの場。
それに参加出来るか、才能を感じるドラコと違いシュロモ自身は賭けであったのだが何とかお眼鏡に適ったらしい。
シュロモの非才宣言に、スネイプは苦笑いを浮かべる。
「君が非才ならば今年の一年生はその殆どがウスノロになってしまうな。卑下は持たざる者からの顰蹙を買うぞ?」
「基本に忠実なだけです。一代で新薬を何種も作った先祖には遠く及ばない」
だがシュロモの自身に対する魔法薬のスタンスは変わらない。天文学、占い、呪文、呪詛、変身術、あらゆる魔法に秀でるがメルフォティート一族なのだが不運なことに魔法薬だけはシュロモは得意だと思えなかった。
変身術もそうだが、呪文を扱う時に感じるセンスを、魔法薬ではまるで感じない。おかげで出来上がる魔法薬はどれも優良を上回らない。
「……その基本に忠実すら出来ぬ者はごまんといる。まぁ、良い。最初の活動日は来週に行う。良いな?」
「ご丁寧にどうも。それより、ハーマイオニーは招待されました?」
聞き耳を立てていたドラコは露骨に顔を顰め、スネイプ教授自身も一瞬ではあるが強張った。
「……彼女は招待していない」
「何故です? 私ですらお眼鏡に適うならば、彼女なら尚の事資格はあると思いますが? 彼女は魔法薬ではドラコに次いで秀才ですが」
「基本に忠実だが、本当にこれで良いのか詮索しているであろう? 盲目的に従うのと、疑いながら従うのではまるで内容は違う。アレは教科書を鵜呑みにし盲目的に従っておる。したがってあー、彼女には、素質を感じなかった。故に招待していない」
「それを判断するには、まだ早いのでは? ハーマイオニーは確かに、その教科書を信仰している節がありますが人に教える点においては優れていますよ? 教えるというのは高度な理解と知見が求められる、魔法薬の理解も十分な筈です。グリフィンドールだから招待しないなんてことはしないでしょう? ならば彼女を、
推薦すると、そう宣うシュロモ。
スネイプ教授は深い溜息を吐いた。まったく、推薦を漏らしたのはどこの誰だ?
あれは、上級生に与える特権だろうに。
大体どうしてシュロモは……。
「口の軽い者がいるようだな。……良かろう、そこまで言うのだ。ミス・グレンジャーを我がクラブに招くが良い。ただし、クラブの内容について行けず、狼狽することになろうとも我輩が預かり知るところではないとだけ言っておく」
スネイプ教授に出来る精一杯の嫌がらせ。しかし、シュロモは眩い笑顔を浮かべるだけで、意に介した様子がなかった。
「ご了承いただき嬉しいです、寮監。ご心配もありがとうございます、ただ彼女はとても素晴らしい聡明な魔女なので苦戦こそするかも知れませんが心配はいりませんとも」
輝かしい笑顔で、一点の曇りもない晴れやかな瞳は、ハーマイオニーのことをシュロモが全幅の信頼を寄せている証である。シュロモは、ハーマイオニーが狼狽し挫折することはないと信じているのだ。
スネイプ教授は、シュロモから顔を逸らすと直様ローブをはためかせ踵を返した。
「ふん、そうなると良いな」
「君は、グレンジャーのことになると凄いな?」
スネイプ教授が去ったあと、ドラコはぽつりと漏らす。
スネイプ教授は、スリザリンが誇る素晴らしい寮監だ。聡明で、智慮深く優秀な魔法使い。
だが、しかし。良き教授ではあるが話しやすいかと問われれば一部の例外*1を除きその限りでない。
厳格が故に、気さくに話し掛けにくいのがスネイプ教授なのである。だが、このシュロモという若き魔法使いは、魔法薬の賢者相手に軽口を聞いてみせ軽い口論を繰り広げて見せた。
ドラコが抱いた感想は、未だスネイプ教授に話し掛け辛いスリザリン一年の総意であり、その日からシュロモは1年生の英雄になった。
――
次週の金曜日の放課後。
シュロモは、図書室に辿り着くといつもの指定席に向かう。そこには、案の定ハーマイオニーが一人座っていて、早速勉強をしている。
シュロモは、ほくそ笑むとハーマイオニーに近付く。
「ハーマイオニー、少し俺に付き合ってくれないか?」
「へ? ふぇ!?」
ハーマイオニーは、珍しく
顔を真っ赤にし、慌てふためくが。
「あ、あなたいきなり一体何を……!?」
「スネイプ教授から、君を放課後の
シュロモの続く言葉に、ハーマイオニーは羞恥から怒りへと表情を変え、烈火の如く怒り初めた。
「このお馬鹿!! もう知らない!」
ヘソを曲げたハーマイオニー。
彼女の機嫌を治すのにシュロモは5分掛かったのは言うまでもない。
「このクラブでは授業では教えない我輩の技を伝授する。諸君らは、素質がある。魔法薬という科学を探求し、栄光をも手にする素質が。伝授してやろう魔法薬の真髄を。素質ある諸君らでも混乱するやも知れん。
だが、期待しておる。教科書は、万人でも同じ品質の魔法薬が出来る様に厳選された手順が乗っておるが、魔法薬に秘められた真の効能を引き出すにはアレンジが必要になる。個人に合わせ効能を調整せねばならんこともあろう。あるいは魔法薬学者を志すならばアレンジは必須だ。諸君らが魔法薬の真髄を6年かけて極めることを我輩は期待する」
いつもの地下牢にて、スネイプ教授は黒いローブをはためかせ演説を行った。
そして、シュロモの隣に座るハーマイオニーをじろっと見るとスネイプ教授は口を意地悪く釣り上げた。
「幸運にも推薦でクラブの参加資格を得たラッキーにも、我輩は期待する。君たちを推薦してくれた者の顔に泥を塗らぬよう、せいぜい食らいつくが良い。以上だ」
「……っ」
ごくりとハーマイオニーは息を呑む。
まるで、ハーマイオニーに向けて言っているようにハーマイオニーは聞こえたのだ。
「では、本日はニガヨモギの特性について伝授しよう。ニガヨモギは、多くの魔法薬に必要にされる薬草であるが、実は調合者の魔法力次第で薬効に作用することが知られておる。教科書では、その差分を意図的に消す工程が組まれているがそれを活かすには――」
そしてスネイプ教授は、凄まじく高度な知識を1年生に与えはじめる。それは授業では決して扱わない内容であり、確かに魔法薬の真髄と呼べる知識である。
シュロモのフォローも、あってハーマイオニーも食らいつき、魔法薬に知見を深めたのは当然のことである。
これが後々のお話に繋がります。